やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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職場見学希望調査票2-F 比企谷八幡

希望する職業
専業主夫兼漫画家(岸辺露伴先生の弟子)

希望する職場
杜王町岸辺露伴先生自宅

理由を以下に示せ

古人曰く、働いたら負けである。特にSPWで働き始めて12年、一般的サラリーマンで言えば三十代後半の人間が至るキャリアである。
労働とはリスクを払い、リターンを得る行為である。私はこの十数年で学んだ。大企業でこれだけ働けば、そろそろ新たな人生を考えてもいい頃だろう。
より少ないリスクで最大限のリターンを得ることこそが労働の最大の目的であると言える。
小さい女の子、つまり幼女が「将来の夢はお嫁さん」と言い出すのは可愛さのせいではなく、むしろ生物的な本能にのっとっていると言えるだろう。私も大学卒業と同時に寿退社を検討しても良いのではないだろうか?
よって、私の「働かずに家庭に入る」という選択肢は妥当であり、かつまったくもって正当なものである。
従って、今回の職場見学においては専業主夫にとっての職場であり、かつ副業である漫画家の岸辺露伴先生の職場を希望する。
なお、露伴先生とは親友の間柄なので、既に了承済みである。


ブラッディ・アロー

side比企谷八幡

 

職員室の一角には応接スペースが設けられている。皮張りの黒いソファにガラス天板のテーブルが置かれ、パーテーションで区切られていた。そのすぐ側に窓があり、そこからは図書館が見渡せた。

開け放たれた窓から、うららかな初夏の風が入ってきて一切れの紙が踊る。

俺はそんなセンチメンタルな光景に心を奪われ、風の行く末を問おうと紙切れの動きを目で追った。

はらりと、まるでこぼれ落ちた涙のように儚く、その紙は床へと舞い降りる。

そこへ、ダンッ!と鉄槌のごとき、ピンヒールが突き刺さった。

見た目だけは美しい(笑)の女教師の独神の脚だ。

そりゃ一般人が見たら運慶・快慶作の金剛力士像のような恐ろしい形相に見えるんだろうけどさ、承太郎の威圧をちょくちょく受けている俺からしたら、なにガン飛ばしてるんだ?的な感覚しかない。

国語教師の平塚先生は煙草のフィルターをガジガジとかじり、さも怒りを堪えてますという表情で俺を睨み付ける。学習能力ないの?この独神。

 

平塚「比企谷。私が何を言いたいか、わかるな?」

 

八幡「わかりません」

 

大きな瞳が放つ眼光もなんのその、俺はすっとぼけながら灰皿の煙草の吸い殻をカウントしていた。

すると、平塚先生は右手を人差し指から順に握り始める。それだけでコキコキコキと指が鳴った。

あー…基本世界のこいつに対してやったように私有車をベコベコにしてやれば大人しくなるかな?

あの世界ではストIIのボーナスステージばりにスクラップにしてやった後に重機で更にペチャンコにしてやったっけ。その上で気絶したこいつにはこの光景が何度も夢に出てくるように波紋で追撃したなぁ。

あの独神は特に悪いことをしていないから、ただの八つ当たりを食らわしただけだし、悪いことをしたと思う。

そんなことを思い出していると。

 

平塚「まさか、わからないと言うつもりか?」

 

八幡「まずはこの状況がわからん。なぜあんたがここにいる?既に生活指導担当からは外されているはずだが?まぁ、どのみちジョースター家に見つかってこれは書き直しが確定しているんだが?既に空条親子からはお仕置きを食らっているし」

 

平塚「当たり前だ!まったく…少しも変わらんな、貴様は!」

 

八幡「いや、質問に答えろよ。何であんたが俺を呼び出してるんだって聞いているだろ?」

 

イライラが募っていき、貧乏揺すりを始める。

 

平塚「……やはり殴って直すしかないか。テレビでもなんでも殴った方が話が早い」

 

八幡「聞いてる?人の話を聞いてんの?それに最近のテレビは薄いから殴りようがないぞ?ブラウン管テレビしか知らんの?ジョセフ以上にアナログ時代なの?」

 

平塚「衝撃のっ!ファーストブリッドぉっ!」

 

八幡「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 

ガシッ!バリバリバリバリバリバリバリバリ!

 

ガシッ!平塚の拳を受け止めた掌から電流にも似た波紋疾走の音がほどばしる。

 

平塚「……ぐふっ」

 

膝から崩れ落ちる独神は、遠のきかける意識を必死に手繰り寄せているようで、力なく顔を上げる。

 

平塚「げ、撃滅のセカンドブリットの方が良かったのか…?」

 

八幡「山吹色の波紋疾走を味わいます?」

 

俺は独神を操る波紋で立ち上がらせ、柔術の要領で関節技と波紋で椅子に座らせた。

 

平塚「『スクライド』は良いのに…」

 

八幡「知るか。俺は露伴先生の盟友だぞ。それより念のために聞いておくが、このふざけた状況と、ふざけたこの灰皿は何だ?」

 

平塚「何だと言われても…」

 

何だと言われたら答えてやるのが世の情けじゃあないのか?

 

八幡「アンタの腐った性根は理解しているが、多少は反省したと思っていたんだがな。降格処分や減給、先月の謹慎の日々はアンタに影響を与えなかったのか?」

 

平塚「は、はぁ…」

 

独神はいつの間にか逆に説教を受ける羽目になってしまい、混乱しているようだ。

ふざけるなおい。生活指導の仕事を丸投げする非公式の部活の設立、度重なる生徒への暴力。

とうとう教育委員会から査察が入る状況だというのに何をやっているんだ?

 

八幡「まぁ、今回は見逃しますが、いい加減大人しくしてくださいね?東方先生の監視もあるんですから」

 

俺は席を立ち上がり、徐倫の側に控えていたジョジョといろは、小町と合流して奉仕部の部活へと向かった。

まだ泳がせていてやるよ。

前々からの財団の調査でこの教師は汐華や雪ノ下がバックにいたことは解っていた。

その傘を着て好き放題やっていたらしいが、汐華が地下に潜伏した際、何も知らされずにそのままやっていたことから、捨てゴマにもならなかったのだろう。

汐華家の犠牲者とも言えるが、可哀想とは思えない。

とりあえず、放っておけばいずれは汐華から何かアクションがあるかも知れない。

監視は付けておこう。

 

 

side平塚静

 

比企谷め…なんなんだ…

なんなんだ!あの男は!

私は教師だぞ!何故教師である私が生徒の小僧に見下されなければならん!

くそっ!今日は帰ろう!

私には雪ノ下や汐華家がバックに付いているんだ!

私はイライラを抑える為に愛車に乗り込み、煙草に火を付けた。

 

女「無様だな、平塚教諭」

 

平塚「お、お前は…!」

 

女「お前は醜い。親戚であった綾瀬絢斗のように、見た目の美しさとは真逆の腐った性根よ」

 

平塚「何を言う!私ほど生徒の為を思って行動している教師など他にはいないぞ!世の中がまちがっているんだ!あの比企谷のように!」

 

失礼な女だ!

それに、何が綾瀬絢斗だ!あいつは平塚飛鳥という本名があった。綾瀬絢斗はこいつが殺したこいつの弟の名前だ!

 

綾瀬「そう、その比企谷八幡だが…絢斗を殺害したのは比企谷小町、静・ジョースター、一色いろは、雪ノ下陽乃だと言うことが判明している」

 

なん…だと?

飛鳥を殺したのはよりにもよって同族である陽乃と、比企谷の周りをウロチョロしているあの女共だと!?

あいつらは殺人者でありながら、のうのうと社会に溶け込んでいるというのか!

しかも、天下のSPW財団の幹部だと!?

犯罪者がふざけるな!

 

綾瀬「あと、その場には空条承太郎、東方仗助、ジョルノ・ジョバーナと今は名乗っている汐華初流乃、空条徐倫…そして比企谷八幡もその場にいたそうだ。つまり、君の親戚は君の立場を陥れた者達に殺された…そういうことになるわけだが、どう思うかね?」

 

許せん…。

陽乃め…一族から追放され、死んだもの扱いとなっていたから、名前を変えていたこともあって、敢えて泳がせて総武にいることを黙認してやっていたというのに…その私の優しさを裏切るとは!

そして、ジョースター家め…どんな汚い手で飛鳥を殺した!四年前のフロリダで何があった!

 

綾瀬「復讐したくは無いかね?私ならその力を与えてやることが出来るが?平塚静」

 

平塚「頼む!私に力を与えてくれ!」

 

綾瀬「わかった。お前に力を与えてやろう…この聖なる柱の一族の眷族となるべく、働くが良い」

 

綾瀬はいつの間にか、赤い矢を出していた。

な、何だその矢は!

私に向けるな!

しかし、いくらもがこうと矢は私の方へ向き、そして私の腕から刺さり、心臓へと浸入してくる!

 

平塚「うわああああああああああああ!」

 

悲鳴をあげながら、私の意識は徐々に薄れていった。

 

綾瀬「次に目覚めた時、君は聖なる力のサナギを得ていることだろう。せいぜい、聖なる力の欠片になるくらいには覚醒させたまえ。聖なる神、柱の一族の為に。ふははははは…アーハッハッハッハッハ!」

 

薄れ行く意識の中で、何とか綾瀬を睨んでいると、綾瀬は私から矢を抜いて、霞のように消えて行った。

その女、綾瀬香澄の名を表すかのように…

そして、私は意識を失った…。

 

 

sideジョルノ・ジョバーナ

 

ジョルノ「わかった。引き続き監視を恃むぞ」

 

ピッ!

 

どうやら、泳がせていた撒き餌に食いついたようだ。

僕はホテルロイヤルオークラの最上階、高級ラウンジバーのエンジェルラダーのカウンター席で弱めのブランデーを煽る。

父、DIOの姓であるブランドーから、このバーに来たときは必ず洒落で飲むようにしている。

八幡と出会い、そして命のやり取りをしたこの店で飲むならば、このブランデー以外に他はない。必死に戦い、敗北したあの時のことも、今となっては良い思い出となり、酒のつまみ代わりになってくれる。

 

承太郎「動いたか…奴等が」

 

ジョルノ「ええ…決着は近い。そう思えます」

 

承太郎「焦るなよ、ジョルノ。お前はもう、我々ジョースター家の大切な家族なんだ」

 

パリンッ!

 

カウンター内の女性バーテンダーがグラスを落として割ってしまう。

 

承太郎「大丈夫か?お嬢さん」

 

バーテン「申し訳ありません、お客様。お見苦しいところを…」

 

承太郎さんは女性バーテンダーを軽く睨み、すぐに目の前のバーボンを煽る。

 

ジョルノ「大丈夫ですよ。長年追ってきた案件ですが、気負ってはいません。それに、今回は主役は僕ではありません。前回は脇役に徹していた静や八幡の役目です。誇り高き七代目ジョジョとその仲間の…僕達先代のジョジョ達は、サポートに回れば良い。違いますか?三代目ジョジョ」

 

承太郎さんは一万円札を三枚置いて、立ち上がる。

 

承太郎「そうだな…その通りだ。さて、俺はもう帰る。六代目ジョジョの徐倫からは、もう酒の量を考えるように注意されているしな。お前はどうする?五代目ジョジョ」

 

僕はグラスをバーテンの前に差し出し、無言でお代わりを要求する。バーテンは新しいブランデーを注ぎ足した。

 

ジョルノ「僕はまだ飲んで行きます。仗助とジョースターさん……二代目ジョジョと四代目ジョジョとも待ち合わせしていますから。それに、彼との思い出に浸っていたいのですよ。承太郎さん」

 

承太郎「程々にな。バーテン、釣りはいらんぞ。そのまま君へのチップだ」

 

割れたグラスの処理を終えたバーテンは、無言で頭を下げる。

 

承太郎「どんな事情があるかはわからないが、学生がこんな時間のこんな店で働くのは感心しないな」

 

バーテン「!!!」

 

承太郎さんも気付いていたか。

化粧で誤魔化してはいるが、彼女は未成年。それも高校生くらいの年齢だ。

大金欲しさにこういった深夜のバイトに励むものも珍しくはない。この店は財団が管理するバーというだけあって、まだ安全な店だが、中にはこういう若い女性を騙して水商売や売春を裏で斡旋する店も少なくない。

仗助さんや静、八幡、いろは、小町の奮闘でそういった非合法の店はこの千葉からは姿を消しつつあるが、SPW財団が日本支部に本腰を入れる前の時代はそれが汐華の資金源だった。

もしその時代だったならば、この女性も危なかった所だろう。わが母方の親戚ながら、下衆なことだ。

やはり、汐華はブラッディ・アローとの関係に関わらず、潰すべきだ。血縁故に逆に容赦をするつもりはない。

親族と言えば陽乃の妹、雪乃だ。

八幡の話では徐々にではあるが、更正しつつあるようだ。

しかし、そのスタンド能力はブラッディ・アローによって目覚めたもの。

平塚静の車に仕込んだ盗聴機から仕入れた情報によればブラッディ・アローを平塚静に打ち込んだ者はやはり柱の一族…つきつめれば汐華の眷族だった。

分かっていたこととはいえ、厄介な事になった。

出来れば陽乃の妹の雪乃と、その友人である由比ヶ浜結衣は救ってやりたいが…。

僕のレクイエムでは彼女らを救いだすことが出来ない。

それが可能なのは……。

考えていても仕方のないことだ。結局はいつも通り、なるようにしかならない。

願わくば、彼女達の能力が、柱の一族に悪用されないことを祈るばかりだ。

結局、僕の報告を聞いた仗助達SPWジャパンの面々がエンジェルラダーに来ることが不可能になったという連絡が入り、僕は残念な気持ちを抱きながらブランデーを煽り、彼女にチップを交えた料金を支払って店を後にした。

 

←To be continued




はい、二巻の没頭でいきなりの急展開です。

平塚先生、生徒の為と思ってはいるのですが、本作では第2章で登場した綾瀬絢斗の親戚となっており、歪んだ形となってしまっています。

では原作との相違点を。

八幡は衝撃のファーストブリッドを食らう➡…わけがない。伊達に承太郎や小町に鍛えられていません。スローすぎてアクビが出るまである。

説教を終始受ける➡説教をする立場が逆転する。カウントされた吸殻の本数だけ、給料がカットされた。

それでは次回もまたよろしくお願いいたします!

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