インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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それぞれの

これは日々を暮らす少年達のほんの一幕。
しかし、それだけじゃないんだよ……?


今回は他の話より若干短いです。



25 Several

IS学園第二整備室。

校舎内にある数あるIS整備室のうちの一つで、それは鎮座していた。

 

「お~、出来たね~、かんちゃん」

「うん、やっと出来たよ……本当に、やっと……」

 

鎮座しているそれを見つめ、本音が感嘆の言葉を述べ、それを聞いた簪が今までの苦労を回想する。

 

基礎フレームの設計から各種パーツの配列、さらには鎮座している『それ』を動かすためのプログラムの作成。

さらにさらに、時たま……と言うか殆ど暴走する天才と何とかは紙一重を体現する存在の暴走を止めたり、その存在が魔改造した部分を戻したり、その存在が時たまかき鳴らすギターがうるさかったためその存在にシャイニングウィザードをきめたり、その存在が勝手に組み込んだプログラムをアンインストールしたり……

 

……あれ、思えば苦労の殆どは本来無くてもよかった物ではなかろうか?

 

そんな考えが頭をよぎるが、しかしあの□□□□が居なければここまでこれなかったこともまた事実。

なお、その□□□□は未だに完成したそれに噛り付き、何かをしている。

 

「で、にっし~博士、何してるの?」

「ん? 我輩の作品に不備などあっては面目丸つぶれの上廃棄場にポイッ、なわけであって、最終確認の真っ最中である。まぁ、我輩の作品は常に完・璧! なわけであるが? 凡人共はやはりそのあたり、不安であろう?」

「何だろう、すごく腹が立つ……」

 

西村の言葉に、簪が拳を握り締める。

やっぱこいつに感謝するのやめたほうがいいのでは?

と思わず考え直してしまった。

 

そんな簪の様子に気が付かない西村は、やがてそれから離れると、満足げに胸をそらした。

 

「ふむ、問題なし! やはり我輩は完璧である、あぁ、非凡なる我が頭脳を許せ、凡人眼鏡よ」

 

ぷつり、と何かが簪の頭の中で切れた。

 

「博士、凡人眼鏡って私のことですか? もしかしなくても私のことですか!?」

「おおっと気を悪くしたのならば大変アイムソーリーであるが、しかし我輩の頭脳と比べては世間一般の天才も凡人であると言うわけであって、別に貴様をけなしているわけではないのだぞ少女よ。むしろ貴様は凡人と言っても出来る凡人であるからして、胸を張るといいである」

「褒められた気がしない、ぜんっぜん褒められた気がしない!」

「ぬぁんと!? 我輩の最大級の賛辞を無碍にしたね!? さすがの我輩の白竜湖のように広い心でも見過ごせぬぞ!?」

「それ日本一小さい湖じゃないですか!! 全然心広くなーーーーーい!!」

 

「あぁ、かんちゃんがこんなに元気に……」

 

簪と西村のやり取りを見て、本音はそんなズレた感想を、感動しながら呟いていた。

別にふざけているとか、おちょくっているとかではなく、本心から感動しているあたり、本音は実は強敵なのかもしれない、いろんな意味で。

 

 

※ ※ ※

 

 

IS学園アリーナにて、一夏は一人ISの訓練にいそしんでいる。

現在行っているのは二挺拳銃をひたすら虚空のあらゆる場所に向けるという行為。

傍から見ればただ銃をあちこちに向けているだけだが、一夏のハイパーセンサー越しの視界にはあちこちに現れては消える光る球体状のターゲットが見えている。

一夏はそれに向け銃口を向けているのだ。

ハイパーセンサーによる360度の視界の中、どこに現れるかも分からないターゲットを見逃さないために一夏は集中力を高め、次々と銃口を向けていく。

 

(まだだ、まだ足りねぇ……っ!)

 

一夏が銃口を向けていくスピードは徐々に上昇していく。

しかし、一夏はそれでもまだ足りないと歯噛みする。

 

(もっとだ、もっと早く体を動かせ、もっと鋭く感覚を研ぎ済ませ!)

 

以前現れた外なる神、ガタノトーア。

今後、それに続いて外なる神々が現れないとは限らない。

ならば、そのときが来たとき、自分がもっと戦えるように。

 

一夏はその思いを胸にひたすらに体を動かす。

そして目の前に一つだけ現れたターゲットに右手の銃を向けると同時に、左手に持った銃をアリーナ入り口へと向け、引き金を引いた。

放たれた弾丸はまっすぐに、一夏を手にしたアサルトライフルで狙っていた影の足元へと向かっていく。

 

「うわ!?」

「……シャルロットさんや、いったい何の真似だ?」

「あはは、何度もプライベートチャンネルで声かけたのに返事が無かったから、つい」

「プライベート……あ」

 

その影、シャルロットの言葉に視界の隅の通信ログを見ると、確かに何度かシャルロットからの通信がきていたことを示すログがあった。

 

「まぁ、あれだ。気づかなかったのは俺が悪いが、何も銃で狙ってくるこたぁなかろうに」

「容赦なく撃って来た一夏には言われたくないなぁ……」

 

シャルロットの言葉に「ワリィ、ワリィ」と答えつつ、一夏は二挺拳銃でガンスピンを披露しながら、それを格納領域にしまう。

それを見たシャルロットは感嘆の声を上げる。

 

「一夏、それできるんだ、こう、銃をくるくるって」

「ん? あぁ、まぁな。でも、こんなの何の役にも立たないさ。ただのかっこつけって奴」

「へぇ」

 

一夏はシャルロットにそう答えながら、バルザイの偃月刀を呼び出す。

 

「……で、ここでIS纏ってるんだ。まさかこのまま帰るなんていわないよな?」

「当然」

 

不敵な笑みと共にそう答えると、シャルロットは両手にアサルトカノン、『ガルム』を呼び出し、構えた。

 

「せっかくだし、模擬戦、しよっか?」

「おう。ただし、鈴とラウラみたいにならんようにしようぜ」

「あはは……そうだね」

 

それはもちろん戦いの後の顛末も含めて、と言う意味である。

 

しばらく、二人は無言になる。

そして……

 

「……っ!」

 

シャルロットが引き金を引くと同時に、一夏はアイオーンの翼から緑のフレアを放出し、シャルロットへと向かっていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「…………」

 

一夏がシャルロットと模擬戦を始めた丁度同じ時間。

ラウラは人気の無い、学園敷地内の森の中に居た。

ただ自然体で森の中に立ち、その目は閉じられている。

一見すればただ意味もなく棒立ちしているように見える状態。

しかし、今の彼女には近寄りがたい何かがあった。

 

……ふいに風が吹き、木々が揺れる。

木々が揺れたことにより、木の葉が枝から落ちてくる。

それを音で感じ取ったラウラは……

 

「……ふっ!」

 

閉じていた目を見開き、自然体の状態から拳を振るう。

 

--無為の構え。

 

一件無防備な状態に見えるそれは、自身の次の行動を相手に読ませないための技術。

 

ラウラはひたすらに拳を振るう。

彼女が拳を振るうたびに、拳に触れた木の葉は二つに切り裂かれる。

彼女の動きは最早肉眼では捉えられないほどの速度となり、ともすれば残像までもが見えてきそうなほどである。

 

そして、しばらくの後、ラウラの動きが止まる。

 

「……10枚、逃したか。これでは義姉さんにしかられるな」

 

ラウラはそう呟くと、地面に目を向ける。

真っ二つに拳で切り裂かれた木の葉の中、切り裂かれていない木の葉が見えた。

彼女の師である義姉ならば、一枚たりとて逃しはしなかっただろう。

 

そしてそのような木の葉があるのは……

ラウラはそっと自身の左目を隠す眼帯に触れる。

 

「やはり視界が制限されているからか……しかし、今の私では……」

 

ラウラは自身の持つ『左側への反応の遅さ』に歯噛みし、そしてその原因となった眼帯に隠れている左目を忌々しく思う。

 

「……いや、だがこれが無ければお嬢様には出会えなかった……決して悪い事だけと言うことでもないか」

 

自身の考え、頭を横に振るうことで追い出し、そう呟く。

それでも、彼女は眼帯に触れることを止めようとはしなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

IS学園ではない場所、それどころか日本ですらない、某国にて。

 

「が……は……っ」

 

男が、ゆっくりと地面に膝をつく。

その体は満身創痍であり、男が来ている上等であっただろうスーツも見る影も無い。

 

「き、貴様は……貴様は、何なのだぁ!?」

 

男は痛みのはてに消えそうになる意識を何とかつなぎとめ、『ソレ』に向かって叫ぶ。

男の声を聞いた『ソレ』は、男へ歩み寄っていた足を止め、そして口を開いた。

 

「ゴMeんなサイねぇ……? IまノわタシじゃEriごNoみシテられナイの」

 

その口から放たれた声は、かすれた声。

だがしかし、それで居てなお脳髄の奥にガツンと響くような、蟲惑的な少女の声。

 

その声が男の耳から入り込み、脳で言葉の意味を把握したと同時に……

 

ずぶり、と胸から感じる衝撃。

そして今まで以上に急速に沈んでいく意識。

体は冷え切っており、まるで凍り付いてしまったかのように動きはしない。

 

「いタダKiまァす……」

 

男が最後に聞いたのは、そんな言葉だった。

 

 

倒れ付した男を見下ろし、『ソレ』は再び口を開いた。

 

「……たしカにスコしはマトもだけど……ヤッパりダメ」

 

『ソレ』はやがて、おぼろげな人型から、はっきりとした人型へと変わっていく。

血液で出来たその体は、白く透き通り、その身にまとう真紅の衣が唯一先ほどの姿の名残のよう……

 

否、それだけではない。

流れる血液を織ったかのような長い髪も、血液を凝固させ作り上げた紅玉のような瞳もまた、先ほどの姿の名残とでも言うべきだろうか。

 

血の怪異から変じた少女は、そのほっそりとした指に挟んでいた一枚の羊皮紙をひらひらと揺らめかせると、既に用はないといわんばかりに放り投げた。

放り投げられた羊皮紙は、風に吹かれ宙を舞い、そして地面へと落ちる。

見ると、ここ一帯に同じように地面に打ち捨てられた羊皮紙が散乱していた。

そして、そのどれもが何もかかれてはいない。

 

「だめ……コレジャあぜんっぜんダメ。マりょくをオギなっても、アクマでわたしがソンザイできるじかんガすこシのびるだけ……」

 

--欲しいのは、『私』と言う確固たる存在。

--今みたいな不確かで、ともすれば消えてしまいそうな、不安定な自分ではない。

--決して揺るがず、そこに在れる『私』……

 

「……ユめのままジャ、イたクナいもの……」

 

紅の少女は、そうかすれた声で言い残すと、その場を立ち去った。

残されたのは、無地の羊皮紙と、二度と起き上がることが無い男のみ。

 

……血生臭い、瘴気を孕んだ風が吹いていた。




紅の少女、イッタイナニモノナンダー(棒)

と言うわけで、今回は簪組、一夏&シャルロット、ラウラたちのほんの一場面を書いてみました。
書いてて思った。
あれ、ラウラさん、IS使わないほうが……?

そして敵サイドもほんの少し動き出してきました。

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