学園黙示録 ゲンブンオブザデット   作:ダス・ライヒ

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説得とそれぞれの場面

その頃、攻撃に失敗した挙げ句、小室一行を逃がしてしまったケストナーはと言うと、司令用のテント内で暴れ回っていた。

 

「クソッ!攻撃に失敗した挙げ句にむざむざ逃がしたのか!!」

 

長距離無線機を地面に叩きつけながら、辺りの物に八つ当たりするケストナー。

周りにいたオペレーターや警備兵は、外へと避難している。

 

「おい、歩兵砲部隊はどうしたんだ?チャンスだと言うのに一発も撃たなかったぞ!どういう事だ?」

 

怒れ狂うケストナーに対し、外から指揮官の女性が答える。

 

「先程から通信をしていますが、全く反応しません・・・」

 

「ちっ、背中に気付かず死人共に全員喰われたか・・・こうなれば俺が直接出撃する。ヨルギオスの隊を俺の方に回せ、ここの指揮は任せたぞ」

 

了解(コピー)!」

 

指揮官が敬礼した後、ケストナーは制帽を被り直し、テントを後にした。

ゴーグルを制帽に付け、フォルクスワーゲン・タイプ181に乗り込む。

運転手は女性兵士ではなく男性兵士であり、旧ドイツ軍に似た略帽を被っていた。

後方にはコンドル装甲車六台に自動小銃や突撃銃、迷彩カバーを付けたヘルメット、迷彩服など軍装した男達数名を満載している軍用トラック十台が、エンジンを鳴らしている。

さらにその後ろは、M46パットン中戦車三両が待機していた。

ケストナーが上げた腕を振り下ろした瞬間、部隊は出撃、そのまま小室一行が居る地域まで向かう。

部隊が通るとの連絡を受けたワルキューレの見張り番達は、障害物のバリケードを退け、道を空けた。

そこから続々とケストナーの部隊が通り過ぎていく。

しかし、打倒小室一行に燃える彼は、来る前から捕らえられていた一人の少女が逃げ出したことに気付かない。

基地を警備する歩哨も、欠伸までして仕事を全うして居らず、まんまと少女を基地から逃がしてしまった。

そしてケストナーからの合流命令を受けたヨルギオスは、無線機を戻した後、彼と合流するべく部下達に出撃を命ずる。

 

「あの男と合流せよ、ですか・・・しかし我々には拒否権はありませんね・・・皆さん、合流のために出撃しますよ」

 

自身もBA-64に乗り込み、傘下の歩兵部隊を載せたトラック数台と共に出撃した。

 

「(これ程の戦力を投入するとされると、かなり厄介な敵のようですね・・・まぁ、あの男の傘下に戦車がありますから片が付くでしょう)」

 

風を浴びながらヨルギオスは心の中でそう思うのであった。

一方、小室一行が脱出したモールでは、屋上に避難民が自衛隊の救助を待っていた。

数日間と思われていた彼等の願いは直ぐに叶った。

上空から陸上自衛隊所属のヘリ三機分(護衛のOH-1二機、輸送用CH-47J)が飛来したのだ。

これが目に入った避難民達は自分達の存在を示すためにフレアーを点火してそれを振る。

 

「こっちだぁー!助けてくれ~!」

 

先頭のOH-1のパイロットの目に入り、そこへ後続の二機が誘導される。

 

『屋上に避難民を確認、救出作業開始。オメガ・グループ、ターゲットに備えろ』

 

無線機からパイロットの報告が聞こえてくる。

大型輸送ヘリの機内で、何故か機内にいたオメガ・グループ四人の隊員達に告げた。

そのオメガ隊員の面々は小松に平岡、田中、オメガ9、オメガ11、オメガ15の六名である。

いつものMP5SD6等の隠密装備ではなく、ちゃんとした自衛隊正式採用の89式小銃で、立派な陸上自衛隊普通科装備だ。

 

「ターゲットなんか言ってねぇで、ゾンビって呼べば良いのにな」

 

「小松よ、これは映画やゲームじゃないんだぞ。歴とした現実だ」

 

「弱点はゾンビと同じですけど・・・」

 

装備確認をしながら、小松が言ったことに平岡が突っ込んで、田中が漏らす。

全員の装備確認が終わった後、この班の長であるオメガ9がパイロットに合図を送る。

 

『オメガ・グループ装備に異常は無し、これより救出作業開始』

 

『よし、避難民は二十数人程度、充分に搭乗可能と判断、着陸する。おい、ターゲットを救出完了まで縛り付けとけよ』

 

機長が、小松達に視線を向けながら告げた。

機体がモールの屋上にタイヤが着いた衝撃が彼等に来た瞬間、パイロットが後部ハッチを開き、一緒に乗っていた陸上自衛隊員が、早くオメガ隊員を機体から降りるように指示する。

 

「GO、GO、GO!早く降りて安全確保しろ!!」

 

オメガ隊員達は直ぐに座席から立ち上がり、数秒以内でヘリから降りて周囲の安全を確保するため、周囲に銃口を向ける。

避難民の中に奴らは居ないと判断した彼等は、89式小銃を下ろしてから、機内にいる隊員に知らせる。

 

「クリア!一応、この中には誰も噛まれて居ないみたいだ」

 

「よし!お前等は直ぐに出入り口を見張れ!」

 

安全と確認された判断した隊員は、避難民をヘリの機内に誘導し始めた。

直ぐに班長のオメガ9は、隊員達に指示を飛ばす。

 

「了解、オメガチーム各員、出入り口を見張るぞ!」

 

「は~い」

 

田中が返事した後、奴らが叩く音が休まず鳴る出入り口のドアに、89式小銃を構える。

二機のOH-1は、装備された箱形の二連装ランチャーを、敷地内にいた多数の奴らに撃ち続けていた。

爆音が響く中、避難民達は悲鳴を上げながら大型ヘリへと搭乗していく。

その時、出入り口のドアが遂に耐えきれずに壊れ、そこから奴らが続々と屋上へ侵入してきた。

オメガ隊員達は慌てることもなく、小松がヘリにいる隊員に告げる。

 

「ゾンビ共が入ってきたぞ!」

 

「近付けるな、撃ちまくれ!」

 

「言われなくても!」

 

平岡が言った後、89式小銃の引き金が一斉に引かれた。

連発ではなく単発であり、それも性格にも頭を撃ち抜いている。

的確に奴らは排除されつつあるが、数は全く減らない。

 

「おいまだか?早くしてくれ!」

 

後ろを振り向いた小松が、ヘリに誘導している隊員を急かす。

 

「そんなに急かすな!避難民は訓練されないんだぞ!!」

 

避難民を誘導していた隊員が小松に怒鳴り散らした。

89式小銃に、06式小銃てき弾を装着した田中がドアから湧き出てくる奴らに向けて、発射しようと、全員に知らせる。

 

「擲弾を発射します!破片に注意して!」

 

「みんな伏せろ!」

 

88式鉄帽を抑えながら、平岡が大声で言う。

全員が伏せた後、田中が引き金を引き、ドアに向かって擲弾が発射され、着弾して赤い煙が上がる。

彼等に奴らのパーツが飛んできて、頭に腕や脚が当たる。

 

「やべぇな、こりゃあ!」

 

小松は目の前に、奴らの頭があることに驚く。

暫しの奮闘のお陰か、避難民の収容が完了し、誘導員の隊員が、小松達に告げる。

 

「避難民収容完了だ!」

 

「了解した!全員ヘリに乗り込め!!」

 

オメガ9がMK3A2攻撃手榴弾の安全栓を抜いて、出入り口に投げ込み、ヘリに乗り込もうと走る。

小松達も手榴弾の安全栓を抜いてから、出入り口に向かって投げ込んでから、ヘリに飛び乗る。

最初に投げ込まれた手榴弾の爆破音が鳴った後、他のMK3A2手榴弾が誘爆。

最後の隊員を乗せたヘリは屋上を離陸し、モールから飛び去った。

ようやく救出された避難民達は、肩の荷が下りたかのように、眠りについた。

少しばかりモールの状況が気になった小松は、眼鏡を掛けた30代の避難民の男に話し掛けた。

 

「すいません、ちょっと」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

「俺達が救出に来る前、モール内はどんな状況でしたか?」

 

「話せば長くなりますね・・・あれは、確か・・・最初の武装した外国人の男女数名が・・・」

 

男の話を聞いた小松達はただ驚くばかりであった。

信じられないことに、ここまで避難民達を守ったのは第二次世界大戦からやってきたドイツ軍の兵士だからだ。

その次に電磁パルスが起こった後、重戦車や装甲車などに乗った枢軸国軍兵士達がやって来た事。

最後に来たのは、軍用モデルのハンビィーに乗った少年少女と屈強な兵士達で、先に来ていた武装集団と同じく手慣れていたとか。

男の言っている事が信じられない小松達は、男に聞こえないように小声で話し合う。

 

「こいつパニックの余り、幻覚でも見てんじゃねぇか?」

 

「あぁ、もしかしたら薬物でもやってんじゃないかな?」

 

小松と平岡が小声で話し合う中、田中が二人に変わって聞いてみることにする。

 

「もしかして・・・薬物の類とかやっちゃってます?」

 

この問いに、男は大声で田中に怒鳴りつけた。

 

「俺の何処が薬物中毒者に見えるんだ!嘘じゃないんだ、本当に見た。エンジン音も一緒なんだ!!」

 

田中の聞き方が悪いと小松と平岡が告げた後、田中は頭をさすりながら謝った。

 

「すいません、僕の聞き方が悪かったです。ちなみにどんな装備をしてましたか?」

 

「写真や映画で見るような物ばかりだったよ・・・あの米軍が使う軍用車が来たときなんか助けが来たのかと・・・」

 

男は俯きながらさらに続けた。

最後にやってきた一行の一人を、避難民の柄の悪い男が襲い、二番目に来た兵士達に連れて行かれた事。

奴らが襲ってくる前にモールが砲撃され、パニックに陥って避難民の一人である少年が恐怖の余り、奴らをモール内へ招き入れた事、謎の武将集団が襲撃してきた事も話した。

彼等が脱出する際は、自分達は屋上に避難して、ずっと救出を待っていた最中に、敷地内で行われている激戦を見ていた事も伝えた。

 

「凄いですね・・・その人達・・・」

 

「もう少し早く来てれば、一戦交えていたかもしれないな・・・」

 

「そ、そうだな。あぁ、遅くて良かった~」

 

もしも「小室一行と事を交えていたら」と、頭に思い浮かんだ三人は、ホッと胸をなで下ろした。

避難民と小松達を乗せたヘリが四国へ向かう中、逆方向へと向かう別のCH-47J二機が隣を通り過ぎた。

窓から見る限り、モールの方へと向かっている。

恐らく搭乗した普通科の歩兵部隊が、完全鎮圧を行うようだ。

完全鎮圧した後には、モールにいた武装集団の調査が行われることであろう。

そのままヘリは、四国の駐屯地へ向かう。

 

一方での、警察署へと向かう小室一行は、相変わらずコータは死に急ぐように奴らを見つけたら、叫びながら銃を撃ち続けていた。

 

「あの豚眼鏡がまたやらかしたぞ!」

 

「止めさせろ!無駄に弾薬を使わせるな!」

 

パイパーの指示で、コータにまた鉄拳が下され、銃を取り上げられる。

このままでは危険と判断したマイヤーが、まもなく到着する所で一時前進を停止し、彼の精神状態を直すように指示する。

 

「このままだと我々は死人の仲間入りだ。彼は即戦力だが、今は新兵の様な状態だ。誰か治療法は知ってるか?」

 

集められた者達の顔を見ながら、彼は告げる。

誰も手を挙げなかったので、付き合いが長いとされる鞠川が手を挙げる。

 

「フロイライン鞠川、何か知ってるので?」

 

「多分、兵隊さんが良く罹る戦闘ストレス反応だと思うの」

 

「確かに、良く新兵が良く罹ってた」

 

鞠川の言った事に反応するように、パッキーが口を開く。

それに続いてブルクハイトやゴロドクが口々に言う。

 

「Zbvに入ってきて一週間目の奴が発症したよ。直ぐにシュタイナーの奴に射殺されたけどな」

 

「俺もそんなのを発症した奴に悩まされたよ。その時は一発ぶん殴って立ち治したが」

 

その意見に全員が悩む中、コータの声が怒鳴り声がまた聞こえてきた。

 

「俺は小室達と別れる!」

 

全員が、コータの方へと向かう。

そこでは、孝とその仲間達が説得している最中だ。

説得は難航しているらしく、いつ誰かがコータに撃ち殺されるか、緊迫した状況だった。

 

「平野、落ち着け!今問題を起こしてどうする!?」

 

「煩い!もう俺は死にたいんだ!仲間が一人減ってお前達は嬉しいんだろう!」

 

コータの言葉に、孝は一瞬黙り込む。

 

「どうしよう・・・行って平野君を立ち治させないと・・・」

 

おどおどする鞠川がコータへ駆け寄ろうとした瞬間、シュタイナーが彼女より先にコータに駆け寄った。

全員が「コータは死んだ」と、心の中で思い、ある者は悩みの種が消えると感じ、ある者は殺さないようにと祈る。

そしてシュタイナーがコータの前に立った瞬間、全員が覚悟を決めた。

 

「殺されるのか・・・?」

 

セルベリアが言った後、コータはシュタイナーに殴り飛ばされた。

勢い良く吹っ飛んだ彼は地面に倒れ込み、起き上がってシュタイナーを睨み付ける。

銃を取ろうとしているコータに対し、シュタイナーは彼に強く告げた。

 

「甘ったれるな。高々婦警一人を助けられず、全員に迷惑を掛けて一人死のうなどと。貴様如きの為に仲間がどれだけ危険にあったか分からんのか?」

 

それを言われて、まだ倒れ込んでいたコータは、全員の目を見た。

心配する目線もあったが、何名かは完全に「早く死ね」と言わんばかりの目線だった。

自分がやってきた行いが全員に迷惑を掛けていると分かり、恥ずかしくなってくる。

そのままシュタイナーは続ける。

 

「死ぬなら静かに死ね。全員を巻き沿いにして死ぬなど迷惑だ。だが、貴様に死なれたら困る者達も居よう。それに貴様は即戦力だからな。貴様が死ねば、戦力が低下し、その所為で死ぬ仲間は、先に死んだ貴様を恨みながら死ぬ事だろう。どうだ?今戻れば、今までのことは水に流してやろう」

 

シュタイナーの言ったことが信じられない者達は、驚きを隠せないでいる。

何せあれだけ敵に背を向けて逃げ出す味方を、何の躊躇いもなく殺す男などだから。

そんなシュタイナーが、コータのことを大目に見ているのだ。

この異様な事に、ブルクハイトは自分の頬を抓り、シュルツは唖然し、アッシュとコワルスキーが小声で会話する。

 

「ありえねぇ・・・あの人殺しが小僧一人を許すなんて」

 

「きっとあの時と同じだよ。覚えているだろ?あの戦いを」

 

アッシュが言ったことにコワルスキーが「ああ、そうか」と、言って納得した。

 

「ただし、断るなら銃を取り上げ、ナイフで自決して貰うが。それが出来なければ俺はお前と学校で共に戦ってきた仲間を全員殺す。どうだ?」

 

シュタイナーが続け様に言った後、コータは立ち上がり、彼の帽子に隠された瞳を見る。

 

「一緒に行きます」

 

コータは、シュタイナーの条件を呑んだ。

どうやら仲間達が自分の馬鹿な行動で巻き込まれて死ぬのが許せず、一生後悔に悔やまれるのだろう。

何とか立ち直ったコータに一息入れた一同は、警察署へ向かう準備をする。




なんか、無理矢理感が・・・

おかしいと思った方は、感想で・・・

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