インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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……ともかく、コイツに関しては僕も言及を拒否させてもらうよ


さて。今回、皆様が待ち望んだあの子が登場しますよ!


50 天才と何とかは紙一重というかなんと言うか

「えー、毎度お騒がせしておりまぁす! 私、いつもニコニコ貴方の街の大☆天☆才、ドクターウェスト、ドクターウェストでございます。さぁて今週のサザe……ウェストさんは、『生命の創造』。人に許されざる禁忌、でもあえて侵しちゃう。だって我輩科学者だから、ドクターウェストだから! ああ! 神も恐れぬこの我輩、す・て・き☆ ……もっとも、人間そのものではなく、人を象った存在、所謂アンドロイド的サムシングであるが……なぁに、我輩の手にかかれば人と寸分違わぬ思考能力、感情表現能力、自己学習能力を兼ね備えた人工知能を作ることなど昨日の昨日のそのまた昨日……の晩御飯くらい前である。そしてそこまで人と違わぬならそれはもう生命と言っても過言ではないわけで、だから我輩のこの作品はつまり生命である。そもそも、生命とは何ぞや?(哲学)」

 

倉持技研のある一室。

そこで西村……ソウルネーム『ドクターウェスト』は奇声を発しながらクネってた。

ほんとに、こうクネクネとクネってた。

控えめに言っても、正直気持ち悪いとしか言いようが無い。

 

しばらくクネクネとしていた西村は、満足したのかクネる事をやめ、目の前の『それ』を見下ろす。

 

「……また造ってしまったという事は、つまり我輩もまだ完全に割り切れては居ない、という事であるかな。まったく、科学者として失格である。過去に固執するなどと……」

 

忌々しげに沿う呟く。

しかし、そう呟いてる彼の表情は……なんと表現すればいいのだろうか?

泣いているとも、笑っているともとれる、複雑な表情。

けれど、だけれども。

決して言葉通り、目の前の『それ』を疎んでいるわけではないと言うことははっきりと分かる。

 

「……やーめ、や~め! こんなしめっぽいの、我輩らしくないのである!我輩のキャラじゃないのである! グッバイキャラ崩壊、レッツゴーキャラ再構築! そしてカムバ~ック、ドクターウェ~スト♪」

 

しかしその表情をしまいこむと、西村はいつの間にか取り出したエレキギターをかき鳴らす。

 

「さっきからうるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「おうふ!」

 

……隣の研究室に居た女性職員(現在4徹中。なお、まだまだ徹夜が続く模様)に研究室に突撃され、クリップボードを投げつけられ、角が顔面の中心に突き刺さる。

最早目の下に濃い隈ができ、うつろな目でぶつぶつと何事かを呟きながら立ち去っていくその職員の背中には、どんよりとした瘴気が漂っていた……

 

「う、うぐぐ……しかし、我輩諦めぬ! でも、涙は出ちゃう。だって、男の子だもん! と言うわけで、気を取り直して……さぁ、Let's JAM!」

 

顔に突き刺さったクリップボードをなんとか引っこ抜くと、西村はケロリろした表情で『ソレ』のそばにあるレバーをおろす。

 

機械が作動する重低音が響き、やがてつながっているケーブルを通じて、『それ』に電流が流れる。

流れる電流は徐々に強くなっていき、その全てを『それ』は貪欲に飲み込む。

 

そして……

 

「さぁ! 目覚めるのである! 我輩の情熱の塊! 愛しさと切なさと心強さに、ちょぴっと現実の辛さを加えた、いわば最高傑作!!」

 

「オーマイ……愛しの! エェェェェェェルザ!!」

 

爆発。

 

科学戦隊ではない。

断じてない。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……なぜ、私はここにいるのだろう……」

 

簪はポツリと呟く。

事の始まりはなんだったか……そう、朝方に来た一本の電話だった。

丁度朝のシャワーで寝汗を流し、すっきりしたところで震えるスマホ。

画面を見ると、ドクター☆ウェストの文字。

間違いなく、西村博士からの着信。

 

西村が『勝手に連絡先を登録しておくであーる!』とか言ってたが、まさかこんな名前で登録するとは思わなかった。

とりあえずほっとくのもあれなんで電話に出る。

すると……

 

『ハロゥエブリワ~ン! 貴方の街のドクターウェスト、ドクターウェストで……』

「…………」

 

無言の切断。

そしてスマホをベッドへぽーい。

放物線を描いたスマホはそのままベッドへ着地。

ベッドのやわらかさに包まれ、損傷は一切無し。

 

「……よし」

 

これでいい。

これで私の一日の平穏は保たれた。

さて、今日も弐式の調整、頑張ろうか。

そう意気込み、さぁ行動開始と思ったそのときだった。

 

「かんちゃーん、にっしー博士が研究室に来てだってー」

「行かない」

「いっしょに行くって言っちゃったー」

「oh……」

 

本音……なんであの人からの電話取っちゃうの?

そして百歩譲って電話を取るのはいいとして、なんで勝手にいっしょに行くと言っちゃうの?

 

この件に対し、問い詰められた本音氏は後にこう語る。

 

「このままだとかんちゃんは整備室在住のエリートヒッキーまっしぐらだから、これを機に少しでも外に出ればいいと思った。反省も後悔もしてない」

 

泣いた。

他でもない本音にそういう風に思われていたと言う現実に泣いた。

だがしかし、自分の過去を思い出し、その評価を覆せるような行動をまったくとっておらず、それどころかまったくもって本音の言うとおりだという事に思い至り、簪の涙腺は涙をとどめると言う仕事を放棄した。

 

気の毒だが、残当な評価であった。

 

と言うわけで簪は今日の弐式の調整という予定をキャンセルし、本音と共に倉持技研へと向かうこととなったのだ。

……べつにすっぽかしても良かった気がしないでもないが、わざわざ自分達を名指しで呼んだという事は、弐式関係の何かがあるのだろう。

いつもはふざけている彼だが、科学者や技術者としての腕、信念は確かなものだ。やっぱりふざけてるけど。

 

まぁ、たわけた事で呼び出したのならば、そのときはパロスペシャルからのパロスペシャルジ・エンドをかませばいいか。

たわけた事? 例えば、弐式にドリルをつけたりとか、ドリルをつけたりとか、ドリルをつけたりとか、あと、ドリルをつけたりとか。

それに、最近だと『ドリルは駄目』という事だけを学んだのか、別方向の改造を施そうとするため、ドリルが無いからと油断してはならない。

例えば、弐式を全身装甲(フルスキン)にしようとしたこと。

まぁ、別にそれ自体はいいのだ。勇○シリーズっぽい見た目にしてくれれば文句ないし。

だがしかし……見た目ドラム缶にしようというのはいただけない。

あれをやられたら戦争だ。

打鉄弐式(うちの子)をドラム缶にしてなるものか。

 

「……で、博士はどこにいるの?」

「えっと、研究室に来てだってー。研究室は確かあっちだってさっきの職員さんが言ってた」

 

ちなみに、西村の研究室の場所を聞いた際、職員が「ああ、あの□□□□の……」と呟いていた事は脳内でなかったことにした二人だった。

やっぱりあの人はそういう評価を食らっているんだね……

 

だが、二人は気付いてない。

他の職員が二人のことを「あの□□□□に気に入られたとか、もしかしてご同類!?」と認識していることを。

人間、知らぬが仏とは言ったものである。

 

まぁそれは置いといて、途中途中で通りすがりの職員に場所を聞きつつ、ようやく西村の研究室へたどり着いた二人。

早速研究室へ入ろうと扉を開けた瞬間。

 

「オーマイ……愛しの! エェェェェェェルザ!!」

 

爆発。

 

だから科学戦隊では無い。

無いったら無い。

 

「おぶふぉ!? 何々!? 何事!?」

 

扉を真っ先に開けたが故に爆風をモロに浴びる羽目になった本音は、キャラ崩壊したように悲鳴を上げながらも、しかし行動は迅速だった。

そのままバックステップで背後に下がりつつ、その途中で簪の腰をキャッチ。

本音の小脇に抱えられる状態になった簪と共に、部屋から脱出。

もちろん、後に飛び下がっている最中に扉の開閉ボタンを押し、扉を閉めることも忘れない。

 

脳内に様々な思考が飛び交う。

 

何故爆発した?

誰が引き起こした?

事故? 故意?

誰かの襲撃?

 

着地した本音は、じっと扉を睨みつける。

普段のふにゃりとした小動物的な表情はそこには無く、あるのは外敵を睨みつける猛獣の目。

 

私服の余り袖の中にある『ある物』を数個、手のひらで掴み、ただただ閉まった扉を睨み続ける。

そして……

閉ざされた扉が開き、未だに完全に晴れぬ爆煙の向こうから人影が近付いてくる。

 

「……いやぁ、失敗である。ちょーっとテンション上げ過ぎて、テンションと同時に電圧も上げ過ぎてコリャマイッタネ! であるぶふぅ!?」

「……って、にっしー博士?」

 

爆発の張本人、西村。

本音が放ったコインを用いた指弾一発でK.O。

まぁ自業自得である。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……で? 何で私たちを呼んだんです?」

 

目の前で上半身を簀巻きにされたうえで、足は正座状態で縛られている西村を見下ろしながら、簪はそう問いかける。

それに対し西村は……

 

「ぬぉおおお!? もがけばもがくほど体に食い込んで痛みが襲い来るぅぅぅぅぅぅ! このままじゃ我輩、開けちゃいけない領域の扉をゲートオープン! かいほぉぉぉぉぉう!! 」

 

……そもそも問いを聞いてすらいなかった。

ちなみにこの簀巻き、唯の簀巻きに見えるがその実布仏家相伝の拷問用の縛り方である。

のほほん様が鼻歌交じりでやってくれました。

流石に今回の爆発にはご立腹のご様子。

 

「…………」

「にぎゃあああああ! 無言でぐりぐりはらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

そしてご立腹なのは簪も同じ。

むしろ「こいつ人の話スルーしやがって」という怒りもプラスされていたり。

とりあえず足でぐりぐりしといた。

どこを? 正座でしびれてる足を。

 

「と言うか、確かに百歩、いや千歩、いや万歩譲って我輩に非があるとして、しかしそちらが人の額に欲望の怪人よろしくコインをシュー! 超! エキサイティン!! したことに何か思わないであるか!?」

 

思うところ……

西村のその発言を聞いて、しばし悩む簪と本音。

そしてしばらく悩んだ後、彼女たちが発した言葉は。

 

「思うところも何も、残当だなぁとしか」

「譲るも何もにっしー博士にしか非ないよねー」

「ガァァッデム! 神よ、まだ寝ているであるか!?」

 

――コイツ何をどうやっても私が想定した方向に行かないし、もうコイツ相手に何かするのは諦めたよ。

 

どこからか邪神の声が聞こえたような気がした。

アザトースの庭まで届け、邪神の匙。

 

「で、もう一度聞きますけど、何でわざわざ呼び出したんですか? 弐式関係ならいつも学園に来てますけど」

「ふむ、とりあえず凡人眼鏡よ。我輩の痺れに痺れた足をぐりぐりするのをやめてから話を再開させるのである。でないと我輩、そろそろ本当に開けちゃいけない領域への扉開け放って旅立つ羽目になるであるからして」

「……チッ」

 

露骨な舌打ちであった。

とり合えず簪のぐりぐりを何とかやめさせた西村は、相変わらずあちこち縛られたままではあるが、なんとか体勢を整える。

 

「コホン。とり合えず、何も無駄に呼び出したわけではないのである。一応呼び出した理由はあるのであるからして。まぁ、本題のついでという感じになってしまったであるわけで、こうして呼び出すという形をとったわけであるが。と言うわけで、そこの机のデータディスクをプレゼントフォーユーである」

 

西村の言葉に、本音が机の上のデータディスクを持ってくる。

本音が持ってきたディスクを見て、「それそれ、それである」と言い放つ西村。

中には何が入っているのだろうか?

 

「凡人眼鏡が組み上げていたマルチロックシステムの土台を基に、我輩の魔改ぞ……ゲフンゲフン、改良を加えて見たのである。今使っているマルチロックシステムはあくまで実戦でも使える試験評価用であるからして。いやあれも手を抜いたとかではないわけであるが、ともかくそれを使えば今まで以上にキレッキレのロックオンをお約束。恐らく、凡人眼鏡が当初想定したシステムが構築されていると思うのである。これを使えば、きっと貴様にも敵が見えるのである」

 

この男は私と弐式をどこへ向かわせたいんだろうか。

若干疑問が芽生えたりもしたが、逐一構っていたらキリが無いのでスルー。

だいぶこの男の扱い方にも慣れたものだ。

 

しかし、当初想定していたシステムが構築されている……

自分があれだけ苦労して組み上げて、ソレでいて未完成だったシステムをこの男は平然と組み上げ、それどころかより高次元の物へとしてしまった。

 

――天才はやはり天才という事か……

 

「……ん? 何を悩んでおる凡人眼鏡。まさか我輩の才能に嫉妬であるか? おおっとそいつはまずいのである。確かに? 貴様は凡人にしてはなかなかデキるであるが? 我輩は天才の中の天才であるからして、そもそも比較する以前の問題なのである。あぁ……我輩自身も、この天才的な頭脳が、に・く・い♪」

「…………」

 

とりあえず、さっきから正座続きで痺れに痺れている足にキックをかましておいた。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……で? 何で私たちを呼んだんです? まさか私にNDKしたいがためだけに呼んだんですか? そうなんですか? そうなんですね。よしここで足をグリィっと」

「や、やめるのである(切実)」

 

流石の西村もこれ以上痺れに痺れた足をグリィされるのは恐ろしいのか、おふざけを止める。

 

「ま、まぁ本題と言っても、この本題も凡人眼鏡にまったく持って無関係な事柄というわけでは無いであるぞ?」

「へぇ……」

 

まったく以って信用ならんという眼差し。

残当である。

しかしめげない我等が西村。

冷たい視線もなんのその、研究室の奥に向かって大声を上げる

 

「とり合えず、お待たせしました出番でーす! カモン! エェェェェェルザァァァ!!」

 

…………

 

「……誰も来ないし何も起きませんけど?」

「あ、あるぇ~? おっかしいなぁ~? エルザ? エールザー!? こっち向いてよエ~ルザ~!」

 

冷ややかさを増した簪と本音の視線に、流石の西村もたじろぎ始める。

そんな西村の焦りが届いたのか、研究室の奥から誰かがやってくる。

 

「……あ、お話終わったロボか? 退屈すぎて寝てたロボ」

 

現れたのは、一人の少女。

碧の瞳を持ち、翠の髪を靡かせ、額にナニカの模様みたいなものがあって、耳が尖ってて……

 

……待て、誰も急かしてないけど待て。

瞳の色と髪の色は、まぁ分からなくも無い。

現に、自分は水色の髪に赤い瞳をしているし、本音だって瞳は茶色と普通だけど髪はピンクだ。

だからこの際そこは見逃そう。

……けど、額の模様っぽいナニカとあの尖った耳って何だ!?

さらに百歩、いや千歩譲って額の模様っぽいナニカが民族的な模様だとか、その類だとしよう。

やっぱりあの尖った耳って何だ!?

そういう種族が地球上に存在するのか!?

まるで創作物の中にあるエルフとか、そういった類のような存在が実は地球のどこかにいるというのか!?

 

明らかに普通の人間ではありえない特徴を持つ少女を前に、簪は思わず混乱する。

そんな主を尻目に、本音はじっとその少女を見つめる。

……いや、睨みつける?

そして一言。

 

「……ねぇ、にっしー博士……この子……人間?」

 

本音の言葉に、簪は本音を見る。

確かに普通ではない特徴を持っているとはいえ、人間かどうかを聞くって言うのは少々失礼ではないだろうか。

そんな事を思う簪を尻目に、本音はただただ少女を見やる。

そして質問を受けた西村は……

 

「ほう、貴様は気付いたであるか。なかなかな目を持っているのである」

 

どっこいせ、と立ち上がり……っていつの間に足の縄をほどいたんだろうか。

ともかく、立ち上がった西村はそのまま少女の傍に歩いていき、そして言う。

 

「紹介するである。我輩の最高傑作の一つ。我輩の汗と涙と、睡眠時間や食事時間、ついでに勤務時間も削って作り上げた、エルザである」

「エルザロボ。よろしくロボ」

「……作り上げた?」

「その通りである。エルザは我輩が作り上げたアンドロイドであるからして」

「ア……ア……」

 

「アンドロイドォォォォォォォォォォォォ!!!?」

 

簪の叫びが、爆発した。

だから科学戦隊じゃないってば。




と言うわけで、皆が待ってやまないアイドル、エルザちゃん。
50話というきりのいい数字の話で登場でございます。

皆様、今か今かと登場を心待ちにしてたでしょう? ね?
今回は顔見せ程度ですが、これからバンバンでてきてくれることでしょう。

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