マイヤー達と別れ、東警察署で麗の父親を捜す孝達。
しかし、黒騎士を初めとする転移者達の他に、奴らと呼ばれる歩く死者が発生した直後から床主に転移した者が居た。
その名はカール・フェアバーン、CIAの前身OSSに属していた工作員で狙撃手、味方からはイーグルウォッチという愛称で呼ばれている。
出身は一切明かされてはいないが、狙撃手をしていることから、猟師が盛んに行われている地域の出身とされる。
標的を狙撃する際には、相手の習慣を観察し、周りの状況を把握、自分が有利な状況を作り出す事に専念している。
そもそも彼が転移した時期は朝鮮戦争休戦間近、ソビエト連邦こと東側は彼が朝鮮半島に居ることを知ると、精鋭の狙撃手を軍事顧問と共に派遣。
理由はアメリカこと西側一の狙撃手である彼を殺害してこそ、東側は狙撃に有利になると思ったからだ。
同時に戦時中、彼に殺害された多数のソビエト赤軍将兵の敵討ちや報復とも言える。
次々と送り込んだ刺客がカールによって破られていくが、休戦協定間近で一人の狙撃手が狙撃人生を引き換えにして彼の頭部を狙撃、殺害に成功した。
そしてこの世界に第二次大戦中の姿のままで、この世界に転移したのだ。
「今日で一週間目。電機と水が通らなくなったら人が消えた」
独り言をしながら、カールはメモ帳に印を付ける。
最初にこの死者の楽園と化した世界へ来た時、数々の地獄を潜り抜けてきた彼は、その経験でこの世界の状況を把握し、直ぐさま奴らと遭遇する。
敵の習慣を長年観察してきた彼は、一目で普通の人間でないことに気付き、人間が即死する急所を撃ち、弱点を誰よりも早く知った。
法が徐々に崩れ始めた世界で、暴徒と化す人々の姿を自身の目で目撃した。
生きている人間は尤も信用できないと察し、ワルキューレの戦乙女達による蛮行も目撃した為、今まで誰の手を借りずに一人で生きてきた。
やがて電磁パルスが日本上空で起こり、電子機器・生活に欠かせないありとあらゆる物が使用不可能となると、反日国家群による日本侵攻が始まる。
カールは侵攻に来た敵兵と何度も交戦や、敗残兵狩りに来た、ワルキューレの掃討部隊の目を盗みながら安全地帯への避難に成功する。
以降、林の奥にある小屋を拠点にサバイバル生活を送っている。
彼は今、東署で止まっていた小室一行を目撃し、東署へと向かっていた。
どうしてカールの気が変わったのか、その理由は彼等が来ていた服装の所為だからだ。
とはいえ、相手はどれも殺害してきた枢軸国の軍服を着た者達だが。
「(こんな状況で、戦争なんかしてる暇はないだろう。あの
そう心の中で思っていた彼はスプリングフィールドM1903A4狙撃銃とM3A1短機関銃、ISRBウェルロッドMkⅠ消音拳銃、コルトM1911A1自動拳銃を持って、道にいる奴らを避けながら東署へと足を進めた。
その頃、小室一行を殲滅せんと企むケストナー配下の部隊では。
「なに、駆逐艦の主砲を積んだ戦車を見ただと!?」
小室一行のヤークトティーガーを目撃した軽歩兵の報告に、ケストナーは驚きの声を上げる。
幼い顔付きを残す自分より20㎝ほど身長が低い女性兵士の両肩を掴んで、再度問う。
「本当なのか?それは・・・?」
「は、はい!駆逐艦の主砲みたいに長い砲身を・・・回らないみたいでした・・・」
睨み付けられた女性兵士は、震えた声で返答する。
「ヤークトティーガーだな・・・!やはり奴らだ、間違いない。それとあの警察署付近でパトロールしていた者を連れてこい!」
「
体格の優れた男性兵士に連れてこられた小柄の戦乙女二名は、ケストナーの前に出された。
「お前達があの警察署付近でパトロールしてた奴らか?」
「さ、サー。そうでありますが・・・?」
少しビクビクしながら答える童顔の女性兵士、怯える子羊のような彼女達に対して、ケストナーは睨み付けながら尋問を始める。
「それで、ハンビィーと軍用バギーを残す戦闘車両群が仮避難所の小学校がある方向に向かったのは確かか?」
「サー、そうであります!自分達は味方の車両だと思って隊長に報告しませんでした!」
「ハノマークやⅢ号突撃砲、Ⅳ号戦車などの装備は我々には無いぞ。居たとしてもこの世界には居ない!お前達の隊長に厳罰を与えて貰え!とっとと消え失せろ!!」
「こ、
二名の兵士は敬礼してから原隊の小隊に戻った後、隊長らしい若い女性に叱られていた。
仕切り直したケストナーは、部隊本部の車両に乗り込み、部下達に出動を命じた。
「相手の装備は重機関銃搭載のハンビィー三両に非武装のバギー一台、歩兵の数が二個程度か・・・俺とヨルギオスの部隊なら充分にやれるな。全部隊出動せよ!」
ケストナーが号令を出した後、ヨルギオスの隊も含めた二個中隊程度の戦力が東署へと向かった。
署内にいる孝達を狙っているのはケストナー達だけではない。
報告が耳に入った腿も、傘下の部隊を向かわせていた。
「警察署に敗残兵と武装した民間人が居るだと?」
「ハッ、その通りであります。我が部隊のパトロール部隊が見つけました。今、ケストナー隊が殲滅に向かってます」
副官の報告に、腿は地図を見て、配下の部隊が一番近いことに気付く。
「軽歩兵連隊傘下の中隊が一番近いな。その部隊で警察署内に居る奴らを殲滅してこい、
「はい、承りました。でも、軽歩兵連隊は今韓国軍の空挺兵掃討に当たってますが・・・?」
「構わん。一個中隊抜けた所で作戦は出来るだろう?異論はない、向かわせろ」
「承りました。連隊本部、聞こえるか。こちらは旅団本部、旅団長からの命令である。傘下の軽歩兵中隊を警察署制圧に向かわせよ」
副官は上官の腿に敬礼した後、通信機の受話器を取って、命令の伝達を行った。
その後、向かわせた軽歩兵部隊が壊滅するとは知らずに。
一方、署内の保管庫で装備が整った孝達は、保管庫にシュタイナー達を残して、署内の調査を再開する。
二階にある特殊捜査隊床主分室で、一息つく。
「この中にも奴らが居ましたね・・・」
コータが椅子に座りながら沙耶に告げた。
「えぇ、ここはバリケードになるような物ばかりだし、先生達と護衛を残しておけば良いと思うけど」
沙耶も座りながら答えた。
そんな彼女に、コータはここで倒した奴らが持っていたMP5kを渡す。
「警察仕様のMP5kです。小さくて反動が少ないので高城さんでも扱えます」
「名前で呼びなさいよ!まぁ、平野にしては上出来じゃない・・・」
素直に貰った沙耶は、顔を赤くしながらコータに礼を言った。
何名かを分室に残し、三班に別れて行動することにした孝達。
最上階へと上がった孝達であったが、一向に誰も居ない上、残っている少数の奴らしか居ない。
「麗のお父さんは一緒に行ったみたいだな・・・」
「そうね・・・お母さん、無事かしら?」
孝が言った後に麗は自分の母親の心配し、調査を続ける。
残るは通信司令室となり、孝達はそのドアを開けた。
「孝、奴らが集まってる」
「そのようだな・・・でも、なんでドアに体当たりしてんだ?」
疑問に思う孝に、沙耶が告げる。
「あそこに生きている電子機器があるってことよ・・・!」
「何かの通信機器ですかね・・・?」
「言ってみる価値はあるだろう。行くぞ!」
全員に告げた後、冴子はドアに集まっていた奴らを瞬時に片付けてしまった。
それを見ていた孝達は、驚きの声を上げる。
「「「「早!!」」」」
「そんなに早いか?私は8分も掛かっていると思うが・・・」
「それでも充分早いわよ・・・」
苦笑いしながら麗が冴子に告げた。
そして、非常用バッテリーのお陰で生きていた全国瞬時警報システム、通称
「ずっと付けぱっなしにしてるようね・・・」
沙耶がスピーカーから聞こえる音声に耳を傾ける。
『自衛隊による床主市での住民救出活動は、新床第三小学校で行います。予定は明後日の午後14時、それまでに新床第三小学校への集まってください』
「新床第三小学校って、確か・・・?」
「僕のお袋の赴任先だ・・・!」
コータが聞いた後、孝が驚いた表情で言う。
少し驚いた沙耶と冴子が口を開く。
「なんか偶然過ぎじゃない?」
「一石二鳥だな。救出活動場所が小室君の母君の赴任先とは」
「偶然にも程があるわ・・・それまでにお父さんとお母さん見付けないと!」
麗が言ったことに便乗するかのように孝が言った。
「そうだな。それと、宮本さんのオフィスか何かに行って、新しい避難先を調べないと!」
直ぐに孝が言ったことを実行に移した。
麗の父の職場である公安係室に急いで向かう中、ハインツとルリ、ミーナに遭遇する。
「貴方達、そんなに急いでどうしたの?」
「僕のお袋の赴任先で救出活動が行われるんです!麗のお父さん達が新しい避難場所を探さないと!」
ミーナに話し掛けられた孝が答えた後、MG42を担いでいたハインツが告げた。
「それは良かったな、坊主。それと警察署内の歩く死体は片付けておいたぞ、今セルベリア達がまだ残ってないか探し回っている」
「もう片付けちゃったの・・・!?」
「手が早いですね、感謝します」
この署内にいる奴らは殆ど居ないとの報告を受けた沙耶は驚きの声を上げ、冴子はミーナに感謝している。
「どうも。でも、気を付けて。まだ何処からか出てくるかも知れないから」
「分かりました。先生達も呼んで一緒に探して貰おう!」
ミーナからの忠告を受けた孝達は、分室に居た鞠川とありすを連れて公安係室に入った。
撤収の際に慌てていたのか、部屋は大分荒れていた。
「こん中から探すのって、無理があるじゃない?」
「やるしかないだろう」
床に大量に落ちている書類を見た沙耶は苦笑いしながら言ったが、冴子が言って、孝達と共に資料漁りを始めた後、「仕方がない」と溜息を告げながら資料漁りに混じる。
それを見ていた鞠川とありすは、壁に貼られた一枚の紙に視線を向ける。
「みんな、これじゃない?」
「これって何?」
「ほら、新しい避難先のお知らせ」
質問するありすに鞠川が優しく答え、資料を漁っていた孝達が壁に貼られた紙に注目する。
「先生それって・・・?」
床に落ちていた資料を捨てたコータが、鞠川に聞いた後、彼女はありすにも分かるように、紙に書かれた文字を読み始める。
「うん。えぇ~と、『避難先は床主東警察署から新床第三小学校への変更になりました。大変ですが、そこまでのご避難をお願いします。』良かったね、小室君に宮本さん。小室君はお母さんに、宮本さんはお父さんと再開できるわよ」
「良かったね。孝君と麗ちゃん」
ありすが喜びながら言った後、孝も安心感に満ちた表情を浮かべ、麗は父が無事であったことに涙を浮かべ、嬉し涙をながしている。
「後は麗の母さんの無事を確かめるだけだな」
「うん・・・!明日以内にお母さん探さないとね!」
同時に署内に居た奴らの掃討が終了したと告げられた後、沙耶は何か良からぬ事が起こると確信していた。
「な~んか、上手く行き過ぎな気がするんだけど」
「良いじゃないですか。こんなに良いとこ尽くしですし」
「何か起こるんじゃないの?」
「はぁ・・・?」
この後コータは、沙耶の言っている事が本当に起きることを予想だにしなかった。
沙耶、シュタイナー、ブルクハイト、セルベリア、BJ、ローバックは事が余りにも行き過ぎている事に気付き、新たに「何か起こることではないのか?」と予想していた。
シュタイナー以外が気のせいと思っていたが、良からぬ事にその予想は的中してしまうのだった。
屋上で、警察署周囲を監視していたバウアーが、腿が送り込んだ軽歩兵一個中隊の存在を孝達に知らせに来た。
「どうしたの、バウアーちゃん」
慌てて屋上から降りてきた彼女に、問い掛けるまだ気付いていないありす。
「はぁ、はぁ、みんな大変です!あの戦乙女の兵隊がこちらに向かってきてます!」
「な、なんだってー!?」
「警察署周囲を囲む様に、横一列になってゆっくりと向かってきます!!」
その報告に驚きの声を上げるコータ。
しかし、彼等はまだケストナーの部隊が接近してる事なんて知りもしない。
そして新たな仲間、カールの存在ですら未だ知りもしない。
マイヤー達はご都合主義的倉庫で、バウアー・ゲイツ・火星軍四人組・ハイト達と合流予定です。
敵はゲイツのソ連のロボトミー技術を施された兵士達や二足歩行兵器、ハイトの異星人の参戦を考えております。