実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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原作:魔法少女リリカルなのは リリカループ1-100

『1周目』

 

ニューゲームである。

ただし、強くてニューゲームかはわからない。

誰かに呼ばれた気がしたが眠かったので夢だったのだろう。

それから1週間くらい経った日曜日のサッカーの帰りに胸を貫く激痛とともに意識が遠退いた。

何が起きたし。

 

 

 

『2周目』

 

またもや同じ条件で赤子に転生した。

強くてニューゲームのときはいきなり人生がコンティニューだったからわからなかったがどうやらあれは死んだらしい。

初めて死んだというのに無味乾燥ものである。

死ぬ恐怖で「うわああああああ」と叫んで修羅と化し、ヒロインたちに「あの人は悲しい過去を背負っているのね……」と勘違いされたかった。

再びサッカーを行った。

警戒しながら家路に着く。

砕ける建物の奥から現れたのは木の幹だった。

予想外です。

俺は死んだ。

 

 

 

『3周目』

 

はいはい、コンティニューコンティニュー。

引き継ぎは記憶のみ。

自室で寝ていると誰かの呼ぶ声が聞こえた。

心霊現象怖いと布団に隠れた。

今回は無難に過ごす。

サッカーに行かなければ「ジュレイモン」もどきに殺されないに違いない。

油断した。

ジュレイモン以外にも化け物がいたとは……。

 

 

 

『4周目』

 

この街はおかしい。

俺が小学6年生に進学すると化け物とエンカウントするようになるとか無理ゲーすぎる。

今回は大丈夫だろうと油断することは出来ない。

なぜなら今回こそは生き残れるようにと神頼みをしに神社へ行って巨大な犬に食い殺されたからだ。

神め……。

 

 

 

『5周目』

 

なぜか今回は高町さんちに双子の兄がいた。

竜也くんという子だ。

素直で頭が良く、とてもいい子だった。

まあ、変化はそれだけだったけど。

俺を呼ぶ声も聞こえた。

死因はプールが荒ぶったことによる溺死。

最高に苦しかったので勘弁してください。

 

 

 

『6周目』

 

どう抗っても死ぬ。

どう抗っても俺である。

今回は体力を付けようと思って夜にジョギングしていたんだが、でけぇ黒い化け物に下半身を食いちぎられた。

 

 

 

『7周目』

 

またも声が聞こえた。

どうやら奇数周には声が聞こえるらしい。

声を辿って行くとイタチが死んでた。

おお、怖い怖いと埋めておいた。

数日後、街に溢れかえる化け物に潰された。

 

 

 

『8周目』

 

ちょっと無理ゲーだろって気がしてきた。

化け物が出現するとかどんな街だし。

闘うのは論外だ。

回避に徹してみよう。

ジュレイモンは俺に怨みがあるらしい。

 

 

 

『9周目』

 

やつの幹は回避できん。

家ごと潰すとか何事だし。

声が聞こえたので、今回もたどることにした。

よく観察してみたがイタチはどうやら生きているようだ。

動物病院に連れて行った帰り道、でけぇ黒いケルベロさんとエンカウントした。

なん……だと……。

 

 

 

『10周目』

 

ひきこもる→死ぬ

外に出る→死ぬ

サッカー→ジュレイモン→死ぬ

イタチを埋める→死ぬ

イタチを助ける→ケルベロさん→死ぬ

プール→死ぬ

どうしろと……。

他の街へ逃げようと思ったが無理だった。

俺には近くに親戚がいないのだ。

駄々こねても親に迷惑をかけるし、死ぬだけだから我慢するしかないようだ。

心配してくれる竜也くんだけが俺の癒しだよ。

撫でると赤くなるとか超かわいい。

まあ、俺も竜也くんも男なんですけどね。

双子なんで妹と似ているし、大丈夫だ。

散歩してたらケルベロさんに襲われた。

ちくしょう。

 

 

 

『11周目』

 

とりあえず、小6になるまでになんとか対策を……と思ったら車に轢かれて死んだ。

少女二人を誘拐しようとして俺が邪魔だった、的な流れっぽい。

車は壁にぶつかって止まったので、誘拐は失敗じゃねぇかな。

途中で死んだからよくわかんないけど。

 

 

 

『12周目』

 

声を聞く前に死ぬということもあるので超注意だ。

とりあえず目立っても、目立たなくも死ぬというある意味で後先考えずに生きていける。

学校に通わずにグレてみた。

流石ジュレイモンさんやでぇ……。

 

 

 

『13周目』

 

声が聞こえたが眠かったので無視した。

次の日、気になったので行ったら、何時だったか誘拐されかけた少女二人と高町さんちのなのはちゃんがいた。

イタチを保護したらしい。

新しい√を開拓した気分になった。

バーニングさんに睨まれて、森に逃げたら迷った。

夜遅くにやっとの思いで森から出たら化け物に食い殺された。

 

 

 

『14周目』

 

ペン回ししてて気づいた。

少しだけ技術を持ち込めるんじゃね、と。

コツを保有したままニューゲームが出来るらしい。

光明が見えた!!とばかりに神様にお礼を伝えようと神社へ走ったら死んだ。

神社は鬼門だと忘れていたぜ。

 

 

 

『15周目』

 

高町さんちの翠屋のシュークリームをもしゃもしゃしながら思った。

クリームが超うめえ、と竜也くんと一緒に貪る。

その夜、声が聞こえたので辿ろうとすると途中で竜也くんがいた。

夜遅くに出かけるとか危ないので連れて帰った。

 

今回は散歩しててもケルベロさんに襲われないという幸運な周らしい。

とか思っているとジュレイモンさんですね、わかります。

身構えていると、謎の服装に身を包んだ竜也くんがバリアーして守ってくれていた。

おにいさん、君の優しさに感動したよ。

 

そこでさっさと逃げればよかったのに助かったと油断してたわけで。

ジュレイモンさんが追撃を寄越してバリアーが割れて、俺が身を呈したとかいう感動のシーン。

笑いながら死ぬあたり、俺も慣れたモノですよね。

竜也くんもそんな泣きながら叫ばなくもいいんだよ?

まあ、どうせ復活するからいいやって感じだったし。

竜也くんも大袈裟だよね、まったく。

 

 

 

『16周目』

 

周回を重ねるごとに見えない技術ポイントが見えないところで溜まっているに違いない。

だってペン回しが凄いもの。

まるで生きているみたいだぜ。

 

どっかの道場に通えば体術ができるようになるかもしれないと思ったがすでに小6だったので諦めた。

さっさと死なないかな、とか思いながら道を歩いていたらひし形の宝石もどきを拾った。

光っ……?

 

 

 

『17周目』

 

まさかの爆弾か。

無造作に落ちている宝石もどきが爆弾とか無差別テロですね、死にました。

化け物がいるのにテロも起こるとか死亡フラグしか転がってないわけで。

勘弁してよね、ホントに。

ジュレイモンの一撃目を回避するも、追撃で死ぬ。

まさに二撃結殺である。

 

 

 

『18周目』

 

死ぬことに怯えない俺は死亡フラグが転がっている夜にもジョギングするようになった。

周回ポイント集めだ。

次のときには少し、さらに次には少し、と繰り返せば100周くらいで凄いことになっているんじゃないだろうかという気の長い期待だ。

12歳まで生きて18周目……考えないようにしよう。

混沌に這い寄られてしまう。

 

 

 

『19周目』

 

見知らぬ道場へ通う日々。

子供なので基礎の基礎だがやらないよりはマシだ。

真面目に取り組み、ジョギングも欠かさない。

いつものように石段を駆けあがり、化け物にがぶりんちょ。

神社は鬼門だと……。

 

 

 

『20周目』

 

俺の癒しである竜也くんが出現した。

わけがわからないよ、とばかりに困惑している兄妹を溶けるくらい撫でまわして可愛がる。

3歳とか超かわいいですね、癒しです。

 

懐かれた。

めっちゃ懐かれた。

 

竜也くんもいることだし、高町さんちに指導してもらう。

といってもやることは基礎だけだが。

衝撃を徹したり、貫いたり、斬ったりできるらしい。

小太刀でドラム缶を引き裂いているところを見た。

やっべえええええええ。

 

声が聞こえたが放置したら翌日、なのはちゃんが動物を拾ってきた。

イタチじゃなくてフェレットらしい。

飲食店だけど飼うことにしたとか。

さすがやでぇ……。

 

何事も無く、ジュレイモン。

流石にこれだけ経験したら一撃目は避けられるぜ。

見てから回避、余裕でした。

追撃は竜也くんが守ってくれた。

キャー、リョウヤサーン。

 

なのはちゃんが闘志を秘めた瞳をしていた。

なにこの娘、かっこいい。

撫でると驚いてたけど、喜んでくれた。

超かわいいですね。

 

20周目にしてクリアの予感……とかやってたがそう上手くは行かないらしい。

温泉に誘われて着いて行ったら、謎のコスチュームに身を包んだ高町ツインズと金髪幼女、犬耳娘がバトってた。

犬耳さんが良い身体してて穴が開くほど見てたら襲われた。

腹にパンチされて身体数メートル吹っ飛ばされて、血反吐を撒き散らして死んだ。

乳揺れに気を取られて避けられなかったとか……そんなんじゃ決して無いです。

つうか腕力が凄すぎるわ……。

 

 

 

『21周目』

 

周回プレイを重ねようともあれは仕方ないよな。

露出はずるい、と思いながら周りを見回すといつものあかちゃんスタートではなく温泉の泊まりの部屋だった。

俺歓喜!!とばかりに外に飛び出して、腹パンされて死んだ。

 

 

 

『22周目』

 

まるで成長していない……。

と安西先生ごっこして調子に乗っていて気づいた。

またあかちゃんスタートに戻ってやがる。

 

奇数周で声、5周ごとに竜也くんと予想していたが、今回も竜也くんがいた。

猫かわいがりする。

高町さんちの双子の可愛さは異常ですね。

 

久しぶりに誘拐イベントとエンカウントした。

轢かれては堪らないと少女二人を拘束していた男たちにシャーペンを乱れ打ちで手を貫く。

「ほうら、逃げたくなったろう」という成金みたいなことを考えていたら運転席から現れた男に発砲されて死んだ。

銃は卑怯でござる。

 

 

 

『23周目』

 

ほとんど変わらずである。

竜也くんと修練して、シュークリーム貪って、高町ツインズとゲームして遊ぶ。

俺ってばリア充だよな。

まあ、内臓とか何回飛び出したかわからないくらい死んでるし許せ。

腹パンで死んだし。

 

たぶん、ジュレイモンを突破するとセーブだろう。

一回しかコンティニューできないのか、とある場所まで進まないとダメなのかは不明だが。

 

イタチが云々して数日経つとジュレイモン。

イタチによって化け物のフラグが立つのではないだろうか。

ジュレイモン撃破後に高町ツインズに近寄るとイタチが喋っていた。

こんなことくらいじゃ驚かないぜ。

というかかなり可愛い声してるんだけど。

 

話を聞くとジュエルシードとかいう宝石もどきが原因らしい。

なんだ、爆弾では無かったのか。

イタチが失敗してばら撒いたとかなんとか。

全部貴様のせいか、と縊り殺したいがどうせリセットコンティニューは終わらないので許した。

すでに達人が悟る達観の域である。

 

温泉に行った。

夜はおとなしく寝ていれば腹パンは無しらしい。

 

笑っているがどこか暗かった。

竜也くんに聞くとなのはちゃんが友達と喧嘩したとか聞いた。

だから竜也くんも落ち込んでるのかと告げると驚いていた。

何年君たちの事を見ていると思っているのだ。

全てがわかるのだよ、この俺にはな。

あ、死亡フラグは無理です。

 

ジョギングの途中で高町ツインズが急いでどこかに向かっていた。

追いかけると膜みたいなものに包まれた。

なんぞこれぇ……とキョドっていると高町ツインズが温泉の夜の様にバトり始めた。

なのはちゃんなんてびゅんびゅん飛んでるし、竜也くんもがんがんチャンバラしている。

なんでこんなに慣れているのだろうかと隠れながら眺めていると犬娘がこっち来た。

てめぇの腹パンなんて当たらんぞおっぱい揉ませろオラァ、とばかりにカウンターを撃ち込むとATフィールドっぽいのに阻まれた。

すげえ頑なに拒絶されたらしい。

やっべ、拳が砕けた。

竜也くんとイタチが俺と交代してくれたので逃げることにした。

 

なのはちゃんとパツキン幼女のほうに向かうとジュエルシードが発光していた。

やべぇ爆発するじゃん。

なぜか二人とも爆心地から離れようとしないので俺が石のところまで走る。

とりあえず遠くに投げ捨てれば一先ず安心だろうと思って無造作に掴む。

右腕がもげたわ(笑)

 

呆然としている観衆を他所になんとか頑張る。

というか見てないで逃げてください。

ちくしょう、持って行かれた……と鋼の錬金術師ごっこしながら石を抑える。

左腕ももげた。

ぽろっと。

これは死んだ。

また死んだ。

だって血が足りないもの。

 

飲み込んで俺の身体で衝撃を和らげれば良いんじゃね、とばかりに口に入れた。

 

爆発して意識が闇に呑まれた。

 

俺は死んだ。

 

ジュエール(笑)

 

 

 

『24周目』

 

温泉のところで目が覚めた。

腹パン女が怖いので寝ていた。

すまない、高町ツインズ。

臆病な俺でごめんよ……。

 

なのはちゃんの喧嘩イベントが起きたあとに高町ツインズが走っている姿を目撃。

また爆発イベントですね、とばかりに追いかける。

今回はなぜかイタチが俺の肩に乗ったまま戦闘になった。

向こうでは高町ツインズと金髪ようじょがバトっていた。

 

なぜこうなったし、と拳の応酬。

まあ、俺が殴ると防がれて拳が砕けるので当てていない。

俺に当たりそうになった物はイタチバリアーで防ぐので千日手だ。

 

石が発光したので焦ったら腹パンされた。

超いてえ。

 

怯んでいたら金髪ようじょが両手を血まみれにして石を抑えていた。

胃液とか諸々を吐きながら見守るだけだった。

金髪ようじょが必死になって抑えているのにただ見ているだけとか俺は本当にダメなやつである。

イタチが心配してくれるけど、泣きそうになった。

 

俺はまるで成長していない……。

 

なんか入院になった。

帰ってから血を吐いたのがいけなかったらしい。

ただいまー、げは!!

って感じだったからな。

玄関血まみれでやべえ。

それの言い訳がジョギング中に転んだとか無理あるよね。

 

高町ツインズが見舞いに来てくれた。

やっぱり俺の癒しだよね。

とか思ってたら金髪ようじょと臨海公園で決戦するらしい。

決戦とか死なないよな……。

 

心配になったので早朝に病院から脱出した。

車いすとか使い難いでござる。

 

待ってたら続々と人が来た。

誰だか知らん背の小さい少年もいた。

管理局とかいうところから派遣されてきたらしい。

朝からご苦労様です。

 

なのはちゃんが装甲MAXのスーパーロボットみたいな勝ち方をした。

えげつねえぜ……。

 

なんだか良くわからないが感動の大円団かと思ったら空が光った。

雷様がお怒りである。

ぴかっ、ごろっ。

俺は死んだ。

 

 

 

『25周目』

 

みんなバリア張ってたのに俺だけ無防備だった。

直撃でなくとも余波で死ぬよね、そりゃあ。

 

また赤子スタートである。

ジュレイモン後のセーブは何時だ。

 

小5になったので気分を変えて街を探索していると車いすの関西弁を話す少女と仲良くなった。

家に招かれて着いて行ったら本を見つけた。

なんと禍々しい……。

 

お茶をもらって駄弁って、夕方に家路に着く。

寂しそうだったのでまた来ると伝えておいた。

新しい√でも開拓したのだろうかと思ってたら周囲が膜につつまれた。

こいつはバトル時に展開される謎フィールドじゃないか!!

 

周囲を警戒していると出現したのは仮面の男だ。

へ、変態だー!!と叫んで逃げる。

いくらか走ったところで確認の意味を込めて振り返ると仮面の男はその場に立っているだけだった。

安心して前を向くと仮面の男が魔法陣のようなファンタジーな円から出現した。

なん……だと……。

 

視認するのも困難な蹴りを防ぐも両腕が一撃でもげた。

おい、マジか。

 

そして光に包まれて意識が消失。

 

まさか、新√かと思いきやバルバトス出現だとは思わなかった。

すまない関西、もう君に近寄ることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

『26周目』

 

回避だけ極めるべきなのだろうか。

攻撃してもATフィールドに防がれるし、防御しても貫通して死ぬ。

こいつはハードだぜ……。

 

高町ツインズを可愛がって運命の6年生へと突入。

気合入れてケルベロさんから逃げる。

なのはちゃんが桃色のビームによって仕留めてくれた。

キャー、ナノハチャーン。

ステキー。

 

ジュエルシードを中心とした事件が起きているらしい。

魔力があるからなのはちゃんと竜也くんの高町ツインズが手伝うとか。

僕と契約して魔法使いにしてよ、みたいなノリで聞いたら俺に魔力が無いとか。

無いというよりも眠っているような感覚らしい。

夜の誰かを呼ぶ声が聞こえたら魔力を生み出す器官であるリンカーコアを標準装備していることになるとか。

あれか。

奇数周になると魔法使いにチェンジ的な設定か。

 

経験を積むために高町ツインズに着いて行く。

魔法が使えないからってそんなに心配しなくてもいいです。

どうせ死ぬときは死ぬのだから。

神社、プール、深夜の学校と次々に撃破していく。

紙装甲なので一撃で死ぬ可能性もあるが気にしない。

当たらなければどうってことないのだー!!

 

ジュレイモンも見える、見えるぞー!!と難なく撃破。

そろそろ次のステップへ進んでも問題ないくらいには経験値を積んだ気がする。

 

セーブポイントを超えて温泉に来ました。

折角なので犬耳おっぱいを拝もうと俺も出撃。

何故か俺にビームが飛んできた。

金髪ようじょはなのはちゃんと戦っているはずだろうと振り向くと竜也くんはイタチのサポートを得て犬耳おっぱいと戦っていた。

じゃあ、俺の相手は誰なのだ……。

金色の光が俺を貫いた。

力が抜けて立てなくなったところに犬耳のパンチがジャストミート。

 

 

 

『27周目』

 

たぶん、あれは頭がザクロになったに違いない。

金髪幼女のドッペルゲンガーが現れたという信じがたい現象を確かめるために今一度、深夜の森へ。

なるほど、金髪も双子になって対応してきたらしい。

うおおおおお、この光に当たるとやべえ。

久しぶりに、避けられん……!!

犬耳、おいやめろ!!

 

ザクロが飛び散った。

 

 

 

『28周目』

 

2度ネタはよろしくないだろう、常識的に考えて。

俺が微妙に強くなったと思ったら敵がそれの十重二十重で強化されるとかなんという無理ゲー。

基本的に俺自身は防御が間に合わなかったら即死だ。

防御出来ても腕がもげることなんてザラである。

最近は腹パンなら耐えられる程度になってきたのでいいのか悪いのか。

ペン回しが凄いことになっている。

これを武器にしてみようか。

 

ジュエルシードにシャーペンを当ててしまい、死んだ。

 

 

 

『29周目』

 

小4の春休みの昼間に声が聞こえた。

いろいろと早くないかと思いながら声を辿って捜索する。

金髪ようじょを小さくしたようなのと猫を拾ったでござる。

両方とも傷だらけだけど何があったし。

 

金髪(小)と猫を拾ったら何故かうちに住むことになった。

「生き物を拾ってきたらいけません」とか言われて元の場所に戻すのが普通だと思っていたので驚いた。

名前は金髪(小)がユウくんで猫はリニスというらしい。

ユウくんは金髪ようじょとそっくりなのに男なのだ。

突然出現する双子の片割れは男になるのだろうか。

 

俺の癒しが増えたぜ、とテンション上げて修練してたら死んだ。

過労死っぽい。

感覚がマヒしてきているのでオーバーワークに気付かないんだよね。

人型になったリニスとユウくんが一生懸命なんかよくわからん温かい光で治そうとしてくれてるけど、無理っぽい。

まあ、慣れたもんだから気にすんな。

ありがと。

 

 

 

『30周目』

 

いやあ、この先生きのこるために……つまりきのこる先生のために頑張ったら、頑張ったせいで死ぬとかマジ理不尽。

声も聞こえないのでユウくんを拾えないでござる。

それとなく高町ツインズに聞いてみたけど聞こえないらしい。

今周にはいないだろうかと前と同じ日付に行ってみたら衰弱しているユウくんを見つけた。

リニスはいなかった。

 

ユウくんは震えたままだった。

疲労の色も濃くて目の下に隈が出来ていた。

少しでも安心できればと思って隣で寝たら首を絞められていた。

なにがあったか知らないけど、ツラかったんだよな。

だけど泣きながらはやめてくれ。

それは卑怯だ。

痛くないけど、なんか胸が苦しくなるから。

 

 

 

『31周目』

 

いつもと変わらず赤ちゃんスタート。

授業内容なぞすでに暗記済みだ。

むしろ、大学受験しても問題ないくらい。

……嘘だ。

大学受験はちょっと盛った。

 

今回は魔力があるので声は聞こえるに違いないが、何があるかわからないので裏山に徹夜でスタンバってみた。

ピカッと光ってどさっと二人(一人と一匹? リニスは人型になったので謎である)が落ちてきた。

何が起きたし。

気を取り直して迅速に応急処置を施し、連れて帰る。

一人っ子としては可愛い弟とペットって夢なわけじゃん。

竜也くんもなのはちゃんもそうだけど、この程度でいいのなら何度だって死んでもいいくらいだ。

むしろもっと上手くいくのならもっともっと死んだっていいと思ってる。

 

ジュレイモンも突破してこれは上手くいきそうだとか思ってたら、ユウくんとリニスが家出して敵に回ったでござる。

何でだし。

 

バンダナで顔を隠しているがどう見てもユウくんです。

泣きそうな顔で襲撃とかやめてよね。

隠すならちゃんと隠さないと。

俺の良心が痛むじゃないですか。

 

ユウくんとリニスがいないまま恒例の温泉地デスマッチと洒落込んだ。

なのはちゃんは金髪ようじょ、竜也くんはユウくんと。

俺は犬耳ですね、わかります。

 

俺はイタチを、犬耳はリニスを補助に乗せて戦闘である。

千日手かと思ったら存外リニスは優秀なようだ。

イタチバリアーを軽々と砕いてくれました。

しかも犬耳ナッコォが回避できないような神業的なタイミングとか反則過ぎる。

やってくれるぜ……。

 

イタチくんが俺を庇おうとしてくれていた。

こいつはかなり良い奴だ。

でもコンティニューできないのなら前に出るべきじゃない。

イタチくんを投げ捨てた瞬間に腹パンが決まったぜ、ちくしょう。

 

リニス、何を驚いているんだ。

簡単に死ぬからか。

しょうがないだろ。

俺にはコンティニューしかないんだから。

 

 

 

『32周目』

 

どう考えても世界に嫌われているだろ、俺。

インスマス面ってわけでもないのになぁ。

 

回避しようにも奇跡のような不可避の一撃は避けられん。

しかも俺自身は小学生の未成熟な肉体に経験で底上げしたようなアンバランスな状態だ。

耐久力が低く、限りなく脆い。

そろそろ防御も磨くべきかもしれない。

 

防御力は犬耳の腹パンに耐えられる程度だ。

油断すると血を見るので、頼りないの一言に尽きる。

力任せに防ぐのではなく、受け流すとかどうだろうか。

回避の技術と併せれば究極じゃね。

 

修行するために熊狩りに行ったら傷が深すぎて死んだ。

牙や爪などの鋭いものは難しいな。

あと重量差も厳しいものがある。

6匹まで行けたんだけど、7匹目で逝けた。

 

 

 

『33周目』

 

受け流すことに特化するということは円であるということだ。

点で捉えず、線で捉えず。

ただ滑らせる。

自然な流れこそが真理への一歩なのだ……。

 

やっべ、爆発は防げねぇ。

 

 

 

『34周目』

 

調子に乗りすぎたようだ。

ジュレイモンのコンティニューが無かったら引き籠るところだった。

 

実は今回、かなり変化が大きい。

なんとアリサとすずかちゃんとかなり仲良くなった。

今迄は高町ツインズに誘われて、なあなあだったが今回は4人から誘われるという嬉しいイベントに発展した。

 

まあ、二人の誘拐事件が生じる前にシャーペンで撃破したおかげですけど。

弾丸を勘で受け流すとか俺も超人染みてきたわけだ。

被弾したけど。

 

そんなこともあって今までで一番仲良くなった周である。

ジュエルシードイベントは月村さんちのすずかちゃんに呼ばれたお茶会で金髪ツインズとバトるという新イベントを見つけた。

このとき、怪我をするとユウくんとリニスが夜に帰ってきて看病したあとにまた家出するというツンデレイベントが見られる。

可愛い弟と猫である。

二人のことを心配していると伝えることができて良かったでござる。

 

ここからいい感じに進んで、高町ツインズの喧嘩イベントが発生した。

相手はアリサとすずかだと初めて知った。

友達なら信じてやれよ、俺なんて死んでも信じるぜ、みたいなことを言っておいた。

 

この後の深夜のバトルがキツイ。

爆発の原因は小規模の次元震が起きかけているのだと前のイタチくんに聞いた。

止めようにもなのはちゃんと金髪ようじょは震源地で戦ってくれやがります。

 

結局、爆発が起きかけて俺が止めようとして血まみれになって全員が正気に戻った。

俺を除いた全員で封印する荒業で押し込めたらしい。

じゃんけんでジュエルシードの権利を争い始めた。

それで解決するなら最初からそれで決めろよ。

 

次からはガチンコで戦うことになったとか。

もっと平和に行こうぜ。

スマブラとかどうよ?

 

翌日、金髪ツインズと高町ツインズが戦っていると管理局の黒野って人が出現した。

いきなり現れて金髪ようじょとなのはちゃんの杖を受け止めた。

何気に新√じゃねえかな、これ。

わくわくしちゃうよね。

 

でも、止めるならさっさとしてほしいわけで。

リニスと犬耳の攻撃を防ぐのめっちゃキツイから。

やり返すにも攻撃力が不足しまくりで全く効いてない。

拳から血が流れているんで早くどうにかしてほしい。

イタチくんの鎖もリニスが防ぐのでまたもや千日手。

 

なんやかんやあって金髪組は撤退を決めたらしい。

管理局の黒野って人がビームを撃ったけど、俺のシャーペンで破壊してみた。

標的がユウくんになってたので、つい手が出た。

あと壊れるのか試してみたかった。

 

あとは管理局の戦艦に乗って云々かんぬん。

 

なのはちゃんと金髪ちゃんの決戦→雷様コンボで死んだ。

 

 

 

『35周目』

 

雷様の攻撃、というか魔法防御が全く無いのが弱点では無いだろうか。

なんとか魔法を憶えられないだろうか、と悩んで出た答えは一つ。

リニスに教わるしかない。

 

無理でした。

猫に向かって魔法を教えてなんて脳が沸いているとしか思えない。

イタチくんが出て来るまで待つこと数年。

高町ツインズとユウくん、リニスが可愛すぎて生きるのがツラい。

 

なのはちゃんよりも早くイタチくんを確保した。

イタチくんは俺に魔力があることに気付いて手伝いを要請。

手伝うから魔法を教えろ云々な感じでこれは行けそうだと確信。

 

そしたらジュエルシード集めの場合は金髪ツインズと犬耳、リニスを相手にイタチくんとタッグで迎え撃つ必要があるわけで。

すぐ死んだ。

腹パンが死因とかちょっと多すぎる。

 

 

 

『36周目』

 

前回は魔法の補助をしてくれるレイジングハートさんがいたが、コンティニューした今では自力で訓練しなければならない。

レイジングハート……レイハさんは砲撃とか防御とか凄かったが俺には適正が無かったらしく、魔法がヘボかった。

なのはちゃんが使ったらあんなに凄いのに……。

すまない、レイハさん。

良い娘(?)なのにヘボな俺が使ってごめんな……。

 

レイハさんに迷惑がかかるので使わない様に決めて自力で修練だ。

魔法は高高度な数学や物理を魔力と併せた超科学の融合だった。

自分だけでは発展も応用もできないので教えてもらった基礎魔法を紐解きながら、分割思考の練習を繰り返す。

 

気付いたら死んでた。

 

 

 

『37周目』

 

脳への負荷が凄まじいことになっていたと考えられる。

人生とは儘ならないモノだ。

 

魔力の運用を練習し、分割思考を極めるべく特訓に勤しむ。

リニスがこっち見て度胆をぬいていたが知らん。

 

魔法の練習をし過ぎてジュレイモンにぶっ殺された。

初心に帰ったわ……。

 

 

 

『38周目』

 

魔法が使えない偶数周だ。

分割思考を極める周だと割り切って頑張るしかない。

 

両手で別々のルービックキューブを解きながら読書してみた。

リニスが目をまん丸くしていた。

 

ジュエルシードの爆発で死んだ。

 

 

 

『39周目』

 

シールドの構成だけ突き詰める。

バインドも同上。

ただ只管に同じ事の繰り返し。

 

ジュエルシードで試してみたら完璧な防御を誇ってくれた。

調子に乗って突いていると次元震が起きて身体を引き裂かれた。

そういえば封印の仕方を知らんかった。

 

 

 

『40周目』

 

魔法は使えないので体術を極める。

攻撃力が足りないことに危機感を覚えたからだ。

一日一万回の感謝の正拳突き。

 

いい感じに極めてきたので調子に乗ってたら意識が遠退いて倒れた。

 

 

 

『41周目』

 

餓死したっぽい。

まともに攻略してない気がするので本格的に行こう。

 

でも、魔法をもっと覚えたいのでイタチくんを確保した。

イタチくんの名前はユーノくんというらしい。

初めて知った。

あと人間になれるらしい。

初めて知った。

もう何年目だよ。

……経過年数を考えるのは止めよう。

 

一応、レイハさんを使っても恥ずかしくないはずのレベルになった。

攻撃系統はヘボだけど。

慰めてくれるレイハさんマジ天使。

結婚したい。

 

バインドも一瞬でパスが書き換わり続けるので捉えたら逃がさない。

シールドも攻撃を受け流す技術と併用すれば最高の盾である。

バインドもシールドも熟練度がカンストだろう。

俺としても巧みの出来だと思う。

 

これなら意外と行けるかと思ったが見通しが甘かった。

金髪組と戦闘すると血だらけでユーノくんに治癒してもらう時間が多かった。

というかほとんどずっと治癒してもらっていた。

ジュエルシードを見つける度にほぼ戦闘というハードワーク。

 

この苦難を乗り越えて管理局と接触、戦艦アースラへ。

歴戦の勇士な俺の空気を感じたのか、最後まで手伝っても良い事に。

ユーノくんが止めて来たけど、ここで止まるわけがない。

どうせ死ぬだけだし。

そういえば人間になったユーノくんが可愛かった。

男だったけど。

この世界の少年は可愛くなる法則でもあるのだろうか。

 

金髪組に決戦を挑まれた。

なのはちゃんがいつも公園でやってるイベントだ。

なのはちゃんがいないので俺に御鉢が回って来たらしい。

そろそろ腕がもげるかもしれん、無理しすぎて身体にガタがきている。

 

決戦の相手はユウくんだった。

視界いっぱいの弾幕と高速移動でのヒットアンドアウェイだった。

えげつないぜ。

ダメージ覚悟でシールドしながらの突撃、そしてバインド。

止めに砲撃を撃ちたいがヘボなのでシャーペンに魔力を込めたやつでシールド破壊してヘボ砲撃。

勝った、41周目完!!

と締めくくろうとしたら雷様が怒って視界が闇に包まれた。

どうやらパトったらしい。

 

 

 

『42周目』

 

ぐぬぬ、雷様め……。

戦闘で勝つと雷様フラグらしい。

ジュレイモンセーブからもう一度決戦をしたがやはり雷様は強かった。

 

 

 

『43周目』

 

体力と魔力が足りなくてシールドが弱かったのが敗因だった。

やはりユーノくんと二人では厳しいものがある。

高町ツインズに助けてもらうしかない。

 

というか決戦に近づかなければいいんじゃないかとも思ってきたが、こんなに殺されているのだからなんとか防いでみたい。

最早意地である。

 

決戦まで同じように辿って雷様の攻撃である。

余波は防いだ!!

勝った!!

俺は勝ったんだ!!

と喜んでいるとユウくんと竜也くんが飛んで行った。

 

目を向けると雷に打たれて落下していく二人の少女。

俺は何をやっているんだろうか。

何が勝ったのか。

 

まるで成長していない。

 

アースラで待機となった。

魔法が使える俺も一応は戦力としてくれるらしい。

魔法の勉強をしながら過ごす。

雷様の正体はプレシアという金髪ツインズの母親だとか。

 

武装局員に交じって敵地に乗り込んだ。

勝手な事をしまくっているがどうせ死んでやり直しなのだからいいじゃないかとも思ってしまう。

 

最近はそれが顕著だ。

次があるってどうなのだろうか。

一回だけじゃダメなのだろうか。

次があるとわかると俺のようになってしまう。

一回だけだから大切にするんじゃないのか。

 

 

 

『44周目』

 

ジュレイモンセーブから魔力を蓄えて、決戦に備える。

プレシアの雷に対してシールドを張って防ぐ。

ぎりぎり防げたと安心したら追撃がきた。

これは、防げん。

 

 

 

『45周目』

 

久しぶりの二撃結殺だった。

雷とか攻撃速度が反則すぎる。

転移魔法で回避したほうがマシかもしれない。

今回の人生を賭けて転移を学ぶとしよう。

 

おのれ、プレシアめ……。

 

 

 

『46周目』

 

ぷれしああああああああああ!!!

 

 

 

『47周目』

 

プレシア……。

 

 

 

『48周目』

 

ぷれしあ。

 

 

 

『49周目』

 

もうだめだ。

 

 

 

『50周目』

 

ほんとにつかれた。

どうにかしてあいつを■してしまいたい。

 

 

 

 

 

 

 

51-75

 

『51周目』

 

俺が地面タイプなら……。

またはフランクリンバッジがあれば……。

とりあえず落ち着く。

ぶっ殺された回数なら犬耳のほうが多いじゃないか。

犬耳はおっぱいサービスがあるんだからプレシアも用意すべき。

BBAのおっぱいサービスとかマジでいらないけど。

 

なのはちゃんがユーノくんを拾って魔法少女になった。

防御系の魔法を見直したいのでユーノくんを我が家で保護。

ユウくんが家出して雰囲気が悪いから少しは和らいでくれれば、といった思惑もある。

 

防御魔法にはシールド、バリア、フィールドタイプがあるらしい。

適当に判断していたが詳しい分類があるとか初めて知った。

ちなみにATフィールドは無い。

 

シールド:硬い。範囲は狭い。

バリア:範囲は広い。防御力はシールドに劣る。

フィールド:結界とか魔法使いたちが纏っている服のこと。服はバリアジャケットと呼ばれる。

 

まとめるとこんな感じだ。

シールドはバリアを圧縮して使っている感じだろうか。

バリアにも種類があって、それぞれ目的が異なるということもわかった。

 

プレシアの攻撃から身を護るには俺のラウンドシールドもどきでは難しいのだろう。

ATフィールドみたいに全面を護れるやつを練習したほうがいいかもしれんね。

高町ツインズの戦闘を眺めているとバリアジャケットは生身の部分を護ったり、空気などの抵抗を無効化してるっぽい。

バリアジャケットに魔力を集中させればDEF極振り状態とか……。

常に魔力を喰われるので普通に防御魔法の練度を上げた方が建設的だろうけど。

 

順調にジュエルシードを回収していく。

俺がいなくても問題は無さそうだが、心配なのだ。

ここは俺に任せて先に行け、みたいな身代わりもできるし時間が進む的な意味も含まれている。

 

折角なので他にも教えてもらう。

捕縛魔法であるバインドはユーノくんが放ってくれる大変ありがたい魔法だ。

前にレイハさんを使ったときに習ったやつを独学で改造していたが、本場の知識を聞いておいて損は無いはず。

空間設置型は射撃の誘導制御に似ている気がするので俺は苦手だ。

魔力をしゃーっと伸ばすチェーンバインドの方は得意なんだけども。

魔法って構成とか魔力の割合など理数的な部分が多いけど、感覚が占める割合もなかなか多い。

構成の基本は決まっているが自分用に改造するなら得意不得意の分野をパズルのように組み合わせて完成させる。

そこに流す魔力の割合で更に変化するから難しいのだ。

デバイスは設定しておけば面倒な部分を担ってくれるし、インテリジェントなら学習して使用者向けに最適化するというから羨ましい。

なんか俺もデバイスが欲しくなってきた。

レイハさんのような超嫁級じゃなくてもいいのでどこかに落ちてないだろうか。

 

飛行魔法を練習しながらジュレイモンと戦う。

旋回に難があるので直線での移動のみだが、推力の方向を変える事で機動力を得た。

天井や壁、フローターフィールドで作った足場を利用して飛び跳ねれば空間殺法ごっこが出来る。

 

 

 

『52周目』

 

調子に乗って地面に激突して死んだ。

海鳴のイカロス誕生である。

……これはひどい。

 

防御すれば耐えられるんですか、やったー!

防御に失敗したら即死じゃないですか、やだー!

……もう少しくらい防御上がらないですかね。

 

体術とか意味あるのかな。

どう考えても体術(笑)状態だし。

惰性で練習はするけど、実感が無いのである。

相手が常人なら役に立つんだろうけど……ねぇ?

 

縁側でうたた寝してしまい、夕方に起きたら毛布がかけられていた。

隣にはユウくんとリニスが寄り添って静かに寝ていた。

死ぬのが当たり前になっていたけど、そろそろ嫌になってきた。

死ぬこと自体は構わない。

けれども、なのはちゃんや竜也くん、ユウくん、ユーノくん、リニスの将来が気になる。

 

もっと頑張れば俺は生きられるのだろうか。

 

 

 

『53周目』

 

魔力の無い状態で生き残ろうとして化け物回避のために隣町に避難した。

そこまでは良かったんだが、隣町に入った瞬間に名伏し難きマーブルに包まれて死んだ。

あれは一体なんだったんだ……。

本当に海鳴周辺は地獄だぜ。

 

避難するにも相応のリスクを負うらしいのでやはり漢らしく真っ直ぐ進むしかないようだ。

今まで辿ってきたモノが真っ直ぐかどうかは知らないけれど。

実はわき道に逸れていて本筋なら難なくクリアできる、とかだったら泣く。

いや、喜べばいいのか。

ちょっとわけがわからないよ。

 

防御や捕縛はまずまずの性能まで引き出せていると思う。

実際は攻撃を受けたり、縛ったりしないとわからないのだけれど。

チェーンバインドなら名人と呼ばれてもおかしくないレベル。

ここまできたら相手の魔法も縛れるんじゃねってくらい極めたに違いない。

束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)ごっこも出来る、たぶん。

極めたとか調子に乗ってると死ぬから慢心せずに行くべきなのだが。

 

 

 

『54周目』

 

リニスが人型と猫型を織り交ぜて全力で攻めて来るとか。

ユーノくんの奮闘むなしく犬耳パンチがクリティカル。

間違いなく頭が爆ぜて脳髄大噴水したね、あの威力。

うわぁ、想像するだけでめっちゃグロい。

 

ジュレイモンを超えて月村さんの家に行くと庭で戦闘イベントが起きる。

そして死ぬ。

死亡フラグ満載ですね。

 

ちなみにコンティニューは月村さんの庭。

金髪ツインズと高町ツインズが対峙しているので戦闘が起きる直前らしい。

温泉行かないとセーブポイントがわけわからん。

 

犬耳をバインドで縛ろうとしたんだけどリニスに邪魔されて失敗。

つうかリニス強すぎるんだけど。

弱そうな魔力弾の一発で俺のバインドの軌道を変えるとか変態すぎる。

リニスの魔弾を避けながら犬耳の腹パンをシールドで防いで怯ませてバインド。

やったねユーノくん、家族に勝てるね。

そんな気持ちで追いこんだらリニスの砲撃で吹き飛ばされた。

魔法の範囲が広すぎてバリアしか選択肢が無かったが間違いだったらしい。

バインドを破った犬耳にライダーキックされた。

俺は真っ二つになった。

 

 

 

『55周目』

 

自分の下半身を見送ってからのコンティニュー。

蹴りはダメだろ、蹴りは。

拳より強いって聞くし。

 

そんなことよりもリニスが強すぎる。

基礎のレベルが違いすぎる。

俺も基礎の練習を行い、チェーンバインドの数を増やす、そして奇策で対抗するしかない。

 

家出を止められたらいいのだけれど、それは叶わないのだ。

これだけ繰り返していて、敵に回るのだからそういうイベントなのだと考えないとやってられない。

ユウくんと一緒におもちゃの猫じゃらしでリニスで遊ぶことしか俺にはできないのだ。

 

 

 

『56周目』

 

奇策としてマタタビを投げつけたが失敗。

ジュエルシードを封印できるシーリングの魔法をリニスにかけるも失敗。

シーリングの代償として血が噴出して肢体が千切れて無様に死んだ。

 

シーリングは魔力や技量が勝ってないと失敗するようだ。

横入りしてプログラムを止めるのだから危険だろうとは思っていたが、まさかバラバラ死体になるとか失敗の代償が大きすぎるだろ……。

相手の魔法を止める良い方法だと思ったんだけどなぁ。

 

チェーンバインドオンリーの方針で進めよう。

射撃とか砲撃は上手くいかないので攻めるには火力が低すぎる。

複数の魔力弾を同時に運用すれば火力の高いレーザーもどきを放てるのだが、時間がかかりすぎることや思考の大部分を喰われるなどの欠点があるのでお蔵入り。

やはり俺にはチェーンバインドで触手プレイしか道が残されてないようだ。

触手プレイと呼べるほど色気なんて無いけども。

 

チェーンバインドを手の様に操る。

気分はDr.オクトパス。

海鳴のドック・オックとか敵役ですね、わかりません。

 

チェーンバインドの凄いところは何でも縛ることができる。

プールも縛れるし、竜巻も縛れる。

マジで意味が分からん。

でも使ってしまうのは便利だからだろう。

 

10本の鎖を自由自在に操ることでどうにかリニスに対抗できるレベルらしい。

リニスさん、ちょっとチートが過ぎてませんかね。

 

リニスとの危機一髪な戦闘を乗り越え、黒野くんが出現した。

なんか久しぶりだね。

そういえば管理局の戦艦はアースラという名前らしい。

プレシアばかり気にして全然知らないんだよね、アースラとか黒野くんのこと。

 

黒野くんはクロノ・ハラオウンという名前らしい。

横文字とかおしゃれだよね。

姉にしか見えない年齢不詳のリンディさんが母親らしい。

異世界で妖精とかやっていそうですね、リンディさん。

 

なのはちゃんと竜也くんも最後まで手伝う云々でアースラに搭乗した。

管理局は魔法の本場だけあって興味深い話が聞けるし、クロノくんもSUGEEEEEEEレベルの魔法使いなので参考になる。

クロノ先生と呼んでご教授願いたい。

 

なのはちゃんと竜也くんは砲撃と防御に全振りなので参考にならないのだ。

しかも感覚で魔法を構成してデバイスが更に実用的に仕上げるとか、どこの超人だと言いたい。

俺が射程3くらいのチェーンバインドで四苦八苦している横で、必中と魂をかけた射程9のMAP兵器をガンガン使っていると表現すればわかるだろうか。

 

クロノくんに魔法を教わりながら、チェーンバインドでドン引きさせていたら金髪組が海で嵐を呼んだらしい。

高町組が飛び出したので俺も行く。

なあに、僕の鎖さんがすべての竜巻を縛ってみせますよ☆

 

 

 

『57周目』

 

俺の限界を超えて落下して死んだ。

何度も死んでるのに限界がわからないとかヤバくね。

自分の中ではまだまだ余裕で行けるのに身体が付いて行けていない、そんな感じなのだ。

なぜか限界を見極めることが出来ないから、ぽっくり死ぬんだよね。

 

バインドは速度が圧倒的に劣るので数で勝負と思っていたが、先読みも必要と感じた。

質と量を備えて、先読みまで必要とかホントに攻撃には適していない。

なのはちゃんや竜也くんが使う魔力を集束させる輪っかのやつは、脆すぎて話にならないし。

ストラグルバインドとチェーンバインドの二つが主な武器で他は補助だ。

発動程度なら出来るけど、扱うには難しい。

デバイスがあればもっとマシになるのだろうけど。

 

なのはちゃん、竜也くん、ユーノくん、クロノくん、俺が集まってアースラの勉強会に突入である。

新しく学んだり、構成を変えるなら自主練よりもアースラで相談したほうが良いのだ。

ときどきリンディさんや局員の人も混じる。

内容としてはシーリングの簡略化、回復魔法、ブースト魔法について。

シーリングの簡略化は起動中の魔法に割り込みをかけてディレイを生じさせる嫌がらせが目的である。

同じ様な魔法があるかもしれないが、折角覚えている魔法なので弄ろうと思っただけだ。

回復魔法は極めれば致命傷からも復活できないかと思ったからで、実際は時間をかけて徐々に治すモノしかなかった。

ブーストはカジャ系がとても大事だという理由からだ。

 

順調に事を進め、竜巻を乗り越えた先にはプレシアの雷が待ち受けていた!!

 

 

 

『58周目』

 

あいつ、俺の鎖を豪快に引き千切りすぎだろ……。

真っ向勝負は無理だ。

間違いなく無理。

なのはちゃんと金髪ようじょを回収したらさっさと撤退すべき。

 

転移して二人を回収、更に転移でバックれれば大丈夫じゃね。

流石俺、完璧すぎる。

問題は転移を勉強してないので、ユーノくんを保護した日からプレシアの『あの日』までの一か月くらいしかないってことだろうか。

 

余談だがプレシアの『あの日』って書くと、まるで女の子の日だから怒って雷を落としている的な意味になるんじゃないだろうか。

普段は笑顔を絶やさないプレシア。

しかし、彼女の女の子の日は常人には耐えられないような過酷な物だった。

つい耐え切れずに発散の意味を込めて雷を降らせるが、我に返った時に見たのは少年の死んだ姿であった。

罪悪感に身を焼かれそうになるプレシア……無いか。

 

 

 

『59周目』

 

転移魔法は付け焼刃にしては上手くいったと思う。

ただ、魔力が尋常じゃない量を喰われるので往復する前に力尽きたのだ。

転移で近づいたはいいのだが予想以上に魔力が無くなってしまい「俺が盾になるぞー、バリバリ」「やめて!!」って感じになってしまった。

完全に失敗である。

 

遠隔から他の場所に飛ばせばいいじゃないだろうか。

それなら雷から避難できるし。

これなら行ける、間違いない。

 

 

 

『60周目』

 

俺が避難できないことを忘れていた。

遠隔で飛ばすと魔力が枯渇して、余波が防げず死亡とか。

これはひどい。

 

 

 

『61周目』

 

飛行魔法で突貫、ブーストで加速しまくったら空気の壁に激突したらしい。

空気抵抗ってのは生身にはかなりツラい。

血飛沫を撒き散らす何かになってしまったと考えられるので今度からバリアとかフィールド系の魔法を張ってからにしようと思う。

 

再びプレシアの雷。

今度は鎖を加速させて巻きつけて二人を回収し、射線から逸らして俺も転移。

今度こそ完璧だ!!

 

 

 

『62周目』

 

一体いつから――転移が完璧だと錯覚していた?

って気分だよね。

まさか「いしのなかにいる」状態になるとは思わなかった。

その後に伏し難きマーブルに包まれて死んだ。

だからあれはなんなのだろうか、と。

 

とりあえず油断しなければいける。

転移場所さえ間違えなければいける、俺ならできる。

そう今度こそ……。

 

 

 

『63周目』

 

まだ転移にムラがあるようだ。

今度は準備期間が長いので失敗しないようにしたいものである。

ユウくんとリニスが待ち遠しいと思いながら誰もいない二段ベッドの上を眺める。

そういえば俺は一人っ子なのになぜ学習机やランドセル、諸々の物品が二つずつあるのだろうか。

俺にも実は双子フラグ?

 

特にそんなことも無く過ごしていく。

というかこれだけコンティニューしてるのに未だに双子が出現しないのだから俺に双子がいるわけないな。

もう一つの物品はユウくんのものが予め準備されているとしておこう。

もうわけがわからないよ。

 

ユウくんを連れてじいちゃんとゲートボール。

話題はリニスへと移ったときに新事実が発覚した。

なんとリニスは普通とは少し違う山猫だったのだ!!

……猫と何が違うのだろうか。

よくわからないので放置である。

猫は猫だろう。

犬耳娘なんてオレンジの巨大な犬になるんだぞ。

象のように大きな犬……なんかぞぬを思い出した。

オレンジのぞぬと戦うとか俺は絶対に嫌だ。

ユーノくんもイタチだかフェレットだかになるし、魔法の世界って動物が流行っているのか。

 

転移の範囲を絞りまくって省エネ版を作ってみた。

範囲が狭いので魔力弾や鎖しか通せないが超遠距離も対応できる。

欠点も勿論ある。

転移を展開できる時間が5秒も無いことだ。

それ以上開くと魔力が食われまくる。

とりあえず鎖を射出させる穴として利用する程度だろうか。

または時間の経過で拡散していく射程5mのヘボ魔力弾を当てるために使うとか。

なんと微妙に使えるのか使えないのかわからん。

シャーペンや石などの物質に魔力を纏わせて諸々をブーストして射出するのが最大火力とか、ちょっと悲しい。

もっと魔法っぽい攻撃が欲しかった。

 

海で竜巻を巻きつけて、少年少女に消し飛ばされるのを見送ってから帰宅。

オレンジのぞぬを拾った。

なん……だと……?

 

ぞぬでは無くアルフだと名乗ったのでアルフと呼ぶようにしよう。

現在進行形でアルフが傷だらけだったのだ。

プレシアと仲違いしてやられたらしい。

プレシアの雷のときに包帯巻いていたのはこういう理由だったからか、初めて知った。

 

今までの腹パンの怨みをここで晴らすことにした。

血塗れぞぬな状態のアルフの姿が他人の目に触れるとまずいので家に連れ帰る事にする。

嫌がるアルフをフィジカルヒールという結界を展開した部屋に連れ込み逃げ場をなくし、

水で傷口を刺激した後に激痛を起こす薬品を噴きかける。

薬品で傷口が十分に痛めつけられた事を確認し、別の薬品で更に傷口を攻める。

薬攻めの後は白い布で患部を攻め続けるのでアルフに安息の時が訪れることは無い。

傷攻めの後は、疲れ切った全身に温かくもなく冷たくも無い途轍もなく中途半端な温度の湯に毛の一部を晒す。

そして湯攻めしてすぐに柔らかすぎて気味の悪い布をごしごしと擦りつけ、温風を浴びせる。

あまりの攻めでぐったりとしたアルフは体力が消耗していたのか意識を失っていた。

アルフを床に毛布をしいただけの質素な寝床に放置して監視しながら徹夜。

こうしてアルフを虐め上げてやろうと思う。

 

フィジカルヒールをかけっぱにしたから魔力が枯渇した。

そんな状態の翌日に金髪ようじょとなのはちゃんが決戦である。

そして、プレシアの雷ごろごろです。

これは死んだわ。

 

死を受け入れる準備をしていたらなんとアルフが防御を手伝ってくれた。

情けは人の為ならずってやつですね。

仕方ないから今までの腹パンはチャラにしてやるよ。

 

なのはちゃんと金髪ちゃんが直撃じゃねって見てみるとぴんぴんしていた。

今回は俺が行かなくても直撃しないんですね。

安心すればいいのか、今までが無駄になったと泣いていいのか。

 

魔力がほとんど回復していないがプレシア戦に突入。

皆が行くなら俺も行くぜ!!ってノリで突貫したらロボットにぶっ殺された。

魔力が無い俺とか無力すぎだろ……。

 

 

 

『64周目』

 

アルフ拾って治療してプレシア戦。

アルフは拾わなくても大丈夫だとわかっているが心配になるのが人情ってやつである。

別にアルフに手伝ってもらうと被害が少なめでプレシア戦に行けるんじゃねって打算なんて無いよ、全然ないよ。

……実はちょっとだけあります。

 

なんとか魔力を温存させて時の庭園という名の風雲プレシア城に突入。

ロボットが強すぎて困る。

魔力が足りない。

 

 

 

『65周目』

 

決戦前にフィジカルヒールを使い続けているために魔力がカツカツなんだよね。

いっその事すべての治療をアースラに任せてしまおうか。

そしたら魔力不足とか無くなるわけだし。

 

ジュエルシードモンスター、縮めてジュエモンを余裕で突破。

ジュレイモンも俺の鎖とシャーペンの前では敵ではなかった。

石やシャーペンに貫通とシールドを付与させ、加速を纏わせて射出するとヤバい。

単体ではあまり長い距離を飛ばせないが転移の穴を通せば射程も解決。

ブースト魔法が偉大すぎる。

クロノくんに質量兵器に該当するとか言われたのでここぞという時にだけ使うことにした。

 

アルフをアースラに任せるとやはりプレシアの雷が降ってきた。

アルフがいない場合はなのはちゃんと金髪ようじょも攻撃対象になるっぽい。

鎖を転移させて二人を回収、そして転移。

完璧のタイミングである。

そして魔力もカツカツである。

ちくしょう……。

 

必死に魔力をやり繰りしながら風雲プレシア城を直走る。

薄くバリアを纏い、前面にシールドを張り、ブーストで加速して一直線に進む。

 

うわぁー。

 

 

 

『66周目』

 

歪んだ空間に落ちた。

なんというトラップを設置しているんだ、風雲プレシア城。

魔力行使ができなくなるとかおぞましい。

 

アルフを拾う→プレシアの防御を手伝ってくれるので安心。魔力枯渇。

拾わない→転移と防御のため魔力枯渇。死ぬ可能性大。

 

俺は悩んだ。

悩んだ末にアルフを拾う→夜だけフィジカルヒール→翌日、アースラに送る、という手順にしてみた。

これだと魔力の減少を抑えつつアルフが防御を手伝ってくれた。

これが正しいに違いない。

 

潤沢な魔力ならば傀儡兵にも引けを取らないわけで。

風雲プレシア城の内部に突入。

さあ、行くかと気合入れてユウくんが現れた。

人型のリニスとかガチすぎる。

この二人を突破しないとプレシアと会えないとか厳しい……。

 

 

 

『67周目』

 

ここは任せて先に行けってやったら竜也くんも残ったんだけど。

恥ずかしい。

途中まで順調に戦っていたがリニスの攻撃を避けて穴に落ちた。

なんてこったい。

 

リニスが強すぎるんだよな、と内心で文句を言いながらユウくんを膝に乗せる。

ユウくんとリニスは最後までプレシア側で戦っているけど、何がそうさせるのだろう。

くすぐったそうに身をよじるユウくんの髪をいじってポニテとかセイバーにしながら考える。

プレシアが言ってた金髪ツインズはクローンってやつだから悩んでいるのだろうか。

そうだとしてもそれほど悩むことなのだろうか。

俺なんてアルフのパンチ、ジュエモンたちの度重なる魔の手、プレシアの女の子の日、そしてリニストラップとかでコンティニューしてるけど脳天気に過ごせるし大概の問題なら障害に感じなくなってきた。

相談してくれたらミュウツーみたいだねって言ってあげるのに。

いや、流石に冗談だけど。

俺としてはミュウツー大好きなんだけど、やっぱり可愛くないよな。

 

ジュエモンたちを撃破し、アルフとリニスをチェーンバインドで凌ぎ、プレシアの女の子の日を乗り越えて再び風雲プレシア城に突撃。

倒した傀儡兵の頭をもぎ取って鎖に巻きつけることによって便利な鈍器に早変わり。

俺は鈍器の扱いって上手くないんだよね。

2、3回使って捨てた。

 

制止の声を無視して先を急ぎ、誰よりも早く内部へ突入。

ユウくんとリニスの前に立つ。

何か話はないのだろうかと待ってみるが無言のままユウくんがデバイスを起動した。

このままでは戦闘が始まってしまう。

 

ここで俺が取るべき道は……

1. 真っ向勝負

2. 話し合いで解決

3. 無抵抗主義

 

3しか無い。

兄を斬れるなら斬ってみろ!!の精神である。

 

来い。

斬れ、臆病者!!

斬れ!!

 

 

 

マジで斬られかけたでござる……。

めっちゃ凹む。

凹んでる場合じゃないんだけどね。

斬られる直前に竜也くんが防いでくれたので、なんとか大丈夫だ。

非殺傷設定とやらがあるらしいけど内臓とかやられるだろ、あれ。

まだ血反吐は吐きたくない。

 

竜也くんがユウくんとやっているけど、リニスが立ち塞がっているんだよね。

難易度が上がっただけという。

覚悟を決めるしかない……とか気張ってたら玩具のメダルっぽいものを投げ渡された。

なんぞこれぇと疑問に思っていたら、俺のデバイスらしい。

つまり、どういうことなんだってばよ。

 

リニスに話を聞こうとしたらクロノくんと戦闘を始めてしまった。

ユウくんが竜也くんとガチバトルしてる横で、クロノくんとリニスも争っている。

俺だけ余ってしまった……。

 

割り込むと空気が全く読めてないことになりそうなので一人で進む。

意味なく来たわけでは無い。

扉を勢いよく破って突入。

会いたかったぜ、ぷれしああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

『68周目』

 

テンション上がりすぎてプレシアの開幕ぶっぱで死んだ。

なんという馬鹿なことを……。

またやり直しか、と思いながら目を開くと玩具のメダルが飛んできた。

目の前にはリニス、俺の手にはメダル。

つまり……どういうことだ。

 

ユウくんと竜也くん、リニスとクロノくんが戦っている。

つまりセーブポイントがここに動いたってことですか!!

やったー!!

 

会いたかったぜ、プレシア!!

……ちょ、タイム。

デバイスの使い方が……。

やだー!!

 

 

 

『69周目』

 

そりゃ無いよ……。

起動の仕方がわからんとかカッコ悪いぜ、俺。

またやり直しか……。

目を開くと玩具のメダルが飛んできた。

目の前にはリニス、俺の手にはメダル。

つまり、ここが本当のセーブポイントか!!

とりあえず使い方だけでも聞かないと俺が死ぬ。

頼むリニス、教えてぷりーず。

 

リニスの情報によると起動しても見た目は変わらずメダルのままで、演算の補助などの本当に単純な機能しか持たないデバイスらしい。

ぶっつけ本番で新武器とか主人公的展開である。

 

走りながら設定し、デバイスを起動。

会いたかったぜ、プレシア!!

今日がおまえの命日だ!!

 

あるぇー?

 

 

 

『70周目』

 

手元で暴発してプレシアの攻撃で滅殺された。

どういうことなんですか、リニス先生!!

 

――教えてリニス先生のコーナー――

 

Q. 射撃魔法を使おうとしたら手元で暴発しました。私の身に何が起きたのでしょうか。

 

A. 原因として考えられるのは相手の座標をメダルに設定しなかったからではないでしょうか。本体から指示を出した座標にのみ演算の補助が働きます。設定しないと座標無しとなり、デバイスを利用した魔法は手元に留まったままになります。

 

初見殺しとかひどぅい……。

俺の魔力弾は拡散するので手元に残っているとダメージを受けるのだ。

しかも結構な思考を喰われるから困る。

今の俺には相手の目の前に転移で送り込んで拡散させるパイナポーアタックしか出来ない。

魔法っぽくないです。

 

今度こそ俺の勝ちで終わらせてもらうぜ、プレシア!!

とか意気込んで戦闘するけどちょっと勝てる気がしない。

魔法が上手すぎ。

鎖バインドとかヒモQのようにぶっちぶちに引き千切られるし、数を増やして突破しても障壁で防がれて無意味に終わる。

シャーペンとか瓦礫をブーストさせてぶち込んでみても迎撃でピカッとやられる。

さすが大魔導師、伊達では無いようだ。

ところで魔法使いの人たち的には大魔導師ってどういう位置づけなのだろうか。

 

何度目かの攻防を終えたときにプレシアが血を吐いた。

顔色悪いと思ったけど、調子が悪いらしい。

時間をかけてジワジワと削れば勝てそうだが、俺もちょっと死にそう。

プレシアが放つ魔法のほとんどが範囲が広すぎて避けきれない。

防御するのだがシールドを紙屑のように粉砕するのだ。

プレシアの火力で俺がヤバい。

互いに血塗れである。

頼むから非殺傷設定とやらにしてくれ。

非殺傷でも威力が高すぎて死ぬとかあるかもしれないけど。

 

血を吐いて隙が出来たプレシアのシールドだかバリアだかの内側へ転移させて暴発寸前まで魔力を込めたヘボ魔力弾を撃ち込む。

衝撃でプレシアが部屋を転がり、カプセルに激突した。

どうやらあのカプセルの中身は金髪ようじょやユウくんのオリジナルであるオリジナル金髪らしい。

狼狽えながらカプセルを心配しているプレシアをチェーンバインドで十重二十重に縛る。

悪いが俺の勝ちだ、そうだろ?

 

 

 

『71周目』

 

奇声を挙げたプレシアが魔力を放出させながら俺の鎖を粉砕してかみなりドッカンされた。

執念というか、狂気というか……。

とにかく凄かった。

なんとなく羨ましい。

本当になんとなくだけど。

 

再びプレシア戦。

どうやらプレシアは金髪オリジナルのカプセルがあるためほとんど動かないらしい。

座標が固定されているのでデバイスの補助を受けることが出来るのは有り難い。

プレシアの防御はそれほど高くないのだが攻撃が撃ち落とされるので届かない。

転移で防御を抜いて一気に……。

 

 

 

『72周目』

 

逆に浸食された。

転移の穴からこっちの座標を一瞬で割り出して撃ち込んで来るとか変態か。

攻撃も四方八方から飛んでくるし、強すぎる。

やつはラスボスか……セーブポイント的に考えてラスボスじゃね?

つまり今が俺の決戦というわけですね、気合入ります。

 

絶えず動いてないとプレシアの魔法に呑まれるが、動いていようとも幾らかの傷を負ってしまう。

防御してもシールドやバリアを軽々粉砕するから徐々にダメージが蓄積される。

こちらの攻撃は届かず、転移も難しい。

……こ、これはちょっとだけヤバいかなー☆

 

またプレシア戦なのだが、もっとスマートに行かないモノだろうか。

俺は炭化したり血が流れたりでなんかわけわかんね。

プレシアは吐血で勝手にダメージ受けてるし。

とりあえず俺もプレシアも血だらけである。

なんという血戦。

 

プレシアも攻撃時に隙ができるのだが回避に専念しないと死ぬ。

ジリ貧なので勝負をかける。

転移でオリジナル金髪に鎖を巻きつける。

反撃でプレシアの魔法が飛んできたけど腕がもげただけで助かった。

シールドで傷口を抑え、血が流れないようにする。

武装解除しないとオリジナルを砕くぞ、オラァ!!と鎖の力を増して脅す。

 

 

 

 

あいつ、複数のジュエルシードで次元震を起こしやがった……。

穴に落ちた後は魔法が使えなくてやることが無かった。

とりあえずプレシアを眺めていたのだが、壊れた機械の様にアルハザードに行ってアリシアを取り戻すと繰り返していただけだった。

アリシアはオリジナルの名前で、すでに事故で亡くなっているとアースラで聞いた。

アルハザードはマジすげえ文明だか技術だからしいが、人を生き返らせることができるのだろうか。

存在していたとしても、今のような状態で見つけられるとは思えない。

同じことを繰り返し呟いていたプレシアは衰弱していき、最後の方は何も言わなくなっていた。

プレシアのデバイスを借りて魔法の構成を弄ったり、メダルの設定を色々と試していたらプレシアが血を吐きながら笑い出した。

何事かと見つめるとアリシア、アリシアと小さく呟いて動かなくなった。

 

プレシアはアリシアのために狂ってまでひたすら……。

捕縛したとしてもユウくんと金髪ようじょが目に映ることは無いんじゃないだろうか。

プレシアが完全な悪だったら良かった。

それなら簡単に事が済むというのに。

 

 

 

『73周目』

 

またプレシア戦。

やはりプレシアはアリシアのことしか見ていない。

金髪ようじょとユウくんのことを引き合いに出すと少しだけ興味を向けるが、結局話にならなかった。

俺の話がもっと上手なら説得できるのだろうか。

 

無理矢理にでも捕縛して連れ帰るべきなのだろうか。

二人を見ることなく幻影を追い続ける母親は必要なのか。

 

チェーンバインドで捕縛して悩んでいると、地面が割れて魔法の使えなくなる空間に飲み込まれた。

話し合えばプレシアと分かり合えないかと期待したが結局、ダメだった。

アリシアの代わりがいないのはわかったが、それなら母親の代わりがいないのもわかって欲しかった。

 

 

 

『74周目』

 

説得しながらプレシアと攻防を繰り返していたら続々と皆が集まって来た。

かなり時間が過ぎていたらしい。

魔法の使えなくなる空間に落ちていくプレシアの姿を見送るだけで、説得できずに終わってしまった。

止めることくらいは出来たかもしれないが、何も出来なかった。

しようとも思えなかった。

 

プレシアは笑いながら消えて行った。

二人に微笑んだのかもしれないが、俺を嘲笑っている様にも見えた。

 

 

 

プレシアが消えてから、俺の周りは変化した。

金髪ようじょをフェイトちゃんと呼べるようになったこと。

ユウくんやリニスはフェイトちゃんとアルフとともに管理局に連行されることになったこと。

罪はそれほど重くならずに済むだろうからそのうち帰って来られること。

なのはちゃんや竜也くん、少しの間残っているユーノくんが頻繁に遊びにきてくれること。

部屋が広くなった気がすること。

癖でユウくんやリニスを呼んでしまうこと。

そして、一人になるとプレシアを思い出すようになった。

 

死ぬことも無く、平々凡々な生活が過ぎて行った。

学校行って、遊んで、ヴィータという外人の幼女をゲートボールでフルボッコにしたり、逆にじいちゃんや近所の爺婆にフルボッコにされたり、時々メダルを調整したり……。

最初の一か月は警戒していたが、何も起こらなかったので安心してしまった。

魔法も少ししか練習しないようになっていた。

ループを終えたつもりになっていた。

 

 

 

冬のある日、ユウくんとフェイトちゃんに会えるかもしれないと知らされた。

知らせてくれたなのはちゃんも嬉しそうだった。

俺も嬉しくなって夜眠れなくなった。

なんというか、遠足を待っている気分である。

あまりにも眠れなかったのでメダルを弄っていると奇妙な感覚に包まれた。

前に経験した感覚が気になって深夜にも関わらず家を飛び出してしまった。

 

大通りまで来て周囲を見回すとユーノくんが張るモノとは少し違う結界が張られていた。

嫌な予感しかしないわけで……。

気配を感じて振り向くのと、衝撃で吹き飛ばされるのは同時だった。

道路を勢いよく転がったため、目が少し回っていた。

 

なんとか体勢を立て直そうと力を入れて踏ん張ったら腹から腕が生えてきた。

まさか敵はエイリアンか、などと思っていたら魔力を奪われていた。

徐々に魔力が無くなり、四肢に力が入らなくなっていた。

俺を襲ったやつは何かを呟くと空を飛んでどこかへ行ってしまった。

俺を襲ったやつの姿が見間間違いだと信じたかった。

 

当分は立てそうになかったので誰かが見つけてくれるまで寝ていよう。

大通りだし、少し待っていれば人も通るだろう。

そう思っていると結界が消え、目の前にはトラックの姿。

 

止まれ、止まってくれよ。

やっと会えるっていうのに。

 

俺はまた死ぬのか。

 

 

 

『75周目』

 

襲撃された日にコンティニューした。

まだ終わっていないのか。

何度で終わるんだ。

 

あと何度、俺は死ねばいい?

 

 

 

再び大通りに出て、見間違いならと祈りながら襲撃を待つ。

頭上に気配を感じて見上げた先には赤いバリアジャケットを纏った少女の姿。

帽子には自慢していた「のろいうさぎ」というぬいぐるみによく似た飾りがついていた。

手にはゲートボールのスティックに似た、金づちの柄を長くしたような形状のデバイス。

 

ああ、やはり見間違えではなかったのか。

 

おまえなんだな……ヴィータ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『76周目』

 

 今まで通り、今夜もゲートボールの友、略してゲルトモと開戦してしまったわけだ。

 ゲルトモであるヴィータは恐ろしいことにスティックで撲殺しようと迫ってくる。

 これが普段のじゃれ合い程度なら俺も文句は言わないのだが、全力全壊で未知の魔法とゲルトモ流スティック撲殺棒術による近接戦闘まで仕掛けてくる。

 俺も頑張って応戦するけど無理ゲーだと言わざるを得ない。

 シールドで防ごうにも数瞬だけ火花(魔力光?)を散らした後に温めた牛乳の上に浮かんでいる膜を破くように粉砕するのだ。

 シーリングによる遅延+シールドで延命する以外に俺には道がないでござる。

 チェーンバインドで攪乱しつつ、回避、反撃をこなすが俺は全力なのに対してゲルトモ・ヴィータは余裕の表情。。

 夏休み中は何らかの襲撃に備えて能力を維持しようとしていたが、秋学期が始まってから流す程度にしていたのが祟った様だ。

 長引くとこの差が明暗をわける……っ!!とかそういう感じの展開になってゲームオーバーだろう。

 救援が来るかしら怪しい現状だ、短期決戦で勝たなければ。

 

 スティックが直撃する瞬間にメダルで自爆して攻撃を逸らしつつ目くらましコンボ。

 左腕だけ転移させて振り切られたスティックを掴み、チェーンバインドで四肢を拘束。

 パターン入ったぞ!!と喜んだのもつかの間、ヴィータがあっさりとバインドを引き千切って回転しながら突撃してきた。

 ちょっとスパデラのハンマーカービィみたいですね。

 

 ちょっと意味わかんないけど、あいつのデバイスは電池交換によって火力が高まるらしい。

 反則じゃね?

 マジ意味わかんないっす。

 現実逃避している場合ではなかった。

 俺の紙装甲だと直撃するとヤバい。

 どのくらいヤバいかと言うと「もうなにもこわくない」って魔法少女が言うくらいヤバい。

 ヴィータも魔法少女なら「もうなにもこわくない」って言って俺に勝ちフラグを寄越してください!!

 無理ですね。

 すでに回避できない距離もまで迫られてるし、真っ向から撃ち合いだオラァ!!と右拳を振り抜く。

 テキトーになのはちゃんからパクッたディバインバスター!!

 

 ヴィータが俺のビーム砲(ディバインバスター・偽)をごりごり削りながら迫ってくるのって結構こわいっす。

 俺自身、砲撃は苦手っぽくて手元から減衰が始まってきていた。

 頑張って放出しているけど、どうも勝手に減衰するから困るんだよねー☆

 脳天気な事を考えつつも減衰を止めるために手元のディバインバスターの源泉にメダルを投入。

 ぶっちゃけかなり思いつきだったけど威力が回復してきたぞ!!とか喜んでたらヴィータの勢いが無くなってきた。

 シャーペンで彼女のデバイスであろうスティックを破壊する準備をしていたら、まさかの電池交換。

 目の前での膠着で見てて気付いたけど実は電池じゃなくて弾じゃね、薬莢が排出されてたし。

 

 メダルにドリルがゆっくりと食い込んでいく。

 今度はマジモンの火花を散らしながら徐々に俺の右拳へとメダルの破片が突き刺さる。

 弾かれるように後方へと吹っ飛ばされた。

 砕けたメダルと奇跡の融合を果たした右の拳はぐちゃぐちゃで、肉片をばら撒いていた。

 血も洒落にならないくらいドバドバ。

 全力全壊で完全に押し負けたのだからどうしようもないね。

 

 悔しいから最後っ屁として残った左手でシャーペンを投げようとしたが、横から切り付けられて落としてしまった。

 振り向くと俺と同じくらいの背丈の少年だか少女だかが双剣を逆手に構えていた。

 髪も長くて目元が隠れているし、大きな白いマフラーを巻いているせいで顔がよくわからん。

 とどめとばかりにもう一度俺を斬って満足したのか、少し離れた位置で本を開いた。

 

 すいとるだかメガドレインだかギガドレインだかわからないがなんか魔力が無くなった。

 今度こそ満足したのか空を飛んで行った。

 それを見送りながら貧血気味の頭で思った。

 おまえ、誰だよ。

 

 

 

 

 

 『77周目』

 

 ちょっと覚えてないけど最後に頭、というか全身がパーンてなった気がする。

 また今夜もゲル友と一緒!!なナイトをエンジョイですね、そろそろ勘弁してくだしあ><

 

 奇を衒って四つん這いでヴィータを待つ。

 もちろん、頭には猫耳、尻には尻尾、背中に白旗の降参ポーズである。

 ヴィータの気配を感じたので「武器は無い、つまり争う理由は無いだろう?」とドヤ顔で語った。

 それからは互いに無言だった。

 決まった……。

 そう心の中で感じていた。

 

 

 

 勇者王が使いそうな巨大なハンマーでアスファルトに熱烈なキスをさせられた。

 その後、双剣でザックリ→MPドレインのコンボだった。

 

 

 

 

 

 『78周目』

 

 相手の罪悪感を誘う作戦でいこう。

 スリッパ、パジャマ、ナイトキャップ、枕を肩腋に挟んで睡眠前の安らかな一刻を演出。

 左手のマグカップから漂う温かいココアの甘い香りで、ちょっとしたモテカワ男子を装ってみました。

 

 やあ、びーた

 ココアをのみながらおれと、よどおしでかたりあわないか?

 

 あれあれ?

 おれのむねから

 てが

 はえて

 きたぞ

 

 

 

 

 

 

 まりょくがががががががががg...

 

 

 

 

 

 

 『79周目』

 

 MPドレインはなんかヤバい。

 表現できないけど台風になった気分とかそんな感じ。

 自分の限界以上に絞ってくるスパルタ監督並に俺の魔力を吸い上げるからマジでヤバい。

 限界を超えてから本当の自分が見えてくるとか言うけど、実は台風だったとか意味不明でござる。

 

 ヴィータの出現場所が同一方向なことに気づいて設置型のディレイドバインドの罠で捕縛し、転移による先制をしかける。

 バカみたいに溜め込んだ魔力でデバイスにシーリング、そしてチェーンバインドで拘束。

 この前のリベンジにディバインバスターを撃ちこもうとしたが双剣に阻まれた。

 

 雲の間から月明かりが差し込み、周囲を照らす。

 双剣を構えている少年だか少女だかも照らされたがやっぱり性別がわからんち。

 夜空を切り取ったような闇色の瞳と髪、手足に巻かれたベルト、黒をベースにした足先まで覆っている外套、おまえ寒くねえのって感じの黄色で縁取りされた黒色の軽装、宙を漂うでかい本。

 どう見ても悪役ですね。

 マジで寒くないんですか、さすがBJ(バリアジャケット)先輩っすね。

 今までのことも踏まえると、自然に構えてしまいます。

 

 性別不明の双剣魔導師が躍りかかってくるわけだが、全部速すぎワロス。

 移動速度と手数がヤバすぎワロエナイ。

 俺が一回行動するのに三、四回は動いているに違いない。

 目の前から完全に消えるとか初めてだ、捉えられん。

 広範囲の攻撃を防ぐためにバリアを張る→捉える→消える→バリアが切り裂かれる→バリアを張る→捉える→消える→バリアブレイク→...

 出たよ、千日手。

 

 相手は時間をかければヴィータが復活することから有利になり、俺は敵が増えて無理ゲーになるだけだ。

 ダメージ覚悟のカウンター狙いで決着をつけさせてもらう。

 もっとスマートに戦いたいです。

 でも、俺にはこれしかない。

 このシャーペンしか……。

 

 斬り付けられた瞬間を狙ってメダルを使って全力で自爆。

 転がるように回避した双剣魔導師の真横に開いた穴からディバインバスター・偽を撃ちこみ、正面からシャーペンアタックによる追撃の十字砲火。

 流石にこれくらいやれば死ぬんじゃないかと思ったら双剣が鈍い金属音を放ちながら薬莢を排出して三つ又に分かれ、移動速度がアップしまくりで神回避。

 髪の毛が月光に映える銀色に輝き、瞳が深紅の光で灯り、黒い羽根を羽ばたかせて超速移動で接近してきた。

 目の前には白い外套と黒いマフラー。

 これは死んだわ。

 

 

 

 

 

 俺は彗星になった。

 もしかしたら流れ星かもしれない。

 そんな感じで吹っ飛びながらビルに激突してダイナミックエントリー。

 瓦礫を撒き散らしながらゴロゴロ転がりながら今回もダメかもかもしれないと若干諦めが入っていた。

 勝利条件がわからんが、二人を戦闘不能とかだったらマジでクソゲー。

 人生と言う名のクソゲーになってしまう。

 つまり俺の人生がクソゲーとかやめてよね。

 

 またMPドレインが始まった。

 こいつは良くない。

 俺の健康を害するんだかわからんがマジでよくない。

 頼むから限界まで絞らないでお願いプリーズ☆

 ぐわぁぁぁあぁぁ、ぼくのまりょくぅぅぅぅ、しぼられりゅのおおぉぉぉぉぉ^q^

 

 ヤバかったけど、直前で止まった。

 超ヤバかった。

 なんとなく地雷が近づいていた気がした。

 朦朧とした意識の中で見つめた先では竜也くんが双剣魔導師と斬り結んでいた。

 

 

 

 竜也くんは俺のヒーローだな。

 

 

 

 知らない天井うんたらしながら目を覚ます。

 目を覚ました俺に気付いたのか、見知らぬ局員が声をかけてきた。

 どうやらここは管理局本局で俺は治療を受けていたらしい。

 竜也くんマジでカッコ良かったから帰ったらナデポしてやんよ。

 俺のナデテクは普通だからポッとなるのは竜也くん次第だけど。

 

 よし、と起き上がると右腕が包帯だかギブスだかで凄いことに。

 千切れる直前のところだったとか。

 俺もバリアジャケット編んだほうがいいかもしれん。

 

 リンディさんが入って来たので挨拶もそこそこに襲撃についての話をしようとしたが、まず俺についての話からしたいらしい。

 襲撃の際にMPドレインによって魔力をほとんど持って行かれたのだが、俺自身によって回復が遅れているとか。

 スキルだかよくわからないけど身体が無作為に魔力を『吸収』していて、自分が変換した魔力を使って自分の魔力を吸収しまくっている永久機関の真似事(笑)状態なので、落ち着いてからゆっくりと回復を待った方がいいとのことだ。

 知らなかったが吸収できるのなら周りの物から吸収したほうが早いんじゃねってことで放出とは逆の感じで吸引。

 なんだ、存外簡単じゃないかと思っていたらいきなりゲロ吐いた。

 が、吸引が止まらない。

 くっ、静まれ……俺の能力(スキル)……っ!!

 ヤバい。

 マジで体調がヤバい。

 マッハでヤバい。

 腹パンとかジュレイモンフィニッシュに似た何かを感じる。

 

 

 

 パーン。

 

 

 

 

 

 『80周目』

 

 知らない天井がどんどこどーん。

 マジで超常現象。

 今回もセーブポイントがムーヴしてるでござる。

 

 空気の入れ過ぎた風船みたいに破裂したのではないだろうか。

 なんであんなことになったか、一応の予想は付いている。

 低気圧←空気←高気圧、みたいな?

 ほぼ空っぽのリンカーコアが欲張ったに違いない。

 魔力で再現しちゃったんだね、きっと。

 おお、こわいこわい。

 

 竜也くんをナデポ(?)する予定を立てながらリンディさんと挨拶、そしてさっきのところに回帰。

 話の内容としては

 ・放出できると量と同じくらい、またはそれ以上の魔力を吸収できるかもしれないので調節できるようになるまで無暗に使うべきではない

 ・吸収の量を間違えるとリンカーコアがおかしくなって死ぬ

 ・リンカーコアがパーン

 ・内臓がパーンと同じなのでヤバい

 ・生成した魔力を片っ端から吸収している可能性があるので落ち着くのを待つべき

 ・魔力とか魔法とかのような人の加工品を吸収するのは毒

 ・魔法を喰らうのも毒

 ・魔法って当たる痛いじゃん? 勝手に吸収しちゃうじゃん? つまり攻撃魔法はヤバい、割とガチで

 ・濃い魔素は毒

 ・というか全て毒

 ・魔法に関わると毒

 ・これで魔導師してるって可笑しくね?

 

 常日頃から魔法が上手く使えないと思ったが、こいつのせいらしい。

 魔法を使う→勝手に吸収→徐々に減衰→時間による弱化→消滅、ということだ。

 つまり

 砲撃する→吸収→徐々に減衰

 防御する→吸収→徐々に弱くなる

 バインド→吸収→徐々に脆くなる

 みたいな感じ。

 わかりやすくいうとスマブラのシールドあたりだろうか。

 使い続けてると徐々に小さくなって割れて怯む、これの強化版みたいな。

 

 吸収しているから無駄が減って魔力効率いいんじゃねって思ったが逆に全く良くないらしい。

 俺の資質データで効率が頗る悪いという疑問があったがこれで解析できたとか。

 魔法を使う→吸収、で戻ってくるのだが、魔法使用時の魔力は圧縮魔力になっているので魔力で解凍して変換して吸収しているらしい。

 無駄にステップを挟むだけならいいが、通常の変換も阻害する。

 つまり魔法を使うだけで負荷がかかるのだ。

 普通に生きる分にはそれほどでも無いけど、魔法を使うとなるとマジやべえよ!!ってことだ。

 

 で、それが何か問題?

 

 俺は魔導師に向いてないのはわかりきっていたことだ。

 そういうのはユウくんと会って後で考えるとしよう。

 ユウくんは?

 え、家にいんの?

 会いに行くわ。

 

 数日後、そこには元気に帰宅する俺の姿が……!!

 もうバトルなんてしないよ!!

 

 そして目の前に迫る双剣。

 ズバッ、グシャ、ギャー!!

 

 

 

 ……なんで襲ってくんの、コイツ。

 昼間は聖杯戦争ですらお休みだっていうのに、まったく。

 やれやれだぜ。

 

 

 

 

 

 『81周目』

 

 あの双剣魔導師は辻斬りか何かなのか。

 いきなり襲われて、抵抗むなしく首を掻っ切られたんだけど。

 色変化機能付きの謎強化が厄介すぎる。

 全体的に能力が上昇してるっぽいし、第二形態とかそんな感じだろうか。

 まさか帰宅中にも死亡フラグが転がっているとは、ホント海鳴は魔境だぜ……。

 

 もしかしてあれか、完全決着を望んでるとかそんな感じか。

 なにそれ男らしい。

 けど、迷惑です。

 マジ勘弁。

 自分の欠陥に気付いた俺はちょっと無理っす。

 

 俺には戦う意味とか無いし。

 な?

 ノーカウントだ、ノーカウント。

 同じ魔導師だろ?

 頼む、見逃してくれ!!

 

 まあ、本人がいないところで何を言っても無駄だろうけど。

 あー、どうっすかなあ……。

 回復したら絞りにきて、放置、また回復した頃に絞るとかだったら俺は泣く。

 本局に引き籠るとか?

 ないわー。

 

 みんな地球にいるとかで俺だけ管理局にボッチ状態。

 知り合いとかユーノくんしかいねえし、いじめられてんのかしらん。

 とりあえず魔法の本場なので超凄い図書館で勉強することにした。

 だって俺が帰れるのってレイハさんたちと一緒のタイミングらしいし。

 デバイス>俺、の図式が完成した。

 

 図書館にこもったが特にこれといった成果は無かった。

 今まで魔法を使ってたけど大丈夫だったし、これからも大丈夫じゃねって感じで使うしかないね。

 減衰量<放出量、によって補うことにした。

 あとは魔力運用を鍛えて吸収した魔力を体内に入れないでなるべく使うようにするくらいか。

 右手で留めて、放出するカウンターとかできたらいいな、とは思っている。

 

 レイハさんとバルディッシュに魔力運用の様子をモニターしてもらう。

 この二人(二機?)はマスターのために限界に挑戦するらしい。

 これまで以上の力を得て、役に立つとか。

 相手と話し合うためにねじ伏せるとか発想が漢らしいですね。

 みんな頑張ってるのに俺だけヒッキーとかさすがにダメだろう。

 頑張るしかないね。

 

 俺のデバイスはAI無いからけど、愛着はあるわけで。

 二人に俺のデバイスを自慢したら口ごもられた。

 まあ、基本的な機能しかないからね。

 

 クロノくんに魔法を相談したら彼の師匠と友人を紹介してくれた。

 クロノくんマジイケメンだわぁ。

 会ったら猫耳の双子とモテカワスリムの女性でござる。

 ……クロノくんマジイケメンだわぁ。

 プライベートでは酒池肉林かもしれんね。

 ショートヘアーで落ち着きのないロッテとロングヘアーで姿勢の良いアリアのロッテリアツインズと透明感のある翡翠色の髪をポニテにしたジルベルトさんが俺を半殺しにしてくれるそうです。

 笑顔でそう言ってました。

 ジルさんはクロノくんと同い年らしい。

 クロノくんよりもでか……む、胸の話です。

 身長の話なんて断じてしていない。

 まあ、胸は似たり寄ったり……まな板なんて思ってねえです。

 じゃあ、さっそく相談に……。

 習うより慣れろ、だと……。

 

 アリアにビームで撃たれたり、ロッテにナッコォされたり、ガンブレードっぽいデバイスで撃たれたり、斬られたりしたけど俺は元気です。

 なんだかんだ言って俺が昏倒しない辺り、技量が凄い気がする。

 吸収するぎりぎりを見極めているとか。

 生き地獄を味あわせるのが好きなドSか。

 

 ジルさんのガンブレードっぽいデバイスがヤバい。

 剣を受け止めたと思ったら、弾を装填すると瞬間的に威力が上がって潰される。

 ガンブレード的な使い方もできるとかひでえ。

 距離を離すと撃たれるし、近づくと斬られる。

 強すぎだろjk。

 ジルさんは近距離が得意だとかで近距離でチャンバラしながら魔力弾をバカスカ撃ってくる。

 魔力は毒ですってアピールしたらデバイスで殴られた。

 無理を通したいなら無理に慣れるしかないとか手荒すぎワロタ。

 ワロタ……。

 これが人間のやることかよ!!って叫んだらロッテリアは使い魔で、ジルさんは悪の組織によって造られた改造人間らしい。

 「このバカ犬!!」とか「やめろ、ショッカー!!」みたいなイメージを抱いた。

 まあ、ネタだよね。

 

 とりあえず吸収した魔力は自爆で周囲に排出することにした。

 一気に放出できるし、煙幕や牽制にもなるし、近距離まで迫られたときの攻撃にも使えるからだ。

 俺も結構ダメージ喰らうから好きじゃないだけどNE☆

 嘘です。

 ビルトビルガーごっこしながら「ジャケット・アーマー、パージ!」と内心でやってるから結構楽しんでる。

 別に装甲を切り離すわけでも、エナジーウイングが展開されて加速するわけじゃないのだけれども。

 

 模擬戦後の反省会で俺の自爆がおかしいってことでデバイスのチェック。

 そして衝撃の事実が発覚!!

 なんとメダルはヤバいデバイスの可能性があるらしい。

 ……え?

 どういうことだし。

 実は眠っているAIがあって目覚めると俺が死ぬかもしれない危険な人格だが、数多の闘いの末に友情に芽生えて真価を発揮する時がくるとか?

 

 ――くっ、俺の○○(デバイス名)が疼く……。――

 ――第二の人格が目覚める!!――

 ――変身をあと2回残しています。――

 

 なにこれマジやべえ。

 段々と人類から離れている辺りがマジぱねえ。

 あ、ないですよね。

 わかってまーす。

 

 三人の検証によると未完成なのか欠陥品なのかわからないが使用するにはあまりに危険なデバイス、ってやつらしい。

 デバイスというか、むしろ爆発物的な何からしい。

 俺だけを殺すための機械とかそんな感じかもしれない。

 普通に使えている俺は気持ち悪いナニカ、らしい。

 らしいとしか言えないのは俺にはデバイスの事はさっぱりわからんからだ。

 コイツらは冗談とか嘘とかつくから話半分で聞き流すことにした。

 取り上げられそうになったので逃亡した。

 リニスに貰ったデバイスが殺意を孕んでるとかそんなわけないじゃないですか、やだー!!

 

 逃げたのでまたもや独学状態である。

 とりあえず昇竜拳ができるようになった。

 波動拳も撃てる。

 俺の魔力が飛んでくだけだけだから普通の射撃魔法の弱体化でしかないけども。

 手に魔力を集中させて雄たけびを挙げながら殴りつけるとデューオごっこができるぞ!!

 デューオを知らない?

 あれだよ、あれ。

 パワーファイターズとメタルヒーローズのあれでござる。

 ロックマン8に出てくる腕がでっかいやつ。

 つまりロールちゃんが超かわいい。

 地上に降り立ったエンジェルですね。

 むしろ羽のないエンジェル。

 ロールちゃんマジ天使。

 天使過ぎてはんどそにっくとかしちゃうかもしれんね。

 

 あと魔法のパンチも練習した。

 初代でフーディンが使うことによって猛威を奮った三色パンチでは無い、ということは確かだ。

 魔法を使っているために危険度が上昇した時を止める拳で、個人的にはかなり気に入っている。

 実践したことないからBJ越しに効くかわからんけど。

 

 デバイスたちと親交を深めながら地球に輸送されたわけです。

 リンディさんに色々と言われたが俺も戦う旨を伝える。

 心配してくれてるとかマジいい人。

 超キレイなヒトだし、十年後はクロノくんが俺の息子に……。

 夢が広がりますね。

 

 俺のことを考えてくれてたらしく魔法解除を勧められた。

 マジックジャマー系で魔力結合を邪魔して吸収を抑えるってことらしい。

 ジャマーで邪魔って洒落はベタじゃね?

 邪魔したら俺も魔法が使えない気がするんだけど、そこら辺はまた考えようぜってことか。

 明日あたりにでも試して、良さ気なら利用してみようか。

 

 まあ、そんなこんなでヒッキーだったクロノくんがお仕事をするとか。

 新型デバイスで盛り上がってるのでかなりハブられている俺も一緒にいくぜ!!

 なんとなくレイハさんみたいな萌え燃えデバイスほしいんだけど。

 またはバルディッシュな紳士たいぷ。

 まあ、俺の場合は何度もやり直すのを説明したりとかめんどそうだから持てないけどね。

 非人格なら……。

 でも魔力の出入りがアレすぎてぶっ壊れるんだよね。

 規定以上の魔力を込めての故障はメーカーも保障してくれないとか。

 名も知らぬ武装局員の人、マジごめんね。

 やり直してるから今は問題ないけど。

 

 捕捉して、結界で閉じ込める。

 貴様らは袋の鼠だ!!と叫んだがこれでは俺が悪役じゃないですか、やだー。

 赤いバリアジャケットを着たヴィータと白髪犬耳褐色タンクトップ筋肉の男……ちょっと盛りすぎじゃね?。

 あ、でも女だったら果てしなく可愛い。

 性別が違うだけでこれほどの破壊力とは、おそれいったぜ……。

 なんてことを考えていたらクロノくんがUBWしてた。

 アンリミテッドなんたらわーくす。

 属性特盛男に防がれたけどね。

 今日もヴィータと殴り合う仕事が始まるお、と飛び立とうとしたらそこまでよ!!とばかりに高町ツインズとフェイトちゃんが助っ人として現れた。

 出鼻くじかれた^q^

 

 味方的には「戦う前に話しようよ!! 納得する理由も話してね!! すぐでいいよ!!」ってことらしい。

 で、敵の返答は「話し合うのに武器持ってたら怖いでしょう?」ってことで断られた。

 うむ、確かに一理ある。

 俺も自身はシャーペン以外はほぼ非武装なわけだし、和平の使者(地上に舞い降りたエンジェル)として仲を取り持つことに決めた(独断)。

 世に平穏のあらんことを、とか和平っぽくね?

 まあ、でも俺は黄色くないので普通にちょっとそこにあるファミレスでサイコロステーキでも食べながら話し合おうぜってぴゅーと飛んでいったら双剣で斬り付けられた。

 あまりの態度に驚きで目を見開いたら迫ってる犬耳ナッコォ(男)。

 久しぶりに腹パンですね、これはひどい。

 しかもアルフと違ってご褒美が無しだから死に損。

 

 

 

 ヴィータ、見ているか!! 貴様の望みどおりだ!! だがそれでも……死んだのは俺だ!!

 

 

 

 血反吐を吐きながらヴィータに叫び、重力に身を委ねる。

 和平は難しいぜ……(迫真)。

 

 

 

 

 

 『82周目』

 

 イザナミだ。

 ……イザナギか?

 ちょっとわかんね。

 蘇生包丁ではないことは確か。

 

 槍を持たない和平の使者が翼の折れたエンジェルにクラスアップしちまったぜ。

 おお、こわいこわい。

 やはりサイコロステーキがダメだったのかもしれない。

 犬耳がいたから肉でいいだろって安直な考えを見破られたのか、それともサイコロステーキの製法の怪しさに気付かれたのか……。

 まあ、いいか。

 

 ジャマー系を修得したいが時間が足りない。

 戻る時間が一気に短くなってきている。

 そのうち一秒前に戻ることになりそうでちょっとヤバいかな、と。

 

 とりあえず修得したのはジャマー系のフィールド魔法で俺の周囲ごと包んで結合を散らすことができる。

 濃度を上げまくって互いが無防備になる自爆技だけれども。

 吸収を防ぐには至らなかったが手札が増えたとして良しとしよう。

 

 またも戦闘が開始でござる。

 和平の死者(イケニエ)になりたくないので話し合いは無しだ。

 クロノくんもUBWしてたし、徹底抗戦しかならんね。

 意思を通したくば捻じ伏せろってやつですね、力こそが正義。

 

 中にいると使者になる呪いにかかる気がするので結界の外から攻撃する。

 座標をテキトーに設定して砲撃。

 これが次元跳躍攻撃だ。

 ……ドヤ顔で撃ってみたけど向こうの反応もわからないし、様子も見えないし、寂しさがヤバい。

 あと負荷でゲロ吐きそう。

 制御処理がきついので一発限りでござる。

 撒き散らしてもいいなら連射できそうだけど、友軍に当たるかもしれないから難しいんだよね。

 

 もう一撃ぶち込もうかと思っていると結界に突入しようとしているポニテ侍を発見した。

 関係者以外立ち入り禁止なんすよ~、なんてへらへらしながらチェーンバインド。

 最速で射出したが軽々と斬り払われた。

 俺のバインドは斬られる運命にあるのだろうか。

 

 武器的に近距離だろってことで距離を取りながら瓦礫を相手の急所にシュート。

 難なく斬り払われて超エキサイティングできねぇ……。

 近づかれるとヤバそうなのでチンタラやってたらポニテ侍が業を煮やしたのかデバイスが変形した。

 蛇腹剣とか実用化できたのか、魔法まじパネえっす。

 

 蛇腹剣の速度が速くて近寄れずに後退するハメになった。

 しかも次元跳躍攻撃とか調子に乗ったことをしたために余裕が無い。

 いや、正しく言えば余裕が無いわけではない。

 まだまだ戦えそうなのだが細かい動作や魔法の制御が甘い。

 それにほんの少し、ホントにほんの少しだが動きが遅くなっている。

 時間をかけてじっくりやりたいが、調子が悪くなるだけだろう。

 

 現状では短期決戦が望ましい。

 蛇腹剣の攻撃範囲外で道路に降り立つ。

 ビルの壁面を壁蹴りで飛び移り、屋上から飛び立ち、加速し続けながら突撃。

 相手が蛇腹剣を通常状態っぽい剣に戻しているのを確認し、シールドを足場にして一直線に駆ける。

 このままだとバッティングセンターの球の如くピンポイントでホームラン、または居合切りで真っ二つになる未来しかないので変化を織り交ぜる。

 超近距離間での多重転移で左右にブレながら更に加速し、接近。

 野球盤で言うところの変化球とか消える魔球のようなウルテクである。

 まさに質量を持った残像。

 決して小賢しい技ではないのだ。

 

 相手の攻撃範囲に入る直前で急停止し、自爆による煙幕、そしてシーリング・ディレイと同時にシャーペンアタック。

 シャーペンによってデバイスが弾かれて空いた懐へ飛び込み、自爆の要領で高濃度のAMF(アンチ・マギリング・フィールド)を撒き散らしつつ、魔法のパンチ――ハートブレイク・ショット――をぶちこむ。

 BJごと砕くはずだったが、これは……ダメか。

 

 手応えの無さを感じながらポニテ侍が吹っ飛んでいった方へ目を向ける。

 綺麗にコンボを繋げたが、最後のAMFで拳の魔力を散らしてしまったようだ。

 心臓に打ちこむはずが、打点もズレた為に中途半端な結果になった。

 傷は無し、と予想。

 完全に失敗した。

 しかもあの一瞬でバックステップを行ったことで拳による衝撃も殺されたから吹っ飛んだのだろう。

 ご褒美レベルのおっぱい魔人だが戦闘経験は相当高いに違いない。

 もしかしたら100レベかもしれん。

 そういえば100レベの裏技ってどうしてあんなバグになるんですかね。

 

 涼しい顔でポニテ侍が起き上がった。

 追撃しようかと悩んでたら復活しやがった。

 予想よりも早く復帰したのを焦りながら、蛇腹剣を出されたら勝ち目が薄くなるので下がらずに接近戦を選択。

 

 構えて向き合うとポニテ侍が口を開いた。

 俺は強いらしい。

 なのでぶっ殺しちゃうかもしれない、なぜなら私は未熟だから、とかなんとか。

 じゃあ、闘わなければいいじゃんとか言える雰囲気ではない。

 いや、言う気も無いけど。

 俺だって空気は読める。

 仲間と主のために頑張ってるって言ってたし、決意は固いのだから無駄だろうよ。

 和平に舞い降りたエンジェルの俺をころころするくらいだし。

 願いを叶えてくれる道具でも渡せば変わるかもだけど。

 しぇんろんとか、せーはいとか、そんなかんじ?

 

 逆刃刀とか木刀とかでも漫画のように思いっきり殴ったら死ぬらしいし、あのデバイスだと不慮の事故が起こるのはしょうがないんじゃね。

 だから別のに変えるとか魔法刃を使うとか、ねえ?

 おまえらのデバイス超危ないっす、割とマジで。

 どうかな、この機会にハリセンにしてみては。

 またはレーザーポインターでライトセーバー(笑)とか。

 なんて提案できる空気じゃない。

 そんなこと言えるのは勇気か、それとも無知か。

 英雄はどちらでもあるのだ、なんてことがあったりなかったり。

 俺には向いてないね。

 結城といえば美柑の可愛さは異常。

 リトになりたい。

 

 気付いた時には目の前でポニテ侍がデバイスを振り上げていた。

 距離を取ろうと自爆するがそのまま斬り払われた。

 マズい、離れられん。

 演算速度も激減しているため、転移が使えない。

 一か八かのハートブレイク・ショット。

 難なくデバイスで防がれた。

 防がれただけなら仕切り直しでいいんだが、ちょっと拳を痛めた気がする。

 ちょっと、と表現するのが正しいのかわからん。

 やせ我慢はやめる。

 超砕けた、中身がグチャグチャに違いない。

 やってくれるぜ……。

 

 蹴りを主体にして戦闘を続行。

 へなちょこ弾幕をばら撒きながらなんとか喰らいつくが、慣れてないので防戦一方になってしまった。

 空中ではどんな体勢でも気にせずに攻防できるのが利点だ。

 常に自分と地面の位置関係を把握していないと脳天から落下して自滅する可能性があるのが欠点でもある。

 

 薬莢の排出して発生した衝撃波で吹き飛ばされた。

 ビルに突っ込んだが、立ち上がった瞬間に追撃でミラージュサインっぽい技がシールドごと俺を切り裂いた。

 胸部が抉られ、熱で爛れていたが死ぬにはまだ早い。

 チェーンバインドを伸ばしながら再び立ち上がる。

 バインドは斬り払われたが、どうせ立つまでの時間稼ぎだ。

 まあ、残心を欠いていて拘束できればとも思ったが相手に失礼だったか。

 

 ポニテ侍は目を丸くしながら俺を見つめてくる。

 やだ、恥ずかしい……。

 惚れた?

 ……冗談っす。

 

 手加減したが手応え的には倒したと思っていたらしい。

 まだ右拳と胸から腹部にかけて潰されただけだ。

 

 まだやれる。

 もっとできる。

 どこまでもいける。

 

 ポニテ侍が名乗っているが最後まで聞かずに無視して転移する。

 制御が全く効いてないがここよりも近づければ良い。

 今の様に目の前ならもっと良い。

 これは運が向いてきたか。

 無いな。

 運が良かったら俺は……いや、関係ないことか。

 シグナムの目線と迫っているデバイスの動作から攻撃の軌跡を先読みし、メダルを指で弾く。

 眼前に現れたメダルを咄嗟に斬り払われたが構わずディバインバスター。

 魔力がかなり散って掠っただけだがデバイスを逸らせたので十分だ。

 がら空きの胸部にハートブレイク・ショット。

 ピンポイントで心臓を撃ちこむことで相手の動きを止める技だ。

 時止め技の一種じゃないだろうか。

 原理は心室細動でも起きているんじゃねってことだが、実際はわからん。

 そしてシグナムに効くのかも不明だ。

 だって失敗したし。

 BJがやたらめったら固いのか、拳がイカれてて威力が死んだのかわからないが、おっぱい魔人の特徴に防がれて終わった。

 反撃は、手加減なし無慈悲の一撃だった。

 

 

 

 

 

 それを潰れた拳を衝突させて直撃を回避。

 戦闘に使えなくなったのだから盾として有効利用。

 右腕が何だかミンチよりひでえし、上がらない。

 それでも戦えるのだからやるしかないね。

 

 限界は感じないが、頭の冷静な部分がこれ以上はダメだと言っている。

 確かに、もうダメかもしれん。

 シグナムと痛み分けにしたとしても俺はダメだろう。

 ならこのまま諦めて死ぬよりも、足掻いて死ぬほうが幾分か敵にダメージを与えられるんじゃないかな。

 ここで排除すれば後に繋がるプレーってことで俺はMVPがもらえるかも。

 シグナムをこのまま付き合わせて主や仲間と今生の別れを満喫してもらうしかないね。

 

 抉り込んでいたデバイスを左腕で握り、チェーンバインドで俺の腕ごと拘束する。

 遠慮しないでゆっくりしていってね!!!

 自爆と吸収の高速コンボを繰り返す。

 傍から見たら俺とシグナムが明滅しながら魔力残骸の煙を撒き散らしているように見えるだろう。

 実際はシグナムから魔力を奪って自爆を繰り返している。

 代わりに吸収した廃棄魔力を流し込んで消耗させる。

 俺から逃れようと魔力を燃やしているが、無駄な事だ。

 炎熱変換された魔力も一緒に奪っているから自爆の火力が上がるだけ。

 掴んでいる左手が内部から火傷してるかもしれないが、それはどうでもいい。

 いい感じに互いが弱った頃合いを見てビルから飛び降りる、シグナムも一緒に。

 炭化した腕が取れた気がしたが、今更ってどうしたって感じだ。

 飛んで逃げられたり、防御魔法で生き残られては困るのでAMFを展開。

 鎖が解除されるが知ったこっちゃない。

 

 潰れたトマトにジョブチェンジだ、ははははははははは。

 

 

 

 秘儀『ダイナミック☆トマトペースト ~ポニテ侍を添えて~』

 

 

 

 

 

 『83周目』

 

 結界内のことは無視することに決めた。

 次元跳躍攻撃とか当らない気がするし、俺の闘いに余裕が無くなるからね。

 空を飛んできたシグナムが結界の前で止まった。

 結界を破ろうとしてデバイスから薬莢を排出した瞬間にディバインバスターを転移させて正面から撃ちこむ。

 速さと精度を重視したので胸部のみを撃ち抜くことになった。

 さらに胸部に手を転移させる。

 これは胸から手を出して俺のリンカーコアから魔力を絞る謎の転移をパクッた魔法だ。

 魔法という結果を行使出来る程度には再現できた。

 ただし、オリジナルと異なって構成が滅茶苦茶なので燃費が頗る悪く狙いを定めるのも難しいのが欠点だ。

 俺が使う次元跳躍魔法と混ぜることで実用化に至ったが、魔力がヤバい。

 今のように大技を放つ直前の隙を狙えば何とか当てることができる。

 シグナムの胸あたりに手を出しながら気付いたのだが、この魔法はリンカーコアを摘出するだけっぽい。

 自爆の要領で渾身の力を込めてリンカーコアを吹き飛ばした。

 呆然としているシグナムが落下し、地面へと激突して魔力の残骸を残して消え去った。

 な、なにが起きたし……。

 

 目の前で起きたシグナムの消失に、驚愕していると虚空から謎の変態仮面が転移してきて魔法を放ってきた。

 俺は動揺を隠せずに防戦一方だが相手は憤慨しているのか暴走しているのか、猛攻が止まらない。

 相手のデバイスらしいビニール傘で滅多打ちにされているのには溜息が出てしまう。

 捨て身の自爆も難なく躱され、煙の向こうから現れたのは二人の変態仮面。

 分裂しやがった……っ!!

 陰謀めいたものを感じながら凌ごうと努力するも砲撃魔法に引き裂かれた。

 退屈な人生ってやつを送ってみたいものだと考えながら落下する。

 

 

 

 

 

 『84周目』

 

 オリジナル主人公の憂鬱、とか言ってみたりして。

 魔力が無くなるとシグナムは残骸となって死ぬらしい。

 どんな万国吃驚体質だし。

 吸収するにしても限度がある、というかシグナムの魔力を限界まで吸い切ると死ぬと思う。

 死ななくても体調の悪化とか起きそう。

 

 クロノくんの家に寄った後にすぐに帰宅。

 戦闘前にユウくんの顔が見たかったわけだ。

 そろそろ癒されないとやってられないわ、とか思って家に帰ったらユウくんが病んでた。

 俺のベッドで泣きながら俺とプレシアに謝ってた。

 ひぐらしを彷彿とさせる現状は今の僕には理解できない。

 まさに、わけがわからないよってやつだ。

 

 とりあえず状況確認のためにリニスに話を聞くことにした。

 ユウくんが病んだのはプレシアがいなくなった頃らしい。

 廃棄所から逃亡したときにはすでにプレシアを母と慕っていた、というか崇拝していたのがそもそもの原因であるとか。

 脱出後すぐに拾った俺に懐き、代替として心の穴を埋めることができたように見えたがフェイトちゃんの出現で再び崇拝することを思い出してしまった。

 揺らぎながらもプレシアを求めて、俺と対立して、拒絶され、限界だったが耐えていた。

 そんな不安定な状態でプレシアを思い出すフェイトとともにいることで許容量を超え、さらに久しぶりの再会に気が弛んでるところを俺が襲撃された知らせを聞いて振り切ってしまったということだ。

 ……。

 

 やり直しはできない。

 戻っても襲撃後になるし、戻る時間が異常に短くなってきている。

 落ち着くまで傍にいるのが最善だが、そうもいかないっぽい。

 どうやらユウくんはシグナムに襲撃を受けていたらしい。

 ユウくんは魔法を使うことに苦痛を感じながら、リニスと協力して一度は退けたが、間違いなく再び来るだろうということだ。

 すでに住所がばれてしまっているうえにユウくんが避難しようとしないので、リニスだけで迎撃する予定だったとのことだ。

 今までシグナムが遅れて来たのはここを襲撃してからだったのだろうか。

 

 屋根の上でリニスに過剰な魔力消費を控える様に小言を言われながらシグナムを待つ。

 意思とは無関係の過剰吸収は俺の体質が原因で起こる、らしい。

 体内で運用している魔力は決して減らしてはならないとも言われた。

 シグナム相手に無理だと思うんだけど。

 

 リニスが接近を確認し、結界を張る。

 この結界はユウくんを隔離する意味合いが強い。

 シグナム以外のやつらに襲撃されたら意味が無くなるが、管理局の作戦で捉えられているだろうし大丈夫かな。

 動物モードのリニスを頭に乗せてシグナムと対峙した。

 

 簡易的にパスを繋いだリニスに魔力を委ねる。

 リニスの射撃魔法を掻い潜って迫るシグナムに蹴り付けるがデバイスで防がれる。

 転移穴を開け、リニスの砲撃魔法が四方から狙い撃つ。

 防御魔法を展開しているシグナムの眼前へ転移し、ディバインバスターを零距離で解放。

 俺に直撃するリニスの魔法を吸収しながら、さらに火力を上げる。

 ディバインバスターでシグナムを固定している間にリニスが高位のバインドを用意し、防御魔法ごと拘束する。

 シャーペンを射出し、胸部装甲を貫く。

 無力化のためにリンカーコアを摘出し、失った魔力を吸収する。

 

 体調が悪い旨をリニスに伝えると吸収しすぎだと怒られた。

 魔力のバランスが崩れているのだとか。

 魔力の急激な吸い上げで気絶したシグナムを管理局に転送しようとすると結界を破壊して変態仮面が現れた。

 そうだ、こいつがいたんだった……。

 

 再びリニスに援護してもらって攻めようかと考えていると変態仮面がバインドで縛ったユウくんを見せてきた。

 人質とか、そういうことやるのは無しだろ。

 

 

 

 

 

 『85周目』

 

 シグナムを解放から俺のリンカーコアを奪われるまで流れる様に行われた。

 そしてパーン……。

 ユウくんを保護するのも重要だな。

 前と同じようにシグナムを拘束、そしてメダルをリニスに渡してからユウくんの元に転移する。

 変態仮面の出現を確認し、ユウくんが眠っているベッド以外をメダルの座標へ転移させる。

 魔力が一気に減って結構キツい。

 リニスの小言を聞き流しながら、変態仮面の一挙一動を見張る。

 片手にビニール傘、顔には仮面、女性のような丸みがある体形、髪型は青髪のロングである。

 分裂すると男らしい変態仮面も出現するのだ。

 とりあえず現状では雌雄がいることだけがわかっている。

 

 傘型デバイスとは珍しい……というかデバイス自体をそんなに見たこと無かったわ。

 なのはちゃんのスタイリッシュな杖、竜也くんの小太刀、フェイトちゃんの鎌、ユウくんの槍、クロノくんの実用的な杖、俺のメダル、ジルさんのガンブレード、ヴィータのゲートボールスティック、シグナムのチャンバラソード、そして変態仮面のビニール傘。

 ……うん。

 結構自然じゃね?

 よくよく考えてみるとどこも可笑しくなかったぜ。

 チェーンソーとかパイルバンカーとか出てきても驚かん。

 

 様子見も含めて殴りかかる。

 が、カウンター気味に射撃魔法を直撃させられた。

 命中精度が高く、急所に当たるために威力が何倍にも感じられる。

 止まる気がないのに動きが止まってしまう。

 俺が怯んだところにバインドで動きを止めてから傘を開き、魔力を集中させている。

 目が眩むような輝きとともに砲撃が放たれた。

 なんというマスタースパーク。

 これは死んだ。

 

 光の放流に身を任せようとしているとリニスが庇ってくれた。

 バインドを破って走り出す。

 リニスはもう動けないだろう。

 すぐにでも戦闘を切り上げたいところだ。

 多重転移による攻撃をしかけるが、難なく回避してカウンターまでお見舞いされた。

 読まれている……?

 

 確かに技量差もあるが、簡単に防がれ過ぎだ。

 読まれているとしか思えない。

 あれか、サトリとか?

 とりあえずやっておくことが一つ。

 ――おまえ、俺の考えがわかるんだろ?――

 

 

 ……。

 反応が無い。

 外した?

 もしかして予測が凄いとか、予知系のスキルとか、そもそも技量差で簡単に読まれているとか色々あるけど、サトリではないのか?

 リニスの接近には気付いてなかったし、考えを読めるとは少し違うのだろうか。

 わからん。

 

 何故だか知らないが俺の動きが読まれるのだから捨て身で特攻をしかける。

 怯まないように急所のみを圧縮したシールドで守り、回避抜きの加速を織り交ぜた愚直な突撃。

 避けると思った?

 ざ~んね~んで~した☆

 痛覚がイカれた俺に許された接近方法だ。

 怯まずに接近さえできれば俺に有利だ。

 ハートブレイク・ショットが変態仮面の心臓に突き刺さった。

 

 動きが止まった変態仮面を前に最大まで魔力をチャージしたディバインバスターを放とうとしてリニスの叫ぶような声が俺を呼ぶ。

 振り向くのとシグナムに斬りかかられるのは同時だった。

 こんなに早くバインドが破られるとは思わなかったわ。

 

 

 

 

 

 最悪だ。

 

 

 

 

 

 『86周目』

 

 傘が無限に伸びるライトサーベルみたいになって斬られた。

 魔力が濁流のように流れ込んで死んだ。

 イデ○ンソードか何かか、あれは。

 俺は小説版のほうが好きかな。

 なんかカッコいいし。

 

 

 

 『87周目』

 

 また管理局の治療室で目覚めた。

 リンディさんの優しさを噛みしめながら、方針を考える。

 この短い期間で力を付けなければユウくんが襲撃されるし、されないとしてもフェイトちゃん辺りが襲われるだろう。

 なのはちゃんが話し合いをしたいと戦場に出れば連鎖的にフェイトちゃんも向かうし、竜也くんも行くだろう。

 つまり、隣に立つためには死なない程度には強くなる必要がある。

 結局は力が無ければ生き残れないってことだ。

 

 心の友なクロノくんがロッテリアとジルさんを呼んでくれたので訓練に励む。

 鍛えるのは攻撃に対する反応の鋭敏化だけだ。

 攻撃、防御、速度、魔力量、etc。

 いずれも短期間で伸ばすには難しいので、俺の最も優れている点である反射のみを更に伸ばすことにしたのだ。

 極小のチェーンバインドを糸のように周囲に張り巡らせ、断ち切られた部分から位置を予測し、射程圏内に入ったら対処するというものだ。

 範囲はかなり狭い。

 減衰や魔力消費を考えると伸ばすには無駄が多すぎた。

 ということで、4mで十分(つうかこれが限界)。

 

 まあ、ボコボコにされながら勘や見切りを重点的に鍛えるってことだ。

 死にまくっているのでマジでヤバそうな攻撃は当たらないのだが、死にそうにないものだと勘が働かなかったりするのだ。

 コンティニューの弊害かもしれん。

 とにかくそういった部分も鍛え直すということだ。

 使えなくなった腕を盾にすると超怒られたので出来るだけ努力しよう。

 ジルさんは貧乳のくせに怖いからなー。

 72め。

 実際は知らないが72に違いない。

 

 あ、ジルさん。

 どうしたんすか。

 胸?

 俺がそんな話するわけないっしょ。

 6年生っすよ?

 来年には中学生なのに胸って。

 無いわー。

 72言ってるんすグヴァぁぁぁっぁぁ!!

 

 

 

 ……。

 …………犯人はジルベルト。

 

 

 

 メダルについても今の内に詳しく聞いておこう。

 ホントは嫌なのだが、何が起こるかわからないから聞いておくのだ。

 気になる点は向こうに戻ってリニスに聞いて解決するし、嫌だけど知識を借りよう。

 

 メダルの可笑しな点はいくつからあるのだが、一つは魔法の誘導性らしい。

 俺もよく使っているが特に問題ないと思っていたのだが、どうやら魔法も呼び寄せるようだ。

 しかも魔力を溜めこもうとする機能も付いているとか。

 ポイントなのは溜めこもうとするというもので、溜めるわけではないというのだ。

 つまり、メダルの周りに待機させておくというのが正しいのだろう。

 俺の魔力ならいいのだが、敵の魔法が近づいた場合は掠ったとしても通り過ぎずに近くで漂っている可能性が存在するとか。

 なん……だと……。

 他にもわけのわからない機能があるっぽいが未完成品なので眠っているとか。

 魔法が毒になる体質なのに呼び寄せるデバイスとか、などと引かれた。

 リニスェ……。

 

 レイハさんやバルディッシュにメダルの性能を愚痴りながらジルさんやロッテリアと徒手空拳で模擬戦。

 戦ってて思ったんだけど、武器を持っている相手に素手って可笑しくね。

 普通さ、そういうのってハンデとしてやるわけじゃん。

 シグナムのほうが技量は上なのにデバイス使ってたからね。

 剣道三倍段を知らんのかと言いたい。

 俺もデバイス欲しいけど、溶けちゃうんだよね。

 なんとかならんかな。

 

 

 

 久しぶりの地球だ……。

 ギブスとかしてるのに模擬戦でボコボコにされてたからなんか目が潤んできた。

 これからシグナムとの戦闘があるわけだが、報われなかったらマジで泣くぞ。

 クロノくんにシグナムについてや闇の書の話を聞いてからリニスを捜索。

 家にいたでござる。

 衰弱しているユウくんを寝かせてリニスを問い詰める。

 忘れていたのだとシレッとした表情で言い放ってくれた。

 こいつ、俺のこと嫌いなんじゃね……?

 

 メダルは俺の代わりに魔法ダメージを幾らか受け負ってくれる盾……になるはずだった。

 が、時間がなかったので調整できなかったため勝手に吸い寄せるだけになっていたとかなんとか。

 とりあえず、準備はしていたので設定だけだとリニスは呟いてからメダルを弄った。

 数分と経たずに9つに増えたメダルが俺の手に……!!

 9つ……?

 

 基本的な機能は変わらないが、砲撃などの魔法を4つのメダルが補助してくれるとのことだ。

 そして別の4つがダメージの肩代わり、残った1枚は管制として演算を手伝ってくれる。

 俺の周りを飛び交うメダルたちはまるで小鳥のようだった……。

 嘘だ。

 どっちかというとファンネルに近い。

 

 そもそも今までの形態はスタンバイモード的な位置づけだったらしい。

 やっと起動したのですね、とリニスが呆れ顔。

 いや、俺って悪く無いよね?

 とりあえず次のループに持ち越せるように設定や調節、部品などは暗記しておきたいところ。

 

 ここまでパワーアップしたメダルだが、最大の強化はカートリッジシステムのように使うことができるという。

 溜めこんだ魔力やメダルを仲立ちとして込めた魔力でデバイスを一時的に強化できるとか。

 襲撃犯たちのようなことが疑似的にできるのがメダルの役割であり、それ以外にないといっても過言では無いとドヤ顔でリニスが言っていた。

 なぜこんなにも機能が特盛なのかというと、ユウくん用に作っていたかららしい。

 なるほどなー。

 

 俺も優秀な使い魔が欲しい。

 なのはちゃんと竜也くんはユーノくんだろ。

 フェイトちゃんはアルフでユウくんはリニス。

 クロノ君にはエイミィさんがいるからね。

 リンディさんとかくれないだろうか。

 小さな妖精になったりしたら大歓迎なのだが……無いか。

 

 

 

 シグナム襲撃の予感……!!

 仮面が襲ってくるだろうからユウくんをリニスに任せ、こちらからシグナムの元へ向かう。

 出会い頭に空中を飛んでいるシグナムに向けてディバインバスター。

 さあ、スーパーリベンジタイムだ!!

 

 初動と同時にメダルが飛んで行く。

 管制メダルのおかげで、分割思考を少し割くだけで思った通りに動いてくれる。

 手が増えたような奇妙な感覚を憶えるが、チェーンバインドを何本も生やして操っていたのだ。

 すぐに慣れた。

 

 複数のメダルによる攪乱を行いながら、多重転移で一気に距離を詰めた。

 右手からディバインバスターを放つ。

 斬り払われたが、構わず飛び交っていたメダルからチェーンバインドを射出させる。

 回避のため、体勢を崩したシグナムの目の前へと管制メダルを放る。

 左手で溜めていた魔法によるレールガンもどきをを解き放った。

 劣化版プラズマランサーだが、スタンくらいは期待……回避しおったわ。

 カートリッジによる衝撃波でレールガンの紛い物が蹴散らされたが、まだ俺の攻撃は終わりでは無い。

 

 不発に終わったすぐ後に右手で握っておいたシャーペンを加速させて投げつける。

 デバイスを握っていたシグナムの腕が吹っ飛んだ。

 そのまま片腕を失ったシグナムに向けてハートブレイク・ショットを打ちこんだ。

 目を見開いたまま止まったシグナムにバインドをかけて封印処理した。

 

 ヴィータやシグナムたちは魔法によって造られた存在だとクロノくんに聞いた。

 ならばと思い、ハートブレイク・ショットにシーリングを込めてみたのだが効いたようだ。

 少しの間は停止しているだろうが、放っておくつもりはない。

 アースラに座標を送り、転送するようにと連絡する。

 

 後はユウくんの元に……。

 やはりこれだけじゃ終わらんか。

 変態仮面を視界に捉えた。

 

 

 

 いいデバイスだな、借りるぞ。

 シグナムのデバイスを勝手に持って行く。

 未練がましく握りしめていた腕を振り解いて停止しているシグナムの上に乗せて置く。

 管理局のほうで治してくれるだろう、たぶん。

 

 シグナムのデバイスであるレヴァンティンは忠義モノのようだ。

 俺が使おうとしても一切の反応を見せない。

 だが、俺にはアイザック式ハッキング術があるのだ。

 デバイスの中枢が狂うまで魔力を込める。

 火花を散らせながらだが、少しはいう事を聞くようになった。

 

 リニスが変態仮面のあとを追っていたので、俺が進路に立つことでちょうど挟んだ形になった。

 相手は女性型の変態仮面だ。

 リニスの援護を受けた俺と競り合うとか強すぎるんじゃないだろうか。

 ビニール傘からイデオンソードを展開したので、俺もレヴァンティンで応戦。

 鍔迫り合いになるかと思われたが、突然レヴァンティンが空になるまで薬莢を排出した。

 そして手元で爆発が起き、イデオンソードで真っ二つになった。

 

 

 いいデバイスだな、ホントに。

 羨ましいくらいだ。

 

 

 

 

 

 『88周目』

 

 再びシグナムと対峙した。

 攻撃に関してはコンボを繋げれば勝つことができるが、それは相手にも言えることだ。

 トータルした能力でいえば、明らかにシグナムが勝っている。

 それでも俺が打ち勝つことができるのは奇襲によるモノが大きく占めている。

 正面からの切り合いは俺には不都合なのだ。

 つまり、コンボを凌がれた現状はとてもよろしくない。

 

 前回と同じコンボをかけたのだが、知識という利点に驕った俺をあざ笑うかのように完全に防がれてしまった。

 当たり前だが、同じわけがなかった。

 鞘とレヴァンティンによる疑似的な二刀流で手数を増やし、前回の焼き増しであったコンボを流された。

 少なからずダメージを与えたが、動きが鈍るようなものではない。

 戦闘は続行だ。

 

 一連の流れに込めた動きを読まれたのか、攻めるに攻められない。

 近接に特化しているのだろうか、凄まじい強さだ。

 周囲を飛び交い援護を行う複数のメダルに対処しつつ、俺への攻撃は全く弛まない。

 

 蛇腹剣をかい潜り、レヴァンティンの攻撃範囲から逃げながら砲撃をばら撒く。

 攻撃用のメダルは溜めこんだ魔力を放出するか、纏って体当たりするかくらいしか役に立たないことがわかった。

 攻守を入れ替えることで敵や俺の魔力をチャージするのだが、そんな暇はないためほとんど空に近いだろう。

 そして、周囲を守っているメダルの魔力は満ち足りているのがわかる。

 火花すら散っているのだが、近接攻撃が激しすぎて放出する隙が無い。

 

 攻撃メダルを2枚ほど失いつつ転移によって距離を空け、攻守のメダルを入れ替える。

 接近してくるシグナムに向けてチェーンバインドで牽制。

 そのまま距離を離しておきたかったが、鞘によって全てのチェーンバインドが弾かれた。

 内心で舌打ちしつつ弾かれたチェーンバインドを手元で解除して意識を近接戦に切り替えた。

 

 

 

 斬撃をシールドを込めて弾いていたが、腕が鈍ってきた。

 腕だけでは無く、身体全体が精彩を欠くというのだろうか。

 思った通りに動作しなくなっていた。

 受け流しきれない剣戟で体勢が崩れ、それを見計らったようにレヴァンティンから薬莢が排出された。

 まずい……!!

 

 魔力を溜めすぎたために飽和しているのか、薄らと輝いているメダルをその場で爆破し、さらに自爆。

 そしてフローターフィールドに乗っている足に力を入れた。

 身体が後ろに下がろうとしている瞬間、廃棄魔力による煙幕に身を包まれながら現れたシグナムは必殺の構えをとっていた。

 右腕に小さなシールドを幾重にも重ねてなんとか受け止め……!!

 

 

 

 

 

 

 『89周目』

 

 シールドが容易くちぎられて真っ二つだったんだけど。

 あの居合斬りみたいなやつがヤバすぎて困る。

 炎熱変換なぞ俺の天敵だ。

 超熱いし。

 そして、受け止めるには分が悪い。

 視認速度を軽く超えてるし、威力も必殺級とは洒落にならんね。

 しかも鞘ってどういうことなの……。

 

 なんとか剣と鞘を封じて、シグナムを止めるのが最良だろう。

 難しい話だが。

 技量が如何ともし難いのだ。

 出来ることなら初撃で葬り去りたいのだが、贅沢な話だろうか。

 

 

 

 左腕にギブスを巻いたまま夜の街を飛び、シグナムに迫る。

 ギブスなど、どっちでもいいのだ。

 左腕に巻いているのは、俺が右利きだからに他ならない。

 ちなみになのはちゃんも竜也くんも左利きだ。

 直したらいいか相談されたのだが、直すという言い方だと左利きが悪いみたいだしなんとも言えずに言葉を濁してしまった。

 そういえば左利きの方が寿命は短くなってしまうらしい。

 やっぱり右利きのほうがいいのだろうか。

 

 コンボを繋げるが途中で切れてしまった。

 やはり、鞘が厄介だ。

 ギブスを盾に剣戟を凌ぎ、耐える。

 幾度目かの激突で打ち負け、体勢が崩れてしまう。

 一気に距離を詰めたシグナムはカートリッジをロードした。

 俺が待ち望んだ必殺の構えだった。

 

 周囲4mを糸ほどの細さで構成されたチェーンバインドで満たす。

 そこが俺の知覚領域だ。

 勝負は一瞬だった。

 破片が飛び散っていくギブスだったものと、下に隠されていた魔法陣からあふれ出るディバインバスターとリングバインド。

 ほんの刹那だけ減速したレヴァンティンを握りしめた。

 伊達や酔狂で死んでいるわけでは無いのだ。

 

 掴んですぐにチェーンバインドでレヴァンティン、鞘を拘束した。

 そして飛び交っていたメダルが一斉にシグナムへシーリングをかけた。

 停止したシグナムを封印処理してアースラへと連絡をとる。

 ちぎれかけるくらい怪我していた右腕から血が滲んでいた。

 チェーンバインドで人形を操るように腕も動かしていたのだが、無理があったかもしれない。

 このまま転送で終了といきたいところだが、二回戦は間もなくだろう。

 

 

 

 変態仮面とリニスの姿を捉えた。

 確かなのはちゃんたちが戦っている結界内の近くにクロノくんがいたはずだ。

 3対1でボコれば流石に負けはしないだろう。

 移動している変態仮面の進路を塞ぐように移動し、リニスごと転移した。

 

 転移した先ではクロノくんが吹っ飛んでいた。

 変態仮面(♂)によって襲撃を受け、蹴り飛ばされたようだ。

 あまり良い戦況とは言えない。

 

 しかも変態仮面(♀)が封印処理されていたシグナムまで連れてきやがった。

 解除しようとしている変態仮面を引きはがし、チェーンバインドを巻きつけた。

 

 ―― サブウェポン・シグナムを取得しました ――

 

 鎖を引っ張ると連動して停止したシグナムが引き寄せられた。

 フレイルのように振り回す。

 どうやら変態仮面は闇の書サイドらしく、シグナムに手を出すことができずにいる。

 リニスの援護を受けながら追い詰めていく。

 ディバインバスターでとどめを刺そうとチャージしていると蹴り飛ばされた。

 クロノくんの相手をしていたんじゃねえのかよ、と振り向くと倒れているクロノくんの姿があった。

 まあ、この変態仮面共はかなり強いししょうがないね。

 

 イデオンソードが俺を襲った。

 

 

 

 『90周目』

 

 ギブスの奇襲が効きすぎて困る。

 さらに車いすに乗っていると倍プッシュ。

 属性を盛り過ぎたかと自分でも思ったがシグナムには効果的だったらしい。

 ほとんど無傷で停止させることに成功した。

 ただ、立ち上がったときに浮かべた驚愕の表情の理由が気になった。

 

 

 

 変態仮面を転移して前回と同じ状況に持って行く。

 変更点としてはまだクロノくんは蹴り飛ばされる前らしい。

 こいつらはかなり強いとクロノくんに注意をし、メダルを飛ばす。

 ビニール傘で払われるが構わず攻撃を続ける。

 ファンネルというよりはファングに近いかもしれない。

 見た目はメダルが高速回転しているから球っぽいけども。

 

 リニスの巧みな誘導からレールガンもどきへと繋げ、スタンしたところをディバインバスター。

 そして全力でシャーペンを放つ。

 ビニール傘で弾かれるが振り切った腕に目がけてメダルを一斉に突撃させる。

 シャーペンによって痺れていたであろう腕にメダルで更なる負荷をかけ、デバイスを手放させた。

 いいデバイスだな、少し借りるぞ。

 というか俺が死ぬまで借りるぜ。

 ほら、ある意味で強制返還だし。

 

 

 

 見た目はショボイがなかなか良いデバイスだ。

 登録もされていないのでいう事を聞いてくれる。

 俺の魔力によるノイズを起こさず、鉛色に鈍く光るビニール傘として健在だ。

 たぶん、込めた魔力分だけ刀身が伸びるのだろう。

 

 魔力調節を行っていると、封印を解除されたシグナムが襲ってきた。

 まだ時間はあったはずだし、リニスとクロノ君を相手していたもう一人の変態は近づけなかったはずだ。

 伏兵か……?

 

 考えている暇はない。

 熾烈なシグナムの攻めをビニール傘で凌ぐ。

 そもそも俺は剣術をしたことがない。

 高町さん家に指導を受けたくらいだろうか。

 そもそもビニール傘は剣として扱っていいのかすら不明だ。

 棒か槍が近い気もするけれど。

 

 ビニール傘の傘布を覆う様に魔力刃が展開されていて、込めた魔力だけ強力になっている。

 限界を確かめてみたいが今はシグナムの相手で忙しい。

 しかもリニスとクロノくんは変態仮面に押されていて劣勢に立っているようだ。

 このままだとマズイと焦りを感じ始めたころに、結界を砕くように雷撃が降り注いだ。

 それを好機と見て逃げていく後ろ姿を見送りながら、溜め息を吐いた。

 

 

 

 変態仮面から死ぬまで借りてるビニール傘型のストレージデバイスはかなり良い物だ。

 限界知らずで俺のわけのわからん魔力を受け止めてくれるという素敵仕様。

 魔力刃を展開していても傘布を開くことで盾にできるし、石突から砲撃も出すことのできるオシャレ機能搭載。

 すごい(歓喜)。

 

 管理局の頭がおかしい連中が集まる技術部で限界を極めるというコンセプトで似たような物が開発されてるとか。

 盗品か……?

 リニスに頼んでメダルをカートリッジ代わりに使えるようにしたし、あまり手放したくないというのが本音だ。

 素手では限界かな、と。

 

 

 

 数日後、ユウくんの付き添いで病院へと向かった。

 精神面で衰弱しているのかご飯もあまり食べず、日に日に衰弱していくのだ。

 俺かリニスが付き添っていないと倒れてしまうような気がする。

 魔法なぞ見せた日には死んでしまうかもしれん。

 やはり容態は酷いのか、入院を告げられた。

 アースラで、とも考えたがここまでは襲撃しに来ないだろうとそのまま病院に任せた。

 ネコミミを隠せば普通の美女に見えるリニスにとりあえず任せて帰ろうとすると、すずかちゃんと途中で出会った。

 へえ、お友達か。

 車いす、大変そうだね。

 

 

 

 

 

 

 こんにちわ、ヴィータ。

 遊びにきたよ。

 ははは、驚いたのか顔が引き攣ってるぞ。

 笑えよヴィータ。

 

 

 

 へえ、はやてちゃんたちは大事な家族なのか。

 いいよね、そういうの。

 俺もいるよ、可愛い弟と妹が。

 すごい良い子たちだよ。

 まっすぐで、優しくて。

 そのうち紹介してあげたいくらいだ。

 

 

 

 ……ああ、もう帰るよ。

 家族の団欒を邪魔するほど野暮じゃないし。

 俺も邪魔されたら、嫌だと思うから。

 

 

 

 それに、やり返さないとって思うし。

 

 

 

 じゃあね。

 

 

 

 

 

 

 『91周目』

 

 あの数日後に、はやてちゃんの兄であるはやぶさくんに学校帰りを襲撃された。

 自己紹介までしたのだけど。

 友好関係が築けて無かったのかな……なんてね☆

 しかし、結界が厄介だな。

 そのまま応戦するも死亡、と。

 嫌な事件だったよ……。

 デバイスは必ず持ち歩くという教訓になった。

 

 有り難いことにユウくんの病院の日までセーブポイントが移動した。

 ビニール傘は返しそびれてしまったのでこのまま使い続けようと思う。

 変態仮面が使うよりも良いに違いない。

 

 

 

 やられたら、やりかえす。

 戦い、というか世の中の常識だよね。

 

 

 

 結界の展開とともに襲撃をかけた。

 都合のいいことにはやぶさくんしかいない。

 まあ、個別を狙ったのだから当たり前だけど。

 ホントはヴィータかシグナム、属性盛りだくさんの使い魔が良かったけど文句は言ってられない。

 各個撃破で闇の書の封印まで行けたらいいと思っている。

 

 認識範囲を広げることで超速攻撃を受け流す。

 突然の襲撃に焦っているのだろうか。

 結構よくあるから注意すべきだと思うよ、俺は。

 ヴィータより火力で低くシグナムより技術が拙いのだから、速ささえどうにかできれば難しい敵ではないはずだ。

 メダルに気を取られている隙を狙って、魔力運用によって威力が高まった掌底を打ちこんだ。

 

 

 

 見事な放物線を描きながらはやぶさくんは飛んで行った。

 追撃をかけようとディバインバスターの準備をしていると、第二形態のはやぶさくんが黒い羽根を羽ばたかせながら接近してきた。

 交じった視線の先は血のように紅い瞳だった。

 

 やはり速い。

 完全に置いて行かれている。

 影を掴むが姿を捉えることができないでいる。

 防御だけではダメージが嵩み、蓄積していく。

 

 やはり無理をしなければ進めないようだ。

 無理をしようとも超えたという事実があれば、次も頑張れる。

 今が無理でも次ならきっと。

 

 

 

 ビニール傘を囲むようにメダルが浮いている。

 メダルの魔力を解放することでビニール傘へ充填していく。

 8つのメダルから魔力が解放された。

 

 「不明なユニットが接続されました」

 

 デバイスは膨大な魔力を滾らせ、骨組みを残して溶けた。

 傘布を支えていた親骨が鈍色に輝いている。。

 震えるような重低音を響かせながらメダルが傘ほどの大きさの無骨な鉄骨へと変貌していく。

 先端を地面へと接地させて支える必要があるほどに重量が増大した。

 そして傘を中心に円状に浮いている8本の鉄骨が破砕音を轟かせながら回転を始めた。

 地面を抉る衝撃が腕を痺れてくる。

 デバイスが悲鳴をあげるように、魔力をかき集めている。

 回転している鉄骨は赤熱し、耳を劈くような不快な音とともに火花を撒き散らしていた。

 

 「システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください」

 

 鈍色に染まった骨組みと燃え盛るように赤く染まった円状に並んだ鉄骨は、ビニール傘のときとは見違えるようだ。

 男前になったデバイスに頬を綻ばせる。

 いや、ノイズ混じりの音声は女性なのだから綺麗になったというべきか。

 俺の歩みとともに引き摺られた石突と接触している地面の間に炎の傷跡が刻まれる。

 力を込めてデバイスの先を上げるとドリルのように回転している鉄骨から燃え盛る炎とともに火花が散った。

 全てを焼き尽くす暴力を体現するその姿は本当に美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『92周目』

 

 ビニール傘には通常のデバイスと一線を画す「オーバードウェポン(OW)」と呼ばれる機能が付けられている。

 目標の破壊のみを重視し、管理内外の世界に存在する兵器をデバイスに取りつけた物だ。

 強固な壁、質量兵器、魔導兵器などのあらゆる障害を手軽に排除できるようという名目で管理局内に存在する技術部が規格を無視して取りつけられたそれはまさしく兵器だった。

 魔法とはかけ離れた結果を齎すそれが日の目を見ること無かったのは、当然の結果だろうか。

 

 OWの起動にはエネルギーが必要となる、それも個人では生み出せないような膨大な量のエネルギーだ。

 技術部にも良心があったのか、それとも安全装置のつもりだったか。

 ただ、それだけだ。

 それを乗り越えるとリンカーコアを狂わせ、魔力を増幅、全てを容易に破壊し尽くす兵器を起動することができる。

 欠点は非殺傷機能が役に立たないこととリンカーコアへの負荷だろうか。

 

 ちなみに鉄骨をドリルのように回転させているOWの開発コードは「グラインドブレード」、局所破壊用の連結チェーンソーをデバイスに搭載したものらしい。

 鉄骨と呼んだが実際にはチェーンソーなので表面には細かくて鋭い刃が無数に付いており、それらが高速で回転している。

 すぐに残像が見えるほどの回転、そして赤熱するため見ることのできる時間はそんなにないのだけれど。

 使用目的は基本的に隔壁などをぶっ壊す装備である。

 確かに敵は障害物みたいなものだけど、個人では本来の使い方では使わない気がする。

 間違いなく生き物に対して使う物ではない。

 

 

 

 俺のビニール傘型デバイスだが、管理局で作り出されたはずなのに存在しないことになっている。

 クロノくんに話を聞くと管理局の技術部は作っていないことになっているらしい……作ったことは確かとも。

 技術部が情報そのものを隠蔽してしまったというのが事の次第とのことだ。

 ビニール傘に偽装されているが、OW自体は別次元に納まっているというのだ。

 起動時に媒介(俺の場合はメダル)に浸食することで出現するのだという。

 詳細については物資や予算の流れから洗い出すのでかなりの時間を要し、年内では知ることはできないだろうとも。

 技術部には影響力が及びにくいので詳しい事情を調べる前に圧力がかかるかもしれないとクロノくんは忌々しそうに語っていた。

 

 管理局内からほぼ消されていたとはいえ、デバイスを持ち出すことのできる立場の者が変態仮面として闇の書側に味方している可能性がある。

 現在までに変態仮面を2人確認しているが、更に増えることも考えられる。

 変態仮面たちの狙いがわからないのが厄介さに輪をかけている。

 闇の書に怨みを抱いているのならそれこそ無限に疑念が広がってしまう。

 復讐が妥当とも考えたが協力している姿勢を見ていると、書に魔力を溜めて完成させるくらいしか思いつかないのだけれど。

 変態仮面はこれからも絡んでくるだろうし、闇の書の封印は難しいに違いない。

 しかも、変態仮面の正体が不明なので背を預けるべきアースラまで疑わなければならなくなった。

 ……超めんどくせえ。

 

 

 

 前回ははやぶさくんをバラバラにした後が問題だった。

 熱量でデバイスの機能が死んだのだ。

 ビニール傘は外装から中軸まで全て溶けてしまったし、メダルも全てはぐれメタルみたいになっていた。

 8体のはぐれメタルとか経験値が稼げるってレベルじゃねえぞ!!

 実際は経験値を稼ぐ間もなく、すぐに出現したはやてちゃん(色違い)によって砲撃魔法、そして変態仮面による追撃のコンボで死んでしまった。

 色違いはやてちゃんは闇の書側らしく、はやぶさくんのミンチを見て激昂して襲い掛かってきた。

 はやてちゃん本人とは魔力の質が違ったので別人だと予想。

 変態仮面もすぐに現れたので結託しているのかと思ったが、血だらけで俺が死にかけていると争いだしたので闇の書側とは交流はないようだ。

 ちなみに反撃しようとしたがリンカーコアが半壊していて魔法行使が無理だった。

 リンカーコアが壊れていると身体も動かなくなるんだよね、人体って不思議。

 身体が動かないほどに負担がかかっているからリンカーコアが壊れると言えるのかもしれないけれど。

 

 リンカーコアが壊れる理由だが、増幅による負荷もあるが体質が特に関係している。

 俺のリンカーコアは魔力が減ると、補填しようと周囲にある魔力素に成り得るモノすべてを取り込む。

 リンカーコアが満たされるまで取り込み続ける。

 自然に存在する魔力素、行使された魔法、圧縮魔力の残骸……。

 しかし、リンカーコアにとって自分で生成した魔力以外の全てが異物だ。

 自分の魔力を満たすまでは分解と生成を繰り返すことで異物を取り込み続け、破裂してしまう。

 または、異物を分解しようと働き続けて分解能力の限界を超えることで壊れる。

 壊れた結果は、ショック死か障害を負うか、それとも……。

 何にせよ臓器の一つなのだから欠損によるペナルティは大きいだろう。

 魔法の行使だけなら構わないのだが、吸収量が増えることによるリンカーコアへの負担はなるべくかからないようにしておきたいところだ。

 元からある魔力は異物である外部の魔力を追い払おうとするため、使用できる魔力は限られてしまうし。

 

 OW中は外部の魔力と内部の魔力を強制的に結合させ続けるので一時的だが無限に魔力を使える状態になる。

 だから俺が死ぬか止めるまでOWが停止することは無い。

 停止後は増幅魔力で満たされているので拒絶反応で魔法行使が困難になる、過剰魔力によってリンカーコアが焼ける、あまりに酷いと機能不全に陥るなどと代償も大きいのだが。

 そんなわけで俺は魔力の生成速度が頗る速い利点の代わりに体内に異物(魔法)を引き入れてしまう欠点がある。

 

 闇の書による蒐集はリンカーコアから強制的に魔力を吸い上げるので、空っぽになった容器に異物である毒を並々つぎ込むような状態になって死ぬ。

 蒐集時に生き残れたのは竜也くんにディバイドエナジーをしてもらったからである。

 それでも他人の魔力は毒に違いなのだが、高町さんちの双子やユウくんとはある意味で長い間過ごしているので魔力の変換効率がかなり良いようだ。

 

 ちなみにOW中は魔力がある意味で無限状態のため、定期的に吐き出している。

 溜めこむと魔力が集まりすぎてリンカーコアが弾け飛ぶので自爆の要領で体外に吐き出すのだ。

 膨大な魔力を一度に背中から噴出すると直線のみだが、はやぶさくんすら凌駕できる程度の速度が出せる。

 OW中は重量で動作が重くなるので直線だけだろうと高速移動できるのは有り難い。

 短距離転移で距離を詰め、ある程度まで範囲を絞って、魔力によるブーストで必殺を狙うというところか。

 まあ、現状では「グラインドブレード」を起動したら死への片道切符なのだから捨て身の方法を取ってもいいだろう。

 

 

 

 そんな感じでデバイスについては調べがついた今回だが、ぶっちゃけピンチだ。

 夜にワンコしかいない八神家へ襲撃をかけてはやてちゃんを人質にとったまでは良かったのだが、そこからが予期せぬ事態ばかりだった。

 はやてちゃんから黒いスライムが出たと思ったら色違いはやてちゃんになって襲い掛かってきたのだ。

 ドッペルゲンガーか何かか、こいつは。

 

 ワンコは使い魔らしく、人型になって近距離で襲い掛かってくるしドッペルゲンガーは魔法で後方支援である。

 厄介だが犬畜生は防御特化らしく、シールドブレイクと魔力吸収による中和のおかげで俺にとっては紙装甲も同じだった。

 犬耳つけたムキムキの男の魔力を吸収するとか気持ちが悪いけれど、それを引けばかなり有利になる……はずだった。

 援護による弾幕を回避しながら殴り合っているとバインドされたのだ。

 それでも余裕があったのでバインドを吸収して解除と同時に色違いはやてちゃんがライダーキック。

 回避するには間が悪く、直撃を受けた。

 魔力のみ、か……?

 

 リンカーコアが悲鳴をあげている。

 容量を超える魔力を取り込んでしまったようだ。

 魔法を使わずに安静にすればなんとか生成が追いついて鎮静化するだろう。

 吐き出す余裕も無いのだけれども。

 つまり、使える魔力はほぼ無い。

 受け止めるつもりだったが無理だったようだ。

 物理+魔法による攻撃なら魔力運用で踏みとどまれると思ったが、全く別物だった。

 守護騎士は魔法生命体だかなんだからしいが、やつは魔力そのものが動いているようなものだった。

 攻撃を受ける際にかなり取り込んでしまったのは予想外だった。

 

 だが、相手にとっても予想外だったようだ。

 色違いはやてちゃんだった者は形が保てなくなったのか、ぐずぐずと崩れて黒い球となって浮いている。

 俺とやつは互いが互いの天敵になるようだ。

 犬畜生がバインドで追撃をかけてくるが、今の状態で喰らったら間違いなく死ぬ。

 魔力を貪る台風と化して死ぬ。

 

 死ぬのならOWを試して死ぬしかない。

 8枚では間違いなくミンチにできるが俺も死ぬ。

 枚数を調整すれば増幅魔力で満たされるため、異物を取り込むことが無くなって延命につながると思ったのだ。

 反動で幾日か魔法が使えなくなるが、今を乗り切れるのなら問題ない。

 何枚なら大丈夫かわからないし、1枚ずつ増やしていけば完璧じゃないだろうか。

 

 

 

 ん?

 ……あれ?

 ちょ、タイム。

 タイムっていってるだろうがバカチンが!!

 

 

 

 『93周目』

 

 起動しなかった。

 水準まで魔力が足りなかったという間抜けなオチだったわ。

 1枚でも俺自身の魔力がかなり無いとダメだな。

 むしろ1枚だと溜めこんだ魔力が足りないから、かなり必要かもしれない。

 枚数が多ければメダルに圧縮した魔力の解放で楽に起動できるが反動が大きく、逆に少なければ自分の魔力によるので起動が難しいが反動も小さい。

 さじ加減が難しいな。

 

 吸収した魔力を使うことができれば或いは……。

 とりあえず取り込んでしまった魔力を外に吐き出せるようになりたいものだ。

 できれば取り込んだ魔力で魔法を扱えるようになれるなら言う事ないのだけれど。

 

 

 

 このまま同じように襲撃するか、悩みどころだ。

 各個撃破ならば完全に独立行動しているところを狙った方が良いのかもしれない。

 八神家は本拠地なのだし、なんらかの対策がされているかもしれない。

 色違いはやてちゃんによるカウンターは最悪だった。

 俺にとってやつは歩く毒物だ。

 正直なところ、近寄りたくない。

 近くにいるだけでかなり吸収してしまうのでマジで苦手だ。

 

 転移で八神家に押し入って闇の書を封印しバックれるとか……。

 非常識な速さと判断力が求められる。

 しかし、魔法による補助さえあれば可能なはずだ。

 魔法ならば不可能を可能にすることもできるのではないだろうか。

 

 

 

 

 指定座標からこちらへと呼び寄せるアポート系の魔法でリンカーコアのように闇の書を転移することも考えたが間違いなく失敗するだろう。

 単純な話、闇の書の位置がわからないので座標が設定できないからだ。

 わからないので八神家に勘で良さ気な場所に転移し、サーチアンドシーリングする。

 鍵はどれほど近くに転移できるか、敵が遠いかにかかっている。

 気付かれた際の囮として段ボールを装備し、魔法の演算を始めた。

 

 

 

 命をかけたメタルギアごっこが今、はじまる……!!

 

 

 

 転移と同時に糸を張り巡らせる。

 チェーンバインドを元に手を加え続けた結果、暗号化すらもオミットすることで知覚領域を広げることに成功した。

 拘束力を失ってただの魔法で編まれた糸になったが、サーチャー系の上位互換として利用できるようになった。

 範囲内ならば分割思考による処理限界にもよるが、今は極端に糸へと集中しているので家一軒を丸ごと捜索が可能になっている。

 そして、生物の一挙手一投足も細かく判断することができる。

 

 糸が魔法によって断ち切られるのを捉えたのですぐに段ボールを捨て去り、回避する。

 段ボールが魔法によって消し飛んだのを横目に離れる。

 屋内とか魔法を使うには狭すぎてビビる。

 残念なことに範囲内のどこにも闇の書は確認できなかった。

 虎穴に入っても虎児なんてどこにもいないのに普通の虎はいたでござるって気分だ。

 

 車いすに乗っているはやてちゃんを背にはやぶさくんが双剣を構えて俺と対峙している。

 まるで悪役の気分だ。

 確かに彼らにとっては悪役だが俺にとって、というか管理局にとっては彼らが悪である。

 つまり、俺の行動は正しいのではないだろうか。

 

 

 

 屋内でははやぶさくんの機動も限定的になる。

 しかも足の不自由なはやてちゃんを守っているのだから、そこが俺の付け入る隙になる。

 厄介なのは俺もはやてちゃんに攻撃を当ててしまう可能性があることだ。

 魔法ならば非殺傷なので気絶程度で済むが、ビニール傘が当たると打撲や骨折、下手すると死に兼ねない。

 

 俺の動きが鈍いと判断したのか攻撃が苛烈になった。

 動く範囲が狭まっていようとも、攻撃の速さまでも遅くなるわけではない。

 しかし、はやぶさくんもはやてちゃんを守らなければならないので攻撃だけに集中することもできない。

 互いに決め手に欠けたままだ。

 このまま膠着状態が続くのなら増援が来る可能性も考慮しなければならない。

 撤退させてくれそうに無いのだけれども。

 

 

 

 メダルを1枚だけ装填する。

 耳障りなさび付いた音とともに鉄骨がビニール傘に付き添う様に現れた。

 増幅率が低いのか、魔力の供給量が少なすぎる。

 起動に使った魔力を考えると大きなマイナスだ。

 それでも一応は起動しているので刃の回転とともに真っ赤に染まり、熱を帯びた。

 

 炎の噴出によって加速したデバイスを振る。

 はやてちゃんを守る必要があるはやぶさくんは双剣で赤熱している俺のデバイスを受け止めた。

 火花が飛び散り、背筋がぞくぞくとするような高い音が響く。

 チェーンソーによる武器破壊だ。

 はやぶさくんは魔力を込めることで被害を最小限に留めているが、少しずつ双剣が削れている。

 まだ魔力にも余裕がある、このままデバイスが真っ二つになるまで待つか。

 

 双剣から薬莢が二つ排出された。

 魔力が急激に膨らんだかのように放出され、デバイスが弾かれた。

 砲撃魔法が放たれたが、メダルで防御した。

 しかし、カートリッジをロードすることで髪とか瞳の色などが変わると反則だろうと思えるほどに強化される。

 モード反転、裏コード! ザ・ビースト!だか覚醒だか知らないがマジで無しにしてほしい。

 

 

 

 互いに必殺技を使ったため、拮抗したままだった。

 どれだけ強化しようともはやてちゃんを守る必要があるのではやぶさくんの移動範囲は変わらず、俺も攻撃を掠らせる程度で当てることは出来ずにいる。

 八神家が荒れまくり、火事も起きている。

 凄惨な事件現場に早変わりしてしまったのだ。

 

 当たらないことにイラつき、一掃するようにディバインバスターを放つ。

 射線にはやてちゃんがいたが構わなかった。

 当然のようにはやぶさくんに邪魔され、斬り払われた。

 どこにいようともはやてちゃんに攻撃が向かう時はキチンと防ぐらしい。

 メダルを更に1枚追加した。

 轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 ビニール傘を挟むように鉄骨のようなチェーンソーが追随している。

 歪なハサミのようだったが、挟んでいた鉄骨が手元まで下がった。

 ビニール傘が突出しているような見た目だ。

 たぶん、これだけでも覆すための威力には十分だ。

 あとは当てるだけ。

 俺次第か……。

 

 ブースト魔法と魔力放出による加速で一瞬で間を詰める、はやてちゃんへと。

 そのまま刺突の構えで突撃をかけると目の前にシールドを張ったはやぶさくんが現れた。

 これを待っていた。

 技量が足りないならば手段なんて選んでいられない。

 

 激突とともにシールドが容易く割れ、石突とデバイスとの衝突で大きな火の花が咲いた。

 残念だが刺突の一撃では終わらない。

 手元まで下がっていた二つの鉄骨が時間差で炎を撒き散らしながら襲い掛かった。

 ほとんど抵抗もなく双剣が砕け散った。

 メダルを1~3枚使うと武器破壊、とっつきだ。

 

 はやぶさくんの身体は衝撃を受け止めきれずに壁を突き破っていった。

 BJで防御しているし死にはしないだろう。

 はやてちゃんはバインドで縛って他の面々が帰って来たところを脅して闇の書を封印すればいいか。

 ……こんなつもりで襲撃したんだっけ?

 

 

 

 はやてちゃんを気絶させて、バインドで縛っているとはやぶさくんがいた場所を中心に魔力が渦巻いている。

 あまりの魔力に張っていた糸が片っ端から消し飛んでいった。

 壁を突き破って荒れ狂う魔力とともに接近してきた。

 辛うじて影を捉えられる程度だったがなんとか防御した。

 完全に理性が飛んでブチギレているのか真っ赤な瞳が輝いている。

 砕けたはずのデバイスが色違いはやてちゃんの本体だった黒い球体に似た泥で覆われていた。

 斬撃とともに繰り出された紫の魔力光に意識が飲み込まれた。

 はやぶさくんの魔力光は白だったはずだが……。

 

 

 

 『94周目』

 

 第三形態だと……!?

 さすがに三連戦は勝てないっす。

 勝つだけなら出来るが、俺も死ぬという。

 野郎と心中とかマジで勘弁だから。

 

 しかし、冗談抜きで魔力光が変化する第三形態が強すぎる。

 リンカーコアを一瞬で溶かされるとか予想外すぎた。

 一撃でメダルと魔法で防御、元からと増幅された魔力でリンカーコアを8割ほど満たしていた俺を殺し切るとかマジで強すぎる。

 射線上は全てが即死なのだが、広すぎるんだよな。

 あんな閉所じゃ回避できんよ。

 いや、ホントに無理ゲー過ぎて困る。

 池田ァァッ!!

 ……言ってみたかっただけだし。

 

 

 

 襲撃を見送るべきだろうか。

 各個撃破のつもりで強襲しているが、成功する気がしない。

 本拠地だから守りが固いという事もあるかもしれないけども、上手くいく気が全くしない。

 家ごと吹っ飛ばしてしまおうか。

 全滅狙いなら全力を出せばいける……いけるか?

 ……枯渇してなら逝けるな。

 なかなか難しい。

 いけそうでいけないのだから、引き際がなぁ。

 魔力切れで逃げられなくなるという阿呆な展開が待っているし。

 リンカーコアを抜き取って吸収……魔力容量はわからんが2人くらいが限界か。

 転移門の魔力を残してぎりぎりまで絞った状態で。

 間違いなく演算に失敗する。

 メダルと傘のバックアップを受けてもリンカーコアから魔力を奪って動けなくなる程度か。

 当然だが無理だな。

 管理局にチクってみるか。

 俺の外聞を捨てるだけで解決できるなら、やらないわけにはいかないだろう。

 管理局が完全に信頼できないってのが厄介なのだけれど。

 

 リンディさんに伝えておこうか。

 クロノくんも一緒にいるだろうし。

 感じた信念に絆されて友情とか信頼とかで乗り越えられたらいいんだけどね。

 自信があれば寝返ったりしたかもしれない。

 弱いって罪だよ、選択肢が少なくなる。

 ……封印が効くって前提で考えてたけど、そんな都合良くいくか?

 管理局がかなり昔から追いかけてるって聞くし、封印系の作戦くらいしたはず。

 無理ゲーか。

 誰か俺のプロアクションリプレイ持ってこい。

 無限残機だけでは無理だ。

 選択肢くらいは見えるようにしてほしい。

 

 プレシアの時もそうだけど、正解がわからないんだ。

 間違いだと思わず生きることに胸を張るだけだ、と言い切れるならいいんだけど。

 何度もやり直せるから妥協に逃げてしまうのかもしれない。

 繰り返しで塗り固めた人生を歩いている今、自信なんて無い。

 いつ崩れるかもしれないのに足元を見ずに前なぞ歩けるわけがない。

 ……ホントに勘弁してほしいよ。

 

 

 

 周辺一帯を結界で包囲後、闇の書の主の捕縛が今回の作戦目標だ。

 蒐集がどの程度まで進んでいるか不明だが、あまり時間が残されていないと考えられているため、準備時間が限られたものとなってしまった。

 守護騎士が蒐集に向かったと思われる時間を狙っての行動となったため、運に寄るモノが大きく占めている。

 主が魔法について何も知らないという点が考慮されているのだろう。

 転移で中身を全部引っ張るとか家ごと吹っ飛ばすとか丸ごとバインドとかワイルドな作戦を提案したら却下されたが、当たり前か。

 先に身柄を確保、といきたかったが家からほとんど出てこないので仕方ない。

 病院にも張っていたんだけど上手くいかないな。

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんが次元世界で交戦したらしい。

 竜也くんは置いてきた、この戦いには着いてこれないからな。

 冗談だ。

 いや、半分は本気だ。

 竜也くんっていい人だからね。

 気に病むっていうのか、まあそういうことだ。

 今知らなくて後で知って気にしそうだけど。

 そういうことでなのはちゃんに着いて行ってもらった。

 今日でこの事件が終われば俺も……同じか。

 どうせ変わらないのだろうね。

 

 

 

 周辺の封鎖が完了したので内部に突入する武装局員を見送った。

 内部はもぬけの殻で、あったのははやてちゃんを模した何かだけだ。

 それもドロリと泥のように溶けて黒い魔力の球へと変化した。

 こいつは俺の天敵か?

 そして次にサーチャーが捉えたのは武装局員を飲み込んでいく魔力の球の姿だった。

 バイオハザードかよ……。

 

 蒐集されたように魔力を奪われて倒れている武装局員を保護するのと同時に魔力の球に刺突する。

 うわ、ぬるっと中に入った。

 メダルに溜めた魔力と俺の魔力の一斉照射を放つ。

 球からばらばらと魔力の外殻が剥がれていく。

 これは局員から集めた魔力だろうか。

 剥がれた魔力は戻ることもなく霧のようにとどまっている。

 屋内だからか魔力濃度が半端ないくらい上昇している。

 毒沼状態の密室にいられるか!!と天井を吹っ飛ばして脱出。

 見上げた結界内上空は地獄でした。

 

 

 

 回収されているのか転移されていく局員の姿と魔力の球に呑まれていくクロノくんの姿があった。

 ヤバいんじゃないの、これ。

 いや、マジで。

 俺は元気だけど、魔力の球も元気だし。

 しかもクロノくんを飲み込むとか嫌な予感しかしない。

 真っ黒の魔力の球が徐々に小さくなっていき、中からクロノくんが姿を現した。

 視線は宙をさまよい、身体が左右にフラフラと揺れている。

 意識がないのか……?

 

 

 

 クロノくんがS2Uをゆっくりと掲げた。

 紫の巨大な魔法陣が足元に展開されている。

 あれは乗っ取られてるとかそういう類いだろう。

 敵ユニットになったら強化補正か。

 どうするよ、この場面。

 歌をあなたにって名前の通りもっと優しい攻撃にしてほしい。

 ふざけた密度の魔法だ。

 転移で撤退を……結界が張り直されてやがる。

 守護騎士たちを連れたはやぶさくんも現れた。

 しかも背後には変態仮面、完璧詰んだね。

 またやり直しかよ。

 テンション下がるわー。

 マジ下がりだわー。

 

 ……糞が。

 

 「不明なユニットが接続されました」

 

 

 

 『95周目』

 

 やっぱり8枚積みで使用したOWはマジで強いわ。

 6枚超えで「グラインドブレード」を使えるが、8枚までいくと相手の魔力すら奪い取って増幅魔力のダシにするからね。

 飛んでくる魔法は全部結合、近づくと根こそぎ奪い取って結合、周囲にある魔力素も結合、と疑似的に自生魔力が生成され続けるという永久機関と化した。

 ゲシュペンストとか呼ばれてる局員の魔力とクロノくんを取り込んだ魔力の球は速効で退場した。

 魔力の塊はOWに必殺された、吸収的な意味で。

 他の守護騎士やはやぶさくんとも過激な戦闘を繰り広げた。

 俺は非殺傷にならないからミンチ製造機だったし、相手も手加減無しだった。

 殺し尽くす前にリンカーコアが焼け切れて俺は死んだけど。

 

 しかし、前回のあれは待ち伏せってことだろうか。

 リンディさんに相談したのが間違いだったのか、それとも作戦を行う際の準備期間にばれてしまったのか。

 コンティニューすることを前提に規模を絞って探し出すか、単独で襲撃を繰り返すべきか。

 結局死ぬことになるってどういうことよ。

 

 あまり行動せずに情報を待つべきか。

 ユーノくんが無限書庫で調べていると聞いたし、果報は寝て待てって感じだろう。

 あとは魔法の練習とビニール傘でも振っておこう。

 高町さん家に手合せをしてもらおうかな。

 

 

 

 フェイトちゃんが倒れただと?

 

 

 

 「不明なユニットが接続されました」

 

 

 

 『96周目』

 

 守護騎士ども全員表出ろ。

 内側から鍵を掛けて締め出してやんよ。

 むしろ地球からたたき出してやんよ。

 

 

 

 「不明なユニットが接続されました」

 

 

 

 『97周目』

 

 トイレの鏡に映る姿はなんだか自分ではないように感じた。

 新世界の神を目指す敵と戦う探偵を思い出せるくらいの酷い隈だ。

 目も若干死んでいる印象を受ける。

 ……こんな顔の小学生がいてたまるか。

 

 

 

 コンティニューとともにを胃をひっくり返したように吐いて倒れた。

 よくわからんがループの間隔が短すぎたのが原因だろうと考えている。

 ユウくんが入院してから2、3日の間に死にまくってるし、闇の書による蒐集が始まってからはひと月の内に何度も死んだから反動がきたとかそんな感じか。

 動きが鈍くなる、調子が悪い、魔力のキレが悪いといった程度に捉えていたが無理が祟ったのか。

 ループは風邪か何かかと笑えてくる。

 とうとうユウくんの隣に寝かされてしまった。

 アースラ組からも謹慎を命じられた。

 

 自分には限界が無いと信じられた。

 無理をし続けても次には持ち越さないと思っていたが、それは甘えだった。

 前のように長い期間の休息があったから癒えた負担が今はひたすらに蓄積しているのだろう。

 面倒ばかりが積み重なる身体だ。

 

 

 

 すべてを投げ出して眠っていたらどうだろう。

 トイレを後にして病室へと戻る道すがら考えてしまうのだ。

 致命的な失敗すらも戻ることのできる俺ならば……。

 

 ビニール傘を杖代わりに歩いているとジルさんの姿を見つけた。

 お見舞いに来てくれたらしい。

 それほど仲が良いわけでもないのにわざわざ来てくれるとは嬉しい話だ。

 ロッテリアの二人は動物なので入って来れなかったと笑いながら言っていた。

 やはり忙しいのだろうか。

 闇の書に対する協力はかなりのものだ。

 かつて闇の書によって父を亡くしたクロノくんと同じように、彼女らにも思うところがあるのだろうか。

 

 

 

 病室に戻ると窓の空を眺めているユウくんの隣に座ってリニスがリンゴの皮を剥いていた。

 ロッテリアが動物云々のくだりを思い出して少しだけ笑ってしまった。

 リニスが音も立てずにリンゴとナイフを置くと、すぐにベッドに寝かされてしまった。

 身の周りの世話も甲斐甲斐しくみてもらえるので非常にありがたい。

 ジルさんも言われるがままにされている俺を見てにやにやとした表情を浮かべて転移した。

 有り難いが気恥ずかしくも感じることがある。

 

 転移によって姿を消えるのと同時に俺の胸の上にお菓子の箱が降ってきた。

 翠屋で使われている箱だ。

 中身は……シュークリームだった。

 室内の机の上には同じ箱、同じ中身のお見舞いの品。

 学校帰りに魔法少年・少女が持ってきてくれた物だ。

 海鳴のお見舞いは翠屋縛りなのだろうかと少しだけ首を傾げた。

 無地の皿を彩るように置かれた綺麗なうさぎの形に切り揃えられたリンゴを口に含んだ。

 しゃりしゃりと、静かな音が聞こえる。

 やっぱり味がしないのは寂しいものだ。

 

 ユウくんは眠り、リニスは静かに佇んでいる。

 錯乱を起こすこともなく、ゆっくりと眠っている。

 今日は次元世界だか何だかでなのはちゃんと竜也くん、フェイトちゃんが待ち伏せする日だ。

 前はフェイトちゃんが倒れて激情に駆られてコンティニューの度にOWで殴り込みをしていたが、今はそのような気分になれない。

 いや、すぐに出ていきたい気持ちもあるのだがユウくんとリニスの慌てぶりを思うと行動に移せないのだ。

 死ぬわけでは無い。

 そう、蒐集されたくらいでは死ぬわけが無い。

 自分を納得させて病室にのうのうと閉じこもる。

 何もしないことこそが最善の可能性もある。

 こうやって静かにしていれば俺だって死ぬことは無いはずだ。

 

 

 

 普段の生活を顧みると早過ぎるくらいの消灯時間。

 電気が消え、月明かりが射し込んでいる。

 窓際には猫の姿になったリニスが丸くなっていた。

 眠るには早すぎて少しばかり困っていると、胸がざわついた。

 嫌な予感だ。

 リニスも何かを感じたのか、人型の姿になった。

 ビニール傘を手に取ると結界が展開された。

 

 リニスに任せて病院の外へ転移する。

 外は俺、中はリニス。

 ユウくんは人気者だからな、どこぞの変態に襲われるとも限らない。

 放っておいて目の前で蒐集なんてされたら後悔する。

 何度も来る余裕がなくなるように、ここでしとめておきたいところだ。

 

 

 

 屋上に立って、メダルを待機させてから索敵を行う。

 見渡した限りでは敵の姿は見つからない。

 病院を包み込むほどに糸の探索範囲を広げる。

 結界内部で動いているモノだけを見つけるので機能もそれ相応にショボい。

 病室で戦闘が起きているようだ。

 まさか一気に中を攻めてきたのか。

 すぐに向かおうと転移に魔力を込めていると妨害されてしまい、魔法陣が消え去った。

 変態仮面の出現ですね、わかります。

 

 攻撃用に4枚のメダルを転移、突撃させる。

 死角に飛ばしたはずだが易々と弾かれてしまった。

 衝突時に魔力弾を放ったが大したダメージにはならなかったのか、そのままこちらへ向かってきた。

 ビニール傘の魔力刃で相手の拳を受け止める。

 激突時に少し割れてしまった。

 強化系の魔法の出来が良すぎてドン引きだ。

 

 二、三、四、と衝突の数が増えるのと比例して罅が深くなる。

 更に魔力を込めて魔力刃を修復し、強化する。

 それでも十を超えたあたりでバラバラに砕け散った。

 馬鹿力め。

 魔力の欠片を吸収して再び魔力刃を作り出す。

 今もそうだが、絶好の機会があろうとも攻めてこない。

 時間稼ぎか?

 なんのために……ってユウくん狙いしかないな。

 俺の弟がヒロイン過ぎて泣きそうだ。

 

 

 

 また魔力刃が砕けた。

 これで三度目だ。

 変態仮面(♂)は体術がマジで強い。

 力はブーストできるから拮抗できるが、技術は簡単には覆すことができない。

 だから貫は無理だ、防御を見切れない。

 撤は成功していると思うが相手は魔力を手足に纏わせているうえに仮面で表情がわからないし効いているのかさっぱりわからん。

 魔法はマジで俺の人生をクソゲーにしている、絶対に。

 

 転移するために距離を稼ぐ。

 管制メダル以外を攻撃に使用、弾幕を張る。

 威力よりも目くらましとしての役割を重視したので派手目なモノにした。

 弾幕は火力じゃないぜ。

 弾幕は火力って聞くと普通の魔法使いよりも紅の流れ星を思い出すのは俺だけだろうか。

 あの人は戦闘は火力って言いつつ負ける感じだけど。

 

 メダルを回収し、短距離転移によって屋上からすり抜ける様に階下へ。

 同じように転移で壁や床をすり抜けながら病室へと向かう。

 ……人がいない病院は奇妙だ。

 気持ち的にホラー系と主人公だな。

 暗い夜道をケータイ電話の明かりだけで照らすとバイオごっこが出来るぞ!!

 

 変態仮面が近くにいないので一気に病室まで転移する。

 大丈夫か!!と主人公っぽく駆けつける。

 転移した病室の中は、猫型のまま動かないリニスの目の前でユウくんがゲシュペンストに飲み込まれているという悪夢のような状況だった。

 闇の書はなぜこんなにも煽ってくるのか、僕には全然わからないよ。

 

 

 

 リニスをチェーンバインドで手元まで引き寄せ、抱える。

 転移で真っ黒に染まったユウくんを一緒に連れ出す。

 多数のチェーンバインドによって構成されたアレスティックバインドで縛ってリニスを起こす。

 猫状態なのはユウくんから供給される魔力が不十分らしい。

 リニスの考えだと厄介なことにゲシュペンストと呼ばれている魔力の球は蒐集機能が単独で動いているような状態で、リンカーコアに憑りつくことで乗り移ることができるようだ。

 バインドで縛ることができるので魔法を吸収することはできないことがわかる。

 バインドを破ったユウくんがデバイスを構えた。

 ……面倒だな

 

 ユウくんのデバイスは頑強で魔力伝達に優れた特化型の槍型ストレージデバイスだ。

 穂先に付いている飾り布に魔力を込め、解放することで速度を一時的に上げることができる。

 つまり、魔力を込めれるだけ加速するということだ。

 それだけ負担も増えるのだけれど。

 

 

 

 突き破れ!オレの武装錬金!!な感じで槍を構えて突撃してくるユウくんを受け流す。

 肩に乗せたリニスと対策会議を行いながら回避。

 蒐集した魔力によって動いている魔導生命体に憑りつかれているので、リンカーコアから引きはがす必要があるのだ。

 魔力を奪うか、魔力ダメージを与えるかで引きはがせるだろうと予想している。

 ただ、身体のダメージを無視して加速を多用しているのでなるべく攻撃しないで魔力を奪いたいところだ。

 

 リニスに離れた位置にいるようにと指示を出し、糸を張る。

 槍先の接触を知覚するのと同時に槍をチェーンバインドで絡め、クリスタルケージに閉じ込めた。

 ストラグルバインドの演算を開始する。

 強化魔法を無効にするから効果は抜群に違いない。

 さあ、屍を晒せ!!と展開しようとするとリニスを人質に取った変態仮面(♂)が再び姿を現した。

 ……うわあ、忘れてた。

 

 

 

 仕方ないのでケージから解放する。

 早くリニスを解放しろ、と言いかけてやめる。

 変態仮面もゲシュペンストに飲み込まれていたからだ。

 お前もかよ!!

 これはひどい、マジでひどすぎる。

 

 ユウくん、リニスをなんとか取り出さないと。

 変態仮面はそこで死ね。

 AMFで溶かすか、吸収し尽くすか。

 吸収は無理だな、途中で死ぬ。

 AMFか……効くのかな?

 とりあえずAMFを演算していると黒いスライムのような状態だったゲシュペンストが徐々に小さくなっていた。

 そして中から綺麗な銀髪の女性の姿が……!!

 誰っすか。

 

 

 

 『98周目』

 

 あの女性TUEEEEEEEEEEE。

 勝てない。

 マジで勝てない。

 障壁が固すぎてほとんどの魔法が通らなかった。

 OWで殺す気で突撃したら障壁を貫通したけど普通に素手で防がれて魔砲くらって死んだ。

 密度が半端ない。

 OWの起動状態で死ぬとかクソゲーだろ。

 難易度をもっと下げろ。

 最近の赤い配管工ですらクリアしたことにして次のステージに進める仕様だぞ。

 もっと簡単にすべき。

 無敵の2Pとか出してくれてもいいのよ?

 2Pコントローラーで叫ぶとジャイアンが敵を倒すとか、1UPとか。

 

 ユウくんと病室にいるとゲシュペンストのゲシュ子さんがデートを仕掛けてくるというイベントが発生する。

 性別はわからんが、ゲシュ子さん。

 名前くらい可愛くしないとデートイベントを乗り切れる気がしないのだ。

 好感度とか高すぎたのだろうか。

 避けるのが一番なのだけれど。

 

 とりあえず俺が入院しなければデートは発生しないはず。

 たぶん、きっと、おそらく。

 そういうわけなのでユウくんはアースラに預けた。

 襲撃犯の行動範囲内に入院させるとか無理があったわけで。

 アースラなら安心できる……はず。

 さすがに内通者がいても蒐集されないだろうし。

 

 

 

 家でぐったりと寝て過ごす。

 ユウくんもリニスもいないし、静かなものだ。

 身体を動かすのがさび付いたように鈍く、酷なので横になっている。

 気持ち的には絶好調だが、身体が付いてこない。

 のろのろと動く自分に苛立つ。

 自分の上に浮遊させたメダルからチェーンバインドを発動、UFOキャッチャーの景品よろしく吊るされながら移動する。

 

 冗談でやってみたが、案外面白い。

 シールドなどで加重を和らげると浮かび心地も悪くない。

 まあ、俺は飛行魔法も使えるのだけれど。

 こうやって遊ぶのも悪くない。

 なんかダルい。

 絶好調だけどダルい。

 誰もいない家を一人漂う。

 ああ、静かだ。

 

 

 

 なのはちゃんがヴィータ、竜也くんがはやぶさくん、フェイトちゃんがシグナム、アルフがマッチョ犬と戦闘。

 フェイトちゃんが蒐集されるはず。

 ……そういえばなのはちゃんと竜也くんも蒐集されてない気がする。

 やべぇ、どっち行けばいいんだ?

 とりあえず高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応すべきだな。

 

 転移した先ではフェイトちゃんとシグナムが二人で仲良く巨大なムカデを倒した光景が……。

 なるほど、わからん。

 話し合いを始めたが俺には関係ないので魔法陣を構築。

 フェイトちゃんは一対一を御所望のようだ。

 頼まれたら認めるしかないでしょ。

 しょうがないよね。

 問題があったら割って入るけど。

 

 

 

 魔法陣を組み替え続ける、複数の座標に対応できるように。

 ビニール傘とメダルの補助を受けながらテキトーに組みつつ、フェイトちゃんを応援する。

 技術はシグナム、早さはフェイトちゃんが優勢だな。

 しかし、二人とも際どい格好である。

 将来が心配になるよ、俺は。

 

 しばらくぶつかり合いが続いていたが、互いの動きが止まる。

 拮抗していた勝負だ、次の一撃に賭けるのだろう。

 砂がうぜえなと思いつつ眺めていると転移してくる何かを知覚した。

 間違いなく変態仮面に違いない。

 これを待ってたんだよ!!と三か所の座標を狙い、魔法陣を起動。

 構築、知覚、死ぬがよいってね。

 サンダーレイジを解放した。

 

 シグナム、筋肉犬、そしてかなり上空に浮かんでいる変態仮面。

 それぞれに三分割されたサンダーレイジを降り注ぐ。

 分割されようともその威力は留まるところを知らない。

 酷い負荷だ、ゲロ吐きそう。

 スタンを期待して電気変換紛いのことまでしたのが余計だったかもしれない。

 襲撃をかけてきた変態仮面へと転移してビニール傘で殴りつけた。

 このまま落下で死んでくれるとありがたいんだけど。

 

 砂塵を巻き上げて砂漠の中に埋もれた変態仮面を見送ってから、シグナムを介抱しているフェイトちゃんに近づく。

 文句を言われたが、一対一の状況じゃなくなったので無効でーす☆と軽く煽る。

 そして吐いた。

 険悪な雰囲気が一転した。

 俺の心配をしてくれるのは有り難いがフェイトちゃんはさっさと転移して帰ってくれないかな。

 俺も帰るに帰れない。

 アルフも筋肉を連れてきたがさっさと帰らせてくれ。

 魔力は余裕だが体調がダメっぽい。

 思ったように身体を動かせないんだわ。

 変態仮面は魔法で落下速度を軽減して防御力を上げてたし、まだ動けるはず。

 蒐集させるわけにはいかないんだ。

 なんでかって?

 なんとなくさ、たぶん。

 よくわからんよ。

 

 

 

 フェイトちゃんとアルフを連れて無理矢理転移しようとしていると、真下から変態仮面が飛び出してきた。

 同時に魔力弾をばら撒かれた衝撃で転移が失敗した。

 もう一戦あるのかと内心で舌打ちして変態仮面を見上げるがどうも様子がおかしい。

 ずもももも、といった感じの効果音が聞こえてきそうな闇に包まれている。

 ゲシュペンストに憑りつかれたらしい、厄介なことに。

 テンパっているフェイトちゃんに俺が時間を稼ぐから早く転移するように伝えると自分も戦うと言い出した。

 嬉しいが嬉しくない。

 言い合っているとゲシュ子さんがシグナムと筋肉を取り込んだ。

 うわぁなんだか凄いことになっちゃったぞ。

 マジでさっさと逃がさないと、とフェイトちゃんに目を向けると胸から手が生えていた。

 

 フェイトちゃんが魔力を蒐集されて倒れた。

 ディバインバスターをゲシュ子ちゃんに撃ちこむが逸らし、そのまま転移して消えた。

 追いかけようと転移を組むがアルフの叫びで転移の行き先を変える。

 そしてフェイトちゃんを抱えて転移。

 ……面倒なことになったな。

 

 戻ってからフェイトちゃんを預けて現状把握。

 最悪か、その一歩手前らしい。

 どういうことだと聞くと、蒐集されたせいで竜也くんとなのはちゃんが倒れたとの事だ。

 他にも武装局員が壊滅状態とか。

 リンディさんとクロノくんも不在である。

 かなりよろしくないとしか言えないですね。

 

 

 

 八神家を襲g……偵察しようとしたら結界が張られていた。

 転移ですり抜けて目的地にたどり着くと、そこにはゲシュ子(変態仮面♂)と空中で戦うはやぶさくんの姿があった。

 どうしたらいいんだ。

 どっちを殺せばいいんだ?

 

 少し考えるが、答えは出ない。

 とりあえずどっちも俺の敵なのだから二人に向けてディバインバスターを放つ。

 三つ巴の予感……などと警戒していたら変態仮面♀が出現した。

 場の混沌具合が加速した気がする。

 

 変態仮面♀の出現に気を取られてしまったのか、はやぶさくんの胸元から腕が生えていた。

 リンカーコアから直接魔力を搾取されるアレですね。

 蒐集を止めようと魔法を放つが、すでに終わってしまったようで気絶したはやぶさくんにダメ押ししただけだった。

 そして響く悲鳴。

 玄関から出てきた声の主であるはやてちゃんと俺の目が合ったのは偶然だろうか。

 

 変態仮面♂からゲシュ子がぬるりと抜けて、落下していく。

 もう一人の変態仮面♀が受け止めた。

 その直後に変態仮面♂は霧のように身体が消え、アリアの姿になった。

 なんぞこれぇ、と混乱しつつゲシュ子さんの姿を探す。

 大きな本を抱えたはやてちゃんのすぐ近くにいるのを見つけた。

 

 何だか嫌な予感がする。

 GANTZっぽさを感じる黒い球、ゲシュ子さんが本に同化した。

 それが合図だったのか、本が輝くと同時にはやてちゃんを中心に魔法陣が展開された。

 目が眩むような強い光の後、無表情のそいつは現れた。

 別人のように背が伸び、髪は腰まである銀色へ、瞳は血のように濃い紅、黒を基調とした軽装、手足に巻かれたベルト、そして夜を切り取ったかのような黒い翼。

 はやてちゃんだった名残はどこにもなかった。

 

 

 

 うわぁなんだか凄いことになっちゃったぞ。

 以前見たときと同じあの姿はゲシュ子さんの最終進化だろうか。

 展開していた魔法陣はベルカっぽいけど見たこと無い形式だった。

 女性から濃密な魔力を感じた。

 

 砲撃系統の魔法陣が見える。

 チャージなどさせるものか、と割り込もうとしたら速攻で撃たれた。

 あちゃー、チャージなどするものかのほうか。

 避けられん。

 

 直撃を防ぐためにメダル8枚でシールドを張る。

 ヤバい。

 視界が魔力で覆われた。

 なんか高濃度過ぎて笑えてきた。

 メダルが許容量を超えて火花が見える。

 底上げ無しの俺では受け止めきれないのは確定的に明らか。

 

 メダルを生贄に捧げ、転移で射線からバックステッポ。

 なんとか凌げたが次は無いだろう。

 高火力すぎて一撃死とかひどすぎる。

 メダルの座標を組み込んだチェーンバインドを伸ばして回収。

 過剰に魔力を溜めこみ過ぎて内部から壊れたのか、8枚全てにヒビが入っている。

 残念だが、これからは管制メダルのみか。

 

 ビニール傘に魔力を込める。

 相手の魔力量を考えると心許ない。

 しかも防御で魔力を割いたので余裕すらない。

 もう詰んだわ。

 

 

 

 クソゲー展開にイライラしている俺など見えていないかのように、女性は音も無く一点を目指して飛んでいく。

 どういうことだろうかと女性の進行方向に目を向けると、結界の裂け目が見えた。

 さっきの魔力砲によって引き裂かれたようだ。

 街中でさっきのアレ級が撃たれたらまずいことになる。

 空飛ぶ天変地異やでぇ……。

 

 見逃そうかと思ったが、闇の書が覚醒すると地球がヤバいみたいなことをクロノくんが言っていた気がする。

 まあ、ジュエルシードの凶悪版が歩いているみたいな状態だしね。

 俺も気張るしかないか。

 再来週にはクリスマスだし、平和が一番だと思うのですよ。

 クリスマスとかボッチの予感。

 リア充は死ねばいいのに。

 ユウくんが帰ってきたら、リニスもいてくれるから三人の予感。

 ……頑張るしかないね。

 

 ラヴォスくらい強いよ、絶対。

 天から攻撃が降り注ぐくらい強いに違いない。

 接近して斬りかかるが防がれる。

 なんだこれ、硬すぎ。

 最強の拒絶タイプか……。

 女性が一瞬で術式を構築した。

 読み取れる性質は内から外へ向かう広域タイプか。

 

 デアボリック・エミッションとかカッコいいな。

 これは逃げられないなー、闇に染まっちゃうなー。

 マジで困った。

 悩んでいると、変態仮面♀が隣に迫ってきた。

 こんな面倒な場面で三つ巴になられると困る。

 頭を抱えそうになっている俺を前にして変態仮面♀の姿がジルさんに変わった。

 変わったというか魔法を解いて戻ったというか。

 なんとなくそんな気がしてたり、してなかったり。

 デアボリック・エミッションを代わりに防いでくれたジルさんマジ女神やでぇ……。

 

 防いでいるジルさんと急いで情報交換。

 彼女は闇の書の封印を目的として動いてたらしい。

 転生機能と無限再生機能があるため、起動してからでしか封印できず、蒐集を手伝っていたのだと言った。

 しかし、予定よりも遥かに早く書が完成してしまったとか。

 焦った守護騎士とゲシュ子さんという新規メンバーのせいらしい。

 ゲシュ子さんはリンカーコアそのものでもあるらしく、魔力を溜めこむことができる性質持ちだとか。

 ゲシュ子さんに魔力を込めて闇の書にぶち込めば、起動を早めることができそうだ。

 今飛んでいるあの女性は闇の書の管制人格であり、うんたらかんたら。

 

 話が長い。

 そんなことは俺にはどうでもいい。

 とりあえず闇の書を止める方法が知りたいわけで。

 話を聞いていると封印できそうなのだけれど。

 蒐集が終了しているから自発的には動かないので凍結させてはやてちゃんごと凍らせて永久封印してどっかに捨てればおk、ということらしい。

 はやてちゃんは犠牲になったのだ、俺がクリスマスを迎えるという目的のためにな……。

 

 封印という目標が重なった俺とジルさんの共同戦線である。

 以前に俺を殺した変態仮面の中の人だと考えると複雑な気持ちだが、今は頼りにするしかないようだ。

 俺には手段も力も無いのだから。

 今回はジルさんが信じるに値する人かどうかに賭けるとしようか。

 

 

 

 俺が管制人格の障壁を突破、そしてジルさんが凍結処理という単純な方針で動く。

 器用な事は出来そうにないし応援も期待できない。

 突破とか今の魔力だと無理なんだがと呟くと握りこぶしほどの大きさをしたガラス玉を渡された。

 エネルギー駆動炉から引き出すための印らしい。

 ヒュードラとかいうやつの改修版だが、安全かどうか不明で次元震の可能性もあると言われた。

 危険物じゃねえか。

 こいつに座標を指定することで次元航行用のエネルギーを使えるようになるとか。

 使用には随時俺の座標を伝える必要があるのだが、管制メダルを中に入れることで解決した。

 ガラス玉の中央でメダルが回転しているという不思議な状態だ。

 OWを使うために用意していたとか。

 なるほどなー。

 

 OWの説明は端折ってもらう。

 使用に関しては何の問題も無い、むしろ使い慣れているくらいだ。

 リンカーコアへの高負荷が掛かることに頷きながら起動準備に入る。

 凍結魔法の準備でジルさんは時間がかかるだろうとのことで、俺が単騎掛けになる。

 結界の修復をしている暇はないだろうとも。

 たぶん管理局の誰かが直してくれてるはずだし。

 デアボリック・エミッションによる魔力が薄れていく。

 ジルさんは防御で魔力に余裕がないから俺だけが狙われる必要がある。

 俺も傷だらけで腕なんて千切れかけるくらいヤバいんだけどな。

 チェーンバインドで無理やり動かしているだけだし。

 愚痴ってもしょうがないか。

 

 壊れかけた8枚のメダルがビニール傘に寄り添うように浮いている。

 魔力で満たされたガラス玉が光輝く。

 魔法の闇を祓うかのように。

 

 「フめいna■ニッt…が■ぞ……れま……」

 

 性別すらも判断が付かないようなノイズ混じりの声。

 悲鳴のような異音を響いた。

 巨大な手が開いているかののように、傘だったものを中心に八つの歪な鉄骨のようなブレードが姿を現した。

 ブレードの表面に規則正しく並んでいる鋭い刃が火花を撒き散らしながら回転を始めた。

 傘を覆っていたビニールの傘布が溶け、消えた。

 展開されていたブレードの並び方が傘だったものを中心にした円型へと変化し、それらが炎を吐きだしながら回転を始めた。

 ドリルのように回転し、赤熱しているブレードの輝きが増していく。

 

 

 

 

 

 喰らえ、相転移砲!!

 と、いきたいところだが無理でした。

 できてグラビティブラストあたりだろうか。

 相転移砲が出来たら液体金属用いて拡散構造相転移砲……相転移砲とはちょっと違うか。

 いつかはベクターキャノンを撃ちたい(迫真)。

 有り余る魔力を込めたディバインバスター。

 まあ、単なる魔力ビームなんですけどね。

 拡散している魔法の範囲を徐々に集束させ、管制人格のみ撃ち抜く。

 管制人格に当たらない部分が結界をぶち破った気がするが、全部管制人格のせい。

 おのれ、管制人格!!

 

 やったか!?とかこれには耐えられんだろう……とか呟いておく。

 魔力放射をやめる。

 残骸魔力の煙が薄れ、障壁によって防ぎきったのであろう埃一つ付いていない管制人格の姿が現れた。

 ちょっと硬すぎはしないだろうか。

 魔力量も人間の限界に挑戦する勢いで放ったんだけど。

 なのはちゃん超えてた自信があった。

 威力的には今のはスターライトブレイカーではない…ディバインバスターだ…って言えるくらいだったし。

 俺が落ち込んでいても相手には関係ないようで、魔法陣を展開していた。

 ちょっとくらい待ってくれたっていいのに。

 おまえら人間じゃねえ!!

 ……これは守護騎士に言うべきだな。

 

 赤い短剣が管制人格の周囲に現れる。

 アクセルシューターのような誘導制御型ってやつだろうか。

 ファンネルっぽいやつ。

 それはいいのだけれど、数がおかしい。

 20以上はある。

 制御能力が狂ってやがる……。

 管制人格の指示を受け、ファンネルたちが殺到してきた。

 

 面倒なので俺の座標からテキトーな範囲を指定してジャマーを展開。

 さらに多重掛けで高濃度ジャマー。

 結合の解除が促進され、誘導が弱っているところをサンダーレイジで薙ぎ払う。

 ついでに管制人格にも当ててみたが効いている様子は無い。

 効果が見えたらバカスカ撃って削る予定だったが変更するしかないようだ。

 最も火力のある直接攻撃で抉るか。

 

 

 

 本格的な空戦の予感……っ!!

 なんてね。

 そういえばまともな空戦ってあんまりしてないよね。

 

 ジルさんにチャージ時間を聞く。

 ほんの数分で準備はできるが、障壁に阻まれる可能性がある。

 そのためのOWだから頑張ってね、とのことだ。

 期待に応えられるように頑張りますよっと。

 

 じゃあ、行こうかな。

 

 

 

 音を置き去りにした。

 ホントに置き去りにしたかはわからん。

 比喩表現だし。

 ちょっとした次元連結システムの応用である。

 プレシアからパクッた次元跳躍攻撃の次元跳躍の式を転移に組み込み、空間を広げた瞬間に術式を破棄することで復元しようと働く反動を推進力に利用した移動法だ。

 魔力放出でもいいのだが、小規模の次元震が発生するエネルギーを推進力に換えているために速度がケタ違いなのだ。

 OW中にしか使えないのと次元震というか、次元の歪みのような軋みが生じるのが欠点か。

 

 とりあえず音速以上の速さで管制人格の障壁と突き出したグラインドブレードが激突した。

 俺の突撃は察知されていたようで、障壁で防がれた。

 しかも魔力を多分に込めた念入りな防御、多重障壁のようだ。

 が、グラインドブレードはそれを少しばかり上回った。

 表面の2枚ほど粉々に粉砕した。

 

 砕け散った障壁を衝撃波で吹き飛ばしながら何度も突撃を繰り返し、薄皮を剥ぐように障壁を削る。

 障壁を再び展開される前に、身を削る思いで何度も。

 転移で距離を取り、突撃する。

 加速するたびに勢いを増す炎は傍目に見たらどのようなものだろうか。

 管制人格は砕け切る障壁ごと砲撃魔法を放った。

 夜の印象を抱かせる管制人格の魔法と太陽のように燃え盛る炎を纏ったOW。

 対照的な二つのぶつかり合いは、すぐに終わった。

 俺が夜に呑まれたためだ。

 

 夜闇から抜け出すように、魔力の残骸を吹き飛ばしながら再び突貫。

 砲撃はグラインドブレードで大部分を削り切った。

 常に満たされ続けるリンカーコアが残骸を吸収することは無く、供給され続ける膨大な魔力を放出するだけで余波を防ぐことができた。

 衝撃波を残しながら、何度も体当たりを繰り返す。

 いつか管制人格に届かせるのだと言い聞かせて、何度も。

 

 デバイスは沈黙している。

 警告すら出せなくなったのだろう、その身が帯びる熱によって溶けた一部が散っていく。

 溶解した破片が地に降り注ぐ。

 幾度目かの突撃、障壁を一枚破るのと同時にブレードが一つ耐え切れずに砕けた。

 歪な鉄骨のような外装が剥がれ落ちていき、最期には変形して朽ちかけたメダルだったものが地へと堕ちた。

 それを拾う暇さえ俺には無かった。

 

 

 

 8つあったブレードが半分にまで減ったが管制人格の障壁を砕き切るには至らない。

 しかし、手が届きそうな状態でもあった。

 俺の天王山かもしれん。

 気張って行くしかないね。

 

 更に加速し、突撃。

 目が、合った……?

 腹へ衝撃。

 砕け散るブレードを残し、衝撃によって俺の身体は病院の屋上へと叩きつけられた。

 ここで腹パンかよ……。

 

 速度の乗ったカウンターほど悍ましいモノは無いな。

 しかも魔力を込めるという外道仕様。

 骨が何本やられたかわからんが、ただ立つだけでも厳しいようだ。

 血だらけすぎてヤバい。

 凄惨な事故現場と表現してもよろしいのではないでしょうか。

 着ていた病衣もチョーヤバい。

 流石のバブルヘッドナースちゃんも俺の姿を見たら看病せずにはいられないだろう。

 傷口から流れる血を止めるためにシールドで塞ぐ。

 添えるだけだと流れ出るので傷口を抉るように。

 使えなさそうな部位もシールドで雁字搦めにして固定、念動で無理やり立ち上がる。

 また削り直しかよ、とウンザリしながら管制人格へと視線を向ける。

 張り直された結界と管制人格の周りを飛び交う金色の光が見えた。

 ははは、まだ死ねそうに無い。

 

 ジルさんが撤退すると言い出したが却下した。

 ユウくんとリニスも頑張ってるし、俺もまだまだいけそうだ。

 そもそも、再びアレの障壁を削り直すなど無理もいいところだ。

 残り1つとなった廃棄間近のジャンク状態であるブレードでは一撃で限界だろう。

 それに、闇の書も待ってはくれないだろうし。

 

 

 

 次元連結システムのちょっとs(略)で病院の一角を引き抜く。

 力任せに次元跳躍の反動で破壊して転移で切り取っただけだけど。

 今の魔力ならメダルが8枚あれば座標を細かく演算できるのでダイヤモンドを紙一枚で真っ二つとか出来る、はず。

 試しようがないね。

 良さ気な鉄柱を見繕い、ブレードで斬って成型。

 タオパイパイのように投げて飛び乗るのも面白そうだが、今の用途は別である。

 鉄柱にブレードで穴を開け、傘を突き刺し魔力を通す。

 傘から浸食が始まるがかなり半端でしか作用せず、コンクリートが剥がれるだけだった。

 それでも魔力を通すようになったのか、紫電が迸っている。

 これなら減ったブレードの分の火力を補えるだろう。

 ……補えるよね?

 

 ゼロシフトもどきで再び接近。

 ユウくんと入れ替わるように管制人格の前に躍り出た。

 今まで能面のように表情が変わらなかったが、俺だとわかると驚きに目を見開いた。

 機械のようだったが、どうしてなかなか人間味を感じられる。

 そっちのほうが魅力的ですよ……なんてね☆

 鉄柱を振り抜いたが、障壁を砕き尽くすまでには至らなかった。

 そら、もう一撃だ。

 衝突の際に半ばから折れた鉄柱を手放し、シャーペンを投げつけようと隙が出来た瞬間、高濃度の魔力が篭った拳を叩きつけられた。

 

 人外の領域はまさに魔人拳!!

 アホなことを考えてたらどす黒い血を吐いてしまった。

 これはもう、内臓ガッタガタだな。

 虎の子であるシャーペンもバラバラになった。

 ガラス玉にヒビが入り、供給されるエネルギーが滅茶苦茶になっている。

 暴走だろうか、リンカーコアが悲鳴をあげている。

 なんとなくもう長くないと思う。

 

 チェーンバインドで管制人格を雁字搦めにし、シーリングで縛る。

 シールドで防がれるが逃げ道さえ防げれば、それでいい。

 シーリングで防御処理が遅れるなら、もっといい。

 役割くらいは果たしておくよ。

 ユウくんとリニスをランダム転移で遠ざけ、俺を中心に管制人格の位置まで次元固定。

 転移で逃げられないようにジャミングを流しているだけだが。

 次元連k……のちょっとした応用である。

 

 魔力暴走に身を任せる。

 何をするかって?

 いやいや、ちょっとお手伝いをね!

 

 

 

 

 

 『99周目』

 

 最後に見たのは凍結した形容し難い化け物でした。

 自爆で致死ダメージを叩きだしたら転生機能が働いたが、それをジャミングで防いでたら出てきた。

 中身か何かか、あれは。

 やっぱり管制人格に手を出すのは無しにしよう。

 中身が出てくる瞬間がねらい目だろう。

 シーリングとジャミングは効くっぽいし、なんとかなるだろ。

 

 セーブポイントから砂漠のタイマンまでは同じように進み、またもフェイトそんとシグナムの一騎打ちを眺める。

 違うのは俺が魔法陣を展開していないだけ。

 というか、すでに魔法は行使して今は手持無沙汰なだけだ。

 シーリングで幾重にも縛り、クリスタルケージに封印したゲシュ子さんを横目に見ながら変態仮面待ちである。

 中身がアリアである変態仮面よりもジルさんのほうが来てくれると嬉しいんだけど、ガラス玉が欲しいし。

 できれば荒事は避けたいわけで。

 貸してくれなかったら力尽くで奪うしかないだろうし。

 

 ゲシュ子さんを使って闇の書を起動、封印するから手伝ってね☆とジルさんに笑顔で伝えた。

 アリアは転移と同時にバインドで縛って人質、ではなくマスコットとして連れてきた。

 話が円滑に進んで嬉しいです。

 ガラス玉と管制メダルを統合し、座標を送る。

 これでOWの準備もできたわけだ。

 いやあ、断られたらゲシュ子さんに喰わせるつもりだったけどジルさんが理解ある人で嬉しいよ。

 

 

 

 結界を展開、OWを起動し、八神家にダイレクトアタック!!

 金髪の女性をバインドし、何をやってくるかわからないから最初に戦線離脱してもらう。

 はやてちゃんから闇の書を借りる。

 起動前だと俺でも蒐集機能を使えるようだ。

 なんとテキトーな……。

 試しに金髪の女性を蒐集すると霞のように消えて行った。

 あるぇー?

 

 ……しゅ、守護騎士だから。

 たぶん守護騎士だからノーカンだから。

 俺のシマなら守護騎士はノーカンだから。

 気を取り直してゲシュペンストが破裂する寸前まで魔力を込める。

 リンカーコアの役割もあるらしいし、足りてないページはこれで補ってしまおう。

 うわっ…、私の魔力、多すぎ…?

 球体だったゲシュ子さんは魔力が多すぎてバブルスライムと化していた。

 なるほど、これが配合の成果か。

 

 準備が整ったので用済みのゲシュ子さんを闇の書にぶち込む。

 あとは起動するのみだ。

 ……。

 …………。

 ………………。

 起動しないでござる。

 

 

 

 なんで起動しないのかなぁ。

 壊れたとか?

 叩いたら直らないだろうか、グラインドブレードで。

 わかんね。

 どうしたらいいだろうかとはやてちゃんに尋ねるとめっちゃ睨まれた。

 そういえば今は俺のことを知らないんだっけ。

 知ってても睨まれそうだけど。

 

 たぶん、はやてちゃんが起動する気がないからだろう。

 困ったものだ。

 唸っているグラインドブレードを片手にはやてちゃんに語りかける。

 起動しないとヤバいよー、などと伝えるが怒鳴られるだけ。

 我儘だな。

 

 どうしたものかと首を捻っていると結界内への侵入者を察知した。

 守護騎士が帰って来たようだ。

 次元世界で戦闘しているはずなのに、帰宅するの早過ぎじゃないですかね。

 杜撰な侵入と転移だな、間違いなく管理局に捕捉されると思う。

 まあ、すぐに事件も終わるから気にする必要はないけどね。

 

 突入してきたヴィータとシグナム、筋肉犬。

 無数に設置しておいたバインドで簡単に捕獲、どうやら頭に血が昇っていて対処が遅れたらしい。

 悪魔だなんだと罵られるのを聞き流しながら蒐集準備。

 悪魔でいいよ、悪魔らしいやり方ではやてちゃんが起動したくなるようにするから。

 

 

 

 悪魔的なやり方って言ってもやることは一つなんだけど。

 いやー、俺ってば優しいな。

 苦しめることも無く蒐集するだけっていうね!!

 一人ずつ守護騎士が消えていく。

 ヴィータ、君は良い奴だったが残念だ。

 霧のように消えていく様を眺めて溜息を吐いた。

 まだ起動しないか……。

 

 呆けていると死角からはやぶさくんが急襲してきた。

 障壁で受け止める。

 拮抗した瞬間、バインドで捉えてはやてちゃんの目の前まで連れて行く。

 蒐集して無効化する。

 根性、ド根性、覚醒、再動、奇跡、復活などをやりそうだし。

 あとあんまり元気だと危機感が伝わらないからね。

 喋れないくらいがちょうどいい。

 6本もあればいいか。

 

 ――穿て、ブラッディダガー。

 

 

 

 ブラッディダガーって見た目は完全な刃物だから刺したらホントっぽいわけで。

 しかも赤いから血っぽく見えるし。

 あまり恩恵を受けたことは無いが、こういうときの非殺傷はマジ便利。

 1本を突き刺す。

 はやてちゃんにもわかりやすく、ゆっくりと。

 悲鳴を挙げてくれればいいんだけど、はやぶさくんは我慢強いようだ。

 まあ、それでも構わない。

 苦悶の表情で叫びを我慢している姿は逆にはやてちゃんを揺さぶれそうだし。

 

 2、3と突き刺すが起動はしない。

 どうしてなかなか我慢強い。

 そして俺は我慢弱い、残りを一気に突き刺した。

 はやぶさくんの口からうめき声が漏れた。

 闇の書が薄らと輝き始めた。

 起動か……!?

 

 はやぶさくんがはやてちゃんを一喝。

 闇の書から光が失われ始めた。

 はやてちゃんを宥めるために、はやぶさくんが立ち上がって頭を撫でていた。

 魔力も枯渇直前で、しかも魔法を喰らったのに凄い根性である。

 もう一押しか。

 ディバインバスターではやぶさくんを撃ち抜いた。

 

 

 

 今度こそ闇の書の起動を確認。

 はやてちゃんを取り込もうとしている書に割り込みをかける。

 機能を遅らせるシーリングと阻害するジャミング。

 再生機能と転生機能対策だ。

 さらに空間を固定する。

 次元連結(ryのちょっとした応用である。

 

 闇の書もデバイスの一つであるらしい。

 再生を遅延させとけば壊すくらいできそうじゃね。

 中身がどうなるかは知らないけど。

 ヴィータとは今生の別れになるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 まあ、試してみるしかないのだけれど。

 

 闇の書は中に入れろとばりに頁を開いて止まっている。

 だから期待に応える様にグラインドブレードを突き刺した。

 破壊の速度に再生が間に合わずジャンクと化していく。

 転移が行使されようとしているがジャミングによってとどまり続けている。

 

 どれくらいの時間、ミキサーしていただろうか。

 何度も破壊しているというのに未だに再生が行われようとしている本の姿に呆れてしまう。

 はやてちゃんとのリンクが切れるまで続けようと思ったが無理だ。

 俺は我慢弱いのだ。

 

 グラインドブレードを待機状態に戻し、グズグズの欠片と化した闇の書だったものに突き刺したままシーリングを十重二十重とかける。

 ゆっくりと欠片同士が近づき、結合しようとしているがビニール傘とシーリングによって阻害されて再生できないでいる。

 そこに変態仮面(ジルさん)が転移、凍結することで更に強固な封印をかけた。

 凍結とシーリングは闇の書自体の魔力によって半永続的にかかるようにしたので外部から手を出さない限りは問題ないはずだ。

 

 

 

 

 

 そうして闇の書事件は呆気ない終わりを迎えた。

 封印状態の闇の書は管理局へと輸送後、然るべき措置をとるとのことだ。

 たぶん、人が手を出せないような場所に放り投げるとかそんな感じか。

 ”被害者”のはやてちゃんは死ぬことは無いが未だにリンクしているために麻痺が残り、車いすに縛られている。

 途中で割り込みをかけたために、管制人格と混線したのか髪の色も灰色へと変わってしまった。

 

 俺も入院を余儀なくされた。

 当分の間は安静である。

 リンカーコアなんて休眠状態だ。

 そのうち使える様になるかもしれないが、今は寝かせておいたほうがいいらしい。

 不純物の処理で忙しいとかなんとか。

 だが、不能にならなかったのは奇跡的な状態だとか。

 あまりの幸運に涙が出そうだ。

 

 

 

 事件の後、はやてちゃんと一度だけ会う機会があった。

 一言も交わさなかったが、その瞳にはどこか見覚えがあった。

 ユウくんを拾ったときも似たような瞳を見た。

 暗い瞳だった。

 

 二度目に出会ったのはついさっきだ。

 病院の屋上で空を眺めていた俺に車いすで近寄ってきたはやてちゃんの姿は以前よりも更に深い闇だった。

 すぐに思い出した。

 プレシアと同じだった。

 彼女にとって守護騎士は家族で、家族を奪ったのは俺か。

 難しいものだ。

 

 はやてちゃんは魔法を覚えたらしい。

 かなり上手だった、直接受けたからわかる。

 血が流れている。

 止まりそうにない。

 突き刺さったままの6本のブラッディダガー。

 霧散せずにいることから才能を感じられる。

 それとも俺の魔力が枯渇状態だから消えないだけか。

 

 プレシアの最期を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『100sy■…m…………....

 

 知らない男が笑顔で俺の目覚めを歓迎した。

 見知らぬ場所だ。

 ただ、泥の底から無理矢理引き上げられた。

 そう感じた。

 気分が悪かった。

 ただ、ひたすらに気分が悪かった。

 

 

 

 

 

 

 次元断層の発生。

 人造生命の研究。

 禁止されていたエネルギー駆動炉の使用。

 ジュエルシードの強奪。

 闇の書の使用。

 質量兵器の使用による殺人未遂。

 ……etc。

 これらが俺の罪状らしい。

 ……どういうことだ。

 

 見事に次元犯罪者入りだねと男が金色の瞳をぎらぎらと輝かせながら嗤った。

 目覚めたばかりの俺には理解できないが家に帰れないことだけはわかった。

 ああ、ほんとうにひどいきぶんだ。

 

 

 

 

 





 
 
【7:00】スカリエッティからの通信で起床。ヴィヴィオを攫ったらしい。おかげで寝起きが悪い。

【7:14】ユウくんと朝食を食べていると容器にナイフが入った。爆発も気にせず食った。
5番が室内にいることに気がつかなかった事に腹が立つ。ユウくんがブチギレていた。

【8:35】出勤。ダルい。スカリエッティから通信がきた。うるせぇシカトだ。

【8:46】助手席に座っていると、後ろから3番が飛んで追いかけてくる。
身をのり出してデアボリックエミッションで仕留める。あくびが出た。

【9:35】デスクで書類を処理する。外を見ると10番がオレを狙っていた。転移で蹴りをいれる。10番は大人しくなった。

【10:27】エリオとキャロの指導がてら2番を捕獲。「よくわかったな」と言ってきた。黙れ痴女が。

【12:05】昼食を食べに行こうと歩いてて、ボードに乗った11番が襲い掛かって来た。シグナムに修正されていた。。

【13:06】端末に通信記録16件。かけてみる。「わたしはスカ…ブチッ…ツーツーツー」

【13:12】フェイトそんの捜査を手伝っていると姿を消している4番が声をかけてきた。
「うふふ、わたしがみえる?」至近距離でディバインバスターを撃ちこむ。
うずくまったまま動こうとしない。こっちは急いでるんだよ。

【14:30】公衆便所の手前で7番が立ち塞がった。何か言っているがうるさい黙れ。技術部が開発した130門の砲台を取りつけたフレームで蜂の巣にする。

【14:32】運転しているフェイトと話しながらバックミラーを覗くと9番がウィングロードもどきでついてきている。バインドをかけてサンダーレイジO.D.Jをぶつける。もう着いて来ていないようだ。

【15:25】局に戻る、通信記録が49件。またアイツか。

【15:27】スカリエッティからの通信に出る。「わたしはスカリエッティ、背後に注意するのだな」後ろは冥王だ。

【15:28】地面の中に6番がいたのでボコって封印した。リインⅡのおやつタイムの邪魔はさせん。

【16:01】通信が鳴り響く。端末の電源を切った。数分後に業務連絡ができないとはやてちゃんに怒られた。

【16:28】端末への通信が鳴り響く。デバイスがウザがって着拒した。

【17:49】竜也くんと夕飯を食いに外へ行く。今日一日でかなり働いた気がする。外から店の窓を突き破って池沼が現れた。
汚れるからやめろ。スターライトブレイカーを至近距離で直撃させた。ミッドはいつからこんなに狂ったんだろう。

【18:16】帰り道に閉じ込められた。結界のようだ。8番が無表情でこちらを見ている。しかし、竜也くんには勝てない。

【18:45】ちょっと仮眠して夢をみた。俺は夢の中では無敵だ。旅の鏡でヴィヴィオから異物を取り出す。ゆりかごを粉々に粉砕した。

【19:53】街中での魔法使用、ゆりかごの破壊について始末書を書く。ちくしょう。

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