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私立秀知院学園!
富豪名家の生まれや、将来国を背負うであろう人材を教育する由緒正しき名門校である!
そんな彼らを纏め上げる生徒会の中心人物がただ者であるはずもない!
生徒会長の
彼は勉学一本で畏怖と敬意を集め、その模範的な振る舞いで生徒会長へと抜擢された!
そして、その会長を隣で支える副会長の
彼女は四大財閥の一つである『四宮グループ』の本家本流を継ぐ総帥の長女として生を受け、あらゆる分野で華々しい功績を残した天才である!
この二人の脳内を支配しているのは、『如何にして相手に告白させるか』という思考である!
実は『相手が告白してきたら付き合ってやってもいい』という恋愛にあるまじき糞みたいな甘えによって無駄な期間を過ごし、上記の通り思考が変化したのだがここでは省略する!
もっと省略すると『相手のことがいっぱいちゅきだから弱みを見せたくない』という悲しい仮面が見えてきたりこなかったり!
(四宮がどうしても付き合ってくれって告白するなら考えてやらんこともないがな)
(会長がどうしてもと告白するなら私に見合う男に鍛え上げなくもないけれど)
そんなわけで、生徒会室の中で二人は内心で告白を心待ちにしながら、日々超高校級の頭脳で相手の告白を誘う高度な駆け引きが行っているのである!
そんな愉快で知的な恋愛頭脳戦がこの物語の主軸となる!
と見せかけて!
「がねちゃん! えふもちに映画のただ券もらっちったから底ついてる勇気絞ったんだけどえぐいてぇ終わりを迎えちゃったよ! あー、しょんどいわ! でも相談に乗ってくれてサンキューな!」
なんだお前、闇の一族か? と問いたくなるような真っ黒な頭髪を無駄に逆立て、制服を着崩して腰パンしたしょうもない長身の男がこの物語の主軸となる!
恋愛?
もう勝負ついてるから(無慈悲)
それはそれとして、まず貴様は日本語から勉強してこいと言われそうだが生徒会で邪見にされることは少ない!
なぜなら、彼の手には常に希望と絶望が握られているから!
パンドラの箱がなぜ絶望をばら撒き、希望だけが残っていたのか! たぶんそれが物語的にも展開的にも一番楽しいからだと思います(素直)
そんな今日の彼はミダス王、というか乱す王、その手には映画のチケットが二枚!
「もったいない本舗だしがねちゃんといっしょにムービーでもよいちょまる……」
そして彼は気づいた!
友人の近くで作業している副会長の凄まじい眼光に!
(え、なにあれ目怖っ!)
そして再び気づいた!
その眼光に!
「なんだ言ってよ、しのかぐ! 俺と一緒にムービーでもよいちょ……」
なるほどね、とどや顔見せる。
そして、彼は近くで作業している副会長を誘おうとして気づいた!
生徒会長でもある友人の凄まじい眼光に!
(え、なにあれ目怖っ! ……いやいつも通りだったわ)
冷静になって再び気づいた!
その眼光に!
「たはー! 気づいちゃったぜ! なるほどね、名探偵俺って感じ。……死にてえ奴からかかってこい」
そして彼は気づいた!
二人の眼光が凄まじいことだけに!
それしか気づけなかった!
彼の頭は決して悪くないが、これまで友達が少なかったので他人の機微に気づけない!
そして無理して作ったキャラで一通りの授業を受けたのでそろそろ限界だということに!
決死の覚悟を決めた彼が知る由もないし、この場にいる二人にも関係の全くないことだが、この場にある二枚のチケット! それは書記のえふもち氏が二人に譲渡しようとして、恋愛頭脳バトルによって無効試合になって没収されたチケットだという事実があったのだ!
詳細は省くが、関係ない二人にとって巨悪であった彼は見事ゲームで倒された!
もう一度言うが、映画など関係ない二人の元には黄金と等価値のチケットのみが残されたのだ!
しかし絶望だけが放たれるのか!
いいや、そこには確かに希望が残っているのだ!
本日の勝敗結果
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「というわけで今日もボコられてぴえん」
「ぴえん」
「……通り越してぱおん」
「ぱおん」
先ほどまで行っていたゲームの顛末を、身振り手振りを交えて語りながら帰路につく
少女の名前は
今日も例に漏れず、普段通りゲームでボコられた薺は、圭と下校していた。
「ぱおんってなんなんだろうなあ。使うの大変なんだけど。あと、それと同じような謎なんだけどさ。おけまる水産よいちょ丸で了解の意を示すのって長い。長くない?」
「長いけど使ってる子もいるよ。語感とか雰囲気が大事みたいだよね。でも最近減ったかなあ」
「え、もう言語に更新が来たの? 早くない? ぴえんなんだが?」
「その使い方はしないかも。最近はあたおか、とか」
現代語の更新速度に戦慄する薺を他所に、鞄からノートを取り出しながら圭が言った。
「あた……あたし……おか……おかあさん。あたし、おかあさん……若者の性の乱れを指してるとか?」
「……違うに決まってるでしょ。最近のなーさんはあたおか、みたいな」
圭がその形のいい眉を寄せ、薺をじっとりと睨みながら手に持っていたノートを丸め、そのわき腹を突く。
「埼京線のATACS?」「違うと思うの」「あたし最高?」「違うって」「あたいさいきょう」「ちーがーいーまーすー」と二人で繰り返す。
薺が間違えるたび、コロコロと笑みを浮かべながら圭がわき腹を小突いた。
幾度も続き、最終的に降参だと薺が両手を挙げる。
物足りなかったのか「えー?」と圭が不満げに漏らしながら、授業で使ったノートを取り出した。
「けーちゃん、あそこにたい焼き屋さんがあるじゃん? あれが今日の第一のチェックポイントです」
「なるほど。その挑戦、受けましょう。会計と、兄の名に懸けて!」
「グッド! なら俺も会長の魂を賭けよう!」
頭一つ分以上高い薺に、背伸びしながら圭がどや顔を見せつけた後、ノートを読み始める。
これは二人で帰るときにいつもしていて、気づけば習慣となったちょっとしたお遊び。
ルールは簡単、授業内容を纏めた圭のノートから、チェックポイントと称した場所までに薺が出した問題に答える授業内容復習ゲームである。
秀知院学園中等部の生徒会会計であり、そして秀知院学園高等部の生徒会長でもある御行の妹である。
勝手にかけられた名前や魂に意味はないが、圭にとって罰ゲームは普通に色んな意味で悔しいので、それに対する意気込みの現れであり、薺はホントにただのノリだった。
「ところで、あたおかの意味を教えてほしいんだけど」
「あたまおかしい」
「……いや、頭おかしくないから。友達増やそうと頑張ってるだけだからね、俺」
「無理しないと会話できない人と友達になって楽しいの?」
「え、唐突に突き刺さる正論は怖すぎるからやめて……」
二人の手には、半分に割られたたい焼き。
割れ目から僅かな湯気と、甘い匂いが漂っている。
チェックポイントと呼ばれたたい焼き屋はすでに過ぎていた。
「余裕だったよ? なーさん、問題の出し方が甘くなったんじゃないの」
「なってないんだよなあ」
「そう? 私に甘くしたんじゃないの?」
にやにやと笑みを浮かべながらたい焼きを食べる圭を横目に見ながら、薺もたい焼きを食べつつ答える。
「無いよ、今日はガチで問題出した。難関校の試験問題を参考にしたから、あの短時間で解かれてビビってる」
罰ゲームとして自慢げに一人でたい焼きを食べるつもりだった薺、渾身の敗北である。
この男は一日で何度負ければ気が済むのだろうか。
勝利を知りたい。
「え? 難関? ちょっとそれはダメじゃない? ルール違反……」
「い、違反はしてないから。ちゃんと事前にけーちゃんの授業内容を調べて復習になるよう問題を組んだし……」
「へー? そもそもなーさんの復習も兼ねてるんでしょ? 事前に調べるんだ? まあ今回は私の勝ちだったし? 違反でも許してあげますけど?」
「い、違反してませんけどー」
「いーはーんーでーすー」
口では違反していないと言いながらも、若干の後ろめたさから目を逸らす薺。
違反だと詰め寄る圭。
きゃーきゃーと笑いながら丸めたノートで小突く銀髪の少女と、成されるがままの長身の少年が、いつものように牛歩のごとくゆっくりと帰宅する。
「ところでなんでルール違反したの?」
「してないです」
「してないんだ? ふーん? ……ふーん、なんか千花姉ぇみたい」
「えふもちとは違うし! ルールの抜け道を使っただけだから!」
「どっちでもいいけど。なんで?」
「……映画を断られて悔しかったです」
「あー、お泊り会があるから断っただけだから。ほら、今度一緒に勉強会しよう。ね?」
「マ? しょんどかったけどおけまる水産よいちょ丸だわ、お菓子とか用意しとくから楽しみにしてるわ!」
「なーさん、あたおか」
「けーちゃん、ぴえん通り越してぱおん……」
本日の勝敗結果
白金御行
恋愛強者。相手が告白してきたら付き合ってやるというスタンス。
四宮かぐや
恋愛強者。相手が告白してきたら付き合ってあげますというスタンス。
白銀圭
恋愛強者。もう勝負ついてるからというスタンス。
オリ主
恋愛弱者。休み時間はつるんでる仲間と「オタクくんさあ……」っていじめをやってる。他人との距離感が迷子。一人っ子だったので家族に憧れている。
モブA
未登場の恋愛弱者。休み時間はつるんでる仲間と「オタクくんさあ……」っていじめをやってる。長期休暇の際に抗争があったが、殺す覚悟を持って見事にファミリーを率いて勝利した。その時手に入れたフィアンセが国にいる。
モブB
未登場の恋愛弱者。休み時間はつるんでる仲間と「オタクくんさあ……」っていじめをやってる。世界を渡り歩く冷血な死の商人としての未来が待っているが、普通の友情に浸るための努力をしている。だが、今だけは殺さない覚悟を持った彼が平穏を望もうとも、半死半生の奴隷の少女を拾った時からすべてを巻き込む激動が学生生活すらも飲み込もうとしていた……。
未収録シーン
オリ主「オタクくんいじめていいのは俺たちだけなんだよ! 先輩権限で散れ! オラァ! ……で、オタクくんさあ。これ見てくんない」
モブA「爆弾いっぱいついてるんだけどどうしたらいい」
モブB「みんな可愛いから選べなかったわ」
オリ主「それな」
モブA「可愛すぎるのがずるい」
モブB「ジジイ入れろ」
オタクくん「あー、これもうダメですね。みんなに優しくしながら優柔不断なのが一番ダメ。女の気持ちなんて知らないけど、流石に誰にでもいい顔してたら不快に思われるのは当然ですよ」
モブA「わかる、背中から撃たれるよな。銃創が残っちまった」
モブB「銃弾は何処にあたっても致命傷になる可能性があるから注意しろよ」
オリ主「!!!!???」
石上「??????」