沙希「まったく………陰で何を言われているのかわかったもんじゃあないよね。アンタ達性悪コンビは」
パンパンと手を払いながら、倒れ伏す俺を見下ろす川………川………川なんとかさん。うん、徐倫イジり同様に川崎に会ったら一度はやらないと寝付きが悪くなる名前ネタ。今回は一発目からやらせていただきましたぁん。
あと、下手な位置に立っているとまた下着が丸見えになるよ?ウッペリさん。
比企谷八幡と川崎沙希が並ぶとき、それは確実に黒レーネタに走られる………というのを後に知ることになる。
具体的には約1年後、格闘家を目指す平行世界の自分と出会うことによって………というか、その世界の川崎沙希に言われて。
全ての平行世界の比企谷八幡よ。黒レーネタで川崎沙希を弄るのは程々にしておかないと、俺みたいな罪なき比企谷八幡が余計な冤罪をかけられるので注意してほしい。
意外性で言ったら三浦のピンクの方がよほどインパクトがあったわけだし。
なお、血糖値はたっぷりとシバかれた後に元通りに戻されました。折檻でイチイチ命の危機に瀕していたらシャレにならんしね。
京華「はーちゃん、大丈夫?生きてる?」
返事がない。ただのシカバネのようだ。
うん。死んではいないけれど、返事が出来ないくらいにはシッカリと折檻が効いております。
金縛りもやられてね?
沙希「だめだよけーちゃん。下手にコイツに近付くとアホアホ比企谷菌に感染するから」
京華「アホアホ比企谷菌?はーちゃん、アホアホ病なの?」
川崎はけーちゃんを愛おしげに抱き上げて髪を撫でながら、対象的に俺を絶対零度の冷たい目で俺を
オイコラウッペリ。
悪質なデマ病名をけーちゃんに教えるんじゃあない。しかも比企谷菌は小学時代の俺のあだ名だったんだから、軽くトラウマになってるんだぞ。
沙希「で、なんでアンタがここにいんの?今日はけーちゃんの迎えをジョセフ・ジョースターに頼んじゃあいなかった筈だけど?」
ウッペリは珍しくウッカリを発動せずに金縛りを解いてから話しかけてくる。
俺は波紋で傷を治してから起き上がり、コキコキと関節を鳴らしながら答える。
八幡「いや、まぁ………珍しくマジで仕事?」
むしろ何でこんな時間までけーちゃんほったらかしてんの?と訪ねたいところだ。アクアもカンカンみたいだったし。
そう聞こうとしたのだが、先に川崎が口を開いた。
沙希「だったら何で人の陰口を叩いてんの?ジョースター達は?」
八幡「ここへの交渉はいろはがやってる。相棒と小町は留美の小学校の方へ交渉に行った」
川崎がジョースターと名字だけで言った場合は静・ジョースターの事を指す。ジジイの場合はフルネームで呼ぶからな。
それよりも…だ。
八幡「で?お前は?」
今度は逆に俺が問うと、川崎はけーちゃんの肩に手を置いて呆れたような表情で俺を見る。
沙希「は?妹の…けーちゃんの迎えにきまってるでしょ」
八幡「んなこたぁわかってる………質問の意味をはき違えるんじゃあない」
ウッペリがここに来るのはけーちゃんを迎えに来る以外に無いのは百も承知だ。けーちゃんが川崎の妹であることは一学期のエンジェルラダー事件で知っているわけだし、今更けーちゃんがウッぺりさんの娘かなー………なんて疑いを向けるわけがない。
ただ、願わくば姉のようなウッペリのようにならずに素直でお淑やかな子に育ってほしい。天真爛漫な今のけーちゃんのままで!
天の声『それはそれで問題だろう』
八幡「俺が聞きたいのは、2日連続でけーちゃんを寂しがらせやがったその理由を教えてもらおうじゃあないかと聞いている。答えてもらおうじゃあないか?あぁん?」
返答次第じゃあパパウパウパウをやられた分の2倍は無駄無駄の刑に処さねばならん。
ザ・ジェムストーンを展開しながら指を鳴らしてウッペリに近付く。
沙希「ハァ………アンタは何でけーちゃんの事ととなると実姉のあたしより反応するんだよ………」
八幡「俺は悲しい………色々と互いに思うところはあっても、ことザ・シスコーンである事についてはお前のことを一目置いていたというのにこの体たらく………シスコーンじゃあないお前はもうそれはただのウッカリツェペリ………ただのウッペリじゃあないか………」
本当に残念だ。首筋の星型の痣とかそんなものよりも強固なモノであるはずのシスコーンという絆………唯一無二のその絆があったからこその俺達の絆の筈なのに………それを………それをおぉぉぉ!シスコーンを分かち合えるのは仗助と陽乃さんだけなのかぁぁぁ!」
ゴン!
沙希「あんたにとって、星型の痣の扱いはそんなに軽いもんだった事と、前世の師弟の関係とシスコーン同士の絆で師弟関係が負けている事実と、東方社長や雪ノ下姉との間にあるのがそんなペラッペラな絆であることにあたしは本当に驚いたんだけど?あとウッカリツェペリってのはいい加減やめてくれない?何かウッカリ八兵衛みたいでイヤなんだけど!」
八幡「何を抜かす!ウッカリ八兵衛はウッカリなことと食いしん坊であることが売りのキャラだから!そういうキャラだから!対してツェペリにウッカリなキャラを付け足すことのどこに需要があるというのだ!自分を知れ!川崎沙希にお茶目要素の需要はどこにもない!二次SSを含めても滅多にない!(メメタァ!)実はあったりしたら困るから滅多にない!大事な予防線たから二度言いました(メメタァ)!あと八兵衛とか言うな!歳がバレる!」
ゴン!
沙希「メタイからやめろ!あとあたしはあんたと同じ17歳だ!歳がバレるって何!?」
八幡「相棒がいないから連続でボケるのも厳しいんだよ!察しろよこのウッペリ!だからお前はウッペリなんじゃぁぁぁ!」
ゴン!
沙希「だったらやめなよ!イチイチ拾ってドツキ漫才に付き合わされる身になりなよ!それはあたしの役目じゃあない!空条先生の役目だ!」
八幡「や、最近胃薬が足りなくなったみたいだから、少し休ませてあげないとなー………と。今日はジジイに睨まれていて別の意味で胃が酷いことになっているだろうし、徐倫の代わりになると言ったらウッペリか葉山だろ。未来じゃあ前髪金髪が後退している伝説の狼(弟)が加わるかも知れないが」
ゴン!
沙希「被害者を増やすんじゃあない!」
閑話休題
八幡「で?何で遅れたの?」
沙希「三浦と相談だよ。由比ヶ浜の飼い犬………サブレの件で由比ヶ浜から相談を受けて………ね」
八幡「イギーの?なんで?」
由比ヶ浜がイギーの件で三浦と川崎に………ねぇ。意外な組み合わせだ。
沙希「躾の件だよ。サブレって言っちゃあ何だけど、躾が出来ているとはいえないでしょ?バカ犬っていうか………」
逆だ。イギーは下手な人間よりも頭が良い。
だからこそ下手な人間じゃあ扱いきれずに舐められてしまう。
犬は自分の中でカーストを作る生き物だからな。
沙希「三浦の前世はイギーと関係があったし、あたしは不本意だけどアンタの師匠だったという関係で相談された。それこそこれは空条先生の領分な気がするんだけど………」
………止めておいた方が良いような気がするのは俺だけか?
由比ヶ浜よ………そもそも人選ミスだ………
三浦はともかく、川崎じゃあ………
真面目であれば真面目であるほどイギーには振り回される。
沙希「ひびきのの忍さんにも断られたらしいんだよね」
八幡「忍さんに?というか、なんで忍さん?」
沙希「忍さんって、人外にも変身できるでしょ?だから、犬語でサブレとコミュニケーションを図れると思ったらしいんだって」
由比ヶ浜にしてはいい着眼だ。確かに忍さんならばサブレと意思の疎通を図ることができる。
そうなると、何故忍さんが断ったのかが気になるところだな…。
八幡「忍さんがこういう頼みを断るのは珍しいな………あの人って面倒見がいい人だから、ジジイの頼みすら文句を言いつつも危険な世界への旅にも付き合ってくれたと言うのに………」
あのゲッター線の世界にまで付き合ってくれた忍さんにしては本当に珍しい。
沙希「サブレの声が最近の悩みに直結しているらしい。なんでも『セニョール』がどうとか………」
八幡「セニョール?どこかで聞いたことがあるような………ジジイや承太郎が関わり合いになりたく無いというスタンドの口癖がそんなんだった気が………」
沙希「ジョセフ・ジョースターや空条博士が避けるスタンド?珍しいね………」
あの人には世話になっているし、暇を見て訪ねてみよう。
もっとも、俺は『ひびきの』や『きらめき』の人とは相性が悪いから、どこまで力になれるのかわからんが。奥さんの光さんにすら、いい顔をされて無いからなぁ………。
なんで俺、光さんに嫌われてるんだろうな?
天の声『姉貴分とはいえ、徐倫を弄り倒す厄介な人物相手に同じ教師である藤崎光がいい顔をするわけがないだろ』
なお、その『セニョール』こと大倉都子のスタンド、『スタンド・バイ・ミー』が忍の変身能力とタメを張る力をもった無自覚遠隔自動操縦タイプの話が通用しない上に、倒しても倒しても再登場する、承太郎やジジイがもっとも苦手とする厄介なタイプのスタンドだと俺が知るのはもう少し後の話である。
それにしても由比ヶ浜と三浦と川崎でサブレに躾を………ねぇ。
三浦的には前世でイギーを躾けられなかったリベンジなんだろうけれど………上手くいくビジョンが全く見えないんだよな。
何物にも縛られない、自由なところがイギーの魅力だと言うのはイギーの理解者であるポルナレフさんの言だ。
一通りやり取りをした俺は改めて保育園を見回す。
八幡「それにしても、毎度思うんだけれどこの保育園とお前んちじゃあ遠くないか?」
川崎の家は中学の学区こそ違えど、俺の家からさほど離れていないところにあったはずだ。そこからここまで、だいたい電車で一駅か二駅分といったところか。子供を預けるには適切な距離なのかどうかはちょっとわからないが、けしてご近所さんにあると言うわけじゃあない。そういう点でも大変そうだ。しかし、川崎は先程の連続ゲンコツで乱れた髪を直しながら小声で話す。
沙希「そうだけど、送りのときは車だし、今保育園って結構空き少ないし、ここ市立で安いらしいから」
八幡「あー、なるほど。つうか、だったら財団系列の保育園に転園してもよくね?アーシスの隊員なんだから福利厚生で格安になるはずだし」
実際俺や小町、いろはも福利厚生で保育園に通ってたし。だからジョースター家から逃げる術が無かったとも言えるわけだが。
沙希「アーシスに入ったのは最近だし、親は財団とは無縁だったから。今さら転園させるのも可哀想だし」
まぁ、ここからなら総武高校から近いから結果的には良いんだけれどね。
それにしても考え方が所帯じみてるよな。夕食の買い物でもしてきたのだろうか、手に持っている買い物袋からはネギがはみ出ており、それが更に所帯じみて見える。
沙希「前はずっとバイトしていたから、来れなかったけれど」
八幡「バイト先がエンジェルラダーで良かったのか悪かったのか………」
沙希「結果的には良かったんじゃあないの?アンタらとの付き合いは正直疲れるけど」
川崎が目を半眼にしてジッと俺を見る。
八幡「………何だよ」
沙希「何でもないよ。言いたいことは伝わるでしょ?」
問うと、川崎はため息をついて顔を手で覆い、頭を降る。その度にポニーテールが揺れ、けーちゃんがその行き先を目で追っていた。
そこでしみじみと表情に疲れをにじませるんじゃあない。なんか俺が悪いみたいじゃあないか。
天の声『十中八九お前が悪い』
小動物的なけーちゃんの可愛さが引き立って良いけれどね。
けーちゃんの可愛さに俺もつられて見ていると、廊下の先にいろはの姿を見つけた。
いろは「あ、いたいたはちくーん」
職員室での話を終えたのだろう。いろはが戻ってきた。確認と打ち合わせが終わったのなら、これで俺たちの仕事は終わりだ。俺、何もしていないし何なら川崎にボコボコにされただけだけど。エメラルド・ヒーリングを早くプリーズ!
いろは「沙希先輩にけーちゃんじゃあないですか。けーちゃん、久しぶりですね♪」
京華「あー!いーちゃんだー!」
いろは………というよりはエリナ大好きのけーちゃんはいろはを見つけるや否やラン&ガンで飛び付く。
いろはも慣れているのでけーちゃんを難なく受け止めた。
これが基本世界の一色ならば不良っぽい川崎に怯えるのだろうが、川崎といろはは既に知り合い出し、知り合いじゃあなかったとしても不良っぽいってだけでたじろぐようではジョースター家と上手くやっていけない。
何故ならジョースター家の大半は不良又はギャングなのだから。
川崎はいろはにジャレつくけーちゃんを見て優しく微笑むと、ガラスの引き戸に手をかけた。時間も時間なので保育士さんに挨拶してそろそろ帰るつもりらしい。
沙希「じゃあ………」
半身で振り返ってそう言うと、けーちゃんの手を引く。
京華「えー!まだいーちゃん達と一緒にいたいのにー!」
沙希「けーちゃん。もう、遅いから。みんな心配するから早く帰るよ」
京華「はーい!」
最初はむくれていたけーちゃんも、川崎に諭されると聞き分けよくその手を握り返し、空いていた手を上げ、大きく振ってきた。
京華「ばいばい!いーちゃん、はーちゃん!」
いろは「ばいばい。けーちゃん」
八幡「おー、じゃあな」
俺達も軽く手を上げ、振り返した。
二人を見送っていると、横にいたいろはが遠ざかる川崎姉妹から俺に視線を移す。そして、けーちゃんを見ていた慈愛の表情から一変させて呆れ顔になる。
いろは「で、少し離れていた間に何でそんなにボロボロになってるんですか?また余計な事を言って沙希先輩をおこらせたんじゃあないですか?」
あらまぁバレてぇら。
いろは「まったく………相変わらずハチくんは余計な事しいでどうしようもないですね」
そう言っていろははナイチンゲールを出現させ、エメラルド・ヒーリングで俺をなおしてくれた。
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