学園黙示録 ゲンブンオブザデット   作:ダス・ライヒ

117 / 120
次はリディア戦です。


次の刺客

ケストナーを倒し(?)、ルリがストライクウィッチーズと合流した頃、近い場所で野営を取っていたリディアは配下の兵を集め、広場に集合させていた。

 

「(戦車は私のを含めると5両、トラックが3台で歩兵が15人。これじゃぁ、足りなさすぎるわね)」

 

集合していた自分の戦力を数え、苦悩な表情を浮かべて頭を抱えたリディア。

彼女の目の前で集合しているのは士気の低い女性ばかりで、戦車兵に至っては少女が大半を占めていた。

成人女性はM3A5リーとM3グランド中戦車各車の戦車長か、自身が乗るウクライナ製のT-84だけである。

ルリが写っている写真を懐から取り出し、全員に見えるよう高く上げる。

 

「さっきから無線でこの娘を見付け次第保護せよと煩いけど、その指示に従うことにしたわ。マクシミリアンに従うのはもう無しよ。この娘を捕まえてワルキューレに渡せば、私達は戻れると思うわ」

 

リディアの命令を聞いていた兵士達はざわざわし始めた。

どうやら自分達がまだワルキューレに属していたと思っていたらしく、いつの間にか離反していた事など気付かなかったようだ。

気付いている兵士も居たが、度重なる新手のゾンビとの戦闘で散っていき、最後に残ったのが今集合している歩兵15名と戦車兵27、本部付き9名である。

 

「(頭の良いのは殆ど死んじゃったか・・・)じゃぁ、早速任務に取り掛かるわよ!」

 

リディアが手を叩いた瞬間、配下の兵達はそれぞれの持ち場に着いた。

そして、一番先頭にあるT-84のキューポラに腰掛けるリディアの手が振り下ろされると、部隊は一斉に目標地点へと向かった。

一方、ケストナーの基地を壊滅させたルリ達は体術で倒した彼の兵士達をやや強引な手で喋らせ、マクシミリアンが居る無人島への生き方を知った。

 

「どうやら船を使って移動したらしい。港はここからそう遠くないそうだ」

 

両手を縛られて伸びている敵兵達を親指で差しながら美緒は集合している自分の部下達に告げる。

次にミーナが口を開いた。

 

「付近に敵影はないとされるけど、ここに向かってくる物音はあるわ。それが敵であった場合、交戦することになります。目的地まで上空で移動します。ルリちゃんはバルクホルン大尉が抱えて。では、5分後に出発します。解散!」

 

ミーナが言い終えると、全員が屋根のある建物へ避難した。

暫しして、ルリ以外の全員がストライカーユニットの点検を終えた後、レインコートを着用し、ストライカーユニットを足に装着。

腕時計で5分経ったのを確認したミーナは全員に合図を送った。

 

「5分経過、全員移動を開始します!」

 

バルクホルンがルリを抱えた後、全員が雨雲の空へ飛び立った。

もちろん下の辺りはレインコートの所為で、隠れて全く見えない。

目標まで近付いた瞬間、銃声が彼女等の耳に入ってきた。

 

「近くで戦闘をやってるな。何処の連中だ?」

 

美緒が右眼の眼帯を外して、戦闘が行われている場所を見た。

そこにはソ連の二足歩行戦闘型や浮遊してレーザーを撃つ戦車と交戦しているバウアー達の姿があった。

 

「これは驚いた・・・!ミーナ、彼等だ」

 

眼帯を元の位置に戻した美緒から報告を受けた後、ミーナは双眼鏡を取り出して、戦闘の様子を見た。

 

「ほんとだわ、直ぐに助けに行かないと・・・!」

 

そう言ってから、直ぐにバウアー達の元へ急ごうとしたが、真下の森からのレーザー攻撃で封じられる。

 

「クッ、そう簡単にいかないか!全員、地上からの攻撃に注意せよ!」

 

『了解!』

 

避けながら美緒が言った後、全員が返事をしてから散会した。

ルリを抱えるバルクホルンは、彼女を左腕に抱えたまま右手に握るStg44の安全装置を外し、レーザーが放たれている場所に撃ち始める。

 

「そこか!」

 

森の中から銃弾を弾く音が聞こえた。

バルクホルンは一気に接近し、銃身に持ち替えてから魔力を込めて、戦闘型にStg44の木製ストックを振り下ろした。

だが、装甲版が凹む程度であり、戦闘型は直ぐ反撃行動に移る。

 

「なんて装甲だ・・・!」

 

直ぐに戦闘型から離れたバルクホルンは戦闘型の堅さに驚く。

その直後、砲声が響き、左腕に抱えられていたルリが左に指を差しながら叫んだ。

 

「危ない!」

 

左に視線を向けると、砲弾がバルクホルン達に目掛けて飛んできたのだ。

慌ててシールドを張るバルクホルンであったが、シールドは間に合った物の防ぐことが出来ず、吹き飛び、衝撃でルリを離してしまった。

 

「しまっ・・・!」

 

直ぐに戻ろうとしたが、戦闘型の攻撃で迎えに行くことが出来ず、ルリはそのまま地上の森へと落ちていった。

木の枝にぶつかりながらも何とか枝に掴むことに成功し、地面に激突せずに済んだルリ。

自身の身を守るマグプルMASADAが壊れていないか確認する。

 

「良かった・・・壊れて無くて」

 

何処も壊れてないか確認し終えた後、地面に降り立ち、戦闘型に見付からないよう移動する。

その頃、バルクホルンを撃った正体であるT-84に乗るリディアは砲手を褒めていた。

 

「やるじゃない、空中で移く目標に当てるなんて!」

 

「ありがとうございますリディア様。なんか、たまたま当たりました」

 

砲手は照れながらお礼の言葉を述べていた。

 

「元の職場にいたらかなりの大金が稼げたでしょうに・・・じゃぁ、ルリちゃんを捕まえに行くわよ!全車前進!!」

 

右手で指差すリディアの指示で、全車がルリの居る方角へと向かった。

そして狙われていることを知らないルリはリディアが予想する地点へと徐々に近付いている。

その地点にルリが足を踏み入れた瞬間、M3グラントの37.5口径75mm戦車砲M3の砲撃が行われた。

後方に榴弾が着弾し、衝撃でルリは吹き飛び、泥だらけの地面に叩き付けられる。

 

「だっは!」

 

全身が泥だらけになりながらもルリは立ち上がり、直ぐ身を隠す場所まで移動する。

その後も連続してM3各車両の威嚇射撃が行われる。

グラントの車内にて、女性の戦車長が、無線機を使って隊長であるリディアに報告を行う。

 

「ラビット1から女王へ、目標を発見しました。現在威嚇射撃を行い、釘付けにしてます。捕獲部隊の投入を願います」

 

『予想通りね、歩兵部隊が来るまで砲撃を続けなさい』

 

「はい、リディア様。そのまま歩兵部隊が来るまで砲撃を実行、歩兵部隊が来たら砲撃中止」

 

返事をした後、喉マイクに手を当て、砲撃や装填を続ける少女達に命じた。

 

『逃げてないかちゃんと見張っておくのよ。じゃあ私も行くから』

 

「了解、砲撃を続けます」

 

無線を切った後、席に座ってルリが動いてないか確認する。

爆風で殆ど見えてないが、熱源探知レーダーを確認しながらルリが何のアクションをしてないか見る。

一方、砲撃を受けているルリは、どうやって向こう側に向かうか頭を抱えながら悩んでいた。

 

「どうしよう・・・?どうやって抜けよう・・・」

 

頭を抱えながら辺りを見渡し、何処か抜ける場所はないか、探す。

見付けて向かおうにも動いた瞬間、敵が熱源探知レーダーを持っている為、退路が直ぐに砲撃され、全く行けなかった。

不老不死だから一気に向かおうとしたが、今着ている服がズタズタになるのが嫌なので、動くことが出来ない。

ふと、彼女は体中に付いた泥に思い付いた。

 

「映画で見たように行けるかな?」

 

そう思い付いたルリは全身に泥を付け始めた。

その直後、砲撃が一瞬止む。

M3グラントに乗る戦車長は熱源探知センサーにルリの機影が消えて、混乱し、砲撃を止めるよう指示をする。

その隙にルリは這いずりながら砲撃を抜けようとする。

 

「え、消えた!?ほ、砲撃中止!」

 

「占めた!」

 

泥塗れになりながらもルリは素早く移動した。

数秒後には砲撃が再開され、ルリの足に飛んできた石が刺さる。

直ぐ石を抜いてダッシュでその場を離れる。

当然ながら気付かれ、砲撃がルリに集中する。

必死で走って避けながら兵士の死体が複数転がっている場所で、対戦車火器を探す。

 

「あった!」

 

ご都合主義的にもPIAT(ピアット)を見付けてしまったルリ。

対戦車弾が装填されているのを確認し、追撃してきた一台のM3A5リー中戦車に向けて撃った。

無反動ではないピアットの引き金を引いた瞬間、右肩に強い衝撃が来る。

飛ばされた対戦車弾は28.5口径75mm戦車砲M2に命中、全面に付いた主砲を無力化したが、副砲である37㎜戦車砲はルリを捕らえており、まだM3リーは動いていた。

ルリは砲撃を避けるのと同時に別の対戦車火器を探す。

 

「無い、無い!?」

 

だが、こんな時に限って見付からない。

一瞬パニックに陥るルリであったが、迫撃砲の砲弾を見付け、信管を叩き、それをM3リーの履帯に向けて投げた。

砲弾が当たった履帯は切れ、M3リーは行動不能に陥るが、搭載されているM1919A4が火を噴く。

何発か身体に命中したが、彼女は不老不死であり、死にはしない。

それに驚いたM3リーの乗員は射撃を止めてしまい、ルリに対戦車砲弾を探す時間を与えてしまう。

 

「あった、食らえ!」

 

見付けたルリは信管を堅い所に叩き、何の躊躇いもなく対戦車砲弾を投げた。

装甲が脆いM3リー中戦車には効果的であり、砲弾が命中した大破。

炎上するM3リーから、乗員が出て来る。

武器を持っていると分かったルリは、マグプルを彼女等に向けて引き金を引いたが、機関部に泥が入っているので、マグプルは全く作動しなかった。

こちらに向けて撃ってくる行動は見られないので、ルリは逃げる戦車兵達を見逃すことにした。

泥で殴ることしかできなくなったマグプルを捨てた後、周囲に倒れている死体からMP5A5を拝借する。

次のM3A5リー中戦車がグラントを含めて3両も向かってきたので、砲撃にさらされながらもM9バズーカを見付けることが出来た。

機銃を撃たれながら身を隠した後、ちゃんと対戦車ロケットが装填されているのを確認し、直ぐにM3リーに向けて撃った。

一撃で大破し、中から乗員達が飛び出してくる。

次のM3リーを撃破するためにルリは念の為に持ってきた対戦車砲弾を取り出し、こちらを踏みつぶしに着たもう一両のM3リーに向けて投げ付けた。

車体上部に命中した為、突然ながら大破した。

最後のグラントの砲撃を受けて、直ぐにその場から離れる。

機銃攻撃を受けながら、次の対戦車火器に辿り着くことに成功した。

その対戦車火器はまたM9バズーカであり、今度はロケットが装填されていなかった。

袋に入ってるロケットを袋ごと回収した後、直ぐにその場から逃げる。

隠れる場所は全て吹き飛ばされたが、自然に出来た蛸壺に隠れ、急いでロケットをM9バズーカを装填する。

 

「入った!」

 

直ぐにM9バズーカを構え、グラントに撃った。

グラントの側面に命中し、豪快に爆発して大破した。

全て破壊し終えたルリは一息つこうとしたが、今度は歩兵部隊が来襲し、しかもリディアが乗るT-84まで来た。

 

「戦車を全滅させるなんて・・・!あの娘化け物なの!?」

 

リディアは破壊されたM3A5リー・グラント中戦車を見て、苦笑いしながらルリを見る。

銃撃に晒されながらルリはM9バズーカを捨てて、MP5をフルオートにして撃ちまくった。

何名か撃ち倒した後、直ぐに後退する。

丁度地面に落ちていたバレットREC7を回収し、MP5を捨てて、安全装置を外してREC7を構えて、一人ずつ仕留めていく。

ある程度倒せば、元の持ち主の死体から出来るだけ弾倉を回収し、また後退した。

 

「味方の歩兵部隊が壊滅してます!」

 

「分かってるわよ、そんなことぐらい!そう言えばあの娘、撃たれたのに元気に動いてるわね・・・戦車砲で吹っ飛ばしても再生するかしら・・・?目標12時方向、あの娘を撃ちなさい」

 

操縦手からの報告を聞いたリディアは子供のような無邪気な表情でそう思い付き、砲手にルリを撃つよう指示を出した。

その指示に砲手は異議を唱える。

 

「えぇ、でも、殺さずに傷一つ無く捕らえるんじゃ・・・」

 

「良いから撃ちなさい!」

 

リディアは砲手に指示棒を突き付け、砲手を服従させた。

発射ボタンが押され、T-84の51口径125mm滑腔砲KBA-3の砲声が響き、砲弾が真っ直ぐルリに命中。

装填されているのが徹甲弾であった為、ルリの上半身と下半身を引き裂き、凄まじい血飛沫を上げる彼女の後ろで爆発が起きた。

 

「目標に命中・・・」

 

砲手が上半身と下半身が引き裂かれたルリを見て、車長であるリディアに報告する。

 

「まだ息があると思うわ。トドメを刺しちゃいなさい」

 

歩兵部隊に指示を出し、それを受けた一人の童顔の軽歩兵が手に持つLWRC M6をルリの上半身に向けて数発程撃ち、彼女にトドメを刺した。

完全にルリが動かなくなるのを確認した歩兵部隊は銃を降ろして一息付く。

 

「もし外れたら私達、確実に殺されるわね・・・」

 

額に汗を浮かばせながらリディアはルリが見える位置まで接近し、無惨な姿の彼女を見た。

暫く見ていると、リディアの瞳から涙が溢れてきた。

 

「やだ、(あたし)、泣いてる・・・?」

 

涙を拭こうと右手で拭いた瞬間、一人の歩兵の叫び声が耳に入った。

 

「いやぁ・・・い、生き返ってる!?」

 

その叫び声の後に、リディア以外の全員が声を上げる。

 

「え、嘘!生き返ってるの!?」

 

周りの反応を見て、ルリの方を見てみると、彼女の上半身と下半身が繋がっている光景が目に入った。

 

「当たった・・・!ほら、私の言う通りじゃない!」

 

リディアは恐怖ではなく、予想が当たったことを喜び、周囲を見た。

再生した彼女は右手に魔力を込め、充分に溜まればそれをリディアのT-84に向けて放った。

戦後世代の戦車、特に第三世代の戦車はRPG-7のような対戦車ロケットに耐えることが出来るが、この魔力弾は防ぐことは不可能である。

砲手と操縦手が一目散に脱出したが、リディアは決して動くことは無かった。

前面装甲に命中し、飛んできた破片が彼女の腹に突き刺さった。

 

「ガハッ!」

 

T-84は辛うじて耐え抜いたが、車内は火に包まれ、火薬庫にも火が回っている為に爆発までそんなに時間は掛からなかった。

腹に刺さった破片を抜いたリディアはキューポラから外へ出て、ズタズタで素肌が見えているルリに向けて、自分のマントを投げた。

 

「風邪を引くから・・・それでも付けてなさいな・・・それとなんでこんな時に私は敵を心配してんのかしら・・・?」

 

突然マントを渡されたルリは何が何だか分からなかったが、理由を聞く前にT-84は爆発。

リディアはそのまま爆風に呑まれ、影も形もなくこの世から去った。

周りにいた敵兵達は、ルリに恐れをなして、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。




次も前回に言ったとおり、ボスラッシュです。
それと後数話ほどで終了します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。