インフィニット・ストラトス -我ハ魔ヲ断ツ剣也-   作:クラッチペダル

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天才? それともただの狂人?

どっちにしろ、厄介なことには変わりは無いね。


19 Genius or Lunatic ?

二組との合同授業も終わり、その後の授業もこなし、恐らく学校中の生徒が待ちわびる昼休みになった。

そんな中、一夏の姿は屋上にあった。

そしてそんな彼の周りには箒、セシリア、鈴音といったいつもの面々+シャルルとラウラと言う面子構成。

ちなみに、ここまで時間を置いてもまだ鈴音と箒は一夏と顔をあわせようとしなかった。

 

そんな二人の様子を見て、セシリアはため息をつきつつ一言。

 

「重症ですわね」

「? どこに病人が?」

「……ラウラ、貴女はすこし純粋すぎやしません?」

 

セシリアの一言にラウラが周囲を見渡す。

そんな様子を見て、もう少しこの子、言葉の裏に隠された意味とかを読み取って欲しいな~などと思うセシリアだった。

が、それを口には出さない。

だって可愛いから。

そして出来ることならラウラにはこのまま純粋に育ってほしいなぁと思うから。

 

そう、世界に名だたる大財閥のトップだといっても女の子(魂の年齢は考慮しない)。

可愛いが正義なのだ。

その可愛さは、もはや一歩間違えば無知とも捉えられそうなラインぎりぎりにある純粋さにより加速する。

 

--くぅっ、この場に人の目が無ければ今すぐラウラを愛でたいのに!

 

……前世含めて何十年にものぼる大財閥トップに君臨すると言う重圧は、どうやら彼女の何かをゆがめてしまったようだ。

具体的にはキャラとかそんな感じの何かを。

 

一夏達なにやら重苦しいやらなんだかよく分からない空気をかもし出すグループと、セシリアとラウラのなにやらほんわかとした空気に挟まれたシャルルは一夏達をみて、セシリア達をみて、そして盛大に汗をかきながら口を開く。

 

「……ほ、ほら皆! 早くご飯食べようよ! お昼休み、終わっちゃうよ?」

「っと、それもそうだな」

 

シャルルの言葉に、救いを見た! といわんばかりの表情で一夏が乗っかる。

どうやらあの箒や鈴音との間に出来た微妙な空気に耐え切れなかったようだ。

その言葉を皮切りに、各々がそれぞれ昼食を取り出す。

 

一夏が少し大きめで二段重ねの弁当箱を取り出し、シャルルは小さめの一段の弁当箱。

ラウラがどこぞから取り出した大きな重箱。

そのサイズはいったいどこから出したのかと問いただしたくなるほどだ。

ちなみに大きいは大きいのだが、どうやらセシリアと二人で食べる故にそのサイズなようだ。

そして箒と鈴音は……シャルルのように一段の弁当箱と、何故か小さいタッパー。

タッパーの存在に目ざとく気が付いた一夏が、箒と鈴音と会話するいいきっかけになるのでは? とばかりにタッパーを話題に上げた。

 

「ん? なぁ箒、鈴、そのタッパーはなんだ?」

「「っ!?」」

 

一夏の言葉に箒と鈴音はまるでギャグ漫画の驚いた猫のように毛髪を逆立てる。

そしてしばらくあ~だのう~だの唸った後、二人はそのタッパーをおずおずと一夏へと差し出してきた。

 

「……はい?」

「いや、その……一夏は私のせいであのような大怪我をした訳だ、それで、その……詫びと言うわけではないのだが……あぁもう! とにかく受け取れ!」

「え、あ、はい」

「わ、私は、その、助けてもらったしお礼と、その……『アレ』の口止めよ!」

「さいでっか」

 

二人の言葉を聞いて、とりあえず二人からタッパーを受け取る一夏。

そして自身の手におさまったタッパーを見下ろして一言。

 

「……まじで俺が食っていいの?」

「そのために作ったといっているだろう!」

「いいから食いなさいよ!!」

 

二人に気おされるようにタッパーを開くと、箒から渡されたタッパーには出汁巻き卵やフキの煮物と言った和食系の食べ物が詰め込まれており、鈴音から渡されたものには酢豚が詰められていた。

どちらも非常においしそうなできばえである。

 

「おぉ、どっちも旨そうだな。んじゃ、最初に味が濃い酢豚食っちまうと和食系は味がわかんなくなるから、先に箒のから食う……でいいよな?」

「別にいいわよ、それで」

 

早速出汁巻き卵をぱくり。

口に含み、しばらく咀嚼する。

なお、箒はその様子を固唾を呑んで見守っている。

 

「……うん、やっぱり旨い。俺的には出汁は強めの方が好きだしな」

「そ、そうか」

 

一夏の言葉に、誰もがわかるほどの安堵を見せる箒。

実際世辞でなく、箒の出汁巻き卵は美味といえるものであった。

ふんわりとした卵の中に混ぜられた刻みねぎが食感のアクセントとなり、それらを出汁がまとめ上げている。

ならば他の物もさぞおいしいのだろうと思い箸を進め……その期待は裏切られることは無かった。

一夏は自身の弁当箱の下段に詰められている白米と交互に食べ進めながら箒の料理を完食した。

 

「ふぃ~、旨かったよ箒。サンキューな?」

「いや、あれは詫びだからな、感謝などしなくとも……」

 

そうは言いつつ、一夏の言葉に喜んでいると言う事はのはその場にいる誰もが分かる事だった。

 

「んじゃ、次は鈴の酢豚をいただきますっと」

 

飲み物として水筒に入れて持ってきていた緑茶を一口飲むと、今度は鈴音から渡された酢豚に箸をつける。

こちらもこちらで、鈴音が酢豚を食べる一夏の様子を固唾を呑んで見守っている。

 

鈴音の酢豚も世辞抜きでおいしいものだった。

酸味は強すぎず、むしろ若干弱めで甘さが多少強調されているという一夏好みの味であり、思わず白米を進ませる。

そしてこれは箒の料理にもいえるが、作られてから時間が経って冷めていながらも、それが決しておいしさをマイナスする要素にはなっていない。

 

こちらも、あっという間に完食してしまった。

 

「鈴の酢豚も旨かったよ。箒のも当然だが、思わず白米が進んじまった」

「ま、まぁ、喜んでもらえたなら何よりなんだけどね……」

「……ところで、一夏は自分のお弁当のおかずは食べないの?」

 

ふとシャルルが一夏の弁当にもおかずがあるということに気が付く。

まぁ、二段弁当箱なのだからそれは当たり前なのだが、ごくごく自然に、いきなり渡されたにもかかわらずあらかじめ渡されると教えられていたかのように自然に二人からの料理を受け取っていたので気が付かなかったのだ。

 

まさかいくら少ないとはいえ二人からの料理をもらっておいてまだ食べるなんて……などとシャルルは思っていたのだが。

 

「ん? 食うに決まってるだろ? 作った飯を残すのはもったいないからな」

 

……さて、ここでかつての一夏、いや、九郎の食生活を思い出してみよう。

三流探偵として生活していた九郎は、基本まともな食事を出来ていた期間は短い。

たまに探偵事務所近くにある教会のシスターに飯をたかりに行ったり、覇道財閥お抱えの探偵となってからは定期収入により多少食生活は改善したりなどと言う事はあったが、そうなる前の彼の食事は基本貧相な物。へたをすれば水と塩だけだったりなどと言うこともある。

故に、彼の食に対する思いはただ一つ。

 

--食えるものを食わないなどもったいない!!

 

そんな考えゆえに、どうせ食べるなら旨い物がいいという考えはあるのだが、だからと言って食を選り好みはしない。

旨ければもちろん喜んで食う。まずくても食う。

そして食えるときにはとにかく食う。絶対に残すなどと言う事はしてやらない。

……まぁ、単純に育ち盛りの今の彼の体は、あの程度の量では満足しないと言うのもあるのだが。

 

一夏の言葉に思わず唖然とするシャルルをよそに、一夏は自身の弁当箱に詰めたおかずをパクつく。

その表情に無理をしているという風は無い。

 

「……男の子って、すごいや。僕もあれくらい食べたほうがいいのかなぁ……うん、無理だ」

 

自身が作ったおかずで半分残していた白米をかきこんでいる一夏をみて、シャルルは誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 

 

※ ※ ※

 

 

「……ただいまぁ」

「お? お帰り簪。最近帰ってくるの遅いな」

「うん、弐式が完成のめどが立ったから、がんばらないと駄目だし……」

 

放課後、一夏が寮の自室でくつろいでいると、やけにくたびれたような簪が帰ってくる。

そんな簪に対し一夏はきわめて親しげに話しかけ、そんな一夏に答える簪の態度も同室になった当初と比べると驚くほどに軟化している。

それは一夏の謝罪の効果もあったが、なによりアイオーンの外見について熱く語り合ったと言う出来事や、それに付随して行われた特撮談義の効果もあるのだろう。

 

一夏は簪のために茶でも入れるかと部屋に備え付けのキッチンへ向かうと湯を沸かし始める。

 

「まぁ、専用機が出来るめどが立ってよかったな。そろそろできるのか?」

「うん、そろそろできる……何事も無ければ、ええ何事も無ければ」

「なんかやけに含みある言い方だな。また問題でも?」

「ううん、弐式自体には問題はもうないの。問題は……」

 

そこまで言って、簪は口を閉ざす。

そう、弐式に問題はないのだ、今のところ。

だが、問題ない弐式に問題をくっつけようとする存在がいるのだ。

そう、そいつは……

 

『ふむ、やはりロマンが足りない。ドリルをつけるべきである』

『いや、西村博士? 私そんなのいらない……』

『ぬぁんと!? 貴様ドリルがいらない子だと!? 馬鹿にしたね!? 男のロマンをけちょんけちょんにしたね!?』

『え? は、え!?』

『まぁいらぬという物を無理につける必要もあるまい。ならば我輩の発明品、男のロマンパート2、「古鉄ばんかー☆」などいかが?』

『……見た目は普通のパイルバンカー……じゃない!? これ普通じゃないよ!!?』

『威力は第三世代など一撃で葬りさるほどあるのだが、あまりに重過ぎてISの重心が狂うばかりかまともにISが空を飛べなくなるのである。おまけに改良に改良を重ねた結果、威力が高すぎて、おそらく一発つかうと右腕が粉砕骨折間違い無し! もれなくISの右マニピュレーターもずったずたであるぞ? ちなみにこれをISで扱えるようにする追加スラスターも完備。Gきつすぎて体中の骨が砕け散るであるがな!!』

『そんなのいらないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

こんな奴である。

そう、かの西村博士である。

 

腕は確かに優秀……などという陳腐な言葉でくくれないほどだ。

機械工学、プログラミングなど、とにかく科学に関するあらゆる分野に精通しているのだ。

だが、いかんせん……変人だ。

すこし真面目にやったかと思うと、先ほどの簪の回想のときのように瞬く間に暴走を始める。

そしてそれをとめるのは一緒に弐式を作っている簪なのだ。

 

一瞬たりとも気が抜けない。

抜いたらたちどころに弐式が魔改造されてしまう。

下手すれば、弐式が足とドリルと砲台の生えたドラム缶にされてしまう。

最初に西村が持ってきた、ドラム缶型の弐式の設計図を見たときには思わず卒倒してしまったものだ。

 

「……でも、そんな人に協力要請しちゃったの私だし……」

 

簪も、まさかあそこまで□□□□なお方だったとは想像も付かなかっただろう。

ある意味、彼女は悪魔より恐ろしい人物と契約してしまったようなものだ。

 

だが、彼に協力を要請した事自体は簪は後悔はしていない。

確かに□□□□な彼だが、彼のおかげで普通ではありえない速度で一機のISが完成しようとしているのだ。

なお、彼曰く

 

『ふん! 我輩にとってISを作り上げるなど昨日の昨日の昨日のそのまたさらに昨日の……晩飯前である』

『……?』

『要するにお茶の子さいさい、サイは茶葉食って寝ろ! と言うわけである』

『はぁ……(その言葉って確かお茶についてくる簡単に食べれる茶菓子が語源だったんじゃ……?)』

 

らしい。

 

「……うん、がんばらなきゃ」

 

一夏が淹れてくれたお茶を一口のみ、簪は気合を入れなおした。

 

その瞬間、ふいに扉がノックされる。

 

「? 誰だろ?」

「あ、簪疲れてるだろうから俺が出る。はいはいどちら様?」

 

簪がノックの音に反応するが、それよりも先に一夏が応対のために立ち上がる。

そして、しばらく一夏と誰かの会話が聞こえ、やがて一夏が帰ってくる。

彼の後ろからは、真耶とシャルルが。

 

「山田先生、それにたしか一組にきた転校生の……」

「はい、更識さん、お休みのところ申しわけありません……そして重ね重ね申しわけありませんが、更識さんには部屋を移っていただきたいのです」

「へ?」

 

まさに寝耳に水であった。

唖然とする簪の様子に気づいた真耶が、説明を続ける。

 

「そのですね、今までの織斑君の部屋割りは、この学園に彼一人しか男子がおらず、なおかつ一人部屋もなかなか用意できない為にかなり無理やり決めた急場しのぎの部屋割りなんです。ですがこうしてデュノア君というもう一人の男子が来たのなら、倫理的な面でも一緒にしたほうがいいと学園は判断しました。ですので、本当に急なんですが……」

「はぁ、そういうことでしたら……」

 

真耶の説明は正しい。

男と女が一緒の部屋にいるよりも、男二人が一緒の部屋の方がいろいろな点で正しいだろう。

それに彼女にはそこまで一夏との同室をのぞむ理由もない。

しいて言うなら気軽に趣味について話せる相手と離れるというのは痛手と言えば痛手だが、それもどうとでもなる……はず。

 

「分かりました、今すぐなんですよね? でしたらその、おこがましいかもしれませんが、荷物を纏めるのを手伝っていただければと」

「あ、はい! もちろんです。こちらの急な決定でこんなことになってしまいましたし、お手伝いくらいならむしろこちらからやらせてくださいと言おうと思ってたんですよ」

 

とにかく断る理由は特に無い。

だったら荷物まとめを協力してもらって早く部屋を移ろう。

簪はそう考えて、ふと自身の先ほどの発言に唖然とした。

 

(……今、私自然に誰かに頼った……よね?)

 

昔だったら、恐らく打鉄弐式以外のことでも意地になって誰かの協力の手を振り払ってしまっていただろう。

しかし、今自分はむしろ自身から助力を他者へ願った。

 

一人で何でもできれば、それはきっと素晴らしいということなのだろう。

だが……

 

「……ふふっ」

 

無様でも、誰かに助けられ、誰かを助けるほうが、一人で何でも出来てしまう存在より、より人間っぽいと言えるのではないのだろうか。

 

真耶だけでなく一夏やシャルルに手伝ってもらいながら、簪はそんな事を思い、はにかんだ。




簪ちゃん、生きろ……

と言うわけで今回は久々に登場、簪ちゃんです。
でも部屋変わっちゃったんだ……

だ、大丈夫、しばらくしたら出番出てくるから! きっと!!

ちなみに現状、簪ちゃんの出番が増えたら西博士の出番も増えるという謎の法則が適用されております。
どうしてこうなった。

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