インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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成長

さぁ、成長したのは誰だ?


27 Grow up

本音が撃墜されて後、簪は一夏とシャルロット相手に善戦した。

しかし、数の利をひっくり返すことは並大抵ではなく、簪には終ぞそれをひっくり返すことが出来なかった。

 

「……悔しいな、絶対勝とうって思ったのに……」

「いや、正直言っていつ負けるかって俺がひやひやしたからな? つか2対1なのにあそこまで粘られるとはな」

「……次は勝つよ、一夏」

「おう、その意気だぜ、簪」

 

なお、戦いの後に上記のようなやり取りがあったかは定かではない。

 

だが、試合の後、簪と一夏がマニピュレーター越しではあるが握手をしていたことは確かだった。

 

そして、一夏達がピットに戻ると同時に、第二試合が始まる。

第二試合は……セシリア&ラウラペアvs箒&鈴音ペア。

 

 

※ ※ ※

 

 

「で、率直に聞くわ。勝てると思う?」

「思わん」

「やっぱり?」

 

試合開始直前。

鈴音は隣でベンチに座っている箒に問いかけた。

それに対し箒は即答。

しかも後ろ向きな。

その表情は最早絶望に染まっているといっても過言ではない。

 

現に「もう駄目だ、もうお終いだぁ……」などと呟いている。

 

「何そんな暗い顔してるのよ箒、ほらほら、スマーイル」

「お前とラウラの戦いに巻き込まれるこちらの身にもなってくれ!?」

 

箒の脳裏に浮かぶのは鈴音とラウラの模擬戦。

鬼気迫る表情に二人の拳と刃の応酬。

 

……うん、巻き込まれたら死ねる。

 

この試合の組み合わせが決まった瞬間、箒は今どこにいるか分からない両親に宛てて遺書を書き留めなければなどと思っていたりした。

 

「もう、決まっちゃったからには諦めなさいよ。それに、いくらなんでも味方巻き込むことは無いわよ……多分」

「多分言った!? 今凄く小さい声でだけど確かに多分って言った!?」

「気のせい気のせい(棒)」

「ならばその棒読みを止めてくれ!」

 

試合前だというのに、なんとも騒がしい限りである。

 

「ほら箒、そろそろ試合よ。覚悟決めなさい」

「う……そ、そうだな、もう腹をくくって行くしかないよな……」

 

控え室のモニターに、もうすぐ試合が始まる旨のメッセージが表示される。

それをみた鈴音の言葉に、箒も覚悟を決めた。

二人は各々の思いを抱きながらカタパルトへ向かう。

 

そしてしばらくの後。

 

「やっぱり嫌だぁ!! まだ死にたくないーーーー!!」

「この期に及んでまだ抵抗するか!」

 

などと言うやり取りとともに逃げ出そうとする箒の首根っこを捕まえる鈴音の姿が見えた……と言うことがあったかもしれない。

 

 

※ ※ ※

 

 

同時刻、セシリアとラウラの控え室では、二人がシュヴァルツェア・シルトのシステムチェックをしていた。

二人とも、専属のエンジニアと言うわけではないため、多くの事は出来ないが、それでも簡単なシステムチャックなどは出来るくらいの知識はある。

 

「……脚部シールド『ヘルモクラテス』異常なし……まぁ、この時点で異常があったら問題ですが、お嬢様の足を引っ張るなどと言う愚行はないかと」

「そうですか。そんなことよりも、例のあれは取り外せましたか?」

「残念ながら……どうやらコアの重要な部分にかなり食い込む形で接続されているようですので、無理に取り外そうとすれば最悪、シルトが起動しなくなる可能性がある、と技術班の報告が」

「そうですか……できれば、あんな物騒なもの、取り外しておきたかったのですが……」

「大丈夫です、お嬢様。ようは使わなければいいだけですので」

 

セシリアの言葉に、ラウラは何も心配することは無いといわんばかりに答える。

それに対し、セシリアは何かを言おうとして……やめた。

 

どの道この場で外すことは不可能なものなのだ。

ならば、今この場でとやかく言おうがどうしようもない。

それに、仮に外せたとしても、時間が無い。

備え付けのモニターに移る試合開始直前を伝えるモニターをみて、セシリアは嘆息する。

 

「……そうですわね。それにそろそろ試合ですし……では、行きましょう、ラウラ」

「お嬢様の御心のままに」

 

二人が言う「物騒なもの」がどのような物なのかはわからないが、ろくなものではないのは確かだろう。

しかし、そんないわば爆弾を抱えているというのに、二人の歩みに怯えなどと言った感情は感じられなかった。

 

二人は、迷い無くカタパルトへと向かっていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「もう駄目だぁ、もうお終いだぁ……私は殺されるんだぁ……」

「……彼女は一体どうしたんですの?」

「あー、なんていうか、トラウマが出てきたというか、なんと言うか?」

 

目の前の光景に、思わずセシリアは突っ込む。

 

--なんと言うか、うん、なんでしょう?

 

絶望しきった箒と、平然としている鈴音。

両者の状態が余りにも両極端すぎて、箒の崩壊具合が良く分かる。

 

まぁ、でも分からなくは無い、とセシリアは思う。

なにせ、四人の中で唯一専用機を持っていないのだ。

きっとそのあたりが原因だろう、と。

 

しかし、彼女は気づいていなかった。

箒がキャラ崩壊を起こした原因が自分の右斜め後ろ、そして箒の左隣に控えているという事に。

世界のオルコット財閥総帥、痛恨のミスである。

 

「……あの時の決着、つけましょう? ラウラ!」

「そうだな。あの時は不完全燃焼だったわけだしな……!」

 

そして件の原因その一その二は、そんな事知ったことかと以前付けれなかった決着をつけようと闘志を昂ぶらせる。

 

……カウントダウンが始まった。

 

一つ、また一つと数字が減るに従い、鈴音とラウラは互いを睨み、セシリアは自然体のまま呼吸を整え、箒は絶望を深め……

 

数字がゼロになり、ラウラが拳を振りかぶりつつ、鈴音が双天牙月を振りかぶりつつぶつかり合い、セシリアは特に目立つことをする訳でもなく、スターライトMk-IIを取り出し……

 

「……ええい! 混乱しすぎて一回転して逆に冷静になった! いくぞセシリア!!」

 

箒がついに開き直った。

 

「どういう開き直り方ですの、それ」

 

箒の言葉を聞いて、セシリアはそう突っ込んだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

拳と刃がぶつかり合う。

ぶつかり合いによって生じた火花が二人を照らす。

蒼天の下でなお、火花は二人の顔を一瞬とは言え明るく照らし出した。

 

「疾ッ!」

 

柄を連結させ、両剣状態にしている双天牙月を、まるで舞うかのように操る鈴音。

それに対し、ラウラは……

 

「…………」

 

それをひたすら拳で弾く。

自ら攻めようという姿勢はまったく見えない。

とにかく弾く、弾く! 弾く!!

 

攻められてもいないが、攻め切れてもいない……

その様な現状にヤヤ焦りが生じたのだろう。

傍から見れば誰もわからないほどのごく一瞬、その攻撃は僅かながら崩れた体勢で放たれた。

そして次の瞬間……

 

--ラウラの拳が鈴音の腕を捕らえた。

 

「っ!? あっぶな!!」

「ちぃっ! 見極めが甘かったか!!」

 

腕を強打され、体勢を崩した鈴音は、しかし安堵する。

 

……まともに食らったら危険だった、と。

 

そして、攻撃を当てた筈のラウラは歯噛みする。

 

……胴体を狙ったはずなのに。避けられた、と。

 

「今のでだいぶエネルギー減らされたわね……たいしたカウンターですこと」

「……義姉は言っていた、『刹那の瞬間を見極める動体視力と速度、この二つを以って神速のクロスカウンターを可能とする……それが出来るのがボクシング。人が作り上げ、芸術までに高めた物である』と……もっとも、避けられたがな」

 

先ほど、ラウラの拳が鈴音に向かって放たれようとした瞬間、鈴音は第六感とでもうべきだろうか? ともかく、言葉では言い表せない『予感』めいたものを感じ、無理やり体をねじったのだ。

そして、その予感に彼女は救われた。

決して小さくは無いダメージをもらった。

無理やり体を捻ったことでわき腹あたりもずきずきと痛む。

それでも、まともに食らって追撃を受けるよりははるかに被害は小さかったといえるだろう。

 

「…………」

 

鈴音は思考する。

このまま攻めるか?

 

そう考えて、しかし躊躇する。

今回は避けられたが。次もまた避けられるとは考えにくい。

と言うか無理だ。

また同じように体を捻れなどと言われたら言ったそいつに双天牙月を投げつけてやる。

 

かと言って遠距離戦をするか?

相手は今のところ遠距離武装は無いようだし。

自分には一応遠距離武装である『龍砲』と言う物がある。

 

が、これも却下。

龍砲の威力を考えてみても余りに現実味が無い。

 

こう言っては何だが、龍砲は決して決定打として扱うようなものではない。

威力が不足しているのだ。

確かにチャージすればそれなりの威力は出るだろう。

しかし、戦いの最中、誰の援護もなしにあからさまにチャージしたところで撃てるわけが無い。

隙を自ら晒すようなものだ。

 

……箒さん?

今セシリアと戦ってるよ?

必死の形相で。

あれじゃ援護は期待できそうに無い。

 

閑話休題

 

とどのつまり、よほどの好条件が整わない限り、龍砲の使い道と言えば、『不可視の砲身、不可視の砲弾での牽制』が普通なのだ。

 

そこまで考え、鈴音は自嘲する。

 

--なんだ、選択肢、元から無いじゃん。

 

しかし、ならばと鈴音は双天牙月の連結を解除する。

 

「……だったら、私には『これ』(接近戦)しかないじゃない」

 

なんとまぁ、脳筋だこと。

でも、なんとまぁ自分らしい。

 

うだうだ考えるのは性に合わない。

 

--自分は自分らしく、ってね。

 

両手に持った双天牙月を素振りし、そして刃を離れた場所にいるラウラに向ける。

 

「脳内議論の結果、このまま接近戦することになったから、そこんとこよろしく」

「?? よく分からんが、とりあえず試合続行という事で問題ないか?」

「なしなし」

「ならいい」

 

……ラウラも大抵脳筋だったようだ。

 

 

※ ※ ※

 

 

一方、セシリアと箒はと言うと。

 

「くそっ! 当たらん!!」

「太刀筋がまっすぐすぎですから、避けるのは簡単ですよ」

 

だいたいこんな感じ。

箒がセシリアを攻めるが、セシリアはそれをひたすらかわす。

 

箒も、セシリアたち専用機持ちと比べると弱くはあるが、そこまで弱いわけではない。

剣道の全国大会で女子一位になった実力は彼女の太刀筋に如実に現れており、少なくとも他の生徒相手であれば勝てるであろう。

 

……しかし、太刀筋が如実に現れるという事は、つまり今の箒の剣はあくまで『剣道』の範囲から出ていないという事でもある。

剣道とは『剣の道』を修めていく物。

つまり剣そのものと言うよりも、剣を扱う自分の心を鍛える、いわば礼儀作法を会得するほうにやや重きを置いている。

 

戦う術を学ぶなら、剣道ではなく剣術を、である。

 

そしてそれゆえに、箒の太刀筋はどこまで行ってもお手本どおりの太刀筋でしかないのだ。

 

では、なぜセシリアはお手本どおりとはいえ、並以上の実力を持つ箒の太刀筋を見極めれているかと言うと……

 

--あんな世界に生きていて、護身などの術を学んでないはずが無い。

 

かつて生きた世界で覇道財閥などと言う、世界に影響を及ぼすことも不可能ではない財閥の党首として生きてきたのだ。

そんな彼女の命を狙う刺客も当然出てくるわけで、いくら頼りになる従者がいても自分もいくらか戦う術ぐらいは学んでいるのが当然だろう。

ただでさえ、何度も危機に陥り、その都度自分では何も出来ず、誰かが運よく助けてくれると言うことがあったために、なおさら。

 

……もっとも、そうやって護身の術を学び始めたのは大十字九郎とそのパートナーがヨグ・ソトースに飛び込んで終ぞ帰ってこなかったことに涙した後のことであって、それまでは文字通り守られてばかりのお姫様だったのだが。

 

そして、いろんな意味で人外渦巻くあの世界の住人に鍛えられて、並でいれるわけも無し。

 

その結果がこれである。

 

「戦いはいかに相手の裏をかくか……ですよ!」

「っ!? ライフルを打撃に使った?!」

 

セシリアはそういいつつ、手にしたスターライトで箒を殴りつける。

もちろん銃口側を持って、銃床側で殴りつけている。

普通こんな事をしては殴るために使った銃も壊れるはずだが……こんな用途も見越して改良していたスターライトは動作に支障をきたすことは無かった。

 

その証拠に、まさかの方法で反撃された驚愕で隙だらけの箒に対しての射撃も問題なく放たれた。

 

(くそ……っ! 近づけない!)

 

一方、箒はと言えば手も足もでない現状に歯噛みするしかない。

 

分かっていた。

分かっていたのだ。

こんな結果になるなどと。

 

いくら自分がIS開発者の妹であろうと、なんだかんだでIS学園に入るまでISには触れたことが無かったのだから、そんな初心者が代表候補に勝てるわけが無かった。

 

それがわからないほど、箒も馬鹿ではない。

そして、どう足掻いても自分が勝てる見込みは万に一つも無い。

 

--あぁ、分かっていたとも。

 

シールドエネルギーはどんどん削られていく。

減っていく数字を見ながら、箒は思う。

 

--負けること自体は分かりきっていたからいい。

--ただ、もっとも嫌なのは……

 

何も出来ずに負けること!

 

--『……次は、もっと食いついてやろう』

--『楽しみにしてるわ、箒』

 

友人となった鈴音と、以前の模擬戦の後にそう約束した。

だと言うのにここで何もできずに負けて、自分はその約束に一歩でも近づけるか?

 

否! 断じて否!

 

試合開始直後、冷静になってから箒は唯一つ目標を設けていた。

 

--一太刀、せめて一太刀浴びせる!!

 

しかし、この現状ではそれも望むべくも無し。

どうすれば、一体どうすれば……

 

そこでふと、脳裏によぎる光景。

自らが思いを寄せる相手、一夏が手にした剣を相手に投げていると言う光景。

そこから思いつく一手。

 

そしてそこで悩む。

この一手は、剣道をたしなんだ者としては、それは余りにも礼儀知らずな一手だろう。

 

箒のなかでためらいが生まれる。

そしてそのためらいが思いついた一手を脳内からはじき出そうとしたとき。

 

−−『戦いはいかに相手の裏をかくか……ですよ!』

 

他でもない、先ほどセシリアが、敵が言った言葉が脳裏をよぎる。

 

セシリアにとっては皮肉なのかそうでないのか、他でもないその言葉で、箒の覚悟は決まった。

敵に言われたままでいてたまるものか。

ならば、お望み通り裏をかいてやろうではないか!!

 

……まぁ、こういう風に表現するとかっこよく感じはするのだが、要するにセシリアに対する対抗心だったりする。

 

だが、理由はどうあれ、覚悟を決めたと言う結果になんら変わりは無く、箒は手にしたブレードを振りかぶると、セシリアに向かって投げつけた。

 

「あらあら、そんな動作を伴っては、対処してくださいと言っているようなものですよ……っ!?」

 

しかし、投げられたブレードをセシリアはかわす。

自らの武装を投げ捨てると言う行為を行った箒に対し、さすがのセシリアも驚きを隠せない。

なにせ、同じように剣を投げる一夏の偃月刀と違い、箒が投げたブレードは戻ってきたりなどという事は絶対に無いのだ。

つまり、箒は自ら唯一の武装を投げ捨てたのだ。

 

果たして、セシリアの知る彼女はそのような事をするか?

……否である。

 

そしてセシリアが驚愕しているうちに、箒がまるで考えなしに突っ込んできたのだ。

既に唯一の得物を自ら投げ捨てた後だと言うのに。

まっすぐに、ひたすらまっすぐに。

そして……

 

「ふんっ!!」

 

殴った。

シュヴァルツェア・シルトのように殴打用の武装が付いているわけでもない打鉄のマニピュレーターで、セシリアを。

もっとも、その一撃も防がれてしまったが。

 

「……はぁ、結局届かない、か」

 

箒はそう呟きつつ、セシリアのインターセプターに切り裂かれた。

それにより、箒の打鉄のエネルギーが枯渇した。

 

悔しげに俯く箒に、しかしセシリアは賞賛の声を向ける。

無論、心の中で。

今の現状で口に出して言っても、嫌味にしかならないからだ。

 

そして、その内容はと言うと……

 

(戦いの中で、自分の『殻』を破りましたか……彼女にとっては大きな一歩、ですわね)

 

剣道をやっていたから、それを用いて戦わねばと言う固定観念。

箒はそれを自ら破ったのだ。

 

自らの殻を破ること、それを人は成長と言う。

 

そして同時に自分を叱咤する。

 

(まさかあそこで一撃もらいかけるとは……戦いの中で彼女が成長したことを見抜けないなんて、人の上に立つものとして まだまだですわね……)

 

……彼女がまだまだなら、世界に存在する殆どの『人の上に立つ者』が未熟者という事になるのだが、そんな事彼女が知るわけも無かった。

 

さて、考え事も程ほどに、ラウラの方へ向かおうかとセシリアが振り向いた瞬間。

 

『試合終了! 勝者、オルコット&ブランケットチーム!!』

 

試合終了の放送が流れた。

 




前話から一ヶ月とちょっとの更新停滞
大変申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!

と言うわけで27話がようやく出来ました。
いやぁ、難産でした。
そしてあいも変わらずキャラ崩壊だの超展開だのです。申し訳ありません。

さて、次はいよいよ一夏&シャルロットvsセシリア&ラウラの戦いとなります。

シルト「ついに俺の力を解き放つときか!」

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