インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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衝突

ぶつかり合う二人。
ぶつけ合うのは武か、魂か


28 Encounter

彼等は、ただ互いに見つめあっていた。

 

アリーナ観客席の喧騒もなんのその。

彼等が見ているのは、聞いているのは、ただ互いの姿、互いの声のみ。

 

 

「一度、貴方と戦ってみたかった。お嬢様が全幅の信頼を置いている人物の一人である貴方と」

「俺が信頼? どっちかって言うとお前さんの方がされてそうなんだが?」

 

一夏はラウラの言葉にそう返す。

それに対し、ラウラは一瞬言葉を詰まらせた。

 

「……あぁ、確かにお嬢様は私を、義姉を信頼してくださっている。それは間違いないと胸を張って確信できる。しかし……貴方へ向けている信頼は、きっと我々へ向けている信頼とはまた違う。そう思えてならないのだ」

 

ラウラは自分でもはっきりしないその感覚をもてあましつつそうもらすように呟く。

同じ信頼のはずなのに、なぜ自分達と彼とでは違うように感じるのか?

 

いくら悩んでも分からない。

 

 

「……だから、貴方と拳を交えれば、何かしらが見えるかも知れないと思ってな。いやしかし、ここまで勝ち進んでもらえてよかった。途中で負けたらこの計画も意味が無いからな」

「はっ、戦って互いを理解なんざ、ずいぶん脳筋な考えだな、おい」

「少年漫画らしい展開だろう? 燃えてこないか? 少年」

「……まぁな」

 

もっとも、一夏の中身は少年とは言いがたい年齢なのだが……まぁ、以前の彼の普段の行動は少年と評されても違和感は無かったし、少年で問題ないだろう。

あの教会の子供達と同レベルだし。

そしてラウラはラウラで興奮のためか、口調も変わってきている。

 

「……あぁ、そうだな。本当に、そういうのも悪くねぇな」

 

ポツリと呟く一夏。

ゼロへと近づいていくカウント。

そして……

 

「ヴーアの無敵の印に於いて!!」

 

一夏がバルザイの偃月刀を呼び出し、ラウラへ向けて飛翔する。

それをみていたラウラは、それに対処するでもなく、その場で何故か右拳を大きく後に引き絞り……

 

「……(エコー)!」

 

空気が何かに叩き付けられたような音が響き、気づけばラウラの姿は一夏の懐にいた。

いくら一夏がラウラに向けて突撃を敢行しているとはいえ、一夏とラウラの距離はまだ広かったはずなのに、そのあった筈の距離はいきなりゼロになっていた。

 

「ーーーっ!?」

 

それに一拍遅れ気づき、対処しようとしたが、既にラウラはその引き絞った拳を一夏の胴体に叩きつけていた。

防御する暇も無く、その拳の一撃は一夏を吹き飛ばした。

 

「ぐ……っ、がぁぁぁぁ!!」

 

が、一夏もただでやられるわけには行かないと言わんばかりに空いている左手に一丁の拳銃を呼び出し、それをラウラに向けて三連射。

それらをラウラは余裕を持って回避する。

が、それでも一夏が体勢を立て直す程度の時間は稼げたようで、一夏はなんとか体勢を立て直し、ラウラを見据える。

 

「……だぁぁぁっ! どっかで見たことあるような技使いやがって!!」

「所詮義姉の猿真似程度だ。そしてISの力を借りねばその猿真似すらまともに出来ない程度だよ、私は」

「けっ、猿真似だろうがやられたほうはたまったもんじゃねぇよ! くそっ!」

 

口で悪態をつきながらも一夏は悩む。

さて、どう攻めようか。

相手はガチガチのインファイター。

そこに接近戦を仕掛ければ返り討ちは自明の理だが……

かと言って二挺拳銃じゃ明らかに威力不足だ。

 

「……はぁ、選択肢、ねぇなぁ……俺」

 

奇しくも、その言葉と似たような事を前の試合で鈴音が呟いていたのだが、そんなこと一夏が知るよしもなし。

 

右手の偃月刀を握りなおす。

そして……

 

「……しゃっ! いくぜ! ラウラァッ!!」

「来い! 織斑一夏!!」

 

拳と刃の応酬が始まった。

 

大気さえも切り裂く偃月刀を、大気を振り切る速度で放たれる拳が迎え撃ち、大気を突き抜ける拳を大気を切り分ける偃月刀が迎え撃つ。

 

刃に、拳に切り裂かれ、打ち砕かれた大気が荒れ狂い、周囲に暴風域めいた空間を作り出す。

まるで、二人の戦いを邪魔するものを阻むかのように。

 

大気の檻の中で、二人は戦い続ける。

 

「破ァッ!!」

 

ラウラの拳が一夏の頭部を狙う。

その一撃をそらし、装甲ぎりぎりをかすらせるように回避……

わざとかすらせたのではなく、精一杯かわしてもなおかすってしまった。

 

「死ァッ!!」

 

一夏も負けじとラウラの首筋目掛けて偃月刀を振りぬく。

首を後にそらし、偃月刀の軌道上に腕部を差し入れ、腕部装甲でその一撃を受ける。

首をそらしてかわそうとしたが、それではかわしきれないための苦肉の策。

 

互いのシールドエネルギーが見る見る減っていく。

が、それがどうしたと言うのだろうか?

『そんな数字』などこの期に及んで気にしている場合ではない。

数字にかまけていられるほど、目の前の相手はたやすい相手ではない。

一夏とラウラは互いに互いをそう評価している。

 

アイオーンとシュヴァルツェア・シルトの装甲が瞬く間に傷だらけになっていく。

しかし、あぁしかし、これほどの激戦を繰り広げても……いくら刃を、拳を交えようと……

 

いまだ二人が望んだような一撃を相手に入れられていないのだ。

ラウラはまだ開幕直後に一撃入れているが、それ以降は掠り当たりのみである。

そして一夏も言わずもがな、掠り当たりのみ。

 

その一撃の分、二人のエネルギーに差はあるが、言い換えればそこしか差が無いのだ。

あれほど打ち合ったというのにだ。

 

観客の誰もが言葉をなくし、二人の戦いの行く末を見つめていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

時間は一夏が谺の一撃を食らった瞬間までさかのぼる。

 

一夏がラウラの一撃をまともに食らったのを見て、シャルロットは思わず一夏の方へ援護に向かおうと体を向けた。

 

……それを彼女が許すはずもなし。

 

シャルロットにあたるすれすれをスターライトで撃ちぬいたセシリアは、自身に振り向いたシャルロットに向かい、言い放つ。

 

「私のダンスパートナーは貴方でしょう? 役目を放棄されては困りますわ」

「……一夏の援護に行きたきゃ私を倒せ……ってこと?」

「まぁ、そういうことです。今回、めったにわがままを言わないラウラがぜひ一夏さんと一騎打ちがしたいと望まれましたので……援護には行かせませんよ?」

「それはそっちの勝手な事情でしょ? 僕はさっさと一夏の援護に行きたい……考えが真っ向からぶつかったね」

「ええ、綺麗にぶつかりましたね」

「だったらさ……」

 

そこまで言うと、両腕にISサイズにスケールアップされたガトリング砲『ミストラル』を呼び出し、ためらい無く引き金を引いた。

銃身がゆっくりと回転し始め、徐々に回転速度は加速していく。

そして、速度が一定まで上昇した瞬間に、銃口から弾丸が吐き出された。

 

「悪いけど、噛み砕かせてもらうよ! 僕のパートナーはセシリアじゃなくて一夏だからね!!」

「せめてその台詞を言い終わってから引鉄を引きなさいな!」

「銃身のスピンアップの時間を考えれば妥当だよ!」

 

セシリアは悪態をつきながらもミストラルから吐き出され続ける弾丸を空を舞うように飛び、回避し続ける。

しかし、200発×2と言う呆れるほどの装弾数を誇る武装を使っているシャルロットは、引鉄をひいたまま銃口でセシリアを追いかけると言う方法でセシリアを攻め続ける。

セシリアはとにかく避ける。

そして、その目は何かを狙っていた。

 

やがて、シャルロットの弾幕が急に途切れる。

 

「っ!? オーバーヒート!」

 

それはミストラルの銃身の温度が一定値以上まで上昇したため、銃が破損しないように安全装置が働いたためだった。

つまり、冷却が完了しない限りミストラルは使えない。

 

「貴方の頭も、少々お熱くなっていらっしゃるようですわね!」

 

そしてそれを待っていたセシリアはスターライトをシャルロットへ連射しながら、接近。

その後スターライトを格納し、インターセプターを取り出した。

それに気づいたシャルロットはミストラルを格納する暇も惜しみ、ミストラルを放り投げ、ブレッドスライサーを取り出す。

 

「ふっ!」

「えぇい!」

 

二つの刃がぶつかり合う。

が、もとより接近戦を続ける気が無いセシリアはすぐさま後退。

後退と同時に射出したブルー・ティアーズでシャルロットの追撃を妨害した。

 

「くぅ……厄介だって予想はしてたけど、予想以上に厄介だね、BT兵器って言うのは!」

「相手に勝つには相手を自分の土俵に引きずりこむ。戦いの鉄則ですわ!」

 

セシリアが指揮者のように指を動かす。

その指揮に従い、次々に射出されたブルー・ティアーズがセシリアの周囲を舞い、その銃口を一斉にシャルロットへ向けた。

 

「さぁ、お行きなさい!」

 

ブルー・ティアーズから放たれる火線が次々にシャルロットを襲う。

しかしシャルロットもただではやられない。

 

左腕に備え付けられたシールドで致命的なダメージに繋がる射撃のみを見極めて防ぎ、そうでないものは回避するか、いっそ回避を捨てて食らう。

 

そして、ブレッド・スライサーを収納し、開いた右手に取り出したのは以前一夏との模擬戦で使った短銃身ショットガン、フリュー。

 

ブルー・ティアーズからの射撃を避けながらも、シャルロットはフリューの銃口をブルー・ティアーズに向け、引き金を引く。

 

短銃身ゆえに、発射後すぐに広範囲に拡散したペレットがブルー・ティアーズの装甲を叩く。

もっとも、早々に拡散してしまっているため、ブルー・ティアーズに当たったペレットの数はそう多くなく、ただブルー・ティアーズを揺らし、銃口を短時間そらす程度の効果しか与えられなかったが。

それでも、それがシャルロットの狙いだった。

 

「止まった! そこ!!」

 

左腕のシールドに隠れていた左手が動きが止まったブルー・ティアーズに向けられる。

その手の中には、ISサイズのリボルバー。

シャルロットはためらい無く引鉄を二回引く。

 

腹に響く重低音が二回響き、ブルー・ティアーズに二つの穴が開く。

そして、ブルー・ティアーズは爆散。

 

「……よくまぁ、そんな『骨董品』を使いますわね」

「古いけど、威力はあるからね。それに整備も簡単だから、いい物だよ、これは」

 

そう言ってシャルロットは手にしたリボルバー『ルーガルー』をセシリアに向けた。

 

その銃声の大きさが人狼の雄叫びに聞こえると言うことからそう名づけられたこの拳銃は、まだ第二世代ISがでてきたか否かといった時期に作られた銃であり、セシリアの言う『骨董品』という評価も間違ってはいないのだ。

 

が、この銃、元がリボルバーであり、さらには特殊な機構がないと言うその古さゆえに構造が単純であり、その分頑丈なのだ。

それこそ、ルーガルーの銃身で相手を殴りつけても銃身などが曲がるなどという事が無いくらいに。

そしてその頑丈さに目を付けたシャルロットは、この銃で強装弾を撃ち出すという方法をとっている。

普通のIS用拳銃であれば何発か撃てば銃本体がお釈迦になるぐらいの弾を、だ。

 

(それに……これなら一夏とおそろいだし、ね)

 

……一夏がこれを聞いたら、「そんな物騒な乙女心なんていらない」と言いたくなるような理由が使っている理由の大部分な様だが。

 

「……で、これで一基壊したわけだけど、どうする? もっと壊されたい?」

「まさか。これ以上壊せるとお思いですか?」

 

二人の少女の、やけに鋭い視線が交錯した。

 

 

※ ※ ※

 

 

一夏とラウラの距離が離れる。

互いに、同じタイミングで彼等は距離をとることを選択した。

 

(……強い)

 

ラウラは一夏をそう評価する。

拳と刃を打ち合っている中、何度か会心の一撃は放たれた。

だが、その事如くが弾かれ、かわされ、下手をすれば振りぬく前に潰された。

まるでこちらの動きを予知しているかのごとく、相対する男はその点で言えばまさに強敵だった。

 

(お嬢様が評価なさるのも頷ける……彼は、織斑一夏は……強い!)

 

無意識のうちに、乾いた唇を舌がなぞる。

 

だが、それがどうした?

相手が強大……いいではないか。

強大であればあるほど、乗り越えがいがあるという物ではないか!

 

「……ならば、乗り越えて見せよう!」

 

そう宣言し、ラウラは開幕早々に一回起動させた機構を起動させた。

 

やはり、空気が何かに叩き付けられたような音が響き、ラウラの姿が一瞬で一夏の視界から消え去る。

 

そして、ラウラの姿は一夏の右に……

 

「Welcome」

「……っ!?」

 

そこには、既に銃口が向けられていた。

 

「見切ってんだよ!」

 

銃声が鳴り響き、放たれた弾丸がラウラの胴体にぶち当たる。

 

「ぐが……っ!?」

 

ISの絶対防御により、弾丸がラウラの胴体を貫通するどころか、ラウラに体に食い込むという事すらなかった。

だが、だからこそ、着弾時の衝撃がそのままラウラを襲う。

 

胃から、すっぱい何かがこみ上げてくるのを何とか押さえ込む。

それには何とか成功したものの、視界がぼやける。

 

霞む視界を何とか保とうとラウラは奮闘し……

 

しかし、何かに足をつかまれ、引きずり落とされるかのように意識を失った。




シルト「まだだ、まだチャージは終わっちゃいない!」

と言うわけで28話です。
今回は殆どの場面を戦闘描写にしてみましたが……いかがだったでしょうか?
しかし、苦手な戦闘描写の克服のためとはいえ、ほぼ戦闘描写にするのには骨が折れました。

さて、次は……ラウラさんが気絶した後に起こるイベントはあれしかあるまい。
が、うちのラウラ、原作のラウラと一味も二味も違うんだ。
つまり原作どおりには絶対ならないです。

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