インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也- 作:クラッチペダル
ああ、そりゃもうしっかりと、ね
鈴音とウォーターワールドへ行ったり、メイド喫茶で押し入り強盗を成敗したりしたあの日から数日後。
一夏とアルの姿は現在一夏の家にあった。
「……随分長い数日後だったなぁ……具体的には8ヶ月位経っちまった感じの……」
「メタい事を言うなうつけが」
「そして俺たちの出番もすっげぇ久々だよなぁ……数日後なはずなのに、8ヶ月位出番無かったかのような感じがするぜ……一応主役だぜ? 俺達主役なんだぜ……?」
「だからやめいと言っておろうに」
すまない……しょっぱなからメタ全開で、本当にすまない……
そして長く待たせてしまって、本当にすまない……
閑話休題
今回は外泊届もしっかり提出し家に帰ってきた一夏。
なぜわざわざ外泊届を出してまで家に帰ってきたかと言うと、今日は篠ノ之神社での夏祭りがあるからだ。
IS学園の寮から来るより、近所である一夏の家から向かったほうが近いし、何より夏祭りが始まるのは夕方から。
そこから祭りを存分に楽しみ、夜遅くに寮へ帰るというのは無理だ。
別に学園島へのモノレールがその時間帯にないと言うわけではなく、疲労度とかそこら辺的に。
結果、何が一番ベストかと言うと、外泊届を出して実家で過ごす、という事になるわけだ。
「しかし、ふむ……ここが一夏……九郎の本来の家か」
「これアルさんや。壁に耳あり障子にメアリーとは言うし、誰が聞いてるかわからんから下手にその名前を出すんじゃあない」
「障子に目ありではないのか……?」
ジョークジョーク。
イッツァアーカムジョーク。
そう一夏がおどけると、アルは呆れたようにため息を吐く。
もっとも、その顔は呆れながらも、しかし楽しいですと言わんばかりの笑顔だったが。
「……で、その祭りとやらはいつ始まるのだ?」
「んー……」
アルの言葉に時計を見やると、現在16時。
祭りが始まるのは18時なので二時間後。
早すぎるというわけでもないが……それでも祭りが始まるまでにはまだ時間がある。
「18時からだから……まだちょい時間あるな」
「二時間ほどか……ならばこの前やったゲームとやらで時間を潰すか?」
「まぁ、妥当なのはそれだよなぁ」
幸い、家という事で据え置きのゲーム機もあることだし、普段やっている携帯機にないゲームも出来るだろう。
恐らく魔導書の中で一番有名な魔導書、現代科学の結晶、ゲームにはまるの巻。
閑話休題
「ぐぬぬ……何故汝はあそこで上手く懐に入り込んでくるのだ……!」
「ふふふ、ついこの間ゲームに触れたばかりの初心者とは年季が違うのですよ、アル・アジフさんや」
精神年齢30オーバーの男、ゲーム初心者に大人気なくも本気を出すの図。
そしてそんな大人気ないことをされた負けず嫌いの齢1000オーバーの合法ロリ、当然プッツン。
ゲームの結果、リアルファイトに発展。良くあることだと思います(筆者のよくある体験談)
結局、ゲームしてたのかリアルファイトしてたのか、これもうわかんねぇな、な割合の時間配分で時間を潰していた二人。
時折ハッっと正気に返り、再びゲームを行うも、やはりリアルファイト再開。
いっそここまでくると苦笑しか浮かんでこない。
……いつまでも子供心を忘れない、と言えば聞こえはいいのだが、彼等の場合はどちらかというと精神面がまるで成長していないといったほうが正しいのかもしれない。
※ ※ ※
祭。
それは誘惑の魔窟。
お祭り価格と言えば耳障りはいいが、ようは普通に買うより明らかに高い、いわゆるぼったくり価格の品々を祭りの熱気に浮かれて思わず買ってしまう恐るべき催し物だ。
祭りの空気により、普段食べればそれほどでもない物でもやけに美味しく感じるといういい副次効果もあるにはあるが……
つまり何が言いたいかと言うと……
「金があるという事は自覚してる……してるんだが、やはり怖いもんは怖い」
「性根にもはや貧乏が染み付いておるのか汝は……」
元貧乏人のコイツが恐怖に震えることになるという事だ。
以前デートでは大盤振る舞いしてたじゃないか?
あれは物が妥当な値段だったから問題無かったのだ。
だが祭りで売られている物は、言い方が悪くなるがやはり価格的にはぼったくりと言ってもいいところであり、妥当な値段ではないという点がどうにもネックらしい。
このあたりの変な貧乏性は、やはり以前に染み付いた物ゆえ改善は難しいのか。
「……だが妾はいろいろ食してみたいぞ? 例えば向こうのあれとかな」
「よし、買いに行くか」
「切替早っ!?」
……案外改善は簡単かもしれなかった。
屋台で買ったたこ焼きをはふはふと食べるアルの様子にほっこりしつつ、一夏は思う。
(……いいもんだよな、やっぱこう言うの)
隣にアルがいて、自分がアルの隣にいる。
かつての自分であれば当たり前だった光景が、今の一夏には何より尊い物であった。
「あぐあぐ……うゆ? 汝も食べるか?」
「おう、食う食う」
出来れば、この平和な時間が出来るだけ長く続けばいいなぁ……とか一夏は思う。
ずっと続けばいいなと思わないのか?
魔術なんて物に関わった時点でずっと平和が続くとかありえないことであると言うことは、一夏はいやと言うほど分かっているのである。
※ ※ ※
「うーーーーーっ!」
「いい加減唸るの止めなさいよ、シャル」
「うーーーー!! だってぇ!!」
隣でうーうー唸っているシャルロットを見やりつつ、鈴音は思う。
――……どうしてこうなった
私は地元の夏祭りに行こうとしてただけなのに……なんで今こうしてこの子の保護者的な事してるんだろうか……
一緒に夏祭りに行ってるだけだろう?
いやいや……
「あ! また二人でイチャついて!! やっぱり僕も混ざるーー!!」
「だからさっきからやめんかい!!?」
ともすれば遠くに見える一夏&アルの間に割って入ろうとするシャルロットを引っつかんでとめたりする役割を担っている人を保護者じゃないとすれば、いったいなんだと言うんだろうか。
始まりは……確か寮で一夏を探してたシャルを見かけて……
『あ、鈴。一夏見なかった?』
『一夏? 見てないけど……そういや今日夏祭りあったわね、それに行ったんじゃないの?』
『夏祭り……?』
『そ。フランスとかじゃどうかはわかんないけど、日本だとカップル御用達イベントの一つ。多分アルと一緒に行ったんじゃ?』
『行かねば(使命感)』
『そ、行ってらっしゃい。私は私でお祭り楽しませてもらうか……』
『え!? 案内してくれないの!? 僕道わかんないよ!?』
『……あ(直感) いいえ選んでも延々と同じ台詞ループして、はいを選ぶまで先に進まないイベント的ななにかだこれ』
みたいなやり取りをしてたはず。
ちなみに直感通り、断っても延々と頼み込まれました。
で、結局お祭り会場まで案内してじゃああとはがんば! ってやろうと思ってて……
「なんでかこうしてお守りをしてる……ってこれ私が勝手にドツボにはまってるだけじゃない!?」
見捨てて祭りを楽しめばよかったのに、過去の自分……
でも……
「この状態の、一応友人? を見捨てるわけにも……ねぇ……」
「あぁ!? あ~んなんてうらやま……ゲフンゲフンけしからん行為を!?」
「……この子の名誉のためにも、うん」
最悪、当身で気絶させることも考えたほうが良いかもなぁ……
等という若干物騒な事を考えていた。
※ ※ ※
――自分は、何をしてるのだろうか……
「あ、箒ちゃん、準備は出来てるかい?」
「……あ、はい。大丈夫です」
夏休みになって、臨海学校の時自分がしでかした事の大きさに脅え、一夏に謝罪するわけでもなく、こうして逃げるように寮を出て帰って来た篠ノ之神社。
なんでここにやってきたのかは、正直なところ自分でも分かっていない。
ただなんとなく……本当になんとなく、足がここへ向かっていた。
(……嘘を吐くな、篠ノ之箒!)
違う。
分かっていないなんて嘘っぱちだ。
本当は分かってる。
ただ目を背けているだけだろう? 篠ノ之箒!
篠ノ之神社。
かつての生家。
まだ何も知らなかった頃の、ただただ幸せだった頃の象徴。
そこに赴き、ただ幸せだった頃の記憶を思い出して、少しでも自分を慰めようとしていただけだろう?
謝罪することも、立ち向かうことも怖がり、ただ逃げて、優しかった記憶にすがり付いているだけだろう!?
父がいて、母がいて、なんだかんだで姉もいて、千冬さんもいて、一夏もいて。
何一つ失ってなかった、ただただそこにあった幸せを享受していればいいだけだった自分を思い出して、現実から目を背けたかっただけだろう!!
ああ、なんと浅ましいことか!
なんと愚かしいことか!
そんな自分が、剣の巫女?
神聖な神楽舞を舞う、巫女?
もっとも神聖と程遠い位置にいると自覚している自分が?
……嗤わせてくれる。
自分の事ながら、嗤いしか出てこない。
「箒ちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫です」
自分を心配する声が、むしろ今は辛い。
いっそ責められた方が、何倍もマシであろう。
……逃げ出したくせに、責められたい、か。
(なら逃げなければよかろうに)
そんな当たり前の事を言い放つ自分の心の声も、私は聞かなかった振りをした。
※ ※ ※
そんな箒の様子を人知れず観察している存在がいた。
「んー、箒ちゃんうかない顔してるねぇ。せっかく箒ちゃんが望んだ専用機をあげたってのにねぇ?」
篠ノ之束は、モニターに映る箒を見て、そう呟く。
そしてモニターで箒の姿を見ながら、キーボードを操作。
箒が映っているモニターとはまた別のモニターに何かの文字列を呼び出す。
「……ふんふん、あれから紅椿を一回も動かしてないみたいだし……そんなに気に入らなかったのかなぁ? せっかくの束さんお手製なのに」
その文字列を見て、しばらく唸ると、ふと束の頭に電球が灯る。
「ま、そりゃ当たり前なんだけどね。なんてったって紅椿使ったせいでいっくんを墜としたからねぇ」
「むしろこれで平然と使ってたらそれはそれで引くわー」などとケラケラ笑いながら言う。
……そう、笑いながら。
間違っても、決して笑えるような話ではないと言うのに、彼女は笑っているのだ。
それも、それはそれは楽しそうに、悪意など一切無く笑っているのだ。
「ま、どうとでもできるしいいんだけどねー。ようは使わざるを得ない状況に持って言っちゃえばいいんだし? そもそもそんなに急ぐ必要もないし。むしろ今一番大事なのは……こっちだよね!」
そう言うと、束はこれまた別のモニターに映像を出す。
そのモニターに映し出された映像は……ただ広い空間に一つ、培養槽のみが設置されている部屋の映像だ。
モニターの映像を培養槽にズームした束は、ニンマリと笑みをこぼす。
「ふっふ~ん。順調順調。『君』も大事な大事な役者さんだからねー。このまま順調にいってよー? ま、この天才の束さんが失敗とかありえないんだけどね! 邪魔する奴等なんてもっと居ないし!」
「……
束が見ていたもの。
それは培養槽の中に蠢く、不気味な肉の繭だった。
今回もちょいと短め
……なんで箒ちゃんこんな感じになっちゃったん?
違うんですおまわりさん!
アンチにするつもりなんて無いんです! 信じてください!!
これもきっと邪神の陰謀なんです!!