実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

131 / 134
いっぱい書いた。

独立作品なら二話か三話に分割していただろう!
だがフラスコは違う!(ぎゅっ)
にえるが分割をめんどくさがった!
さらにエタばかりなのに130話もある短編集を追いかける頭のおかしい読者なら読める!


女神転生(地方しらべ)17

 

 お昼過ぎに「きーたよ!」と事務所に来た川崎担当のサキちゃん。

 活発な子で、動きに合わせて艶のある長い黒髪のツインテールが流れている。

 服装は黒いドレスで、ゴシック系とかいうらしい。

 予定よりもずっと早く来た理由というのも小学校が半日で終わったから遊ぶためとのこと。

 時間ギリギリで合流されるのは嫌いなので大歓迎だ。

 魔人の少女はしっかりしているのだから、この世界に慣れ切った約束の時間を守れない大人たちは見習ってほしい。

 魔人の倫理観がどうとかを話し合う前に、人間としての常識を話し合ったほうがよっぽど有意義だと思う。

 出現した魔人が人間社会に馴染めるのかそうじゃないのか、そういった部分は初手で大体決まるので後は教育方針とかを話し合ったほうが建設的なんじゃないかな。

 俺がそんなに魔人と接触してないから言えることなのかもしれないが。

 

「サガミちゃん、今日はどうするの?」

 

 散々食べ歩き続け、トングで威嚇した回数がギネスに載りそうなサキちゃん。

 夕食を食べ、お菓子を威嚇し、デザートを食べ、お茶を飲んで落ち着くと今日の予定を知りたくなったらしい。

 興味が0か100みたいな性格なので、仕事を頼むと大雑把になってしまう。

 自身の縄張りである川崎には関心が強いので普段は治安維持や防衛だけ任せる、という考えが神奈川県のヤタガラスが共通している。

 加減とかが得意じゃない子なので治安維持や防衛は過激になりがちなのだが、そもそも魔人の管理地で好き勝手しようとする連中が悪い。

 魔人とは公表してないけど。

 

「この後は電車で合流してからバスで現場まで移動かな」

 

「今日は沢山の人と一緒に移動するのでサキさんもお淑やかにしましょうね」

 

 「スイッチ持ってきた! バスでやろ!」とはしゃぐサキちゃんに、自分のスイッチを見せるピジョンちゃん。

 俺もスイッチを持っているが大人げなくボコボコにした結果、参加を禁止された。

 手加減したら街中で本気出すって脅してきたサキちゃんが悪いと思う。

 ピジョンちゃんはボコすと反応が可愛いから仕方なかった。

 女の子たちが華やかに楽しむ中、冤罪のせいで参加できなくて見てるだけの気持ちがわかるだろうか。

 可愛いから見てるだけで楽しい。

 おじさんや不細工がきゃっきゃしてたら苦痛だと思うけど。

 1人を犠牲にして100人を救える状況なら1人を犠牲にできるのだが、性癖に嵌った美少女(俺のことが好き)1人を犠牲に1万人(不細工含む)が救える状況を目前にした時、俺は果たして1人を切り捨てられるのか。

 だって俺の性癖に嵌った美少女(俺のことが好き)を発見するには1万人が足りないからだ。

 俺の性癖に嵌った美少女(俺のことが嫌い)なら多く見つかるはずなんだが。

 今世紀最大のテーマだよこれは。

 

「あれ、サガミちゃん。歩き方がまた綺麗になってるけど近接練習してた?」

 

「わかっちゃうかぁ。最近奪った記憶と経験を参考にして馴染ませてるんだよね」

 

「前から思ってたんだけどすっごく悪い敵が言うことっぽくない?」

 

 へへへ、と照れてるがサキちゃんの言葉で固まる。

 倫理観魔人でかつ小学生に言われると本当にそうなのかもしれない。

 教育に悪いじゃん、失敗したかも。

 

「大丈夫、大丈夫ですよ。サキさん。サガミさんは奪うことで成長しています」

 

「それすっごく悪い敵の成長の仕方じゃない?」

 

「出会った頃は敵をすぐ殺めていましたが、今では利用して価値が無くなってから息の根を止めています」

 

「それすっごく悪い黒幕のやり方じゃない?」

 

「勘違いしないでください。サガミさんはダークサマナーから知識を得る事で倫理観がちょっと成長しました」

 

「ダークサマナーから奪ってもちょっとしか成長しないのはやばいと思う」

 

「加減がわからず無差別に救うこともありましたが、今では選んで救っています」

 

「成長したっていうのはもしかしてダークサマナー的な意味?」

 

「サキちゃんはなかなか辛口だなぁ」

 

 彼女は元からある程度の知識を持ち、能力面でもある程度完成している状態で発生したと聞いた。

 それを土台に学習するので人間の子供よりもあらゆる面で成長が早いのだろう。

 当然身体能力も高すぎるので苦労することもあるという。

 それでも小学校に通っているのは本人の希望と、今は亡き前任のカワサキさんの要望、ヤタガラスの興味によるものだ。

 社会に混ぜたら悪魔や魔人、悪魔人間も人間の味方になるんじゃないのって研究的興味らしい。

 ちょっと癇癪を起して暴れただけで人間をミンチに出来る連中を混ぜるのは流石に難しいのでサキちゃんみたいに実際試せるのはレアケースっぽいが。

 精神鑑定や素行調査の結果、正常な学生生活なら送れるだろうとヤタガラスは判断した。

 つまり胸糞悪いイジメとかを起こしたら知らないってことだ。

 イジメで死人が出たとしても学校側も放置した覚悟の上だろうってことで俺はサキちゃんの通学には賛成している。

 機嫌を損ねて学校の敷地が更地になると危惧する反対派も未だにいるのだが、サキちゃんは賢いからすぐに顔を覚えられるので選んで殺せると真剣に伝えたら納得してくれた。

 

「わたしね、サガミちゃんは真っ先にライドウちゃんに斬られると思ってたよ」

 

「そう? 俺、そんなに悪いことしてなかったと思うけど」

 

 国を維持するライドウと現在の社会を継続したい俺。

 細かい部分で反りが合わない事は確かだが、崩壊を食い止めるという大前提があれば協調するのは難しくない。

 なんなら互いが最大の理解者かつ協力者ですらある。

 崩壊後は微妙だけど。

 そもそもライドウは崩壊する事象を命懸けで止めようとして死にそう。

 

「手当たり次第、記憶いじるのは悪いんじゃなくてヤバいことだと思うの」

 

「違うんだよ。あれは練習だったし相手もちゃんと選んでやってたから安全。失敗だってちょっとしかなかったからセーフ」

 

 助けを求めるようにピジョンちゃんに視線を送れば、困ったように微笑むだけだった。

 全然関係ないけどこの表情好きなんだよね。

 魔人のサキちゃんにヤバい呼ばわりされた記憶操作等は確かに慣れない内は何度も失敗した。

 敵対したメシアをメインに練習し、信仰を上書きしたり、神という概念を消失させてしまったり、記憶を消されて運用されてた処刑人の記憶を復元したら勝手に突撃したりと色々あった。

 だが今は違う。

 ダークサマナーを使って繰り返し積んだ努力と経験は俺を裏切らない。

 今では一般人の記憶処理も簡単に行える。

 悪魔や魔人、高レベルサマナーは忘却耐性が高く、効かない場合が多々あるので俺の得意分野は雑魚だ。

 頑張れば雑魚専以外も出来なくはないが、頑張りたくない。

 今日はちょっと頑張る日だが。

 

「あ、電車きたみたい……。サガミちゃん、これ乗るの? ……ピジョンちゃん、ホント?」

 

 嫌そうなサキちゃんを連れて車両に乗り込む。

 車内は異様な雰囲気に包まれていて、一般人は近寄ってすら来ない。

 というのも金色の刺繍を施した白装束の集団がずらっと乗っていた。

 フードで頭まですっぽりと覆っていて、ひと目では個人を特定出来ないだろう。

 する意味も無いが。

 座席には座らず立っているのも奇妙だった。

 「通してくださーい」と声を掛け、押しのけながら進んでいく。

 意識とかは薄いので声を掛ける意味はあまり無いのだが、癖でつい言ってしまうよね。

 目当ての座席には先客として、他の白装束たちよりも豪奢な金の刺繍が施されている人物が座っていた。

 

「相席させてくださーいありがとー」

 

 瞑想しているので世間には興味ないです、といった顔をしていた癖に俺たちが座るとギョッとしていた。

 これくらいで心が乱されるなんて修行不足なんじゃないかな。

 金予教の教義とか修行は知らんけど。

 

「お言葉ですが、他の車両も空いておりますが」

 

「目的地は同じでしょうから一緒に行きましょうよ」

 

 馴れ馴れしい俺の言葉に気分を害した風でも無く、しかし納得したのか頷いた。

 返事を待たずにピジョンちゃんとサキちゃんはゲームをし始めたので移動する気なんてサラサラ無かったけど。

 他の教団員はボケーっと窓の外を見ているようだが、朝の満員電車に似たディストピアめいた何かを感じる。

 日本は既にカルトに汚染されていた……?

 

「金予教のヨミと申します」

 

「どうもご丁寧に。よろしくお願いいたします」

 

 手を差し出すが、握手はしてくれなかった。

 異能者や呪術師等は軽い身体接触の類でも害を与えてくるので当然の警戒と言えた。

 ヨミと名乗った中年の男は、周りの白装束とは違い顔を隠してはいなかった。

 自信があるのだろう。

 頭髪もふさふさだった。

 

「……金予教と言いますと、もしや石川県からわざわざ?」

 

「いえ、私は東京本部から責任者として来ております」

 

「偉い人じゃないですか。わざわざ足を運ぶとは今回の仕事を重く見てるんですね」

 

「私といたしましては……。いえ、ここで言う事ではありませんね。そちらは……」

 

 金予教の本拠地は石川県の金沢市にあり、教祖はそこから必要な時だけ現場に現れる。

 カルト団体として有名で、最近虫の息となった銀杯教に次ぐ勢力を誇る。

 まだGPに大きく影響する事件は起こしていないが、民間で相談が相次いでいるため上手く削げば怒られることはない程度だ。

 今日船頭を失う予定にあるので金予教と銀杯教の残党が合流するだろう。

 昔ポケモンでホウオウに金の葉っぱ、ルギアに銀の葉っぱを持たせて育て屋に預けるとセレビィが現れるって噂が流れたのを思い出した。

 今後セレビィが誕生してしまうかもしれない。

 いやあれデマだったな。

 

「俺はですね、ほら銀杯教が問題を起こしそうだったでしょう。それでちょっと前から神奈川で活動してたんですよ。で、今は失態を犯して勢力が大きく後退したって話を聞いたので、良い機会だと思って手を広げようかと」

 

「見る目がありますね。我々もこの機に支部を作ろうかと考えておりますので何かと仕事を頼む機会が増えると思います」

 

「楽しみに待ってますね。と言ってもゲームしてる二人も俺の同僚なのでそっちに不満が無ければ、ですけど」

 

「失礼ながらそちらのお嬢様方は……」

 

「すっげー強いんで大丈夫ですよ」

 

「すっげーつよい……」

 

「スプラトゥーンがすっげー強いですよ」

 

 ヨミが「えっ」と漏らしたので「うそうそ。二人が今やってるのはどうぶつの森です」とケラケラと笑う。

 俺の言葉に二人を推し測ろうと、ヨミが真剣な視線を向けた。

 未成年に熱い視線を送る中年とか捕まっても可笑しくない絵面だった。

 サマナーが強さを測る方法はいくつかあるが、容姿は如何様にも変えられるので見た目だけで強さを判断することは不可能だと言えた。

 大体のサマナーが判断に使うのはCOMPを用いたアナライズによる計測だ。

 これならCOMPが規格化した数値で表記される上に得意不得意等も表示され、自身と比較も出来る。

 ただし無遠慮にアナライズすると敵対行為と見做される。

 特にライト・ダークの所属関係無しにフリーのサマナーは情報が命の為、勝手にアナライズしよう物なら殺し合いに発展する。

 当然アナライズへの対策も多く用意されているし、俺もダミー情報を流して攪乱する。

 アナライズの次が個人のマグネタイト量である。

 これが多いと天才的な才能を持っていたり、異能が凄かったりと特異な存在がわかる。

 悪魔からしたら簡単に捕まえられる美味しいご馳走なので狙われやすく、こちらの業界に望まないまま転がり込むことが多い。

 他には魔力の保有量を直感で判断するのも挙げられる。

 魔法型同士は力量が幾らかわかるようで、サキちゃんを見たヨミは納得したように頷いた。

 まあ、これも偽装できるので微妙なんだけど。

 後は立ち居振る舞いとか装備とかで総合的に判断するくらいだ。

 ちなみに俺個人のマグネタイト量も魔力もしょぼいし、服装もカッターシャツとジーンズとこれまたしょぼい。

 魔力豊富なサキちゃん、堅牢なピジョンちゃんと見たヨミが最後に俺を見て首を傾げたのも仕方ないと思う。

 安心してください、今日はガチ装備ですよ。

 

「おっと。そうやって測られると逆に俺が不安要素になってしまいますね」

 

「いえ、むしろ信頼できそうです。振る舞いが界隈の者として相応しいと言いますか」

 

「それは良かった」

 

 良くない。

 俺はダークサマナーの記憶を読んだりはするが、くっそつまんないドキュメンタリーを見る気持ちで流し見する程度だ。

 どうせ何かの事件に巻き込まれたり自分で飛び込んで、後戻りできなくなって道を逸れてしまう。

 責任の所在が自他で変わるくらいで、似たような始まりばかりだった。

 情報を絞り出すような要請でも無ければ真剣に見たりしない。

 俺の言動はちょっと脚色したり、ドキュメンタリーのセリフをパクって演出を加える以外は普段通りの振る舞いだ。

 相応しいと言われても困る。

 

「それなら今後は贔屓にして貰いたいなあ……。そうだ、今日の俺の働きをこの後見てもらって、評価に値するなら連絡先を交換しませんか」

 

「ほう」

 

 そこまで言うのならと言った具合で、俺に興味を持ったようだ。

 DDS上でのやり取りではどうしてもログが残るため、それを嫌い直接売り込むダークサマナーも少なくない。

 可哀そうなことにヨミは俺の働きを見ても依頼出来ないし、万が一依頼出来るとしても俺に懸賞金を懸けてダークサマナーを募集しそうだけど。

 だって俺はダークサマナーでは無いし、ヨミはこの後死ぬから。

 100分後に死ぬヨミだが、友達が少なそうなので冥途の土産になるよう交流してあげようと思う。

 

「そういえば教祖のタムロは現地で合流ですか」

 

「……何の事やら」

 

「疑問なんですけど教祖の名前はコトワリで合ってますか」

 

「……よくご存知で」

 

「仕事柄情報収集は最優先なんですよ」

 

 にこにこと笑いかければ、鋭い視線を返される。

 (コトワリ)を掲げる者たちがいて、崩壊後の世界をどう導くかを定めているらしい。

 弱肉強食とか完全管理とか社会の構造から文明の在り方まで千差万別だが、宗教系、特に予知能力を持つ者がいる場合にはコトワリを持ちたがるし、崩壊を進めようとする。

 GPを下げたり、異界を破壊するためにヤタガラスが利用している受胎儀式を完全に行うと世界をコトワリに沿って再編出来るという話だ。

 成功するとこの世界が再編されるために確かめようが無い所までがセットなので、受胎儀式の実行権限を得たとしても完全な儀式をやりたがる者はヤタガラス内には居ない。

 世界を巻き込んで自殺したい奴が盛大な自殺スイッチとして利用しそうだが、仮に成功したら自殺できずに世界を再編しないといけなくなるからな。

 ゆらぎクラスになると明確に儀式やコトワリについて勘づいていたようだったが、どんな重大な知識や真実でも死んだら無意味だって教えてくれた。

 ピエロのマバラもいい線行ったが、ゆらぎに乗じようとしてどうしても突発的に動かざるを得ない状況となり、結局持ち味を活かせないまま討伐された。

 要はコトワリを持ってるやつらは崩壊後を見据えて動きたがる死んだほうがいいカスたちなので率先して狩っている。

 

「もしかして秘密でした?」

 

「……いえ」

 

「仕事まで消耗したくないので敵対しないでもらえると助かりますね。仲良くしましょうよ」

 

「……私も神通力を使った場合にはこの車両では耐えられないので争うつもりはありません」

 

 軽薄な笑みでへへへ、とヨミの気分を宥める。

 宥めるというより逆撫でた気がするけど。

 コトワリ自体は別に隠す事でも無いが、儀式も合わさると秘匿すべき事柄だ。

 金予教は確信には至ってはいないが、儀式に気づきつつあるラインに立っているのかもしれない。

 そういう状況で訳知り顔の俺が現れたとあっては穏やかで居られないだろう。

 一緒に乗車している白装束の教団員たちは、示し合わせたように全員で虚ろな目を俺に向けていた。

 

「またサガミちゃんがすっごく悪い敵みたいなこと言ってる……」

 

「実際悪いやつだから良いんだよ。美味しいご飯のためだ」

 

 情報通ごっこしてヨミに弱い圧力をかけている俺に、サキちゃんが呆れたように言った。

 ピジョンちゃんは困ったように笑うだけ。

 今日散々お前らに貢いだせいだろうがー、と頭をわしゃわしゃと撫で回せばきゃあきゃあと二人がはしゃぐ。

 俺の様子に、ヨミは肩から力を抜いた。

 実際金予教は悪いやつだから騙しても良いんだよ。

 そもそもこの状況を予言できない程度の教祖を掲げている連中が悪いよ。

 俺もよくわからないが、預言者バトルとなると現場にいる状態が一番強く、遠隔地にいるほど見通しが弱まるらしい。

 金沢の引きこもりが神奈川の貧乳に勝てるわけないのは道理だろう。

 

「予言の頻度ってどのくらいか聞いてもいいですか」

 

「金予に興味をお持ちですか」

 

「銀杯教が凋落した今、次に台頭する勢力を気にするのは当然かと。神奈川は空地になってますからね。今後の動向で身の振り方は変わってきますよ」

 

 神奈川に拠点を作りたがる連中の相手をすると考えると身の振り方を考える必要がある。

 俺としては手間暇かけずに効率よく削りたい。

 そのために銀杯教についてメディアを自由にさせている。

 マスコミは勝手に嗅ぎまわり、自分勝手な答えを作り出してくれる。

 ヤタガラスが干渉できる程度には危ないと伝えているが、それでも探る者は後を絶たない。

 個人なのか、企業なのか、敵対勢力なのか、何にしろ助言が聞けないなら危険な目に遭ってもらうとする。

 そんなわけで銀杯教まわりはプリウスミサイルもどきを発射して一度手を引く予定だ。

 メディアは勝手に想像と文章を書き立ててくれるだろう。

 

「予言は多くても週に一度ですね」

 

 答えてくれないか、煙に巻かれるかと思ったが、教えてくれるようだ。

 俺を使えそうだと判断して取り込みに来ているのかもしれない。

 どちらにしても悪くない情報だ。

 週に一度程度なら細かい指示は出来ないタイプだろう。

 ちょっとした行動で変化することもあってか細かい指示を行う預言者とか聞いたことないけど。

 

「ただし今回の件に関しては幾つか予言を頂いております」

 

「興味ありますね」

 

「残念ながら外部に漏らすわけにはいきません」

 

「あらら。それは本当に残念です」

 

「一つだけ言える事は、たむろ様が重要視しているのは確かだと言う事です。貴方も信じるようになるでしょう」

 

 そりゃあ週一でテキトー吹かしていたやつが急に細かい指示を出したら本気だって思うよなぁ。

 心の中のじゃぽにか暗殺帳に書かれているリストで、タムロの名前を今日の最優先にソートする。

 金予教の教祖クラスが動けば掲示板のスレで僅かでも報告が上がるのだが、その様子は全く無かった。

 それでいて重要事項だと判断していると内部の人間が判断していて、ピジョンちゃんも来ると言っていた。

 日頃の行いのおかげだろうか、運が良い。

 

「連絡先を交換する前に俺の名前を……。いや、必要ないか」

 

 かっこいい偽名が思いつかなかったのでそれっぽいムーブで煙に巻くことにする。

 宗教に嵌ってるダメな奴らはこういうのが好きだからな。

 ダメだったら鳩一郎、鳩子、鳩美でいく。

 

「教祖タムロが本物なら俺がわかるはずなので試させてもらいます。俺もフリーなので見て慎重に判断したい」

 

「……良いでしょう。本物の奇跡をお見せしましょう」

 

 「楽しみにしています」と生意気な感じで挑むかのように言いながら手を差し出して握手すれば、「楽しみにしていてください」と自信満々の返事。

 教祖を信頼しているのか、単なる他力本願で楽観的なのか。

 それにしてもくっそテキトーなことを言ったのに通っちゃったよ。

 随分と愉快なカルト教団だ。

 ちなみにこの愉快なカルト教団員たちは人間爆弾になる。

 金の刺繍で刻まれた呪いによって、自身のマグネタイトを燃やして吹っ飛ぶとか。

 今やこの車両は人間爆弾専用ってところか。

 シンゴジラに使われた在来線爆弾の亜種って考えるとかなり強そう。

 そういえば俺、人間爆弾の満員電車に乗るの初めてだな。

 

 

 

 そのまま一緒に駅で降りて、カルト教団が移動する流れに乗って付いて行く。

 そして金予教がレンタルしたバスに当たり前のように同乗する。

 なんで本部からバスで来なかったのか聞いてみると、ヤタガラス等の同業他社対策らしい。

 東京本部から乗り付けるとあからさま過ぎて動きを追われるが、一般人に馴染む服装でバラバラに散ってから神奈川で集合し、最後にバスで現地に向かうことにしたようだ。

 それならヤタガラスもあまり気にかけず、人員も導入しないでしょうと褒めると満更でもなさそうだった。

 確かに本部からバス移動だったら同乗するのが面倒になって本部や車両ごと吹っ飛ばしていたかもしれないので賢い。

 吹っ飛ばして東京のヤタガラスに突かれても面識のない立川さんを盾にするつもりだったけど。

 

「サキちゃん! カラオケついてるよ!」

 

「ほんとだ! うたお!」

 

 車内に付属していたカラオケセットのマイクを掲げて見せれば、飛びつくようにサキちゃんが反応した。

 金予教も中々いいバスを借りてくれたようで、道中も暇を潰せる。

 贅沢を言うなら座席を回転させられるサロンタイプが良かったが、ヨミには人間爆弾と顔を突き合わせて移動する気が無かったようで普通の座席タイプだった。

 ちょっとの不満と不便は旅の楽しみとして受け入れよう。

 「サキちゃん、こっち見て!」と声をかければウインクをパチっと決めてくれた。

 なおピジョンちゃんはお願いしても引っ込み思案だからやってくれない。

 

「いやあ、俺は旅行とかだと移動も好きなんですよね。新幹線のスゴイカタイアイスとかも楽しみでして」

 

「そ、そうですか」

 

「あ、食べますか?」

 

「え、えっと、そ、それはなんでしょう」

 

「うずらの卵の缶詰です」

 

 缶詰の蓋を開けながら、隣の座席に座るヨミに聞く。

 中身は燻製されたうずらの卵のつまみ缶だ。

 こういうのは移動中の車内とか旅先の旅館で夜間に食べると美味しい。

 ヨミは小さく「えぇ……。遠慮します……」とだけ答えた。

 前の座席にいたピジョンちゃんは欲しいようで、こっちに振り向いて口を開けて待っている。

 同じようにサキちゃんも歌の途中で口を開けて待っていた。

 雛鳥に餌を与える気持ちになりながら放り込んでやる。

 普通に考えて雛鳥の餌として卵を与える親鳥って嫌だな。

 

「なんかさあ、車内が静かすぎませんか」

 

「へ?」

 

「せめて手拍子だけでも欲しいですよね。欲しくない?」

 

「ほしい!」

 

 ほら、サキちゃんも欲しいって言ってる。

 期待に応えちゃいなよ、その後は折角だから一緒に歌おうぜ、とヨミと肩を組めば嫌そうな表情を浮かべた。

 ヨミは「し、正気か……」と呟いたが、カルト教団にハマって人間爆弾を電車移動させた後にバスでカラオケを楽しむようなやつが何を言ってるんだか。

 そもそもちょっとずつ意識や記憶に干渉してるから正気じゃないのかもしれない。

 最初は親しみを覚えさせたり違和感を感じなくさせる程度に干渉を続け、握手してから深めてみたが上手くいったようだ。

 気付いたら正気じゃなくなってるなんて現代社会って怖いね。

 俺はお辞儀して互いに礼する挨拶よりも握手やハグのほうが能力が使いやすくて好きだな。

 

「サキちゃーん! かわいーよ!」

 

 歌うサキちゃんに向けてはしゃぎながら褒め言葉を送れば、「とうぜん!」と上機嫌で歌い続けた。

 こんなに盛り上がっているというのに、同乗している金予教の面々は虚ろな目をして正面を向いたままだった。

 そういえば俺、カルト教団の人間爆弾に囲まれた状態でバスに乗るの初めてだ。

 得難い経験ってやつだろうか。

 

 

 

 

 目的地付近の人里離れた山間にある川の近くでバスが停まった。

 この後は徒歩移動となり、一旦人間爆弾たちは待機のようだ。

 他のダークサマナーたちを威圧しないようにまずはヨミが先に合流するとのことで同行する。

 バスはピジョンちゃんの魅惑の囁きで白装束たちを乗せて横浜へと出発した。

 俺も心神喪失者を操るカリスマ性が欲しかったな。

 蒐集した記憶を使って喋り方とか参考にしてるんだけど全然上手くいかなくて諦めそう。

 ちょっとずつ準備しようと思い、昔使っていた義手を浮遊させる。

 ふわふわと浮かぶ腕だが、マグネタイトによって薄っすらと緑に輝いている。

 今は腕を再生させたフレッシュな肉体となったが、昨年までは頼り切りだった。

 

「き、教祖タムロ様と合流するので、で、し、失礼の無いように」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ」

 

 疑わしいとばかりの視線が二人から送られる。

 ヨミとサキちゃんだ。

 ヨミはこれまでの馴れ馴れしさから注意してくれているのだろう。

 心配しているようだが、機嫌を損ねる前にいなくなるから大丈夫だ。

 サキちゃんはこいつまた悪いことやってんなって顔だった。

 まだやってないからセーフ。

 

「そういえばヨミさんだけ東京から車で送迎してもらえば良かったのでは」

 

 偉いのに電車移動はどうしてなんだい、と聞いてみる。

 カルト集団が電車で移動するの面白すぎるし。

 組織の幹部とか偉い人は高級車で乗り付けるイメージがある。

 ヤタガラスでは車やバイク、電車を使う人も多いが、中には自分で走ったほうが速いとか悪魔のほうが楽だとかで好き勝手している。

 

「ぎ、銀杯の失態がわ、我々にも波及してすくなくない注目があ、あつまっています。と、東京では記者やヤタガラスが張り付いていて、陽動も兼ねてか、かれらの指示役としてわ、わたしが同道し、しました」

 

 関東の支部からも人手を募り、現地に集合してくるようだ。

 みんな電車とかバスで来ると思うと面白すぎる。

 利用された交通手段やレンタル会社を教えて貰ったので後日調査が入るだろう。

 中には徒歩で来る連中もいるとかで、笑いをこらえるのが大変だった。

 ピクニックか何かか。

 せっかくだから歌いながら目的地に向かうべきだろうか。

 いや、夜も深まってきてるしやめとこう。

 

「サキちゃん、学校どう?」

 

「たのしー」

 

「そりゃ良かった。何か問題があったら相談するんだよ」

 

「給食の茹で野菜がやだ」

 

「すまねえ……。俺の力ではどうすることもできない……」

 

「あっ……。あっ……」

 

 サキちゃんの近況報告によると学校生活を送る上で不便は無いらしい。

 苦手な授業は道徳とか国語で、優しさとか共感が難しいようだ。

 とりあえず表面上は人や動植物は傷つけちゃいけない、殺しや暴力はダメ、嘘は吐かない、脅しは無し、隣人と仲良くする程度のことを取り繕っておけば大丈夫だと伝えた。

 「サガミちゃんは全部やぶってるじゃん!」と言われたが、授業じゃないから良いんだよ。

 バレなきゃ殺してもいいと助言したが、流石にサキちゃんでもそれはダメだとわかるらしい。

 罪悪感とかモヤモヤする気持ちを抱えて寝れなくなるような事はやらない、それ以外ならオッケーだと思うんだけど。

 

「サガミちゃんってすぐ人を殺してない? 気のせい?」

 

「すぐは殺してないから気のせい」

 

「あっ……。あっ……」

 

「うちの手伝いしてくれる人たちに聞いたんだけど、初めて殺した時とか相手の顔が何度も夢に出て寝れなかったって。サガミちゃんもやっぱりそうだった?」

 

「いや、俺、人の顔を覚えるの苦手だからちょっと身に覚えのない事柄というか……」

 

「やっぱり悪魔なの?」

 

 普通の家庭出身の人間なんだよなぁ。

 両親も普通に人間だし、温かい家庭で育まれた生命が俺だ。

 実家は色々あって横浜に移転しているし、帰ることもほぼ無いけど。

 しかし、改めて思い返すと初めての殺人はどうだったかな。

 鈍器で殴ったら骨とか毛のせいで思ったよりも固くて、しかも血が激しく噴き出して肉も絡みつくから、それを見て「うわ、きったね……」という気持ちになったのを思い出した。

 次からは炎で炙ることを試したのだが、それはそれで血肉が焦げて「うわ、くっさ……」と後悔して火力を上げようと頑張った。

 水は回復力が高い再生型の敵だとすぐに復活するからイマイチだったし、ずっと肺や体内に水を込めて陸上で溺死させ続けたら深海魚みたいでキショかった。

 生き埋めもやってみたが、爪が全部剥がれて指先の骨や肉が砕けて憔悴しながらも這い出てくるから超再生型を溺死させないといけなくて二度手間だった。

 ちょっと恥ずかしいけど俺にも初々しい時代があったんだよな。

 

「あっ……。あっ……」

 

「サガミさん、追放ものだと金予教に拾われた記憶が残るので、そこから疑問を抱くかもしれませんよ」

 

「でも最初から銀杯だと神通力とやらを失いそうなんだよね。元から持っていた素養と違って後天的に増設された機能っぽいから」

 

「あっ……。あっ……タム……タ……たら……らぎ様……」

 

「この人うるさいんだけど。2人が何やってるか聞いてもいい?」

 

 片手間で弄っていたヨミがカオナシモードになってしまったので、ピジョンちゃんとああでもない、こうでもないと話し合う。

 それが気になったのかジト目になったサキちゃん。

 ちょっとうるさかったか。

 腰を据えてゆっくりと作業したほうが馴染むから上手くやれるが、これに関しては時間をかける意味があんまり無い。

 俺がもっと才能豊かだったらサッと出来るんだけど、残念ながら凡夫なので下駄を履いて作業している。

 天才だと日常生活で使いまくって日の目を見ない世界で処分されるか、悪魔に憑りつかれて酷いことになるので、やっぱり才能なくて良かった。

 

「最近ペルソナの知識とか経験を仕入れたんだよね」

 

「うん」

 

「それを元に異能者にペルソナ使いだった記憶があったらどうなるか気になって」

 

「うん?」

 

「銀杯教でゆらぎに忠誠を誓ってペルソナ使いとして活躍した栄光の記憶を捏造してみた。題して『金予教で東京本部長をしていた念動能力者の僕が朝起きたら銀杯教でペルソナ使いとして活躍していた』」

 

 流石に記憶の両立は厳しかったが匠の技で解決した。

 銀杯教のペルソナ使いユミという人格を捏造したのがポイントだ。

 他にも誕生は今さっき、つまり夜だったりとタイトルと本文の齟齬が起きているがどうでもいいか。

 人格の争いによって主導権を握らせる。

 この世界だと自分で選ぶのが何よりも重みが生じるから大切なんだよね。

 ユミは人格争いについて理解しているが、ヨミは何もわからないのがドラマチックな演出だ。

 争え……もっと争え……。

 

「あっ……ゆら……。ゆらぎ様……」

 

「サガミちゃん」

 

「うん」

 

「それすっごく悪い敵がやることだと思うの」

 

「確かに一般人にやったらすっごく悪い。だけどすっごく悪いやつは普段からすっごく悪いことをやっている、つまりすっごく悪いことが普通なんだよ。だからすっごく悪い敵にすっごく悪いことをやっても中和されてすっごく普通のことになるんだ。だから悪いことは駄目なんだよな」

 

 わかったかな、と問えば「そうかな……。そうかも……」とサキちゃんは納得してくれた。

 素直で可愛いから教えるのも楽しいよ。

 俺ってもしかして教師に向いてるのかもしれない。

 ヤタガラスの活動に限界を感じたら教師になろうかな。

 俺と違ってピジョンちゃんは別に学校に興味なさそうだ。

 ミッション系とかお嬢様学校とかもあるから選び放題だが、行きたそうな素振りも見せないし、話題にもしない。

 サキちゃんの話は楽しそうに聞くけど。

 

「そろそろ装備するか……。ピジョンちゃんは他に何か足りないのある?」

 

「私はこのままで大丈夫です」

 

「そうだよな。色々と飾ってるから大丈夫だよな」

 

「でもサガミさんから貰える物なら何でも嬉しいですよ?」

 

 胸が足りてない不沈空母鳩はこれ以上飾るとバランスが崩れそうなので、残念ながら追加は無し。

 控えめに手を差し出されたので薬系の道具を幾つか持たせておこうか。

 サキちゃんは装備したほうが弱くなるタイプなので装備に関しては手ぶらだ。

 

「おめかしが必要なの俺だけー? もう! 急がなきゃ!」

 

「サガミちゃん」

 

「なにかしら!」

 

「気持ち悪いからやめて」

 

「はい」

 

 気持ち悪いって言われると心と体、人間の全部がキュッと痛くなるな……。

 将来臭いって言われたら死ぬかもしれない……。

 困った表情のピジョンちゃんは可愛いのにな……。

 

「それがストレージ機能ってやつ? わたしも欲しいな」

 

「使わせてあげたいんだけどまだ試作の段階なんだよね。オリーブの枝で底上げしないと魔石のひとつすら運べない」

 

「ふーん」

 

 少し羨ましそうにしているサキちゃんの前で、義手からガトリング砲やデモニカスーツ、二人に渡す道具等を次々に出していく。

 俺の腕くらいの大きさしかない義手では明らかに収納できる質量ではないが、最近テストを求められたストレージ機能のアプリを搭載したおかげだ。

 ターミナル等に使われている空間の拡張や跳躍を可能とする機能を元に研究開発が進められている物だと聞かされた。

 と言っても現状では機能が不十分でヤタガラスの面々に配られるのがいつになるのか俺にもわからない。

 ピジョンちゃんが言うにはオリーブの枝は「可能性の延長」を与える物であり、ヤタガラスの研究でも概念の強化が確認されている。

 0から1を生み出せず、上限100を超えて120には出来ないが、30や50の可能性を70や100には理論上出来る。

 つまり試作品の機能を拡張することで正しい方向か確認しながら使用できる……かもしれない。

 俺はサマナーとしての才能も無く異能の出力も低いが、オリーブの枝だけは世界で一番適性がある。

 ピジョンちゃんがそう言ったので間違いない。

 だからオリーブの枝を使えば異能や悪魔召喚を上手く扱えたし、電霊の強化だって誰よりも上手くいっている。

 

「どう? かっこいい?」

 

「うーん?」

 

「私からはなんとも言えないですね……」

 

 試作品のデモニカスーツを着てみたので似合ってるか尋ねてみる。

 反応は芳しくない。

 背中にぶっ刺さるように備え付けられているプロペラタンクみたいな四本の円筒に精霊を召喚できるようになっている特別製なのに。

 精霊を装填すれば四色に背中が輝いていて、まるでゲーミングデモニカスーツだ。

 俺は結構好きなデザインだが、お子様にはこの良さがまだわからないか。

 元となったデザインや技術はデモニホとかいう悪魔を参考にしていて、個々人に貸与されているヤタガラス用のCOMPを接続して使う予定となっている。

 今は歴史や伝承、強い思い等で概念が宿った装飾品で耐性を付けるが、将来的にはそういうのは抽出したり作り出してデモニカスーツに搭載する展望もあるようだ。

 デザインは元となったヒーホー族的なセンスなのかもしれない。

 つまり俺のセンスはジャックヒーホー族と一緒ってコト……?

 

「ダサいのに役に立つの?」

 

「ダサいのは関係ないから。これ自体がオリーブの枝と相性が良くてね。電霊のバックアップも最大限に受けられて異能も使いやすくなる」

 

 義手の変わりだったオリーブの枝がデモニカスーツの片腕に浸食し、古臭いハンドヘルドコンピューターを模したCOMPとなった。

 電霊が気を利かせてくれているようで、必要と思われる情報がデモニカスーツのヘルム内に表示されている。

 どんな環境にも耐えられる戦闘服というコンセプトで作られているので寒さや暑さに強い。

 戦闘行動に耐えられる程の機能はまだ有していないが、環境への適応は叶っているようで、目立たない地域では色々と実験が行われている。

 中でも沖ノ鳥島では深海探査を行い、更にその様子を配信したり、外国のダークサマナーと小競り合いまでしているとか。

 島では無く岩と主張する大陸側の工作員が多く、時折破壊しにくるため裏でリアルタワーディフェンスが始まるらしい。

 表向きは無人なので捕虜は取れないし、負けたとしても捕虜に取られないので悲惨である。

 海を超えられる人材は大陸では貴重らしく、それほど頻繁に争いが起きないとは言っていた。

 一時期漁船から水適性を持たない貧乏サマナーが泳ぎながら向かってきたり、エセデモニカスーツを着た軍人が攻めにきたりと別の意味で怠かったとも聞いたが。

 

「よし、これで撤退もやれそうだ」

 

「えー? 逃げるの?」

 

「途中でライドウの兄上が来るっぽいから頑張ろう」

 

「あー、ライドウちゃんの来るんだっけ……。わたし、あの人好きじゃないなあ……」

 

 「ほんとに来るの?」「ほんとに来ます」と言い合ってる二人を見ながらデモニカスーツを装着していく。

 急に現れて好き勝手するからな、あの人。

 別にその後何かが起きるわけでもないし、時には悪くなることもある。

 ライドウの育成方針が霊的国防に特化しているので指示された事は完璧にこなせるのだが、自分で考えて先を見据えて行動する能力がないのは確かだ。

 優秀な猟犬だったが、犬飼になる練習はしたことないから特殊なお家事情の被害者とも言える。

 でも猟犬としてライドウに勝ちたいならGP40以上の異界を解決したほうがよっぽど修行になるというか、それくらいの難易度を解決できないなら一生ライドウに迫れないってそろそろ理解してくれないだろうか。

 「強くなりたかった……」「〇〇を超えたかった……」と呟いたやつらを気まぐれで行動してランダムで救うのはやめてほしい。

 今回は久しぶりに会うのでお気持ち表明しとくか。

 

「そろそろ合流地点なので俺が突撃する。サキちゃんはいい感じに魔法してね。ピジョンちゃんはサキちゃんの近くで待機」

 

「それ得意!」

 

「ヨミさんはタムロが現れるので頑張る」

 

「ちがう……。あたしはヨミじゃない……。消えてよ……。あたしから消えて……」

 

「あ、ユミさんか。ユミさんはゆらぎの敵であるタムロが現れるから頑張って」

 

「わ、わたしはよみ……? あっ……。タムロ……。ゆらぎ……。タムロ様……。あっ……。ゆらぎ様……」

 

 なんか駄目そうだ。

 使いにくいし、やっぱり洗脳って糞だわ。

 そもそも俺は短期ならともかく長期洗脳には向いていないんだよね。

 精神防壁も薄くなるので放し飼いにしたらピジョンちゃんみたいなカリスマ持ちに操られるし良い所がまるでない。

 鳥取とか島根の時は末端からピジョンちゃんで切り崩して情報を錯綜させたから組織運用が難しいのだろう。

 金予教は人間爆弾用だし、銀杯教は鉄砲玉シャドウとして時限式運用をしていたのもこういった欠点への対策なのかもしれない。

 

「ももちゃん連れて来たほうが良かったんじゃないの?」

 

「ムカデさんだと引けなくなるから……」

 

 ムカデさんは崩壊後に備えて強い者を今のうちに倒しておきたいという考えをしているようだ。

 地力だと合体までやらかしたライドウの兄上に軍配が上がると予想できるのだが、ムカデさんはその超耐久も相まって泥仕合に繋がる。

 俺とピジョンちゃんが援護を差し込めば負けは無いのでムカデさんは絶対に引かない。

 俺達が先に逃げても引かない。

 そうなると徹底抗戦することになり、結構なリソースを吐き出すほどの価値があるのかという話になるが全くない。

 長引けばライドウが参戦するだろう規模になり、どう転ぶかわからない戦闘が起こり、最終的にライドウの兄上は死ぬがライドウのモチベも死んで日本の危機に繋がる。

 死神か何かか?

 

「すぐ逃げる?」

 

「いや、ちょっと衝突して相手が引いてくれないならやらざるを得ない」

 

 ムカデさんを呼んでいないという誠意くらいは伝わって欲しい。

 それはそれとして機会があれば殺しておきたい。

 今は自分探しの旅をしているような状態だが、途中で変な思想とかに目覚めて敵になられても困るので、まだリカバリーが効く内に退場してもらいたい。

 本音を言えば洗脳してでも味方として運用したい強さがあるのだが、万が一に出来たとしても合体してくれちゃってるんでリスクの方が大きい。

 定期的にメンテナンスすれば使えなくもないだろうが、時間をかけて洗脳してまで運用する利点がほぼない。

 悪の秘密結社だったら政治家等を操るんだろうけど、ヤタガラスは神が運営しているので直接語り掛ければ洗脳よりも効く神気で信仰心を焼かれる。

 表社会の何処まで干渉しているのか俺は知らないが、活動が快適になるならどんどんやって欲しい。

 マスコミも黙らせればいいのにと思ったこともあるが、人間は唯々諾々と従う者から率先してばら撒く者まで居て、かつてムーとかいう雑誌が誕生したとかどうとかで面倒で最低限しか関わらないらしい。

 

「ピジョンちゃんの未来予知、俺の完璧な作戦、サキちゃんの魔法、ヨミユミのバックアップ。……勝ったな」

 

「サガミちゃん! なんかダメそう!」

 

 どうも必勝を予感した俺の言葉はサキちゃんの御眼鏡に適わなかったようだ。

 お洒落なワードセンスとか多種多様な語彙を持っていないのでこれ以上の言葉は絞っても出てこない。

 何言っても変わらないからもういいか。

 

 ピジョンちゃんとガトリング砲を抱える珍妙な格好になった俺が「突撃ー!」と声を発しながら川沿いを進めば「やったー!」とサキちゃんが後をついてくる。

 河川敷に飛び降りる途中でピジョンちゃんをサキちゃんに投げ渡し、先行して駆け出す。

 跳ねるように一足飛びで距離を詰める。

 掲示板で募っていた合流地点には青梅チームの元リーダーの姿があった。

 優先順位は落ちるが死んでくれるなら全然あり。

 

「デモニカ!?」

 

 驚きの声を挙げている姿に向かってガトリング砲の弾をばら撒く。

 これで死んでくれたら楽なんだが、そう上手くはいかない。

 人間を簡単に捻り潰すことができるサイズのタコ足によって弾丸を防がれていた。

 弾丸を余裕をもって防げた訳では無いようで、何本もの足がズタズタになっている。

 スーツのモニターにマグネタイトの揺らぎとGPの上昇を確認できたので、仲魔のお稲荷さんであるウカノミタマを召喚する。

 

「ヤタガラスの追跡者か! だが俺は止まらねえ!」

 

 一軒家ほどのサイズのタコが出現する。

 やる気になっているところ悪いが、こいつらはこれから起きることのついでなんだよな。

 前座とは言えど邪魔なことには変わりないので、とりあえずガトリング砲をぶっ放してタコ足を削っておく。

 大赤字確定なので内心では悲鳴を挙げる。

 精霊四種とウカノミタマを召喚して、これでもかと疑似万能弾をばら撒いているので財布に痛い。

 召喚すると貯め込んでいるマグネタイトが消費するのだが、これが意外と出費に繋がる。

 さらに俺の精霊が持つ魔法を統合して弾丸に込めて疑似的な万能特性を持たせているのだが、これがまた凄まじい勢いで魔力を消費してしまう。

 弾切れを防ぐためにチャクラポットで精霊を満たすのだが、やっぱり鬼のように高い。

 近接戦で弾代を抑えたかったが、複数のを持つ巨大な悪魔とやり合うならガトリング砲の方が効果的だった。

 電霊がエネミーサーチの反応を教えてくれる。

 アナライズ出来ていないマグネタイトを確認すると反応するアプリだ。

 一度ガトリング砲を止めると、タコのすぐ傍の空間が揺らめいて男の姿が現れた。

 疲れ切った老爺のようで、灰白色に縮れた髪は薄汚く、頬が扱けたその顔には何日も寝ていないのか酷い隈が刻まれている。

 ヨユミさんが「タ……ムロ……さ……」と呟いたのでやはり転移能力者のようだ。

 直後、俺に向けて魔法か何かを使ってこようとしたが、威圧して動きを止める。

 予知能力が劣ってても、目に見える奇跡を持ってたら信者も簡単に獲得できるよなぁ。

 長距離転移が可能なこいつはここで確実に殺すべきだ。

 

「ウカノミタマ」

 

 転移者を封殺する最も簡単な方法は異界に閉じ込めることだ。

 とはいえ弱い異界だと踏破されるか破壊されてしまうのだけれど。

 例えばの話、俺の独力だけで転移者を隔離できる異界を作ると明日からガチャができなくなる程のとんでもない出費となる。

 神奈川県や全国にある稲荷神社や廃棄された寺社仏閣を巡り、俺のウカノミタマが管理できるように許可を貰いまくった。

 一か所から流れる信仰は微々たる物だが、集まれば膨大な力となる。

 さらに神奈川県内に流れ込む龍脈を含めた力を電霊が転用することで、ウカノミタマが現在最も影響力のある県内ならば寺社仏閣を中継して電化製品を操ることができる。

 マグネタイトで操った電化製品から特定の周波数を発することで超電磁結界という名の電子レンジ攻撃が可能ではあるが、俺は今の所使う気が無いし、ヤタガラスも使わせる気は全くない。

 じゃあこれから何をするのかと言えば、俺の電霊が影響下にあるCOMPの制御を一瞬だけ奪って儀式を演算させる。

 ついでにマグネタイトも吐き出させ、この場に集まっているダークサマナーたちに協力してもらって汚い元気玉を作った。

 

「異界生成」

 

 金の稲穂が揺れる風景で、周辺一帯が塗り潰された。

 黄昏時となった世界は、薄暗く染まりながらも空は僅かな黄金の色を浮かべていた。

 

「さがみぃぃいぃ!!!」

 

「相模!? あなたは相模さんなのか! 俺と一緒に行こう!」

 

 こっわ。

 見知らぬ浮浪者に吠えられるとこんなに怖いのか。

 そういえば俺を知っているんだな。

 やっぱり本物なのだろう、頼むから死んでくれ。

 ついでにタコに守られている脱走者も俺に反応した。

 困ったな。

 この場にいる俺を含めた三人の内、二人の頭がイカれちまってる。

 一般人の俺はどうすればいいのかわからないので、とりあえず殺して解決しよう。

 

「わ、私の神をも凌ぐ力がぁぁぁ!」

 

「凌げてないからそうなってるんだよなぁ」

 

 ウカノミタマは神獣なんだよなぁ。

 

「許さぬうぅぅぅぅ! さがみぃぃいぃ! 貴様ぁぁあぁぁ! さがみぃぃいぃ! 私はぁあぁああ! さがみぃぃいぃ!」

 

 俺がサガミなんですがそれは。

 おまえはサガミ?

 激昂している理由はわかる。

 異界に閉じ込められて転移できないからだ。

 異界は出入り口が決まっているので礼儀正しくそれを使う必要がある。

 ただし、深部にいる主を殺して境界を曖昧にして内部から壊すか、主を超える遥かに超える力量を持っていれば無視できるルールもある。

 長距離転移してきた直後の異能者にそんな余裕があるはずもない。

 タムロを含めたダークサマナーたちは「サガミとウカノミタマを倒すまで出られない部屋」に閉じ込められてしまった状態になった。

 デスゲームの開始を宣言したほうが良いだろうか。

 

「さがみぃぃいぃ! 私は! ねむれない! 貴様のせいだ! いつだって私の未来は途切れる! 未来の私は何も知らない! 貴様がいる限り私は! 私はああああああ!」

 

 宣言しても聞いてくれ無さそうだ。

 しょうがないのでライドウの兄上が来る前にやれるだけやろう。

 出来れば皆殺しが最上なんだが、ちょっと厳しそうだ。

 異界生成の出費を抑えるために欲張りすぎたかもしれない。

 

「サキちゃん!」

 

「うん! やるよ!」

 

 サキちゃんの持つ膨大な魔力が噴き出す。

 粒子となってきらきらと輝く青白い魔力は宝石のようだ。

 ログが刻まれる。

 

<カワサキの獣の眼光>

―プレスターン増加―

<カワサキのニュークリアフュージョン>

―カワサキの炉心出力が上昇する―

 

「ちょっとずつ温めてくからね! マハフレイ!」

 

<カワサキのマハフレイ>

―核熱の力が放たれた―

 

 熱が通り過ぎ、俺の視界の端が揺らめいていた。

 そこら中からうめき声とともに焼け焦げた臭いが漂っていた。

 稲穂が燃えて、薄暗かった世界に赤い光が灯っていた。

 

「私には……未来がない……のか。教えてくれ、さがみ……」

 

「え? そりゃ死ぬんだからないでしょ」

 

 腹から下が消滅したタムロが転がっているのでストレージ機能で収納する。

 ひどく絶望した顔を見て可哀そうだと思ったが、面倒なタイミングでしか現れないコイツを考えると慈愛の心も消し飛んだ。

 世界が熱で揺らめく中、タコはまだ健在だった。

 日ノ本の神使だとウカノミタマのバフが乗っちゃうからなぁ……。

 

―カワサキは熱を支配している―

―カワサキは熱を吸収した―

―カワサキのHP・MPが回復―

―集まった熱によって炉心出力が上昇した―

―カワサキは排熱を行った―

 

「メギド!」

 

<カワサキのメギド>

―破壊の光が放たれた―

 

「どんどんいくね!」

 

<カワサキの獣の眼光>

―プレスターン増加―

<カワサキのニュークリアフュージョン>

―カワサキの炉心出力が最大になった―

<赤目のシャンクスの獣の眼光>

<サガミの獣の眼光>

―プレスターン相殺―

<カワサキのニュークリアエクスカーション>

―カワサキの炉心出力が限界を超える―

―プレスターン増加―

 

「マハフレイラ!」

 

<カワサキのマハフレイラ>

―核熱の力が解き放たれた―

―カワサキは熱を支配している―

―カワサキは熱を吸収した―

―カワサキのHP・MPが回復―

―集まった熱によって炉心出力は限界を超えている―

―カワサキは排熱を行った―

 

「メギドラ!」

 

<カワサキのメギドラ>

―破壊の光が解き放たれた―

 

 

 

「サキちゃん、一旦止まって」

 

「もういいの? まだ敵も熱も残ってるよ」

 

「これ以上は異界が耐えられないし、転輪鼓(てんりんこ)も配置できない」

 

「そうなの? じゃあ一回やめるね」

 

 熱と光でチカチカしていた視界が戻る。

 サキちゃんなんて熱々ホカホカ状態で、スマブラだったら吹っ飛びやすいけど吹っ飛ばしやすい絶好の攻撃モードだ。

 ピジョンちゃんはいつも通り胸が貧しい。

 サキちゃんの魔法ソリティアで皆殺しにしたい所だが、異界が限界を迎えそうだ。

 ウカノミタマの異界はバフと遮断が得意なのだが、守りはそんなでもないのでヒートアップしていくサキちゃんの核熱には耐えきれない。

 異界が砕けたら熱が外に放出されるし、そうでなくてもライドウの兄上が外から無理やり入って来ている。

 このまま魔法を連打するとその穴が欠陥となって壊れる可能性もある。

 

<サガミの獣の眼光>

―プレスターン増加―

<カワサキの獣の眼光>

―プレスターン増加―

 

 作業するために周囲を威圧すれば、サキちゃんも合わせてくれる。

 さっさと作業を進めよう。

 ストレージから取り出したマニ車に似た転輪鼓(てんりんこ)をウカノミタマにお願いして、支配者権限で異界境界内の各地に設置してもらう。

 この異界はダークサマナーや異国の神には便利なんだけど、ライドウとかには全く意味がないんだよね。

 なんならバフが乗る。

 ライドウの兄上にもバフが乗る。

 そしてウカノミタマの異界はサキちゃんにとってデバフを付与されているのと変わらない。

 相手の方が強いのに、フィールドも相手が有利だと話にもならない。

 

「全力で撤退するぞ!」

 

「サガミちゃん、ちょっと情けない」

 

「しょうがないじゃん。相手のほうが強いんだから」

 

「わざわざ戦わないで逃げちゃえばいいのに」

 

「戦って敵わないのと、最初から逃げるのだと評価に大きく関わるから……」

 

「サガミちゃんも苦労してるんだね……」

 

 大人になるって悲しいことなんだよサキちゃん。

 魔人が大人になったところで同じような悩みを持つのかは知らないけど。

 異界内部のデータに大きな変化が生じた。

 薄闇と黄金の空を破り、宵闇を背にしたライドウの兄上が飛び込んで来ていた。

 ピジョンちゃんが転輪鼓(てんりんこ)を起動する。

 

「やべっ」

 

「なになになに? 聞きたくない言葉が聞こえたんだけど」

 

転輪鼓(てんりんこ)が間に合わなかった」

 

「どーすんの! わたしの出力、ぜんっぜん足りないよ!」

 

「俺が時間稼ぎするから周囲にマハフレイでもして温めといて。もう異界は壊れてもいいから」

 

 すぐそこまで迫っていた兄上に向けてガトリング砲をばら撒く。

 速すぎて笑う。

 当たり前のように刀で全弾弾きながら一直線で向かってくる姿はマジで理不尽だと思う。

 ゲームバランス壊れてるよ、絶対。

 ムカデさんの千列突きみたいな斬撃が飛んできて、ガトリング砲が切り刻まれてしまった。

 国産だからお高いのに!

 

「今日一日でとんでもない赤字ですよ、兄上!」

 

「俺は、お前の兄ではない」

 

 なんと奇遇な。

 俺もお前の弟じゃないぜ。

 ピジョンちゃんに斬り掛かった兄上の刀を、オリーブの枝で受け止める。

 仕返しとばかりに、オリーブの枝でマグネタイトを編んだ触手で攻撃する。

 数本の触手が、空中で一気にばらけて数千となって襲い掛かる。

 

「サガミさん! 起動します!」

 

「お願い!」

 

 悲しいことに、当たり前のように切り払われてしまった。

 一応俺の切り札なんだが。

 「この触手は一本でも触れたら記憶か意識を奪えるんですよ兄上! 貴方でも避けられますか!」って三下ムーブしちゃったじゃん。

 恥ずかしい。

 恥ずかしくない?

 俺が恥ずかしい思いをしたおかげで転輪鼓(てんりんこ)は起動できたのでトントンにしておこう。

 異界内の生きていたサマナーすべてが別の世界に引き込まれる。

 デモニカスーツ内のモニターに【GP50】の文字。

 

「ようこそアマラ経絡へ」

 

 俺はドヤ顔でそう言った。

 この後は兄上にお気持ちを表明してちょっと頑張る消化試合みたいなもんだ。

 なんならすぐにライドウが来るよって脅すだけだから。

 虎の威を借りる狐戦法によって俺は数多の依頼を解決してきた。

 ライドウというプレッシャーに耐えて俺と小競り合い出来るのか?

 ライドウの兄上は心が強え兄なのか……!?

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。