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第二の人生はロシアで始まった。
別に旅行や仕事に行って永住しようと決めたわけではない。
掻い摘んで説明すると、目覚めたら悪魔祓いになってた。
顔とかは元のまま、ロシアでエクソシストである。
人生って何があるのかわからないな。
元の住所を調べてみると、住宅街は存在せず。
代わりに在ったのは学園都市という外界と壁で隔てられた科学が進んだ都市だった。
そこでは超能力開発を行っているらしい。
なんて胡散臭いのだろうかとも思ったが、今の俺の仕事も十分胡散臭かった。
職場では魔術とか使ってる人がいるからどっこいどっこい。
悪魔もいるっぽいし、超能力も事実の可能性が高い。
ワシリーサに弄られているサーシャに泣きつかれた。
実力行使に及んでも、ダメージが入らないため、引っ付かれて嫌がらせをされるとか。
サーシャが可愛いのはわかるけど、あまり構いすぎるのもよくないと横やりを入れる。
ロリコンは黙ってろだと?
BBAには俺特製の聖水をぶっかけてやろう(提案)
貴様の邪念を祓えるだろう。
むしろ存在が消えるかもしれん。
邪念の塊だし。
俺は大丈夫。
ロリコンという名の紳士だから。
聖水でBBA魔術を無効化して放り投げておく。
着地の際に首が変な方向に曲がっていたが、死んでないと思う。
命の水がうんたらかんたらで、凄まじい生命力を発揮しているのだ。
駄目だとしても「でぇじょうぶだ、ドラゴンボールで生き返る」みたいな。
ドラゴンボールないけど。
ロシア成教に所属する女の子と遊んだり、お祓いやったり、お祈りやったりしていると辞令が下った。
半ニート状態の俺にも仕事が回される時がきたか……。
3日くらいかかるのかなと内心で甘く見ていた。
他の宗教団体が活発になってきたから対抗するため数合わせで学園都市に潜入してこいとのことだ。
しかも無期限。
なんて残酷なんだ。
サーシャとの蜜月の日々が終わるとか無いわー、とワシリーサに抗議しに向かう。
部屋に入って辞令が出たと伝えると凄い凄く良い笑顔で迎えられた。
行きたがってたでしょ?と慈愛の笑みを浮かべるワシリーサ。
日頃から迷惑かけてきたから休みに行ってくれとか。
俺は女の子と戯れる歪んだ日々を送るんだ☆と主張するには、ワシリーサの好意は純粋すぎた……。
しょうがないので大人しく日本へ渡ることにした。
部屋を出る時に自慢げにサーシャの衣裳を見せられた。
革ベルトと薄い布である。
間違いなく服ではないことがわかる。
着たら痴女確定だ。
ロシアであれとか変な男に襲われるわ。
むしろ襲わなかったら男じゃない。
俺が目にしたら理性がはじけ飛ぶのは確定的に明らか。
サーシャ、強く生きろよ。
日本まで飛行機で揺られ、電車に揺られ、バスに揺られ、学園都市に到着。
偽造の身分証明書を渡されて準備完了。
ご同輩の導きで内部に侵入する。
まあ、日本人なので身分証が必要になる機会は限りなく少ないと思うけど。
中に入ったまでは良かったが、やることがわからない。
ワシリーサが気を利かせて自由に振る舞えるようにしてくれたのはいいが、勝手がわからなすぎて困る。
行き当たりばったりで過ごし、他の団体が行動を起こしたら様子見の後に介入といこう。
行動予定が完璧すぎてビビる。
完璧な予定を立てても暇なんですけどね!
教会で祈ったり、掃除したりで午前中にはやることが無くなる。
誰かお祈り来いよと思ったりもしたが、日本人に期待するのは間違っている。
なので日中は街中に出て、野良占い師と化している。
星詠みなら俺クラスになると余裕のよっちゃんだ。
目の前を走り抜けていく髪の毛ツンツンの少年の星は詠めなかったけど。
……俺にだって出来ないことくらいある。
その後を追いかけて走っていく少女なら詠めた。
幾千にも重なる己との対面である。
初めてみた星だ。
わけわからん。
占いってホントにわけわかんねぇな。
というか、俺の占いの腕がクソなんじゃないかと疑い始めた。
使っている水晶が壊れているに違いない。
ロシア式修理術(祈って斜め45度を殴る)を使わざるをえないな……と一人ごちていると雷に打たれた。
バリッときた。
1000~2000m級の山でもないのに真横から雷とか学園都市は恐ろしいところだな。
隣を掃除していたロボットもぶっ壊れてしまった。
……弁償とか言われたら嫌なのでバックれよう。
占いをしているとしいたけちゃんがたびたび現れるようになった。
瞳にしいたけを宿しているという凄い人間だ。
学園都市側として許容している事件が起きるため介入しないようにとのことで、しいたけちゃんはお目付け役らしい。
組織の面子とかあるよね。
まあ、俺からは手を出さないけど相手から来たらわからんとか言っておこう。
空気がピリッとした気がした。
なんか張りつめた空気になってしまったので、しいたけちゃんを占いに誘う。
折角来たんだからどうよ、と取り出したるはタロットカード。
水晶?
捨てた。
水晶見て星が詠めるわけねぇじゃん。
今年のトレンドはタロットだし。
宙に浮んで自動でシャッフル、流石魔術である。
さあ、一枚どうぞ。
占いを信じていないのならば、躊躇う必要がないはずです。
ゆえに、何も怯えることはないのです。
貴女の人生の一部を切り取ろうとも、信じていないのならばオカルトなど関係ないでしょう?
結局占いをしなかったしいたけちゃんと別れて帰宅。
一息ついていると、イギリス清教に所属する「インデックス」と名乗る修道女が訪ねてきた。
うちの教会はロシア成教だが、問題ない……のか?
そういうのって俺にはわからん。
ワシリーサの仕事だし。
任せるのも自己チューってやつだろう、今度から理解を深めて手伝うとしようかな。
で、件のインデックスだが、追われているから匿ってほしいという映画のような状況らしい。
迷える子羊をうんたらかんたらって感じだろうか。
折角訪ねてきたのだから手助けしようか。
神の家だし……あってるよね?
俺って珍しく神父っぽいことやってて感動した。
その晩、教会に備蓄してあった食糧が消滅した。
目の前のカービィのせいである。
暴食は罪ではないのか、とインデックスの食欲に青筋を浮かべてしまった。
憤怒はダメなんだよっと白いシスターであるインなんとかさん。
その言い様に俺氏、激おこぷんぷん丸である。
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『警告! 禁書目録の「首輪」、第一結界の消滅を確認』
暴食に心を売った罪深きシスターが喉を詰まらせたので、手元にあった聖水を飲ませたら二重人格に目覚めた。
悪魔が憑いていて、それが聖水で祓われたとか、そういう設定だろうか。
中二病だか邪気眼だか知らないが、食事中に騒ぐとはいい度胸だ。
いつの日か思い出して枕に顔を埋めてジタバタするかもしれないが、ダメージは軽度のほうがいいだろう。
この不心得者が!と聖水の入った瓶を頭に振り下ろす。
硬質なガラスが砕ける音ともにインデックスの身体に水が降りかかる。
『第二、第三結界までの消滅を確認。「首輪」の再生まで三時間三十四分と予測。対侵入者用の特定魔術を発動』
まだごっこ遊び続けるのか、と聖水入り瓶を構えたところにビームをぶっ放された。
反抗期か!と驚愕しつつ防御。
この程度じゃ俺は倒せないぜ(ドヤァァァ とかやっているのだが、防御している腕から血が飛び散り始めた。
あれか、メギド的な万能攻撃か。
ちょっと反則すぎんよ。
いや、ちょっとタイム。
マジやばいから。
なんで俺に効いてんすかね。
ロシアならノーカンのはずだ、これがローカルルールってやつか……。
腕が徐々に削られて内心で超焦っていると、ぶっ壊れた教会の壁を伝って二人の魔術師が現れた。
「貴様、インデックスになにを!?」とか「そんな、あの子が魔術を……」とか二人の世界に浸ってないで助けろ。
今なら不法侵入も許してやる。
だから助けてくれさいお願いします!
『侵入者検知。戦場の再検索を開始……失敗。再検索を行います』
際どい格好をしたチャンバラガールがインデックスの足元を払って体勢を崩した。
赤毛で高身長の男はドヤ顔を決めている。
インデックスのビームが壁から天井まで全てを貫いた。
教会がああああああああ……。
流石の俺も怒りが有頂天で激おこぷんぷん、怒髪天を貫く。
今日は(説教で)寝かさないぞ☆とブチギレである。
天井が崩れて見晴らしが良くなり、天体観測しやすくなったなと見上げる。
中天に輝く月の姿に気分が高揚する。
ああ、そうだ。
インデックスにあげたから、聖水飲んでなかった。
『再検索……成功。幻獣の討伐を最優先に変更。呪術の逆算に成功、人狼と推測。「三つ首魔犬の苦悶(トリカブト)」の発動まで30、29、28……』
銀色の体毛が生え、口は耳元まで裂けて鋭利な牙が並び、体格が二回り以上大きくなった。
しなやかな手足には鋭い爪。
ちょっと猫背気味になるのと攻撃的になるのが欠点か。
月に向かって「わんわんお!」とひと鳴き。
ビームに逆らいながら一直線に進み、インデックスへと爪を振り下ろす。
切り裂くと表現するには、それはあまりに速すぎた。
インデックスの周囲に存在した術式を容易く引き千切り、砕けた術式の破片が粉塵となった。
それでもあまりある勢いが余波を生じさせ、全てを薙ぎ払った。
余波の衝撃で闇夜に吸い込まれるインデックスを見送る。
やりすぎた。
死んだかもしれん。
鬱陶しいほどに舞い散る羽根を手で払いながら思った。
結果から言うとインデックスは生きていた。
『歩く教会』という霊装のおかげで傷は無かったようだ。
むしろ両腕削られた俺の方が傷ついていた。
赤い髪のチンピラ神父とチャンバラガルがインデックスの扱いはもっと丁寧にうんたらかんたら。
おまえら追跡者だろ、なんで取扱いに注意されなきゃならんのだ。
インデックスは魔導書を10万……1万……100万……?
2億冊くらい所有していて、イギリス清教が所持しているものらしい。
めんどくさいから返還しようとしたが、却下された。
こんな危険物が暴走すると危ないし、現に暴走したから『オカルトの検閲と削除』が本職のロシアにまかせろーってことらしい。
チンピラとチャンバラねーちゃんも科学側なら安全だろうからと学園都市に置いとくよう言い残して、上の人に会いに行った。
科学側から「問題おこしてんじゃねーぞ、詫び入れろや!」みたいな抗議が入って来た。
「イギリスが起こそうとした問題」を「ロシアが十字教の面子のために収めた」と一点張りで通す、つまり全部イギリスのせい。
抗議があるたびに、しいたけちゃんが伝えに来るが、イギリスのせいとしか答えない。
あとはロシアが頑張るに違いない。
パシられるしいたけちゃんがかわいそうだ。
最終的にインデックスの面倒を見る、自宅警備員、来年には都市から出ていく、の三点で処置が決定。
やべぇ、意図せずニートになっちまったー。
あー、しょうがないなー。
こればっかりはしょうがないよなー。
約束守るためにしかたないからニートになるっきゃないわー。
インデックスに餌付けしながらニートになるしかないわー。
残念だなー仕事したいなー。
学園都市で暗躍する仕事が入った。
死にたい……。
暗部に入って学園都市を探ってね☆という仕事に就いた。
インデックスの子守りはステイルに任せて、俺はファミレスに来ている。
ロシアだろうがイギリスだろうが教会は教会なので、似非神父なステイルでも問題ないはず。
ファミレスがその暗部の集合場所となっている。
指示された席に向かって「大神 次郎です、レベル4の獣人変化(ワーウルフ)です☆」とランカちゃん張りのキラッをお見舞いする。
ビームで歓迎された。
熱烈な歓迎に顔を半分焼かれつつ、暗部「アイテム」の人員を見渡す。
鮭弁、鯖缶、雑誌、電波。
……帰りてぇ。
比較的まともそうな雑誌の隣に腰かける。
とりあえずコミュニケーションしよう。
「麦野さんババくさくね?」
ビームで抗議された。
他のお客さんに迷惑っすよ。
インデックスに餌付けしたり、アイテム連中と駄弁ったり、ビームで焼かれたり、仕事したりして過ごす。
今日はB級を超え、C級を置き去りにし、D級を遥か彼方に追いやるような映画の載っている雑誌を絹旗と眺めて議論。
相変わらずフレンダを占うと上半身と下半身が緩いという結果が出た。
そして、麦野が重役出勤したのでフレンダをデコピン。
抗議しているフレンダを見て、今日の真っ二つフラグが回避できたことに満足する。
こういった微々たる動作でも死亡フラグは折れる……無理なときもあるわけだが。
なぜか俺にビームが直撃。
科学の影響が強いとダメージが入りやすいようで、思ったよりも深い傷が巻き戻しのように再生していく。
もう慣れたもので、最初の頃にキョドっていた絹旗が懐かしい。
ドリンクバー用の氷で塔を作る。
氷と氷の接着面は聖水でくっつけている。
目線よりも高くなってバビロンだな、とドヤ顔を決める。
いつも同じメンバーだと気付く。
俺も大概だけど、おまえらも友達いねーんだな。
拡散ビームが炸裂した。
俺のおかげで店や人への影響は出なかったのが幸いか。
怯えた店長が現れた。
出入り禁止5件目待ったなしの予感……!
麦野ぼっちに話を聞くと、自分と釣り合うような相手がいないから好きでぼっちらしい。
聞きだすまでにビームを二桁は撃たれた。
なるほど、上位なら友達になるのか。
ちなみに三位はダメらしい。
ビーム撃たれたから間違いない。
ぼっち麦のん友達計画を手伝ってやんよ。
BBAセンスが直るかもしれないし。
さっきからビームが撃ちすぎっすよ。
麦野、クローンの指をしゃぶっている第一位を連れてきた!