インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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支えあわなきゃ、生きていけないでしょ?
ちょっとしたことでもさ


活動報告にもあったとおり、就職したためPCに触る機会があまり無く、今まで以上に執筆速度が落ちてます。
これからも更新にかなり間が空くと思いますが、そのあたりはご了承ください。


23 Friend

今、IS学園一年二組に所属している凰鈴音は悩んでいた。

 

何に悩んでいるのか?

 

日ごろの生活について?

学業について?

それともISについて?

 

確かに、この三つの項目に悩んでもいる。

と言うか三つ目はともかく、一つ目と二つ目について悩みが無い学生など果たしているのだろうか?

 

ともかく、彼女が悩んでいるのはこれらの事だけではない。

 

(……『あれ』は、何だったの?)

 

彼女が胸中で言う『あれ』とは、以前のクラス対抗戦に乱入してきた、あの謎の侵入者……彼女は名前を知らないが、ガタノトーアの事である。

一応、学園から生徒に伝えられた情報では、あれはどこかの組織が作り出したであろう無人ISだとのことだ。

なお、この情報を学園外に漏らすことは禁止されており、破った場合は罰則が科せられるらしい。

本来はそれの存在自体を無かったことに出来れば最善だったのだが、クラス対抗戦を観戦していた多くの生徒がガタノトーアの存在を認識してしまっている。

幸か不幸か、ガタノトーアの瘴気を間近で中てられたのは鈴音しか居なかったため、ガタノトーアの本当の危険性までは知られていないが、ともかく存在そのものを隠すことは既に不可能であろう。

ならば、ある程度までは情報を公開し、その情報を学園外に拡散させない策を講じると言う手法が現状最も妥当な選択だ。

 

と、まぁそれはともかく、学園に所属している多くの生徒が、その学園から公開された情報を信じている。

信じざるを得ないのだ。

なにせ、その多くの生徒はただガタノトーアを遠くから見ただけなのだから、それは違う、と言い切れるほどの情報を持っていない。

しかし、実際に『あれ』と相対した鈴音は学園のその情報を信じていない。

 

--あれは、ISなどでは決して無い。あれはもっと良くない物だ。

 

あの時、あの魂をわし掴みされたような感覚を感じてしまった彼女は、確証は無くともそう考えている。

否、その感覚こそが、アレが異質で、自分と……否、人間と相容れない存在であるという確証か。

 

そして時間がたち、あの時の恐怖が薄れていくにつれ、彼女の胸に去来する思いがあった。

 

--……気に食わない。

 

あんなわけの分からない物が自分を恐怖させることが気に食わない。

あんなものに恐怖してしまった自分が気に食わない。

それが気に食わないなら、自分はどうすればいい?

 

……あんなものに恐怖しないように、自分が強くなればいい。

 

それは、傍から聞けば単純な考えだと笑われるかもしれない。

だが、世の中単純だから間違い、複雑だから正解などと断じる事は出来ない。

時には単純ゆえに正解であることもあるのだ。

 

そしてこのとき鈴音が出した答えは、完全な正解と言うわけではないが、それでも正解に限りなく近い回答だった。

 

つまり何が言いたいのかと言うと、ああいう冒涜的で背徳的な奴等に負けないためには、才能のほかにもこのような反骨精神とも呼べるものが大事であるという事だ。

いや、あの恐怖を知ってなお、それを振り払おうと反骨精神を奮い立たせれる事自体が才能といえるか。

 

故に、彼女の足は一路アリーナへと向かっている。

強くなるためには修練あるのみ。

 

そう意気込む鈴音がアリーナの入り口を視界におさめたとき、ついでにある人物を見つけた。

 

「……何やってるのよ、箒?」

「うぉ!? ……り、鈴音か」

 

その人物とは篠ノ之箒。

恐らく彼女もアリーナを利用するためにここにいるのだろうが、何故か周囲を異様なほど気にしていた。

鈴音に声をかけられた際も、異様な驚きようである。

しばらくあたふたと慌て、しばらくの後にようやく問いついたのか、咳払いを一つすると、鈴音へ向き直る。

 

「あまり驚かさないで欲しいものだ、うん」

「いや、あんた勝手に驚いただけじゃない」

「う……」

 

が、まだ混乱しているのか、返した言葉もあっさり正論で返された。

その事にたじろぎながらも、箒は口を開く。

 

「そ、それで、何故お前はここに来たんだ?」

(あ、話そらした)

 

露骨な話題そらしだった。

もっとも、ここで箒のおかしさを問い詰めても得は無いと判断した鈴音は箒の言葉に右手をひらひらと揺らしながら答えた。

 

「何ってISの訓練よ。まさかアリーナに来て勉強するわけじゃあるまいし」

「そうか、私も訓練をしようと思ってきたんだ」

「だったら別に周囲を気にしなくてもいいじゃない? さっきまでのあんた、まるっきり不審者よ?」

「それは……その、訓練しようと思ったのだが、その、なんというか」

「???」

 

--なんでこんな歯切れが悪いのだろうか?

 

鈴音が内心首をかしげていると、箒は言葉を続ける。

 

「……いや、な? 以前のクラス対抗戦のとき、私は何も出来なくて、むしろ一夏達に迷惑をかけてしまっただろう? だから、少しでも強くなれば、少なくともできる事が増えるのではないかと思ってやったのだが……」

「……それ駄目なの? 立派な理由じゃない」

「立派……か。以前迷惑をかけた私がそんな事をするなんて、おこがましいのではないかと思ってな」

「……あー、そういう」

 

その言葉を聞いて、鈴音は思う。

 

--この人、かなり面倒くさい性質の人だ。

 

具体的に言うなら、自分一人で悩みに悩んで、その結果出した答えにはまり込んでしまうタイプの人間だ。

たとえ、その結果出した答えが間違っていたとしても、それに気づかず彼女は「こうなのではないか、ああなのではないか」とどんどん深みにはまっていってしまう。

なまじ自分で「こうだ」という答えを出してしまっているから厄介なことこの上ない。

 

鈴音はため息を一つつくと、箒の手を引っつかみ、アリーナへ入る。

 

「な、なにを!?」

「あのさ、私も特訓しに来たんだけど、一人で出来る特訓って限界あるのよねー。かと言って一緒に特訓しようって誘ってる人も居ないできちゃったし、今から戻って探すのも面倒なのよねー。あーあ、誰か手伝ってくれないかしらねー。例えば同じく特訓しようと思ってて、なおかつ一人で居る人とかが手伝ってくれないかしらねー」

 

箒の抵抗の声に、鈴音はわざとらしくそういうと、箒をちらりと見やる。

そんな彼女の様子に箒は唖然とするが、やがて顔に微笑を浮かべると、鈴音の隣に並ぶ。

 

「……そうだな……私も丁度手伝ってくれる人が居ないか探していたところだ……いや、運がいいな、互いに手伝ってくれる相手が『たまたま』見つかるとは」

「ほんと、『たまたま』見つかるなんて運がいいわね、私達」

 

こういう手合いには、そっと背中を押すのではなく、いっそ強引に引っ張っていくぐらいが丁度いいものだ。

 

「……ありがとう、鈴音」

「鈴でいいわよ。親しい人は皆私をそう呼ぶわ」

「……あぁ、分かった、鈴」

 

そのまま、二人はアリーナの中へと入っていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

現在、アリーナには鈴音と箒の二人しか居ない。

もっとも、二人とも放課後になってすぐアリーナに来たためにまだ人が居ないだけで、もうしばらくすれば多くの生徒がやってくることだろう。

 

「で? やっぱり模擬戦形式でいく?」

「ああ、頼む」

 

打鉄を纏った箒が鈴音の言葉にそう返す。

その言葉に、鈴音は双天牙月を取り出し、箒はIS用の近接ブレードを取り出した。

二人はしばらくそれぞれの得物を素振りし、感覚を確かめる。

その間、二人の間に会話は無く、ただただ刃が空を裂く音のみが何度も鳴る。

 

「……なぁ、一つ聞きたいのだが」

「何?」

「……この間言っていた、一夏が、その……ずっと好きだったというその相手の事は……何か知らんか?」

「さぁね? 私はその相手って言うのが誰か分からないわ。むしろ、私より昔に一緒に居た箒の方がそういうの知ってそうだけど?」

 

鈴音の返答に、箒は動きを止める。

彼女は顔を俯かせ、呟いた。

 

「……分からないんだ。確かに私は昔一緒に居た。だが、そんな相手が居たことなど……知らなかった。それらしい相手も思いつかない」

「一夏が嘘を言った……訳でもないと思うしね。あの時の一夏、すごく真剣だったし、すごく申し分けなさそうだった。あれで嘘ついてるとしたら、一夏はたいした役者ね。でも……」

「あぁ、一夏がそこまで器用な真似が出来るとは思えない……一夏だし」

 

しばらく、二人の間を無言の空気が流れる。

それを振り払うように二人はそれぞれの得物を振るうが、それでもその空気は、粘つくように彼女らにまとわり付いていた。

 

「……あぁもう! やめやめ! この話やめ!! 今はそれよりも訓練しましょ! アリーナ借りれる時間は限られてるんだし」

「あ、あぁ、そうだな……それもそうだ。気にはなるが、今優先すべきはこちら、か」

 

鈴音が吠えるようにそう叫ぶと、箒もそれにならい、二人は向かい合った。

そして、二つの刃が互いに向けられる。

 

「ところで、どのくらいで行って欲しい?」

「好きなように」

 

その言葉と同時に、二人は互いに急接近する。

そして、一合。

金属と金属が互いにぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

 

「っ!? へぇ……さすがは剣道全国大会優勝者ってわけ?」

「余裕だな……だが、その余裕もすぐに引き剥がしてやる!」

「そっちこそ舐めないでよね、代表候補って奴を!!」

 

鍔迫り合いの状態で、二人はそれぞれ相手にそう言い放つ。

それと同時に、鈴音が箒の腹部を蹴り飛ばすように後方へ跳び、距離をとった。

それに反応できなかった箒はそのまま後へと蹴飛ばされ、着地と同時に箒へと突撃していた鈴音が、箒の懐へと滑り込む。

 

「そーれっと!!」

「ぐぅ!?」

 

掬い上げるような連結状態の双天牙月の一撃。

箒は体勢を崩したままながらも、それに反応し、ブレードを双天牙月の軌道に割り込ませる。

 

だが、そこまでだった。

 

「あ……っ!?」

 

とっさの行動ゆえに、握りが甘かったのだろう。

双天牙月とぶつかり合ったブレードはそのままマニピュレーターからはじき出され、弧を描きながら宙を舞い、そしてアリーナの地面に突き刺さった。

その様子を唖然と見ていた箒の眼前に、双天牙月の刃が突きつけられる。

 

「はいお終い」

「……あぁ、そのようだ」

 

箒にはもはや手持ちの武器は無く、眼前には刃。

それを払いのける術を持たない時点で、彼女は詰みだった。

 

「もう少し食いつけるかと思ってたんだが……こうもあっさりと……情けないな」

「情けなくないわよ。っていうか、こう見えても私代表候補になるために血を吐くくらいの努力してきたんだし、それがあっさりと超えられたらちょっと困るわ」

 

そう呟くと、鈴音は箒へと手を伸ばす。

その手を掴み、箒は立ち上がった。

 

「……次は、もっと食いついてやろう」

「楽しみにしてるわ、箒」

 

二人は微笑みながらそう言い合い……

 

「ほう、これが俗に言う『美しき友情哉』と言ったところか」

「「!?」」

 

いつの間にか脇にいたラウラに驚愕した。

 

「あ、あんた、ラウラァ?!」

「何故ここに!?」

「おかしなことを。ここは学園の生徒、教師ならば使える。そして私は生徒だ」

 

そういいながら、無い胸をはる。

そんな彼女を見て、二人は思う。

 

--生徒だというのなら、服装規定守って、メイド服ではなく制服を着るべきではないのだろうか?

 

二人の視線もなんのその。

ラウラは言葉を続けた。

 

「そういうわけで、つい先ほど調整が終わった私のISの慣らしをしようと思ったわけだが、見れば先客が居るではないか。と言うわけで、こっそりと見学していた」

「ぜんぜん気づかなかったわよ、居たのに」

「無駄に気配を消して観戦していたからな」

「本当に無駄だな!?」

 

そもそも何故気配を消す必要があるのか?

それを聞こうとした二人だが、口に出す前に考え直す。

 

--なんか、またずれた返答が返ってきそうだなぁ

 

と言うわけで、二人は話題をかえることにした。

 

「ところで、さっきISの調整が終わったから慣らしにきたっていってたけど、あんたのISってどんなISなのよ?」

「それは私も少し気になるな」

「ふむ、私のISか。まぁ見れば分かる」

 

そういうとラウラの体が光に包まれ、その光が消え去った時、彼女は黒い装甲に包まれていた。

 

両肩の傍に非固定浮遊部位を持ち、一般的なISと比べても大きいといえるであろう腕部と脚部の装甲。

 

「へぇ、なんか大きいわね、腕と脚」

「このISの要だからな。これでも出来る限りの小型化は図っているのだが」

 

そういうと、ラウラは空中へ飛び上がり、そのまましばらく飛行を開始する。

時には曲芸飛行のような軌道も描きながら空を飛び、やがて納得したかのように地上へと降りてきた。

 

「空中の挙動は問題ないな。あとは……済まない二人とも、戦闘中の挙動を確かめたいのだが、模擬戦に付き合ってくれないか?」

 

そして一人ぶつぶつと呟いた後、傍にいた鈴音と箒にそう頼んだのだった。

 

「はぁ……」

「私は別にいいわよ。そのISも気になるしね」

 

箒がいきなりの頼みごとに気の抜けた返事をすると、鈴音が一歩前にでる。

先ほど待機状態にした甲龍を再び展開している時点で、やる気の程がうかがえる。

 

「そうか、なら凰、頼んでも?」

「おっけー」

 

ラウラは鈴音にそういうと、鈴音から距離をとる。

 

「箒、下がったほうがいいわよ?」

「あ、あぁ、そうだな。ならば観客席で見学させてもらうとしよう」

 

鈴音の言葉に、箒はそういうと、観客席へと向かう。

それを見届けた二人は、互いを睨み付け合う。

 

「武装、出さなくていいの?」

「いや、既にあるからな。わざわざ出す必要が無い」

 

鈴音がラウラのISをざっと見渡す。

 

……どこに武装があるというのだろうか。

 

「……ま、あろうが無かろうがどうでもいい、か。行くわよ! ラウラ!」

「あぁ、行かせてもらおう……行くぞ、『シュヴァルツェア・シルト』!」

 

ラウラがその言葉と同時に拳を構えると、それを合図にしたかのように二人は互いへと飛翔し、ぶつかり合った。




シュヴァルツェア・レーゲン「俺が居ない……だと!?」

と言うわけで、この話ではレーゲンさんはお亡くなりになりました。
合掌。

と言うわけでこの話でのラウラの専用機はシュヴァルツェア・シルト。
黒い盾の名の通り、『セシリアを守る盾とならん』と言うラウラの思いが込められた名前です。

シュヴァルツェア・シルトの詳細についてはまた後ほどという事で。

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