警察署内を調査するにあたって、幾つかのチームに分けた孝達。
それぞれセルベリアが決めた担当地区に向かうことになる。
「もし、何かあればこの笛を吹け」
セルベリアから警笛が全チームに分けられる。
「死人は集まるが、その時は援護が来るだろう。準備は整ったな、全員が生きて帰ることを願おう。では、調査開始!」
彼女が言った後に、孝を含めた調査チームはそれぞれの担当地区へと足を運ぶ。
3チームほどが二階に上がり、3チームが一階を担当、残りはルリとコータ、リエラと冴子の班は地下担当だ。
「私達は向こうを調査する。平野君達は向こうを」
「はい!」
冴子達は左側の倉庫へ行き、ルリ達は留置所に行く。
室内戦では不利なAK74を持っていたリエラは、警察署付近で死んでいたワルキューレの軽歩兵が持っていたMP5A5短機関銃に取り替えてる。
コータは長物を背中に掛けて、代わりに何処かで手に入れた消音器付きコルトガバメントを構えて前へと進んでいる。
「正直、45口径だけではきついな。MP5は無いのかな・・・?」
僅かな光を頼りに、足を進めながら今構えているガバメントに文句を付けたコータ。
消音器のお陰様で大きな銃声を抑えられているが、弾倉の中身が少なくて辛い。
ルリはコータの後衛をしながら、奥へと向かう。
突然コータが足を止め、ハンドサインで「奴らが居る」と、ルリに知らせた。
「警官だよ。それにラッキーなことにMP5持ちだ」
奴らの背中に掛けてある日本警察仕様のMP5Fを指を差しながら言う。
僅かな光しかない暗闇の中で、コータは狙いを頭に定めて、頭を撃ち抜いた後、直ぐに死体に戻った警察官からMP5と予備の弾倉を取る。
「警察仕様MP5F。いや、FKタイプだな。MP5kが欲しかったけど、これでいいや」
ガバメントをホルスターに戻し、コータはMP5を構えながらルリを連れて、留置所へと足を踏み入れた。
そして新たな出会いをするとは気付かずに。
独房の壁に書かれたとある工作員の日記。
暇なので、鍵穴に入らないコンクリートの破片を使って書くことにする。
俺はドイツのベルリンから日本の何処かにワープした。
首都を包囲していたソ連赤軍の砲撃に巻き込まれてワープしたのだ。
初めは地獄かと思ったが、看板に書かれている文字を見て、ここは日本と確信する。
噂で聞いていた日本とはとてもかけ離れており、まるでタイムスリップした感じだ。
てっきりナチスの新兵器かと思ったが、俺の思い過ごしだったようだ。
荒れ果てた家に入って、カレンダーを見たら、西暦を70年経過してることが分かり、タイムスリップしたと嫌でも分かるようになる。
周囲を歩いていたら、俺が戦ってきた物と似たモンスターが襲ってきた。
いつの間にか持っていたM1トンプソン短機関銃を撃ち続けたが、効果無し。
頭部に一発45ACP弾をくれてやったら、動かなくなりやがった。
やはり倒し方が似ていると思い、周りにいた歩く死体を全部、元の死体に戻してやった。
その次は、身体に合わない武器を持った少し蒼が濃い髪の嬢ちゃんが襲ってきた。
暫く銃撃戦をやっていたら、警官達がやって来て、取り押さえられた挙げ句に署で武装解除され、嬢ちゃん共々地下の
他にも豚箱に放り込まれた俺達だけではなく、アメリカ海兵隊の三等軍曹やドイツ国防軍陸軍の兵士、etc・・・が別々の豚箱に放り込まれていた。
ちなみに俺が入っているのは、嬢ちゃんの隣の方だ。
ここ暫くは人の声で溢れ、飯も二食抜かれて出されていた。
上の煩さはノイローゼになりかけた程だが、それも突如終わった。
最初の悲鳴が上がって銃声が鳴り響いた。
数十分後には、車のエンジン音が聞こえ、生きている人間の声は地下だけになった。
それから三時間後には、歩く死体が地下にやって来た。
直ぐに鉄格子から離れ、死体共から逃れる。
ひつこく手を伸ばしてきたが、数時間したら諦めて一階に戻っていった。
暫く電機がついていたが、外で何か起きたのか、ブレーカーが落ちたらしく停電し、太陽の僅かな光だけが頼りの生活になる。
人が居なくなった所為か、飯も来なくなり、停電が起きてからこの二日間、飲まず食わずだ。
嬢ちゃんは飢えに苦しんでいることだろう。
隠し持っていた小道具も、前まで居た警官に取られて、脱出する術がない。
あと一日待って誰も来なければ、俺は舌を噛んで自殺することにする。
終わり。
そう壁に刻まれた文字を見ながら、男は布団に寝そべっていた。
他に独房に入れられている者達はただじっと俯いているだけで、何もしようとはしない。
そしてここに、ルリとコータが来たのだ。
「ン、足跡がするぞ?」
独房の中の男は、床に耳を付けて、ルリとコータの存在を知る。
「運が回ってきたな」
別の独房に居たWW2のアメリカ海兵隊の三等軍曹が呟く。
他に居るドイツ国防兵とタンクトップの少女は、眠ったままだ。
姿が見えるところまで二人が来ると、三等軍曹は声を掛けた。
「おい、そこにいる奴。お前だ。死人じゃなかったら返事しろ」
予想だにしない出会いに、コータは言われたとおり返した。
「独房に捕まっている方ですか?」
「どうやらちゃんと生きた人間だな、返事をしてくれて感謝する。手前の独房に近付くな、死人の仲間入りを果たした奴が、噛み付こうとしてるぞ」
三等軍曹の言葉に、コータは疑問に思い、距離を取って手前の独房を見た。
奴らが鉄格子越しから仲間に入れようと、呻り声を上げながら向かってくるが、鉄格子が塞いでいるので余り意味はない。
うっかりと左側の独房に近付いたルリは、中にいた奴らに捕まってしまう。
「!?」
鉄格子にルリの身体が当たる音が鳴ったので、コータは振り返り、コルトガバメントを抜いて、奴らの頭を撃ち抜いた。
助けられたルリは、メモ帳を取り出して、感謝の気持ちを書いた文字をコータに見せる。
「どうも、どうも」
ぺこぺこしながらコータは照れていた。
そんな彼に、三等軍曹は声を掛けた。
「見た目で鈍臭い奴だと思ったが、どうやら違ったみたいだ。紹介しよう、俺はジャック・ローバック。アメリカ合衆国海兵隊所属で三等軍曹だ、今の階級は准尉だがな。ある作戦に参加して、迫撃砲で吹っ飛ばされたら未来の日本にタイムスリップしていた。そちらの方は?」
鉄格子から左手を出して、コータの名を問う。
「平野コータです!藤美学園の二年生です!」
「今の日本人は腰抜けばかりだと思ったが、お前は違うようだ」
「感激の余り、返す言葉もありません!」
「所で、そこの嬢ちゃんの名は?」
ローバックが聞いた後に、工作員が口を開いた。
「確かに気になるな。どうやら喋れないみたいだが・・・」
この言葉の後に、別の独房に居たドイツ国防軍の兵士が覗きに来る。
名前を問われたルリは、メモ帳に自分の名前を書いて、ローバックや工作員に見せた。
「"ルリ"か・・・姓名は無いのか?」
工作員は姓名を聞き出そうとするが、ルリは首を横に振って、名乗ることを断る。
「それは残念だ。所で銃を持ってたな?それで開けてくれないか?」
ローバックが、鍵穴を指差しながらコータに告げる。
「分かりました、離れてください」
直ぐに手に持つ拳銃で独房のドアの鍵穴を撃ち抜いた。
開けられると確認したローバックはドアを開き、コータ達の前に立って、礼を言う。
「感謝するぞ、コータ。他の奴らも出してやろう」
「はい!」
コータは直ぐに全員の解放に取り掛かった。
最後に少女が入っていた独房の鍵を撃った後、ガバメントの弾倉を取り替える。
ドイツ国防軍の兵士が出てくると、コータはその兵士が誰か直ぐに分かった。
「あ、貴方は・・・!ドイツ国防軍陸軍第352歩兵師団所属のハインツ・ゼーフェロー伍長ですよね!?」
興奮しながらコータは、ドイツ軍の兵士に質問した。
「あ、あぁ・・・そうだが・・・?」
日本語を喋っているコータは、ハインツが何を言っているのか理解できないようなので、翻訳飴を彼にあげた。
「こ、これを!」
飴を食べたハインツは、コータがドイツ語を流暢に喋っていることに驚いた。
「本当ですよね!?その1943年型戦闘服を着ているからして」
「な、何でドイツ語が喋れるんだ・・・!?」
「この飴のおかげですよ。どうしてこうなるのか良く分からないですけど」
その答えに納得したハインツは、自分の名を名乗った。
「以下にもハインツ・ゼーフェローで、ドイツ国防軍陸軍第352歩兵師団所属の伍長だが、それがどうしたんだ少年?」
「ヒャッハァー!パイパーとマイヤー、スコルツェニーと同じ本物だ!!」
取り敢えず興奮しているコータに、ハインツは自分が転移する前の事を話した。
「オマハビーチから脱出している最中に、霧に呑まれてこの様だ」
次に工作員が名乗りを上げる。
「俺はウィリアム・J ・ブラコヴィッツだ、言いにくかったら"BJ"とでも呼んでくれ。宜しくな」
最後に出て来た少女は、名乗らなかった。
「名など名乗るつもりはない・・・」
この言葉に全員が驚く、その直後、彼女のお腹が鳴る音が聞こえた。
それを聞いていたルリは、翻訳飴を少女に渡す。
「は、腹など減っていないが・・・今は仕方が・・・ない」
顔を赤らめながら、少女は飴を口に含んで、ボリボリと噛み始めた。
「ボリボリ噛んで大丈夫なのか?」
「ある男が飴玉を噛めば落ち着くと言っていた。ハッ!なんでお前は私達の言葉が分かるんだ!?」
飴を噛み終えて、飲み込んだ後、ルリからスターリングMk7短機関銃を奪い、それを構えて警戒する。
「落ち着け、俺達は今協力するしかないんだ。
少女は周りを見ながら、状況を判断した後、ルリにスターリングMk7を返した。
「今は協力することにしよう。異論はない」
丁度その時、冴子とリエラの姿が見えた。
ケミカルライトを使って、存在を示す。
「な、なんだあの光は!?」
「毒島さんだ!大丈夫、味方ですよ!」
少女は、ケミカルライトの光に驚きを隠せないが、コータが教える。
二人が見える距離まで近付くと、BJとローバック、ハインツが、彼女達の美しさと美貌に声を上げる。
「ここにいる二人とは大違いだな」
「あぁ、休暇で見に行った女優を思い出す」
ハインツは睨まれた感じを察知したが、後の二人は冴子とリエラに夢中で気付いてないようだ。
充分に見えたリエラの姿を見た少女は、驚きの余り彼女の名前を言った。
「リエラ・・・!?」
「イムカ・・・!?」
やって来たリエラも、少女の名を言って、驚いた表情をして固まる。
「知り合いなのですか?」
隣にいた冴子は、リエラに少女のことを聞いた。
「えぇ、前の世界の戦友よ!まさかこんな所で会うなんて・・・!」
「わ、私も驚きだぞ!まさかクルトと結婚したお前がこんな所に居るなんて、べべ、別に嬉しい訳じゃない///」
恥ずかしながら言うイムカという少女に、リエラと周りにいた者達は笑い始める。
結婚と言う単語に、冴子とルリは気になったが、今はこんな状況なので、気にしないでおいた。
独房に入っていた三人が、後から来た冴子とリエラに名乗った後、一同は、一階の休憩室まで向かうことにする。
その間リエラが、イムカの事についてみんなに話す。
「この
「そこまで聞くつもりはない。君とその嬢ちゃんの事について知りたいのだが・・・」
ダルクス人について、解説し始めたリエラに横槍を入れたローバックは、前の世界でリエラとイムカとの関係を聞いた。
それを聞かれた彼女は、前の世界にいた事を皆に話す。
第二次世界大戦に似た別のヨーロッパで二度目の戦争を経験し、死神呼ばわりされて懲罰部隊に送り込まれ、そこでイムカと出会った事。
最初は無関係であったが、クルトという新しい隊長のおかげで、少し会話が出来た事や隊に馴染めた事。
仲間の一人が離反した挙げ句、正規軍に追われることとなり、敵である帝国との戦闘を続けていたが、正規軍に追い詰められ、自らの秘密ヴァルキュリア人であることを全員の前で明かし、それが原因でイムカに殺され掛けるが、それが打ち解ける切っ掛けとなった事。
祖国ガリア公国を守る為に、国外にいる敵との最終決戦で見事勝利し、部隊は解散。
その後、部隊長であるクルトと添い遂げるまでのことを話した。
「その故郷を焼き払った仇はセルベリアさんだったの・・・」
「大変だったんですね・・・」
話を聞いた冴子がリエラに共感し、昔のことを思い出したイムカは、少し落ち込む。
ハインツは、彼女達が自分が経験した地獄のような戦場を幾つも潜り抜けてきたに驚き、感心する。
一階に上がった後、ルリが警笛を取り出し、休憩室から離れた場所に吹く。
音に釣られて奴らが集まってくるが、探査に向かった仲間達も来るので、置き手紙を受付に置いておく、
奴らが集まってくる中、急いで休憩室に入る。
「お帰り、早かったわね・・・?」
四人の見慣れない者達が居たので、沙耶は驚いて、コータに訳を聞いた。
「あ、あんた。その人達、誰なのよ・・・?」
「地下の留置所で捕まっていた人達です」
沙耶はじっくりと、四人の服装を見て、異世界からやって来た者達と判断して、コータを自分の所まで引き寄せる。
「なんですか高城さん」
「また変なのを仲間に入れたわね?戻ってきた班に説明するのが面倒よ」
こそこそと話している二人を無視して四人は、ミーナと待機組に自己紹介し始める。
紹介が終わった所で、休憩室の外から奴らが倒れる音がし、数秒後には調査班の者達が入ってくる。
「置き手紙を確認させて貰ったが、あれはどういう・・・!?」
「お前は・・・!?」
調査班の全員が入り終えた後、セルベリアとイムカの視線が合った。
休憩室内は緊迫した空気に包まれた。
先に動いたのはイムカで、机に置かれていたリネットのFNハイパワーを手に取り、セルベリアに飛び掛かる。
素早い動きでセルベリアが身構える前に、彼女を押し倒し、鼻に銃口を突き付けた。
銃口を向けるイムカの瞳は、殺気と復讐心に満ちていた。
ローバックさんの名字は、中の人ネタでジャックにしました。
そしてイムカに銃口を突き付けられた、セルベリアはどうなる!?