side葉山隼人
不穏な空気が醸し出ているこのぶどうヶ丘大学の学食。
その原因はこの大学で研究員をしている学院生、二俣川双葉さん。
彼女はどうやらこの学食の勤務員、大柳賢さんに惚れているらしい。好意を隠そうともしていない。
その大柳賢さん。
杜王町の名物人物「じゃんけんお兄さん」として有名な美男子だ。シャープな目付きとワイルドな雰囲気を持っており、頬の絆創膏も相まって結構な遊び人のような印象を受ける。シャープな目付き……と言いつつ、どこかヒキタニと似たような目もするが。
その大柳さんが特別と称する人が岸辺露伴先生。
俺達スタンド使いの大先輩とも呼べる人で、一応は奉仕部の特別顧問の一人だ。
もうじき引退するが、生徒会長の城廻めぐり先輩の運命の人……らしい。
露伴「紹介しよう。僕の婚約者……になるのかな?鈴美お姉ちゃんの生まれ変わりの城廻めぐり君だ」
訂正する。露伴先生の運命の人
でも露伴先生……めぐり先輩はまだ高校生なのだからそういうのはちょっとまずくないですか?
露伴先生だって人気漫画家の一人なんですからそういうスキャンダラスな事を公共の場で言うのは……
めぐり「城廻めぐりですよー。えっと……鈴美としては会ったことなかったよねー。大柳さん……で良いですか?」
大柳「ええ。杉本さんの事は露伴先生から聞いていました。まぁ、生まれ変わりとかは……比企谷君とかの例もありますから……。あの時の事は子供だったと言うことで許して下さい」
めぐり「え?何かあったっけ?」
大柳「俺、当時は露伴先生の敵として現れたんで、杉本さんには顔を合わせ辛いんっスよ」
めぐり「あぁ。その事だったらアーシスの誰もが気にしてないよ?だって……アーシスの大半が元々はジョースター家の敵から始まった関係なんだから♪露伴ちゃん自身だって最初は東方会長の敵だったんだよねー」
言われてみればそうだ。露伴先生、材木座、俺、南、戸部、折本さん……由比ヶ浜は少し違うかな?
ただ、どんな形であれ、ほぼ全員が普通とは違う形でジョースター家と関わり、そして仲間になった。
歴代ジョジョの仲間達の大半がそうらしい。
めぐり先輩ごしにジョースターの人間からしてみれば、そんな事が当たり前すぎて今更なのだとか。だから大柳さんの事もめぐり先輩からしてみたら、その程度の事で終わるらしい。大物ですね、めぐり先輩。
もっとも、ジョースターと関わっていたならばどうしても感覚がおかしくなってしまうのは俺にも当てはまることなのだが。
双葉「いきなりオカルト?」
双葉さんの感覚が普通だよな。きっと。
露伴「次に彼だ。彼は材木座義輝くん。僕の弟子だ」
大柳「弟子!?露伴先生に!?」
露伴「君も大概失礼だな。僕だって波長が合う作家志望の人間がいたら、弟子だって取るさ」
大柳「とは言っても露伴先生だからなぁ……」
露伴先生に関しては何も言うまい。
材木座はよほど希少な人間としか思えない。
材木座「剣豪大佐、材木座義輝である。そしてこちらが我の……その……彼女の由比ヶ浜結衣だ」
結衣「は、初めまして!大柳さん!由比ヶ浜結衣です」
由比ヶ浜は少し緊張気味に自己紹介をする。そんな由比ヶ浜をチロッと見て大柳さんはニッコリと笑い……
大柳「由比ヶ浜結衣ちゃんだね。よろしく」
と、挨拶をした。若干だかその態度には苦手意識を持っているような感じだ……。もしかしたら大柳さんは……。
折本「私達は露伴先生とは仕事上の関係。昔、お世話になったけどね」
後は俺達だな。
葉山「葉山隼人です。今回は仲間内で杜王町の観光に来て、折本さん達に案内してもらっていました。ここに来たのは……」
双葉「じゃんけんお兄さんで有名な賢さんを見に来たって事でしょ?賢さんは裏の観光名所だから。あたしはぶどうヶ丘大学の植物学芸員、二俣川双葉。賢さんの大ファンよ」
大柳「君には俺なんかよりも良い人がいると思うんだよなぁ……」
大柳さんは困ったような表情をしてヤレヤレと肩を竦める。
双葉「それでも………あたしは………賢さんが良い」
なんかこれ以上、この話題には触れないようにした方が良いような雰囲気になり、俺達はとりとめのない話をしながら食事を進める。
料理の味は……
葉山(か、辛い!でも……ただ辛いだけじゃあない!あとを引く辛さだ!油が程よく絡んでいて、なおかつ火がよく通っていて、それでいて焦げていない!卵や白菜、豚肉がそれぞれが絶妙なタイミングで炒めてある!それぞれの食材がまるで輝いているのはその炒め具合がどれも最高だからだ!この炒め方はフライパンの上だけでやっていたのではただのピラフ!手早くフライパンを操り、ほんの一瞬だけ炎に直接炙ることで初めて出せる領域!大柳さんはプロだ!炎の飯使いだ!これは……うーまーいーぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!うんまぁぁぁい!」
こ、これは旨い!
相模「は、隼人くん!キャラが!キャラが崩壊しているから!でも旨い!こんな美味しい炒飯は初めてかも!」
戸部「こりゃうめぇべぇぇぇぇ!そして箸休めのザーサイも程よくいいべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
由比ヶ浜「そしてこのスープ!辛すぎず、薄すぎず、ガラスープの味が絶品なんだ!」
めぐり「ああっ!どれもが絶品!どれもが味の主張をしているにも関わらず、ケンカをしていない!これは絶品のコラボレーション!いいえ!味のレボリューション!」
材木座「何より具材が人参と大根のシャトーとこんにゃく寒天、そして小松菜と言うのが憎い!素材の味を出しつつ色合いもバランスが取れておる!なんというコラボレーション!どれもこれも………」
総武高校組
「うぅぅぅぅぅんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!チャーハン!食さぬわけにはいかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!WRRRRRYYYYY!」
お、俺達総武高校組全員が立ち上がり、まるでDIOのような格好を………膝を付きだし、背を海老反りにし、両腕を広げている!(いわゆるジョジョ立ちレベル5)
目や口からはビームが出せるのではないかと思うほどだ!
これはWRYYYYY!と叫ばずにはいられない!俺は同じ事をしている!あのヒキタニと同じ事をしているぅぅぅぅぅ!
大柳「お、大袈裟なんだけど………ただの賄いなんだけどな……」
露伴「ふ………誇って良い。あれは大袈裟だとしても、この味は君が作り出した至高の逸品だ。君の料理が美味しいからこそ、僕はめぐりくん達をここに連れてきたんだ。自信をもって薦められるからこそね」
毒舌で有名な露伴先生がここまで手放しに誉めるなんてぇぇぇぇ!やはりこのチャーハンは絶妙なんだぁぁぁ!
双葉「賢さんが有名だからとはいえ、それだけでここが繁盛する訳じゃあありません。賢さんの料理の実力がここを杜王町の1つの人気スポットにしているんです。賢さんの料理はどれも絶品」
これはファンが多いのが頷ける。
大柳「良い師匠にめぐり会えたからね。どれもこれもが運が良かっただけだ」
本人は事も無げに言う。
大柳「中華、洋食、和食……どれも長続きはしなかったけれど、店主やシェフの腕がよく、指導も上手い人だらけだったからな。これもボーイ・II・マンのおかげだ」
結衣「へぇ、ボーイ・II・マンの能力ってリバースの逆みたいな能力なんだ?もしくはシンデレラ・ハーヴェストとかリーシャウロンみたいな?」
露伴「ボーイ・II・マンは関係ない。元々持っている彼の天性の運勢の良さだ。正確には運を呼び寄せる才能とも言うべきかな。僕との戦いの時に彼の運気は解放された。後は彼の努力……いや、極めようとする反骨心だと言うべきところだろう」
大柳「露伴先生が俺の事をそう評し、そして助けてくれたからこそ、俺は頑張ってこれたんですよ。自棄を起こしてあの時に……敵だった俺を助けてくれたから……」
なんか良いな。大柳さんと露伴先生の関係。俺もこんな風に戸部や南……それに大和や大岡と関係を築けたら…そしていつか、奉仕部やアーシスの人間と……。
露伴「しかし、不思議なのが何故君がまだ独身なのかと言うことだ。君は僕みたいに酷く人付き合いが苦手と言うわけではない。それに、君の容姿は整っている。何か事情はあるのかい?」
大柳「その歳になるまで独身の露伴先生が言いますか」
露伴「僕の事は良い。今は君の問題だ。この双葉君のように君に言い寄る女性は少なくないだろう。なのに何故なんだ?」
露伴先生!言い方!双葉さんに対して何か悪意が感じられるないようなんですけど!
想いを暴露された双葉さんがすごく可哀想だ!
大柳「俺の場合は仕方がないですよ。一番の欠点を隠している時はモテるみたいです。事実、学生時代は何度か女の子とも付き合った事がありましたが……一番の欠点を見られたら、みんな離れて行くんですよ」
双葉「賢さん……ちょっとやそっとの欠点なんて…」
大柳さんの欠点?何だろう。
ヒキタニのように目が腐っているとかか?腐っているだかなんかじゃあなく、更に目付きがヤクザっぽく見えるという訳なんだが。
何か今頃ヒキタニがくしゃみをしていそうな気がするが、後で無駄無駄ラッシュをしてきそうな感じではあるが、それは関係ない。
大柳「………これでもかい?」
大柳さんは頬の絆創膏を外す。
そこには………あり得ないほどの大きさの穴が空いていた。
露伴「忘れていたよ………君にはそれがあったね」
双葉「!!」
大柳「何年経っても消えることは無かったこの頬の穴は、東方仗助や一色いろはでも治せなかった。一種の呪いみたいなものさ。強すぎるスタンドの副作用かも知れないね」
スタンドの能力のせい?
双葉「スタンド?」
大柳「双葉ちゃんは知らないだろうけど、俺は世間一般で言うところの超能力者。俺にも1つだけ強力な能力があるんだ。ストーンオーシャン事件のエンリコ・プッチのような相手の能力を奪う能力が……露伴先生に負けて以降は一切使っていないけど。俺のこの頬は能力を得て以来、17年間……この穴が空いているんだ」
………それは確かに凄い能力だ。
そして、酷い状態だと思う。なまじ大柳さんがイケメンであるだけ、余計にその穴が目立つ。
ヒキタニの目とおなじだ……。あいつが言うように、目以外はそれなりにイケメンなヒキタニ……。だが、あいつの場合は目付きと言うだけだ。けど……大柳さんのそれは。
大柳「いつもこの頬で振られてきたんだ……。そしてついにはバケモノ呼ばわり……。仕事でもそうだ。どの店でもこの頬は異端呼ばわりされてね。この学食はそれほどうるさくは無いけど、絆創膏をしていると店では小うるさく言われたよ。そして外すと……な。露伴先生は俺の事を強運と言ってくれるけど、本当の意味での強運なんて一度も………」
そうか………どことなく大柳さんの目が少しだけやさぐれているように感じたのは………そんな事の繰り返しの人生だったからかもしれない。
だから大柳さんは色々と諦めているんだ……。
だが……そんな大柳さんの事を救う一言が来た。
双葉「賢さん……その頬の傷で今まで苦労していたのかもしれない……でも、そんな事でウジウジしているなんて賢さんらしくない!」
大柳「は?ちょっと………何を言って……」
双葉「あたしは!賢さんの事がホントに好きなの!見た目とかじゃあない、賢さんの反骨精神と、料理の味に惚れてるの!どうしてわかってくれないの!?それこそ、あたしがただの大学生の頃から賢さんのそういうところが良いなって言っていたのに!」
!!
見てくれる人間は見てくれる。大柳さんの本当の魅力をわかってくれる人はいたんだ……。
ん?露伴先生とめぐり先輩は頷き合っている……そしてめぐり先輩はスタンドを展開した……。それで何を…。
めぐり「だいぶ使っちゃったけど……シンデレラ・ハーヴェスト………お願い」
結衣「あたしが横牛から奪った運や幸せも使って下さい。めぐり先輩」
シンデレラ・ハーヴェストが由比ヶ浜のスタンドから光を集め、大柳さんに照射する。リバース・タウンとシンデレラ・ハーヴェストの合わせ技で何を…。
そういえば俺はシンデレラ・ハーヴェストの本当の力を知らない。その光が何を意味するのかも……。
双葉「賢さん……覚えて無いかも知れないけど、あたしの研究はあまり評価されなかった……セオリーをほとんど無視して独特のやり方をしていたから……それでゼミとかでも爪弾きにされてあたしはいつも泣いていた…でも賢さんはある日、泣いて絶望いるあたしを見つけて反骨精神を説いて……バカな事をいう人だなって思ったけど……賢さんの料理はいつも反骨心で溢れていて…遊び心に満ち溢れていて……あたしは、いつもそう言っていたのに……賢さんは信じてくれなくて……」
大柳「………何故だ。普段は信じられないのに…今日は双葉ちゃんの言葉が染み渡っていく……」
何が起こっているんだろう。
材木座「シンデレラ・ハーヴェストの幸せを集める能力の1つ………今、めぐり先輩は集めた幸せを大柳殿に届けているのだ。だから頑なだった大柳殿は、純粋に二俣川殿の心を受け止めているのだろう」
結衣「だって……こんなのないよ……。本気で二俣川さんは大柳さんの事を想っているのに……大柳さんのコンプレックスなんて気にしていない……それこそスタッチ達の言う本物があるのに……それを拒絶するなんてないよ!だから、届けるんだし。大柳さんに幸せを……」
幸せを集める能力……それがシンデレラ・ハーヴェストの本当の能力………。
大柳「良いのかよ……こんな醜い傷がある俺なんかで」
双葉「賢さんが良いの……だからあたしは頑張って…修士号を取って、大学に残って賢さんの側にいたくて…SPW財団のスカウトだって無視して……」
………これはもう、俺達は邪魔かな?
スタンドの悪用も………こういうのだったら良いと思える。
決して完全な本物ではないかもしれないが、本物を手助けする為にわずかな偽物を渡す……。そんな本物がたまにはあっても……。
露伴「良いねぇ。凍った心が溶けていくリアリティーを観察するチャンスを是非とも……」
めぐり「露伴ちゃん!邪魔しちゃダメ!」
結衣「リバースで殴っちゃいますよ!?露伴先生!」
露伴「何をする!めぐりくん!由比ヶ浜結衣!ここからが良いところなのに!」
相模「ハイハイ露伴先生!良いところなのは同意だけど、うちらは帰りますよ!」
材木座「大柳殿!これはお代だ!末永くお幸せに!」
総武高校女性陣は出歯亀根性満々の露伴先生をスタンドで押さえつけ、ズルズルと引きずる。
仲町「あーあ………カッコ良かったのに……私、何気に大柳さんを狙ってたのにな……」
折本「ムリムリ。二俣川さんに対抗できると思ってるの?ウケる……」
仲町「………だね。想いのレベルが違いすぎるか。邪魔者は退散しないとだね」
戸部「べー。急展開すぎて理解が追いつかねーわー」
戸部……お前って奴は。
理解が追い付かなくても、急展開でも良いんだよ。
鉄は熱い内に打て…と言うが、双葉さんにとって、鉄を打つタイミングは今なんだ。
幸せを集める能力が効いている今が……。そんな仲良くだってあっても良いだろう。
葉山(大柳さんは本当の意味での幸運なんて無かったと言うけれど、料理の師匠達の存在、この職場と双葉さんにめぐり合えたことそのものが大柳さんにとっての本当の幸運だったかも知れないな……)
もちろん、それは大柳さんの運だけじゃあない。
自分の顔に出来たクレイジー・ダイヤモンドでも消えないコンプレックスからくる反骨心からだとはいえ、これまで修行の努力を惜しまなかった結果だろう。
だから、二俣川双葉さんに出会えたんだ。
葉山(こんな形も……あるんだな。お幸せに。大柳さん)
俺は最後に二人の世界を展開する大柳さんと双葉さんに心の中でエールを送り、女子達を追ってぶどうヶ丘大学の敷地から出ていく。
連行される露伴先生は未だに騒いでいた。
露伴「くそっ!由比ヶ浜結衣!相模南!君達はやはり東方仗助と同じく、この岸辺露伴にとって敵だ!せっかくの取材がぁぁぁ!」
結衣「嫌いでも何でも良いから出るし!もっと人の気持ちを考えてよ!何でヒット作は作れるのに、こーゆーデリカシーとかはわからないの!」
戸部「べー。結衣、辛辣ぅ」
ぶどうヶ丘大学の門の外では陽乃さんが何やら青い顔で助けを求めに来るし……。
俺の周りにいる本物は……こんなのばかりなのかな。
空条博士がいたらこう言うだろうな。
葉山「ヤレヤレだぜ……」
←To be continued
はい、超無理矢理の展開でしたが、ジャンケン小僧偏は終わりです。
めぐり先輩と由比ヶ浜にも見せ場を作らないとですしね。
それでは次回もよろしくお願いいたします。