その頃、ゾンビ掃討が終わった四国でも新たな動きがあった。
自衛隊が駐在する空港にて、民間軍事会社PMC所有のCH-47チヌーク数機が着陸した。
「お、なんだあのチヌーク。空自かアメリカの物か?」
駐在していたオメガ・グループの一団の一人、小松がチヌークを見て口を開く。
「違うだろ、良く機体を見てみろ。所属が違うだろう」
隣にいた平岡が指を差して小松に言う。
二人の後をついてきた田中もチヌークを見ていた。
「これは・・・エグゼクティブ・アウトカムズの流れを組むとされるPMC、アーミット社のヘリですよ!」
「民間の軍事会社かよ・・・おい、田中。そのアーミット社と言うのは?」
田中が言ったことに質問する小松、田中は直ぐに説明する。
「エグゼクティブ・アウトカムズ社、通称ED社が潰れてから1年足らずで出来た民間軍事会社です。噂では元ED社の社長か社員が興しただと噂されます。西側の兵器を入れて分かり難くしてますが、実際はED社と変わらず東側の兵器ばかりですよ」
この説明に小松と平岡は「へぇ~」と感心するだけであった。
ヘリから複数のコントラクターが降りてくる。
その列の中には若い男女や少女も含まれており、何人か日本人顔も居た。
それが目に入った小松は、直ぐに田中に問う。
「おい、田中」
「まだなんかあります?」
「あれって、労働基準法に違反するんじゃないのか?」
「どれどれ?」
小松が指を差した方向を見る田中、直ぐに少女を見つけ、口を開いた。
「ホントだ、あれは確実に訴えないといけませんね~」
それに対し、平岡が口を挟む。
「訴えるって、何処の裁判所に申し付けるんだ。ゾンビがわんさか居るこの世界で、何処の裁判所も休業してんじゃないのか?」
「確かにな。あ~あ、俺の借金も消えてくれないかな・・・?」
「僕も、皮肉にもこの世界に感謝してます」
彼等は、アーミット社のコントラクター達を眺めた後、自分達が所属するオメガ・グループの指揮所に戻っていった。
一方、ワルキューレの本部でも、新たな動きがあった。
新しい司令官アレクサンドラが交代で着任し、部隊配置が円滑に成ったからだ。
前任者であったハナは、移動となる。
ハナの倍はある180㎝の高身長な彼女は、元ロシア軍の大尉。
実戦経験もハナの倍であり、戦場のイロハも熟知している。
「じゃあ、私はハワイでバカンスしてくるから日本はお願いね~後アニメのグッズにDVDとBDとか、回収しといて。じゃぁ~ね」
鞄を持ち、菓子を食べながら司令室を出て行くハナ、見ていたアレクサンドラは椅子に座り、指揮を執る。
実戦経験のある現場指揮官の指示は正しく、これまで鎮圧に時間が掛かっていた地域が僅か一時間に加速し、部隊の行動速度も速くなった。
「あの人、指揮力半端無いね?」
「可愛く無くなったけど、ちょっと格好いいかも・・・」
目に入れても痛くない容姿のオペレーター達が、新しい司令官であるアレクサンドラの指揮の高さを語り合う。
「そこ、無駄口を叩くな!現場に指揮を伝達しろ!」
感づいたアレクサンドラは、そのオペレーターを注意した。
「勘も鋭いね」
「うん」
注意されたオペレーター達は、彼女に聞こえないように小声で言った後、仕事に戻った。
「(それにしても何故あの床主だけ鎮圧速度が遅い・・・?他の県や地域はほぼ鎮圧できてる・・・そしてあの地区だけ被害が多い・・・どういう事だ?)」
床主の鎮圧できないことを疑問に思うアレクサンドラ、直ぐに地区担当者に問い質す。
「どうしてあの地区だけ、完全に鎮圧できない?それに損害が大きい・・・資料を見る限りとても歩く死人の仕業とは見れんが・・・」
この質問に担当者は戸惑う。
暫し担当者は部下達と議論した後、司令官であるアレクサンドラに答えた。
「あの地区とその付近で被害が多いのは事実です。偵察機や目撃者の報告によれば、タイガー戦車を見たとか、美少女の姿の化け物が殺し回ったとか・・・色々です」
答えを聞いたアレクサンドラは、暫し黙り込み、口を動かす。
「その報告書を提出しろ、それに目を通して対策を練る」
これを聞いた担当者は、直ぐに報告書の作成に入った。
そして床主の高城邸では、雨が降り注ぐ中、孝と沙耶が避難キャンプに居る市民団体の皆様の説得を行っていた。
何故かゴロドクも居る。
「まぁ、あの暴力男の娘ですわ!」
三人を白い目で見る女は、キャンプ内に居た他の団体員と一緒に騒ぎ出す。
「私達は説得に来ました。決して従わせる為に来たわけではありません・・・」
そう沙耶が言うも、市民団体の皆さん方は全く話を聞こうとはしない。
「全く現状が見えてないようだな・・・」
「仕方ないわよ、世界がこんな状態になったんだから・・・あの人達はみんな今の現状を理解したくないのよ」
「そう言う意味か・・・」
孝は沙耶の皮肉に納得し、暫し騒ぐ市民団体の虫けら共を眺めていた。
煩すぎたのか、ゴロドクは前に立った。
「ふ~ん」
大きく息を吸った後、何かを言おうとした。
ゴロドクは日本語なんて喋れない、もちろん英語も、登場で黙った左翼の皆さんに叫んだ。
「この敗戦主義社め!現実を見ろ!!」
思いっきりロシア語で叫んだ為、全く通じず、当然のことながら非難を浴びる。
「この男もあの男と同じ過激思考を押しつけようとしてますわ!」
左翼団体は騒ぎ始めた。
逆ギレしたのかゴロドクは拳銃を抜こうとしたが、沙耶と孝に止められる。
これ以上の説得は無理と判断した三人はテントの外に出た。
「失礼な連中だ、現実を教えてやってるのに無視しやがる。あんな連中は放って置いて良しだ!」
傘を片手に差し、イライラしながら邸宅に入っていった。
ロシア語で言ったので、英語しか分からないあの者達には通じないが。
向かってる最中に、壮一郎の部下に案内される紫藤が目に入り、思わず声を出す。
「なんだあのいけ好かない奴は・・・?」
言葉の壁に阻まれているので、孝と沙耶からすれば何を言ってるのか分からない。
そのまま三人は、邸宅に入って行く。
入った後、頼んだ張本人である百合子が沙耶に結果を聞いてきた。
「どうだった?沙耶ちゃん」
「駄目だったわママ、あの人達全く話を聞かない。勝手に来たロシア人のおっさんの所為で失敗よ」
百合子はゴロドクと、隣で苦笑いをする孝を見ながら自信も苦笑いして、沙耶に優しく叱った。
「いくら言葉が通じないとはいえ、このロシア人の方を悪く言う物じゃありませんよ。沙耶ちゃん」
「分かったわよ・・・ママ」
「(こいつ等の言ってることがさっぱり分からん。こうならない為にも大学に行くべきだった)」
彼等の言葉が分からないゴロドクは心の中で悩むのであった。
隣にいた孝も、そんな彼の状態を直ぐに理解する。
「(この人もこの人なりに悩んで居るんだな・・・)」
しかし、孝は説得に失敗した事と勘違いしている。
部屋に案内された紫藤は、壮一郎と何故か居るリヒターとの会談を行っていた。
次回、源文勢と紫藤との対決編。
ちなみに死亡フラグじゃないよ。