インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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福音

その福音は、誰が為の福音か

3話連続更新2話目でございます!
……あれ? 思った以上に進んでない?


36 Gospel

IS学園一年生が臨海学校の宿泊場所としてとっている旅館。

その中にある一室は、さながら普通の旅館ではありえないよう様相を見せていた。

 

テーブルには素人には何がなにやら分からない機材が並び、それに教師が噛り付くようにしている。

彼女等が見ている機材のモニターには、膨大な文字が瞬く間に流れており、多くの情報を短時間で処理していると言うことが見て取れる。

 

ここは最早、旅館ではなく、まさしく司令室。

現在起こっている事案に対処するための司令室だった。

 

「織斑先生、全生徒の旅館への退避、ならびに旅館外への外出の禁止の伝達が完了しました」

「ご苦労、山田先生」

 

そんなやり取りをする二人の表情は固い。

つまりそれほどの事が今起きているという事だ。

 

「織斑先生、いい加減何が起きたのかを教えてくださると嬉しいのですが。なにも知らされず、『専用機持ちはついて来い』といわれても、何をしていいのやら……」

 

セシリアが千冬に対して口を開く。

それに対し、千冬は表情を変えぬままに答えた。

 

「すまない、処理せねばならぬ事柄などが多くてな、今から説明する……今から数時間ほど前、アメリカ、イスラエルが共同で開発していた軍用IS、銀の福音が暴走を起こし、こちらに向かっているとのことだ。それに対し、開発両国がIS委員会を通して学園に福音の機能停止を依頼。お前達にはその任務にあたってもらう」

 

千冬の言葉に、その場にいる全員が大なり小なり驚愕をあらわにする。

 

「軍用IS!? ISの軍事転用は……って、国防でIS使ってる現状で最早形だけ……は置いといて、なんで学生の私たちが? それこそアメリカとかの軍がとめればいいことじゃ……」

「……既に行ったそうだが、失敗したらしい。福音は追跡してきた両国のISを撃墜、そのままこちらへ向かっている。そして福音の進路上であるここに存在し、なおかつ下手な軍よりも戦力を保有しているIS学園に依頼が回ってきた……ぶっちゃければ軍人の尻拭いだ」

 

鈴音の言葉に、眉間を揉み解しながら言い放つ千冬。

彼女にとっても、なかなか頭が痛い話らしい。

 

「ぶっちゃけてって……ずいぶんな表現ですね、織斑先生」

「だが、そういいたくもなるだろう? デュノア。誰が好き好んで生徒にそんな危険な尻拭いをさせたがる? 本当なら突っぱねてやりたいところだが……生憎、こちとら上からお達しがくればやらせざるを得ない。それに専用機を含めた学園の保有ISの数を考えれば、下手な国よりも戦力を保有しているという事は事実なのだからな」

 

忌々しそうにシャルロットの言葉に答える千冬は、すでに怒りを隠そうともしていない。

既に、拒否すればどうこうという段階には無いようだ。

ならば、覚悟を決めねばなるまい。

専用機を持つという事は、これからもこういった事と無関係でいられないという事なのだから……

 

「先生、福音のスペックデータの開示を要求いたします。これから戦う相手の情報無しに戦えと言うのはさすがに無茶すぎますわ」

「ああ、そのつもりだ。だが、この場で聞いた情報は口外するな? なにせ、二つの国が威信をかけて作り上げたISのデータだ。下手に口外すれば、どんな罰則があたえられるか分からんからな」

 

そういうと、千冬は自身の前に出現させた仮想キーボードを操作し、空間モニターに一つの情報を呼び出す。

それは銀の福音のスペックデータ。

今回の依頼にあたり、絶対に関係者以外に口外しないで欲しいという念押しつきでアメリカ・イスラエルが渡してきたデータだ。

恐らく、彼等も学生に尻拭いをさせることに僅かながらも罪悪感や羞恥心を感じているのだろう。

 

せめて、できる範囲での協力を。

 

そんな思い故のデータ提供だった。

 

「……速いね」

 

シャルロットの言葉に、全員が頷く。

開示されたデータの中で特に目を引くのが、その速度。

加速力、最高速度ともに並ではない数値をたたき出している。

恐らく、量産機である打鉄やラファール・リヴァイヴはもちろんのこと、この場にいる専用機持ちの専用機でも追いつくことはそうそう出来ないだろう。

それに、武装も厄介だ。

武装自体はたった一つ、銀の鐘(シルバー・ベル)と呼ばれる大型スラスター兼射撃武装であるこれだけだ。

が、この武装、ただの射撃武装ではなく、砲口を36も持つ広域射撃武装であり、下手に近づこうとすれば近づく前に面で制圧されるだろうことは最早火を見るより明らかだ。

速度を持って戦場を翔け、持ち前の面制圧力で戦場を支配する。

味方ならば心強いのだが……現状、福音はただの敵である。

 

「このデータから考えるに、一度逃がせば恐らく再び補足するのはほぼ不可能だろう。故に、今回の作戦は単純明快。こちらも相応の速度で迎え撃ち、落とす。そして、この面子の中で速度と武装の威力を兼ね備えているとなると……」

「俺のアイオーン、か」

「ああ」

 

セシリアのブルー・ティアーズでには強襲用高機動パッケージであるストライクガンナーという物がある。

しかしそれは6基のブルー・ティアーズ全ての射撃能力を封印、純粋なスラスターとしてのみ運用すると言う形になる。

これでは、速度は確保できても一撃の威力が不足している。

それに、ただでさえ素のブルー・ティアーズでも一撃に優れているわけではないので、除外。

 

鈴音の甲龍にも高機動型パッケージがあるのだが、それもやはり速度を重視し、一撃の威力が不足してしまうため、除外。

 

シャルロットのリヴァイヴ・カスタムはどうだろうか?

確かに、多くの武装を搭載できるため、武装の威力に関しては気にしなくていいだろう。

が、忘れてはいけないが、カスタム機とはいえ、元は第二世代のラファール・リヴァイヴ。

基本スペックが足りていない。

元がラファールなため、通常のラファール用の豊富なパッケージの中から高機動型パッケージを使うと言う選択肢もあるが、そうなると今度はやはり武装をある程度犠牲にしなければならないためやはり除外。

 

ラウラのシュヴァルツェア・シルトはどうだろうか?

そもそもシルトは限定的な高機動のみ可能であり、素の速度はその重装甲ゆえに並より遅く、今回は高軌道型のパッケージを持ち合わせていないため、除外。

 

簪の打鉄弐式は?

確かに従来の打鉄に比べ、機動戦に特化しているが、それでも福音の速度に追いつけるほどではない。

搭載しているある武装の関係上、高機動型パッケージをつけるわけにも行かないという事で、やはり除外。

 

こうして消去法で考えると、翼刃型ウィングスラスター、シャンタクによる膨大な加速力を持ち、バルザイの偃月刀、ロイガー・ツァールと言った強力な近接武装、そして射撃武装もバランスよく持っており、そして何より、本人の戦闘技術などから、一夏とアイオーンの組み合わせが妥当と言える。

 

「無論、他の専用機持ちも何もしないわけではない。戦闘空域付近でいつでも援護が出来るように待機していてもらう。それと篠ノ之だが……」

 

千冬はそういうと、箒の方を見やる。

 

「……お前は待機だ。いいな?」

「っ!? 何故私だけが!!」

「言わねば分からぬか、馬鹿者が」

 

千冬の言葉が、視線が箒を貫く。

 

「悪いが、ルーキーのお守りをしながら戦えるような状況ではない。いくら持っているISが強力だとは言え、お前自体はズブの素人だ。戦場に出すわけにはいかんな」

「……っ、それは」

 

その通りだった。

内心、箒はISをもらったことをこれ以上無いほど喜んでいた。

しかもそれはIS開発の始祖である姉が手ずからつくった、現行のISのどれもを凌駕するほどの性能を持つ物。

嬉しくないはずが無い。

これがあれば、きっと一夏の隣で戦えるだろうから……

 

しかし、現実はこれだ。

自分は後ろで引きこもり、一夏は前にでて戦っている。

 

自分は、彼の隣では戦えない。

 

「……分かりました」

 

しかし、そんな現状を何とかできるような言葉も、意見も、箒は持ち合わせていない。

それゆえに、引き下がるしかなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

『織斑、聞こえているか?』

「ああ、聞こえてるぜ、千冬姉」

『織斑先生だ、馬鹿者……まぁ無駄口をしている暇は無い。そろそろくるぞ!』

 

千冬からの通信に、正面に視線を向けると、確かに夕日を反射する何かが、徐々にこちらに近づいてきている。

アイオーンのハイパーセンサーも、接近する物体を捉えていた。

 

現在地は、旅館から沖合い20キロほど離れた海上。

ここが、福音の進路から割り出した会敵地点(ランデブーポイント)だったのだが、どうやら予想はあたりだったようだ。

 

『一夏さん、後ろは気にせずやってくださいな』

『ばっちりサポートしてあげるんだから、成功させなさいよ!』

『グッドラック、一夏!』

『無事に成功することをお祈りいたします、織斑様』

『……がんばれ』

 

後で控えている全員からの激励を受け、一夏は気持ちを昂ぶらせる。

だが、あくまでも頭はクールに。

昂ぶらせるのは闘志だけだ。

ただ熱くなり、突撃するなど猪でも出来る。

 

目を閉じ、深呼吸を数回。

そして……目を見開いた。

 

「……行くぜ!!」

 

バルザイの偃月刀を呼び出し、一夏は福音へと向かっていく。

当然それに福音は気づき、回避、後に銀の鐘で反撃……そう福音は想定していた。

しかし、それは叶わない。

 

「だろうなぁ!!」

 

その回避先を先読みし、左手に呼び出した拳銃で弾をばら撒いたため、それに牽制され、思うように回避が出来ない。

こと戦闘においては未来予知レベルである一夏の勘による行動は、はたして功を奏した。

そしてその不出来な回避は、逆に隙となる。

 

シャンタクから緑の粒子が噴出し、一夏は急加速。

それは、まさに福音に匹敵しうるレベルの速度。

当然、エネルギーの消費も多いが……決して『あまりにも膨大』といえるほどでもない。

 

福音の懐に入った一夏は、そのまま偃月刀を振るい、福音追い詰めていく。

巧みに偃月刀を振るい、決して福音を間合いから逃がさずに繰り出していく攻撃。

作戦開始前に開示された情報で、操縦者の意識がないと言うことも知っている。

つまり、現在福音はAI制御という事になる。

そのAIが、初めの一手を崩されて狂った戦闘の道筋。

それを修正しようとしているが、一夏の攻撃を処理しているため、修正に処理を割けない。

それゆえ、修正も、戦闘も中途半端となり、福音の動きを鈍らせている。

一夏がつけこむのはそんな隙だ。

 

刃で、銃弾で、福音を決して逃さない。

それは、傍から見れば……巧いとしか言いようが無い戦い方だった。

 

そして、ついに福音の動きが一瞬とまる。

歪みにに歪んだプランが負担となり、AIにかかった高負荷がAIの機能をほんの一瞬停止させたのだ。

が、この男にとって、その一瞬さえあればいい。

 

一夏が放った弾丸は6発。

そのどれもが、それぞれ銀の鐘の砲口に飛び込んだ。

そして……

 

『!?!?!?!?』

 

AIが機能を回復させた瞬間に、銀の鐘が爆発。

その爆発により、弾丸が飛び込まなかった砲口も歪み、福音は機動力と攻撃力を激減させた。

 

ここまでくれば、最早福音の詰みである。

一夏はまっすぐ福音へと向かい、偃月刀を振りかぶり……

 

「ハァァァァァァァァァァァァァ!!」

「なっ!?」

 

上空から現れた紅に邪魔をされてしまった。

紅は、そのまま福音との戦闘を開始する。

その紅とは……紅椿を纏った箒だった。

 

「ちょっ?! 箒、お前なにやってるんだよ!?」

 

一夏は箒に向かって叫ぶが、箒には聞こえていないようだ。

ただ、うつろな目で何かを絶えず呟いている。

 

……それは、余りにも異常な様子だった。

 

箒はただひたすらに、がむしゃらに福音に両手の刃を振るう。

しかし、考え無しに振るわれたそれは決して当たるはずも無く、牽制にすらなっていない。

 

「私は一夏と戦うんだ、そうだ一夏と戦うんだ。一夏と戦うのは私だけでいい、そうだ、私だけだ。私が、私が、私が私が私が私が私がわたしがわたしがわたしがわたしが……」

 

それにすら気づいていないのか、箒はただただ刃を無為に振るう。

そして箒は福音が残った銀の鐘で箒を狙っているという事にさえ気づいていなかった。

 

砲口が、光を宿し、そして放たれる。

 

「っ! ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

それを見た一夏は、全速力で箒に近づき、そして箒を蹴り飛ばす。

次の瞬間、一夏に銀の鐘が着弾した。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

着弾の衝撃で動きが止まる。

その隙を、先ほどまでの仕返しとばかりに福音は狙う。

一夏の元まで近づくと、福音はその両手、両足を持って一夏を殴り飛ばし、蹴り飛ばす。

着弾の衝撃から立ち直る前に立て続けに放たれた攻撃に、一夏は対処しきれない。

 

順調に作戦が進んでいる中、突如箒が乱入してきたと言う自体に驚愕し、固まっていた援護組も、ようやく立ち直り、未だに福音へ考えなしに突撃しようとする箒を止める組、一夏の援護をする組にわかれて行動を開始する。

 

「あんた、バカじゃないの!? なに乱入して作戦めちゃくちゃにしてるのよ!?」

「わたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしが……」

 

箒を止めに入った鈴音の言葉にも、まるで壊れたラジオのような反応しか返さない箒。

いや、反応を返してすらいないだろう。

なぜなら、その言葉はただ呟いているだけの言葉なのだから。

 

「お待ちください凰様、なにやら壊れた機械のようなこの反応。こういう場合には斜め45度のチョップが」

「いや、それって効くの?」

「それしかないかもね! さっさとやっちゃって!!」

「それでは」

 

ラウラの提案に、簪は反論するが、鈴音はもう何でもいいからこいつを止めろという思いを込めてGOサインを出す。

それを聞き届けたラウラが、数度素振りをすると、箒の頭目掛けて斜め45度の綺麗なチョップを繰り出した。

それは美しいと思えるほどに、箒の頭に向かい、一瞬シールドに阻まれ……たかと思うとそのまま箒の頭に突き刺さった。

 

「わたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたしがわたし……っ?! いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!? なんだ、何が起きたんだ!?」

 

チョップが当たった瞬間、箒の瞳に光が戻り、チョップが当たった部分を押さえ、悶え始める。

そんな箒の胸倉を鈴音は掴みあげる。

 

「何が起きた? ……じゃないわよこのアホンダラ! あんたのせいで作戦がおじゃんじゃない!!」

「作戦……一体何を……っ!」

 

そこまで来て、箒は気づく。

なぜ自分の目の前に自身が見送ったはずの鈴音がいるのか。

それどころか、鈴音の背後ではラウラや簪も自分を睨みつけている。

そもそも……ここはどこだ? なぜ自分はこんなところに……!?

 

「一夏さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

不意に、セシリアとシャルロットの叫びが響く。

声がした方向に向き直るとそこには……

 

「あ、ああ……!」

 

そこには、海に向かって墜ちていく一夏の姿があった。




と言うわけで、一夏君が落ちました。
……なんか自分で書いててあっさり落ちすぎと言うか、文字数6000越えてるんですけど、その割に内容がすかすかなような……

深夜のテンションで書くとこうなって困りますね

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