--1
25世紀に転生した。
もう超未来。
未来すぎて俺の常識なんて無いも同じ。
俺の知識は古典混じりになりつつあるが、意外と数学とかはまだちょっとだけ使えたりする。
ちょっとだけだから。
強くてニューゲームなんて無かった。
流石未来って感じの要素はいっぱいある。
運動をスローにできるSTASIS(ステイシス)という技術とか、手で触らなくても物体に干渉できるKINESIS(キネシス)という技術とか、日本人が開発したワープ技術だとか。
マジで今、俺は未来に生きてるぜ。
そんな俺も大学を無事に卒業し、就職が決まったわけで。
就職先は惑星へのアプローチ(採掘やテラフォーミング)時に拠点となる大型のプラネット・クラッカー艦へとルート営業する石村屋である。
外宇宙へと物資を運ぶとか、ロマンあふれる職だ。
まあ、やることは物資を補充して、注文を聞いて、再び補充するだけなので普通の営業と変わらないんだけど。
前世だったらキロメートルスケールだったのが、AU(Astronomical Unit)スケールに変わっただけだ。
道に迷ったらナチュラルに星屑と化して死ぬけど。
宇宙へのロマンを胸に就職した、というのも理由の一割である。
残り九割は就職することで補助として与えられる物にある。
前世だったら社用ガラケーとか社用スマホ、社用iP○d的な感じなのだろうか。
いや、値段的には社用車とかに近いかも。
まあ、なんだ。
石村屋に俺が就職した理由、それは自動人形が与えられるからというね。
やっぱり日本人は未来でも未来に生きてるわ。
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惑星の衛星を採掘している大型多目的艦へ営業部署に所属すると、一人につき一台の自動人形が補助として付いて来る。
ちなみにこの部署は人間が苦手だったり、事情があって独り身だったり、地球から離れたかったり、前世でいう二次元に魂を縛られたりしている連中の巣窟である。
俺?
自動人形目当てで来た。
むしろそれ以外に理由がないんですがそれは。
支給された自動人形は量産タイプの三河自動人形だった。
偉くなると指揮官機が補助ったりするとか。
ちなみに自動人形だが、仕事の進捗によってアップグレードしてくれるとか。
あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~
三河さんとにゃんにゃんするのが楽しすぎて、気付いたら三年くらい地球に帰ってないわ(白目)
--3
仕事の流れとして
補給船から荷物を受け取る→外宇宙へ旅立つ→多目的艦に補給および発注を受ける→報告書および発注の連絡を地球へ→指示を受けた惑星とか衛星で補給船から受け取る→無限ループ
三河さんと発注確認して報告書を書き、あとは次の仕事場までにゃんにゃんである。
チェスやったが勝てない、というか一手目で詰む。
将棋ならまだ行ける……と見せかけて人間だと詰む。
前世ですらすでにプロ棋士とやりあえたのだから当然である。
という感じでなんて楽な仕事なのだろうか、と。
ちなみに普通の感性からすると、無表情の自動人形と長期間缶詰で宇宙旅行だから激務的なポジションらしい。
マジかよ、やっぱりドラ○もんやタ○コマのようなロボットが蔓延る世界の価値観は俺には計り知れない。
ちなみにお米の国は未だにAIアレルギーだし、大陸は太陽炉を杜撰に製造して爆発させて川を鮮やかな緑に輝かせているとか。
そういえば三か月前の補給時に同期から聞いたのだが、ポ○モンも新作が出ているという驚愕の事実。
最新は四次元バージョンだとか。
ヒッグスバージョンのポ○モンが古代種として出るらしい。
わかるわけない。
同期も「ヒッグスなんて古いバージョンのポケ○ンわからないよな、ははは」と笑っていた。
たぶん俺とわからない点が違うのだろう。
赤とか緑の元祖はどこいったのか、非常に気になる。
俺のフシギダネが三葉虫に近い扱いだったら泣く。
あ、追記するとメダ○ットは無かった。
メガテンも無い、天使悪魔神諸々を経験値にしたせいかもしれん。
FFとDQは2000を超えてた、ウィンドウズか何かか。
--4
俺、地球に降り立つ。
実に五年ぶりだ。
人が五十メートル以内にいると違和感が半端ない。
コミュ障になっちまったかもしれん。
三河さんが傍にいないと落ち着かないし。
完全な人形ユーザーです、ありがとうございました。
人形ユーザーは前世でいう2000年より前のオタクと同じ扱いだったりするようなしないような。
もう少しマイルドだが、子供が成せないので世間の風当たりはよくない。
まあ、俺は宇宙に旅立つからどうでもいいんだけどね!
久しぶりに本社に帰ったら前任者が孤独で精神を病んだとかで昇進、昇給できるとか。
昇進を受けると更なる外宇宙へと旅立つらしいが、どうでもいいな。
今の生活だと一切金使わないし。
辞退しようかと悩んでいると、どうも自動人形のアップグレードが凄いらしい。
小型端末の三河さんとか極小機械群のグレードが大幅アップとか高級電脳が追加とか重力制御が強化とか、もう色々と凄い。
今なら特機並みの拡張も行ってくれるようだ。
……。
やっぱり宇宙で遠くに行くのは男のロマンだよな!
喜んで昇進した。
--5
昇進によって三河さんが特機並みのアップグレードを受けたが、ついでに特機を与えられた。
三河さんだけでも良かったが、立場に付随した自動人形らしいので有り難く受け取った。
だって俺、自動人形大好きだし。
で、俺に与えられた新しい自動人形は時雨と夕立という少女のような外見だった。
人気の戦艦を擬人化した艦娘というやつらしい。
あれだろうか。
前世で戦国時代の熱狂的なファンや武将ダイスキー、歴女とかそんな感じのポジションの人たちが戦艦ファン。
そこに目を付けて恋姫無双みたいな感じにしちゃった、てへ☆みたいな?
なるほど、わからん。
時雨は雨が好きらしい。
宇宙に雨は降らないんだ、ごめん。
代わりにデブリの嵐とか衝突した彗星とか、ブラックホールに砕かれた惑星の一部とかで我慢してほしい。
あ、惑星表面の八割以上が水銀で出来た星とかでも代替品にならないだろうか。
あとは惑星の十割が水に覆われていて常に豪雨が起こり、海底ユニットで採掘とかしている星もあるしどうかな。
夕立はぽいぽい言ってる。
食べるときぽむっしゃぁぁぁあ!って擬音が聞こえそうだ。
以上。
二人とも犬っぽい。
最近は俺も電脳入れるかなー、と思うようになった。
理由は自動人形の情報伝達に参加できるからだ。
三河さんと時雨、夕立が無言で見つめ合っていると疎外感が半端ないし。
なんか通信しているっぽい。
夕立は通信でもぽいぽいしているのだろうか。
ちなみに自動人形によって口癖や性格が設定されている。
故障とか不具合じゃない。
技術者がそっちのほうが可愛いと設定したらしい。
やっぱ未来に生きてるわ。
--6
外宇宙でバイドという宇宙生物が発生したらしい。
MIBとかいう謎の組織の人たちが対処に当たるとかで、なんか巻き込まれた。
事の発端だが、特にない。
仕事を終えたら黒スーツの白人と黒人が緊急事態だからと乗り込んできて、そのまま宇宙をドライブだった。
途中で学ラン来た少年が異次元の裂け目から現れたりしたが、まあ、うん。
で、バイドというヤバそうな生物にアタックするR-Type戦闘機とやらを後方から補給しつつ、追いかけて敵の本拠地まで突き進んだ的な感じだ。
で、輸送船で神回避しつつ、バイドの中枢まで突っ走ると言う無謀な糞アクションを繰り広げた。
自動人形が三体と乗り合わせた超人がいなかったら死んでたに違いない。
中枢に辿り着くと、俺の役目は終わりなので三十分くらいしたら帰っていいとか。
帰りは捕まってたケルベロスに手でエネルギーを込めるから大丈夫とかなんとか。
そして、学ランの少年が船から降りて「破ぁ!!」と謎のビームを出してバイドを消滅させながら走っていった。
TERAで修行したらしい、TERAってなんだ。
とりあえずあの「破ぁ!!」と重力制御が無かったら俺の補給艦は沈んでけど。
で、その少年の後をMIBの二人組が銃を構えて走っていった。
三十分後、バイド空間が消滅した。
宇宙空間なのに微かに聞こえた「あとは22世紀で戦うだけだ! 破ぁ!!」の勇ましき声。
TERAで修行ってすげぇ、俺はそう思った。
バイド空間から解放されたので、随伴したR-Type戦闘機を回収する。
どうしてなかなかボロボロだった。
「破ぁ!!」が無ければ詰んでいた場面もあるほどの激戦だったので仕方ない。
パイロットが出てこないので、こちらから干渉すると衝撃の中身が!!
四肢が無く、頭に無数のコードが突き刺さっている少女がいた。
Oh...
R-Type戦闘機のパイロットに、自動人形用の補修パーツを取り付けてみる。
なんか手足がターンXみたいになったが、問題なし!
パイロットの名前はナナ、頭に角が付いてて不可視の腕を持ってるとか。
……。
なんだかよくわからんが、とにかくよし!
--7
ナナは未来だか過去だか異世界だかからTERAで修行した少年と来たらしい。
TERAで修行した少年とは面識がなく、接触したのは五分くらいだとか。
うーむ、未来に生きてる。
で、ナナには行き場がないらしいので俺の輸送船で生活することに決定した。
あとは面倒なので割愛。
研究所で育てられたから飯のうまさを知らないというテンプレキャラだったが餌付けすることに成功。
さすが三河さんだぜ。
俺も餌付けされてるから気持ちがよくわかる!
まあ、そんな感じで過ごしていたら大口の仕事が入ったとかで帰還命令。
久しぶりに地球に帰る、と思いきや途中で補給を受け、仕事先に向かうといういつもの流れだ。
今回の仕事は俺の職場である石村屋にとってかなり深い思い入れがある場所らしい。
ふうん?
補給船も乗り換えとなった。
途中で乗員チェックがあったが、ナナをウオルシンガムタイプと主張したらあっさり通った。
人形ユーザーの強みですね(目逸らし)
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次の仕事先だが、惑星採掘艦「USG イシムラ」となった。
なるほどなー。
--9
イシムラへの補給業だが、なぜか他のチームと合同となった。
通信が途絶えたので復旧に向かうらしい。
メンバーはシステムエンジニアのアイザック、コンピューター技師のケンドラ、チーフ警備員のハモンド、そして外宇宙を飛び回る営業マンの俺だ。
完璧な布陣だ。
エンジニア的な二人が頑張って、俺は受注を頑張る、ハモンドも何か頑張る。
やはり完璧だな。
システムの復旧に関しては隙がない。
隙が無いから無敵である。
漂うデブリとかで滅茶苦茶になりながら、イシムラへとダイナミックエントリー成功!
もう色々とガバガバだよ、たまげたなぁ^q^
--10
電気とか全然付いてないので、同乗していた三人が復旧に向かった。
俺は「電気が点いてない空間にいられるか! 自分の船で発注作業をやるぞ!」と告げた後、船で自動人形といちゃこら。
補充する商品とかはすでに用意してあるが、そんなに急ぐ仕事でもない。
ゆったりのろのろやるのがこの広大な宇宙で自由に生きるコツである。
ぽいぽいのぽいぽいにぽいぽいしていたらアイザックが帰ってきた。
エイリアンが現れたらしい。
なるほど、よくわかるよ。
こんな宇宙の辺鄙なところで、真っ暗になってたら気が狂いそうになってエイリアンになるってわけだろう。
俺もこの娘たちがいなかったらエイリアンまっしぐらさHAHAHAとジョーク、日本人だって小粋でウィットに富んだジョークを言えるのさ。
まあ、英語は相変わらず苦手で翻訳機に頼るか自動人形たちに頼る感じだけど。
艦娘が流暢な英語をしゃべる違和感よ。
で、俺のジョークにアイザックが激おこ。
恋人がイシムラにいるらしいので、心配でヒステリックになっているのだろう。
まあ、落ち着けよ。
宥めてたら天井から「アアゥ!」みたいな叫びとともにから揚げを腕に付けたキモいのが現れた。
まあ、瞬時に艦娘の12.7cm連装砲でミンチと化したけど。
アイザックの見たエイリアンらしいが、違うんだなこれが。
こいつらは巨大なマグロの切り身から湧く寄生虫、というのは石村屋の冗談。
まあ、半分正解みたいな。
巨大なマグロの切り身っぽいモニュメントによって発生する人間などの生物の突然変異らしい。
太陽系の影響が及ばない外宇宙でよく現れる敵である。
こいつらが出現したら、消毒するかそのままバックれるかは自由となっている。
とりあえず報告を送ったので帰ろうかしらん。
ちなみにこいつらは石村屋に就職すれば一年以内にエンカウントできる程度だ、多目的艦は侵略され過ぎである。
--11
同乗してきた三人はイシムラ内部を進むらしい。
残るとしてもMIBが消毒に来るまで待つべきなんだが。
もうやる気が無くて、気分はげろげろですな。
アイザックは恋人を探すためだが、他の二人は別の理由があるっぽい。
こんなとこにいてもしゃぁないと思うのだが、船が一個の状態で俺だけ帰るのはさすがにまずい。
緊急避難的な法もあるけど、そんな状態でもなければ、寝覚めが悪くなりそうだし。
諦めて俺も探索に混ざるとしよう。
アイザックと俺のペアとなった。
残りの二人は指示を出すからお使いしてこい、みたいな。
おかしくね?
おかしくね?
おかしくね?
石村屋に補充にきてお使いさせられるとか、激おこだわ。
そもそも俺、関係ないのに。
まあ、アイザックがソロプレイとかかわいそうなので一緒に行くけど。
恋人を探しに行くなんて男らしいぜ。
まあ、俺は自動人形派なんで気持ちは全くわからないけど。
作業用ユニットと補給コンテナをアーマードハイエースに積み込む。
石村屋自慢のアーマードハイエースは木星の地球三個分の台風の中でT.M.Revolutionごっこできたり、巨大なマグロの切り身を体当たりで砕いた報告が上がるくらい超丈夫。
寄生虫によって船が侵略されると困るので、ナナにイシムラから離れた位置で待つように指示。
めんどくさくなったら波動砲で吹っ飛ばしてもらってアーマードハイエースでばっくれよう。
ちなみにこのアーマードハイエースだが大型の物になると、シュバルツバースとかいう地点を過去に探索したらしい。
--12
アーマードハイエースだ!!
イシムラの壁という壁を砕いて走る俺たちに不可能はない!
なんか寄生虫ラッシュが何度か発生したけど、轢き逃げしたから問題ない!
宇宙?
真空?
寄生虫?
触手?
倒せなければ引き摺って壁突き破って宇宙空間にポイ捨てだ!
アーマードハイエースは宇宙空間だって飛べるのさ!
真剣に恋人を探すアイザックには悪いけど、実は楽しくなってきたのは秘密である。
--13
マグロによって生み出される寄生虫であるネクロモーフによって惑星採掘艦「USG イシムラ」は占拠されていた。
ネクロモーフは一種のパーティピーポーであり、すぐに殺戮のカーニバルを繰り広げる習性がある。
結果、イシムラ内部は惨殺空間となり、乗組員という画材によって極彩色に彩られた。
そんな状況では仕事を放棄し、帰還すべきだと俺は思う。
だが、俺の船に乗ってきたチームの意見は反対だった。
リーダー格のハモンドは修繕と情報の収集を、どこ見ているのかわからないケンドラさんじゅうにさいはネットワーク復旧を、アイザックは恋人を探すためであった。
さすがに三人を放置してバックれるほど俺も冷血ではないので、助力を貸すことに決めた。
そして、何故か今はアイザックとともにイシムラ内をパシられている。
アーマードハイエースで廊下とかネクロモーフとか死体とか轢き殺しまくっていると、アイザックが問いかけてきた。
ネクロモーフについてもっと説明が欲しいようだ。
欲しがりだなぁ。
ニコルと生きていないディスプレイに呼びかけて独り言を続けていた男はやはり一味違う。
俺の業務がてら説明してあげようじゃないか、その間は暇になるし。
仕事先である大型艦が異常事態に見舞われ、業務を遂行できなくなった場合に関してのマニュアルが石村屋に存在している。
大きくわけると任務を続行するか、帰還するかの二択だ。
続行の場合は己の力量と装備によって手段を講じ、情報を集める行動である。
時には問題を解決出来たり、生存者を助けることができる尊い行動であるが、基本的にこの手段を選ぶ者は皆無だ。
理由は簡単、めんどくさいのだ。
そもそも人嫌いが多い業種だ、わざわざ未知の生物が暴れていたり、テロで占領されている艦に乗り込む奴はいない。
今回は滞在行動なので集めた情報を同僚の船を経由させながら本店に送り続ける必要がある。
まあ、ネクロモーフ関連なのでMIBが解決に乗り出すのではないかと思っている。
帰還の場合は石村屋の本店に連絡して解決だ。
治安組織が正常化を行ったり、傭兵を送り込んだり、MIBのような謎組織が出張ったりする。
宇宙に治安なんて求めてはいけないのかもしれない。
どちらの場合でも必ず行う必要がある行動もある。
多目的艦に備わっている石村屋の支店であるストアのロックだ。
ストア自体は商品の取り出し口であり、商品自体は管理施設に貯蔵されているためロックで供給を断てる。
すでにストア全体のロックを行ったのでイシムラ内での買い物は不可能だ。
また、ロック中でなくともストアに攻撃を加えれば、その区画一帯への供給が停止される。
大型艦での行動で余裕があれば商品の全回収を行うのだが、俺の輸送船は中型艦のうえにネクロモーフパラダイスだ。
艦内の商品の破棄が認められる。
そんなんで商売は大丈夫なのかという話だが、全く問題ない。
石村屋はMIBや評議会やらの下部組織だ、つまるところ商品発注はついでで実際は見回り任務の色が強い。
宇宙船相手に商売やっている会社なんてだいたいそんな感じだし。
宇宙は広かろうと、隣人との距離は意外と狭いって話である。
現在は渋々ながらも滞在行動なので、情報を集め、商品も回収しようかと思っている。
商品は破棄しても問題ないのだが、勿体ないし、問題が起きた時の装備はあったほうがいいのだ。
活きてるストアーを見つけたので、アーマードハイエースと連結し、商品を回収。
疑問について説明しようとしたら、アイザックが単独行動すると言い出した。
なんかニコルが呼んでるのだとか。
うん……?
俺には全く聞こえなかった。
三河さんに確認を取るも、彼女のログにも何も残っていないらしい。
時雨と夕立も同上。
通信でも入ったのかと思ったが、イシムラ内の動力が落ちており、非常電源に切り替わっている状態だ。
ネットワークは死んでいるので、俺らとのローカル通信しか使えないのだが。
広域通信の場合は俺のデモニカにも通信が入るはずだ。
アイザック個人のスーツに連絡が入ったのだとしても可笑しな話だ。
彼は支給品のスーツを無造作に着ていた、なのでニコルさんと回線を開ける機会は無かったはずだし……。
わかんねぇ。
本人に聞いたが、ノイズ交じりの通信で届いたらしい。
そして、呼ばれているのだとも。
三河さんに目線で問うが、やはり何も捉えていないようだ。
時雨と夕立も変わらず。
軍用の特機よりもアップグレードされた彼女らにも捉えられない通信……?
なにそれこわい。
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生身の人間と恋愛すると、幻聴などが聞こえだすのではないだろうか。
自動人形と一生を過ごそうと決意を新たにしながら、アイザックの単独行動用の装備を揃える。
本音では認めたくないが、激おこアイザックでイライラアイザック状態なのだ。
もうしょうがないね。
死んだら望みに殉じれて幸せなんじゃないかな。
アイザックには言わないが、恋人であるニコルさんは死んでるんじゃないかと思ってる。
コックだったらワンチャンあったけど、医師的なサムシングらしいのでアウトだろう。
技術者用の作業スーツから軍用のスーツに着せ替えさせる。
(二)な感じで、装甲に迷彩が入っている。
迷彩がネクロモーフ相手に意味があるのかは知らんが。
現状で用意できるスーツの中で、俺のデモニカを除いて一番いいやつだが心配である。
スーツって関節が弱いから、合金を引き裂くような力で引っ張られるともげるんだよなぁ。
衝撃や刺突、温度変化には強いのだけれど。
心配といったが、デモニカは絶対に渡せない。
デモニカは石村屋で一番人気のスーツだ。
進化する、というか耐性を獲得するので着ていれば着ているほど強くなる。
今の俺のデモニカならば、からあげ万歳アタックでも傷一つ付かないし、ゲロも弾く。
デモニカが余分にあれば良かったのだが、石村屋でも特注なのでアイザックには軍用で我慢してもらおう。
武器も揃っているのが石村屋の凄いところである。
軍用の武器を勧めたのだが、使い慣れた工具がいいとのこと。
海兵隊に所属していたと言ってたから銃器も使い慣れているのではないかと思ったが、所属していたのは随分と前のようだ。
工具を武器にするとなると威力や連射性能などを上げなければならない。
設計図を新しく引き、一回バラしてベンチで組んだほうがいいだろう。
時間をかければ十分な武器となるのだが、アイザックはニコルさんを急いで追いかけたいらしい。
短時間では、小型工具銃であるプラズマカッターを既存の型のまま無理やり強化することしかできなかった。
しょうがないので他の武器は完成次第連絡し、ストアで引き出せるようにするしかない。
また、スーツも強化していくが、戦闘で傷つくだろうから毎度新しいスーツに着替えられるようにもしておいた。
”活きてるストア”を見かけたらチェックするように告げて準備を終える。
虹彩認識によってアイザックがストアのロックを解除できるように設定し、弾と治療薬を十分に渡す。
おそらくネクロモーフがそこら中に蔓延って溢れていることが容易に予想できる。
ネクロモーフはなるべく手足を切断するように伝えておく。
寄生虫と言ったが、どちらかというと菌糸類に近く、どうも神経節から運動などの指示を出しているようなのだ。
あとは種類によっても対策が変わるので、石村屋の外敵対策マニュアルをスーツにコピーしたので余裕があるときに目を通すようにとも告げ、アイザックを見送った。
人間ベースのネクロモーフならば油断さえしなければ死なないはずだ。
とはいえ、どれほどの時間を探索するかでも生存の可能性が変わってくるのだけれど。
体液が強酸のエイリアンさえ出なければ意外となんとかなるはず。
ネクロモーフ化したエイリアンであるネクロリアンは、人間ベースと比べて遥かに丈夫なうえに身体能力が極まっているし、クイーンがいた場合は繁殖まで行う。
ネクロモーフとの初陣でネクロリアンとかいたら最悪なんだが、さすがにいないよな。
いないよね……?
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かつんかつんと静かで硬質な音が、自身の歩行により繰り返し生み出される。生み出された音は通路の奥へとに響き渡り、闇へと消えていく。全てを飲み込むような、そんな暗さを内包している。まるでその闇が惑星採掘艦「USG イシムラ」の乗組員を飲み込んだかのようにアイザックには感じられた。
新たな音が自らの足元から生まれ、消える。なるべく足音を殺そうとした結果だった。重厚な脚部装甲に包まれた足底と血糊の広がる通路によって鈍く小さな足音が生まれ、染み入るように、飲まれるように、暗闇へと消えていく。アイザックの歩行速度は酷く遅い。背筋も猫背気味だ。イシムラ内に突如として現れ、乗組員の命を奪った未知なる敵、ネクロモーフを警戒してのことだ。
星々を見つけては居住できる惑星を増やすようテラフォーミングが盛んなこの時代に珍しく、アイザックは地球に生まれた。アメリカの東海が故郷だ。平凡な地球人の感性しか持っていない。人類は宇宙に進出し、数々の星を開拓してきたが異星人は確認されたことはないし、事実『そうなっている』。フォークロアとして地球外生命体が存在しているし、政府はそれらと接触してきたなどという話もあるが、本当にそうであると信じたことはない。そんな考えを持ったアイザックにとって、地球外の存在によって引きこされているという現状は、まるで出来の悪いパニックホラーのようだった。
特注品に匹敵するほどのスーツは、薄暗い視界を鮮明に見渡せる高感度センサや異音を聞き分ける集音センサなどといった恩恵を齎していた。作業用より値段も素材も遥かに高価なスーツによる感度の高い視界を頼りに突き進む。視界の端に映し出した石村屋のマニュアルとやらに目を通しながら。文章を読みながらも意識はそれぞれのセンサおよび視界の状態に割く、ここはすでに安全圏ではないのだから。
マニュアルによると、ネクロモーフはダクトなどの狭い場所を好んで通り、襲い掛かると説明されている。正式名称と呼ぶに相応しいのか不明だが、とあるドクターによってnecromorphsと名付けられたようだ。巨大なマグロの切り身と冗談で聞かされたが、注釈として添付してある画像を見るに、酷似しているように感じた。遺伝子の変異によって生み出されたネクロモーフは、他の細胞へと簡単に感染し、死後に同族として蘇るようだ。こいつらは生きるために、そして増えるために、生物を殺すと結論付けられている。
ネクロモーフ、またはそれに類するものが近づけば強く反応するよう設定されていると、このスーツを渡してきた日本人が言っていた。石村屋で仕事する純正のあの日本人、確かシキイという名だったか。黒い髪と瞳に、背は低く百七十前後、やや黄色気味の肌の男だ。年齢は三十に近いという話だが、見た限りでは学生でも通るほど若いように見えた。容姿と実年齢が一致しない、自動人形を愛する奇特な趣味の男だった。まるで人形を愛しすぎて、自らもコッペリアとなってしまったかのようだ。だが、日本人にはそういった特殊な嗜好を持つ者が多いとも聞いたことがあった。なるほど、日本人はやはりそういうものなのだろう。よくよく考えれば自国にも動物を性の対象にする者も僅かながらに存在していた。その割合が多いだけ、そう考えるのが当然か。
そんなシキイだが、五年から十年ほど日本はおろか地球にすら帰っていないと言う。日本で生まれ育った日本人が宇宙で仕事をするというのはかなり珍しい、アイザックの知識がそう導き出していた。日本といえば島国だが、今では自然と生産プラントやエネルギー施設ばかりで陸上に人間はほとんど住んでいないという。環境汚染や度重なる内政干渉に嫌気が差した日本人は地底や海底、空へと居住空間を移したという。純日本人の大半はそこに籠っており、国はおろか居住空間から出てきたがらない引きこもりがちな民族だ。中には軌道エレベーターや惑星開発プラントなどで就労する者もいるが、やはり少ない。日本人の多くで構成されている石村屋の輸送はさらに輪をかけて珍しい。何か事情があるのではないか。アイザックには言えないような、暗い事情が。
なぜ石村屋という日本の企業がマニュアル化できるまで知っているのか、平然と軍用の装備まで商品化しているのか、何処まで知っているのか、疑問が次々と生まれる。疑問が湧けば、怪しく思えてくるのが常だった。船に乗っていたときは自動人形を愛でる奇妙な男だという程度の認識が、それすらも偽装に思える。そうなれば、このスーツや装備は好意なのか、バックアップを信じていいのか、疑問が尽きない、益体のない悩みが湧いて出る。
未知の敵との孤独な戦いによるストレスが、思考を逸らそうとしているのかもしれない。知っていたとしたら連中のせいでニコルは……憂いながらどうすることも出来ず考えないようにしていた恋人のことを思い出した。ニコルがイシムラにいたのは自らが推薦したからだ。最初は反対していたが押し切られ、結果が今だ。強く止めなかった自分が悪かったのではないか、やり場のない怒りが渦巻いていく。つい、ガンと壁を蹴った。スーツによってアシストされた脚力は人間のそれを優に超えている。弱く蹴ったつもりが、結果は壁をへし曲げることとなった。
「ああ、クソッ……」
ネクロモーフを呼び寄せてしまうかもしれない。自らの失態に、またも苛立つ。どうも上手くいかないことばかりだ、アイザックの脳裏にかつての失敗の数々が蘇る。自らがイシムラで働いていなければ推薦は無かったことから、ニコルはここに来れなかったかもしれない。イシムラに勤務することになったのはユニトロジー教会のせいだ。ユニトロジーはアイザックの癌として、未だに人生を壊しているようだった。消そうにも、増殖を続け不幸を振りまく。始まりは母がユニトロジー教会に入信したことで家財を失ったことだ。あれで自らの進学も限られ、そして……。積み重なったもしもの世界、巡り巡った己の運命、どうしても天を仰ぎたくなった。他人に責任を押し付けられるような状況ではないことも拍車を掛けた。
シキイ自身は指令系統が異なり、アイザックたちに付き合う必要もないはずだった。ここまで来た輸送船にはアイザックたちが地球まで乗る予定の小型船が積まれている。それを置いて帰還も可能だというのに、アタックやカバーを率先して行い、精神に余裕のないアイザックの心配までしているようだった。何か後ろ暗いことがあるのではないかと疑っても、意味は無かった。それどころか対策マニュアルなる物まで渡してきたのだ。おそらく装備の数々もバックアップも善意なのだろう。疑うのならば、もっと早い段階で、もっと怪しい動きをしていた者にすべきだ。そもそもシキイよりも、同僚の二人であるハモンドとケンドラのほうが怪しいではないか。この状況で何をする、何ができる。アイザックには自らの責任によってここで働くことになった恋人、ニコルを探す目的がある。あの二人にはそれほどのことがあるのか……?
天井や壁のダクトを走る音が聞こえる。それも複数だ。ネクロモーフがこちらに気付いたのだろう。まるで狩りをするように、音に囲まれていく。何処から来るのか、背を猫背気味に丸め、プラズマカッターを構えた。使い慣れた工具銃だ、威力の底上げはされているが違和感はない。
音が響き、闇に飲まれ、消えていく。姿は見えない。まだ現れない。動く物に反応できるよう、視界に集中する。また背中への不意打ちを防ぐために壁を背にする。あまりに高すぎる感度が与える物は恩恵ばかりではなかった。アイザックの視界にははっきりと、人間だったモノやその内容物、人間とかけ離れたグロテスクな化け物の骸、またその破片が映し出されていた。どれもが元が人間だとは思えなかった。人間として僅かな形を残している物もやはり、人間らしさは失われていた。
足音が近寄ってきている。視界には何も映っていない。しかし、視界モニタの隅に表示されている情報は、複数体の接近を知らせていた。プラズマカッターを握る手に、自然と力が入った。
ジジジ……と通信が乱れる。雑音が入りこむ。誰かの通信だろうか。今は忙しい、意識は避けない。
『……ィザック』
女性の声だ。聞き覚えのある、柔らかで高い声。
『ア…ザック』
「ニコルか!? 今どこにいる!?」
ノイズが混ざった通信はひたすらに、アイザックが求めていた声で名前を呼ぶだけだ。通信状態に何か不備が起きているのだろうか。イシムラ内部は主電源が消え、予備電源に切り替わっている。予期せぬ問題で調子が悪くてなっていてもおかしくない。ニコルへと必死に呼びかけるが、変わらずにただアイザックの名を呼ぶだけだった。
ニコルにも余裕がないのかもしれない。焦りが生まれる。ニコルへ何度も言葉を呼びかけるが、変わらない。
「ニコル! ニコ……」
意識のすべてをニコルへと注いでいたためか、それに気付かなかった。天井から這い出してきた、醜悪なそれらを。背中から切りかかられ、軽い衝撃を受けたが復帰に問題はない。情報を読み取り、接近したネクロモーフの位置を把握し、振り向く。構えたプラズマカッターのレーザーガイドが、人体を歪めることで生まれたネクロモーフの手足を青白く照らした。
「お前らじゃない! 座ってろ!」
叫ぶようにプラズマカッターを撃ちこむ。射出されたプラズマの刃は、普段使用しているよりも強く輝きを放ちながらネクロモーフの変異した足を切断した。そして刃の勢いは止まらず、ついでとばかりに背後のネクロモーフの足も切り裂き、壁を溶かし小さく一線を描いた。
ニコルの通信は消え、それに代わるようにネクロモーフが壁や天井から這い出した。アイザックはすでに未知の敵への緊張を忘れ、恋人の危機への焦りが渦巻いていた。
--16
部屋の穴という穴から湧き出るネクロモーフを退け、アイザックはUSGイシムラの奥へと進む。度々恋人であるニコルからの通信が入るが、居場所に関する情報は得られない。暗闇で一人、広い多目的艦を走り回るのはやはり精神的にも肉体的にも厳しい物がある。着用しているスーツは軍用の規格であり、更に特殊な改良も加えられている。だが、それでも疲れは感じるものだ。通信で、ハモンドやシキイの遣り取りが聞こえることがあり、紛らわしく思う。だが、近くに人が感じられるために、アイザックが通信を切断することは無かった。
通信では、シキイが『遠心重力装置』を制御し直し、この”事故”によって動いてた船の軌道を戻せるようになっているという話だ。その際、イシムラはスペースデブリが数多に漂う小惑星群に突入することになるという。現在、シキイは船に悪影響を及ぼすデブリを破壊するシステムである『ADS(Asteroid Defense System、小惑星防衛システム)』を再起動するために向かっているようだ。スーツに付随している、同ネットワーク上にいる乗組員たちの動向や行き先を把握できるナビゲーターで確認すると、このまま進み続ければ一度シキイと合流出来そうだった。
時折、思い出したかのように表れるネクロモーフに、プラズマカッターを撃ち込む。元が人間だったとは思えない姿ばかりだ。ニコルのことで思考の大半が割かれているが、それでも奇妙だとも気味が悪いとも感じる。ニコルの情報が得られない今、シキイと合流して仕切り直すことも、アイザックは考え始めていた。
開閉装置を操作し、扉を開く。本来なら自動で開閉するそれは、一々装置を入力しなければならなくなっていた。ネクロモーフへの対策か、動力が非常電源に切り替わっている影響か。扉は音も無くスムーズに動き、アイザックを内部へと招き入れた。
明るい。
スーツのセンサーが割り出している数値の感想だった。死体が転がっており、ネクロモーフが跋扈する薄暗い道や部屋とは段違いなほどに明るい場所だった。とても広い空間だった。網目のように回廊が繋がっており、色鮮やかな看板のマーケットが並んでいる。イシムラ内の繁華街の一つだろうか。
各種センサーを起動させるが、何も見つからない。死体も、ネクロモーフも、何も反応がない。そのことに訝しんだアイザックが、壁や店先などで身を隠しながら先へと足を進める。何があるかわからない。プラズマカッターを握る手に少しばかり力が入り、センサーによって取得された情報の数値が映し出される視界の端を睨む。イシムラでの体験は、アイザックには未知のことばかりだ。幾ら警戒しても、し過ぎると言うことは無い。ニコルを見つけ、助け出すまでは、アイザックは気を抜こうとは思わない。
センサーが微量な音を拾った。ノイズレベルのそれは、アイザックが音の方向へ進めば、反応も大きくなっていく。最初、ノイズだったそれは、人の話し声と同じパターンを導き出した。
スーツの積み込まれている機能の一つが、拾える限界の音を増幅することで、アイザックにも聞こえるようになった。ザザザ、と雑音が入り混じっている。まるでニコルの通信と同じようだ。いや、ニコルの通信のほうがノイズも綺麗だった。
『ケ……これじゃ……も……らない……』
増幅された音は、男の声だった。誰かの話しているのだろうか。
アイザックは音を殺した際に相手に聞こえないであろう距離の限界まで近づいていた。手持ちにある三つの装備を確認する。一つはシキイが予め強化してくれたプラズマカッター。これまでの戦いで、予想以上の威力と使いやすさを発揮してくれたそれは今では手の延長のように馴染んでいる。残り二つはラインガン、そしてパルスライフルだ。ラインガンは大型の資材を大雑把に焼き切る時に使う広範囲用の工具だ。工具二つとは異なりパルスライフルは武器だ。嘗て、アイザックも使用していた集弾性と速射性、連射性に優れている重火器。相手が人間、それも交戦経験のあるような練度の高い人物ならば、パルスライフルが有効だろう。
プラズマカッターとラインガンをストックに仕舞い込み、パルスライフルを構える。シキイがアップグレードしてくれたというそれは、どうにも好きになれなかった。対人用の重火器としては強すぎるように思えたからだ。工具にかなりの殺傷性を持たせ、それを嬉々として使っている時点で、アイザックは改造されたパルスライフルに何か意見を持つべきではないとわかっている。だが、気持ちがそれを許さないのだ。そして、相手がどんな人物かわかっていないのに、ライフルを構えている自分のことがアイザックは少しだけ嫌になりつつあった。
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「K、こっちのストアもロックされてるぜ」
「……そうか。ここら辺の外宇宙を担当している石村屋は珍しく足が速いな」
「なあ、おい、K。感心してる場合じゃないぞ。俺たち、こんな腹ペコ寄生虫うじゅるうじゅると溢れて片っ端からダッシュしてくる空間で武器がないんだぜ。もっと焦ってもいいんじゃないか?」
「もっと余裕を持つんだな、J。ストアの中枢端末ならMIBの命令を受け付けるだろう。ゆっくりと落ち着いて、コーヒーを飲むようにスマートに事を成すのが大人ってもんだ、坊や」
アイザックのスーツに付随しているバイザーに、音源である二人の情報が集まっている。カメラを操作し、二人の映像をズームする。青年を過ぎた程の背の高い黒人と初老に入ったばかりの白人の二人組の様だ。会話から黒人がJ、白人がKというらしい。発音から察するに、アルファベットのJとKのようだった。愛称か、作戦名か。二人とも同様の黒いビジネススーツを着ているが、所々に皺が寄っている。ネクロモーフによる攻撃によって汚れが付いたのだろう。Kと呼ばれた白人はストアに背中を丸めて座っており、Jはストアを諦め悪く何度も弄っているようだった。
二人を無視し、隠れて通り過ぎることも考えられた。ただ、アイザック自身もストアに用がある。シキイから弾薬や工具、治療パックの支給が得られるためだ。まだ弾には余裕があるが、それでもこの先に何があるかわからないし、弾が切れる前に別のストアに訪れられるとは限らない。出来ることならば此処で補給を済ませておきたいというのがアイザックの本心だった。
グリップを握る手に力が籠る。他の生存者と話し、ニコルの無事を確かめたい気持ちもあるのだ。スーツの機能によって温度調整も万全とは言え、ストレスに晒されているアイザックの頬に汗が伝う。行くべきか。
決断は一瞬だった。駆けるようにストアまで迫り、Jと呼ばれた男にライフルを向けた。
「すまないが、二人とも手を挙げて質問に答えてくれないか」
二人は大人しく手を挙げている。その手に武器は無い。事前の話で武器は持っていないと聞いていたが、やはり見て確認すると安心する。スーツの頭部を解放し、久しぶりに顔をさらけ出したアイザックは深く呼吸した。バイザーによって光源を都合のいい量に調整されていた身には、照明の光は眩しい。二人を見失わないよう警戒しながら目を細めた。
アイザックの様子に敵意は無いと感じたのか、二人は手を挙げたままだったが、気負いなく会話を進めていた。
「これがスマートに事を成すってやつか。毎朝銃を突き付けられてコーヒー飲むのかい? そんなときの感想は?」
「泥水みたいだな」
「あー、そうだな。俺は今、そんな気持ちだよ」
Kが仏頂面のまま、Jの問いに答える。即答されたJは苦い物を飲んだような表情をしていた。アイザックは、その様がまるで濃いブラックコーヒーを飲んだ子供のように思えた。
「あんたたち、二人はイシムラの乗員か? 聞きたいことが、一つだけあるんだ」
Jに向けていたパルスライフルを降ろす。やはり銃を向けられていたのが圧力になっていたのか、JとKの空気が緩んだように感じた。やはり武器は好かない。
「申し訳ないが、我々は乗員ではない。外に蔓延る寄生虫たちの調査に来た学者だ。こちら、ブラック博士」
「どうも」とJが愛想の良い笑みを浮かべた。Kが「私はホワイト、大学教授だ」と続けた。「嘘だな」とアイザックが険しい表情を浮かべながら、パルスライフルを再びJへと向ける。
「JとKだと聞こえていた。嘘をつかれると俺の欲しい情報の信憑性が欠ける」
「愛称さ、ボクたち仲良し」とJが満面の笑みを浮かべた。ライフルのレーザーガイド機能を起動した。青白く発行する、着弾位置を想定するレーザーガイドが、Jの黒い額を青白く染めた。トリガーに力を入れればすぐにでも弾は出るだろう。スーツの無い頭部に、弾が一発でも当たれば外に転がっているネクロモーフだった何かの仲間入りを果たすだろう。
「あー、いや、我々は……」
「ネクロモーフを知っているか?」
これ以上の停滞は御免だ、そんな思いでアイザックが渦中のネクロモーフを話題を告げると、言葉を濁そうとしていたKの表情が変わった。
「俺たちはそのネクロモーフの発生源であるマーカーに用があるんだ。駆除が仕事、まあ、帰りがけのついでだけど」
逡巡しているKに代わり、Jが答えた。シキイから送られた情報と沿っている答えだ。あれの情報源は確か……。
「お前たち、MIBか」
「そうだ。もっと言えばバイドと呼ばれる敵意と攻撃性に優れた生命体群への対処し、その帰りに補給と地球への連絡のために立ち寄った大型宇宙船でネクロモーフを発見して巻き込まれた、というのが正解だ」
Jを睨むように見据えていたKが、自分たちはMIBであり、任務の帰りだと答えた。任務についての話を聞いてもアイザックにはわからないが、嘘ではないように思えた。レーザーガイドをオフにし、ライフルを下げた。
「信じてくれたかい?」
Jが大きく溜息を吐きながら、アイザックに聞く。答えは半々だ。アイザックの知識ではわからない部分が多い。腕の操作モニターを弄ると、音もなくスーツが頭部を保護した。人工的な光に晒されていた身としては、バイザーによる光源調整は過保護に感じた。
「武器を突き付ける必要が無い程度には、な。完全じゃない、だから石村屋の仲間に連絡を取る」
ローカル通信によってシキイを呼び出す。MIBに面識があるのはやはり彼だけだろう。幾らか信用できるのか、確認を取るべきだ。そんな考えだった。
「石村屋の仲間か……」
「彼は石村屋ってわけじゃないだろうな。我が国の愛国者みたいな顔をしている」
考え込むKを尻目に、Jが作ったようなしかめっ面を披露した。彼の中の愛国者は固い表情の人物のようだ。
「知ってるか、K? 石村屋は純正のHENTAIのみで構成されてるんだ。だから愛国者だろうと、売国奴だろうと入れない。不平等だなんだと叫んだ連中は、石村屋お得意の重力発生でボーンだとさ」
Jの中では日本人はどうやら変態のようだ。アイザックの知っている唯一の日本人であるシキイも自動人形に偏愛を抱いていたのを、アイザックは思い出した。確かに人間そっくりだ。外見の美しさだけで言えば人間よりも綺麗だ。だが、所詮は作り物。愛を囁く相手としては不毛だ。愛は心に積もる。心無い人形に愛を注ぎ、何が残ると言うのか。
『はいはい、こちらシキイです。ああ、アイザックか。何か問題でも起きた?』
通信が繋がった。視線の先に、空中投影されたシキイの上半身が映る。相変わらず奇妙な造詣のスーツを着ている。安っぽい缶詰で形作ったようなフォルムだが、不思議と愛嬌を感じる。シキイの話だと、石村屋で一番人気の特注スーツだという。変わったセンスをした人員が集まっているのか、変態だからか。自ら耐性を持つ学習するスーツと聞いたアイザックとしては、興味を持たない筈がないのだが。
シキイの声音は、翻訳装置を通しているためか少しだけ抑揚が可笑しい。ジョークにも存在するように、日本人であるシキイは母国語しか修得していない。あとはなんちゃって英会話だけだという。
技術の発達が、それまで抱えていた全ての問題を解決するとともに、問題にならなかった目端のことが重大になりつつあるとも聞いた。出生率の低下、未婚率、寿命の延長。地上から姿を消した日本人たちにも、憂いはあるようだった。問題の解決策として、開発された人工子宮で、完全義体の人間も生み出されつつあるという話も聞いた。人間が畑で採れるようになるかもしれないとシキイが笑っていたのを思い出した。
「J、これがスマートに事を成した結果だ」
後ろからKの言葉が聞こえた。Jは何とも言えない表情を浮かべていた。
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シキイの知り合いで、危険は特にない二人だと言う確認が取れた。宇宙に関する問題を解決するプロフェッショナルだとも。イシムラに辿り着く前も、”バイドミッション”とやらで船を供にしたという話だ。
また、ニコルについても質問したが、二人はアイザック以外の人間とは出会っていないという。半ばわかっていたことだが、落ち込むのは当然だった。
「おい、K。やったぜ、シキイだぞ。カモイ、タタミに次ぐ当たりだ」「ああ、珍しく運が良かったな。マグロが無ければ帰りは休暇の船旅気分で最高なんだがな」というJとKの遣り取りを背に、ストアを操作する。これまでの道中で傷ついたスーツの交換を優先する。
ストアから漏れ出る光に包まれるように、一歩前に踏み出す。大げさな音を立てながら、ストアが閉じ、スーツが交換された。傷一つない新品だ、スペックも最上級品まで引き上げられている。シキイは変態だが、腕は良い。このちょっとした時間でアイザックは、シキイへの信頼を高めていた。命を繋ぐための装備の質の良さが、信頼へと繋がっている。
インベントリに、装備や弾倉、治療パックを補充していく。アイコンが明滅していることに気付き、タッチする。シキイが用意してくれた食べ物だった。宇宙食ではあるが、バリエーションが豊富で有り難い。やはり食べ物は気力の回復に大きく貢献してくれる。
必要な食べ物を選びながら、MIBの二人に必要な物を問う。スーツは不必要、当座を凌げる重火器が必要、食べ物はパイが良いとのことだ。
「俺らが通ってるパイには叶わないが、悪くないな」
「そうだな」
MIBの二人が宇宙食のパイを突きながら、そう評価した。宇宙空間という厳しい環境での長期保存を目的とした食べ物だ。味はそれなりだろう、そうアイザックも思っていたが、なかなか美味い。作業中に支給されているゼリーも宇宙食としてはまだ美味かったが、これは食事として美味い。張り合うランクが違う。食材は並みだが、ソースに至っては本国の物よりも美味いかもしれない。変態だからか、何となく毒されつつある思考でアイザックはそう考えた。
「で、えーと、そちらさんは……」
「アイザックだ。システムエンジニアとしてこの船に来た」
「Jだ」「Kだ」と挨拶を聞き、よろしくと互いの手を軽く握る。二人の会話を聞き流しながら、食事を進める。食べられる内に食べておくのがベストだ。腹を裂かれたりしたら危険だが、今後も動き続けることを考えるとやはり食べておくべきだろう。それにかなり高価な治療パックをシキイは送って来てくれていた。ちょっとやそっとのダメージならば問題ない。
そういえば、とインベントリから一つのポットを取り出した。中には、ミカワが手作りしたオニオンスープが入っているようだ。カップに注ぐと、炒めた玉ねぎの香ばしい甘い匂いが広がった。
「アイザック、それなんだ?」
「スープだ。シキイの自動人形が作ったオニオンスープ」
Jの問いに答え、スープを口に近づける。メインを食べている途中だが、香りを嗅ぐと更に腹が減るような感覚を覚えた。実に美味そうだ。
「当たりか」「ああ、多分な」というJとKの会話を無視し、スープを口に含む。玉ねぎ特有の優しい甘みが広がり、少しだけ足された塩味と香辛料がアクセントになっている。身体が温まるのを感じた。思った通り美味い。
アイザックの様子を見ていた二人も、すぐにスープを手に取り、飲み進めた。久しぶりに穏やかな気分となった。宇宙食も美味かったが、手作りはやはり別物だ。ニコルが作ってくれた食事を、アイザックは思い出していた。あれも温かく、美味しかった。いや、自動人形が作った料理は手作りとはまた別物だろうか。
「外宇宙組はやっぱり違うな。かなり気を使っている」とスープの味に上機嫌なJは「アイザック、知ってるか?」と続けた。目線で続きを促す。
「自動人形はかなり料理も上手い。が、生産国以外の基本的な記憶野を組み合わせると、料理が滅茶苦茶になるらしい」
Jの話によると、記憶野にインプットされている料理データと、後付の学習データが混ざった結果、そういった奇妙な問題が生じると言う話だ。石村屋でも、あまり遠出しないタイプの自動人形は、料理が滅茶苦茶な奴が多いらしい。それも個性だと受け入れている従業員のせいだとも。
ミカワやカヅノといった奉仕型をベースにした自動人形に暫し起こる問題のようだ。カンムスタイプは、戦艦などをベースにした純日本製のため、そういった問題は料理機能がオミットされている自動人形以外からは見受けられないとも。
「まあ、そういう訳だ。石村屋の外宇宙組は長い期間、拘束されるからかなり気を使っているようだぞ。そこらはシキイもかなり丁寧に組んでいる筈だ。帰りはかなり期待できるぜ」
Jがそう言ってスープを飲み込んだ。Kが何かを思い出したのか、苦い顔をして「ドイツ製の自動人形、あれのコーラカラーゲは最悪だった。ぐじゃぐじゃでしゅわしゅわして、な」と呟いた。Jも思い出したのか、顔を顰めた。
「あー、まあ、大丈夫だろ。タタミのとこのホーショー程では無いにしろ、まともなはずだ」
スープも美味かったしな、とJが取り繕った。「そうだな」と仏頂面でKもスープを飲み干した。
「ホーショー?」
「ホーショーはカンムスの一種だ。奉仕型に近い性能を持っているが、戦闘もこなせる。その中でもタタミのホーショーは極まっているぜ」
「寿司が握れる。こんな風に」とジェスチャーしながらJがゴミを両手で握った。そして「もっと繊細だけどな」と付け加え、ゴミ箱に放った。
食べ終えたアイザックも同じようにゴミを捨てる。腹が膨れたが、動けない程ではない。気力も回復した。丁度いいくらいだ。
「シキイの船なら帰りは楽しみだな。石村屋だと毎週金曜はカンムスが作ったカレーを食うんだぜ」
ライスとナンは選べるというが、Jのおすすめはライスだという。赤や茶色のやつ、Kがフクジンヅケと呼ぶ、付け合せは好みによるが、カレーライスとともに食べると美味いらしい。食べ物の話ばかりだとアイザックは辟易したが、宇宙での仕事が多ければ、美味い食事に拘るようになるのもわかる。
アイザックも自動人形に強い興味を持つようになっていた。シキイの様に、自動人形に伴侶としての役割を求めているわけではない。ただ、便利そうだと、そう思ったから。家事を片付け、戦闘も行える。夢のようだ。あまりに値段が高いことがネックだが。
--19
「シキイはこの先、砲座室に向かうエレベーター付近にいるらしい」
三人で進むことによって手数が増え、ネクロモーフへの対処がかなり楽になった。ちょっとした会話を楽しむ余裕もあるほどだった。MIBの二人が、思った以上に手際が良いのも手伝っていた。
「なあ、おい、見ろよ。腕のほうが体よりでかいぞ。シザーハンズやミスタースピュー、ボンバーマンとは同じ由来だとは思えねぇな、あれ」
腕が重でかくてゲームも出来ないだろ等とJが指差して笑う。シキイは、ADSを起動する際に、腕が発達した個体と戦闘したという。Jの指の先には、おそらく件の死骸だろう物があった。シキイは自動人形や大量の装備を抱えているが、あんな物、個人で戦うとなったら酷く面倒そうだ。
ロケーターが、シキイがこの場所にいることを示した。立ち止まって辺りを見渡す。揺らぐように、浮き上がるように、シキイの姿が現れた。
「光学迷彩……!」
スーツ内でアイザックの目が大きく開いた。光学迷彩は使用者を透明化し、肉眼のみならず各種センサーからも捉えられなくなる。厄介極まりない物で、主要国では軍の特殊部隊などにしか使用が許可されていない物だ。
「9042式か」
「京レ製の0252式、石村先生のワープ技術を使った最新式さ。塵や水、衝撃にも強い。重力異常にも対応できるのが売りらしい」
「久しぶり、という程でもないか」と仏頂面のKとシキイが握手を交わす。次いで「MIBにも欲しいな」と呟くJとも同じように。二人には光学迷彩への驚きは無いようだ。MIBの下部でもあるという石村屋は許されるような物だろうか。
「スペースガン、持ってきたよ」「有り難い。やっぱこれだよ、これ」とシキイから渡された銀ピカでごてごてした銃にはしゃぐJと、使い方を確認するKを見ながら、手持無沙汰になったアイザックは改めて装備を確認する。新しく支給されたフレイムスロワーとリッパーもかなり活躍してくれた。フレイムスロワーは、開かない扉や障害物を焼き切るのに便利だったし、リッパーは飛んで行くノコギリ状の歯で居並ぶネクロモーフを真っ二つにする様だった。だがやはりプラズマカッターの汎用性には負ける。撃ち出すだけで腕や脚を一撃で裁断でき、取り回しも楽なのは有り難い物がある。
「アイザックさんもスペースガン使うかい?」
「いや、俺はいい。ええと君は……」
「艦娘タイプで、白露型駆逐艦級の時雨だよ」
にこにこと笑みを浮かべながら、時雨が答えた。髪の毛が犬耳のように跳ねているのも手伝って、犬のように見えた。シキイといるときの存在していない尻尾を振っている忠犬のような姿を思い出した。デストロイヤー級、つまり小柄で取り回しが効く兵装を所持しているカンムスだったはずだ。バトルシップやエアクラフトキャリアーなどは凄まじい戦力を誇るらしいが、一体何処で活躍するのだろうか。
「シグレか、最新式の光学迷彩について聞いても?」
「勿論。提督も聞かれたら答えていいって言ってたから心配しなくても大丈夫さ」
「SPDに詳しい?」と時雨が問うので、首を横に振って否定した。
シグレが形の良い唇を動かしながら説明を進めてくれる。『SPD(Shock Point Drive、恒星間航法システム)』は宇宙船技師である石村ヒデキが開発した技術だ。一言で示すと、十四次元以上の空間まで影響を及ぼすとされる『重力』を利用したワープ技術である。この技術を利用して、石村屋は宇宙船のシェアを伸ばしたと言う。シキイが使用している光学迷彩は、そのノウハウが詰まった物だそうだ。今までの光を回折、透過させる光学迷彩とは異なり、空間を歪曲するタイプだという。
「これ以上の詳しい話は禁止だけどね」
「いや、十分だ。向こうの話は終わったようだし」
核心や具体的な技術は聞けなかったが、企業秘密というやつだろう。それに光学迷彩自体、政府が主導している物だ。あまり知っても面白い事態にはならないだろう。時間潰しにはなった。
Jにジェスチャーで呼ばれたのを見て、アイザックもそちらに向かった。
「話は終わったか」
「終わったよ。アイザックもスペースガンいる? 街中の害虫やエイリアン退治にばっちり」
「MIB大好きの当たれば一撃必殺、ただ貫通性能は無いから障害物に弱い」と空間投影してスペースガンのサンプルを見せてくれる。軍用装備ともかけ離れた性能だ。これを街中で使うMIBのエージェントを思うと、頭が痛くなってくる。政府からも極秘扱いの装備らしく、使えるのはイシムラ内だけだとか。
アイザックは、そんな限定品に心が躍るような男ではない。使い慣れた工具が在ることを理由に、やんわりと断った。
「予定だけど、アイザックは先に進むんだよね?」
頷くと、俺も行くことになったとシキイが続けた。
「石村先生が貰ったエンブレムのオリジナルがこの船にあるらしくて、探す仕事が入ってね。あと寄生虫の原因であるマグロの廃棄も。まあ、マグロの廃棄はMIBの二人をメインにやるからほどほどに進めるんだけど」
船内の酸素生成プラントに問題が起きているらしく、シキイはこの先にある区画でついでにそれを解決しに行くようだ。ここで待っていた理由は、現在地より先の区画が切り離されており、宇宙空間と化しているためだという。外に巨大なネクロモーフが蔓延っている状態で、しかもMIBの二人はスーツも着用していないのも。
壁が突き破って、アーマードハイエースが飛び込んできた。腕が巨大化していた大型のネクロモーフがミンチになり、悪臭を放っているのか、スーツを着ていないMIBの二人が顔を顰めている。
「まあ、そういう訳で全部ひき潰してから向こうに行くよ。みんなで行った方が楽でしょ」
「ハモンドも乗っているよ」とシキイが言った。ケンドラは知らないらしい。ヒステリックに好きなだけ騒いでいたのを思い出した。
「ハモンドは大丈夫か、その、ネクロモーフについて知っていたとかだったら」
「大丈夫だと思うけどね。うちの自動人形が調べたけど怪しい所はなかった。まあ、あれだ。危険な動きとか察知したら全部ミンチにするから大丈夫でしょ」
うちの自動人形は強いんだ、とシキイが小さく笑い声をあげた。
アイザック:単純にごりごり前へと進め、時々頼まれごとを解決。電気系統の問題を行く先々で解決しているが、カット。
シキイ:アーマードハイエースで突っ走って、ストア管理を終わらせた。また、遠心重力装置やADSを再起動。ついでにネクロモーフの群れや大型のネクロモーフをミンチにする。が、面倒なのでカット。石村エンブレムの取得が最新ミッション。
カイン博士やマーサー博士と道中で出会うが、知っていることしか言わないので完全にシカト。というか、マーサー博士は轢き殺した。
ハモンド:シキイの助手と化していた。
ケンドラ:「あなた私たちを殺す気!?」とハモンドにぶちギレ、殺人犯と同じ部屋にいられるか!と安全地帯へバックれた。
MIBの二人:26世紀で寺で修行した男とミッションを駆けまわり、根本解決のために22世紀まで行ったのでお疲れの様子。未来がちょっと変わっているが、人類が滅ぶよりはマシである。JとKがスペースガンで完全武装すると、かなりの確率で武器を落す。