インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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この拳、この技、この身
全ては主のために



24 Schild

鈴音の双天牙月の刃が、固い物体とぶつかり合う。

さてはようやく見せた武装か、と鈴音は思ったのだが、自身が持つ刃とぶつかり合っているそれを見て、仰天した。

 

「な、ちょ……うぇぇぇ!?」

「? 何をそんなに驚いているのやら」

 

鈴音の様子を、ラウラは首をかしげて見やる。

だが、恐らくこの光景を見たあらゆる存在は目を見開いて驚くだろう。

なにせ、ラウラが双天牙月にぶつけたのは他でもない……自身のISの拳だったのだから。

 

「だ、だって、あんた、それ、殴りぃ!?」

「む……あらかじめ言っただろうに。『武装は既にある』と」

 

その言葉を聞いて、拳が武器だと推測できる存在が果たしてどれほど居るのだろうか。

それを聞いて思うことは、暗器でも隠しているか、それともハッタリか、ぐらいなものだろう。

まさか正真正銘、拳と言う武器があるから問題ないと言う意味であるとは。

 

いや、それにしても、模擬戦開始と同時に拳を構えたという予兆はあったわけだが、ISで肉弾戦はまず無いだろうと言う先入観が真相への道をふさいでいたのだ。

 

「我が姉直伝のこの拳……並では無いぞ?」

 

ラウラはそう呟くと、空いている左拳で双天牙月の刃の側面を殴り、双天牙月を弾く。

そしてガラ空きとなった鈴音の胴体へ向けて右拳を振りかぶった。

 

その際、右肘付近に備え付けられている何らかの機構が作動し、振られた拳が加速。

それに虚を突かれた鈴音はラウラの拳をまともに受けてしまい、そのまま後方へと吹き飛ばされていった。

 

「……と言っても、私はまだ未熟でな、こうしてISの機能に頼らないといけないがな」

「っつ~……! やってくれるじゃないの、ラウラ!!」

 

吹き飛ばされた鈴音はしばらく腹部を押さえうずくまっていたが、しばらくの後に復帰。

ラウラをまっすぐに睨みつけた。

 

「って言うか、それ何? 甲龍のパクリ?」

「技術の大本は同じだ。故に似たようなもの、とだけ言っておこう」

 

そう言い放ちながら鈴音へ突きつけられた右腕の装甲が若干開き、そこから熱が放出される。

あらかた熱を放出しきると、装甲は再び閉まった。

 

「……続きだ」

「はっ、上等!!」

 

そのと言葉と共に空中に飛び上がった鈴音が、ラウラへ向けて急降下していった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「俺、主人公な筈なのにずいぶん久しぶりな出番な気がするんだが?」

「一夏、何言ってるのさ?」

 

一夏の呟きに、隣に居たシャルル……否、シャルロットがそう返した。

現在、二人はアリーナへと向かっている真っ最中だ。

 

何故アリーナへ行くのか?

 

部活に所属していない二人にとって、放課後にすることと言えば、授業の復習、予習、そしてISの訓練ぐらいしかないからである。

 

「……今更だけど、やっぱ部活入ったほうがいいかねぇ? シャルロットさんや」

「そうだね、別に悪い事してるわけじゃないんだけど、放課後が味気ないよね。あと、僕のその名前知ってるの今はセシリアとラウラと一夏だけだから、とりあえず今までどおりシャルルって呼んでくれた方がいいかな?」

「それもそうだな、了解」

 

一夏の返事を聞き、満足そうに頷くシャルロット。

しかしその直後、歩みの速度を多少ゆるめ、誰にも、もちろん一夏にも聞こえないほどの小さな声で、

 

「……でも、二人きりなら、別にいい……かな?」

 

などと呟いた。

 

「ん? なんか言ったか? シャルルさん」

「う、ううん、なんでもないよ!!」

 

振り向きつつ声をかけてきた一夏に、シャルロットは慌ててそう返答すると、一夏は首を捻りつつもある程度納得したのか、すぐさま前に向き直る。

その様子を見たシャルロットは胸をなでおろすと駆け足で一夏の隣へと並んだ。

 

そして、二人がアリーナに足を踏み入れると……

 

「餓ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「死ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

なんか名状しがたい形相で二人の少女が刃と拳をぶつけ合っていた。

 

「……やだ、なにこれ」

 

思わずそう呟く一夏さん。

でも無理も無い。

 

最早思春期の少女としていろいろ捨ててはいけない何かを捨てて、踏みつけて、ガソリンをぶちまけて、火をつけ燃やし尽くして、トドメに燃え残った灰を海に投げ捨てたかのような表情で戦っているのだ。

 

鬼気迫る、と言えば聞こえはいいのだろうが……さすがにこれは。

 

「い、一夏、なんか怖い!」

「お、俺もさすがにこれは怖いぞ!?」

 

思わず抱き合う二人。

無理も無い。

それほど怖いのだ。

多分、千冬が見たとしても一瞬動きを止めてしまうであろうほどの形相である。

そんな二人の存在に鈴音達を見ていた箒も気づき、近づいてくる。

 

「あぁ、一夏達か」

「お、おう。所で箒さんや、これはいったい……?」

「あぁ、最初は普通に模擬戦だったんだが、二人とも熱が入っていったのか、ごらんの有様だ。正直、私もどうすればいいかわからん」

 

箒と言葉を交わしつつ、ちらりと鈴音とラウラの戦いを見やる。

相変わらず激しくぶつかり合っている。

 

「だが、さすがに長時間使いすぎているし、何よりアレでは空きスペースも安全じゃない。いい加減とめたいのだが、あの間に入る勇気は私には無いのでな」

「……とりあえず、千冬姉よんでくるか」

 

結局、二人の戦いの決着は一夏からの通報により乱入した織斑千冬による両者K.Oによる引き分けと言う結果に終わった。

 

 

※ ※ ※

 

 

アリーナでの一件から数十分後、一夏達は職員室の前にいた。

一夏達が職員室の扉を見つめていると、扉が開き、中から疲れきった鈴音と傍から見れば平然としているラウラが出てきた。

 

「あ゛~~~~~、づがれ゛だ~~~~~~。模擬戦の後にお説教はきついわ~~~~」

「あれがブリュンヒルデ……気迫が段違いだ」

 

鈴音は模擬戦の疲れと説教による精神的疲労により既にふらついており、ラウラはこれまた若干ずれた感想を呟いていた。

 

「まったく、熱くなるのは構いませんが、他の方への迷惑なども考えてくださいな、お二人とも」

 

職員室から出てきた二人にセシリアがため息をつきつつそう言い放つ。

なぜ彼女がいるかと言えば、まぁラウラの主だから。

従者の責任は主の責任という事でもあるのだ。

 

「申しわけありません、お嬢様」

「今回はまったくもってその通りだわ」

 

セシリアの言葉に、ラウラが頭を下げ、鈴音はまるで借りてきた猫のように縮こまっている。

二人の様子に再び嘆息しつつ、しかし表情を改めセシリアはラウラに問いかけた。

 

「……で、どうですか、調子は? 出来る限りの事はしたつもりですが」

「ええ、少なくとも目立った問題は今のところ。しかし、『アレ』はまだ使ってないのでどうなのかはまだ……」

「まぁ、『アレ』はシュヴァルツェア・シルトの切り札ですし、そうそひけらかす必要も無いでしょうね。とはいえ、何とかしてデータは欲しいところですわね……」

「なぁ、さっきから言ってる『アレ』って何だよ?」

 

セシリアとラウラの会話にに何度かでてきている『アレ』と呼ばれる物が気になり、一夏がそれについて質問をする。

 

……え、何? 今それについて聞いちゃうの? みたいな表情をしたセシリアとラウラに見つめられて、思わず萎縮した。

 

「一夏さん……切り札だといったではありませんか。切り札をそう簡単にひけらかす方がいると思います?」

「今それを聞くというのはさすがに……これが俗に言うKYと言う奴でしょうか、お嬢様」

「ヘタレでKY、いったいどこに救いがあるのでしょうか……」

「なんか軽い気持ちで聞いただけでえらいく重い反撃を食らったんだが!?」

 

一夏は泣いた。

男泣きだった。

涙が滝になりそうなほどの男泣きだった。

そしてそれは、頭に『情けない』が付く物だった。

 

一夏が思わぬ重い一撃に涙を流しつつくずおれていると、職員室の扉が開き、千冬が廊下へと出てきた。

その手には数枚のプリントが。

 

「む、まだ職員室前にいたのか。だが、好都合だな。さっきの騒動でお前達にこのプリントを渡し忘れていた」

 

そう言ってその場に居た全員に千冬が渡したのは『学年別タッグトーナメントの実施について』という表題が記されているプリント。

 

「……タッグトーナメント?」

「ああ、一週間後に行われるトーナメント戦についてだ。プリントの下に誰とタッグを組むか記入し、提出してくれ」

 

そういえばHRでちらりとトーナメントが行われると聞いたような聞いていないような。

 

「けどタッグ、ねぇ」

「ああ、個人トーナメントにしてしまうと結局専用機持ちが有利だからな。それに、一年にとってはチームワークの重要さを教えるという効果もある」

「でも千冬ね……織斑先生、それだったら結局専用機持ちが組めば意味ないんじゃ……?」

「と思うだろう? ところがそうでもないぞ? 何せ、タッグ戦で最も重要なのは、個々の技術はもちろんだが、それ以上にいかにパートナーと息を合わせ、戦えるかだ。学園から貸与されたISを用いて専用機持ちのチームを倒す……難しいが、決して非現実的と言うわけではない」

「へぇ……」

 

千冬の言葉に全員が納得したように頷く。

確かに、個々が強かろうが、互いが足を引っ張ってしまえばその力もまともに発揮できないだろう。

 

「覚えておけ、チーム戦で最も恐ろしいのは獅子身中の虫(足手まといの仲間)だという事をな」

 

いくら真実だからといい、まぁなんとも身も蓋もない言い方だった。

 

プリントを受け取り、その場を立ち去った一夏達を見やり、そして千冬はいまだその場に居るセシリアに視線を向けた。

 

「オルコット、お前はパートナーを決めないのか?」

「先生、私のパートナーは既にきまっていますわ。恐らく、向こうも私と組むと決めているはずです」

「あぁ……ブランケットか」

 

セシリアの言葉に、千冬は脳裏に一人の少女を思い浮かべる。

そんな千冬をセシリアはしばらく見つめ、そして口を再び開く。

 

「しかし、ピリピリしていますわね、学園も」

「……何の事だ?」

「何かあったとしても、今回のような形式をとれば現場では四人で対応できますもの。少なくとも一人二人よりは安全でしょう」

「……ふん」

 

その言葉に、千冬は顔を顰める。

 

--やはり、この少女は気づいていたか。

 

今回のトーナメント、本来なら個人トーナメントとなる予定だったものを、急遽タッグトーナメントに変更したのだ。

理由は、先ほど千冬が話したものももちろんだが、どちらかと言えば緊急事態が発生した際の対策のためだ。

過去二回、連続、何らかの行事中にトラブルが発生している。

うち一回は生徒……と言うか一夏だが、が重傷を負うという結果が残っている。

 

『二度あることは三度ある』

 

もしものために念を入れることは、果たして間違いであろうか?

 

「教師として、生徒の安全確保には努めねばならんからな」

「でも、一番安全で居て欲しいのは、一夏さん、でしょう?」

「……私は教師だ、と以前も言ったはずだが?」

「まぁ、それはそうですが」

 

そこで話を切り上げると、セシリアは立ち去る。

が、途中で振り向き、一言。

 

「ですが、教師としての業務が終わったなら、たまには私人になるのも悪くは無いのでは?」

 

そういい残すと、今度こそセシリアは立ち去っていった。

その背中を見つつ、千冬はため息をつく。

 

「簡単に言ってくれる」

 

--やはりあの少女は苦手だ。

 

が、それと同時に思う。

 

--たまには姉に戻るのも、悪くは無いのかもな、と。

 

 

※ ※ ※

 

 

「しかし、タッグかぁ」

 

一夏が先ほど渡されたプリントをひらひらと揺らしながら呟く。

 

「やっぱり誰と組むか悩んでる感じ?」

「ん~、そりゃ、まぁな。下手に組んで息が合わなかったら最悪だしな」

 

隣を歩いているシャルロットの言葉にそう返すと、一夏は再びプリントとにらめっこをし始める。

が、歩きながら見ているので時折床に躓きそうになったり壁にぶつかりそうになったりしている。

 

そんな一夏を横目に見て、シャルロットは深呼吸を数回すると、右見て、左見て、後見て、前を見て、そして一夏にこう言い放った。

 

「あのさ、悩んでるんだったら、その、僕と組むっていうのは……どう?」

「……シャルルと?」

「う、うん……」

 

その言葉に、一夏がシャルルを見ると……やけに期待のまなざしを向けてきていた。

断ればその期待から来る瞳の輝きが涙から来る瞳の輝きになりそうな感じ。

 

「む、むぅ……」

 

が、ここで安易に判断してはならない。

行事だとは言え、トーナメント。

どうせなら上を目指したい。

そこで考える。

シャルロットと自分が組んだ場合、どこまで行けるかを。

自分の戦闘スタイルと実力、そして以前の模擬戦の時のシャルロットの戦闘スタイルと実力を鑑みて……

 

……下手したら優勝狙えるのでは?

 

それに、現在シャルロットと一夏は同室。

という事はタッグトーナメント時の作戦などについて話し合える時間が容易に作れるというわけだ。

作戦を練れるという要素は非常に大きい。

考えれば考えるほど、断る理由は無かった。

 

「……そうだな、つか断る理由が無い」

「! うん! だったら組もう組もう! そして狙うなら優勝だよ!!」

「おう、目指すなら上を目指そうぜ!」

 

こうしてタッグを組むことに決めた二人は、帰り道の途中でもトーナメント時にどう戦うか、トーナメントまでどのような訓練をするかについて話し合っていた。

 

なお、予想されていたことだが、男子である一夏と表向き男子であるシャルロットのパートナーの座を狙って突撃してきた生徒が何人かいたが、その全員がしょんぼり肩を落としながら撤退していったという出来事がこの後起こるのだが、まぁ話の本筋にそれほど関わりはないため割愛させていただく。




就職してから明らかに執筆速度が落ちましたが、なんとか合間合間で話を考えて投稿できました。

シュヴァルツェア・シルトさんは力を貯めている。
まだその力を解放する時ではないんだ。
いつ解放するかはお楽しみに。

ちなみに、この話のサブタイトルはドイツ語だったり。

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