side由比ヶ浜結衣
結衣「………確かにヒッキーはやり過ぎだよ。トラウマになっちゃっても仕方がないとは思う… 」
あたしは神木の過去の話を聞いた。
何故神木がジョースター家やスタッチやヒッキー、それに財団を恨むのか。
何故ゆきのんを攻撃したのか……。
確かにヒッキーは……それにジョースター家は本気で怒らせると怖い。
やり過ぎだと思うことは良くあるよ?
1学期の時のあたしやゆきのんに対する態度もあるしさ。
でも…………。
結衣「それ以外のSPW財団やジョースター、ゆきのんの実家………はともかくとして、ゆきのんを恨むのは違うよ!」
ゆきのんの実家はアレだった。ブラッディ・スタンドやジョルノ社長のお母さんが関わってるし、それが理由でSPW財団はゆきのんの実家を攻撃してきたんだ。
うん。汐華は原因。
でも、ゆきのんやはるのんさんは関係ないよ!
恨むべきは雪ノ下本家だよ!あたしだって柱の一族にされかかって恨んでるし!
結衣「まだまだあるよ!確かにSPW財団が君のお父さんを雇わなかったってあるけどさ……それって君のお父さんがSPW財団の要求する能力に達していなかったって訳じゃん!逆恨みも良いところだし!」
アーシスっていう形でSPW財団と関わっているあたしならわかる。
SPW財団は実力主義だ。SPW財団が神木のお父さんを雇わなかった理由には、何かあったんだと思う。※1
結衣「スタッチやヒッキーの事だってそうだよ!あんなヒッキーだけど、スタッチにとっては大事な幼なじみで相棒だったんだから!」
ヒッキーは小中学生だった頃の事をあまり話してくれないけど、いろはちゃんや小町ちゃんから聞く限りでは二人だけの孤独な学生生活だって聞いてた。
実際、あたしが奉仕部に行く前までの二人もそういう感じだったと思う。
ううん。二人だけじゃあない。優美子も姫菜も、同じグループにいながら実質は二人だけの関係だったかも…。
スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う……。
あたしが優美子達の中にいたのもあたしが無意識なスタンド使いだったからかも知れない。
ただでさえ生まれつきのスタンド使いは周囲と解り合えない孤独さで交遊範囲は狭いよね。
スタッチ、ヒッキー、いろはちゃん、小町ちゃん、それに康穂ちゃん達幼なじみーズは……今のアーシス学生組になるまでどこまでも1つだったんだ……。
そこに他人が入るのを嫌ったんだね……。
それに、ヒッキーが怒るのだってわかるし、そのやり方が最低だよ。
結衣「ヒッキーが無抵抗なのを良いことに………数人で取り囲んで、その上でいろはちゃんや小町ちゃんまでもいじめようとしていただなんて………そんなの、ヒッキーが怒って当然だよ!」
誰だって理不尽に家族に手を出されれば怒るに決まってる。特にジョースター家の人達は家族愛が強すぎるから。
ホリィおばあちゃんやヒッキーのお父さんなんて特に家族愛が強い。
邪悪の化身だったヒッキーの前世?のディオの愛を信じない気質だって解かしちゃうくらい、家族愛が強い二人だから………。
結衣「スタッチやヒッキーが悪くないなんて言わない。あんたの境遇に同情出来ない部分がないわけじゃあない……でも。あたしは……あんたが好きになれない。あんたなんて………大ッキライ!」
神木「うるせぇぇぇぇぇぇ!テメェに何がわかるっつーんだよォォォォ!もう良い!テメェなんて………テメェなんて死んでしまえぇぇぇぇ!」
神木は、あたしにとどめを刺そうと写真を………
バイバイ………ヨッシー………。ゆきのん……スタッチ……ヒッキー………。
side雪ノ下雪乃
雪乃「ハァ………ハァ………コォォォ………」
何とか建物の一階にまで逃げることが出来たのだけれど、由比ヶ浜さんが心配だわ………。
折本「会長。大丈夫?」
玉縄「コレが大丈夫に見えたのなら、君は眼鏡を作ることをお勧めするよ………」
玉縄君は失った腕の部分を押さえ、苦しそうにしているわ。
今は私のフリージング・ビームの能力、『概念を凍結させる能力』で『痛みの概念』を消して、傷口を凍結させることによって出血を抑えているのだけれど……。
この能力は時間が経過すれば効果は消えてしまうし、だからと言って重ねがけをするわけにもいかないわ。
凍傷が心配だものね………。
雪乃「会場に戻るわ………由比ヶ浜さんを助けなければいけないもの………」
折本「雪ノ下さん。神木の能力がわかったの?」
写真に写っている被写体を傷付けると、写真が傷付いた部位も傷付く………そこまではわかってるわ。
でも、弱点がわからない………。
玉縄「く………神木君がこんな大それた事を始めるなんてね……。僕に対して悪い感情を持っていた事はわかっていたけど………もっと理性的な人間だと思っていたよ………あんな能力を持っていたなんてね………」
そうね。神木君があんな能力を持っていたなんて意外だったわ………。
折本「そりゃ会長は学校で1番勉強が出来るし、普通にイケメンだから女子に人気があるじゃん?神木みたいに中途半端なイケメンじゃあ、総武高校の葉山君はともかく会長にだって敵わないって。ウケる」
この状況じゃあ受けないわよ?折本さん。
仲町「しっかし、参ったなぁ……入り口は1つしかないし、人質は取られてるし……」
ハッ!
この場所には彼女がいたわ………。
神木君は追ってくる気配はないし、射程が短いのかも知れないわね……。
どうにかこっそり接近して由比ヶ浜さんを救出する手段が無いかを考えていたのだけれど……彼女なら……。
雪乃「仲町さん………あなたの能力を貸して貰いたいのだけれど………」
海浜幕張コミュニティセンター
外壁………
仲町「……………(パクパクパクパク)」
仲町さんがブツブツ文句を言っているようなのだけれど、音の無い世界では何を言っているのかわからないわ。
仲町さんのスタンド、ラブ・ユー・クローズの能力よ。
音もなく、こっそり近付く為には、仲町さんの能力が必要だったわ。
そして…………
仲町「……………(さむい〰️……滑るぅ〰️……何で私が実行部隊のようなアクションを〰️……)」
外壁を昇る階段は私のエンジェル・ダストで作っているわ。
こんなに氷を作るのは初めてだから、私のスタンドパワーが持てば良いのだけれど……。
仲町さんの文句が聞こえてくるようだわ。
自分の能力だから私には影響は無いのだけれど、この冬の寒空……それも陽が落ちつつある夕方の時間帯に、防寒具も無く氷の外壁を登っているのだもの。
寒いのは仕方がないものね。
総武高校もそうだけれども、海浜総合高校もスカートが短い方だから、余計に下半身の寒さがキツいと思うわ。
折本「下からスカートの中身が………」
階段を昇っていない折本さんが下から私と仲町さんを見上げて言ってくるわ。
言わないでくれるかしら?折本さん。
出来ればこんな真似はしたく無かったのだけれど、非常事態だもの……。私は考えないようにしているわ。
運動神経が良い方では無いのか、仲町さんは時々ツルツル滑って落ちそうになっているわ。
時々、文字を実体化させる能力を足場に使って滑らないようにしていたわ。
ごめんなさいね?仲町さん。
音を消す能力の範囲をなるべく絞りたいの。
チョンチョン………
雪乃「?」
仲町さんはスタンドのイヤホンを私に渡してくるわ。
仲町「…………」
ゼスチャーで耳に嵌めるように言ってくる。
仲町さんの能力は3つ。
任意の範囲の音を消す。
声の文字を実体化させる。
そして………任意の範囲の音を拾う………。
広瀬康一さんの能力とは別種の音のスペシャリストの能力ね。
ス……と仲町さんがメモを渡してくるわ。
『そのイヤホンみたいなのがラブ・ユー・クローズの本体みたいな物だから、くれぐれも壊さないようにしてね?』
良く見ると、このイヤホン……細かい手足が付いていて、目や口みたいなのが付いているように見えるのだけれども………。これを壊したらダメージがフィードバックされてしまうのね……。
城廻先輩のシンデレラ・ハーヴェストよりも更に小型のスタンドだから、間違って潰してしまわないように気を付けないと……。
『PS これ、完全に時間外労働だからバイト代出るよね?広瀬隊長、出してくれるよね?実行部隊の時給で!』
さぁ………?太っ腹なSPW財団だから多分、出してくれるとは思うのだけれど……。
私にも出るわよね?貧乏な苦学生なのだから、ただ働きは御免だわ。
仲町さんも由比ヶ浜さんと同じで、そういうところはしたたかなのね?
手で受け取ろうとするけれども、触れることは出来なかったわ。これはスタンド体なので、本体の仲町さんか、同じスタンドでなければ触れる事は出来なさそうね。
私はエンジェル・ダストでラブ・ユー・クローズを受け取る。
仲町「!!!!」
冷たそうに声にならない悲鳴をあげる仲町さん。
ああ、氷そのもののエンジェル・ダストでスタンドに触れたから、冷たさがそのまま本体の仲町さんまで伝わってしまったのね。
本当に今日は貧乏くじね?仲町さん…。
私はラブ・ユー・クローズを耳に当てる。
雪乃「!!」
ラブ・ユー・クローズの手足が私の耳を掴むわ。
スタンド側が本体側以外の人物に触れるのは可能だけれども、こうして掴まなければならないのね?
み、耳がくすぐったいわ……。私、耳が弱いのよ……。
私はくすぐったいのを我慢して、その内容を聞く。
………すぐにくすぐったいのを感じなくなったわ。
神木君の身の上話……。
ジョースターさんとのトラブル、比企谷君とのトラブル、そして経営が傾き始めた雪ノ下建設からリストラされた父親の身の上話、SPW財団に不採用された話、まとまった収入を得られなくなった家庭の不和……。
それで恨まれているジョースターさんや比企谷君、玉縄君に………そして私達姉妹。
同情出来るところもあるけれども、だからと言って面識がない私まで恨まれるのは筋違いだわ。
痛みで喘ぐ由比ヶ浜さんの声が聞こえる。相当酷い目に遭わされたのね……。
それでも負けまいと叫ぶ由比ヶ浜さん。
………あなたは私の自慢よ。自慢の親友だわ……由比ヶ浜さん。
もう少しの我慢よ、由比ヶ浜さん………もう少しでガラスを破って奇襲を仕掛ける事が出来るわ………。
私は慌てず、されど急いで由比ヶ浜さんがいる多目的ルームの外の窓へとたどり着く……。
神木「うるせぇぇぇぇぇぇ!テメェに何がわかるっつーんだよォォォォ!もう良い!テメェなんて………テメェなんて死んでしまえぇぇぇぇ!」
死ぬのは……あなたよ!神木子門!
雪乃「…………!(エンジェル・ダスト!)」
ラブ・ユー・クローズの効果で私の声も、そしてエンジェル・ダストがガラスを殴り割って背後から奇襲する音も無く、神木子門の背中を蹴り飛ばすわ。
仲町「戻って!ラブ・ユー・クローズ!………さ、寒いよ〰️!」
お疲れ様、仲町さん。本当に助かったわ。
結衣「ゆきのん!」
雪乃「由比ヶ浜さん!」
私は急いで由比ヶ浜さんにフリージング・ビームを発射するわ。
なんて酷い傷………。
右腕を除いた手足の全てに穴が空いてしまっているわ。
波紋の戦士でもないのに、こんな酷い傷で良く耐えていたわね……。
少し冷たいけれども、我慢して頂戴ね。
雪乃「良くも関係のない、由比ヶ浜さんに、ここまで酷い傷を………許せないわ……神木子門!」
神木「許せねぇのはこっちのセリフだ雪ノ下雪乃ぉぉぉぉぉぉ!テメェら雪ノ下が不甲斐ないから俺達元社員の家族がこんな目に遭うんだ!報いを受けろ!」
そんな……一気にとどめを刺さなかったのがいけなかったわ………。
神木子門は………まだ写真を手放していなかった。
彼はペンを振りかぶり……
神木「死ねぇぇぇぇ!雪ノ下雪………」
ヒュウウウウ………
外から吹き込んできた冷たい風が………神木子門の手に収まっていた写真を飛ばす。
神木「………え?」
写真は部屋の入口の方まで飛んでいき……。
結衣「久々だったから不発かと思ったよ………リバース」
R・T「中々効果が現れなくて申し訳ございません。マスター」
そう………リバース・タウンが既に触れていたのね。
ここ一番と言うところで、触れた者に不幸を見舞わせるその能力が………。
雪乃「片腕だけで充分かしら?由比ヶ浜さん。あなたもここまでやられたからには……仕返しをしたいんじゃあ無いかしら?」
結衣「うん………ゆきのん……肩を貸してくれる?」
雪乃「ええ……」
私は由比ヶ浜さんに肩を貸して、神木子門の所へ行くわ。
神木「な、なんだよ………写真が無くなったって言ったって、女二人なんてどうにでも出来るくらいにはケンカ出来るんだぜ?」
そう。
でも、私はスタンド使いだし、波紋の戦士よ。
例え生身だったとしても、あなたなんかに負けはしないわ。
雪乃「私も……ジョースターさんや比企谷君程では無いけれども、波紋の戦士なの。比企谷君と同じ事は、私も出来るわ………」
9歳の頃の彼と比べても、多分私の方が波紋や格闘技は弱いわ。
けれど、ただのケンカ自慢に負ける私ではないわ。
例え波紋が使えなくても、こんなケンカ自慢には私は負けない。
雪乃「準備は良いかしら?由比ヶ浜さん」
結衣「うん………」
私と由比ヶ浜さんはスタンドを展開する。
雪乃「覚悟は良いかしら?下衆……あなたにラッキーはもぅ、二度と起こらない!」
結衣「もう謝っても許さないんだから!」
神木「へ!何を許さないと………」
大した自信ね。近距離パワー型のスタンドを
E・D「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃ!」
R・T「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ドバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ
エンジェル・ダストの両腕とリバース・タウンの片腕のラッシュが神木子門の全身をくまなく殴るわ。
ぶっ殺す………そう思ったときには既に殺し終えているのがパッショーネよね?ジョルノ兄さん。
神木子門は壁まで飛んでいき、倒れる。
明日からは素晴らしい矯正施設の監獄生活よ。
私の両親と仲良くすることね?
神木「がふ………一体………何が………俺を………」
???
おかしいわ………何かとんでもない思い違いを私はしているのでは無いのかしら………。
私と由比ヶ浜さんは確かに正面からスタンドのラッシュを神木子門に叩き込んだわ。
なのに彼は何が起きたのか……わかってない?
もしかして………彼は………。
ドサッ!
私は由比ヶ浜さんと一緒に倒れ込んだ……
手足の感覚が……ない。
目を向けると………私の手足は切断されていたわ。
由比ヶ浜さんも………仲町さんも…………。
あの写真のスタンドの本体は………神木子門ではなかった。
彼は………スタンド使いじゃあ無かったのね……。
私は入口に目を向けるわ。そこには……写真を手に取っていた玉縄君の姿があったわ………。
神木子門(能力なし)…
雪ノ下雪乃(エンジェル・ダスト)…
由比ヶ浜結衣(リバース・タウン)…
仲町千佳(ラブ・ユー・クローズ)…
←To be continued
※1
由比ヶ浜は知らないところであるが、初代会長であるスピードワゴンの遺言により、SPW財団はジョースター贔屓なところがあり、完全な実力主義とは少し違う。
基本的に有能な集団ではあるのだが……。
神木の父を雇わなかった理由については、既に日本支部でジョースター建設でノウハウを確立していた為、欲していた戦力は地域密着に即した現地の営業や千葉の建築を熟知している設計者、技術職などを中心に雇用。
管理職については雇用していなかった(ブラッディ・スタンド使いを特に警戒していた事も要因の1つ)。
神木の父親はブラッディ・スタンド使いでは無かったが、管理職故に従来の雪ノ下のやり方と、ジョースター建設のやり方との柔軟なすり合わせが上手く整合できず、不採用となる形となった。
フェイク・フロイドとはスタンド名に非ず!
偽物のスタンド使い!
ピンク・フロイドの本当の使い手は!?
敵を倒したと思いきや、本当のスタンド使いは別にいた!健闘虚しく再起不能となった雪乃、結衣、仲町!
犯人は玉縄なのか!?
それとも別の誰かか!
急げ!幼なじみーズ!