わかっていたことだが、やっぱりヤタガラスに呼び出された。
ヤタガラスとは……なんだっけ。
詳細は忘れたが、サマナーとか悪魔とかが関わる社会の裏を取り締まる組織的なやつだったはず。
wikiとかに載ってないからちゃんと覚えてないわ。
悪い事したらヤタガラスから指名手配されるし、更に悪い事をしたら葛葉って所から超強い人がやってくる。
俺も間近で見た事あるけど超やばかった。
ありゃマジで超やばいよ。
どうでもいいけどアメリカにヤタガラスを説明する時、ヤタレイブンって呼ぶんかな。
いや組織名だからヤタガラスのまんまか。
というわけでピジョンちゃんと一緒に電車を乗り継いで横浜に到着。
所要時間は一時間くらい。
なお電車の待ち時間がちょこちょこあった模様。
県外のサマナーがこっちに来るときは直通電車とかが出来て楽になったとかどうとか。
悪魔関連のメインは当然のように東京だからわざわざ神奈川くんだりまで外部の人が来ることも無いので意味があるんだかないんだわからんけど。
一般の人にはちょうどいいのかも。
指示された雑居ビルの狭いエントランスホールで声が掛かるのを待つ。
ヤタガラス直下の神社に呼び出されることもあるが、交通の便とか考えてこういう雑居ビルで会議とかするのが主流になりつつある。
今日はヤタガラス案件なのでピジョンちゃんもローブのような物を頭まで被って顔が見えないようにしている。
なるべく声も聞かれないようにしているので、耳打ちするようにぽしょぽしょ話しかけてくるのでくすぐったい。
俺も同じように囁くことでやり返せばピジョンちゃんはくすぐったそうに小さく笑い声をあげた。
「今日も仲良さそうじゃんご両人」
「スカさん、こんちは」
「ヨコスカさんな」
横須賀を本拠に持つサマナーに声を掛けられたので挨拶する。
特技は筋肉ですとでも言いたいのか、スキンヘッドで筋肉ゴリラみたいな見た目の人だ。
年は30くらいだったか。
これで魔法も使って悪魔も使役して近接でショットガンまでぶっ放してくるのだから敵対したらたまったもんじゃない。
ちなみにピジョンちゃんはササっと俺の背中に隠れた。
「最近はどうよ? 儲かってるか?」
「スズメバチ駆除で3万くらいですかね」
「えぇ……。もしかして仕事に困ってんのか? うち来るか?」
「いや、だいじょーぶ。ついでにやった害獣駆除で火炎反射の装備を手に入れたんで」
「ぼろ儲けじゃねえか。フリーの旨味ってやつだな。羨ましいぜ」
「基本的に固定だから分け前で揉めたり交渉無しなのはお得だけどちょっと忙しいのが欠点だと思う」
属性に有利なアクセサリーなどの装備は高額だ。
DDS-Netというサマナー用のネットワークがあるのだが、そこのオークションで競り落とそうとすれば更にお金が必要になる。
無効なら更に必要だし、反射や吸収なら最早札束で殴るどころの話じゃない。
しかもこれは無理やり金銭的な価値を付けてるだけだから青天井の可能性もあるという事実。
そもそも反射吸収はほとんど流通してないから仕方ない。
貨幣経済って怖いね。
今回手に入った火炎反射の装備はピジョンちゃんが持っているし、今後も良い装備が手に入ったら真っ先に更新していく。
俺よりも属性系統の防御は優秀だけど、彼女本体がめちゃくちゃ打たれ弱いから……。
「耐性アクセサリーが余ったから買わない?」
「足元見ていいか?」
「全然いいよ。どうせオークションに流さないし」
「悪いな。ヤタガラスもそんなに余裕がないから助かるぜ。余った消耗品とか送るからよ」
DDS-Net、掲示板やオークション等はあるのに匿名機能が無い。
登録したアカウント名でやり取りしないといけない。
仕事を請けるのに名前が売れて無いといけないが、オークションとかで貴重品を出したりすると直接襲われたりする。
特に俺のように地名とかが直結していると特定されやすいので襲撃率がアップする。
フリーのサマナーが耐性装備なんて複数売りに出したりしたら大変なことになるし、吸収や反射の装備があるなんて知られたら昼間から崩壊デイブレイクまっしぐら。
たぶんロケットランチャーが撃ち込まれる。
治安が悪すぎる。
本当に日本の話なのか。
高額の商品を競り落としても同様。
治安が悪すぎる。
実は神奈川ってヨハネスブルクなんじゃないか。
このヨコスカさんはヤタガラスひも付きなので俺の名前を出すことも無いし、横須賀とかいう闇のバトルドームを守ってると思うとこれでも安いくらいだ。
横須賀の治安が崩壊したらこっちにも飛び火するので頑張ってもらいたい。
「あと呪物も手に入ったんだけどいる? ゾンビ召喚用の儀式品なんだけど」
「要らんな」
「ヤタガラスに寄贈とかどう? 実は喜ばれたりしない?」
「武器や防具、装飾品なら喜ばれるがゾンビ化の呪物は嫌がられるだけだろうな」
「それなら目の前で処分かな」
『ヨコスカ殿、6階へお越しください。サガミ殿、7階へお越しください』というアナウンスが流れたのでエレベーターで途中まで一緒に移動する。
呪物はメシア教に送ってもマイナスの方向でしか使わないとピジョンちゃんに囁かれたので大人しく処分することに決めた。
ガイア教は論外なんで。
「そういえばそろそろ横浜は落ち着いた?」
「落ち着いたと言えば落ち着いたんだが……」
「歯切れ悪いね」
「メシアが主導を取ったはいいが、対抗してた連中が潜伏しちまったんだよ」
「現代のゲリラかな」
一昨年くらいに大きめの小競り合いが起きた結果、戦力的に優位となったメシア教が実質支配した。
したのだが、諦めきれなかったガイア教やダークサマナーが日夜悪事に励んでいるらしい。
そんなこと励むんじゃないよ。
「それで大事になりそうな感じだったり?」
「しそうだからこっちは横須賀から駆け付けてんだわ」
「うわぁ」
「……ライドウが来るかもしれないから連絡は多めにしてこうぜ」
救いなのはメシア教の代表が穏健派ってことだろう。
むしろ穏健派だから徹底しきれなくて禍根を残して荒れててライドウが投入される事態になるかもって?
耳が痛い、半分は当たっているかもしれない。
6階でエレベーターが止まったのでヨコスカさんが降りていき、それほど間を置かずに7階で止まる。
巫女さんに奥の部屋へと先導される。
案内してくれる巫女さん、実は神社だろうと別のビルだろうと同じ顔なんだよ。
式神じゃないかと俺は思っているが実際はどうなんだろう。
「失礼します」と一声かけてから入室する。
ちなみにノックすると場合によっては室内から魔法が飛んでくるので注意。
「ミサキ様、どうもご無沙汰しております」
挨拶をしてピジョンちゃんと一緒に頭を下げる。
部屋に浮かんでいる猿を模したお面であるミサキ様の口がカタカタと動き出す。
直接脳内に……!
というわけで俺とピジョンちゃんのこれまでの働きのおかげで特に審問とかもなく、スズメバチ駆除の際に捕まえた男はしょっ引かれることとなった。
呪物も処分していいと言われたので、この場でフレイミーズを召喚して燃やす。
こういう儀式アイテムは歴史的にも古く、マグネタイトを結構溜め込んでたりするので経験値としては美味しい。
歴史的価値があるから残しておいたほうがいいとか主張する連中もいるけど場合によると思う。
ゾンビを増やす呪物なんて保管しなくていい派閥に俺は属させてもらうぜ。
沢山破壊すれば概念の上書きとかが起きて悪魔が強くなることもあったりなかったり。
ミサキ様がカタカタするので頷く。
「ええ、ええ。はい、勿論です。重々承知しております」
ミサキ様のお言葉によると今回の事件は一昨年の騒動が原因となっているようだ。
起きた争いで組織の興亡が左右され、負けて押し出された連中が半端な田舎に押し寄せる形となり、俺の周囲にも影響しているとのことだ。
俺としては今年はちょっと事件が多いかなってくらいなので特に問題はないが、他の地域では影響が目立ち始めた。
ヤタガラス内部で解決を目指すが、事件が致命的になりそうなら俺みたいなフリーのサマナーにも招集を掛かかるだろう。
又、死人の連続召喚の狙いは儀式の容易さに目を付けたためで、男が所属していた組織は既に龍脈へのアプローチも試みているようだった。
最後に男の装備品等は火炎反射用を除いて寄贈した。
俺の所持品と比べて効力が劣化品ばかりだし、オークションで注目を集めるよりはヤタガラスの心証を良くした方が得だろう。
外国の組織であるメシア教に所属してるピジョンちゃんと組んでいるので、敵意が無い証明というのはどれだけやろうともやり過ぎることはない。
掲示板でフレイミーズ召喚時のアナライズを晒されたからより一層周囲に気を配る必要があると実感した。
それはそれとして、なんでみんな火炎対策しかしてないんですか(現場猫)
収集品が偏るから困る。
俺のメインは物理なんだよね。
そして特に貴重なのも物理系なんだよね。
どうにかして物理系持ってきてくれないか。
出来れば銃弾を無効にするやつとか。
もういっそ自分から他の精霊を召喚したアナライズを晒してアクセサリー狩りでもするか?
アホなことを考えていると、ミサキ様がカタカタと語り掛けられた。
「いえ、とんでもございません! ありがとうございます!」
有難い。
今回はヤタガラスから見ても十分な成果だったらしい。
言葉通り恭しく手を差し出せば、魔力の結晶が乗せられた。
これは幾つか取り込むことでレベルを上げることができる消耗品であり、もちろんめちゃくちゃ貴重な物。
俺のレベルになるとちょうどいい異界も無くなり、同じレベル同士で殺し合わないといけなくなる。
争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない! という言葉もあるが、やってることが頭イカレダークサマナーと同じになりたくないよ俺は。
日本に根を張ってる霊的国防組織から情報を聞けるだけに留まらず、定期的にこれを貰えるんだからヤタガラスに協力し続ける価値があるってもんよ。
メシアは渋いからな。
捧げる代わりにその信心深さを認めるとか言いそう。
ガイアは倫理観ダークサマナーだからな。
強請るな、奪えって言いそう。
今後も励むようにとのお言葉とともに退室を許可された。
ピジョンちゃんと一緒に頭を下げてから部屋を出れば、そこは1階のエントランスだった。
行きは防犯の都合上エレベーター利用だが、帰りはミサキ様による転移で入口まで送ってくれる。
異界の主の特権だろう。
「いやあ、今回はまた随分と良い物を貰っちゃったねぇ、ピジョンちゃん」
ピジョンちゃんも同意見のようでこくこくと頷いた。
一昨年に物反鏡と魔反鏡という過去一いいものを貰ったが、あれはもう経験したくない。
街中でロケットランチャーぶっ放すのはやめろ。
やめろ。
ちなみにピジョンちゃんに使うか提案すると、ぽしょぽしょと耳打ちされて毎回のように断られる。
俺のレベルを上げて自力を高めたほうが優位に運ぶことが多いらしい。
確かにピジョンちゃんのレベルを上げても対処できる事態は少ないからな。
運動音痴でどんくさいし。
それはそれとしてぽしょぽしょと囁やかれたいので提案した。
サガミさん
主人公。レベル16。
腕を吹っ飛ばされてめちゃくちゃ痛かったからロケットランチャーが嫌い。
ピジョンちゃん
未来予知はまともに使えない様だったのでセカンドプランとしてピジョン計画のために世に解き放ったらそのまま帰って来なくなった頭ピジョンの元聖女候補。レベル8。
流石にヤタガラスの施設に入る際には人見知りなわけでなく緊張するし警戒もする。決して人見知りなわけではない。
ヨコスカさん
ヤタガラスひも付きのサマナー。
筋肉ゴリラ型魔法使い。敵対時に接近するとショットガンをぶっ放してくる。
ミサキ様
猿を模したお面の姿をしている。他にもいろいろな動物を模したお面の姿があるがそれぞれ別の個体だと思われる。
猿を模したお面の姿に馴染み深いサマナーはまさるさんと呼ぶのだとか。