インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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買い物

それは平穏な日常。
正しく青春してる少年少女の姿。


31 Shopping

「ねぇ一夏! 買い物行こう!!」

「……はぁ?」

 

織斑一夏のその一日は、ある少女の一言から始まった。

 

 

※ ※ ※

 

 

夏も近づく……と言うよりもはやこの気温は夏そのものと言わんばかりの日。

お天道様は今日も今日とて大きな笑顔で地を這うばかりの人々に熱と殺人光線を振りまいている。

笑顔を遮る(邪魔者)は無し。

太陽の独壇場だ。

そんな中、一夏は噴水の縁に座りながら呟く。

 

「……あっちぃ」

 

手にしたサイダーの缶も熱さ故か汗まみれ。

いつもクールなこいつもこの熱さは耐えかねるようだ。

 

汗で失われていく水分を補うように、缶をあおる。

……微妙にぬるい。

もっとぬるければまだ諦めもつくという物だが、まだわずかに冷たさが未練たらしく残っているあたりに、なんとも言いがたい感覚を覚える。

 

「しっかし、遅いなぁ……シャルロット」

 

そう呟きながら、一夏は今朝の事を思い出していた。

 

 

※ ※ ※

 

 

シャルロットが女子として改めて入学して来たため、一人部屋となった一夏の部屋。

その部屋の主はと言えば、未だに惰眠をむさぼっている。

現時刻、7時50分。

本来なら、こんな時間にまだ寝ているようでは学校に遅刻すると言う時間なのだが、しかし一夏は起きる気配がない。

なぜなら、今日はおきる必要が無いからだ。

ちなみに、今日の曜日……土曜日。

つまり休日である。

 

IS学園とて学校は学校。

きちんと土日は休日になっているし、祝日もちゃんと休みなのだ。

 

と言うわけで、現在一夏は休日を惰眠に費やしている真っ最中。

そんな中、ガチャリと扉が開け放たれる音が響く。

そして、開けられた扉から部屋に侵入してきたのは、一人の少女。

 

「……いちかー、起きてるー?」

 

……シャルロット・デュノアである。

シャルロットは足音を立てないように一夏が寝ているベッドに近寄ると、一夏を見下ろす。

 

「……なんか、一夏の寝顔、可愛いかも」

 

本人が聞いていたら「男が可愛いって……」などと落ち込みそうな評価を下すシャルロット。

しばらくそうやって一夏を見下ろしていたが、やがて本来の目的を思い出したのか、はっとした表情になると、一夏を揺らし始めた。

 

「おーい、一夏ー。おきてー」

「……ん」

 

が、一夏は起きない。

諦めまいと少し強めに一夏を揺らす。

……が、やはり起きない。

 

しばし考え込んだシャルロットは、一夏が寝ているベッドから少しはなれ、そして……駆け出した。

そのままベッドにぶつかるかと言うところで跳躍。

無駄に空中で某鳥人族の遺伝子を持ったバウンティハンターばりの回転をみせると、そのま

ま一夏の腹部にダイブ。

 

「うぐぉあ!?」

 

見事着地。

一夏はヒキガエルが踏み潰されたときに発する泣き声のような悲鳴を上げ、ベッド上で悶え苦しむ。

やがて腹部から来る痛みが落ち着いてきたところで、自身にこのようなことをした下手人を睨みつける。

そして、一夏が文句を言おうと口を開いた瞬間、それを遮るようにシャルロットが口を開いた。

 

「ねぇ一夏! 買い物行こう!!」

「……はぁ?」

 

 

※ ※ ※

 

 

以上が一夏が炎天下の中シャルロットを待っている理由である。

 

何故買い物なのか?

それはもうすぐ行われる臨海学校で着用する水着を買うので、付いてきて欲しいとのこと。

IS学園の臨海学校は言ってしまえばIS新装備のテストの場のようなものだが、遊び盛りの高校生に海まで言って海はお預けと言うのはさすがに酷だろうという事できちんと海で遊ぶ時間も確保されている。

水着はその際に着用するものだ。

別に学校指定の水着でもいいのだが、このときばかりは別に学校指定の物でなければ駄目という決まりは無いため、こうして水着を買いに出かける女子もいる……と言うかそんな女子しかいない。

 

……ちなみに、今回の臨海学校は一年生限定のため、他学年の生徒が悲運を嘆いたとかなんとか。

 

閑話休題

 

ともかく、そんな理由で水着を買いに出かけるシャルロットに付き合って欲しいと言われた一夏は、まぁ断ったところで一日中惰眠をむさぼるという不健康な予定しかなかったため承諾。

で、待ち合わせ場所に合流予定時間の十分前にきていたのだが……

 

「肝心の待ち人は来ないときたもんだ……迷ってんのか?」

 

そうぼやきながらサイダーの缶をあおり、残ったぬるい炭酸を一気に喉に流し込む。

そして中身が空になった缶をゴミ箱に向かってシュート。

空き缶は弧を描いて見事ゴミ箱に着地。

その事に小さくガッツポーズをしていると、ふとある一角が騒がしいことに気が付く。

騒がしい方向に目を向けると、そこには待ち人であるシャルロットとそれに絡んでいる二人組みの男が。

 

「……ま、シャルロットの容姿考えればこうなるよなぁ……」

 

一夏はそう呟きため息をつくと、シャルロットの元へと向かっていった。

 

そして、男二人の間をわざと割り行ってシャルロットの隣にたどり着くと、そのまま無言でシャルロットを引っ張っていく。

男達が追いかけてくる様子は……ない。

 

「い、一夏!?」

「わりぃな、助けるのが遅れちまって」

「いや、それはいいんだけど、あの人たちほっといていいの?」

「いいんじゃね? 追っかけてこないし。じゃ、とっとと行こうぜ?」

 

一夏の言葉に、でも……と思うシャルロットだが、一夏に急かされるように引っ張られたため、まぁいいかと思いそのまま一夏についていった。

 

なお、シャルロットは振り返らなかったため見ていなかったが、先ほどまでシャルロットが居た場所には、『ほとほと困り果てているシャルロット』が居た。

 

そして、一夏達が噴水広場から立ち去ったと同時にガラスが割れたような音が響いた。

 

 

※ ※ ※

 

 

--ちとやりすぎたかも知れないな。

 

一夏は先ほどの自分の行ったことを振り返り、そう反省した。

 

先ほどとはシャルロットを助けたときの事である。

あの時、一夏は何をしたのか?

 

まぁ、察しのいい諸兄らならば分かるだろうが、ニトクリスの鏡を使ったのである。

普通、一般人相手にそんなものを一夏は使わない。

が、あの男二人組みのせいで自分があの炎天下の中待たされたのかと思うと怒りがふつふつとわいてきたわけで……

熱さでやや判断能力が落ちた状態でその怒りをぶつけてしまったと言うところだ。

つまり、八つ当たりである。

 

ちなみに、後日の新聞で、なにやら「いあ……いあ……」と虚ろげにつぶやく男二人組が保護されたという記事があったようだが、この一件との関連性は不明である。

 

閑話休題

 

とにかくナンパ男からシャルロットを助け出した一夏はそのままシャルロットを引っ張り、タイミングよくやってきたバスに乗り、目的地のショッピングモール『レゾナンス』へとやってきた。

 

このレゾナンス、つい最近になってオープンしたばかりのショッピングモールらしく、それゆえか人でごった返している。

 

「うわぁ……」

「いや、人まみれなのは予想はしてたが、まさかここまでとはな……」

 

思わず先に進むことをためらってしまいそうなほどの人の波。

下手に踏み込めば恐らく一夏達ははぐれ、並大抵で合流は出来ないだろう。

 

(……あれ、これってある意味チャンス?)

 

ふと、シャルロットは思う。

この状況、この人ごみではぐれるのを防ぐとかそういう理由をつけて手をつないだり、あわよくば腕を組んだりなど出来やしないか? と。

 

でも、一夏は嫌がらないだろうか?

嫌がっているところを無理やりやるのも……

でも、これはまさに千載一遇のチャンスだろうし……

などとシャルロットが百面相をしつつ悩む。

 

「……おい、何百面相してんだ? さっさと行くぜ?」

「ふぇ?」

 

あーでもないこーでもないといろいろ悩んでいるシャルロットの内心を知ってか知らずか、一夏はシャルロットの手を握り、引っ張るように先へと進む。

 

「い、一夏!?」

「昼前でここまでの人ごみだ。ここでぼけっとして昼とかになったらもっと人でごった返しちまうぜ? さっさと行ったほうが身のためだぜ」

「……そ、そうだね! うん」

 

--僕だってさすがに悩んでたのに、一夏は……

 

とは言わなかった。

結果はどうあれ、とりあえず手をつなぐと言う行為自体は出来たのだから。

 

 

※ ※ ※

 

 

人の波を掻き分け、目的の場所……水着売り場に到着した一夏達は、早速水着の物色を始めた。

と言っても、一夏はそれほど悩まずに黒地に緑のラインが一本入っていると言うデザインのトランクスタイプの水着を購入。

もともと新しい水着を買わなくてもいいと思っていたが、せっかくきたのだからという考えからぱっと目に付いた物を買っただけであり、なんとも適当なチョイスである。

が、男の水着選びなどこのぐらい手軽なものだ。

もっとも、一緒に来たシャルロットの場合はそんなに手軽に済むわけも無く、今もどの水着がいいかを悩みに悩んでいる。

つまり何が言いたいのかと言うと……

 

「……暇だ」

 

現在、一夏は待ちぼうけを食らっているという事である。

ちなみに、シャルロットに何度か一緒に選んで欲しいなどと言われたのだが、さすがに女性物の水着売り場に立ち入る勇気が無かったため、丁重にお断りした。

……そんな彼をヘタレといわないであげて欲しい。

 

柱に寄りかかり、ぼーっと前を見つめつつ、何ゆえ女の買い物という物はここまで時間がかかるのかと言う人類の永遠の謎について思いをはせていると、目の前を一人の女性が通りかかる。

その女性は一夏の前で立ち止まると、手に持った物……恐らく近くの売り場の商品を差し出し、口を開いた。

 

「ちょっと、そこの男。これ戻しと……」

「ねぇ一夏ー、一緒に選ぶの駄目ならせめてこっちとこっちどっちがいいかぐらいは決めてよー」

 

が、女性が何かを言い切る前に、シャルロットが二着の水着を持って駆け寄ってくる。

二着とも同じパレオ付きのビキニと言うデザインだったが、色がそれぞれ白とオレンジと違っていた。

「こらこらシャルさんや、未会計商品をここまで持ってきたらあかんだろうに」

「だって、一夏律儀にこのラインからこっちに入ろうとしないじゃん」

「バーロー。女の聖域に入れるほど俺は傍若無人じゃねぇ」

「そんなことはいいからさ、どっちがいいと思う?」

「んー……オレンジじゃね? ほら、シャルロットのラファールもオレンジだし、なんとなく俺の中ではシャルさんはオレンジがイメージカラーなんだが」

「んー……じゃあオレンジにする。ありがとね、一夏」

「おうよ」

 

そんなやり取りの後、シャルロットは売り場へ戻っていく。

そして白い水着を戻すとオレンジの水着を手に会計へと向かった。

 

「……で、何かご用で?」

「り、リア充のバッキャロォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

「私なんか出会いすらないのにぃぃぃぃぃ!!」と叫びながら、女性はいずこかへと去っていった。

涙を盛大に流しつつ。

 

「……だったら男相手に偉そうにしなけりゃいいんじゃね?」

 

一夏の言葉は酷く正論だった。

思わず周囲で事の次第を見ていた一般客の方々が頷いてしまうほどに。

 

「ん? 一夏か?」

「ありゃ、千冬姉?」

 

しばらく女性が走り去っていった方向を見ていた一夏の耳に、聞きなれた声が飛び込んでくる。

声がしたほうを見ると、そこには千冬と真耶が居た。

 

「千冬姉たちも水着選び?」

「まぁそんなところだ。生徒ほどではないが教員にも自由時間はあるからな」

「織斑君は一人でここに?」

「いえ、シャルロットと一緒に来て、今シャルロットは会計中です」

 

と、そこで会計を終えたシャルロットがやってくる。

 

「一夏お待たせー……って、織斑先生と山田先生?」

「ほう、うちの愚弟と逢引の真っ最中だったか」

「あ、あいびっ!?」

「清い交際ならいいですけど、不純異性交遊は止めてくださいね?」

「山田先生まで!?」

「教師が生徒イジるって、ある意味イジメじゃね?」

 

それを見つけた教師陣がこれ見よがしにシャルロットをからかい始める。

一夏の呟くようなツッコミもどうやら聞こえていないようだ。

 

「あらあら、からかうのは結構ですが、限度は見極めてくださいませ?」

 

そこに、追加でセシリアがやってくるという展開。

まさに千客万来と言ったところか。

ちなみに、セシリアが来たと分かった瞬間、千冬が若干顔を顰めたのはご愛嬌である。

 

「まぁ、わざわざ聞くまでもないだろうけど、セシリアも水着選びか?」

「ええ。せっかく海に行くのですから、新調するのも悪くはないと思いまして」

 

そこまで言うと、セシリアはシャルロットが大事そうに抱えている袋を見て、一言。

 

「一夏さんに選んでいただいたので?」

「え? あ、うん、そうだけど」

「……なるほど……だったら、一夏さん、私にはどのような水着が似合うと思いますか?」

「……何? 何でここで俺にその話題が飛んでくるの?」

「いえ、せっかくここに異性がいるので、異性の意見を聞いてみようかと」

「なんだかよく分からんが……セシリアは青系のがいいんじゃないか?」

「ふむ、だったら私はどうだ、一夏」

「千冬姉? 断然黒」

「だったら私のも……」

「山田先生は白系がいいかと……と言うかなんで俺が皆の水着選んでるんだ?」

 

しっかりと全員からの問いかけに答えたところでようやく一夏はその事に気づいた。

が、気づいたからどうなるわけでもなく、一夏はなにか釈然としない思いを抱きつつ。

 

「……まぁいいか」

 

深く追求することはやめておいた。

 

 

※ ※ ※

 

 

帰り道、やや落ちかけた夕日が二人の女性を照らし、後に長い影を作る。

 

「しかし、凄い偶然でしたね、たまたま行った先で織斑君に会うなんて」

「まぁ、あそこは最近出来たばかりだからな。大方シャルロットに誘われて行った、と言ったところだろうよ」

 

二人の女性……千冬と真耶は他愛もない会話を交わしながら帰路についていた。

 

「でも、そのおかげかずいぶん機嫌よさそうですね、先輩」

 

真耶は今のようにIS学園一年一組の担任、副担任と言う関係になる以前に使っていた千冬の呼び方でそういう。

それに対し、千冬は。

 

「当然だろう。一夏が私の水着を選んだんだ。しかも自分でも黒がいいかもしれないと思っていたところで一夏が同じ意見だったのだからな……ふふふ、やはり私と一夏は姉弟だな」

「……一組の担任になってからめっきり減ってたので、久々に見ましたよ、今みたいな先輩」

「そうだな……はぁ、学園では教師と生徒と言う関係だからなぁ……あぁ、最近一夏の手料理も食べてない……」

「今度作ってもらえばいいじゃないですか。それぐらいならいいでしょうに……」

「だが、一夏に迷惑じゃないだろうか? ……迷惑だと言われたら立ち直れない自信はあるな」

「そんな自信いらないですよ……」

 

織斑千冬。

彼女がかぶった『教師』と言う仮面がIS学園内ではがれるのも時間の問題かも知れない……

 




と言うわけで、次から臨海学校に入りたいと思います。

……本妻もそろそろ目覚めさせないと(使命感)

そして以前感想でちらりと言われていた、ブラコンな千冬がもっと見たいという意見を取り入れて、最後にブラコン気味な千冬さんを。
林海学校が終わった後の夏休み編だったらもうちょっとブラコン千冬さんが出せるかもしれません。

セシリアが水着買いにきてるなら、ラウラはどうなのか?
もちろんラウラは離れたところでしっかり護衛中です。
水着……? デモベの執事&メイドが水着を着るとお思いか?

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