side比企谷八幡
八幡「うーん………」
中途半端に目が覚めた。
今は夜中の4時半。二度寝するには中途半端だし、かといって何かするにも家族に迷惑がかかる。
特に両親なんて朝は早いし夜も早いとは言えない。せっかくの休日で無駄無駄無駄ぁに起こしてしまうのも可愛そうだろう。
SPW財団と言えどもそこは一般の会社と変わらない。
母ちゃんは今日も屍生人のように這って布団から這い出てくる事になるだろうし、親父は昼間で爆睡だろう。
母ちゃんで思い出したが、あの人(誰とは言わない)はなんであそこまで若々しいんだろうか?あの人も波紋の戦士か何かなのかな?
白◯『知りたい?』
いえ、やっぱり良いです。逆に知るのが怖くなりました。俺達には出来ないことを平然とやってのける人だからな。そこに痺れる憧れる……という事で。
真空管ハゲの時にも思ったが、何であの人の声が聞こえて来るんだろうね?不思議だね?
これ以上の事は考えるだけで無駄なんだ。無駄無駄。だから俺はこれ以上考えるのをやめた。素数でも数えている方が丁度良い。ヤレヤレだぜ。
その秘訣とやらは母ちゃん本人ににでも教えてあげてやれば良い。悪◯の駒を渡すのはなしでね?
現実的な話をするとして、今度近くの健康ランドにでも誘ってみるかな?家族(一色家を含む)水入らずで。特に家族大好きな親父なんかは泣いて喜ぶに違いない。
風呂上がりに男三人で腰に手を当ててフルーツ牛乳なんかを並んで一気飲みをし、マッサージチェアーに並んで座って下らない話に興じる。
女性陣なんかはマッサージやら岩盤浴やらで時間がかかるかな?
いろはのエメラルド・ヒーリングや小町の波紋入りの肩揉みとかでも一発なんだろうけど、マッサージはマッサージでまた別の気持ち良さがあるのだとか。
それで女性陣と合流してからはカラオケコーナーとかで大して上手くもない歌声を披露して、それをからかい合いながらも楽しく談笑し、大人組はアルコールが入っているから段々ギアが入って来て……。
うん、悪くない。……どころかすごく良い。考えているだけでも楽しくなってきた。
昼間にでも提案してみよう。
近所に住んでいるジョジョや仗助、徐倫にも声をかけてみるかな?特に徐倫はお疲れのようだし。
天の声『誰のせいだと思っている』
あまり大所帯で行くのもあれだから、後はジジイや承太郎、朋子さんまでかな?
夜の暗闇の中で考えてみる。
ん?そう言えば………。
八幡「俺の方が早く起きるのは珍しいんだよなー」
こういうときこそ、あれだな。
思ったら即行動!
俺はパジャマから普段着に着替え、財布を持って家族を起こさないように部屋を、そして家を出る。
といっても『ブリーフ&トラン◯ス』のようにコンビニに行くわけじゃあない。行き先は………。
玄関を出て徒歩数歩。某国民的な野球アニメのように隣の家の壁が無くなり、道路に出るまでもなく目的の場所まで行けるのは凄く便利だ。あっても飛び越えるだろう?とかいう野暮な突っ込みは無しね?
なんの事は無い。隣の一色家である。
八幡「えーと、確かこの辺に………」
財布を取り出し、目的の物を探す。あったあった。一色家の玄関のカードキーだ。
普段からいろはや一色家の家族がフリーパスで家にいるように(たまに典子さんとかが掃除に来たり、親父同士で宅飲みとかしている)、当然我が比企谷家……と東方家のみんなも一色家の合鍵は持っている。
なんか田舎のご近所付き合いみたいだな……。
カードキーをかざし、暗証番号を入力して……。解錠完了。
八幡「お邪魔しまーす……」
抜き足……差し足……。
おや?もう誰かが起きてるのか?
典子「あら?ハチ君?こんな朝早くから珍しいわね?」
いろはの母、典子さんだった。
八幡「おはようございます。義母さん」
典子「おはよう。どうしたの?こんな朝から?ハッ!ま、まさか夜這い!?い、いけないわ!いくら家族同然の付き合いだからってこんなおばさんに夜這いをかけるなんて何を考えてるの?わたしには主人もいるしハチ君の事は息子としか思えないし色々と無理よ!ごめんなさい!」
八幡「義母さんの高速お断りを聞くのも実に久々ですね?もちろんそんなわけないじゃあ無いですか。俺はいろは一筋なんですからわざわざ振らなくても良いですよ」
何が悲しくて最愛の恋人の母親に夜這いを仕掛けなければならんのじゃ。や、典子さんは典子さんで美人だよ?いろはの母親だし、何よりも承太郎と人気を二分したとも言われる花京院の親族だけあって、凄く容姿が整っているし、若々しい。いろはの姉と言われても違和感が無いだろう。
だが、だからと言って典子さんに夜這いをかける訳がない。
八幡「もちろん違いますからね?いろはにですから」
典子「ハチ君?いくら婚約しているからと言っても、いろはに夜這いをかけるのはどうかと思うわよ?」
八幡「や、そうしたいのは山々ですけどしませんよ?大体、こんな時間でかけるのって既に夜這いでは無いんじゃあ無いですか?既に朝這いって言いません?」
そんな言葉は無いけどね?
八幡「少なくともそこまで疚しい理由で来たわけじゃあ無いですよ。そこは信用してください」
でなければ堂々と典子さんの前に姿を見せない。時間を止めていろはの部屋まで一気に行っている。
俺は目的を伝える。微笑ましいちょっとした願望だ。
典子「そう。まぁ、いろはを傷つけないならば構わないわ。程ほどにね?」
八幡「はーい」
俺は典子さんの横を通りすぎ、二階に上がっていろはの部屋に行く。
子供の頃は……それこそ小町が生まれる時なんてはこの家に預けられて1週間は生活していた勝手知ったる家だ。もはや第2の自宅と言っても過言じゃあない。
八幡「お邪魔しまーす……」
むわっと鼻孔をつく年頃の女の子の匂い。そして俺が一番安心する本物の匂い。
いろは「すー………すー………」
規則正しいいろはの寝息が聞こえる。
何度か寝返りを打ったのか、少し布団が乱れている。
八幡「………………」
俺はいろはを起こさないように静かに歩くと、机の椅子を引っ張り、そこに座る。
いろは「すー………すー………」
八幡「…………」
その寝顔をただただ黙って見る。
どこを触るでもなく、起こすわけでもなく、その寝顔を眺めるだけだ。
それだけでも楽しいし、飽きない。
八幡(なるほど………いろはは普段、こうして……)
特に休日とかや旅行に行った時なんかがそうだが、目が覚めるとこうしていろははベッドサイドで何をするでもなくニコニコして俺を眺めていたり、時には布団に入り込んで抱きついているときもあった。
妙なイタズラをしてくる事も少なくないが。
だが、逆にこうしてみると気持ちもわからなくはない。
ただただ寝顔を眺めている……それだけで何とも幸せな事か………。
八幡(ん?)
改めてよく眺めて見ると、最近いろはは……。
八幡(髪の毛を切ってない……よな?)
昔からいろはは肩くらいのところまで揃えていたのだが、最近は……夏休みくらいからは髪の毛をずっと切っていないような……。
細かく切り揃える程度には美容院に行っているようではあるが、全体的に伸ばしているような……。
八幡「何だって急に伸ばそうとしたんだろう?」
何かあったっけ?
うーむ………。気になるなぁ。
ピピピ……
あ、目覚ましが………気が付くと五時半。今日は学校も休みだから、弁当もなく、遅めに時間を設定したのだろう。
いろは「んん………」
いろはがゆっくりと目を開け、上半身を起こして伸びをする。
そしてこちらを見る。
いろは「…………え゛?」
俺の顔を見ること2秒、枕元の時計を見ること3秒、自分の部屋を眺めること5秒、そして再び俺の顔を見ること6秒。
たっぷりとザ・ジェムストーンの時間停止の2倍の時間をかけて状況を確かめるいろは。
何か同じことが随分前にもあったような気がする(川崎姉弟編参照)。
八幡「おはよう。いろは」
いろは「……………………き………………」
八幡「木?」
いろは「キャアアアアアアアアアアア!」
絹を切り裂くような悲鳴というのはこう言うことを言うのだろうか?
一色家(多分、我が家や東方家にまで届いているであろう)朝はいろはの悲鳴から始まった。
当然、俺の顔には枕元にあった色々な物と懐かしのナイチンゲールのビンタが飛んで来て、部屋を追い出されたのは言うまでもない。
キングクリムゾン!
いろは「まったく………信じられません!いくら婚約者だからと言ったって、寝ている女の子の部屋に勝手に侵入してきて寝顔をずっと眺めているなんて!」
絶賛、俺は一色家のリビングで正座をさせられています。頬の紅葉は消えてるよ?波紋の呼吸はもう無意識にやっているから、この程度の紅葉はものの数秒で消える。でなければ徐倫の拳骨に耐えられる訳がない。(ああ見えて徐倫は結構力が強い)
八幡「出来ればおはようのキスで起こしたかったまであるんだが?」
いろは「まぁハチ君ったらいけない人!」
あ、100年前にもエリナから言われたっけ?
いろは「……なんて言うとでも思ったんですか?なに勝手に人の寝顔を堪能しているんですか。普通に変態ですよ?」
八幡「あれ?逆はほとんど毎朝のような気がするんだけど?だからたまには逆にいろはの寝顔を見てどんな気持ちなのか試してみようかなぁって………」
いろは「女の子と男の子じゃあ全然違うんです!」
そうなの?いや、それおかしくね?
いろは「何か言いました?」
ギロッ!
こっわ!流石は元祖・ジョースターの母!威圧が半端なく怖い!ジジイや承太郎をも震え上がらせるだけあるわ!先週の般若顔よりも怖いわ!
八幡「い、いや。よく聞けいろは。俺は悪くない」
いろは「へぇ………念のために聞きますけど、どう悪くないんですか?」
八幡「いろはが可愛すぎるのが悪い!スッピンでも可愛すぎるいろはが悪い!ほら、俺は全然悪くない!」
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
いろは「100%ハチ君が悪いじゃあないですか。何ですか?そのマイナスな言い訳にもなっていない言い訳は」
八幡「ごめんなさい………」
はい、自分でも苦しいことはわかってます。まるっきり変態のそれという自覚もあります。
いろは「まったく……女の子にとってスッピンを見られるのは凄く恥ずかしいんですからね!?ましてや寝顔なんて言語道断です!」
うん。凄く怒ってます。
説教が飛んでくるだけまだマシとまである。
いろは「本当にどうしようも無いです!そもそもどうしてこう、いつもろくな事をしないんですかね?この人はまったく……出会いの頃は前世の焼き増しのようにいきなりファーストキスを奪うし、いつも念写で覗きはしますし………ハッ!変な事はしてないですよね!?」
八幡「してない!まったくしてないから!」
せいぜいその柔らかそうな頬をちょこっとツンツン突いてみただけだから!少しくすぐったそうに身をよじっていたいろはは凄く可愛かった……。
いろは「大体、今回に限ってはなんで直接寝顔を見に来たんですか?いつものようにハーミット・アメジストで寝顔を覗き見すれば良かったじゃあ無いですか?」
八幡「え?それならオーケーなの?」
いろは「は?良くないに決まってるじゃあ無いですか。バカなんですか?」
八幡「えー………自分で言っておいて何その理不尽。まぁ言われなくてもいつもなら念写して………」
いろは「は?」
八幡「しまったぁぁぁぁぁ!思わず口を滑らせてしまったぁぁぁぁ!」
いろは「………携帯、後でチェックしますからね?」
そ、そんなぁぁぁぁ!消される!俺の秘蔵の『いろはアルバム』が消される!
八幡「それだけは!それだけは勘弁して!」
いろは「………ラスト・ノートとオーラル・シガレッツも付けますよ?」
八幡「喜んで提出させて頂きます」
下手したらパソコンの中身までチェックが入りかねない。
これ以上抵抗したら由花子ショックが加わりかねない。
ああ……さよなら、俺の一ヶ月分のいろはメモリー。
いろは「それで、答えをまだ聞いてないんですけど?なんで今回に限っては直に寝顔を見に来たんですか?」
八幡「………笑わん?」
いろは「内容は聞いてからですね」
八幡「………直接見て、幸せを感じたかったんだよ…何もしなくても、何かその………直接だと寝顔を見ているだけで飽きなかったし……」
画像と生では全然違う。なんと言うか、疚しい何かではなく、デートとは違う何かの素の幸せという物を感じたかった。
何故だかはわからない。
いろは「…………プッ!」
いろはは一瞬だけ呆けた後に、吹き出した。わかってるよ。おかしな事を口走ってるって自覚はあるからな。
八幡「………だから言うのは嫌だったんだよ……」
いろは「いいえ?おかしな事じゃあ無いですよ?」
八幡「は?」
クスクス笑いながらも、いろはの目は……エリナを思い起こす程の慈愛に満ちていた。
どことなくホリィさんを思わせる何か………。そんな目だった。
side一色いろは
やっていることはしょうもない事ですが、いつものしょうも無さに比べたら本当にカワイイしょうもなさですね?
ハチ君がわからないのは仕方ない事ですが、わたしならばわかります。
親というものをやったら、わかるんですよ?
寝顔を見ているだけで幸せな気分になれるってのは、親ならばわかります。
愛する人の寝顔を見ているだけで飽きませんし、それだけで楽しいんですよ。例え、どんなに普段が大変でもですよ?特にジョセフは苦労しましたから。
ハチ君ほ……ジョナサンは親になる前に亡くなりましたし、ディオの生涯は愛する……ということは多分無かった事だと思いますから解らないと思いますけどね?
本当に愛する者の寝顔を見るのって……それだけで幸せなんですよ。
ハチ君になってからも、マチちゃんはああでしたし、それを実感する事は無かったからわからないのかも知れませんね?ジョナサンが死んでしまったことに残念さを感じてしまった事の1つは、それを共有出来なかった事です。
もし、ウルフスを倒して杜王町で見た未来が実現したのならば………。たくさん共有しましょうね?
苦労も多いでしょうけど。
前世では叶わなかった、ごく当たり前の女の子としての夢……それを絶対に叶えてもらいますからね?
責任、取ってもらいますよ?
side比企谷八幡
いろは「クスクスクスクス………」
理由も言わず、ただクスクスと笑ういろは。
ただ、怒りは大分収まったように見える。口に手を当てて笑うその姿は………やっぱりカワイイ。
カワイイと言えば………。
八幡「あのさ、今更なんだけど聞いて良いか?」
いろは「はい?何ですか?」
八幡「その………夏休みからずっと、髪を伸ばしてるよな?何で?」
いろは「………………」
すると、さっきまで機嫌が良さそうに笑っていたいろはの頬が再びプクーッと膨らむ。
え?なに?また何か地雷を踏んだ?
でも、俺はいろはの髪に対して何かを口にした記憶はない。
いろは「むぅ………覚えてないんですか?千葉村での事を……」
千葉村?何かあったっけ?
いろは「はぁ………本人がこれですもんね?わたしは結構ショックだったのに……」
え?え?ダメだ……記憶に無い。
いろは「弥七ですよ。正確には弥七のある姿をイメージした画像を見たハチ君の反応です」
弥七?
…………あっ!
八幡「………遊びで考えたEOHの弥七のアナザーフォーム!」
確かにあの時、弥七こと一色の髪を伸ばした姿に俺は不覚にも見惚れてしまった!
すっかり忘れていたけど、いろはは気にしていたんだ!
確かにこのまま伸ばせば、卒業する頃にはいろはの髪型はあの姿に………。
ヤバい………想像するだけで………。
弥七でもあの威力だったんだ……。もしいろはがあの姿になったと思ったら………。
いろは「長年気に入っていた髪型を変えるんですから、責任、取って下さいね?そうですねぇ……今日1日、どこかに出かけるというのはどうですか?」
それならば任せろ。丁度起きたときに考えていたんだ。
普通の恋人同士ならば二人きりでデートとかだろう。だが、いろはもジョースターだ。家族至上主義のジョースターだ。
下手な二人きりなんかよりも……。
八幡「実はな………?こんなことを考えていたんだ」
両家の両親(+仗助と徐倫)に対する普段からのお礼も兼ねたプランを口にする。
いろは「良いですね!たまには何も考えずに家族水入らずで日帰り温泉というのも!ジョースターらしくて素敵です!」
ベネ!やっぱりいろはもジョースターの気質だ!今日は家族水入らずのささやかなプチ旅行だ!
←To be continued
何でもない日常を書きたかったのでやってみました。
次回は家族でスーパー銭湯です!
それでは次回もよろしくお願いいたします。