実験室のフラスコ(2L)   作:にえる

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女神転生(地方しらべ)

 

 高校からの帰り道だったんだけどね。

 ちょっと遊んでたら遅くなったのがいけなかったのかもしれない。

 そいつは身長が小学生の高学年くらいで、猫背気味で腹が不気味に膨れていた。

 不気味に赤だか黄色だかに光る眼で俺を見つけると、てらてらと輝く涎を垂らした口を大きく開けて何事か叫んでいた。

 あんまりにもキモすぎて走って逃げたね。

 そしたらそいつも俺を追いかけて走ってきてな。

 心底ビビったね、あれには。

 思ったよりも脚は速くなかったから少しは考える余裕も出来て、俺はエイリアンが地球に攻めてきたのかと考えたね。

 だって短い手足、口からは大量の涎、気持ち悪い見た目。

 こりゃもうエイリアンにしか見えないだろう?

 そんなわけでばたばた走って逃げたらちょうど踏切が閉じそうになってな。

 遮断機を潜り抜けて渡ったら、遅れてエイリアンも踏切に入り込んで、そのまま電車に轢かれちまったんだ。

 醜く膨れた腹から半分が電車に持ってかれてな。

 あんまりにも綺麗に無くなったから俺は一瞬ギャグかと思ったくらいだ。

 流石にエイリアンじゃないことはそこら辺で理解したんだが、そいつは残った上半身で這いずってきたんだよ。

 とんでもない執念だ、こいつはただ者じゃないなってことにも気づいてな。

 

 それで俺は思い至ったね。

 こいつはテケテケなんだって。

 だからといってどうしたらいいのかもわからなくてな。

 這いずってるテケテケから距離を取りながら逃げてると、段々遅くなってな。

 ははーん、血液が足りなくなってるんだなって俺の聡明な頭脳は答えを出した。

 じゃあそのうち消えてなくなるなってなんだか余裕が出てきたところで「はま」って声が聞こえたわけよ。

 そうしたらテケテケが光に包まれたと思ったらいなくなっていて俺は助かったってワケ。

 じゃあその「はま」とやらで助けてくれたのは誰かって話だけど、空からぼんやりと輝いてて頭に輪っかがあって羽根の生えてる少女が助けてくれたらしい。

 俺のことを「ひとのこよ」とか呼んできて、なんか後ろを付いてきてな。

 偉大な相手は輝いて見えるのかもしれん。

 神秘的なほどに完成された容姿と、猫みたいな目をしているのが外見的特徴だろうか。

 

「なんかそういうわけなんですよね」

 

「なるほど、神託通りです」

 

 帰り道にメシア教の教会の前を通ったら声をかけてきたシスターに招かれたのでお茶を頂きながら事の経緯を説明した。

 ちょっと落ち着いておきたかったのもある。

 羽根が生えてる少女も俺の隣でお茶を飲んでた。

 シスターは訳知り顔で頷いた。

 銀髪で胸の平らな幼いシスターしか教会内で見てないのだが、他に人はいないのだろうか。

 あのエイリアン兼テケテケは悪魔だったり、羽根の生えた少女は天使だったり、COMPとやらを貰ったりして。

 

 そこから悪魔を使役するデビルサマナーとして色々覚えたりしたのが三年くらい前のことだったりする。

 

 

 

 

 

「今日はスズメバチの駆除をしてもらいます」

 

「デビルサマナーにスズメバチの駆除を!?」

 

「もちろん神託です」

 

「ピジョンちゃん! 神託って言っとけば俺が何でもやると思ってない?」

 

「思ってます」

 

「少しは否定しようぜ?」

 

 メシア教のシスターであるピジョンちゃんのご機嫌を窺いに行くと唐突にスズメバチ駆除を依頼された。

 俺のレベルは15、戦力過多も良い所だ。

 やったことは無いけどヤクザ事務所に乗り込んでも余裕で壊滅させることができるらしい。

 そもそもヤクザがいないんだけども。

 そんなわけで二人でスズメバチ駆除の現場に向かうために電車に乗る。

 ちなみに単線だし、雨風に微妙に弱くて遅延するし、電車の扉はスイッチを押さないと開かない田舎の路線だ。

 

「俺、横浜まで行けば日給で数百万とか出るぜ?」

 

「じゃあ横浜いけばいいじゃないですか」

 

「都会は怖い……」

 

 都会のデビルサマナー(ダークサマナーとかいう連中含め)は当たり前のように銃を人間にぶっ放す気狂いばっかりだった。

 ドラマとかに出てくるような拳銃なんて可愛い物で、戦争映画でしか見たことないようなアサルトライフルとかショットガンとか持ち出してるやつもいる。

 異界化してるからって街中でロケットランチャーぶっ放したやつは流石に正気を疑った。

 なお他の連中の正気を疑ってないわけじゃない。

 そして銃をぶっ放さないやつは刀とか槍を振り回す。

 職質されてほしいが警察にどうにか出来るような連中でもなく、ここら辺でそういうやつが見つかったら俺が駆り出されることになる。

 なお手ぶらなやつはもっと危ない。

 一般人が消し炭になるような魔法を躊躇いなくぶっ放してくる。

 悪魔も陰湿で、行方不明者とか出てると思ったら食われたり乗っ取ったりしてる。

 サツバツ!

 

「マジで都会はやばいよ。ピジョンちゃん知ってる? メシア教とガイア教が争っててさ。いや、俺からしたらガイア教ってお寺さんだべって気分だったんだけど。そしたら力こそパワー! みたいなノリで襲い掛かってきてマジでビビった」

 

 俺は全然知らなかったのだが、土着の宗教が連合組んでガイア教を名乗ってた。

 武闘派の寺とか武闘派の神社とか武闘派のちっちゃい新興宗教団体とか。

 一神教のメシア教に対抗するために連合を組むが、弱肉強食みたいな思想のせいで内ゲバってもいるらしい。

 そもそも現代日本で宗教戦争しないでくれないか?

 こっちはクリスマスにケーキ食べて大晦日に神社行ってパワースポット巡りで寺行ってバレンタインチョコを交換してハロウィンで仮装して遊ぶ人種だぞ?

 筋違いじゃないか?

 

「都会だとどうしても派手になりますからね」

 

「派手で済ませちゃうの? マジ? 倫理観デビルサマナーかよ」

 

「過激派だと街とか国を滅ぼそうとしますからね。下手すると毎月世界の危機ですよ」

 

「倫理観ダークサマナーかよ」

 

 頭メシアンだと40日くらい雨を降らせて地上を洗い流したり、とんでもない危機を引き起こして救世主を誕生させるために頑張ってたりする。

 それで頭ガイアだと地震で文明を破壊して弱肉強食の原始を作ったり、国引きさせて大陸に接岸させて最強決定戦をやろうと頑張ってたりする。

 日本でやらないでくれないか?

 実は日本以外でもやってるらしい。

 もう勝手に戦えって気持ちになってきた。

 

「ここが半端な田舎で良かったですね。都会に近いと返り咲こうとして頑張る人員が出てきますし、ド田舎だったら情報が伝わらなくて気づいたら世界崩壊でしたよ」

 

「発見されにくいからって変な儀式をしに来る連中もいるんだけど」

 

「私の神託を元にサガミさんが撃退してるから大丈夫です。もはや相模線の守護神ですね」

 

「ちょっとダサい……!」

 

 デビルサマナーはあんまり本名で活動するのは良くないらしい。

 呪詛とか食らうから。

 組織に紐づきになっていないフリーのサマナーの中でも地名諸々を名乗ることもあると聞き、じゃあ普段利用している路線名でいいかって気軽に名乗ったわけだ。

 若者が働き口を求めて都会に行くように、ここら辺で力に目覚めた人たちも都会に出て行ってしまった。

 そういうしょうもない理由で結局ここら一帯では俺が代表格みたいな扱いになってしまった。

 レベル15といえば都会なら大きい組織でも有数の戦力だったり幹部候補だったりする。

 そういう武闘派連中と比べると装備があまりにもしょぼいので戦力としては大きく劣るが田舎サマナーなんてそんなもの。

 全然人が降りない駅でピジョンちゃんと一緒に降りる。

 駆け出しの頃は学ラン着た俺と修道服を着たピジョンちゃん、場合によってはお寺さんの袈裟を着た尼さんがセットで物珍しかったのか車内でも道端を歩いててもざわつかれていた。

 今や俺はスーツ姿だがピジョンちゃんは変わらず修道服なのだが、日常の風景に溶け込んだのか誰も気にしなくなっていた。

 無関心だよ現代人。

 スマホの方が大事なのかもね。

 

「マハラギ」

 

 ピジョンちゃんに先導されて目的地に到着。

 すぐに俺の手から放たれた小さな火種が羽音を立てていた虫を巣ごと燃やし尽くす。

 隠語でもなんでもなく、単なるスズメバチ駆除だった。

 ちなみに俺は別に魔法が使えるわけじゃない。

 仲魔のフレイミーズ、炎の精霊を拳に込めて魔法を使わせただけだ。

 理由?

 手が燃えるってかっこよくないか?

 あとは指示しやすいというか、俺の意図が伝わりやすいためだ。

 四大元素の精霊だからかフレイミーズは自我が希薄なのでいっそ触れ合って思考を読ませた方が動きがいい。

 

「害虫駆除に魔法なんて贅沢ですね」

 

「ピジョンちゃんがやらせたんだが???」

 

「本題は埋まる予定の呪物の駆除なんですけど」

 

「俺が先走ってやっちまったってコト!?」

 

 巣に戻ってきたスズメバチを拳の空圧で叩き落す。

 大地に還り、自然の糧になれ。

 なんかガイア教っぽいこと考えたけど、実際は殺すとキモいからだ。

 虫は飛び散る体液がキモい。

 

「ここには霊道が通ってるらしくてですね。ここに呪物が埋められると方向性が定まってしまって異界化するみたいです」

 

「異界化してから潰したほうが実入りいいと思うから放っておこうぜ」

 

「位相をずらすほどの能力がない感染型のゾンビが解き放たれます」

 

「殺す」

 

 ゾンビは弱いのだが、死体をベースにして増えたりする。

 汚いし腐った肉が残るので後始末がほんとにおつらい。

 燃やしても臭い、埋めたら蘇る可能性が残る。

 こんなことやるなんて正気じゃないね。

 

「あれが罪人です」

 

「まだ事件を起こしてないんですがそれは」

 

「でも罪を感じますよ」

 

「お、過去の罪がたっぷりあるやつ。そりゃそうか。普通はゾンビばら撒くなんて躊躇うよな」

 

 神経質そうに親指の爪を噛みながら現れた男で、ピジョンちゃん曰くカルマ値が高いようだ。

 ピジョンちゃん自身は糞雑魚ナメクジみたいなステータスをしているが、未来の流れを知ることができる神託と属性の傾きや罪の数がわかる特殊な才能を持っている。

 3年も一緒に相模線沿いの平穏を守る活動をしていれば、彼女の言葉が最も重要なのは当然のこと。

 不安そうに周りをきょろきょろと見渡して、俺たちに気付くと驚いたように目を見開いた。

 足取りとかを見ても戦いは得意では無いのだろう。

 背を向けて逃げてくれたら、身体を反転させるその隙に背骨を一気に引き抜くなり、蹴り砕くなりできるのだけど。

 残念ながら都合よくは行かないようだ。

 男は俺から目線を外さず、警戒してじりじりと下がっていく。

 

「くらえ! ……ぐわー」

 

 真っすぐ行けば、目も身体も俺の速度に追いつけていない様でその隙だらけの顔面を狙う。

 軽い言葉とともに拳を何度も振るえばアギが飛んでいく。

 予想外なのは当てたはずの火炎が俺に返って来たことだろうか。

 俺自身のデータなんてネットに当たり前のように流れているので対策しているだろうとは思ったが、流石に属性を反射できる装備を用意してくるとは思わなかった。

 反射装備なんてめちゃくちゃ高いので、そんな贅沢品を用意してないでもっとしょうもない田舎で儀式したほうがいいんじゃないか。

 

「火炎反射? マジ? メタ張るにしても贅沢すぎない?」

 

「わ、私の地位ならこれくらい手に入る! おまえのことは知っている! 対策済みだ! だから諦めろ!」

 

「え? 手に入った、じゃなくて? 今手に入るの?」

 

「おまええええええええ!」

 

「え、急に怒るじゃん。こわすぎ」

 

 確認のために聞いただけなのにめっちゃキレた。

 現在進行形で手に入れる伝手があるなら協力者もいるだろうって安直なことを確かめたかったのだが、相手のデリケートゾーンにダイレクトアタックしてしまったようだ。

 都落ちしたから心機一転頑張ろうってところだったのかも。

 だからといってゾンビをばら撒くのはやめろ。

 やるならこんな田舎に来ないで横浜とか茅ヶ崎、本厚木でやってくれ。

 あっちはここら辺と比べて栄えてるから。

 映画とか観れる。

 

「ちなみに俺は火炎吸収だから」

 

「は?」

 

「そしてなんと今日の左手はマグナが出る」

 

「は?」

 

「あとサマナーとしてなら俺はなかなか才能があるらしいよ」

 

 実は俺は3台のスマホをCOMPとして利用していて、そのうちの1台に電霊を宿している。

 勝手に電霊がアナライズして召喚までしてくれるので無駄な操作などを省いて両手に精霊を握ることが出来る。

 デフォだとフレイミーズだけ呼んでいる。

 燃える手はカッコいい。

 四元素の精霊を揃えているのですべての属性に対策できていない限り俺を完全に止めることはできない。

 

「どれほど対策できているか俺に見せてくれ」

 

 くらえっ! と土の精霊アーシーズが宿った左パンチ。

 よくわからんけど岩が飛び出す。

 俺の拳速で岩が飛んでいくからマグナは使いやすい。

 距離が離れていれば地面を殴って揺らしたりもできる魔法だ。

 対策していたらしい男の腕に当てたのだが、鈍い音がしたので骨は折れたんじゃないかな。

 いや、千切れそうになってたわ。

 えぇ……対策とは一体……。

 ちなみにゼロ距離でマグナを使うと振動を直接伝えることができる。

 逃げないように腹パンしとこ。

 

「確保できましたか」

 

「余裕だったよ。手加減したけどだいじょぶそ? もしかして死ぬ?」

 

「んー……」

 

「あ、持ってる呪物を食わせてゾンビにしたらセーフかな」

 

「明らかにアウトですね」

 

 俺は純粋な武闘派じゃないから手加減も下手だし、レベル差のせいでわかりにくいのもあってな。

 口から血反吐をまき散らしている男だが、声を出す余裕は無いのか涙を浮かべながら俺を見ている。

 ゾンビにしちゃえばいいんじゃないかという俺の意見を聞いてむせび泣き始めた。

 それを見ても全く可哀そうだと思わない。

 ゾンビばら撒こうとするし、あれは後片付けが本当に面倒だからな。

 悪い事はするもんじゃないね。

 

「ピジョンちゃん、この人どうする? お説教でもしてメシア教に改宗させる?」

 

「私はそういうのやらないって知ってるのに聞きます?」

 

 ピジョンちゃんは二世らしいから積極的に布教とかもしない。

 教会も普段はガラガラで出入りするのは俺かガイア教の人だけだ。

 物事の取捨選択がしやすいから神託はマジで便利。

 

「そもそもこの人、ヤタガラス案件ですね」

 

「えぇ……」

 

「たぶん龍脈を弄ろうとしてましたね」

 

「最悪だ。呼び出されるかも」

 

「困りますね。証人喚問だけで済めばいいですけど」

 

 皇居はノータッチ、みたいに業界の禁忌は幾つかあるのだが、その中のひとつに龍脈には不干渉というのがある。

 国を巡る超凄いパワースポットみたいなものだが、これを利用して日本は結界を張っているらしい。

 触ったらライドウって超怖い都市伝説みたいな超人が文字通り飛んでくる程の事件となる。

 既存の社会を壊すぜって過激なことを言ってるメシア教もガイア教も流石に龍脈には触れない。

 組織が根切りにされて二度と日本で活動できなくなる。

 報告しないで無かった事にしてもいいが、今回の場合だとこういうことを試そうとする土壌を持っている組織が存在していることになる。

 後々もっと面倒になると思えば報連相は大事、とても大事。

 

「だるくなったし今日はもう店じまいにしようぜ。スズメバチ駆除はちゃんと出来たし、ヤタガラスも呼んだから」

 

「一応人が死ぬ事件も起きますよ?」

 

「えー? じゃあ内容によるかな」

 

「異界となった心霊スポットに入り込んで襲われる動画配信者のグループがですね」

 

「150%死ぬ連中はパスで。リソースとやる気は無限じゃないから」

 

「ですね」

 

 ちなみに150%の内訳としては運よく生き残るか普通に死ぬかで死亡率が50%、助けても俺の力を期待して取れ高がどうとか戯言を吐いてもう一度突撃して100%の確率で死ぬ。

 完璧な確率計算だ、惚れ惚れする。

 助けなかったら100%死ぬが、結局死ぬので時間とか魔力とかが浪費するしやる気も削れる。

 それなら最初から取れ高満載でいってもらう。

 無駄にならなかった時間はコロッケのオマケとかサービスしてくれる駅前の肉屋みたいな俺の都合のいい周囲を巡回したい。

 

「帰りはコロッケ食べてかない?」

 

「いいですね!」

 

 

 




サガミさん(偽名)
主人公。レベル15。
相模線沿いを縄張りにしているフリーのデビルサマナー。線路沿い一帯を実効支配しているので結構旨味がある。
3台のスマホをCOMPとして使用。電霊用、仲魔用、その他アプリ兼常用としている。
仲魔はエンジェル、アーシーズ、エアロス、アクアンズ、フレイミーズ、ウカノミタマ、電霊。

ピジョンちゃん(偽名)
メシア教の元聖女候補。神託による未来予知やカルマ測定等ができるが、都会は情報が多すぎて取捨選択に失敗してパンクしたため聖女候補から脱落した。
守ってくれるはずの騎士や天使等が与えられないまま地方に飛ばされたので、自分で見出して育てることにしたら思った以上に成功した。というか想像以上に成功しているので最早困惑している。うそ、私たち相性よすぎ……?
全身に耐性系アクセサリーを価値がわからないくらいこれでもかと装備させられているが特殊能力が本体なのでセーフ。
装備の価値を知られたら誘拐一直線だがそもそも元聖女なので結局ずっと身の危険。

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