sideジョルノ・ジョバァーナ
杜王町2日目。
僕はホテルのロビーでエスプレッソを飲んでいた。
チェックアウト後のひとときというものだ。
同じテーブルには新聞を広げているジョセフさんや承太郎さんを始めとした大人組が揃っている。
学生組がラーメンパーティーやトラサルディでの昼食会でそれぞれ出かけて行くなか、僕達大人組はゆっくりとした時間を過ごす。
子供達が大好きな比企谷さんは参加したそうにしていたが、若い者同士の交流も大切だと諭され、血涙を流しながらも諦めた。
承太郎「しかしジョルノ。お前は年齢的にはまだ若いのだから参加しても良かったんじゃあないのか?」
承太郎さんはそう言うが、僕は元々参加する気はなかった。京都でラーメンを食べたとき、スープパスタの感覚で食べてみたのだが、僕には合わなかったのが理由だ。
ジョルノ「僕には合いませんよ。チャイニーズヌードルは合いそうもありません」
それに………
イタリアでもよくある話だ。ピッツァやパスタ、ドリアでも………
馴染んだ食べ物、国民食と言えるものほど味の好みというのは個人差というものが出てくるものだ……今頃はきっと………。
sideなし
ジョルノが思っている通り、生活に馴染んだ食べ物と言うものほど、家庭ごとや個人ごとに好みはまるで違ったものである。
例えば日本人であるならば味噌汁。
仕立てる味噌にも地方や家庭でまったく違う。
赤味噌、白味噌、合わせ味噌。信州味噌や八丁味噌に麹味噌など、一言に味噌汁と言えどまったく違うものになるだろう。
出汁。一般的な鰹出汁や昆布出汁、中には煮干し出汁が主流の家もある。その中でも市販の顆粒か本格的な出汁を使うので別れるだろう。
具材。単一の具でなければダメな人もいれば豚汁のように多数のごった煮のように日常的に具を入れる家もある。
例えばカレー。
甘口、中辛、辛口等の好みはもちろん、日本の海軍カレーのようなこぼれにくいドロドロのカレーやインドカレーのようなさらさらなカレー、それすら通り越したスープカレーが日常の家もあるだろう。
食べ方とてまちまちだ。ライス派とナン派で別れるし、ライス派であればぐちゃぐちゃに混ぜるか、最後までご飯とカレーを分けて食べる人間もいる。
例えばお正月の定番、お雑煮。
すまし汁仕立てのお雑煮が一般的な中で、地方によっては味噌汁のようなお雑煮だったり、お汁粉?と疑うような小豆仕立てのお雑煮の家庭もある。
カツ丼。
一般的ならばトンカツを卵や醤油出汁等で煮るものだが、ご飯の上にキャベツを敷き、その上に普通のトンカツを乗せて出す物、いわゆるソースカツ丼が普通だという家や地方もある。名古屋の人には更に味噌カツ丼が当たり前だと豪語する家もあるのだとか。
こういう経験はないだろうか?
目玉焼きは片面焼きか両面焼きか…半熟か完熟か…かけるのは醤油かソースかケチャップか……どうでも良いことで議論になった経験はないだろうか?
そんな場面に男子会のメンバー達は直面していた。
男子会はラーメン。
ラーメンもまた、日本人の味覚の好みにストライクし、今や国民的な食べ物と言える。
ここにいるメンバーがご当地ラーメン出身の人間だったのならば問題は無かった。しかし、特定の状況の中であるならば違ってくる。
一つは出身地がバラバラだった場合。
北は北海道、南は沖縄まで含めた九州。それぞれの好みがハッキリと別れる典型的な例であろう。
そしてもうひとつの例は………。
現在の千葉はラーメン激戦区である。様々な地方のラーメンがひしめきあっている状況だ。
醤油に味噌に塩に豚骨……。
醤油でも家系や京都ラーメンのようにコッテリの醤油豚骨から上海ラーメンのようにアッサリのラーメン。
麺にも太麺細麺中麺と好みがあるし、硬麺派やのびる寸前の柔らか麺等の好みが別れる。
戸部翔が現地の女の子から教えてもらったラーメン屋は杜王町で人気の典型的な杜王(仙台)ラーメンだった。
杜王ラーメン……辛味噌仕立てのスープである。
side比企谷八幡
しまった………。
店の選定は俺がやるべきだった。
杜王町のご当地ラーメンは色々とあるが、代表的なラーメンといえば辛味噌ラーメンだ。
別に福岡のようにラーメンといえば豚骨!というほど辛味噌が主流なわけではない。
普通に醤油もあれば豚骨もある。杜王町発の豚骨ラーメンが全国に回った店だってある。しかし、杜王町……いや、M県の人間ならば知らない者はいない…と言われる代表的な店のラーメンは辛味噌の店だ。
故に杜王ラーメン=辛味噌ラーメンという図式がある程度は出来上がってしまっている。
戸部に店を教えた現地の人は観光客に勧めるならば杜王辛味噌ラーメンと考え、この店を紹介したのだろう。
杜王辛味噌ラーメンは人によっては辛すぎる……という人間も中にはいるのだ。
俺も然り。何故なら俺は誰とは言わないがとある兄貴分によって辛いのが非常に苦手だからだ。
こんな特殊な事で辛いのが苦手な奴はごく一部(相棒とか相棒とか昨日やられたばかりの魔王とか相棒とか)だけだろうが、それ以外でも辛いのが苦手な人間はいるだろう。
八幡「…………」
戸部「べー、ヒキタニ君、辛いの苦手とか意外だわー」
八幡「おま……昨日の陽乃さんを見ただろ?」
葉山「……あの人がああも取り乱すのは始めて見たね」
八幡「………あれ、定期的に食らってるって言ったら信じる?最近じゃあハバネロとか普通に出てくるんだぞ?あれで辛いの苦手にならなかったら称賛するわ」
戸部「やべ!ジョルノさんキテるわー。俺、あんなの食らったら立ち直れないわー」
最近では千葉村かな?はっちゃけすぎて(原因は一番交流のある平行世界人)数人まとめて食らった…。
辛いの苦手過ぎてトラサルディの娼婦風スパゲッティすら食えなくなったまである。今頃は相棒も悲鳴を上げているかもしれない。魔王もか?
とにかくあれは地獄だ。
大志「や、お兄さんの場合は自業自得というか……」
八幡「お兄さん言うんじゃあない。あと、夕べの康穂との件は後でじっくりと聞かせてもらおうか?んん?」
大志「ちょっ!ただ愚痴を聞いてもらっただけですってば!誤解っすよ!」
そうは言うが追及するからな?
エンポリオ「こういうところはめんどくさいなぁ……ハッチって………」
やかましい。他人はどうでも良いが身内のことは結構シビアなんだよ。特に幼なじみに関してはな。
しかしなぁ………
八幡「赤湯の辛子味噌や担々麺ほどじゃあないが、やっぱり辛いわ……このラーメン」
何種類か選べるタイプのラーメン屋を事前に調べておくべきだったな。
一応は有名店なだけに財団から許可をもらっていた店だったから油断した。
俺は基本的にラーメンが好きだから醤油、味噌、塩、豚骨とかの好みはあまりない。
強いて言うならば豚骨が好きだ。豚骨ラーメンは基本的に細麺で硬麺が前提の麺だ。その中でも固さの段階があり、特に「こなおとし」が好きだ。こなおとしは麺の表面にある粉を落とす程度にさっと茹でる程度。ほとんど茹でない一番の硬麺だ。
戸塚「僕もちょっと苦手かな?普段はあっさり系の醤油味だから」
戸塚は下手な女の子よりも女の子らしい見た目だ。それを口にしたらメチャキレるから言わないけど。以前に聞いたら今世は色々と健康に気を遣っているのだと言う。医療系を優先したスピードワゴンらしいというか…。
材木座「戸塚殿、それは偏見である!このくらい辛いのであれば新陳代謝が良くなり、程よく健康にもなると言うものだ!それに、我は結構好みであるぞ!」
八幡「だろうな?お前コッテリ系とか好きそうだもんな?何なら二郎系とか平気で食べそうだもんな?」
材木座「何を言う!大好物に決まってる!」
嫌味で言ったのに当たってるのかよ!マジでカレーは飲み物とか言いそうだ!
葉山「俺も運動部だからコッテリ系とかも嫌いじゃあ無いんだ。よく大和とかにも付き合わされるしな」
戸部「大和、ラグビー部だからバリバリの体育会系っしょ?だからよく先輩とかにそーゆー店に連れていかれるらしいんだわー」
………柔道部の時にも思ったが、体育会系って食うのも練習の内とか言うもんな。ラグビーって言ったら体育会系の典型的な運動だしな。特に日本のラグビー部は。
まぁ、ラグビー自体は嫌いじゃあない。むしろ得意な方なまである。
だってジョナサンもディオもラグビーやってたし。
雪ノ下の掲げる奉仕部ブードキャンプが表に出たら、ラグビー部の担当は俺になったりな?(フラグ立て)
もしなったらフルメタ式でやるぞ?平和的な性格を殺戮マシーンに変えてやる!
大志「お兄さ……」
ギロッ!
大志「八幡さん、良からぬ事を考えていそうッスね?」
やかましい。
ところでこいつは平然として食ってるけど、辛子味噌大丈夫なの?
八幡「そういうお前はどうなんだよ。ラーメンの好みとか」
大志「特に好き嫌いはないっスけど、姉ちゃんが和食が得意なのもあってラーメンは醤油派っすね。どちらかと言えばアッサリ系ッス」
ああ、川……川……川嶋さんならそうだろうな。
前世はソムリエかって言うくらいワインに拘っていたわけだし、ソムリエと言えば味覚は大事だ。それ故に繊細な味を好みそうな感じがある。
妙に納得してしまった。
大志「八幡さん、思ったんッスけどジョルノさんにトマトラーメンを勧めてみたらどうッスか?」
八幡「ザ・ワールド!時よ止まれ!」
ブウウウウウウン………
世界が灰色に染まる。
ふぅ、俺の思考が停止した表現をしようとボケをかましたら本当に時を止めてしまった……。
それだけ大志は今、とんでもない爆弾を投下したということだ。
落ち着け俺。与えられた貴重な8秒……とにかく落ち着く事に全力を注ぐんだ……。人間はどんなに怒りが爆発しても平均して6秒くらいしか怒りは持続しないというからな。
ビークール……ビークール……。
ふぅ………落ち着いた。
八幡「そして時は動き出す………」
世界に彩りが戻り、静止していた世界が動き出す。
……………さて。
八幡「このバカ大志ぃぃぃぃぃ!お前、それでも前世で修行をイタリアで積んだのかぁぁぁぁぁぁ!」
8秒じゃあ収まりませんでした♪
それだけ大志は恐ろしいことを言った。
大志「何でめちゃくちゃキレてるんッスかぁ!イタリア風で良いじゃあ無いですか!」
八幡「バッカ!お前、あのワサビを食らいたいのか!そんなものをジョルノに出した日にはワサビコース一直線だぞ!」
怖いもの知らずにも程がある!
八幡「良いか!?お前、国民的カップ麺シリーズの緑色のカップ麺を食ったことがあるか!?」
大志「そ、そりゃありますけど……あれはあれで美味しいじゃあ無いですか!」
八幡「それは俺もある程度は認めよう!」
粗悪品のトマトが苦手な俺でもあれはあれで1つの味の形だと認める。認めるのだが……
八幡「お前の今の発言は九州の人に東京の博多風ラーメンを食べさせるのと同じだからな!?お前、ドヤ顔でそんな事をしてみ!?マジでキレられるからな!?豚骨ラーメンと博多風ラーメンを同じにするなって!それと同じだからな!?」
あっちの人の豚骨ラーメン愛を舐めたらいけない。
豚骨以外のラーメンをラーメンとして食う分には受け入れられても、博多風ラーメンだけは許せん!という人間は結構多い。
豚骨と博多豚骨風ラーメンの間には越えられない壁というものが確かに存在するのだ!それと同じで……。
八幡「イタリアン風ラーメンとか言ってあれをジョルノに出してみろ!お前、確実にワサビを食らう!味覚を失うぞ!大志!」
俺にはジョルノが無表情になって懐からワサビを取り出す未来しか見えない!
確実に味覚を破壊されると予言しよう!
エンポリオ「言いたい事はわかるけどね……それよりも早く食べようよ。のびるよ?」
ん?そう言えば思ったんだが………
八幡「エンポリオ。お前、ラーメン大丈夫なの?普通に食べてる気がするけど」
欧米人はラーメンは受け入れ難いと聞いたことがある。ジョルノが苦手意識をもったのもそれだし。
エンポリオ「ハッチ。僕は元々GDstに隠れ住んでいたストリートチルドレンだよ?基本的に好き嫌いなんかしてられなかった事を忘れてない?」
そうだった。元々エンポリオは5年前までそういう生活をしていたんだ。要領よくやっていたエンポリオだとて、時には食料が手に入らなかった時もあるだろう。
それを考えると、好みだのなんだの言っている自分が恥ずかしくなった。
他の奴もそうだろう。
エンポリオ「僕にとってはこのラーメン、贅沢な食べ物だと思うよ?そうは思わない?」
戸部「だべ。好みとかあっけど、このラーメン、めっちゃうまいわー。エンポリオ君、良いこと言うじゃん!俺、めっちゃエンポリオ君リスペクトだわー!」
………だな。戸部に言われる日が来ようとはな。
戸部「それに、また定期的にヤンね?この男子会。それぞれのコレだってゆーラーメン屋でさー、イチオシのラーメンをみんなで食うってのも良いっしょ!」
え?またやんの?この集まり。
確かにあちこちのラーメンを食べるのは問題ない。むしろ楽しみとまである。
でも、集団でゾロゾロと行くの?ラーメンは集団で食べる物じゃあなくね?
八幡「あー俺はパス……」
戸塚「良いね!奉仕部男子ラーメン会!またやろうよ!ねっ!?八幡!」
ざけんな。戸塚スキーの基本世界の比企谷八幡なら流されるだろうが、俺はそれほど戸塚スキーじゃあない!
断固として拒否する!
上手く逃げ道を………
ピンローン♪
ジョセフ『男子ラーメン会、承認じゃ!お前も少しは友好関係を広げんか!』
誰だジジイに教えた奴は!うわぁ……マジかぁ……。
戸部「次の幹事は誰がやる?ヒキタニ君?」
材木座「次は我だ!我のオススメの二郎系は世界一ぃぃぃぃ!」
俺の自由気ままなラーメンライフは、どうやら終わりを告げそうである。
←To be continued
はい、男子会のラーメン会でした。
ちなみに福岡の話は………実話です。
しまいには「うまかっちゃん」を渡され、これで豚骨を知れ!とまで言われました。
更に旭川の人には「醤油ラーメンの何が旨いのかわからない」と言われ、盛岡の人には「関東の冷麺は冷麺じゃない!」と言われました。
一口にラーメンと言っても色々とあるものです。
それでは次回もよろしくお願いいたします。