枢軸国軍の戦車がオーバーホール作業中、孝は事務室で人数や兵器、銃器、食料に水、弾薬等をメモに書き記しているリヒターに話し掛けた。
「あの・・・」
「なんだね?」
「これから麗の母親の安否に向かいます」
その言葉を聞いたリヒターはペンを止めて孝の方を見る。
「構わんよ。護衛は何人欲しいのだ?」
「そちらにお任せします。もしかしたら・・・ここでさよならかもしれません」
「そうか・・・」
リヒターは暫く黙り込んだ後、孝に告げた。
「ここでお別れか・・・短い間だったが、助かったよ」
「いえ、自分達はただ足を引っ張ってるんじゃないかと思いまして・・・」
「そんな事はない。君達の去り行く姿を決めなくてわな」
「はい・・・でも、もしかしたらこっちに帰ってくるかもしれません」
「あぁ、その時はこちらに戻ってきても構わんさ、是非歓迎しよう。しかし、私達と居れば殺し合いに巻き込まれるぞ。昨日私達と二手に分かれた後、生きた人間、しかも組織的な者達に襲われただろう。無理をしてついてくる必要はない」
困った表情をする孝にリヒターはそう告げ、さらに口を動かす。
「これを安全地帯に行けるチャンスと思うんだ。そうすれば狙われなくて済むし、これ以上亡者と戦う必要はない。そして事が収まるまで安全な場所で待て、そしたらいつもの日常生活が戻ってくる」
「僕が言っているのはそう言う事じゃありません!」
大きな声で否定した孝にリヒターは何の同様もせず、彼の顔を見ていた。
「そんなつもりで頼んだじゃありませんよ・・・貴方達も一緒に来れば・・・」
「それは無理だな」
否定するかのように言った後、マイヤーが事務室に入ってきた。
「我々は一種の武装組織だ。正規の軍隊じゃない、テロリストと同じ様な物だ。そんな俺達を君達が言う自衛隊が迎えることがあるのか?異世界からやって来た我々を。武装解除されて乗り物も没収され、牢屋にぶち込まれるのがオチだ」
マイヤーの言っている事は正しく、孝も考えてみれば、納得するしかない始末だ。
第二次世界大戦時の兵器などで武装した集団を自衛隊が容易く出迎えるとは思えない。
即座に武装解除して、リヒターやバウアー達を拘束し、監視に置くだろう。
一緒に安全地帯へ彼等を連れて行きたかった孝の願いは吐かなく散った。
「諦めろ、我々は君達とは一緒に行けん」
「そう言えばさっき、君と同じ様な事をセルベリアやミーナ達が頼んできたぞ」
「え!?」
マイヤーが告げた後、リヒターが驚くべき発言をした為、孝は驚き、訳を話す。
「彼女達も自分達が居る世界に戻りたいのさ。次は恐らく戦勝国の一つであるソビエト赤軍が我々から抜けるだろう。我々の様な敗戦国は幽霊のように、この世界で生きていくしかない」
「そんな事って・・・大戦で負けた貴方達が可哀想じゃないですか!」
「負けたからだ、歴史は勝者によって作られる物だ。勝者は過去の歴史を変える権限だって与えられ、過去に起こした犯罪行為だって許される」
禄に勉強をしてなかった孝であったが、歴史の教科書を思い出してみれば戦勝国は英雄的に記されているにも関わらず、敗戦国は圧政、虐殺行為、その他諸々等、まるで悪者扱いされているようにしか記されていない。
さらに過去の国の為に戦った祖先達を愚弄するような事まで、今の日本では行われている。
ましてや身に覚えのない罪まで擦り付けられて、今も悩まされている始末だ。
経験も教養もあり、幾つもの修羅場を潜り抜けてきた猛者達に言われた孝は頭を抱えることしか出来なかった。
「それが我々ドイツ第三帝国と大日本帝国の軍人達に神が新たに用意した罰だ。それが分かったら準備をしろ、我々の分まで生きるんだ」
孝にそう告げたリヒターとマイヤーはそれぞれの仕事に戻った。
「自分達が彼等の分まで生き延びなければ」そうするしか無かった孝は、旅支度をする自分の仲間の元へ向かう。
準備が出来た後、オーバーホールを終えたバウアー達がこれから一生会うことで無いであろう孝達をそれぞれの作業をしながら見ている。
孝達にずっと一緒についていくのは、未来の火星からやって来た四人の軌道降下兵と学園脱出からこの時まで一緒だったルリだ。
孝達と同じ現代人である山本はリヒター達の所に残ることにした。
小室一行を見届けるのはパッキーを初めとしたキャット・シット・ワン。
黒騎士のバウアーが孝に近付き、別れの言葉を掛ける。
「名前を名乗った以外、殆ど話などしなかったな」
「はい。所で、最後に聞くのですが、あのバウアーさんは・・・貴女の娘さんですか?」
美少女の方のバウアーは、黒騎士のバウアーに見られた後、ビクビクしていた。
「いや、断じて俺の娘でもないし。親戚にも眼帯の美少女など一人も居ない」
「そうですか・・・僕の思い違いでした、すみません!」
「謝らんで良い。俺達の分まで生き残れよ!」
「分かりました!」
バウアーは満面の笑みで孝に告げた。
次にヴィットマンとイングラムがやって来る。
「何の話も出来なくて寂しいよ」
「あんなスタイルの良い美少女や美女を連れてやって来たから、てっきりムカツク小僧と思ったが、まさかこんな良い小僧なんて思ってみなかったよ」
イングラムが孝の頭を撫でながら言った後、ヴィットマンがコータを呼ぶ。
「平野君、君はとても興味深い少年だ。私の規格帽を授けよう」
ヴィットマンから迷彩色の規格帽を渡されたコータはもの凄く興奮した。
「ありがとうございます!!本物の武装SSの迷彩色の43年型戦車兵用規格帽だぁ!ひゃーほーい!」
「はっはっはっ、予想外の反応だ。それでは、またいつか会えることを願おう!」
「俺も同文だ、会えることが出来たら楽しみにしてるよ」
「はい!大事にします!!ヴィットマン大尉もお元気で!」
号泣しながらコータは二人に別れを告げた。
彼等の次は、芳佳とイーディ達だ。
「な、泣いている訳じゃありませんのよ!け、決して!」
「(あれがお嬢様のツンデレ・・・泣いてるじゃない・・・)」
顔を隠しながら、イーディは涙を浮かべながら孝達に告げ、沙耶が呆れた表情をして心の中でツッコミを入れる。
芳佳が小室一行の女性陣の胸を見ながら近付く。
「殆ど話も出来なかったけど・・・楽しかったです!」
「うん!こっちも楽しかったよ!」
笑顔で芳佳に答えた鞠川は、彼女を抱きしめた。
「別れちゃうなんて寂しいよ~」
「ありすも寂しいよ・・・」
ありすがジークを抱えながら、別れを惜しむ。
鞠川の巨乳を押し付けられている芳佳も、この感触が感じられなくなると分かってしまい、瞳から涙を落とす。
そんな彼女の被害にあった麗、沙耶、冴子は芳佳から距離を置く。
「先生・・・私達もついていきたいけど、セルベリアさんが駄目だって言うんです」
「大丈夫、私達にはレーザーガン使う人が居るからね?それにセルベリアさんもとっても強いでしょ?」
「はい、あの人もとても強いです。だからどうか、お気を付けて!」
「ありがとう、宮藤ちゃん。ありすも気を付ける」
「ありがとね~」
芳佳の頭を撫でながら、鞠川は笑顔で礼を言った。
その次に芳佳は距離を置いた三人の方を向き、お辞儀をする。
彼女達も作り笑いをしながら手を振る。
アレクセイとヴィクトルも孝達を見ていたが、手を振るだけで終わった。
全員に大きな声で別れの言葉を告げた後、孝達はハンビィーと軍用バギーに乗り、同伴者のパッキー達が乗るハンビィーと一緒に倉庫を出た。
ハンビィーに乗っているのは鞠川にありす、沙耶、コータ、冴子、ルリ、六人でバギーは孝、麗の二人、STG達は倉庫にあった屋根付きジープに乗る。
機関銃は孝達のだけは取り外されている。
もしもの時に自衛隊に押収されるのを避ける為でもあり、そしてワルキューレに攻撃されない為でもある。
倉庫がある空間から出た後、外は雨が降っていた。
「坊主、雨が降ってるぞ!」
銃座に着くレインコートを着ている最中のラッツが知らせ、オープントップなバギーに乗る孝達はレインコートを急いで着込み、鞠川達のハンビィーの前に出て、道案内をする。
パッキー達が乗るハンビィーの車内では、雑談が交わされていた。
「パッキー、小室達と別れるの寂しい」
「俺も寂しいさ。あんなデカパイのお姉さんと一度ヤってみたかったな・・・」
「下品だぞ、ボタスキー。この雨の中でもアマゾネスや戦乙女が俺達を捜し回ってるに違いない」
ボタスキーを注意したパッキーはハンドルを握りながら周囲を警戒する。
雨降りしきる外を、ボタスキーとチコがずっと見ている。
まもなく麗の母親が居るとされる自宅に着く。
真っ先に麗が自身の母親らしい姿を見付けた為、直ぐに声を掛けた。
「おか~あさん!」
麗の母親らしい人物は、古い槍を持ちながら何か言い争っていた様だが、娘の声に気付き、そちらの方へ向く。
「麗ちゃん!?」
バギーが麗の母親の近くで止まった後、麗は母親に抱き付いた。
「お母さん!生きてた、生きてたよ!」
身内との再会に喜びを隠せない麗、後続の車両も止まり、麗の母親が日本では見慣れない車がやって来たことに驚く。
「ちょっと、まずは訳を話して!あれは何なの麗ちゃん!?」
優しく麗を離した母親は、訳を聞いた。
「あのね!私達、学校を脱出してから色々あって!」
「それは貴女も生きてて良かったけれども、もうちょっと具体的なことを教えてちょうだい」
落ち着いた麗は、今まで自分達が経験したことを話す。
学園からの脱出のこと、橋のこと、鞠川の友人宅に泊まったこと、沙耶の自宅に泊まったこと、全て包み隠さず母親に話した。
「まるで映画みたいね・・・」
自身の娘が経験してきた事を少し疑った母親であったが、パッキーとSTG達を見て、本当のことだと確信する。
「あの人達を見れば、少しは本当のことだって分かるわ。自己紹介が遅れたわね、宮本貴理子よ。これでも元警察官なんだから」
自己紹介をした貴理子、なんの雨雲付けてない事が分かり、体温が低下していることが分かったSTG達は彼女にレインコートを渡す。
「STG、あれじゃ風邪をひいてしまうよ」
「それにこの世界に雨だ。ずっとあのままじゃ健康に悪い」
「奥さん、体温が下がってるじゃないか。これを早く着てください」
「あぁ、ありがとう。助かるわ」
有り難く貴理子はSTGが手渡したレインコートを着る事にした。
ゴーグルの隊員が貴理子が何故そこにいるのかを聞いた。
「失礼だが、奥さん。貴女は何故この家の主と言い争っていたんだ?雨雲付けず、その原始人が使うような槍を持って」
「そうだわ。なんでお母さんは十文字槍を持って、雨が降ってる外なんかに・・・」
貴理子が持っている十文字槍を、原始人の槍と表したゴーグルに若干悪意を感じたが、訳を彼に話した。
奴ら発生した時、貴理子は近隣の住民と協力し、バリケードを建てて立て篭もっていたが、食料が不足してきたので、調達に出掛けて帰ってきたところ、住民に締め出されてしまった。
中に立て篭もる住民と言い争っていたところに安否確認にやって来た孝達と偶然にも再会したと孝達に告げた。
「酷い奴らだな!お隣さんが風邪をひいても良いのか!」
黒人の隊員が怒りの声を上げ、トビーとボタスキーも続く。
「雨の中に雨具を出さずに放置したんだ。抗議しようぜ」
「賛成だ、俺もその経験がある。こんな美人の奥さんを放置する奴らだ、きっと禄な奴じゃない」
近くに落ちていた石を投げようした瞬間、パッキーとSTGに注意された。
「止めろ!そんなことしたって何の変化もないぞ!」
「大尉の言うとおりだ。石ころを投げたって、バリケードは砕けない。暴動の真似事は止すんだ」
二人の上官に言われた後、三人は石を道路に落とした。
冷や汗を掻いた孝とコータはほっとし、他の者達も大惨事にならなかった事に安心する。
その時、立て篭もる住民の一人が窓から出て、パッキー達のハンビィーを自衛隊の救援部隊と勘違いして声を掛けた。
「自衛隊じゃないか!おーいここだ、助けてくれ!!」
「お母さん、あの人達出て来てるけど・・・」
「あの人達は・・・!」
貴理子は自分を締め出していた連中がパッキー達に助けを求めているのを見て、怒りを覚える。
「パッキー、住民が助け呼んでる」
「無視しておけ。あいつ等が悪いんだ」
銃座に座るラッツはチコに告げて、住民の声を無視した。
「孝、ここを離れた方が良い。十二時方向から体温がない移動物体が多数見える」
「分かりました。先生、出発します!」
「あ、待って小室!宮本さん、これを」
思い出したかのように、コータは貴理子に民間用コルト・ガバメントのコンパクトモデルを渡した。
「これは正ちゃんの警察署にあった拳銃ね。それと私も連れてってちょうだい、あいつ等と居るのはもう飽き飽きだわ」
「孝、お母さんも連れてってよ」
「分かったよ、宮本さんはハンビィーに乗ってください。あー、冴子さん。すいませんがありすちゃんを膝の上に」
「承知した。さぁ、ありすちゃん。膝の上に」
冴子がありすを膝の上に乗せた後、貴理子が空いた席に座る。
「おーい、待ってくれ!あんた等自衛隊じゃないのか!?」
まだ自衛隊だと思ってる住民、ボタスキーがハンビィーに乗り込む前に中指を上げて住民を挑発する。
「全員乗ったな?バックするぞ」
全員乗り込んだのを確認したパッキーはバックした。
他の車両も後へ続き、助けを呼ぶ住民を無視して敷地までバックで向かった。
敷地内に着いたパッキー達は周囲を警戒し、奴らが居ないかを確認した後、孝達の車両を招き入れた。
丁度その時、雨が止み、車両を降りた一行はこの先どうするかを見当する。
「さて、雨も止んだことだし。小室達は宮本ちゃんの親父の安否を確認する為、小学校へ向かうか?」
パッキーが孝に聞いた後、次にSTGが聞く。
「それならここでパッキー達もお別れだ。どうする、ここまま戻るか?それとも俺達と一緒に向かうか?」
二人の目線を感じた孝は暫く悩み、答えを出した。
「麗の親父さんを確認する為、小学校へ行きます」
その答えを聞いたパッキー達は、全員整列する。
「じゃあ、ここでお別れだな」
「そうだな。最初はただの餓鬼共と思っていたが、結構やるな。正規の軍人だったらうちのチームに入れたいよ。しっかり生き残れよ!」
ラッツは敬礼しながら告げ、チコの肩を叩く。
「みんな・・・楽しかったよ。チコ、寂しい。でも、強く生きないと。死んでいったチコと同族に戦友の分まで生き延びて」
チコの瞳から涙が流れた。
次はボタスキーだ、笑みを浮かべながら告げる。
「みんなスタイル良くて、少し言えない事で興奮したけど・・・短い間だったけどとても楽しかったよ。サンクス!」
最後にパッキーが5.56×45㎜NATO弾の空薬莢を孝に渡した。
「本のお守り代わりだ、今はこんな物しか渡せなくて済まない。最後まで着いて行きたかったが・・・」
「多分行けるはず!ですよね?宮本さん」
孝は貴理子に聞いたが、当の彼女は首を横に振った。
「無理よ・・・小学校に続く道は全て自衛隊ではない軍用ライフルを持った何処かの軍事組織に検問を張ってるわ。見た時にたまたま猟銃を持った人が容赦なく射殺されたのよ、オマケに戦車まである。貴方達が向かったら直ぐに殺されるわ」
そのことを聞いた孝とコータ、ありすは俯く。
「おじちゃん達は一緒に行けないの?」
「大丈夫だよ。おじちゃん達が居なくてもレーザーガンを持った強い戦士が居るじゃないか」
不安な表情で、ありすに話し掛けられたボタスキーは、STG達に指を向けながら答える。
「よし、後のことは俺達に任せてくれ。そしてリヒターとバウアー達に告げてくれ、短かったがありがとうと」
「分かった、伝えておく。それとコータ、こいつをプレゼントだ」
STGの頼みを聞いたパッキーは、SOGのワッペンをコータに向けて投げた。
「これは、ベトナム戦争で活躍した特殊部隊!」
「昔の物だ。お守り代わりに持っててくれ、それじゃあ、また会うことを願って・・・!」
キャット・シット・ワンの面々が小室一行に向かって敬礼した。
その後、彼等はハンビィーに乗って、倉庫がある公園へと帰っていった。
手を振っていた小室一行は、STGに聞かれる。
「そろそろ行こう。救出予定時刻が近い」
「分かりました。でも、どうやって検問を抜けるか・・・」
「そうだな・・・そのまま行けば確実に戦車砲で粉々だ」
別れを悲しんでいる暇もなく、彼等はワルキューレの検問をどう交わすかを考える。
その答えはルリの言葉で直ぐに片付いた。
「STGさん達を隠しちゃえば良いんだよ」
「でも、どうやって隠すの?こんな戦隊物の服装のおっさん達を」
沙耶が言ったことに悪意を感じたSTG達であったが、貴理子が考えた案に乗ることにする。
「ハンビィーに乗せて布で隠すのよ。それなら多分バレずに済むわ」
貴理子は全員を集めて、作戦会議を開いた。
暫しして、STG達の同意を得ることに成功した孝達は出発した。
次は休止した回かな・・・そこからはオリジナル展開です・・・