side比企谷八幡
校舎を出ると、軽めのジョギングをするようなペースですぐにコミュニティセンターへと向かう。
ほら、ダッシュをするとまた色々と騒がれるし……
天の声「今更だ」
八幡「ここだな………」
コミュニティセンターへ到着し、別に重くもない鞄を背負い直して外壁をぐるりと回って確認する。
仗助が後始末したのか、昨日のドンパチの痕跡は無い。
入り口まで歩いていくと、後ろから駆けてくる足音がする。
「ハーチ君っ♪」
声と共に、背中にとーんと軽い衝撃。だが、振り返るまでもなくそれが誰だかわかった。この15年間、毎日のように聞いた声だし、俺をハチ君と呼ぶのは一人しかいない。
八幡「ああ」
答えながら振り返ると、やはり声の主は一色いろはだった。いろはは不満げにむーっと頬を膨らませて俺を軽く睨む。
いろは「リアクション薄すぎませんかね」
八幡「や、いつもの事じゃね?つうか、なんで今日に限ってちょっかいをかけてきたの?」
路上で偶然ってのは珍しいことではあるが、こういうのはほぼほぼ毎日のやり取りで慣れてしまっている。
いろは「やだなー、素にきまってるじゃあないですかー」
いろはは片手で頬を押さえ、はにかむ。それもエリナがワインを飲んだときのような表情まで作って。
それ、ズルい。卑怯。それやられると何も言えなくなってしまうじゃあないか。
いや、わざわざあざとくやらんでも……。と、いろはの手元を見てみると、お菓子やペットボトル、それに軍手や市が指定しているゴミ袋、雑巾にエトセトラエトセトラ……。
うん。お菓子やペットボトルとかならまだわかる。財団からの差し入れ的なね?
でも、軍手とかゴミ袋とかって何?大掃除でも始めちゃうのかしらん?
キッカリ領収書を貰っているところを見る限り、経費で落とすんだろうけど………予算降りるの?まだ総武と海浜総合の合同イベントが本採用されてないよね?
頭に疑問符を浮かべながらも、俺はいろはの持つ袋をこっちに寄越せと無言で手を伸ばす。
ギュッ♪
いろは「……………」
八幡「……………」
いろはが俺の手を握手するように自然と繋ぐ。
うん。普段ならばそれで正解なんだけどね?
いろは「???」
固まる俺に対していろはは疑問符を浮かべる。
八幡「………や、荷物」
ほら、前世を思い出して以降はどちらかと言えばディオっぽさを前面に出しちゃあいるけどさ。一応は俺、紳士ジョナサンの魂も引き継いでるじゃん?
女性が………ましてやいろはが物を持っていたら、然り気無く持ってやるのが紳士ってものじゃん?
やっと自分の勘違いを理解したのか、パッと繋いでいた手を離して羞恥で顔を赤くしたいろはがバタバタと手を振り始めた。
いろは「ハッ!もしかして今紳士的振る舞いをするふりして結局はわたしが手を繋ごうとしているサインに誘導する上にわたしが勘違いしたから悪いという実にしたたかで計算され尽くした行動だったんですか。ごめんなさい姑息ですし紳士とは言い難いのでエスコートプランを練り直してから出直して来て下さい!ごめんなさい」
なにこの娘すごく可愛いんだけど。
然り気無く振られた事なんて気にならないくらいに最近稀に見るレベルで抜群にカワイイとまである。
ジョルノー。最近あまり多くなかった高速お断りが2日連続で来たぞー。何でジョルノがいないときにそれをやるかなぁ。
いやぁ、またまた良いものを見させていただきましたぁーん♪
カワイいろはすを堪能した後に、もう一度いろはの荷物に手を伸ばし、荷物を受けとる。
いろは「ていうか、ハチ君が時々出すそのジョナサンも結構あざといと思うんですけどね…」
八幡「やだなー、素に決まってるじゃあないかー」
俺がいろはに対してあざといのはいつものことである。
時々7割くらいギャグに走るくらいである。
天の声「7割は既に時々じゃあない!」
悲しいかな。紳士スキルじゃあ無かったにしても、いろはによって鍛えられた旦那スキルがオートで発動してしまうんだがな?
訓練された旦那というのは嫁の荷物をオートで持ってしまう物なのだよ…。
悲しいけど、これ、世のお父さんの定めなのよね。
その父の定めー♪ジョージョッ!
そんな話をしながら俺達は予定の二階会議室へと足を運ぶのだが………
八幡「なに?この惨状………」
あちこちにバケツやらトイレ用洗剤やらモップやらがメチャクチャ散乱しており、どう考えても昨日ジョジョがやった戦闘の痕跡が残されていた。
短時間でよくこれだけのものを罠に使用したと感心したくなるまである。
玉縄「やぁ、エリナさん、比企谷君」
いろは「スモーキーさん。お疲れ様でーす」
向こうの生徒会長、玉縄が手を挙げ、こちらに向かってくる。
玉縄「助かったよ。色々と大変なんだ」
あー。神木やら元町やらとかいう意識高い系が色々と会議をかき回したような感じらしいからなぁ。
おまけに昨日のドンパチだし、玉縄も大変だろう。
いろは「いえいえ。その為にハチ君を連れてきましたから」
や、オブザーバーだから基本的に口出しはしないよ?
置物程度の扱いで構わないんだよ?
それに、いろはがいるなら俺は要らなくね?オブザーバーが二人いても仕方なくない?
いろは「はい、ハチ君♪」
いろはが俺に軍手を一組手渡してくる。
や、だからオブザーバーなんだから軍手を渡されても困るんだが………。
つぅか、やることは会議だよね?それとも何をやるのかがもう決まっていて、準備段階に入っちゃってるのかしらん?
だとしたらオブザーバーが作業に入るのはおかしくね?ただの作業員になっちゃってね?
八幡「や、作業するなら俺やいろははいらんでしょ」
玉縄「そんな事はないよ。人手が多ければ多いほどいい。何より時間が押しているからね」
八幡「いやいやいやいや。オブザーバーに作業させるとかは無いだろ」
玉縄「良いから来てほしい。見ればわかるから」
そう言って俺の返事を聞かずに玉縄は先導して歩く。
八幡「何でこんなに散らかってるの?この建物だけ局地的な台風でも発生したの?」
俺がそう言うのも仕方がないだろう。
先に進めば進むほど、散らかり具合が酷くなっていく。
台風一過でもここまでならないんじゃあないかと言うほどの荒れ具合だ。
八幡「あれ?会議室は二階じゃあないの?何で素通りして三階まで行ってるの?」
確か会議は二階でやっていると言っていた。なのに玉縄は迷いなく三階に進んでいる。
玉縄「いや。今日は建物全体に用がある。僕たちの割り当ては三階だ」
八幡「……………何やるの?」
1つだけ確かなことがある。
今日やるべき事はオブザーバーじゃあない。
別の雑用をやらされる為に俺は呼ばれた。騙されたという訳だ。
なんだ?今度はなんの攻撃を受ける?次はどこからだ?いつ来る?俺はここで逃げるべきなのか?
いろは「ふふふふ、逃がしませんよ?ハチ君」
くっ!既にいろはに俺の次の行動が読まれているようだ。
玉縄が向かった先は図書室。
八幡「こ、これは…………」
酷い荒れ具合だった。
本棚は倒れまくっており、本が散乱している。
本棚そのものも壊れている。
おまけに血が付着しているものまである。
その中で、ジョジョとジョルノが本棚を起こしたり、本をまとめたりなどしているが、進んでいる様子が見えない。
八幡「この惨状はなに?」
いろは「ピンク・フロイド戦の惨状です………」
八幡「暴れたなぁ………相棒………」
詳しい資料はまだ目を通していなかったが、昨日のドンパチの激しさが伺える。
まぁ、イタリアにおけるジョルノの戦いじゃあ地区1つが倒壊したりだののドンパチもあったわけし、昨日のドンパチの場合、適切な使い方をされていたら大苦戦は必至だったから、この程度で済んだとも言える訳なのだが。
八幡「…………つまり、オブザーバーとかいうのは俺をここに連れてくるための口実で、本当の用事はここのドンパチの後始末を手伝わせる為?」
ホントにただの作業員扱い?
静「いやぁ、昨日は激しくやっちゃったからさぁ…。早いところ片付けをしないと他の利用者に迷惑じゃん?昨日のドンパチでここ、今日は全面閉館だし。私達がここを荒らしちゃった訳だしさぁ」
玉縄「僕達………じゃあなく、ほとんど君が荒らしに荒らしたんだけどね………」
ジョジョ………お前が台風だったのか………。
透明化の能力を使って罠を張りまくったんだな?
それでこの惨状なのかよ………。
八幡「つぅか、なんで支援部隊は動かないの?こういうのって支援部隊の役目じゃあないの?」
ドンパチの後に起こるこうした後始末は大抵アーシス支援部隊の役目だ。
それが何で今回は俺達で後始末をしてるのん?
静「いやぁ………ほら、昨日は大騒ぎになっちゃって、すぐに警察とか駆け付けて来ちゃったしさぁ……さすがのアーシス支援部隊もそっちの対応とかに追われていた上に、この施設もすぐに閉鎖させられちゃって、後処理をする部署も片付けをする隙が無かったらしくて……」
八幡「や、もう立ち入り禁止解かれてるじゃあないか。なのに何でジョジョ達が後処理を始めてるの?支援部隊に任せれば良くね?」
静「それがこの施設の人達がカンカンでさぁ……原因になった私達で片付けをしろって………」
………確かに1つの施設が丸々1つ、メチャクチャになってるものなぁ…………。
器物破損で関係者が全員しょっぴかれても仕方がない。
いつもの俺達ならばしらばっくれてトンズラするところであるが………。
静「今回は2つの高校の生徒会がやらかしたからね…訴訟問題に発展されたら流石に………」
ジョルノ「雪乃の生徒会活動最初の行事が訴訟沙汰となったらどうするつもりなんだ?八幡。彼女の経歴に傷が付くじゃあないか。散々頭を下げて、後片付けを我々自らやることで溜飲を下げて貰ったんだ。当然、君も手伝うべきじゃあないか?」
ジョルノ………お前、本当に千葉の兄になってしまったな………。
下手をしたら俺や仗助を上回るレベルで。
八幡「ようこそ、千葉の兄の世界へ………ところでジョルノ」
ジョルノ「どうした?八幡」
八幡「ふと気になったんだが、なんでお前までこんなところでこんな後始末をしてるの?」
年末はどこも忙しい。
日本支部に限らず、ジョルノ率いるヨーロッパ支部&パッショーネだって例外じゃあない。
こんなところで悠長に雑用をしている暇なんて無いはずだ。
年末が忙しくないのは、未だに他文化と関係を断っているというセンチネル島くらいのものだろう。
ジョルノ「ああ。ここでのドンパチは僕も関わっていることだからね。少し手伝いをしようと思ったんだ。ヨーロッパ支部もイタリア支部も層は厚い。特にポルナレフさんとフーゴが上手く取り仕切ってくれることだろう。1日2日くらい僕がいなくてもやっていけるさ」
や、理由になってないんだが………。
ジョルノ「それに、今日君をここに来るようにしたのは僕さ。普通に呼んだところで、君は逃げるだろう?」
ん?
俺、ジョルノに何か言われるような事をしたか?
ジョルノ「クワトロヴォルテ……君が何故、僕の車を金色に塗装させようとしたのか分かってね。忘れないうちにお仕置きをしようと思ったのさ。それが終わればゴールド・エクスペリエンスでささっとやってしまうさ」
えっと…………
ああ、確かに大分昔にジョルノの車とスタンドをかけて百○ネタにしようとか考えたことがあったな。
すっかり忘れていたわ。
…………って、今更わかったの!?
そして、それだけの為にこいつはこんな回りくどい事をしたの!?
待つ時間の暇潰しの為にこんな雑用をやっていたの!?
効率よく物事を始末するジョルノが!?」
ジョルノ「仕事の効率化はいくらでもどうにでもなる。長年やっていたわけじゃあ無いしね。でも、君を捕まえるとなると話が変わる。確実に君を捕まえるならば、僕は何だってやるさ」
ジョルノはいろはが買ってきたゴム手袋を軍手の上からはめて、赤い粉が入っている袋を懐から取り出した。
八幡「その赤い粉は何かなぁ?ジョルノくん?危ない薬か何かなぁ?」
ジョルノ「僕がそういう薬の事を大嫌いなのは君も良く知っているだろう?畑潰しを何度も頼んでいるじゃあないか」
傭兵の真似事をしょっちゅうやらされてるよなぁ~。実戦訓練とか称して。アサルトライフル片手に歩兵中隊1つ分くらいとドンパチさせられたよなぁ~……。
ってことはアレか?その赤い粉は………収穫の時は素手で触ると爛れるという、近年までは世界最強と言われていたアレなのか?
軍手の上に、更にゴム手袋をはめたのもその為か?
ヤバい………
ジョルノ「ゴールド・エクスペリエンス!」
ジョルノはゴールド・エクスペリエンスで袋を殴り、中の粉を大量のノミに変えて俺にけしかける。
ゴム手袋をはめた意味あったの!?
直接塗りたくるいつものパターンじゃあないの!?
やべぇ!ノミを攻撃したら間違いなく反射させる能力を使っている!?
しかもノミにたからせるなんてエグい真似を!
痛い!皮膚呼吸がぁぁぁぁ!
ジョルノ「スッキリした。後始末は僕の方でやっておいてあげるさ。君へのお仕置きも、施設の復旧も…どちらの後始末もね………チャオ、八幡」
痛みにのたうち回る俺を尻目に、ジョルノは散乱している物をゴールド・エクスペリエンスで動物に変え、元の場所に戻るように指示する。
それを先にやれよ!わざわざこんなことをするために効率を無視するくらいならさ!
回り道こそ近道ってか!?
ギャアアアアアア!
比企谷八幡(ザ・ジェムストーン)…
←To be continued
後始末は後始末でも、八幡がジョルノに始末される話でした。
相違点
いろはとのやり取りは前日の話と混同(「素に決まっている」と「あざとい」のやり取りは当日。高速お断りが炸裂したのは前日)
高速お断りの前のいろはのリアクション
原作は八幡の手から逃げる→手を繋ぐ
八幡がいろはの荷物を持とうとしたのはお兄ちゃんスキル→紳士スキル。久々にジョナサンモード。
高速お断りの後の八幡の内心は「俺はこいつに何度ふられなくちゃいけない?」→カワイイに悶絶
○式ネタのお仕置きフラグ回収を早速やらせていただきましたぁーん
それでは次回もよろしくお願いいたします