インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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舞台
彼が立つ舞台の準備は着々と進む。

と言うわけで四話目です。
今回、皆大好き彼が出ます。


04 Stage

寮でのルームメイトとの顔合わせの日が過ぎ、学園生活は二日目に入っていた。

相も変わらず授業はきついが、それでも二日目と言うこともあって一夏は昨日よりは手際よく授業に取り組んでいた。

 

もともと、一夏、いや、九郎はかのミスカトニック大学の陰秘学科で魔導書の閲覧を許されるまでの位階(クラス)に達していた魔術師である。

その位階に達するには、単に魔術の知識だけがあればいいというわけではない。

知識を持ち、なおかつその知識を系統立てて纏める力、物事を効率よく行う力、そして何より単純な学力も必要なのだ。

つまり何が言いたいのかと言うと、大十字九郎と言う男、実は結構頭はいいし、要領もいい。

こことは違う、どこか別の平行世界で自身を文科系と言っていたのはあながち間違いではなかったりするのだ。

もっとも、普段の行動からむしろ体育会系と見られてしまうのがたまに傷だが。

 

閑話休題

 

ともかく、そのかつて培った頭脳を駆使し、一夏は授業をこなしている。

故に、多少なりとも思考に余裕が出来ているのだ。

 

(そういや、簪って言ってたっけ……ずいぶん無愛想と言うかなんというか……)

 

少なくとも、こうしてルームメイトの事を考えるぐらいの余裕は出来ているのは確かだ。

 

更識簪と名乗ったルームメイトは、一夏のフレンドリーな対応にもそっけなく応じ、空いているベッドに腰掛けると仮想キーボードを用いて何かをプログラミングし始めたのだ。

これにはさすがに自称心の広い男、織斑一夏もカチンと来たものだが、肉体はともかく精神は大人だということで何とかクールダウン。

これがある教会にいる子供達相手であったら問答無用で爆発していただろう。

 

結局、その日は簪とはろくに話せてなかったりする。

 

(なんか俺、親の仇見るような目で見られてるんだよなぁ……)

 

もっとも、初対面の人間に嫌われるようなことをした覚えはないため、なんでルームメイトがあんな態度を取るのかは悩んだところで分からなかったが。

 

 

※ ※ ※

 

 

二日目と言うこともあって、一夏を見る周りの目も多少マシなものへとなっていった。

もっとも、それは一夏が所属しているクラス、一組の生徒に限っての事で、他のクラスの方々は相も変わらず廊下から彼を後期の視線で見ているのだが。

……あ、教師(もちろん女)もさりげなく見てる。

 

(良いのかよ。俺見てていいのかよ。早く教室行けよ教師だろ!? お前さん!!)

 

いくら内心でこう叫ぼうと人に聞こえるはずもなし。

二日目にして、この学園の先行きが不安になった一夏だった。

そんな一夏に近づく一つの影。

 

「失礼、少々宜しいでしょうか?」

「んぁ? なんか用か? えっと……」

「セシリア。セシリア・オルコットですわ、織斑一夏さん」

 

一夏に話しかけてきたのは一人の少女。

金色の髪に青い瞳という見事なまでに外国人と言わんばかりの少女だ。

が、日本語は実に達者で、実は日本生まれなんじゃね? と言う疑惑も浮かび上がってきそうだ。

 

「あ、あ~、そういや昨日の自己紹介の時にそんな名前聞いてたような聞いてないような……」

「まぁ、あの騒ぎの後の自己紹介でしたら印象が薄く見られてもしょうがないとは思いますが……不本意ながら」

 

あの騒ぎとは、千冬の自己紹介の後の女子の爆発の事である。

あれのせいで、まだ自己紹介をしていない生徒の自己紹介のハードルがあがったのは事実だろう。

 

「で、そのオルコットさんがいったい何の用?」

「いえ、世界初の男性操縦者に個人的な興味がありまして、まずはご挨拶を、と」

「なるほどね」

 

それから多少の世間話をし、予鈴が鳴った事もあり、二人は各々の席に着いた。

席に着いたセシリアは、周囲をそれとなく見回し、一夏と話していたと言うことで自身に向いていた注目が少なくなったことを確認すると、髪を直すふりをして耳元へと指を当てた。

 

「……どう思いますか?」

『正直微妙な線……と言ったところでしょうか? まだ確証はありませんね』

 

指を当てたことにより、髪で隠しているため外部からは見えなかった耳かけ式の小型通信機が作動。

その通信機に向かってセシリアは何かを問う。

通信機の向こうから聞こえるのは、女性の声。

その通信相手は、それに何やら煮え切らない様な返答を返した。

 

「相変わらず、計器は反応しているのよね?」

『それは間違いなく』

「そうですか……もう少し探る必要がありますわね」

 

会話から漂う何やら不穏な空気。

いったいこの会話は何を示しているのだろうか?

それは、恐らく当人達にしか分からない。

 

「しかし、いったい何故……?」

 

--何故織斑一夏から字祷子反応が出ているのだろうか?

 

 

※ ※ ※

 

 

「今日は私が授業を受け持つ。今日の内容はISの武装についてだ。武装についての正しい知識があれば扱う際に困らんし、その武装を持つ相手への対策も自ずと見えてくる物だ」

 

そこまで語り、いざ授業を始めようとしたそのとき、ふと千冬が何かを思い出したかのような様子を見せる。

 

「そういえば、授業の前にクラス代表を決めねばならなかったな。クラス代表とは文字通り、代表として他クラスとの試合や学園の集会などに出る者のことだ。自薦他薦問わない。誰かやる奴はいないか?」

(クラス代表、ねぇ)

 

自分には関係ないだろう。

一夏はそうたかをくくり、授業が始まらないということで参考書とにらめっこ。

既に授業でまだやっていない部分まで読み進めてしまっているが、予習をしても損は何もないので問題なし。

が、彼は自身がどんな存在なのかの自覚が未だに薄かった。

IS学園と言う女子の園の中にいる唯一の男が人の注意を集めないはずがないと言うのに。

 

「はいは~い! 私は織斑君がいいと思いま~す!」

「賛成! 私も同じく!」

「右に同じく!」

「前に同じく!」

「左に(ry」

 

以下、似たような言葉が教室中から上がっていく。

そこまでの騒ぎになれば、さすがの一夏も放って置くわけにも行かない。

何せ、他でもない自分が当事者なのだから。

 

「……は? え、何? 何なの? 一夏さんの知らん間にどういう展開になっちゃってるの? これ!?」

 

千冬が自薦『他薦』問わずといった時点で、現在学園中の視線を集める一夏が呼ばれないはずがないのだ。

 

「タンマタンマ! 何で俺がそんな責任重大な役職につかされそうになっているので!? こういうのはもっとふさわしい人物がいるのでは!?」

 

そんな一夏の額に、白いチョークが突き刺さった。

いや、実際に刺さったわけではないが、それが一夏の額に当たった瞬間、その部分がへこんだため、刺さったように見えたのだ。

 

「自薦他薦問わずと言っていただろう?」

「せめて拒否権ぐらいは!」

「あるはずがなかろう」

「横暴だ! 我々は人間としての権利の侵害に断固反対する!!」

「黙れ、このクラスでは私が法律だ」

「独裁にも程がある! 教育委員会に訴えてやるぅ!!」

 

が、現実って残酷。

彼の必死の拒否も突っぱねられることとなってしまった。

 

ちなみに関係のない話だが、IS学園の管轄はIS委員会のため、教育委員会に訴えても意味はなかったりする。

 

閑話休題

 

「で、このままでは織斑が代表になるが、他に誰かいないか?」

 

千冬が未だに喚いていた一夏を再びチョークをぶち当てることで沈黙させ、生徒達のそう言い放つ。

生徒達が周囲を見渡し、他に誰かいないかと考えていると。

 

一人の手が挙がった。

 

「このセシリア・オルコット、代表に立候補させていただきますわ。自薦も問題ないのですよね?」

「ああ、問題はない。が、二人候補がいるなら代表決定戦の結果で決めることになるぞ」

「構いません」

 

ここで織斑一夏に電流走る!

それはこの四面楚歌の状況を唯一打破しうる策。

一夏にとっての福音!

 

「……はっ! ここで俺が負ければこの現状を打破できる!」

「わざと負けてみろ? 死より恐ろしい未来が待っている」

「全力で挑ませていただきます! サー!」

 

が、それを口に出してしまったあたり、彼は生粋の策士ではなく、ただの迂闊な少年だった。

こうして、いやがおうにも一夏はセシリアとISで戦う羽目になってしまった。

 

授業終了後、一夏はどんよりとした空気をその肩に背負っていた。

 

「畜生、どうして俺はいつもこう巻き込まれ体質なんだ? アーカムでの一連の事も、始まりは巻き込まれただけだし……」

 

しかも脳天に少女のヒップドロップを食らった上でと言う、ご褒美なのか拷問なのか分からないおまけ付きである。

 

しかし、既に決まった事に異を唱えたところで一夏では千冬を説き伏せることは出来ないだろう。

いくら昔の誘拐事件のせいで普段はブラコンが入っているからと言って、学園にいる時はきちんと教師なのだ。

……教師にしては暴力的かつ横暴な気がしないでもないが。

 

「そう落ち込むな。これはお前にもいい経験になるだろう」

「出たな諸悪の根源」

 

--見るに耐えない映像が流れているため、しばらくお待ちください。

 

「ハイ、コンナキカイヲアタエテクダサッタチフユオネエサマ、バンザーイ」

「それでいい……話が逸れたではないか。お前には学園から専用機が与えられる。この書類をしっかり読んでおけ」

「専用機? 俺が?」

 

渡されたのは専用機を持つに当たっての規則などがかかれた書類だ。

参考書ほどではないが、分厚い。

今ある参考書でも手一杯気味だというのに、そこにプラスでこれである。

 

「……せんせー、俺泣いていい?」

「泣く暇があったら読め」

 

ごもっともな返しだった。

 

 

※ ※ ※

 

 

日本、倉持技研。

日本でのIS製造で有名なところを上げろといえば、誰もがまず口にするであろう、日本におけるIS製造の要だ。

なにせ、IS学園で訓練機として採用されている「打鉄」。

何を隠そう、それはこの倉持技研の作である。

 

そんな倉持技研の敷地の奥の奥。

そこに、彼のラボはあった。

 

「あぁドリル。それは三文字に秘められた浪漫の体現。一秒間にどれだけ進めるか定かではないが、少なくとも一回転すればちょびっとだけ前に進めるのは確か。ドリル。それは男の証。ドリル。それは不屈の精神……そう、すなわちドリルとは、漢そのものであーる!」

 

彼は陶酔したようにそこまで語ると、エレキギターをかき鳴らす。

なぜ科学者がギターを持っているか?

それは誰にも分からない。

なぜなら、天才と何とかは紙一重であり、すなわちそんな□□□□の考えることなど常人に分かるはずがないのだ。

……もっとも、彼自身にも、実は分かってないのかもしれないが。

 

「故に、男が扱うならドリルをつけるべし。ドリルがなけりゃ男じゃねぇ! であるからにして……」

 

彼の言葉と共に、ギターの音も高まっていく。

そして最後の絶頂を迎えた彼は、ギターをしまい、傍にいる男に向かってポージングをしながら指を突きつけ。

 

「こいつに、ドリルなどいかが?」

「何馬鹿な事言ってるんですか西村主任。いいからさっさと完成させましょうよ。先方からの話だと、一週間後これ使うみたいですし」

「黙れ助手Tよ!我輩の事は親しみを込め、ドクタァァァァァァァァァ・ウェェェェェェェスト! と呼ぶがいい! ……ふん! こんなもの、我輩の手にかかればあと2日3日で出来上がるのである。いわばお茶の子さいさい。あぁ、この我輩の天才的頭脳を許せ、愚民共」

「……なぁんで俺ら、この人の下についちゃったかなぁ。あと俺の名前、野田明弘なんでTの要素どこにもないっす」

 

ちょっといかれた彼の名は西村。

しかし本名はドクター・ウェストである。

そう、彼である。

この場に一夏がいればすぐさま魔銃で眉間を撃ちぬくであろう、彼である。

何の因果か、彼もこの世界で西村と言う男に入り込んでしまったのだ。

ただ、彼にとって幸いだったのは、西村と言う男、ドクター・ウェストと大差ない変人だったのである。

 

まぁこの話は後々詳しく話すとして、現在彼らが作成しているのは今のところ世界で唯一これだけが名乗ることの出来る称号を持ちし物。

それは何か?

……男性操縦者のIS、である。

先日、全世界に知れ渡った織斑一夏。

彼の専用機を他でもない、倉持技研が作ることになったのである。

その背景には、日本政府の「彼は日本国籍を持つ日本人だから、だったらIS日本で用意するから!」と言う意地があったのだが、この際それはどうでもいい。

 

「我輩の下につけて幸運であろう? そういうがいい助手Bよ。所で、貴様は以前はどこに居たのだ?」

「Bの要素もないですって。はぁ? えっと、あれですあれ。日本の代表候補生のIS作るチームにいました。今はそのチーム解散しちゃいましたけど。知ってのとおり、こっちに全員移ってきたんで」

 

その言葉に、西村、否、ドクター・ウェストがピクリと反応する。

 

「貴様、今何と言った?」

「え? だからチーム全員こっちに移ったって……」

「件の候補生のISは?」

「製造中止ってことで、本人が引き取りましたけど……」

 

そこまで聞き、ウェストは野田の肩に手を乗せる。

そして……

 

「クララの馬鹿ぁ!!」

「ぶべらっぁ!?」

 

殴り飛ばした。

野田は思う。

クララって誰!?

こうしてしばし宙を舞い、そして地面に落下した野田を見下ろし、ウェストは言い放った。

 

「この愚か者め!! 貴様それでも科学者であるか!? 科学者たるもの、頼まれたものはしっかり仕上げる! それが科学者であろうこのスカタンが!!」

「で、でも上からはこっちを作り上げろってせっつかれて……」

「どっちも同時に扱って見せるがいい!」

「んなむちゃくちゃな!!」

 

確かに無茶だ。

だが、ウェストは確かに変人だったが、それでも義を弁えた変人だった。

そもそも彼がブラックロッジに居たのだって、かの魔人の人外のカリスマに気おされたという理由もあるが、他にも落ちぶれていた自分を認め、拾い上げてくれたという恩義を感じてであったし、敵である覇道財閥に助けられたら、その恩義ゆえにいろいろ手を尽くしたりもしていた。

その際、なんだかんだと理屈をこねたが、内心こんな感じである。

 

そんな彼が、頼まれたものを途中で放り投げるような奴を許せるか?

否、許せるはずがない。

変人には変人なりのプライドがあるのだ。

 

「こうなれば、行くぞ助手B!」

「いてて、行くってどこに?」

「決まっておろう?」

 

そういうとギターをギターケースにしまい、それを肩に担いで言った。

 

「謝罪である」

 

後に織斑一夏の頭が頭痛を訴えるまで、それほど時間はかからないであろう。




と言うわけで、はい、みんな大好きドクター・ウェストのご登場です。
今回は憑依枠で出ていただきました。
……まぁぶっちゃけた話、西村って男はドクター・ウェストと殆ど変わらない容姿と自分では設定してるため、憑依である意味はあまりなかったり。
しかしウェストの台詞回し、結構難しいです。

それとセシリアさんも怪しくしてみました。
セシリアさんのあの行動の意味は後々分かるので、それまでお待ちを。

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