やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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比企谷八幡は幻覚から逃げる

side比企谷八幡

 

放課後の教室でため息を吐いた。

どうせほぼほぼやることが無いのなら、今日この後雪ノ下達の様子を見るためにコミュニティセンターでの会合に出なければならない。

要は財団からのオブザーバー役だ。

その事自体は構わないのだ。

昨日雪ノ下から聞いた話では、現状、海浜総合高校が取り仕切っている。おかげで総武高校は言われていたことだけ、という状態らしい。ブレストバーンだかブレストノヴァだかによって、活発な議論がやりとりされていたらしいのだが、神木によって高かったモチベーションと意識は玉縄のぶった斬り……そして更に続くドンパチによって下げられている可能性がある。

ついでに言えば総武高校側からしてみれば突然沸いた合同イベントによって後手に回っている感じだ。

総武高校生徒会は立候補者不在により、大幅に遅れて発足したばかり。如何に雪ノ下と言えども上手く機能させるにはまだまだ手探りという状態での今回の一件。

正に寝耳に水……だろう。

更に雪ノ下と他の役員との距離感も問題だ。距離感の大きな要因は………まぁ、俺達(アーシス)にあるんだけどね?

なんとか出来れば良いが、それは雪ノ下達の問題だ。何事も新たな体勢の発足には色々とあるものだが、俺がどうこう出来るような話しでもあるまい。

別に相談されているわけでもなし。

それに昨夜、雪ノ下にジョジョが言ったことだが、財団側からすればぶっちゃけ地域と取り組んでいる事をアピール出来れば良い訳なのだから、クリスマスまでにやり過ごせば良い。

内容そのものに期待なんてしていない。

俺はふっと短い息を吐くと、椅子から立ち上がる。

既に教室に相棒の姿はない。そう毎度毎度一緒に行くわけでもないのだ。幼なじみだからと言って四六時中行動を共にしなければいけない訳じゃあないし、どちらかが仕事で不在の時もあれば、単純に気分でバラバラの時もある。これまでもそうだったし、これからもそうだ。

何よりもジョジョと仗助とは、活動する国が変わるのは確実に決まっているからな。

もう一度息を吐いてから教室を出て、特別棟へ向かう廊下を歩いた。

日に日に寒さが増していっているのは間違い無いことだが、どうも1日2日ではその絶対的な差というのは感じ辛い。

今、俺が歩いている冷え込んだ廊下も、昨日とさして変わるわけでも無いだろう。昨日は休んでたから知らんけど。

あの肌寒かった晩秋がどのタイミングで冬に変わったのか、普通に生活しているだけでは知覚できないものだ。波紋の戦士だから一般人より知覚しづらいだけかも知らんけど。

だから、廊下を進んだ先にあるこの部屋も、本当は昨日よりももっと冷たくなって……ないな。冷暖房完備だから。

一度夏場にガンガンに冷たくした奴がいるけど。ジジイが雪ノ下をけしかけて。(柔道編)

部屋の扉に手をかけ、中に入る。

 

三浦「ヒキオじゃん」

八幡「おう」

 

先に来ていた三浦と海老名に軽い挨拶をしながら、俺は自分の椅子に腰かける。

ジジイと仗助の姿はない。仗助は今、こんなところに来ている暇は無いだろう。何せ昨夜は親父達が帰ってこれなかったくらいに仕事が忙しい。なのに一番のトップが忙しくないわけがない。というか、暇をもて余しているくらいなら親父達を手伝え。

 

天の声「一部署に本部社長が手伝いに現れることが異常だろ!部下が困るわ!」

 

ジジイは………ああ、そっか………。

 

三浦「ねぇヒキオ。今日はジョースターさん、どうしたん?」

 

八幡「公安委員会」

 

三浦「公安!?何やらかしたん!?」

 

八幡「スピード違反。罰金の払い込みに講習」

 

本来だったなら徐倫が受けるべき違反者講習だったんだけどね?結構良いスピードを出していたみたいだったから、減点が大きいらしい。下手をしたら先月の駐車違反も加算すれば停止か取り消しを食らうレベルの。

車の名義がジジイだったから、難なく庇うことが出来たけど。

 

三浦「ああ。そっちの公安委員会ね。あーしはてっきり……」

 

八幡「や、普通は俺達一般人が関係する公安委員会って、免許センターの公安委員会だろ。ドラマとかみすぎじゃね?」

 

三浦「あんさー。あーしらの場合はヤバい意味での公安の方のが関係ありそうじゃん?」

 

否定出来ない………だと?

 

 

sideジョセフ・ジョースター

免許センター

 

係員「はい。違反者講習ですね?しかし、また随分とスピードを出しましたねぇ?」

 

ぐっ!徐倫め……一体どれ程のスピードを出して暴走しておったんじゃ?完全に赤切符じゃあないか!

わしの目の前には、やる気の無さそうな承太郎くらいの警官の受付が、わしの対応をしておった。

こういう所に配属される警官は、出世から外れておる場合が多いからのう。

 

係員「ジョセフ・ジョースターさん……ジョセフ・ジョースターさん……おやおや大分お若いようですが、ここに記載されている年齢でお間違いないですか?」

 

この数年、免許に限らず年齢が絡んでくる確認でまず聞かれるのがこれじゃな。

実年齢と肉体年齢が噛み合っておらんから、いつもここでひと悶着あるんじゃ。最悪は偽造を疑われて県警本部から人が寄越されるんじゃ。

 

係員「すいませんが、戸籍を確認できる物はございませんかねぇ。流石にその見た目でそのお歳は………」

 

ジョセフ「構わんよ。いつもの事じゃからな」

 

もうこういうやりとりは洋式美みたいなものじゃ。こういう時は戸籍謄本なりマイナンバーカードなりは言われる前に持ってきておる。

印鑑証明も実印も何もかもじゃ。

 

係員「すいませんねー。規則なものでして……しかしもうじき100歳となられるようですし、免許の返納も考えられてはいかがでしょうかねぇ?」

 

ぐ………やはり来たか………。

 

ジョセフ「問題ないよ。ワシはボケも無ければ健康診断の結果も健康そのものじゃ。ほれ、視力だって裸眼で2.0じゃ」

 

係員「あのねぇ、お爺さん。ボケてる人はみんなそう言うんですよ。自覚が乏しいのが認知症って奴ですからねぇ?」

 

この若造めぇ………。このワシを認知症扱いしよってからにぃ!

 

ジョセフ「じゃからここに認知症の疑いは無いと書いてあるじゃろうが!」

 

これも毎度の事じゃから、認知症の検査結果の診断書を持ってきておる。

医療に関しては世界の最先端を行く財団直営の病院の診断書じゃ。

もちろん、口裏合わせをして書かせたとかはしとらんぞ?しっかりと規定通りの検査を受けた上での診断書じゃ。

波紋の修行の成果といろはのエメラルド・ヒーリングのおかげじゃな。総入れ歯になった歯はジョルノにやってもらった。

じゃから、わしの体は何一つ、悪いところのない健康そのものじゃ。これで何も言えんじゃろ。

 

係員「しかしですねぇ。今回、こんな違反をしてしまった訳じゃあないですか。今までは大丈夫でも、認知症はある日突然なりますからねぇ。死亡事故とか取り返しの付かない大事故を起こしてからじゃあ遅いんですよ?もう先も長く………こほん、失礼」

 

ジョセフ「余計なお世話じゃこの若造!余計な説教など要らんから、早く違反者講習の手続きをせんか!」

 

この若造めが!『もう先も長く………』の先の言葉を言い切っておったら、カウンターを乗り越えて脛に蹴りを入れておったところじゃぞ!これだから日本人って奴は嫌いなんじゃ!

 

係員「あのですねぇ………私はあなたの為に言ってるんですよ?事故というものは………」

 

若造は使命感に燃えたのか、クドクドと説教を始めおった………ワシの後ろには徐々に列が伸びていく。

 

「何だよ早くしろよ!」

「講習が始まるだろ!」

「良いから親父は早く終わらせろよ!」

 

後ろからブーイングが……。

 

係員「ほらほら。皆さんの迷惑にもなりますし、ここは免許返納の手続きを………」

 

ジョセフ「お前が余計な事を言うからじゃろうが!はやく講習受講の手続きをせんか!勝手に免許返納の手続きを始めようとするんじゃあない!書類を用意しようとするな!」

 

係員「え?ではこちらで記入をしましょうか?」

 

ジョセフ「余計なお世話じゃあああ!」

 

小さな親切、大きなお世話じゃ!頼んでも無いことを勝手にするんじゃあない!頭パープリンなのか!

視界の端には、待ち合いのソファに座っておる徐倫が愛想笑いを浮かべながら「ゴメン……」的なハンドサインを送って来ておる。

流石に責任を感じておるのか、代休を取って付いてきよったのじゃが、お前がいても何の助けにもならんわ!

それと余計な事をせんでええわ!疑われるじゃろ!

ええい………面倒な………。肩揉みじゃあやすかったかのう?

 

 

side比企谷八幡

 

生徒会も不在。まぁ、コミュニティセンターに行っているんだろう。

俺は俺で今日は不在にすることを伝えなくてはならず、ジョジョに一言言っていこうと思った訳なのだが……。

今日に限ってはまだ来てないなぁ……。

仕方がない。

 

八幡「今日は先に帰って良いか?」

 

言いながら、メモ帳を閉じる。すると海老名と話していた三浦も会話を打ち切り、俺へと視線を向けた。

 

三浦「ああん?」

 

何でそんな下手なヤンキーよりも迫力ある返事が返ってくるんですか?あーしさん?

三浦が確認するように窓の外に目をやる。夕暮れには少し早い。いつもならまだ、部室にいる時間だ。

生徒会がいないから、一時的にブードキャンプは無いしな。

 

三浦「今日はブードキャンプもないんしょ?何かあるん?」

 

八幡「財団関連の仕事。っつうか雪ノ下達のオブザーバー。暇なら手伝えとよ。今日はジジイも仗助も、何故かジョジョも小町もいねぇから」

 

本当の事なのだから素直に理由を言う。

 

三浦「あー………合同イベントのね」

 

八幡「ああ。同じ高校生がオブザーバーやった方が変に緊張しなくて良いからじゃあないの?半分支部長の仕事から降りているようなものだし。多分だけど」

 

次の役職って実際名誉臨時職みたいな感じだから仕事は無いしね?

 

海老名「そっか。だから今日、主だった人達がみんないないんだ」

 

海老名も納得いったように言った。

むしろ俺が納得いってないんだけどね?なんでみんないないの?

聞いてないよ?俺、一応は副部長だよ?アーシスからもとうとうハブられるようになっちゃったの?

 

八幡「そ、そういうこと。じゃあな」

 

海老名「はーい♪劇だったら私がシナリオ書くからね?」

 

釈然としないものの、椅子から立ち上がる俺に海老名が声をかけてくる。

海老名よ………だが断る!文化祭の時のようなタイトルに(腐)とか、「ドキッ!男だらけの…」とかの文字が付くようなシナリオを書かれてたまるか!

その手のネタは禁止だって言ってるだろ!地元メディアから叩かれて財団の広告ツイッターが炎上するわ!

海老名の本気か冗談かわからない立候補を完全に無視して、俺は部活を後にする。後ろでは海老名が今度はどういうカップリングとシナリオについてあれやこれや話し始めていた。

……………海老名のバイトのポジションは合同イベントから遠ざけていた方が良さそうだ。いっそバイトの採用通知を取り下げるように仗助に言っておこうかな…。

音のない廊下では、扉1枚を隔てても二人の話し声が聞こえてくる。

ついでに海老名が発しているであろう「腐」のオーラというべきモヤの幻覚が見える。

その幻覚から早く逃れようと、必死の思いでその廊下の窓から飛び降りた。

 

←To be continued……




はい、今回はここまでです。

それでは原作との相違点。
コミュニティセンターへ向かう理由は個人的に受けていた生徒会への手伝い→財団の雑務

生徒会の不和は、いろはが一年生であることで色々と出てきている→発足したばかり

八幡が教室で姿を確かめようとしたのは結衣→静

原作奉仕部に冷暖房があるかは不明(多分ない)→冷暖房完備

部室に入った八幡に声をかけたのは結衣→不在なので三浦

部室で話しているのは結衣と雪乃→三浦と海老名。八幡との会話についてもアーシス風に差し替え

ジョセフの免許センターでの受難を加筆

ついでに徐倫が不在

八幡が早退する口実はパーティーバレルの予約(実際に頼まれてはいるが、本当に口実)→嘘をつく理由はないので、本当の理由を話す(雑用)

雪乃が早退する八幡に送ったのは受験生の小町への激励の言葉→海老名の腐の野望

八幡は後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去った→海老名の腐の呪いから逃れる為、窓から飛び降りて逃亡した

それでは次回もよろしくお願いいたします


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