ルリ達がワルキューレの陣地に向かった後、彼女達の姿が見えないことにいち早く気付いたのはスコルツェニーであった。
「おい、セルベリア大佐はどうした?!これから偵察任務に行こうと言うときに・・・」
消音器付きのワルサーP38を腰に巻き付けられたガンベルトに差して、身長190㎝代の男が辺りを見渡しながら探している。
その言葉でルリ達が居ないことに全員が気付き、ジェイコブが偶然にもやって来た階級の低い空挺兵達に声を掛け、探させようとする。
「お前等、非番なら嬢ちゃん達を探せ!特徴は銀色の長い髪に巨乳だ!!」
『サー、イエッサー!!』
直ぐに空挺兵達はルリ達の捜索に当たる。
「残念だったな・・・彼女達には敵陣後方への情報収集に当たって貰いたかったが・・・」
リヒターは柱に体重を乗せているシュタイナーに目を付けながら言った。
その当の本人は帽子を深く被って顔を隠し、ほくそ笑んだ後に第82空挺師団の本部に向かおうとしていたが、リヒターに声を掛けられた。
「待て、先のソ連軍の暴走とフロイライン達の抜け駆けは全て君の仕業か・・・?シュタイナー少佐」
「もし、そうだとしたら・・・?」
「貴重な戦力を削いだ罪で即席牢屋の中で監禁だ。それとこの場で銃殺刑だ」
シュタイナーは立ち止まって、リヒターがルガーP08を引き抜いて安全装置を外し、銃口をこの場から立ち去ろうとする男に銃口を向ける。
「この場で銃殺刑ですか・・・その件は私には一切知りませんな。取り敢えず自分は作戦会議がありますので失礼させていただきます」
こちらに振り返り、何の動揺もしなかったシュタイナーはそうリヒターに告げ、師団本部に向かって行く。
銃口を向けてるにも関わらず、その無愛想な男が立ち去ったのを確認したリヒターはルガーP08の安全装置を起こし、ガンホルスターに仕舞ってからシュタイナーと同じく、師団本部に向かった。
その頃、ワルキューレの陣地近くまで来たルリ達は偶然にもゲイツに出会った。
直ぐにセルベリアがM249の銃口を身長190㎝の男に向ける。
「分が悪いようだな・・・お嬢さん、撃たないでくれ。俺はゾンビじゃない」
ゲイツは直ぐに手を挙げて、BJのボディチェックを受ける。
「そちらのお嬢さんにボディチェックを受けたかったが・・・」
「ジョークを言うじゃない。タマを吹っ飛ばされるぞ」
BJは冗談を言ったゲイツに警告した後、たいした物は持ってないとセルベリアに告げた。
「そうか・・・では、貴様はただの生存者か?」
「あぁそうだ、生存者だ。これを聞いたら精神病院に入れたいだろう?俺は核戦争後の世界からやって来た」
このゲイツが言った事にルリ達は「この男も転移者」と察し、自分達も転移者と名乗る。
「あんた等も転移者か・・・で、これから何処へ行くんだ?」
「世話になった者達を助けにな」
ゲイツの問いにカールがセルベリアの代わりに答える。
「世話になった者達か・・・どんな面か見てみたい。一緒に連れてってくれ」
ゲイツがルリ達の顔を見ながら頼み込んで来た為、全員が連れて行くかどうかを検討する。
「どうする、連れて行くか?」
腕組みしながらBJがセルベリアに話し掛け、カールも話し掛けてくる。
「大柄な男だ、少し目立つが目付きを見れば地獄を駆け抜けてきた目だ。連れて行こう」
全員が階級の高いセルベリアを見ながら問うので、彼女は直ぐにゲイツを仲間に引き入れることに承知した。
「仲間に入れよう。役に立つかもしれない」
「ありがとう。その言葉通り、役に立たせて貰おう」
互いに握手した後、ゲイツを新たに加えたルリ達はワルキューレの陣地近くまで向かう。
陣地近くまで着いた彼女等は身を隠せる程の茂みに隠れ、セルベリアが双眼鏡で陣地を観察する。
「戦車が100、型は様々・・・歩兵が多数。機関銃座が多数・・・分かるか?」
近くまでやって来たバウアーにセルベリアは問う。
彼女も双眼鏡を持って、敵戦車の車種を確認する。
「戦車は私達を襲撃してきた部隊の物です。35t軽戦車、38t軽戦車、M3軽戦車、オチキスH35軽戦車と九五式軽戦車と九五式中戦車があります。銃座は・・・」
銃座を双眼鏡で見たバウアーの代わりにカールが言う。
「水冷式型機関銃のブローニングM1917やヴィッカース重機関銃だ。トーチかは壊れた駆逐艦の主砲を流用した物ばかり」
カールの適切な説明にセルベリアとバウアーは驚いた。
彼の言うとおり歩兵の装備も第二次世界大戦下の英連邦のままで、戦車も軽戦車ばかり、機関銃とトーチカすら大戦前半の物だ。
現用装備の一個大隊にでも攻撃されれば、容易に突破されるだろう。
三人が敵陣を観察している途中、砲声が聞こえた。
「この砲声は・・・?」
「ソビエト軍のISU-152自走砲の砲声だ。こいつはもう勝負が付いた物だな」
カールは砲声が聞こえてくる方向に指を差しながらセルベリアに伝えた。
彼女がその方向に双眼鏡を合わせてみれば、ソ連赤軍の二個旅団がワルキューレの陣地に突っ込んでいくところが見える。
T-34/85中戦車の車上にタンクデサントした歩兵が複数見え、他のKV-85重戦車やIS-2重戦車にもタンクデサントした歩兵が居る。
さらに当時のドイツ兵からスターリンのオルガンと呼ばれたBM-13カチューシャも見え、雨のようなロケット攻撃が開始され、攻撃されるワルキューレの陣地が壊滅していく。
「戦闘が始まります!」
バウアーが双眼鏡でワルキューレの貧弱な軽戦車と強力な大戦後期のソ連赤軍戦闘車両が交戦しているのを見て、全員に知らせる。
圧倒しているのはソ連赤軍の方であり、ユズコ軽師団の残りと防衛に当たっていた部隊が市街地へと撤退していくのが見え、それを追うようにソ連軍が市街地へと突っ込む。
これを好機と見たBJはセルベリアに陣地に潜入する案を出した。
「どうだ。今が絶好のチャンスと思うが?」
「そうだな・・・しかし、私は敵陣深くに乗り込んだ経験はない・・・」
俯いて悩むセルベリアであったが、そんな彼女にリエラが声を掛けた。
「私達はあるわよ・・・」
「なに、本当か・・・?」
「えぇ、ガリア戦記の時に国外の補給基地を襲撃する時に・・・」
セルベリアが聞いてきた為、リエラは前に居た世界で行った極秘任務を包み隠さず話した。
「成る程・・・では、直ぐに取り掛かるか」
全ての事を聞いて頷いたセルベリアは、待機していた全員に呼び掛け、大規模な戦闘が行われている市街地へと入っていった。
「敵戦車が市街地へ入った!対戦車戦闘用意!!」
何処から女性の声が聞こえ、
彼女等が纏っている戦闘服は市街戦用の迷彩服を纏っており、被っているMk2空挺用ヘルメットには偽装ネットが取り付けられ、そこに草等を貼り付け、何時でも攻撃できるようにしていた。
殿を努めるT34/85が、彼女等が持つ対戦車火器の射程内に入ったところで攻撃が始まる。
「市街地に敵兵が多数潜んでいる!歩兵の同志諸君は直ちに排除に当たれっ!!」
赤軍指揮官が怒号を飛ばし、その命令に従ったモシン・ナガンM1891/30、SVT-40、PPsh41、PPS43、DP28等を持ったソ連赤軍歩兵が戦車から降りて、ワルキューレの空挺兵達と銃撃戦を行う。
自分達の存在に気付いてないと判断したセルベリアは、この隙に市街地を走り抜けようとする。
大人数での行動しているので、いつ見付かるか分からない。
そんな心配をしながらルリ達は銃声が小さく聞こえるくらいの場所まで付いた。
『敵の機甲部隊が第二防衛ラインに差し掛かっている。もうすぐ突破されそうだ。手が空いてる者は直ぐに援護に迎え!』
カナダ製FN FAL、C1を持った指揮官らしい半袖の女性が一個小隊分の人数に命ずる。
その指示に従った空挺兵達は直ぐに現場に向かった。
辺りに歩哨が居ないと確認したポイントマンのカールは、ハンドサインで「歩哨無し」と後ろにいる全員に伝えた後、次の隠れる場所まで走った。
途中、真ん中を走っていたリコルスが何もない道路の上で躓いて転んでしまった。
現用米軍のゴテゴテした装備が落ちた音が鳴って、屋根の上にいた歩哨が気付いてL1A1の安全装置を外して、ルリ達が居る場所まで様子を見に来る。
「早く立て!バカッ!」
後衛を努めるBJは直ぐにリコルスを立たせた後、全員が身を隠せる場所まで素早く向かった。
「異常なし・・・」
痕跡も残さず姿を消したので、歩哨は全く気付かない。
歩哨が元の警備ルートに戻った後、歩兵を車体に乗せたセンチュリオンMk3戦車が、その場を通り過ぎた。
その頃、同じくこの世界に転移したハイトは、ワルキューレの仮設の航空基地に潜んでいた。
「ジェット航空機が全て旧式ばかり・・・しかも殆どが化石のレジプロ機・・・どうなっているのかしら・・・?」
双眼鏡でそこらにあるジェット航空機や時代に合わないレジプロ機を見ながら呟くハイト。
彼女が見ている視点には、疲れ切った女性整備兵やパイロットがパイプ椅子や組立式ベットに寝ているのが見える。
その中には20代にも満たない少女の姿もあり、疲れているのか、壁に凭れて寝息を立てて寝ている。
おそらく連続した出撃で疲れ切っているのだろう。
そう考えたハイトは機体を盗むのが用意と判断した。
警備兵の位置を確認した後、彼女は何時でも飛べそうな機体を隠れながら探す。
「二発の練習機なら飛ばしたことがあるから多分行けるでしょうね」
大量に並んでいたカーチスP-40キティホーク4に目を付けたハイトは微笑んで、そこへ向かった。
向かう先にいたM3A1サブマシンガンを持った女性警備兵に首を抑える。
長い期間を受けて鍛え上げられた海軍の女性士官候補生に、高々1~2週間程度の訓練しか受けてない女性が勝てるはずもなく、あっさりとハイトに気絶させられた。
「悪く思わないでね」
ゆっくりと警備兵を地面に下ろした後、ハイトはキティホークに近付き、機首に描かれたアニメ絵の魔法少女を見て、ふと疑問に思う。
「変な塗装・・・この機体のパイロットは何を考えてるのかしら・・・?」
少し引いたハイトだが、整備兵やパイロットが来ないうちにコクピットを開けて操縦桿を握った。
「珍しいわね・・・こんな化石を今も尚使ってる国なんて・・・」
もちろんワルキューレは単なるバカでかい軍事組織なので、この機体を今も尚使っているのはワルキューレか、異世界の国家群だけである。
エンジンを始動したハイトは周囲を見渡し、滑走路に向かった。
組立式の管制塔からは突然動いたキティホークに驚き、女性管制官が拡声器を使って止めようとする。
『そこの機体!直ちにエンジンを停止して止まりなさい!!許可の無い発進は許されない!!』
警告する管制官であるが、ハイトは無視して滑走路に向かって空に飛び立とうとする。
この機体の主である少女が悲鳴を上げているが、彼女はお構いなしだ。
『もう!!対空砲、あの機体を撃墜せよ!!』
ボフォース機関砲がハイトのキティホーク4に向けられ、安全装置を外した砲手が、狙いを付ける。
飛び立つ前に撃墜されると判断したハイトは空に飛び立つ為にスピードを上げる。
「上がれぇーっ!!」
ハイトが叫び声を上げながら操縦桿を上に引き上げた後、キティホーク4が空を飛び立った。
地上にいたワルキューレの航空隊は直ぐに追撃機の用意をするが、恐らく間に合わないだろう。
対空砲の方かを避けながら、キティホーク4に乗ったハイトは安全な空へと逃げ込んだ。