インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也- 作:クラッチペダル
と言うわけで、ある意味話の区切りが過ぎたので、サブタイトルも趣を変えてみました。
決してサブタイトルのネタが切れたわけじゃない、いいね?
一夏は目の前で広がっている光景に冷や汗を流しつつ、思う。
あぁ、認めよう。
不肖、この大十字九郎改め織斑一夏、あまりの奇跡にそれまで頭の中でしっかり描いていた筈の未来を忘れてしまっていた。
そう、忘れてしまっていたのだ。
「……ほう?」
「…………」
「ふぅん……」
彼女等が出会ったらこうなるであろう事を。
……いや、でもシャルロットさんもこうなったのはこの織斑の一夏の目を以ってしても以下略。
三人の視線により火花が散る。
もうバスに乗りこみ、IS学園へと帰らなければならないと言うのに、誰もその事について言及しない。
そう、『誰も』言及しないのだ。
あの織斑千冬でさえ。
で、その千冬はと言うと、一夏の傍でただその光景を見ている。
だが、その顔をよくよく見れば軽く冷や汗が流れているという事に気づける。
あの織斑千冬が気圧されているのだ。
何でか?
色恋沙汰の修羅場とか、恋愛未経験の千冬には荷が重過ぎるから。
--一夏、お前が何とかしろ、お前が連れてきたんだし。
--ムリポ、あの中に入れとか、死ねる。
ちらりちらりと姉弟間でアイコンタクト。
ちなみに、詳しい説明はまだだが、一応一夏は千冬にアルの事は、あのアルとの口づけのあと、軽く、ほんとに軽~く説明している。
--なんかISがこうなっちゃった、テヘペロ☆彡
直後、後日より詳しく説明しろと言う言葉と共に、ちふゆん怒りの鉄拳が一夏の顔に吸い込まれたのはもはや誰もが予想がつくことだろう。
そんな昨夜の事を思い出していると、視線でバチっている三人に動きがあったようだ。
最初に動いたのは……アル。
「……ふぅ、まぁ『今まで一夏を支えてくれたこと』には感謝しよう。が、これからは汝等の手は煩わせんよ」
「な……っ!?」
要するに、「もうお呼びじゃねぇんだよ、疾く去ね」という事である。なお、今の自分は九郎ではなく一夏なので、二人きりのときはともかく、他人の目がある場所では一夏と呼ぶようにしっかりと説明済みである。
アルは若干渋っていたが、まぁ納得はしたようだ。
閑話休題。
とにかく、アルが言い放った言葉は、たちが悪い事に、言葉の裏の意図をすぐ察せるようにわざと嫌味ったらしく口にするものだから、箒は激昂しかける。
が、それを制するように、横から腕が伸びる。
もちろん、シャルロットの腕だ。
「そんな、そんな、むしろ僕たちが助けられたくらいで。ですから『ぜんぜん手を煩わせてなんか無い』ですよ」
要するに、「気にすること無いからそっちが引っ込めよ」という事である。
これまたそんな裏の意図を相手がすぐ察せるようにわざとらしく言い放つと言う。
--おおっと、ここでシャルさん、真っ向から対抗したあぁぁぁぁぁぁぁ!!
一夏の脳内でそんな言葉が浮かんでくる。
そして思う。
あっれー? シャルさんあんなキャラだったっけ?
結構前からこうでした。
「……ねぇ一夏、あの子が前言ってた子?」
「ん? おお、そうそう」
「ふぅ~ん」
三人の舌戦をぼんやりとした眼で見ていた一夏の傍にいつの間にかいた鈴音が一夏にそう問う。
そして一夏の返答を聞いてふむふむと一人何か納得している。
……ついでに何故か自分の胸辺りをふにふに自分で揉みだす。
思いっきり目をそらした。そう、一夏は全力で見なかったことにしたのだ。
そんな彼をヘタレといわないで上げて欲しい。
いくらアル一筋とはいえ、美少女のそういう仕草は刺激が強いのだ。
閑話休題
ともかく、鈴音の行動を見なかったことにした一夏は、咳払い一つつくと、口を開く。
「んで? 何が言いたい?」
「いや、一夏って……ああいう体型の子が好みだったんだなぁって思ってね。で、もしあの子より先に会えてたら私にもチャンスあったかなぁって」
「……どうだかな」
実際、鈴音がアルより先にこの一夏と出会えるという可能性は確実に無い。
何せ、文字通り前世と言えようか、そこからの縁だ。
そんな事を思いながらも言葉を濁しておく。
まぁ、でもあれだ、万が一、もし万が一そんな状況になれば……
いや、あえて何も言うまい。
「だ、第一! お前は一夏の何なのだ!!?」
(……なんだか嫌な予感)
二人に比べて弁が立つほうではない箒が、苦し紛れと言った体でそう叫ぶ。
なんだか、この後の流れが分かった気がした。
それを阻止しようと一夏は勇気を振り絞り三人の元へ向かうが。
「む? 妾か? 妾は……一夏の所有物だ」
瞬間、その場の空気が凍る。
そしてそれとなく、本当にそれとなく周囲の人が一夏から距離をとった。
盛大に引いたわけでは無いが、しかし引いたことがしっかりと分かると言う絶妙な引き具合を全員がやったものだから、一夏は泣きそうになった。
そして事実アルは一夏のISであり、所有物と言う表現がぜんぜん間違ってないということに気づき、反論できない現状に泣いた。
情け無い男泣きだった。
「やだ、織斑君って意外と……」
「所有物ですって、いったい何してるのかしら」
「ナニをしているんじゃないですかねぇ(確信)」
「だぁぁぁぁぁぁ!! やっぱこうなるのかよ!? 弁解を! 弁解の機会を!!」
「ご主人さまぁ……早く、早くおくすりを……」
「おくすりですって。薬じゃなくてあえての『おくすり』ですって(驚愕)」
「聞きまして奥様」
「いやらしいですね、お嬢様」
「いつかやると思ってましたわ」
「お前はお前で煽るな!! 人を貶めるチャンスは絶対逃さないな! お前は!! それと最後の一人!! いつかやるってそりゃどういう事だ!?」
「どういうって……ねぇ?」
なぜわざわざそんな事を今更聞くのか、私とても不思議です、と言わんばかりの表情で首をかしげるセシリア。
何? 俺の周囲に味方はいないの?
孤立無援なの?
このままひっそりと世間の闇に葬られるの?
半ば人生に絶望しかけている一夏の肩に、そっと誰かの手が置かれた。
振り向くと、そこには顔を俯かせた千冬の姿が。
(オワタ)
きっとまたちふゆん怒りの鉄拳が来るんだろうなぁと覚悟を決める一夏。
しかし、予想に反して、千冬は一夏の両肩に手をあてると、ばっと顔を上げた。
「い、一夏! どうしてそんな反社会的なことをするようになってしまったんだ!? あれか!? あれなのか!? 私の教育が間違っていたのか?! 欲求不満だったのか?! そんな小さな子に醜い欲望を叩きつけるほどにグレてしまったのか!? お前の中に燻っていた変態性欲を、私がろくに構わなかったせいで燃やしてしまったのか?! お姉ちゃんは、お姉ちゃんはどうすればいい!? こんな幼い子に首輪をつけて監禁して『ご主人様』などと呼ばせる弟に、お姉ちゃんは何が出来る!?」
そこまで叫び、一旦間をおくと、千冬は真顔でこう言い放った。
「一夏! とりあえずお姉ちゃん、ロリにそれはまずいと思うんだ!! やるなら私にしろ!?(錯乱)」
「落ち着け、千冬姉。そして、地獄に落ちろ」
完全に涙目状態で一夏に詰め寄る千冬に、さすがの一夏も激おこぷんぷん丸。
さわやかに毒を吐いておく。
普段なら即座に鉄拳が飛来するであろうが、混乱の極地に至った千冬は普段のキャラをセラエノの彼方まで放り投げているため、そんなことは無かった。
というか、最早自分でも何言ってるか分かって無いと思う。
「あ、あのー、皆さん? バス、乗りましょう? ね?」
真耶の言葉は、しかし騒然としたこの
え? 当然千冬も今ばかりはこのバカの中の一人ですよ?
「失礼するわ。織斑一夏という生徒に……えっと、これはどういう状況?」
そんな中、一夏に用があると言いながらやってきた女性は、言葉を途中で切り上げつつ、場の状況を見て思わず呟いていた。
※ ※ ※
「ふふふ、あのブリュンヒルデも、あんな一面を持ってるのね、おどろいたわ」
「……私を一体なんだと思っているんだ……ナターシャ・ファイルス。それと私はそう呼ばれるのは好きでない。まったく、誰が好き好んで神話的寝取られ女と呼ばれて喜ぶんだ」
『ブリュンヒルデ』
北欧神話においてジークフリートと恋に落ち、結ばれるが、定められた運命によりジークフリートを別の女に寝取られたワルキューレの名である。
ちなみに名前が表す意味は「輝く戦い」。
恐らく、栄光ある戦いを制した者と言う意味でその名が使われたのだろうと思うのだが……
第一回モンド・グロッソで優勝した者にこの称号が送られると聞いた千冬が真っ先に思ったのは、何ゆえ寝取られ女の名をチョイスしたのか、と言うものだった。
閑話休題
千冬にナターシャと呼ばれた女性は千冬の拗ねたような言葉に苦笑いすると、その表情を引き締めた。
それを見た千冬も、先ほどまでの拗ねたような表情を一変させ、真面目な顔となる。
「……それで? あれからそっちはどう動いた? そしてどう思う? ナターシャ・ファイルス?」
「本国じゃ福音の暴走……でカタをつけたらしいわね。このまま本国へ戻ったら福音に使われてたコアは永久凍結。で、後ほど本国からIS学園に正式に謝礼が送られて、今回の件は終わり。テスト操縦者としても、あまり波風立ってほしくないから……まぁ、収まるべき形に収まったって所かしら?」
ナターシャの返答に、千冬はまゆをひそめると、しばらく無言になった後、口を開く。
「……お前はそれほど察しが悪いほうじゃないと思っていたのだがな。もう一度言う。どう思う?『ナターシャ・ファイルス』?」
「……さり気に酷いわね。テスト操縦者としての身分を持つ私に、あえて個人として言わせようだなんて。下手に本国の人に聞かれたら大変よ?」
放たれたのは先ほどと同じ言葉。
ただし、ナターシャの名前を強調して話している。
それに対し、しばらく苦虫をかんだような表情で返答したナターシャは、忌々しげに口を開く。
「そうね……あまりにもふざけた結末よ。
そこまで口にし、ナターシャは一度口を閉ざし、思い出す。
あの感覚を。
あの恐怖を。
「あの福音を、いえ、私さえも取り込み、侵そうとしたあれが、ただの暴走なわけがないわ。それに、もし暴走だとしても、エラー表示くらいは出るはずよ。なのに、あれはそんなの無しに突如襲ってきた。直前にも、その後にもね」
「……異常があるのに、異常がない……」
千冬は、似たような状況を知っている。
そう、過去二回起こった、アリーナでの異常だ。
あの時も、何の前触れも無く突如異常が起こり、しかも現在進行形で異常が起きているにもかかわらずシステム上の異常は無いというありえない状況だった。
「ねぇ織斑千冬。私はね、許さないわ。何をどうやったかは分からない。だけど、あの子に、誰よりも、何よりも空を飛ぶことを夢見ていたあの子に余計なちょっかいを出して、挙句の果てに自分を削ってでも私を守ろうとしたあの子を嘲笑うかのように侵して、嬲って、弄んで、あの子から翼を……いえ、全てを奪い去った何かを……それを仕込んだ誰かを、私は決して許さない」
「もしその下手人を見つけたとして、どうするつもりだ?」
「……さぁて、ね。どうしようかしらね」
千冬の言葉に、意味深な間を空け答えたナターシャはそのまま千冬に背を向ける。
「行くのか? うちの愚弟になにか用があったんじゃないのか?」
「えぇ、でも、お礼ついでにキスの一つや二つしようと思ってたんだけど……」
そう言いながらナターシャは『それ』を見る。
『それ』……視線をバチらせている少女三人に囲まれ、まるで脅えた小鹿のようにプルプル震えている一夏を。
「……あんな状態だし、下手に刺激したらこっちにまでなにか飛び火しそう。と言うわけで、よろしく伝えておいて頂戴ね」
「あいつら、まだやってたのか……」
「さっきまで一緒にあの中で騒いでたあなたは文句言えないと思うわよ?」
「…………」
ちふゆ は めを そらした ▼
そんな千冬の行動に苦笑しつつ、本国……アメリカへと帰還しようとしたナターシャは、しかし一度立ち止まり、情け無い姿を晒している一夏を遠くから見つめる。
「織斑一夏、ねぇ……」
普通だ。
今見ると、余りに情けなさすぎやしないかと思えるが、それを抜かせばごくごく普通の男。
ISを動かせると言う時点で普通じゃないが、少なくとも人間の範疇から外れてはいない……はずだ。
だと言うのに、何でだろうか。
「まるで、『かみさま』みたいだったわね」
あの時、自分を侵す『何か』が引き剥がされ、それゆえか"侵されながらもあった意識"が沈んでいく直前に見た、あの鋼を纏った姿は……間違いなく、そんな平凡な彼が、ただ鋼の装甲を纏っただけだと言うのに……
人をはるかに超えた何かに見えたのは……
※ ※ ※
臨海学校から帰ってきた後、一夏はIS学園のアリーナ地下にある研究所に連れてこられていた。
普通であれば、ここは関係者以外立ち入り禁止。
いくら男性操縦者とはいえ、あくまで一生徒である一夏が間違っても入ってこれない場所だ。
しかし、その関係者である千冬について来いといわれ、たどり着いた先がここだった場合は別だ。
学園に帰ってきてすぐに千冬に呼び出しを食らった一夏は、彼女が先導するままにここへと連れてこられていた。
当然、一夏の傍にはアルも居る。
というより、呼ばれずともついていこうとしたアルに、千冬がむしろ一緒に来いと言ったのだ。
それゆえ、なぜ呼ばれたのかは一夏達には想像できる。
間違いなく、アル……否、デモンベインについてだろう。
何せ、臨海学校中ではほんとに軽くしか説明してなかったのだし。
ちなみに、学園までの帰還の際の描写が無いのは、どうせアル、シャルロット、箒の三人がやいのやいの騒いだという、誰しもが想像できるであろう事しかなかった為である。
閑話休題
「ここだ、入れ」
やがて、三人は一つの扉の前まで辿りつく。
そして千冬が扉の横にあるパネルにコードを打ち込むと、扉が開く。
扉の先は……なにかの研究施設だろうか?
物珍しそうに周囲を見渡す一夏を見て、千冬が口を開く。
「ここはIS学園の最重要区画……学園で収集したISのデータを集約し、研究する場所だ。ここまで言えば、ここがどんな扱いの場所か分かるだろう?」
「要は『こんな場所は存在しません』って事だろ? 千冬姉」
「織斑先生だ、馬鹿者が」
つまりここの事ばらすなよ? いいな? 絶対だぞ!? という事である。
ちなみに、真面目な話、フリではない。
口外すれば、何をされるか分かったものではないので、気をつけるように。
一夏の返答にため息をついた千冬だが、まぁこっちが理解して欲しい『研究区画の秘匿』についてはしっかり理解してくれているようなので、それ以上は何も言わなかった。
部屋に置かれいる機材の合間を縫って奥へと進む一行。
そしてたどり着いた場所には、モニターに表示されている何かの情報を見つめている真耶がいた。
「……あ、織斑先生、お疲れ様です」
「そちらもな。さて、早速だが、本題に入らせてもらおうか」
千冬達の存在に気づき、振り返った真耶からの挨拶に返答し、千冬は一夏とアルを睨め付ける。
「織斑、まず聞かせて欲しい。『それ』は何なんだ?」
そして二人を見ていた視線をアルだけに向け、千冬はそう問いただす。
「はっ、いきなり人を『それ』扱いとは、ずいぶん礼儀がなっておらんようだの、小娘」
「はい、アルさんはちょ~っとお口にチャックしてましょうね~、今珍しくシリアスな雰囲気醸し出してるんだからね~」
が、いきなり『それ』扱いされ、アルもカチンときたのか、千冬を睨み返して言い放つ。
当然険悪になる雰囲気。
それを察知した一夏はすぐさまアルの口に手を当ててそれ以上の発声を封じる。
もちろん、アルは暴れるが……まぁ、向こうとしても真剣に話そうとしているので、とりあえずは今はこのままで。
「わりぃ、いろいろ言いたいことあるだろうが、ちょいと我慢してくれ、アル。んで、とりあえず最初に聞いときたいんだけどさ、それは『千冬姉として』聞きたいのか? それとも『織斑先生として』?」
「……両方だ。教師として、異常なISの事については把握しておかなければならない」
そこまで言うと、真耶がキーボードをタイプ。
一夏と千冬の間に空間投影型モニターが展開される。
「福音との戦闘中の織斑君のISのデータです。はっきり言いましょう、これ、明らかに普通のISじゃないです。というか、そもそもISと呼べるのか……どのスペックも現存するISをゆうに超えてます。スピードも、武装の威力も。特に……」
一旦言葉を区切り、真耶は再びキーボードを操作する。
すると、先ほどまでデモンベインの物であろうデータが映っていたモニターに、デモンベインが落とし子にレムリア・インパクトを放っている場面が映る。
「最後のこれ。こんなの、下手したら街一つ滅ぼせますよ」
「先ほどの問いへの返答の続きだ。先ほどの教師としてという考えも当然ある。だが、姉として、弟がそのような危険な力を持ったとしたら……不安になるだろうが、当然」
千冬がため息をつきつつそう言い放つ。
しかし、当の一夏は気が気でない。
なにせ、こうして映像でばっちり落とし子が映ってしまっているから。
外なる存在は、たとえ映像越しとはいえ人に影響を及ぼす。
何故か?
それは、外なる存在の姿形そのものが、もはや人の精神を侵す猛毒だからだ。
素晴らしい絵画、彫刻、工芸品などを見た際に、それから目が離せなくなった、という経験は、諸兄はあるだろうか?
見るだけで引き込まれ、言葉も出ないほど圧倒された、さながらその作品に自身が吸い込まれていくような、そんな経験は無いだろうか?
外なる存在とは、まさにそのようなものだ。
ただ、人に与える影響の方向性が違うというだけで。
故に、このように映像にしっかり外なる存在が映ってしまっているという事は、はっきり言うとものすごく危ないのだ。
が、その映像を見ていたという千冬達は特に影響を受けた風が無い。
(……どういうこった?)
(分からん。しかし、知らぬとはいえ、良くまぁこの映像を残しておく気が続くものだ)
まぁ、仮に何の影響を及ぼさなかったとしても、見るだけで生理的に受け付けない造形をしていらっしゃる落とし子の映像を、よく残しておこうという気になるものだ。
それだけ、IS学園教師としての職務に忠実なのだろうか?
目を瞑り、眉間のしわを揉み解し、そして一夏は気を取り直して千冬達に向き直る。
「まぁ、いろいろ聞きたいこともあるだろうけど、まず結論から言わせてもらうと……アルは俺のISで、相棒で……俺の唯一無二だ。危険な事は無いし、あったとしてもさせねぇよ、千冬姉」
「ほう? これほどの威力を持った武装を持って、危険な事はない? それは無理がある話だ」
当たり前の話である。
「そりゃそうなんだけどさ。その武装は普段からほいほい使えるもんじゃない。しっかりと制限かかってるから、普段は使おうと思っても使えないさ。というか、常にあのスペックじゃ、自慢じゃないが普通のISじゃまず束になっても勝てないから、当然全スペックも制限ついてるさ」
と言うわけで、アルにデモンベインの詳細なデータを渡すように言う。
当然アルは渋るが、そこを何とか一夏が頼み込み、渋々、本当に渋々、アルはデモンベインのデータを端末へと流し込んだ。
もっとも、モード『D.Ex.M』については詳細なデータは渡さず、あくまで一定の条件下でのみ、デモンベインにかかっている制限を解除するものだという情報に留めておく。
「ふむ……一部意図的に情報をぼかしているな。これについての詳細なデータもこちらとしては当然要求させてもらうぞ」
「それについては断固拒否します」
当然、モード『D.Ex.M』の詳細なデータも要求されたが、それは一夏が拒否する。
その事に千冬の目つきが鋭くなるが、しかし一夏は怯まない。
それを知ってしまえば、まず間違いなく千冬が危ないからだ。
いくらブリュンヒルデだろうと、そんなの深淵の中ではマッチほどの明かりにすらならない。
要は巻き込みたくないのだ。
外なる存在との戦いに。
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』
たかが知っただけ、されど、知ってしまった、もう逃げられない。
どれだけ足掻こうと、もがこうと、一度覗いてしまったら……
自分はいい。
なにせ、文字通り前世からどっぷりとその世界に浸かっているのだから。
だが、千冬は魔術の「ま」の字も知らないのだ。
互いに睨み合いが続く。
そして、先に折れたのは……
「……どうしても、言う気は無いのだな」
「どんな処罰を受けることになっても」
千冬だった。
「分かった。今は、追求しないでおこう。だが、いずれはしっかりと聞かせてもらう」
「出来れば、その日が二度と来ないとこっちとしては嬉しいけど」
一夏の言葉をよそに、千冬は脳裏にある言葉を思い浮かべる。
--ただ知りたいから知るというわけにはいかない
かつて、自身がセシリアに言われた言葉である。
つまり、今回もそう言う事だろう。
(まったく、姉だなんだと言われているが……情けないな)
詳しくは分からない。
だが、一夏は、セシリアは、明らかに何かを抱えている。
そして、そのまま、自分達の手で事を解決させようと思っているのだ。
(弟が抱えている問題を解決してやることも出来ないとはな)
千冬はこう思っているが、千冬を責めると言うのはお門違いだ。
なにせ、それほどまでにこの問題は危険なのだから。
「……まぁ、とりあえずアイオーン……今はデモンベインか。それのデータは受け取った。それでよしとしよう。だが、できれば『あれ』は使えるようになっても使わないで欲しいがな」
「善処いたしやす」
「まともに返事しろ、たわけ」
まぁ、意趣返しに一発出席簿の一撃をくれてやっても文句は無いだろう。
痛みにうずくまる一夏を見やり、そして再びデモンベインのデータを見る。
戦闘データから算出した推定値と、提供された実際のデータを見比べて、そしてふと思った。
--しかし、白式からアイオーン、そこからデモンベイン……名前、変わりすぎだろうに
どうにも締まらなかった。
修羅場! 修羅場って何だ!?(某宇宙刑事のOPのリズムで)
と言うわけで、修羅場書こうと思ったけどこの話に詰め込むのは無理でした。
申し訳ありません。
とりあえず今回の話としてはデモンベインについての説明。
と言っても全部の情報はさすがに渡しません。
制限状態、つまり普段使いの状態のデータを渡しました。
いや、対邪神モードのデータ渡したらまずいと思ったので、こんな展開に。
Q.なんで映像見て無事だったん?
A.脚本的にまだ千冬に狂って欲しくなかった束さんがこっそり映像にフィルタを仕込んでおいたのさ!
ちなみに真耶さんはフィルタ無かったとしても無事。
理由はもう皆さんお察し。
あー、そろそろ騎士様だしたいんじゃー