昨日、湯河原でピジョンちゃんと観光して満足したので駅ではリラックスした気分でダークサマナーを待つ。
ムカデさんも来ていたが、わくわくが止まらなかったらしくて朝にはいなくなっていた。
こっちのほうは山や森だけでなく宿泊施設だった廃墟が多くて管理が大変そうだ。
ユガワラの爺さんは放置しまくってるようだが、危ない所に忍び込んだ連中が悪いってことで放置している。
あんまり酷いようだと潰すが、基本的には放置する方針のようだ。
異界の育ち具合とか眺めて手入れしてるからな。
盆栽と勘違いしてる節がある。
異界を盆栽にするとか頭おかしいよ。
そのユガワラの爺さんは朝早くから出かけたようだ。
理由は単純。
俺たちも目的にしているダークサマナー退治だ。
ピジョンちゃんの予知に頼っているが、当然ズレが起きることもある。
当たらぬも八卦ってやつ。
ダークサマナーについての詳細はヤタガラスから連絡が来ていた。
内容はヤマキタを殺した下手人の対処だった。
ほとんど交流が無かったので詳しくは知らないが、その下手人というのが直弟子らしいから世も末だ。
「ヤマキタ死んじゃったってよ」
「もっと詳しい神託を求めるべきだったでしょうか。忙しくなりますから」
「いらないって。やるならエコ神託で頼むわ」
「エコ神託……」
詳しい神託ってなんか面白い言葉だよな。
普段は詳しくない神託を受けているってコト!?
まあ受けてるってコトなんだけど。
結局のところ神託だって大袈裟にそう呼んでるだけの異能か何かだから負担もあるし、詳しくなくて負担の少ないエコな神託でこれからもお願いしたい。
エコ神託の元聖女胸なきピジョン。
エコ神託って字面だけで弱そう。
ハイコスト神託や環境破壊神託、エコ神託だろうとも結果は変えられなさそうだけど。
別に神託が絶対的な予知をするって意味では無くて、ヤマキタ自身の育成問題だろうし。
根本的に解決しないと早かれ遅かれ弟子に殺されるんじゃねーかな。
そして俺たちが根本的な解決をするほどヤマキタと仲良く無いし、横浜がわちゃわちゃしそうな今そんな事に割きたくない。
「でも後任を決めるのは面倒なんだよ」
人口が多い都市だと複数の推薦者によって推された人物が据えられて、推薦者が後任になる。
後任は持ち回りパターンだったり、メインの一人が面倒を見るパターンもある。
山北という町は人口もそんなに多くない。
管理範囲は広いけど、管理責任はそれほど重くない。
なんなら軽い。
ガバのガバガバよ。
抑圧しすぎて外部組織が手当たり次第に暴れても面倒なので、通り抜け易くしているらしい。
つまりダークサマナーの通路の管理となる。
ヤタガラスからの指示があるか、よっぽどの事でも起きなければ別に討伐しなくてもいいのだが、自分が任されている町に自分よりも強かったり面倒なやつらが我が物顔で侵入してくるのって怖くない?
そういうノーガード戦法のストレスに耐えられる人や、そういう場所に据えても俺の良心が咎めないような奴じゃないとなぁ。
都合のいい人材とか転がっていないだろうか。
DDS-Netを介したヤタガラス専用のチャットツールに連絡が入る。
「うわ」
「どうしましたか。……うわ」
「押し付けてきやがった」
ユガワラの爺さんから「駅まで追い詰めたから後は任せる。散々運動したから後は酒呑んで寝る。後は良しなに頼む」の一文が届いた。
ピジョンちゃんの神託は確定した未来を当てるわけでは無い上に精度によっては時間が経つ毎にズレるので、爺さんが頑張ってくれたら終わってた可能性もあった。
勘が頗る良いタイプなので途中で後片付けとか諸々の面倒さに気付いたに違いない。
駅のベンチで缶ジュース片手に駄弁りながら喋っている人々をピジョンちゃんとアテレコして遊ぶという有意義な時間を切り上げ、しょうがないので電車を待つフリして様子を窺う。
まずは車両3つ分は空けて乗り合わせるとしよう。
相手が気を抜いたらちょっとずつ間を詰めればいい。
最初から詰めると俺との差に気付いたヤケになるかもしれないし、徐々に慣らせばいい。
それにしても頭にアルミホイルを巻いてるとかなり目立つな。
「隙だらけだな。もういっそのこと駅の外まで引っ張ってやっちゃう?」
「たぶん刺激すると割れますよ。疲労困憊なので」
「そう……」
ここで頭が割れると面倒な事になる。
ヤタガラスがアルミホイルを使った呪詛返しを教えてくれている。
このまま頭がパーンとなられると呪詛返しできない。
ヤタガラス的には別にどうでもいいだろうが、俺が呪詛返ししたくて仕方ない。
ここで練習しとけば他のアルミホイルマンを使ってより練度の高まった呪詛返しができるようになるから今後の依頼に役立つはずだ。
ガチャの弾になってくれ狂信者。
「じゃあ後片付けとかも考えて予定通り相模線まで連れてこう」
「ではその様に」
それにしても頭が割れる直前まで追い詰めるとかユガワラの爺さんの頑張り過ぎだ。
むしろそこまで調整して追い込んだかもしれない。
あれで経験豊富な爺さんだ、やる気はそんなに無くても人を殺す業と追い詰める術に長けているのは間違いない。
俺がここら辺で暴発させて事後処理に巻き込まれるのを見越した可能性がある。
嫌な性格のジジイだからな。
それはそれとしてピジョンちゃんには甘いから連鎖で俺にも甘くなるからお小遣いやお年玉もくれる。
性悪ジジイは長生きしていっぱい仕事しろ。
「しまった……」
「どうかしましたか」
「駅弁買えば良かった。あちゃー」
「確かに。あちゃーです」
じゃあ同じ電車に乗り込んで様子を窺いつつ近寄るとしよう。
と思ったのだが。
「寝ちゃったよ、あいつ」
「寝ちゃってますね」
「お疲れ様ってやつだ」
座席に座ったかと思うと即行で眠りについたのが見えた。
やはりというべきか、心身共に負荷が掛かっている。
アルミホイルはペルソナの抑制用呪具だという話だが、完全に抑えることは出来ないのだろう。
人間が持つ側面を無視して生きる事など不可能で、だが当然ながら常に外に出せるほど強くもなれない。
仮面として纏い、時に表に出す事で発散するしかない。
抑えるほどに澱みとなって溜まり、やがては決壊して制御出来ない影となって溢れ出す。
暗い感情は背けた仮面をより重く、厚く、醜く拵える。
「面倒だから同じ車両に乗っちゃうか」
「そうですね。乗っちゃいましょう」
何食わぬ顔で同じ車両に乗り合わせる。
あまりにも自然すぎて自分が怖い。
どこからどう見ても偶然乗り合わせたとしか思えないだろう。
欠点は険しい顔して眠るアルミホイル男のせいで他の車両と比べて乗客が疎らってことか。
一般人と比較したらレベルが随分と高い癖にその戦意を隠すことも無くまき散らしているので危機感が鈍っていない限りこの車両に乗りたがる人はいないだろう。
今乗ってる人?
知らん。
たぶん死期が近いとかでそういうのが鈍ってるとか感じられなくなっているんじゃないか。
「ハラさんのとこの息子さん、後を継ぐからお祝いの贈り物を考えないとね。何かある?」
「消耗品でもいいと思います。ただし、あまり良い物を贈られても困るかと。サガミさんや私に良い事があったら逆に頂くことになるので」
「確かに相手の事も考えないといけないか」
俺が持っている装備や消耗品の目録がCOMPに保存されているのでピジョンちゃんと眺める。
普段使う物は事務所に保存しているが、それ以外の物品はヤタガラスに預けている。
ヤタガラスに預けると作成された目録をCOMPに送ってくれるし、DDS-Netでリアルタイムに確認できる。
なんなら預けた物は消耗品を含めて滅多に使わないので貸出や使用を自由にしている。
流石に貴重品は保管だけに留めて貰っているし、こちらから何か仕事を頼む時は報酬にすれば電霊が出庫してくれるので有難い。
事務所の手持ち分はこちらで目録を作らないといけない。
ピジョンちゃんが週の半分は事務所に泊りに来るし、コツコツと雑事も手伝ってくれるので整理整頓が行き届いている。
「あ、火炎放射器とかあげます?」
「それだとシャッフラー頼りになりそうでなあ」
確かにサガミハラさんはシャッフラーがメイン戦術ではあるけど、それだけに頼るのではなく選択肢の一つとして持っているだけだ。
なんなら近接もゴリラ並みに強い。
ヤタガラス所属は基本的にゴリラしかいないので外様かつ軟弱な俺には肩身が狭い。
そういうわけで息子さんも同じように色々と選択肢を持ってほしい。
火炎放射器を渡すとシャッフラー専門になるよう圧力を掛けている風に感じられるかもしれない。
どうしてもシャッフラーを鍛えたいなら話は別なんだが。
「それに燃料タンクが狙われると危ないですもんね」
「アギ系が扱える仲魔を背負って放射すれば……。火炎放射器が関係なくなる不思議」
「不思議ですね」
「無難にお酒の詰め合わせにしとく?」
「良いじゃないですか。本人が嗜むなら絶対に喜ぶでしょうし、悪魔との交渉や報酬にも使えますから持ち腐れにもなりませんよ」
保存しているお酒を流し見ながら提案すれば、ピジョンちゃんも賛成してくれた。
人間にとって高級なお酒は、悪魔にとっても特別な嗜好品らしい。
個体毎に味の好みは異なるが、趣味に合っている物を渡せばとても喜ばれる。
仲魔ならば信頼が深まってより率先して協力してくれるようになるし、交渉ならば大きな譲歩を引き出せるだろう。
「おつまみも抱き合わせしようか」
「そこまで行くとやりすぎな気がしますね。……なのでその鯖明太子はやめましょう」
「貰い物を見てただけだって。食べたい?」
「はい。今日のおゆはんに出してほしいです。他の瓶もどんどん開けて食べましょう」
ヨコスカさんから送られて来た品物の中にある瓶詰めがとても気に入っているピジョンちゃん。
他にも色々と貰い物が多くあるので事務所に泊まりに来る時にどんどん消化されていく。
味の好みもあるが、新しい物や珍しい物に興味を示すようで、贈り物が届いたらこうやって率先して食べようと誘ってくれるので大変助かっている。
たぶん食い意地も張ってる。
残った分はウカノミタマに捧げるから問題ない。
俺も色々と食べるのは好きだがサマナーになる前は朝ごはん等も面倒で抜いていた。
今のほうが人間的な食生活を送れている。
「飽食……」
「楽しく食べたり、隣人を持て成す分には全く問題ありません。そもそもメシア教には食事についての教義はほとんど無いと私は解釈しています。時々文句を言ったり押し付けてくる自称正統派メシアンもいますが、あれだって勝手に拡大解釈しているだけです。明確な記述は無く、大罪として分けている人間の欲が悪い物だと決めつけているに過ぎません。そもそも教義自体が社会的規範や秩序を守る倫理や知識が欠如している時代にわかりやすい形で翻訳されただけの事。同じ考えの人同士で仲良く手を取り合って助け合いましょうと教えているだけです。体調を崩したり、隣人との和を乱すからやってはいけませんと伝えているだけに過ぎないのです。それを世界的な平和がどうこう言い出すとかやめて欲しいですよね。いいですか、サガミさん。メシア教にいたら聖女になったからには清貧の徒としてどうこうって言い出してデザートを出してくれなくなりました。お菓子も無くなりました。本当に許せない。あ、もしかして無から有を生み出す奇跡ってことで教義を捻じ曲げたり追加しているんでしょうか。しょうもないですね。祈って水をワインに変えられるようになって同等のスタートラインに立ってから好き勝手曲解しろって話ですよ」
「急に早口になるじゃん」
「私のお話、わかりました?」
「帰りにデザート買ってこ」
「ダーリン、一生一緒にいましょうね」
「ハニー、急に重くなるじゃん」
「どこのにするー? ここー?」「えー? 可愛いのにしましょうよー」と言い合いながらスマホで検索する。
COMPの便利な所はスマホ機能が付いている事だ。
ヤタガラスが持つ特定のビルでCOMPを注文すると、オマケとして欲しい端末やスマホの機能も付けてくれる。
後から拡張できるので、電霊にお任せしておけば快適なサマナー生活を送ることが出来る。
電波の遅延が殆どなく、ネットや動画も快適、ソシャゲも爆速なので一部の若いサマナーを釣るのに役立っているらしい。
電霊に見られると恥ずかしい人用に私用端末がほぼ捨て値で買えるようになったのも大きいのだろう。
「食べてから帰る?」
「ダメです。私は鯖明太子を熱々の白米に乗せて食べて満足してからデザートに手を出したいのです」
「この後2人のダークサマナーがこの世から去るかもしれないんだけど」
「それはまあ、ちょっとお祈りするので」
「お祈り」
「エコお祈りです」
「エコお祈り」
「ちゃんとエコお祈りをするので鯖明太子を美味しく食べられますね」
「ちゃんとしてるのかぁ」
ピジョンちゃんが立派なサイコパスに育ってしまわれた……。
いや、浮世離れした所もあって最初からこんな感じだった。
もっと話を深く掘ると鯖明太子のほうが美味しいから大事とか言い出すかもしれん。
メシア教じゃなかったら立派なガイアーズになっていたに違いない。
その点、ムカデさんは相手が外道じゃなかったら命をとりあえず奪っても墓を掘ったりする時があるからな。
実はうちの事務所裏に先代のサガミさんの骨が埋まってる。
会ったこともない人の骨を勝手に埋めないでくれ。
やっぱりエコお祈りで済ませてヤタガラスに任せるピジョンちゃんのほうが良いか。
「お、そろそろアルミホイルマンも起きそうだ」
ピジョンちゃんとスマホのゲームをしていると、アルミホイル男が目覚めそうになったので座席を移動する。
すぐ傍にいれば何とかなるだろう。
ちなみにゲームは八百万の神々が作った渾身の一作、ヤタガラスクエストだ。
神々のために素晴らしい土地を用意したと宣う老人たちを高天原に幽閉してから始まるハートフルストーリーで、内容は日本各地で神々がどんな仕事をしているか体験できるミニゲームとなっている。
ちなみにDDS-Netを介して好きな神にお布施できるのだが、中でも遮光器土偶のようなユーモアな見た目と漢らしい耐性からアラハバキが大人気らしい。
このゲームのおかげで地味な仕事も注目され、沖ノ鳥島等の僻地哨戒・防衛が長期間の任務ながら人が集まるのだとか。
神はカッコよかったり可愛かったりするからな。
当然奇形の神もいるけど、波長が合うと人生観が変わると聞く。
「どうします?」
「なんかいい感じだったら連れて行く」
「ダメな感じだったら?」
「横浜に頑張ってもらうよ」
「えー? でもメシア教ですよ?」
「手に負えないよ~、とほほ~」みたいな感じで見送る作戦でいく。
ピジョンちゃんは横浜だとメシア教が出張るから不安視しているが、別に俺だってメシア教を頼るつもりはない。
途中で問題が起きたら行けそうって判断した誰かが対処するだろうし、ヤタガラスが事態を重く見たら組織を消す判断を下す。
俺が何でもかんでも無理する必要はないし、メシア教はもっと頑張ってくれ。
文句を言われたらユガワラの爺さんのせいにしよう。
若者と追いかけっこして満足したらお風呂入って酒呑んで寝るジジイが手を抜いたのが悪い。
「くっ……。眠っていたのか? ここは一体……」
アルミホイル男が目覚めたが、なんか記憶喪失みたいな反応してて面白い。
「今何年ですか!?」とか迫真の様子で聞いてくれないだろうか。
男はきょろきょろと周りを見回して、近くにいるのが俺たちだけで乗客が疎らなことに気付いたようで、安堵したように大きく息を吐いた。
そして落ち着いたかと思うと、次にはスマホを取り出して打ち込み始めた。
そういえばヤタガラスから離反したんだっけ。
COMPを使いまわしてるようなら機を見て『井戸』に引きずり込みたいので、電霊に調べてもらうとまだ変えていないので端末を掌握できるようだ。
電霊が相手の画面等をこちらでも見れるようにしてくれているのだが、何故かDDS-Netの掲示板で質問していた。
困っている時に掲示板に頼るとか正気か。
正気じゃないからアルミホイルを頭に巻いているんだよな、そうだよな。
「すいません。……今何時ですか」
「んんっ」
惜しい。
聞かれたのが年じゃなくて時間だった。
つい笑いそうになって咳払いで誤魔化したつつ時間を答えたが、ピジョンちゃんには変なことを考えていたのがバレたのか半目だった。
時間を教えると安心したように座席にもたれかかった。
ユガワラの爺さんに追われて電車に乗り込んでから十分な時間が経っているからな。
追っ手を撒けたと考えればそりゃあ安心するよな、良かった良かった。
まあ次のステージが始まってるんだけどね。
「この電車って茅ヶ崎にいきますか?」
「ええ、茅ヶ崎駅に着きますよ」
ピジョンちゃんが優しく答えると、僅かに残っていた警戒心すら解いたようでまたスマホを操作し始めた。
彼女は元聖女候補だからか一挙手一投足が相手を穏やかな気持ちにさせたり、初対面の相手に信用されたりするとカリスマっぽい印象操作を持っている。
これで「あの人は今夜死ぬと思います。肝試しで」とか言って放置するからとんでもないぜ。
メシア教だから人を救いたい性があれば俺も出来るだけ協力するのもやぶさかではないが、普通に数量限定スイーツを優先するからなぁ。
俺もそっち優先するから気持ちはめっちゃわかる。
「今年のふるさと納税どこにしよっか」
「人気のある所を見てから決めませんか?」
俺たちが話題にしているのは文字通りのふるさと納税ではなく、ヤタガラスが行っている物だ。
表の職業で払う税金がお得になるのもそうなのだが、オークションでも手に入らないような希少なアイテムが手に入るチャンスでもある。
数量限定で先着順ばかりだが、お得だからととりあえず手に入れて使わない浪費で終わるパターンも少なくない。
実はヤタガラスクエストで気に入った神を推すサマナーも多くいるし、俺もミサキ様に返礼品を貰っている。
「あの、すいません。横浜までってどうやって行くんでしょうか」
アルミホイル男の言葉に、俺とピジョンちゃんは顔を見合わせて頷いた。
横浜に用があるから一緒に行きましょうと誘う。
俺もピジョンちゃんも笑顔だし、アルミホイル男も笑顔だった。
真の平和な世界はここにあったんだ……!
とぅるーぴんふーわーるどからアルミホイル男のCOMPを密かに乗っ取った電霊がDMを送る。
DDS-Net掲示板は特定のユーザーに対してDMの許可が出せるが、この時にセキュリティ関連は自己責任となる。
馬鹿なダークサマナーは1人だけだったが、まあいいか。
そこから本人の端末を介して感染するからな。
「実は相模線から行ったほうが早いんですよ。地元の人だけが知っている裏道ですけど。ね?」
「そうそう。こっちのほうが空いてるし」
駅構内をふらふらとした足取りでアルミホイル男が付いてくる。
全く言葉巧みじゃなく誘導しているのだが、何故か上手くいっている。
たぶん思考能力を落として洗脳し易くしているのだろう。
そういう小手先に頼ってしまうとピジョンちゃんの口先で一発だ。
他の組織だって幹部ともなれば同じことが可能なのだから相手側のガバセキュリティのせいでしかない。
アルミホイル男も可哀そうな被害者なんだ。
それはそれとして楽に事が運んでてめっちゃ嬉しい。
「本数が少ない代わりに座席は結構空いてるのが嬉しい」
「通勤や通学の時間は混みますからね。……座らないのですか?」
「いや、大丈夫なので」
乗り換え前の車両同様、俺たち以外に乗り込む人はほとんどいない。
扉の前に陣取ったアルミホイル男はそう言うと、俺とピジョンちゃんが座席に座るのを眺めていた。
逃げやすいようにと座らないのだろうが、車両から降ろしやすくて助かる。
ヤタガラスの電霊はアルミホイル男を泳がせるためにネット接続等を行っていたのだが、完全にこちらの電霊が掌握した。
ここら一帯はウカノミタマが最も力を発揮できるホームなので、『井戸』に落とすのに失敗しても全く問題ない。
DMしたダークサマナーも同時に『井戸』に落ちるが、そもそも落ちても落ちなくてもムカデさんを放ったから詰んでると思う。
これに生き残ったらそれほどの組織だとヤタガラスに判断されてライドウが投入されるから可哀そうだ。
リアルタイムで仔細の記録が贈られているからどう足掻いてもな。
「あの、乗り換えした方がいいんじゃないかって友達が。あとスマホに詳しいですか。なんか画面が変わらなくなって。森というか……。あ、井戸なのか。井戸……何かがいる……?」
「あー、乗り換えか。そうだね。じゃあ乗り換えようか」
ちょうど駅に着いたので、ピジョンちゃんが扉の開閉ボタンを押してくれる。
ぼんやりとした様子のアルミホイル男を軽く押し出せば、倒れ込むように扉をくぐって、その姿は『井戸』へと落ちた。
「俺たちも行こうか」
「井戸はあんまり好きじゃないんですよね。ヤタガラスって趣味が悪くないですか?」
「メシア教の美的感覚だと合わない?」
「メシア教というか人間の美的感覚に合ってないと思いますけど。サガミさんは好きなんですか?」
「別に俺も行きたいわけじゃないから。ぬいぐるみでも敷き詰めたファンシー空間にしてくれって陳情する?」
「無機質なぬいぐるみに囲まれて呪殺されるのってどうですか」
「控えめに言っても新しいホラースポットかな」
そう言いながら扉を抜けると、寂しい森の中にぽつんと井戸がある空間に繋がっている。
アルミホイル男は何が起きたのかわかっていないようで、不安そうに辺りを見回しているが井戸には決して近寄らない。
勘が良いのか生存本能が鋭くなっているのか、俺の方にも近寄って来ない。
ここはヤタガラスが持つ異界の一つ、映像機器を介して呪う怪異の特性とターミナルの技術を転用して繋がる『井戸』。
トリガーとなるのは映像の再生。
ヤタガラスに所属していたサマナーが裏切れば問答無用で引きずり込まれるし、DM等で繋がった相手もまた同様の結果となる。
ちゃんとヤタガラスで活動していたら『井戸』について教えられるし、対策されるからそうそう引っかかってくれないのだが今日は順調だ。
「こっちがアルミホイル男、あっちのほうでムカデさんに襲われているのがDMしたダークサマナー。……なんか一人余計なのがいる。誰だよ」
「……誰でしょうね」
「誰なのぉ……。怖いよぉ……」
アルミホイル男も知らないらしいし、過剰にビビっている。
たった今迷い込んできましたって感じの男子高校生がいた。
近くの高校の制服を着ている。
アルミホイル男と同じように不安なのだろう、覚束ない足取りで周囲を窺っている。
それでも井戸に近づかないので愚かではないのだろう。
エコ神託がズレて割り込まれたようだが、エコだから仕方ない。
割り込まれた可能性としては滅茶苦茶運がいいか悪い、未来予知ができるほどの演算可能な電霊持ち、本人の異能。
さて、どれでしょう。
「なにこれ、生首……?」
高校生はそう呟くと腰を抜かしたのか地面にへたり込んだ。
たぶんムカデさんがダークサマナーの頭を刎ね飛ばした残りだと思う。
でも生首程度でビビるから素人だろう。
アナライズ結果を見ても大したことはない。
結構離れた場所では失った頭蓋の代わりに這い出した虫とムカデさんが戦っているようだ。
いつもの肝試しかな、可哀そうに。
君もきっと今日までの命だね。
ピジョンちゃんの神託に割り込める存在が生きててもらっても俺たちにとっては不都合だから。
「呪殺には耐えられないだろう。……ん? うわぁ」
「どうかしましたか」
「あっちの高校生、COMP持っててね」
「持っててもおかしくはないでしょう」
「ラプラスの分霊持ちだよ」
「道理で」
ラプラスとはDDS-Netを管理する電霊の一種だ。
連中は外部の情報収集等のために分霊として自身の子機を幾つかばら撒いている。
俺が持っている電霊も同様の存在だが、神奈川県全域を貢いでいると言っても過言では無いので俺の電霊のほうが強い。
ただし、とてもムカつくことだがラプラスとは得意分野が違うから一概に絶対勝っているとは言えない。
物好きな事に、類まれなる演算によってピジョンちゃんの神託に割り込んでこの異界にお邪魔してきたらしい。
俺の電霊には出来ないことだが、ピジョンちゃんが神託出来るので持っていても意味ない。
つまり俺の電霊の勝ち。
「それにしてもラプラスの演算は馬鹿にできないな。ここに素人同然のサマナーを送り込むとは」
「エコ神託じゃなければ私とサガミさんが勝ってました」
「そうだな。……いや、今回は勝たせてやるか」
「でも私のサガミさんが勝ちますよ?」
「ピジョンちゃんは凄いからなぁ」
「でしょう。私がこんなに凄いのにサガミさんはもっと凄いですからね。また勝ってしまいました」
頭を撫でれば、ピジョンちゃんは満足気に無い胸を張った。
死んでほしくてここに送り込んだのか、今後のためを思ってここに来たのかはわからない。
だが、ラプラスが優秀なのは確かな事実だ。
生きていて欲しくないが、ラプラスのおかげでしぶとく生き残るかもしれない。
転がり込んできた全く惜しくない死んでほしいくらいの人材だ。
奇貨として使えるかもしれない。
……使えるか?
「踏み絵でもさせてみよう」
「踏み絵、ですか」
「呪い返しのために命懸けのゴミ捨てをしてもらう。あ、玉入れになるかも」
「……多分、死んじゃうと思います」
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれってことでね。死ぬくらいしてくれないと。玉ってもしかして魂ってことか?」
「私は死んだことないからわからないんですけど、やっぱり痛いんですかね」
「俺も無いけど痛いんじゃないかな。腕取れた時とかマジでやばかったし」
一部が出てきていた魔王から逃げて、突発的に生じた聖戦を潜り抜けるよりはマシなんじゃないか。
井戸を見て、生首を見て、アルミホイル男を見る。
そして腰が抜けて震える高校生と目が合ったのでにっこり笑う。
あ、今は狐面してるから表情がわからんか。
あらかじめ用意しておいたタンクを四つ背負って中に精霊を宿し、ガトリング砲を持つ。
敵が硬かったら両手でそれぞれ持つことになるが、流石に今日は片手で済むだろう。
「私が説明してきますよ。安らかな死を迎えられるように」
「死ぬ前提なんだ」
「今はメシア教の事を忘れて素直になっていいですか」
「え、何。いいけど。重い話?」
「私の神託を無視する人は滅んで欲しいんですよね。神託を外して予想しなかった事件に巻き込まれても困りますから」
「わかる。その気持ち、超わかるよ」
未来予知の能力を持っていたとして、知らない誰かが予知をズラす可能性があるとする。
俺ならどうするか。
簡単な話だった。
絶対に殺すね。
「怖いもんな。いや、気持ち悪いのかな」
そう言って俺はガトリング砲をアルミホイル男に向けた。
怯えているし、竦んでいるようだった。
ヤタガラスに居たらこんなことしないで済んだ……いや、先代のヤマキタがピジョンちゃんを馬鹿にしたからな。
なんかの拍子に弟子諸共撃ってたな、こりゃあ。
ちょっと早くなっただけだ。
そう考えるとタイパが良いんじゃないかな。
携行武器が出す事の出来ないバカみたいな回転と音をまき散らして、ガトリング砲から弾が発射された。
銃、火、熱、水、氷、雷、念、衝、風、地、重、呪殺、破魔の混合弾で試し撃ちついでにアナライズしておく。
上手く混ぜると疑似的な万能弾になるが疲れるからなぁ。
「あちゃー、耐性無し……。そうなるよな」
「あちゃーです。割れちゃいましたね」
『井戸』に落ちたのが許容できる限界を超えていたのだろう。
弾丸の雨に貫かれながら、アルミホイル男は自身の頭を引き千切ってポイ捨てした。
もう人間だった彼はいない。
目を逸らし続け殻で抑え込んだ影だけが、彼が存在した証となった。
「羽化直後が一番柔らかい。……と良いな」
「本音が最後に漏れましたね。じゃあ私は安らかな死を迎えてくれるように説明してきます」
「せめて踏み絵させてあげて」
ちょっと嫌そうだったが、最終的には了承させた。
とことことピジョンちゃんが移動する。
うーん、それにしても結構硬いな。
本人にペルソナの才能がかなりあったのか、それとも初手のガトリングのせいなのか、優秀な耐性を獲得されてしまった。
面倒だな。
疲れるけど疑似万能弾に統合するか、神経弾に切り替えるか。
あ、そうだ。
ムカデさんたちを呼んでここで大乱闘させてみるか。
ジョン・ウィック4
楽しかった。こてこてのハリウッドJapanをもっと見せてくれ。落ち着かない配色の地下鉄は最高だぜ。
デスザウラー
ZAC2044年の中央大陸戦争時に、ゼネバス帝国が国力の全てを傾けて開発し、多くの帝国ゾイドを創り上げてきたドン・ホバート博士によって生み出された最強無敵の恐竜型超巨大ゾイド。ヘリック共和国側から「死を呼ぶ恐竜」と恐れられ、誕生時には両軍軍事バランスを、一気に帝国側優勢に傾けた程の圧倒的戦闘力を誇った。
当時のいかなるゾイドの火砲や攻撃も弾き返す超重装甲を持ち、全身に装備した重火器で粉砕する。また、巨体ながらセイバータイガーやライガーゼロシュナイダー等の高速ゾイドを捉えるほどの機敏さを併せ持つ。格闘戦では、ゴジュラス級ゾイドを一撃で倒す加重力衝撃テイルと、両腕の電磁爪ハイパーキラークローであらゆる敵ゾイドを紙切れのように引き裂く。
最大の武器は口腔内に装備された大口径荷電粒子砲で、背部オーロラインテークファン(荷電粒子強制吸入ファン)から空気中の静電気を強制的に大量に取り込み、体内でエネルギー変換し首にあるシンクロトロンジェネレーターで光速まで加速させ粒子ビーム砲として発射。他の荷電粒子砲搭載機とは桁違いのエネルギー量を誇り、対象物を原子レベルで分解する威力は直撃すれば巨大ゾイドを一撃で蒸発させ、中・小型ゾイドを部隊ごと全滅させる程。ただし、エネルギー消費量が激しく連射は不可能。
エネルギー源である背部吸入ファン部が弱点で、ここを破壊されると荷電粒子砲が使用できず、その他の性能もダウンするため、周辺部に各種ビーム砲4門と16連装ミサイルランチャーを装備して防衛。超重装甲で覆われていない口腔内と装甲間接の隙間も一応のウィークポイントになっている。
多くの超巨大ゾイドと同様に、惑星Zi大異変によって絶滅状態となってしまうが、新シリーズではガイロス帝国が古代文明の遺産オーガノイドシステム(OS)を用いての復活計画を進め、第二次大陸間戦争終盤において完全復活を果たし、特に荷電粒子砲は旧大戦より劇的なパワーアップを遂げたが、フルパワー連続照射は20秒が限界で、吸入ファンの焼き付きでオーバーヒートを起こし、以降使用不能となる両刃の剣となった。
スピリット・オブ・ファイア
またスピリット・オブ・ファイアかよという意見を見かけたので存在を思い出した。期待に応えてあげようか迷っている。作者は出す気が無かったけど、わざわざ言葉にされたら存在を思い出して出したくなる。作者は出す気が無かったから作品や作者は嫌わず、スピリット・オブ・ファイアというワードを出した人を嫌ってあげてください。
サガミさん
ピジョンちゃんは胸が貧しいな。清貧ってやつか。とか考えている。
それはそれとして他人がピジョンちゃんを馬鹿にしたらキレた。
DDS-Netを管理している電霊の一種がばら撒いた分霊を持っている。貢ぎすぎて分霊内で一番格が高い。
ピジョンちゃん
食べるのが好きで清貧は嫌いだし、可愛いは作れるから着飾ってくれってタイプ。
巧みに人を操るカリスマ、未来予知、自身の能力を妨げる者の死を願う気質。
おまえはガイアの王になれ。
ムカデさん
戦うのは嫌いじゃないけど、簡単に死なない虫って面倒だなって思い始めている。
サガミの電霊
その名を「アウェアネス・フローモデル」。
DDS-Netを管理する電霊の一種『アウェアネス』の分霊。ハーモナイザー等の管理を司っている。
ホームでハッキングを仕掛けるとCOMPに向けて超電磁結界してくるので神奈川県内だと勝てる電霊は存在しない。頑張ってごめんなさいしたほうが賢い。
ウカノミタマ
こっくりさんの知名度が高いから育てたら最強になる、いや、なれという謎の理論によって育成された悪魔。COMPでは無く管に入っている。元は狐の低級霊だった。稲荷神社や放棄された神社、疱瘡神社等、ヤタガラスの許可を取ったサマナーと一緒に神奈川中を巡らされた。管理を電霊に放り投げているが、円滑に活用されている。相模線周りを縄張りとして意識しているのでいい感じにバフが乗る。
ヤマキタ
喧嘩自慢だったが弟子に裏切られて死んだ。
ピジョンちゃんをチビやらちんちくりんやらガキやらと呼んだのでサガミは近寄らなくなった。
アルミホイル男
運が良かったと言われてきたが、それは違う。実力だ!
認めてくれた人のため、そして愛のため、彼は戦う志士となったのだ。
次回「アルミホイル男、死す」
DMされたダークサマナー
頭が取られて中から虫が出てきた人。
百歳を超えても元気な老人。
かつては理想に燃え、そして老いない女に恋をして、仙人となるべく修行を積んだ。
無理やり延ばした命は心を腐らせ、男を邪法へと歩ませた。
概念を宿した虫を食べた、己の内に住まう虫すらも歪ませた。
それは異なる自身を捻じ曲げる術とは違う理への道。
不死となった男の思いはいずこへ向かうのか。
次回「ムカデさんが飽きたので死す」
高校生
J( 'ー`)し「としき、カーチャンだよ。死になさい」
ラプラスの悪魔
J( 'ー`)し「としき、ラプラスだよ。死になさい」
オリーブの枝
メシア教が有難がっているCOMP。一回ヤタガラスに提出されているのでリバースエンジニアリングされた。お礼の品として贈られたスイーツに喜んで味を占めたピジョンちゃんがもう一回貸し出そうか画策中。メシア教過激派はそんなことを知らず、世界崩壊後に他の鳩を放って回収すれば勝ちだと思っている。特にそんなことはない。
ガイア教
特に何もやってないけど事件が起きたっぽい。はいはいガイア教のせいガイア教のせい。百足も暴れているから仕方ないね。ヤタガラスもおこだよ。横浜のメシア教もおこだよ。
メシア教
神奈川県に貧しい胸を送るとは一体何を考えているのやら。貧しい胸が拾ったんだか、貧しい胸が拾われたんだかわからないが拾得者は満足してるからいいんじゃないか。それはそれとして貧しい胸だな。
魔界に落ちた横浜の高校
▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂ うわあああああぁぁ