遊びに来た友達が口々に言うことをまとめると、俺は恵まれているらしい。
最新新機種のゲームや人気漫画の数々は親の趣味で、自由に使えるのは珍しいのだとか。
だけど俺だって何もしてないわけじゃない。
テストの点数が悪かったら使わせてくれなくなるらしいから真面目に勉強だってしてるし、部活だって頑張ってる。
週刊誌や月刊誌を読ませてもらえなくなるかもしれないので家の手伝いだってやってる。
結果が良ければ両親は褒めてくれるのも羨ましいらしいが、じゃあ頑張って結果を出して褒めて貰えばいいのにと度々思う。
とはいえ、他の家だと勝手が違うらしい。
例えばテストで80点を取ったとする。
俺の場合は両親のどちらか、大体は父さんに見せる。
母さんは教えるのがあまりうまくないというか、丁寧すぎて長くなるので根本的にわからないときに頼る。
父さんに教えて貰いながら間違った場所を改めて復習するだけ。
友達から聞くと結構違ったりする。
100点以外は認められなかったり、子供のテストに興味がなかったり、点数が悪いことに怒るだけだったり、そんな感じで色々らしい。
最初は疑ったし、友達の態度が悪かったんじゃないかと思ったが、今はそういうものなんだと考えるようになった。
俺の親の対応は俺の家のことでしかなくて、他の家には他の親の教育方針があるのだと理解した。
ホントに教育方針だなんて大それたものが他の家にあるのかは俺にはわからないが。
うちの教育方針は「褒めて伸ばす」ことを一応意識しているとは聞いたことがあるが、両親はそういう面倒なことはあんまり考えていないとも言っていた。
教育方針で子供が思ったように育つなら説明書とか出回って、それ通り育てれば良くなるから教育方針という考え自体が廃れるはずなんじゃないかってことらしい。
家庭ごとに考え方は違うよねってことらしく、そこで育った子供もやっぱり違う性格になるよねってことなのかなと思ったり。
学校の休み時間に友達と話したり、部活の時間にだらだらと駄弁ったり、塾でこそこそと内緒話したりっていうのを結構する。比較的よくする。
そこで俺の話だったり、家族の話だったりが話題になったりもする。
そうなると「変わってる」って言われることがある。
「変わってる」が指し示すのは父さんか母さんが大半で、時々俺。
今後のためになるから、と新しい物事に触れる機会を両親が用意してくれて、俺も率先してそれを楽しむのが変わっているのだとかどうとか。
ちょっと前には父さんにスマートフォンやパソコンを買ってもらったが、理由は「これから役に立つ物に慣れておくべき」ってことらしい。
母さんは色々知っておくべきだと博物館とかどっかの街の記念館に行きたがるし、ベーゴマや竹馬みたいな古い玩具の遊びとかを一緒にやったりもする。
父さんにベーゴマの回し方を聞いたがわからなかったし、母さんもわからなかったので結局スマホで調べた。
動画サイトは回し方や予備知識みたいなのを紹介してくれるのでとても便利。
そんな感じで家族サービスもしてくれるし一緒に遊んでいるが、変わっているとは思わないので多分嫉妬なのだろう。
言ってしまえば他所は他所、うちはうちってだけだ。
多様性ってやつが外にはあって、ルールがある。
それを理解するまでに少し時間がかかった。
努力は結果に繋がると信じていたし、好きな物は好きだと言うべきだとも思い込んでいた。
新品のパソコンでやれることなんて限られていた。
時々何か調べものをするくらい。
トランプのゲームして、地雷を探して、ピンボールしておしまい。
使い方がわからない俺に、ちょっと悪い顔をした父さんが動画サイトを教えてくれた。映像に被さるようにコメントが横に流れていく。
ゲームしながら喋るだけなのにそれがとても面白かった。
変わった声の歌(機械音声らしい)もたくさんあって聞き終えるのにどれだけ時間が必要なのかわからない。
実はこれらが個人によって制作され、自由にネット上に投稿されているというのだから驚きでもあった。
新しい刺激という物は俺の心を掴んで離さなかった。
俺が一番気に入ったのは二人の赤ちゃんが踊っている(オタ芸とかいうやつ)動画だった。
本当に踊っているのか、そういう風に加工しているのかはわからないが、どっちでもよかった。
勉強とゲーム、動画サイトをバランスよく摂取した結果、俺でも動画を撮れそうだと思い始めた。
あまつさえ人気が出るかもしれない。
いや、出る。
俺は無自覚な自信を抱いていた。
父さんも母さんもにこにこと笑いながら色々と教えてくれた。
そういうわけで、動画を撮ろうとしたのだがこれが意外と時間が掛かる。
ゲームの解説をやってみようとしたが、喋りながらゲームすることの難しさは筆舌に尽くしがたい。
たぶんそれを話せば良かったんだろうけど、言葉が出てこないことをどう話すのかっていう。
苦戦している俺に父さんが、絵も投稿できると助言をくれた。
絵か。
絵は得意だ。
何を隠そう俺は美術部だ。
両親が言うには人気のある絵のファンアートとかが人気になりやすいらしいので、絵から客層を集め、動画へと繋げることに決めた。
何を描くのかはすぐに決まった。
ティンと来た。
迷わなかった。
もはや天啓。
天衣無縫。
天下無双。
これこそ運命だ。
ということでオタ芸する赤ちゃんに決めた。
やるからには本気を出す。
まず大事なのはキャッチーさ。
リアル調でもいいが、やはり可愛さを求めたい。
各地でブームが巻き起こったゆるキャラやマスコットを参考にした。
複雑な線や構成は捨てた。
描けないのでオタ芸も切り捨てた。
オタ芸が無いなら体も要らない。
そうして出来上がった俺の渾身の絵を見た両親は少し悩んだようだったが、独創性に溢れていると褒めてくれた。
俺もそう思う。
しかし空白が気になる。
言葉を加えたいくらいだ。
本音を言えば「俺の美技に酔いな」くらい書きたいが、これで人気が出なかったら悲しいどころか虚しい。
ピエロを超えて単なるカカシになってしまう。
ということで媚びていくことにした。
あまりにも媚びすぎるのは良くないという両親のアドバイスも参考にした。
安心の一頭身!
赤と青の双子っぽい頭部!
丸みを帯びた輪郭!
下膨れの顔!
どこかふてぶてしい表情!
極めつけは空白の恐怖に耐えきれずに上半分に追加された吹き出しとセリフ!
_人人人人人人人人人人人人人人_
> ゆっくりしていってね!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
うーん?
う、うーん……?
なんか思ったのと違う気もしないでもない。
どう思う? と両親に相談すると「息子が描いたからヨシ!」「息子が描いて旦那が認めたからヨシ!」「両親がヨシって言ったのでヨシ!」ということで投稿した。
なんかドキドキする……。
ちなみに元ネタの赤ちゃんたちはアイドルのライブで応援していたらしい。
そのアイドルのライブに行けば生で応援見れたりするのかな、名物なのかなと思ったがどうやら数年前に死んでるらしい。
ストーカーに刺されたのだとか。
知ってるアイドルだった。
そういえば死んだってニュースで見たなあ。
芸能界ってこわいなー^q^
オリ主
美術4。
美術部なのに美術4が許されるのは中学生までよねー!!