side比企谷八幡
何とか二度目の除夜の鐘を回避した俺は、ささっと昼食を食べ、手早く片付ける。うん、相変わらずいろはの弁当は旨い。あれだ。女子高生彼女の弁当選手権があったとしたならば、間違いなく全国レベルに達していると断言しよう。
静「むっ!それは聞き捨てならない!私のお弁当だって世界を狙えるレベルだっつーの」
八幡「残念ながら食ったことがない」
いろは「審査員がハチ君ならわたしは世界一です!」
静「そりゃハッチの好みにバッチリストライクしている味付けだから勝てるわけがないっつーの」
俺的にはいろはの弁当を超える物は存在しない。
比企谷八幡的にこれは殿堂入りなレベルなまである。
静「ま、良いや。とりあえず奉仕部に行くんでしょ?」
その予定だ。雪ノ下は生徒会長に立候補をしたと言うからな。三人で頷くと、まっすぐに部室へと向かう。
特別棟の階段、そして廊下。ここを通る人影はまばらだ。おかげでひどく寒々しい光景に見える。
部室の前に到着し、ノックをしてからガラッと扉をあける。
中にいたのはジジイ、仗助、由比ヶ浜、雪ノ下。男二人はそれぞれ朋子さんとジョジョが作った大きな弁当箱を、女二人は小さな弁当箱を広げている。
ぞろぞろと入ってきた俺を全員がまじまじとみる。
ジョセフ「気のせいか、さっき季節外れの除夜の鐘が響いた気がするのじゃ」
気のせいではない。
仗助「どうせ徐倫を無駄に弄ったんだろ?」
仗助、ご明察。
雪乃「それで、あなたたちはその除夜の鐘の報告に来たのかしら?」
八幡「そんなものを一々報告に来るかよ。雪ノ下、お前応援演説を葉山に頼んだようだな」
さっき徐倫と朋子さんがそう言っていたから間違いがない。
雪乃「ええ」
聞くと、ごく簡潔な言葉で雪ノ下は答えた。そして、そっと目を伏せた。
結衣「え?」
ただ由比ヶ浜が驚いて目を丸くしていた。
静「聞いてなかったの?」
結衣「う、うん」
由比ヶ浜は肩を縮こまらせて、俯きがちにそう言った。すると、雪ノ下は由比ヶ浜に申し訳なさそうな表情を見せる。
雪乃「これから相談するつもりだったのよ」
しかし、言ったときには由比ヶ浜から視線を逸らしている。
静「それは相談とは言わないっつーの。お前はもう決めてるんだし」
雪ノ下は一人で決めて、一人で行動を起こしていたわけだ。おそらくこれから話すつもりだったのは本当だろう。いや、もっと前から話すつもりではいたのかもしれない。本当に言い出せたのかは別として。
いろは「それを誰にも言わずにですか?」
雪乃「客観的に考えて、彼がやるが最善だもの。一色さんがあのまま立候補を取り下げなかったとしても、問題なく勝てると思う」
いや、まぁ………。
少なくとも俺達とつるんでいるいろはと、大人しくしていれば高嶺の花のイメージな雪ノ下では生徒の受けは雪ノ下の方が上だろう。
雪乃「彼の応援演説があれば他の役員もモチベーションは高くなるでしょうからこれまでの行事と違ってスムーズに、裏の力も使うことなく効率よく進められるはずよ」
雪ノ下はそう言い切ると、小さなため息を吐く。
対話を打ち切るように下へ向けた顔にはもの悲しさと、悲壮な決意が滲んでいるようだった。
効率よく、か。
その言葉がやけにひっかかる。効率だけではないなにかが彼女の中にある気がしてならない。
それに、効率だけなら他に方法が元々あったのだ。
八幡「葉山には部活があるし、小町による基礎の底上げを上げている重大な時期だ。とてもじゃあないが、効率的とは思えないがな。大体、お前の応援演説は志願してでもやりたいと言う奴がごまんといるとおもうんだがな。例えばオレ達とか」
雪乃「それはあなた達の案の事を言っているの?」
俺に問いかける雪ノ下の眼光が鋭い。普通のやつならばたじろぐレベルだろう。
だが、俺も今更引く気はない。というか、その程度の眼光など、もう慣れきっている。部屋の奥の方で株でも弄っているのであろう懲りないジジイの眼光に比べれば涼しいものだ。
雪乃「あなた一人の言葉や態度だけで、全校生徒が動くなんて思い上がりよ。それだけで解決するわけがない。解決したとしても不満はのこるわ」
痛いところを突かれた。
雪ノ下が言うように、俺達は影響力があったとしても円満に解決するような人間ではない。それは充分に……それはそれは充分に自覚している。
天の声『自覚しているからこそ逆に性質が悪いともいえる』
学校程度の小さなコミュニティであれば、その中を引っ掻き回すくらいのことは出来る。
天の声『SPW財団の関東支部支部長の影響力が学校ひとつ程度で済むわけがない』
けれど、知名度は(悪い意味で)あれど、人望は確実に無いだろう。例えば文化祭の大粛正なんかで特に。
裏番みたいな存在達が不特定多数の人間に対して言うことにどこまで効果があるかと言えば、効果は間違いなくあるだろが、それは恐怖による支配のようなものだ。
八幡「だったら、その上でやり方を考えるだけだ」
卑怯や陰湿なんてものはいつものことだ。悪意や害意だって必要ならば利用している。嫌悪と憎悪をかき集めるなんて日常的すぎていくらでも考え付く。
人は人を嫌うのに理由は求めない。なんかムカつく、なんか嫌だ。なんかキモい。なんだって人を嫌う理由になるし、俺達スタンド使いで言うならばそれだけで人を殺す理由になる。
「たまたま目があった。それだけで殺す理由には充分よ……」というヤツだ。
ん?そんなサイコパスがいるかだって?
おいおい。俺はディオの転生だぞ?エジプトでは承太郎達を追うために渋滞している車道が混んでいるなら人が歩いている歩道を進めば良いと考えていた奴だぞ?
だって車に突っ込んだら車は動けなくなるが、歩道に突っ込んだところで構わず進めば良い。
そもそも当時のディオは人間なんてパンみたいなものだったからな。「貴様は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」的な感覚だ。
ディオからすればパンを無駄に踏み潰したなぁ、程度の感覚だった。まぁ………ディオ程では無いにしたって、俺達スタンド使いは………
俺の表情を見た雪ノ下はぎゅっと唇を噛み締め、俺を睨み付けた。
雪乃「すべての人があなた達やSPW財団を恐れているなんて自意識過剰だわ」
うぐっ!まさしくその通りだな。そこまで行きついてしまったのならば、もはやそれは前世の焼き増しである。
会話が途切れてしまうと、静けさの中をジジイと仗助のパソコンを叩く音がやけに大きく聞こえる。
雪乃「………あなたと私のやり方は違う」
俯いて、強く握った拳と肩が寒さに震えていた。ぽつりとこぼれた言葉。ただそれだけに同意ができた。
八幡「そうだな……」
本当に違う。王道と邪道と外道とかそんな手段の是非ではなく、おそらくは志が違う。その隔たりが俺達の距離だ。
その間に座っていた由比ヶ浜は黙って俺達の距離だ。話を聞いていた。そして、ずっと考えていたのだろう。心ここにあらずという体でぼそりと呟いた。
結衣「そっか………。ゆきのんは、そうするんだ…」
由比ヶ浜………お前………。
時間が次第に時を止めたように凝り固まっていくのを感じたとき、雪ノ下がちらと俺を見る。
雪乃「まだ、何か?」
静「……いや、確認がしたかっただけ」
何を確認したかったのか………それは由比ヶ浜を除いてはわかっている。かつて雪ノ下を否定していた時とは明らかに状況が違う。なら、仕方がない。
雪乃「そう………」
雪ノ下は返事ともため息ともつかない声を漏らすと、まだだいぶ残っているように見受けられる小さな弁当箱を片付け始めた。
結衣「ゆきのん………どうして?」
雪乃「どうして…………ですって?」
結衣「だって、あたしはずっとゆきのんの応援演説をやろうって頑張っていたのに………」
すると、部室のドアが開かれる。
葉山「意外だな……君達がこの時間にこの部屋にいるなんて」
君達とは俺達幼なじみーズの事だろう。
確かにこの時間のこの場所にいるのは珍しい。
八幡&静「………葉山………」
ギリッ!っと俺と相棒の奥歯が軋む。葉山の奴はどこか優越感に浸ったような笑顔を見せている。
葉山「打ち合わせに呼ばれただけだよ。わかっているんだろう?」
ああ。よく分かっているよ。満足だろうな。俺達よりも雪ノ下の信頼を受け、頼られているという状況に…。お前にこんなにも見下される笑みを浮かべられるなんて。
静「そう………」
葉山「俺は雪乃ちゃんと組むよ……君達はどうする?」
八幡「そうだな…………」
くそ、どうする………どうすれば………。
結衣「隼人くん!あたしがゆきのんの応援演説をするつもりだったのに、どーゆーつもり!?優美子やさがみん、姫菜だって裏切る行動だよ!」
葉山「そうだな。由比ヶ浜の言うとおりだ。だけど、それでも俺はこうするのが一番だと思ったんだ。雪乃ちゃんから頼まれたからというだけじゃあない。それが誰の頼みであったとしても、俺が受けていた。いや、志願していたと言い換えても良い」
八幡「………相変わらず「みんなの葉山隼人」を演じようとしたと。変わったと思っていたのは俺の買いかぶりだったようだな?みんなの葉山隼人」
俺は葉山を睨み付ける。楽しくなってきたじゃあないか。
葉山「「みんなの葉山隼人」………か。たしかにその根底は変わらないかもしれない。だけど、俺は俺なりに変わったと思う。前ならば、二の足を踏んでいたかもしれない。南や最近ではやっと打ち解けられてきた優美子達と対立する道なんて選ばない。例え一時的であったとしても」
八幡「俺にとっては都合の悪い方向で変わったじゃあないか」
イヤな感じにな。
バァン!
ザ・ジェムストーンとオーラル・シガレッツを互いに出現させる。
葉山「わかっているんだろ?ヒキタニ。ここで俺と君がドンパチを始めれば、不利なのは君の方だ。ジョースターさんと二人まとめて相手でも問題はない」
静「口だけは達者になったじゃあないの。訓練じゃあいつも私に負けてるくせして」
葉山「いつもなら君達に敵う気はしないさ。だが、今ならば違う」
ほぅ?大した自信じゃあないか。葉山。
仗助「ジジイ、どっちに賭ける?」
ジョセフ「葉山じゃな。勝負にならんわい」
おいジジイと兄貴分。身内の負けに賭けるんじゃあない。
八幡「シガられなければ良いだけだ」
静「そうそう、シガられなければ何の問題もない」
結衣「………ちょっと待って?シガられる……と言うことは、スタッチとヒッキーは何か嘘を吐いている…ってこと?」
八幡&静「………………………」
真面目に葉山と対決している風体を見せる俺とジョジョ。
しかし………。
仗助「由比ヶ浜。光が当たっている角度から二人をよく見てみろ。若干、テカっているだろ?」
結衣「う、うん。でも何で?」
ジョセフ「ジョルノや留美が言っておったがな、人間は嘘を吐くと無意識に汗を出すんじゃそうじゃ。留美ならばその汗を舐めればその汗が嘘を吐いている味かどうかわかるんじゃがな?」
留美は人間オーラル・シガレッツだもんな。
雪乃「由比ヶ浜さん。あなた、比企谷君やジョースターさんから応援演説の原稿の代筆の申し出があったと聞いたわ」
結衣「あ、うん。スタッチ達ならサラサラと原稿を書いてくれそうだし、さがみん達と相談した内容をうまくまとめて文章にしてくれるって……」
静「いやぁ、案外難航しているけどね」
O・S「オラァ!」
ゴン×2
やべ!シガられた!オーラル・シガレッツに殴られた!
葉山「応援演説の原稿を書く……なんて事に難航している君たちじゃあない。むしろとっくの昔に出来上がっている。違うか?」
八幡「……いやぁ、案外纏めるのは難航してい
葉山「難航してい
静「しゃ、喋れない………は、葉山のクセに生意気な!」
葉山「原稿が出来上がっているのに、それを何故応援演説をする由比ヶ浜に渡さない?」
八幡&静「………………」
葉山「ろくでも無いことを考えた内容の原稿を、演説直前に由比ヶ浜に渡し、修正不可能にして読ませる…そんなところか?」
八幡&静「………………」
ゴン×2
葉山「沈黙は肯定だ。性悪コンビ!やっぱりか!」
雪乃「由比ヶ浜さんから聞いたときにそんな気がしていたわ。だから隼人くんに頼んだのよ」
雪ノ下に見破られただとぉ!
いろは「それは知りませんでした。どういう事ですか?ハチ君、ジョジョ先輩?」
ヤバい……葉山にすら勘づかれたんだ。付き合いの長いいろはなら既に見破っている!
いろは「………結衣先輩。葉山先輩に応援演説を譲った方が正解です。わたしも騙されるところでした。ハチ君達のシナリオはこうですね。面白半分に引っ掻き回す為にあの一芸入試とかパッショーネ式とかを盛り込んだ内容だけを纏めた原稿を渡すつもりだったんです。それを、さも難航して直前に出来た風体を装って演説直前に渡す予定だったのだと思います」
結衣「え゛………」
葉山「応援演説が上手くいこうといかなかろうと問題はない。雪乃ちゃんならば問題なく信任投票で落ちることはないし、要はただの愉快犯だと思う」
ダラダラダラダラダラダラ……
いろは「この状況もあれですね。頑張っている結衣先輩の味方のふりをしている芝居とかで情に訴えて雪乃先輩を揺さぶろうとしている汚い手口ですね。雪乃先輩も結衣先輩には甘いですから」
葉山「何でこんなことをする。何故お前達はいつもそうなんだ!」
ふ………そんなことは当然だろ。何故なら……
八幡「こんなこと以外、もうやることがないからだ!ギャグに走る以外なぁ!」
静「規定通りなんて面白くない!とことんまでいじり倒す!それが性悪コンビ!」
ゴン×2
葉山「余計な事をするな!」
静「良いツッコミ♪」
ゴン
葉山「空条先生の苦労が心底わかる!疲れる!この二人は!女子に拳骨を落とすなんて……最低な気分だ……二度とやりたくない!」
八幡「今後も期待しているぞ?葉山」
ゴン!
葉山「全力で断る!」
本日のメインターゲットは葉山でした♪
ジョセフ&仗助「ギャハハハハハハハ!バレた!バレやがった!ギャハハハハハハハ!」
雪乃「ジョセフおじいさま、仗助兄さんもグルですね?」
こうなったら仕方がない!
八幡「イエス!だから二人は口論を止めずに黙っていたんだ!」
ジョセフ「なんの事じゃ?」
甘いなジジイ。
八幡「俺達は今、オーラル・シガレッツに嵌まっている!オーラル・シガレッツの能力は嘘の消去!俺達は今は嘘が吐けない!巻き込まれろ!ジジイ!仗助!」
結衣「開き直ってるし!」
静「相棒!」
八幡「ああ!」
静&八幡「逃げるんだよォォォ!」
窓を開け、四階から飛び降りる俺達。
ジジイもそうするかな?仗助は無理だろう。現状ではそこまで波紋のレベルは高くない。
仗助「待てぇ!お前ら!俺も逃がせ!」
ガシッ!
いろは「仗助?覚悟は出来てますよね?」(エリナモード突入)
仗助「グレート…………エリナおばあちゃんモードだ」
ガミガミガミガミガミガミガミガミ!
←To be continued
はい、今回はここまでです。
真面目な内容とは裏腹に理由はすごく下らないことでした。
それでは次回もよろしくお願いいたします。