side比企谷八幡
12月に入ってからというもの、年の瀬の空気がじわじわと日常にしんしょくしてきて、時の流までもが急かされているように感じる。まるでキング・クリムゾンのように。もう少しザ・ワールドのようにゆっくりとなってもらいたいものだ。
DIO『止めてどうするのだ!間抜けが!』
今年も残すところ、あと3週間。支部長の任期もあと3週間。
そんな師走の空気が漂い始めた12月の頭、例年よりも随分と遠い総武高校生徒会役員選挙は、一部のガチな運動部がギラギラと盛り上がり、昨日、その投票が粛々と行われた。
開票の結果は当然ながら、生徒会長として雪ノ下が信任された。結果は余裕だろうと思っていたのだが……
徐倫「性悪コンビのせいで文化部とかの投票は芳しく無かったみたいよ?奉仕部ブードキャンプが公約が無ければ運動部も危なかったわね。雪ノ下の勝負眼は間違いじゃあ無かったって事ね?やれやれだわ」
うそん?そんなにギリギリだったの?それも俺達がかなりの足を引っ張って?ゴメンね?雪ノ下。
ああ見えて負けず嫌いの雪ノ下からは非常にネチネチと恨み言を放課後に聞かされる事になり、肩身が狭い思いをする俺達性悪コンビ。
ジョナサン『自業自得という言葉を知ろうね?八幡』
………コホン。
そして今日から新生徒会が始動する。
生徒会室の前には何やら札が貼られており、『生徒会にご用のある方はこちらまで』と書かれている。
その場所は特別棟にある奉仕部の部室。
上手く校長やらを抱き込んだ甲斐があり、仕方なく黙認されているという体でその形になったそうだ。
まぁ、生徒会室よりもうちの部室は広いしな。
それでもその影響を受けるのは生徒会を良いように利用しようとしている教師(案外、変な雑用を押し付けてくる教師は少なくないらしい)や各部活の部長達くらいのものだろう。
かくいう俺はと言えば………
結衣「ゆきのーん!会長用の机はどこに置くー?」
雪乃「そうね。いつもの長机を少しずらして置こうかしら?」
戸部「雪ノ下さーん。資料はどうすっべー?」
雪乃「財団の棚を使わせて貰えるそうだから、中身だけ出して棚は元の生徒会室で良いわ」
戸部「それ、棚から運ぶ前に言ってもらいたかったわー」
雪乃「棚を運ぶ自体がトレーニングになると思うのだけれども?」
戸部「べー……部活が休みで体を休めると思ったのに、普段と同じだわー」
絶賛、引っ越し中でうるさい。読書に集中できん。
あと良いように使われてるな、戸部。
雪乃「比企谷君も仕事をしていないのならば手伝ってもらいたいのだけれども」
八幡「今、重要なところなんだ。真空管ハゲのヒントが中途半端なせいでな」
現在、二作目の重要なところだ。
二作目の主人公は司法解剖医。全作のサブ主人公が死に、その遺体の司法解剖をするところから始まる。
そして解剖が終わり、しっかりと縫合したはずの隙間から出てくる新聞紙に書かれている数字の不思議に興味を持ち、そこから暗合を解読するように数字を言葉に変える。その言葉が前作のタイトルになるわけだが、二作目の山場は最終的に前作のサブ主人公の遺伝子情報を数字に変え、更に言葉に変えるという謎解きがある。
真空管ハゲが例のエネルギーを介して教えてきた物は、その謎解きそのものを要求してくる内容だった。
雪乃「真空管ハゲ?」
八幡「前に週末で行ってきた世界で貰ってきたとある暗合の解読」
雪乃「遺伝子情報……かしら?」
八幡「イグザクトリー。医学志望じゃあないから意外と手を焼いている」
第二作目の主人公は六大学医大の教鞭を振るいながら、東京都の監察医をやる人間だ。その人間が手を焼く種類の暗合。それをやらされている。
重要だったのは三作目じゃあなく、二作目の暗合解読だった。
正直に言えば専門ではない関係でお手上げだ。
膨大な塩基配列を基準にした暗合なんかでメッセージを寄越すんじゃあない!あの真空管ハゲ!
何がキツいって、どこが暗合になっているのか、そこから始めなければならないって事だ。
雪乃「それならばエンポリオ君に相談してみたらどうかしら?それこそ専門だと思うのだけれども……」
八幡「エンポリオか………」
俺は自分の状態をハーミット・アメジストで念写する。
ただの小説であるため、こんなもので感染するとは思えないが、この第二作目……結末はかなり恐ろしいものに変貌する。
ホラーの元となったメディアだけじゃあなく、それを元にした小説、映画、ゲーム、音楽などを媒介して死のウイスルを撒き散らす。
これはこれで一種の質の悪いスタンド能力だ。
ホラーの怨念はスタンド使いだったんじゃあ無いかとすら思える。まぁ、スタンド使いを生み出すウイルスだって似たような物だから人の事は言えないが。
俺が自分の遺伝子情報を本を読む前と読んだ後に変化が無いことを確認すると、ホッと胸を撫で下ろす。
その行動に不信感を持った雪ノ下。
雪乃「何をしているのかしら?」
八幡「一応、遺伝子の点検?天然痘にでもなっていやしないかと…」
雪乃「ああ。そのシリーズのウイルスは天然痘の突然変異だったものね。でもあなた、そのシリーズは過去にも出版されている物よ?それで天然痘になるならば、今ごろ騒ぎになっているはずじゃない。二作目までは映画化もされているのだし」
まぁ、確かにそうなんだけどね?
八幡「入手してきたのが不思議パワーで溢れる世界で入手したからな。丁度シリーズが絶頂期だったのもあってどこの書店でも置いていたから」
雪乃「どこの世界ですって?」
八幡「1999年の世界。矢の力が自然に降り注ぐ世界だった……何度レクイエム化するかと思ったか……」
実際、一回レクイエム化したし、ジョジョは二回もしたもんな……。
雪乃「よくそんな世界から物を持って来る気になったものね?ジョースター家は知っているのかしら?」
八幡「ジジイが許可を出し、承太郎も知ってるよ」
事後報告だけどね。
雪乃「じゃあ、その読書も仕事なのかしら?」
八幡「アーシス関連でと言った点では仕事の範疇に入るな。遺伝子情報に異常が無かったから、エンポリオに依頼するかも知れない」
雪乃「………わかったわ」
八幡「手伝ってくれても良いんだぞ?」
雪乃「残念ね。私は医学は専門外なのよ。それに、見て分からないかしら?今、凄く忙しいのよ」
生徒会室の引っ越しでてんやわんやしているのは事実だ。今日から始動する雪ノ下生徒会のメンバーも駆り出されている。
本牧やら藤沢やら会計君やらも忙しそうにしており、暇ならばこちらを手伝え的な視線を送って来ている。もちろん、全力でスルーしているが。
ちなみに彼ら新生徒会役員はスタンド使いじゃあない。
あれ?めぐり先輩が率いる
めぐり「これからはこっちでお世話になるのかな?」
引き払った生徒会室に置いてあった私物をまとめた段ボールを抱え、めぐり先輩がほんわかぱっぱとした雰囲気で話しかけてきた。
八幡「持ちますよ?」
ヒョイッとめぐり先輩の段ボールを受け取る。
めぐり「え?あ、ありがとう。でも良いよ。忘れられがちだけど、私も波紋の戦士だからこのくらいは余裕だよ。むしろわたしの修行になるかな?」
軽そうに見えて結構な重みがあるそれをめぐり先輩は俺から取り返す。
めぐり先輩の華奢な見た目の人が軽々と持っていることからは想像できないくらいの重みだったが、めぐり先輩も波紋の戦士。
この程度は余裕なのだろう。
めぐり「思ったより私物が多くてさ、まとめてたら結構な量になっちゃった」
八幡「これ私物ですか……」
めぐり先輩の私物とかちょっと気に……ならないからいろはさん、般若はもう勘弁してください。露伴先生のヘブンズ・ドアーを食らいたくないし、ここにはちらほらと新生徒会の人間がいる。下手にめぐり先輩の私物に興味を持とうものならば、俺は色々な意味で酷い目に遭う。由花子ショックとか由花子ショックとか由花子ショックとか。
めぐり「けっこうここも通いなれたつもりだったけど、その二つが合併かぁ……なんだか複雑だよー」
ウルフスが現れている今、特に狙われている雪ノ下達元ブラッディスタンド使い達を単独で動かす訳にはいかないからな。
八幡「一応はめぐり先輩もアーシスと契約してますから、今後はこちらで訓練に参加してもらう事になると思いますよ。小町から訓練内容のメニューはもらってますから、明日からはこれをこなしてもらいます」
めぐり「えー!わたし、受験生だよ!?」
八幡「既に推薦が決まってますよね?それとも今からアメリカの留学に切り替えますか?推薦ならSPW財団枠で可能ですよ?」
めぐり「せっかく合格が決まったのに、改めて受験なんて嫌だよぉ」
八幡「そうですか。まぁ、今から志望変更ともなると学校としても困るでしょうね?」
推薦入試は学校と志望校の信頼関係の形だ。
めぐり先輩が推薦を蹴ってしまえば来年度以降の後輩たちに迷惑がかかる。
めぐり「それに今から財団系列の受験が間に合うとも思えないし……」
八幡「ヘブンズ・ドアーでちょちょいと………」
ポクッ!
可愛らしい音と共にチョップが落ちる。
めぐり「そういう反則はダメだよ?比企谷君?」
めぐり先輩が頬を膨らませてつっこんでくる。
めぐり先輩がツッコミになるのも珍しい。普段はどちらかと言えば天然なボケだからなぁ。
めぐり「でも、どうなるかと思ったけど、ほぼ期待していた通りかな?」
八幡「何がですか?」
めぐり「もしアーシスと関わっていなければ……という前提で考えていた理想の生徒会………だよ。雪ノ下さんが会長になって、それでさ、卒業してからわたしが時々、生徒会室に遊びに行って……」
八幡「来れば良いじゃあないですか。アーシスに関係なく、ここに………来年度いっぱいまでは、今の面子がいるんですから」
仗助やジジイはいなくなると思うけどな。
めぐり「そうだよね!これから奉仕部も生徒会直轄になるんだし、忙しくなるもんね!」
八幡「ついでにめぐり先輩の強化修行も本格化しますけどね。来年度にはYASHICHIのスペシャルステージを余裕でクリアしてもらい、ヘルクライムピラーに挑んで貰ったりする予定らしいですよ?小町の予定では。良かったですね?タダでヴェネチア旅行が出来ますよ?」
めぐり「そんな予定で行きたくないよぉ!」
諦めて下さい。俺もそんな目的でヴェネチアに行きたくありませんでした。
結局小町に捕まってヘルクライムピラーに落とされたけど。しかも昔のバージョンで………。
めぐり「じゃあ、今日は雪ノ下さんに引き継ぎをしてから帰るね?」
八幡「ええ。これをどうぞ」
つ水が並々と注がれた水面器
めぐり「早速修行なんだ!今日はハンゲツ(アーノルド)のお散歩もやろうと思っていたのにぃ!」
八幡「ほう………ではそちらの方のメニューも作っておきますので楽しみにしてください」
めぐり「比企谷君のオニー!」
なんとでも言ってください。
雪ノ下生徒会………始動。
←To be continued
はい、これで8巻部分の終了です。
次回より9巻部分、クリスマスパーティー編へと移行します。
それでは次回もよろしくお願いいたします。