インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

20 / 59
危険物

取扱には要注意。
精神崩壊しても知りませんよ?




20 Dangerous Objects

一夏のルームメイトが簪からシャルルに代わった翌日の放課後。

 

一夏達の姿はアリーナにあった。

現在、アリーナのバトルフィールドにはアイオーンを展開した一夏と自身の専用機、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを展開したシャルルがおり、観客席では箒、セシリア、鈴音、ラウラが二人を見ていた。

 

「一度戦ってみたかったんだ。世界で一人目の男性IS操縦者と」

「こっちも男と戦うのは新鮮だな」

 

現在、二人はシャルルの提案で模擬戦を行おうとしているところだった。

もちろん一夏は彼の提案を快諾。

模擬戦開始の合図を今か今かと待ちわびている。

 

「それじゃ……準備はいい?」

「応よ! いつでも来な!!」

 

二人は言葉を交わすと同時に、自身の手に各々の得物を呼び出す。

一夏は二挺拳銃を、シャルルはアサルトライフルを。

 

呼び出した武装を握ると同時に、二人は弾かれたようにその場から移動。

まるで戦闘機のドッグファイトの様相で二人は回りながらも相手に自身の銃弾を叩き込もうとする。

しかし二挺拳銃とアサルトライフルでは作り出せる弾幕の密度に明らかに差がある。

そしてそれだけではなく、シャルルは高速で動き回る一夏を自身も高速で動きながらもしっかりと銃弾で捉える続ける腕がある。

自身の銃弾は相手に当たらず、相手の銃弾がジリジリと自身のエネルギーを削っていることに、一夏は装甲の中で汗をかく。

 

「おいおい……銃の腕は向こうが上手ですってか!?」

 

自身とて他人に威張れるほどではないが、それでもそこそこの腕と自負していただけに、この様な展開に焦りを感じずにはいられない。

 

「だったら、懐に飛び込む!」

 

ならばと二挺拳銃をしまい、バルザイの偃月刀を呼び出す。

現れたそれをしっかりと握り、一夏はシャルルへ向かって加速していく。

 

「っ!? 速い!!」

 

全ての銃弾を回避しようなどとは考えない。

最低限の銃弾を偃月刀を盾として使いながらまっすぐにシャルルの下へと向かっていく。

回避を一切捨てたその加速は、まさに空を切り裂き進む一筋の光の矢。

そして、一夏はシャルルの懐に潜り込むことに成功した。

相手は未だにアサルトライフルを握っており、この距離では銃口を向けるという事は不可能だろう。

そして、勢いのままに偃月刀が振るわれた。

 

飛び散る火花。

響き渡ったのは、鋼と鋼がこすれあった際に発生した悲鳴のような音。

 

「……嘘だろ?」

「ふぅ、今のはちょっと驚いたかな? まさか回避を捨てて突貫してくるなんて……」

 

振るわれた偃月刀は、シャルルがいつの間にか取り出したショートブレード、ブレッド・スライサーにより防がれていた。

先ほど鳴り響いた音は、偃月刀とブレッド・スライサーがぶつかり、こすれあった音である。

 

「ちぃ!!」

 

一夏は舌打ち一つをし、しかし離れることはせずそのままシャルルに向かって何度も偃月刀を振るう。

遠距離戦では明らかに自分が不利。

 

--ならばこのまま近距離戦で押し切る!!

 

ブレッド・スライサーの方が偃月刀より振りは早いだろうが、与えれるダメージならば偃月刀が上。

ならばダメージ覚悟で偃月刀を振られたら相手はそれを防ぐためにブレッド・スライサーを扱わざるを得ない。

そして、一撃一撃が重い攻撃を果たして何回シャルルは受けれるのだろうか。

 

打ち合いを始めた頃はなんとか一夏の斬撃に対応していたシャルルだが、次第に刃を振るう速度が落ちていく。

そして……

 

「だりゃあ!!」

「あ……っ!?」

 

ついに、偃月刀とぶつかり合ったブレッド・スライサーがシャルルの手から離れ遥か彼方に飛んでいく。

ならば後は押し切るのみ。

一夏がそう思った矢先だった。

 

「油断大敵」

「……は?」

 

自身に突きつけられる二つの銃口。

それはシャルルの両手にそれぞれ一丁ずつ保持されている銃の物なのだが……問題はその銃口自体で。

その二つの銃口は、いくらIS用の銃火器の物だとしても……大きすぎた。

少なくとも、普通の銃弾が吐き出されるようなサイズではない。

 

一夏も思わず冷や汗が流れる。

 

「シャルルさんや……それは?」

「え? フリューっていう名前の銃火器だよ?」

「そ、それにしては、ちょっと銃口大きすぎやしません?」

「そりゃそうだよ、だってこれ……『限界まで銃身切り詰めて片手で運用できる散弾銃』だから」

 

シャルルのその言葉と同時に、それぞれの銃口から鉛球が吐き出され広がり、一夏に叩きつけられる。

その衝撃は大きく、一夏も僅かながら後ろに吹き飛ばされるほどだった。

「のわぁぁぁぁぁぁぁ!? んなもん容赦なく撃つか普通!?」

「容赦なくあんな大きな剣を振ってたのはどこの誰だったかな?」

「怒ってる!? もしかしなくても怒ってる!?」

「怒ってないよー? ただ装甲のせいで表情が見えない人に無言で一心不乱に剣を振り回されたのが怖くて、それが嫌だった訳じゃないよー?」

「怒ってるじゃねぇか!! あぁ!? それ撃たないで! 笑顔で撃つのやめて怖いから! すっごい怖いの!! だからやめてぇぇぇぇぇぇ!!」

 

恐怖を感じさせる笑顔を浮かべつつ散弾銃を撃ちまくるシャルルに、一夏も思わず逃げ出した。

そしてそんな一夏を散弾銃を撃ちつつ追いかけるシャルル。

 

はっきりいってシュールだった。

恐らく、今誰かがアリーナに来てこの様をみたとして、それをコントだと評価したとしても、きっと誰も文句は言えないだろう。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……なにをやっているのかしら、あの二人は……」

 

セシリアは急に始まったコントに思わず頭を抱える。

あれ、おかしいな? 自分は模擬戦を見に来たはずなのに、どうして今このようなコントを見ているのだろうか?

もしかし、来る場所間違えた?

 

思わず現実逃避するセシリア。

だが、彼女は悪くない。

なぜなら、彼らの模擬戦を見ていた箒と鈴音も、大なり小なり同じことを思ってるから。

 

 

「ふむ、あれはソードオフショットガンか……にしてもあそこまで切り詰めるとは。すぐにバラけるから射程はそれほど長く無く、銃身も小さいから装弾数も少ないが……銃身の短さ故に近接戦闘では有効な兵器だな……うちでも作れないだろうか?」

 

まともに見てるのはラウラぐらいなものである。

 

「……まぁ、あの二人はもうそういうものだとほっときましょう、ええ」

 

そう、こんな下らないことを考えるよりもっと建設的な、自分のいためになるようなことを考えよう。

そう、例えば自分が彼と戦うならどうするかとか。

あのすばやい武装の切替はなんなのかとか。

 

もっとも、武装の切替についてはおおよそ見当は付いている。

あれは恐らく……

 

「そういえば、シャルルだっけ? なんかやけに武器の出し入れ早くない?」

「凰もそう思うか。私もそれは気になっていた」

「あれは恐らく高速切替(ラピッド・スイッチ)ですわね。刻一刻と変わる戦況を分析し、即座にその状況に適した武装を呼び出す。そして武装を呼び出す速度もコンマ一秒かかるかどうか……言えば簡単そうですが、戦闘に戦況分析に武装の呼び出しに、と思考をとにかく分割させますのでなれない人では知恵熱を起こすのでは?」

「へぇ」

 

セシリアの言葉に、鈴音が声を出して頷き、箒は声を出さずとも頷いている。

……本当に分かっているのだろうか?

セシリアは思わず不安になる。

 

戦況分析と呼び出しを『ほぼ同時』に完了させるなどと言うことのすごさをいったい彼女らは把握しているのだろうか。

 

思わずため息が出るセシリアだった。

 

「……お嬢様、織斑様が落ちました」

 

ラウラの言葉に顔を上げると、そこには地面にまっさかさまに落下していく一夏の姿が。

この模擬戦は、どうやら一夏の負けのようだ。

 

セシリアは再びため息をついた。

それも超特大の。

 

 

※ ※ ※

 

 

「一夏、そろそろシャワー浴びたいんだけど、先に一夏が浴びる?」

「ん? いや、俺はデータ纏めるのにまだかかるし、先に浴びてていいぜ?」

 

太陽も沈み、闇が広がる夜。

放課後の模擬戦、後の反省会(と言う名のシャルルの愚痴吐き式)を終えた一夏達は各々の部屋へと帰っていた。

そして現在一夏が行っているのはアイオーンの戦闘データをまとめ、倉持技研へと送るという作業だ。

これは専用機を持つ者は必ずと言っていいほど行っていることであり、一夏は端末のキーボードをよどみなく扱いデータを纏め上げていく。

そんな中、シャルルの言葉に顔をあげ、ついで時計を見る。

時計は既に八時を指しており、ずいぶん長い間纏め作業に没頭していたのだと気づかせる。

 

「そう? だったらお言葉に甘えちゃおっかな」

 

一夏の言葉を聞いたシャルルはそういうとシャワーの準備をし始める。

それを横目で見ながらも一夏はデータ作成を続けていく。

そしてシャルルがシャワールームに消え、シャワーが流れる音が響きだしてしばらくの後、ふと気づく。

 

「……そういやボディソープ切れてたな」

 

さすがにシャワー浴びて体を洗わないというのは気持ちがいい物ではないだろう。

自分が九郎だったころ、水道を止められシャワーを浴びれなかった時の不快感を思い出し、一夏はデータ作成の手を一旦止めてボディソープの詰め替えを取り出す。

そしてその口をはさみで切ってから脱衣室へと向かう。

 

「おーいシャルルさんや」

「っ!? い、一夏!? ななななな、何?」

 

……なんでそんなに慌ててるんだ?

 

一夏はそう思いながらも言葉を続ける。

 

「何って、たぶんボディソープ切れてるだろうから詰め替え持ってきておいたんだよ。口は切ってあるからあと詰め替えるのはよろしくな」

 

そういうと、洗面台に詰め替えを置き、脱衣室から出た。

こことは別の世界の一夏とは違い、彼はシャワールームにまで突撃をかけたりはしない。

だっていくら同性とは言えそこらへんの配慮はするべきだと思ってるから。

特に、今日の授業の着替えの際、着替えを見られることを恥ずかしがったシャルル相手では、より一層の配慮をすべきだろう。

 

伝えたいことを伝えた一夏はさっさと脱衣室から出て、データ作成に戻る。

そして数分後……

 

「……これでよしっと……だぁぁぁ! ようやっと終わったぁぁぁ!」

 

端末とにらめっこを続けていた一夏は最後の一文を打ち込み終えるとそう背筋を伸ばしつつそう言った。

 

「……っと、ここで止まったらまずいな。さっさと倉持に送っとかないとな」

 

しかし、すぐさま端末に向き直ると、再び端末を操作。

先ほど完成したデータを倉持にメール添付で送り、ようやく端末の電源を落とした。

 

「っだ~……目が疲れた、眠い。超眠い」

 

疲れ一夏に、ベッドが無言の誘惑。

まだシャワーを浴びていないと何とかその誘惑を振り切ろうとするが、しかし意思とは裏腹に体はベッドへと向かっていく。

そして……

 

「…………」

 

ベッドに倒れこむと、そのまま寝息を立て始めてしまった。

テーブルの上に端末を置きっぱなしにし、そのそばにある物を置きっぱなしにしながら。

 

そして一夏が夢の中へと旅立った数分後。

 

「はぁ~、コルセット部屋に忘れるなんて、ドジだなぁ、僕」

 

シャワーを浴び終えたシャルルが部屋へと戻ってくる。

濡れた髪をタオルで拭きながら戻ってきた彼は、ベッドの上で自分の方に顔を向けながら寝ている一夏を見て思わずぎょっとする。

 

「い、一夏!? ……って、寝てるのか……はぁ、良かったぁ……」

 

そう言って胸をなでおろすシャルル。

その胸は、男ではありえないほどのふくらみを持っていた。

 

「……やっぱり、やだなぁ、みんなを騙すのって」

 

彼は、実は『彼』では無く『彼女』だったのだ。

いったいどのような事情があり彼……否、彼女が自身の性別を偽ってここにいるのかは定かではない。

だが、彼女の様子を見るに、好き好んで性別を偽っていたというわけではないだろう。

 

シャルルはぶつぶつと寝ている一夏を起こさないように呟くと、自身のベッドの上に忘れていた、胸を押さえつけるためのコルセットを手に取り、それをつけようとして……

 

「……いいよね、一夏、寝てるもん」

 

それをつけずに、上着を着る。

そしてそのままベッドに横たわり、部屋の天井を見上げる。

 

「……どうして、こんなことになっちゃったのかな? 僕はただ、母さんと普通に、ほんとに普通に暮らせればそれでよかったのに……」

 

だというのに、自分の母は病に倒れ、帰らぬ人となり、そのせいで今まで顔を見たことも無い『父親』に利用されるようになって……

彼女がIS学園に入学したのは、その父親に言われての事だ。

もちろん、ただ入学して来いといわれてきたわけではない。

 

「……ほんと、やだなぁ……こういうのって」

 

誰に聞かせるでもなく、彼女は苦々しげに呟く。

今のような境遇になって、何度も何度も、毎日の如く呟いていることだ。

だが、呟いたところで現状が変わるわけでもない。

結局は、今ある自分の居場所を保つために、自分はあの忌々しい父親のいう事を聞かなければならないのだ。

 

「一夏は寝てるよね? ……ごめんね、一夏」

 

彼女が父親から言われていたこと、それは織斑一夏のISのデータを入手してくる事。

 

織斑一夏のISは、現状では第三世代に分類されると世界では認識されている、

シャルルの父親がほしいのは、その第三世代ISの情報。

ましてや世界で一人しかいない男性操縦者のISだ。

その情報の価値は、まさに計り知れないほどの物となるのだ。

 

シャルルは部屋のテーブルに置かれている一夏の端末を見やる。

そしてそれに近づき……ふと足を止めた。

 

「……なに、この感じ……」

 

それは、背骨に直接氷を当てられたかのような寒気。

そして何者かに見られているかのような感覚。

その感覚に大量の冷や汗をかきながら、周囲を見渡す。

しかし、当然周囲に誰かがいるはずも無い。

次第に、それは明確な視線として、もはや突き刺すほどに感じられるようになっていった。

 

視線が送られてくる場所をみると、そこにあったのは一冊の大きな書。

一夏が端末ともども片付け忘れた物だ。

 

「……一夏がいつも持ってた本……?」

 

片付け忘れていた物、それは彼の持っているネクロノミコン写本だ。

 

シャルルはその本を見たことがある。

先日、簪と部屋を交換した後に、その書を見ている場面を見ていたからだ。

まるで懐かしいものを見ているかのように、まるで最愛の伴侶を見るような目で、彼はその書の頁をめくって見ていた。

その際に、自分も内容を見てみたいといったのだが……

 

「やめときな、下手したら食われちまうぜ?」

 

などといわれてついぞ中身を見る事はできなかった。

 

そんな書から、今彼女に向けてありえざる視線が向けられている。

 

その視線を受け続けているうちに、足元がふらつく。

自身が立っているのか、座っているのか、歩いているのか、走っているのか、飛んでいるのか、それとも倒れこんでいるのか、それさえもあやふやになっていく。

そもそも、自分が今、どこに居るのかさえも次第にあやふやになっていき……

 

「……接続(アクセス)。織斑一夏、そして大十字九郎の名をその魂に刻め。我は汝の主なり、我は汝の伴侶なり、我は汝の王なり、我が命において、その全ての威、我が命無くして振るう事無かれ」

 

凛と響く声にあらゆる感覚が現実へと回帰する。

声がした方向をむくと、そこには眠たげに上体を起こしている一夏の姿。

 

「……いやさ、片付け忘れた俺にも非はあるんだがよ、『そいつ』は少なくとも、俺に害がある、ないし俺に不利になることしようとしないとそこまで過敏に反応しないはずなんだが、いったいお前さんは何をしようとしたんだ? シャルルさんよ?」

 

一夏の瞳は、眠たげに細められているが、まっすぐシャルルを見つめていた。




一家に一冊、魔導書セキュリティ。
方法は簡単、守りたい物のそばに魔導書をぽんとおくだけ。
あなたの大事な資産を守ります。

……正直、この話は最後の魔導書によるセキュリティの部分が書きたかっただけだったり。

ちなみに、ここで一夏が気づくのが遅かったらシャルさん発狂END一直線でした。
ごめんねシャルちゃん!

それと最後に。
クラッチペダルはシャルちゃんが嫌いと言うわけではない!
ただセカン党なだけさ!
だが、この話のヒロインは古本娘だ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。