インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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しかし、主人公なのに出番無いね、彼。



43 その日、フランスで 後編

「シャルロット! 喜べ! 社の膿の排出が終了したぞ!!」

「これでもう安心よ! シャルロット!!」

 

デュノア社での会談の翌日の朝6時ごろ、セシリアが予約していたホテルの一室で一緒に宿泊しており、まだまだまどろみの中に居たシャルロットを強引に覚醒へと引きずり出したのは、デュノア社長夫妻のテンションの高いお言葉だった。

 

『もうちょっと寝てたかったのに』とか『なんでこんな早朝に電話してるのさ』とか、いろいろ言いたいことがあったが、何はともあれ、シャルロットはこれだけは言いたかった。

 

「……早ぇよ」

 

昨日の今日でこれである。

 

……口が悪いのは許してあげて欲しい。

寝起きは誰しも機嫌が悪いものだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

フランスの市街地。

その一角にある、大通り。

そこに面した一軒のカフェのオープンテラスに、シャルロットは居た。

そして、テーブルに置かれているショコラを一口。

朝まだ早い現在、どうしても頭を働かせる糖分が足りない。

補給、とにかく糖分を補給せねば。

ついでに一緒に頼んでおいたハムサンドもパクリ。

 

「……で、いつまでそこに立ってるんです? ……父さん?」

「いや、何。お前がこのカフェを知っていたことに驚いてな」

 

ハムサンドをあむあむと食べながら、シャルロットは振り向かずに後ろに声をかける。

その声に答えたのはアベル。

早朝の電話ですっかり目が覚めてしまったシャルロットは、せっかくだしという事で朝食がてらアベルをこのカフェに呼び出したのだ。

なお、エステルも誘ったのだが、社の膿を輩出したせいで起こった混乱などでまだまだ解決せねばならない問題が山積みなため、それの処理をすると言う名目で断っていた。

 

……が、ぶっちゃけると以前の泥棒猫の娘発言とその際の行動を後ろめたく思っていたから断っただけである。

そこに、丁度良く問題が転がっていたため、それを理由にしてはいるが……

 

(もう気にして無い……訳ではないけど、そんなに深刻にならなくてもいいのになぁ)

 

そして、そんな理由でこなかったというのはシャルロットにはばればれである。

というか、誘った際の表情を見れば後ろめたさ全開なのは誰でもわかるくらいだった。

 

閑話休題

 

シャルロットに返事をしたアベルは、そのままシャルロットの向かいに座り、店員に注文を伝える。

そして注文した物が来るまでの間、懐かしそうにカフェを見渡していた。

 

「このカフェを知ってるんですか?」

「ああ。カレッジに居た頃、ロザリーとよく来ていたところだ」

「……母さんが良くつれてきてくれたんです。ここに来ると、何時も懐かしそうにしてました」

「そうか……」

 

アベルに迷惑をかけたくない、と彼の前から去ったロザリー。

しかし、それでもアベルとの思い出のカフェにシャルロットと一緒に何度も来ていたのは、きっと僅かながら残った、アベルに対する未練……だったのかもしれない。

 

「ここに来ると、母さんは何時もショコラとハムサンドを頼んでました。それからそこの大通りを眺めつつ、ゆっくりと食べたり、飲んだり……」

 

そう、今まさにシャルロットがしているように。

 

「それも昔からだ。アイツはカフェ・クレムも飲めないくらいに苦い物が苦手でな。何時もショコラを頼んでいたよ。一回、悪戯でエスプレッソなんぞ飲ませた日には、機嫌を直してもらうためにどれだけ苦労したか……」

「あはは、そういえば母さん、僕が普通にエスプレッソ飲んだ時には『信じられない!』って顔してましたよ」

「だろうな」

 

それは、傍から見れば間違いなく、親子の他愛ない会話だった。

そう、極普通の他愛ない会話。

シャルロットが、なによりアベルが望んでいた、『親子』としての会話だった。

 

「……こんな他愛ない話をするのに、思えば遠回りをしてしまったものだ。その遠回りの途中で、余計な重荷をお前に背負わせてしまうことにもなった」

「…………」

「お前の一人称、小さいことだがそれにしたってそうだ。お前を男として送るなどという下らん理由のせいで、その一人称を強要する事になった……まだ抜けないんだろう? その一人称」

「……はい。なんだか『私』って言うほうが違和感が出来ちゃって……」

「本当にすまんな……」

「…………」

「……お前を『メイドよりむしろ執事にしたいと評判の、男装が似合っちゃう僕っ娘』というなかなかマニアックな属性の子にしてしまって」

「おいこら今までのしんみりした雰囲気返せ」

 

せっかくイイハナシダナーで済みそうだったのに、台無しである。

思わず、ハムサンドを平らげたので上に何も乗っていない皿をフリスビーの要領でアベルへと投げつけてしまった。

それを顔面で受け止めるアベル。

なお、皿はきちんと地面に落ちる前にアベルがキャッチしてテーブルに戻しているので問題なし。

 

「いたたた……ずいぶんやんちゃになったものだ、シャルロットも」

「どやかましい! というか謝るとこそこぉ!? 僕に変な属性つけちゃったとこなの!?」

「ちなみに評判は本当にいいぞ? メイドより執事にしたい、というか本人いたら絶対させるというのはデュノア社社員の総意だ」

「よかった!! IS学園に入学できてほんと良かった!!」

「ちなみに、お前の男装時の写真は男性社員よりむしろ女性社員の方が買っていった」

「何売ってるの!? 何売っちゃってるの!?」

「なお、お前がIS学園に行ったせいで新作写真の供給がストップした際、残った写真をかけて骨肉の争いが繰り広げられたぞ」

「もうつぶれちゃえばよかったんだ、でゅのあしゃなんか……」

 

思わず幼児退行しかけるシャルロット。

 

「それと、お前をスパイとしてIS学園に送ったと知られたときには、盛大なストライキにまで発展したぞ? 事情を説明したら副社長シンパ排除に喜んで協力してくれたが」

「だから昨日の今日で報告来たんだ……」

「昨日言ってそれから始めますなんて事はないだろう? お前が入学する直前から、少しずつ準備はしていた。もっとも、もう少しかかる見込みだったんだが……さっき言った予想外の援軍が出来てな、予想以上に早く終わった」

 

嬉しい誤算……なのだろうか?

少なくとも、シャルロットにとっては手放しに喜べない。

彼等の功績の影に、自分(の写真)という犠牲があったのだから……

 

「何はともあれ、後は社の些細なゴタつきを何とかすれば今回の件は解決だ。……お前を今度こそきちんと受け入れる準備が整ったわけだ」

「…………」

 

アベルは先ほどまでのふざけた表情を一変させてそう言い放つ。

つまり、シャルロットにフランス国籍を持たせ、さらには自分の娘として招く準備が出来た、という事だ。

 

「……早すぎるよ、そんなの」

「そうだな」

「だって、ついこの間自由国籍になったと思ったら、もうだよ?」

「私自身、こんなに早く済むとは予想外だった」

「だったら、もうちょっと後でも」

「私がもう我慢できん」

「…………」

「本当なら、お前を引き取ったあの日、さっさと正式に娘として迎え入れたかった。それが出来ずに今の今までだ。もう十分私は待った」

「……身勝手すぎるよ」

「あぁ、身勝手だな」

 

シャルロットは俯くと、言葉を続ける。

 

「急に僕を引き取って」

「ああ」

「急に父親だって名乗り出て」

「ああ」

「そしたらスパイとしてIS学園に行けって言われて」

「……ああ」

「人を道具みたいにしか思ってないと思ったら、そうじゃないってなって」

「ああ」

「本当は僕のためにやってたって……そんなの……!」

 

シャルロットは俯かせていた顔を上げる。

彼女は……泣いていた。

 

「それからすぐに戻って来いだなんて、身勝手すぎるよぉ……!!」

「あぁ、そうだな。私はそんな人間だ」

 

そんなシャルロットを見て、アベルは席を立つ。

そしてシャルロットの傍まで行くと、座ったままのシャルロットを抱きしめる。

 

「お前を守るために、お前を傷つけることしか出来なかった、馬鹿で、身勝手な男だ、私は……!」

 

シャルロットには見せないようにしていたが、アベルも涙を流していた。

 

それからしばらく、二人はただただ泣いていた。

まだ朝早く、客が少ない時間故にそれを見ていたのは極少数。

まばらに居たカフェの他の客と、カフェの店員だけだった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「ところで、今日は会社にいなくて良かったの?」

「あぁ、今日一日は無理言って空けてもらった。まったく、私みたいな男には勿体無い社員だよ、あいつ等は」

 

なお、デュノア社社員は全員サムズアップでアベルを見送ったそうだ。

……ちなみに裏話として、一日空けっぱなしは流石にまずいだろうからしばらくしたら戻ってくる、と見送られた直後に戻ってきてそう言ったアベルを、社員は

 

「いいから一日空けて行ってこんかい!!」

 

といいつつ蹴っ飛ばしたらしい。

威厳なんて、そんなの無かった。

 

「それとお前のリヴァイヴ・カスタムIIだが……」

「あ、そういえばこれってやっぱり返却しなきゃ駄目……ですよね?」

 

シャルロットはそういうと待機状態のリヴァイヴ・カスタムIIを握り締める。

 

なんだかんだで、今まで一緒に居た、いわば相棒とも呼べるべき存在だ。

本当は手放したくない。

だが、あくまでこれは代表候補生であったシャルロットに貸与されたものである。

代表候補生じゃない、ましてやフランス国民ですらなくなったシャルロットが持っていていい物ではないだろう。

 

「いや? 普通のお前が持っていて構わんぞ?」

「ですよね、やっぱり持ってても……へ?」

 

が、続くアベルの言葉に思わず目が点になる。

 

「いや、だから持ってていいぞ?」

「だって、それって問題なんじゃ……?」

「いいや、ぜんぜん? そこらへんもオルコット総帥ときっちり話し合ったからな」

 

アベルが言うところによると、なんと現在、リヴァイヴ・カスタムIIはオルコット財閥関連の企業に売却されている扱いなのだそうな。

で、オルコット財閥所属のシャルロット・デュノアはその企業にテスト操縦者として出向。

データ取りのために専属操縦者になっている、だそうだ。

 

「……む、無理がありそうな……」

「どこが? 財閥との契約にもあるが、『オルコット財閥は第三世代に関する技術を提供し、デュノア社は既存の技術をより高めるための技術を提供する』。そしてわが社の現時点での最高傑作は、間違いなくリヴァイヴ・カスタムIIだ。それを解析してくださいと売却するのはおかしくないと思うが?」

「コ、コアの総数は!? 国が保有するコアが減るって事になるんじゃ!?」

「オルコット財閥が所有している未使用コアと引き換えだ。どうやら引き換えたコアを使って第三世代を作れという事らしいな」

「…………」

 

開いた口がふさがらない。

普通ありえない。

まさか、第二世代機と未使用コアを引き換えるだなんて……

明らかに、これから先、さらに進んだ世代のISのコアになるかもしれない、未使用コアの方が価値が高いはずなのに。

それをポンと捨てることが出来るとは……

 

「最初は無条件で向こうにリヴァイヴ・カスタムIIを渡そうと思ったのだがな、それではデュノア社がどうなるか分かったものじゃないと言うことでこういう扱いになった」

 

何故これがまかり通ったのか?

それには、多くの理由がある。

 

まず一つに、オルコット財閥はISをそれほど重視していない。

世界にIS旋風が巻き起こっているため、それに乗る形でIS関連企業を展開してはいる。

が、オルコット財閥関連の企業は武装開発を主にしていたり、部品開発を主にしていたり、と『IS一機まるまる』の開発を重視していないのだ。

コアがあまればそれを使ってISを作ることもある……が、正直無ければ無いで別に困りはしない。

武装や部品にコアは使わないのだから。

 

世代が進めば、当然そのデータを基に新しい武装や部品を作らざるを得ないこともあるが……データを取りたいだけなら自分たちの企業がISを持っている必要はない。

というか企業向けに公開されてる情報を用いて作れば十分である。

だから、そこまでコアに執着する意味がない。

それに、仮にIS関連企業が立ち行かなくなっても他分野にもオルコット財閥関連企業はごまんとある。

ISがなくなっても財閥は磐石という事である。

 

そしてもう一つは、国はコアの総数しか重視していないと言うことだ。

要は、コアさえあれば新しいISだとかは作れるのだから、個数が一致していれば、それが既にISになっているか、未使用なのかは気にしていない。

今回はコアごとリヴァイヴ・カスタムIIを未使用コアと交換したという事であり、国が保有するコアの個数は変わっていないのだ。

 

これが流石に普通にコアごとリヴァイヴ・カスタムIIを売却しましたとなれば問題だが……

 

「そういうわけだ。だから、お前は気にせず今までどおりでいればいい。なに、何か問題が起きたとしても、それはこちらで処理する」

「なんだかもー、うん。なんて言えばいいのかわかんないや」

 

もうシャルロットは乾いた笑いをするしかなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

そんなフランスでの出来事からしばらく時間は進み、シャルロットが『シャルル』ではなく『シャルロット』として改めて入学してから初の土曜日。

 

(思えば、なんだかいろいろあったなぁ、あの二日間)

 

余りにも多くの事を頭に詰め込んだ気がする。

親の事とか、リヴァイヴ・カスタムIIの事とか。

 

(でも、こうなってよかったって、本当にそう思う)

 

まだまだぎこちなさは残ってるけど。

まだまだ親子としては違和感が残るような敬語で話しちゃうこともあるけど。

けれども、それも時間と共に無くなって、それで自分達は親子になれる。

 

(そしてそうなるきっかけをくれたのは……)

 

そう、一夏だ。

一夏の言葉があったから、自分は人を信じてみようと思えた。

信じてみようと思えたから、アベルとエステルの言葉も信じようと思えた。

実際に助けてくれたのはセシリアかもしれないけど、一夏がいなければ……

 

(どうなってたんだろうね?)

 

多分、今より良くない結果に収まっていたであろう事は確定しているだろう。

 

だから、僕は一夏の事が……

 

(あーあ、なんだか簡単な女だなぁ、僕って)

 

でも、チョロくてもいいじゃない。

チョロかろうが、今自分が恋心を抱いた。

それは事実なんだから……

 

だから、その恋心を実現させるためにも……!

 

「ねぇ一夏! 買い物行こう!!」

「……はぁ?」

 

どんどん押して行こうか!!

 

……ちなみに、このときはこう思っていただけだが、まさかこの後略奪愛に目覚めることになるとは当の本人にも予想できていなかったりする。




……(無言で石を受け止める体勢に入るクラッチペダル Part.2)
今回も捏造設定一杯だよ! みんな、のりこめー^^

と言うわけで今回でシャル父とシャルさんは完全和解。
シャル義母は、シャルさんはもう大丈夫だけど義母自体が後ろめたさ一杯。
まぁ、これも時間が解決してくれますけどね。

と言うわけでフランスでの和解編はこれにて終了。
さぁ、投げるなら投げればいい!!


>ショコラ
かいつまんで言うと、日本で言うココア見たいな物。
ココアより濃厚で甘いのが特徴だとか

>カフェ・クレム
カフェオレの事。
普通にカフェオレでも通じるみたいですが、今ではカフェ・クレムと注文するのが一般的なようで

>お前を『メイドよりむしろ執事にしたいと評判の、男装が似合っちゃう僕っ娘』というなかなかマニアックな属性の子にしてしまって
気が付いたらアベルにこんなこと言わせてました。
どうしてこうなってしまったんだ!

>リヴァイヴ関連とか、コア関連。
ぶっちゃけ適当。
実際ISの世界で許されるのかは謎
何とかシャルさんにリヴァイヴ使わせようと頭を捻った結果の案。
多分この話で一番批判来るのはここ。

>まさかこの後略奪愛に目覚めるとは
どうしてこうなってしまったんだ!!

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