side葉山隼人
俺、戸部、南、折本さん、仲町さんと宛もなく歩いていると、そのうち大きな敷地に出る。門の脇には……
『ぶどうヶ丘大学』
とあった。
ぶどうヶ丘大学は医学部もあり、ぶどうヶ丘総合病院は正確にはぶどうヶ丘医科大学病院でもあるらしい。戸塚はSPW財団系列とは別の医学に興味があるとかで、ぶどうヶ丘総合病院に行ったと聞くが……。
どうやら医学部だけは別の敷地らしく、少し離れた位置にあるのだとか。もしかしたら合流できるかもと思っていたのだけど、残念だ。
時間は13時。そろそろ空腹になる頃だ。
仲町「ねぇ、お腹も空いてきた事だしさ。ぶどうヶ丘大学の学食でお昼食べない?」
折本「あ!それある!ねぇねぇ、葉山くん。良いでしょ?」
別に構わないのだけれど、でもわざわざ杜王町に来てまで大学の学食って……。
仲町「ここの学食ってめっちゃ美味しいんだよ?」
折本「ちょっと安いしさぁ。みんなも良いでしょ?」
やれやれ。折本さん達はこの短期間で俺の扱いがわかってしまったのか、周りから崩しにかかる。
なにかを決めるとなったとき、周囲が同意すると俺もその流れに乗ってしまう傾向がある。
彼女は俺みたいな人間がいるグループに常にいるのだろう。だから、そういう事に慣れてしまっているんだ。
南「まぁ、美味しいって言うんなら……」
戸部「べー、知ってる人がお薦めってゆーなら、こりゃ行くっきゃないっしょ!隼人君!」
ほら、こうなる。そしたらもう、お決まりの言葉を言うしかない。
葉山「そうだな。じゃあそうしよう。案内を頼めるかな?」
これがいつものお決まりのパターンだ。最終的に俺が決定してグループの決定となる。
折本「オッケー!じゃあ行こ?千佳」
仲町「うん。楽しみだねー!」
これは食事以外でも何かあるのかも知れないな。
まぁ、楽しんでいるなら良いか。
ぶどうヶ丘大学はそれなりの敷地がある大きな大学だ。
敷地内には一般開放されている場所もあり、そこはキャンパスというよりはどこか公園のような感じになっている。
中には土曜日という事もあり、家族連れや散歩している年配の方の姿もある。
ジョギングしている俺達くらいの人の姿も見えるが、それはこの大学の学生なのか、それともここをコースにしているだけの人なのかはわからない。
葉山「良いね。こんな大学も」
相模「うん。やっぱり適度に都会、適度に田舎だからかな。下手な首都圏よりも落ち着いてるよね」
隣を歩く南がそう漏らす。
前は肩肘を張っていた南も今は落ち着いて穏やかになってきた。
ポルナレフさんが南を変えたのかな……。
だとしたら………ポルナレフさんに感謝すると同時に少しだけ…………
葉山(っ!俺は今、なんて考えた?)
少しだけ頭を振り、心を落ち着かせる。
戸部「べー!やっぱ大学って楽しそーだわー。俺、やっぱり大学に進学するかなー」
こういう時、空気を読まない戸部のお気楽さには救われる。
葉山「戸部。プロサッカー選手の目標はどうしたんだよ。小町さんが言ってたぞ。今のままトレーニングを続けて基礎体力を上げてれば、国立も夢じゃあ無いって」
戸部「え!?それマジ!?べー!そりゃ頑張るしか無いっしょ!そしてプロになるっきゃねーべー!」
おいおい……進学するとかいうさっきの言葉は何だったんだよ。戸部らしいと言えば戸部らしいが……。
戸部「隼人くんってさぁ……仮にインターハイに出れたとしてさ………プロからスカウトが来ても受けないってマジなん?」
葉山「………ああ。警察組織に入る目標もあるけれど、それ以前に小町さんの話では俺はプロにはなれないらしい」
戸部「はぁ!?そりゃねぇっしょ!?隼人くんが一番部の中で上手くね?なのになんで!?」
戸部は知らないのか。アーシスの規約を……。
葉山「俺が波紋の戦士になったからな。今のレベルならば問題は無いみたいだが、成長の度合いを見ていると、高校卒業する頃には公式試合に参加出来るレベルを超えてしまうらしい」
ヒキタニ達がそうであるように、ある一定の波紋のレベルに達すると公式試合に出ることを波紋の戦士は禁止されてしまう。
それを破った上で入れられた矯正施設……エア・サブレーナ島矯正施設は昔の佐渡島よろしく入れられたが最後、生還率は低いのだとか。
sideなし
実は葉山のエア・サブレーナ島波紋の戦士矯正施設に対する認識は間違っていたりする。
確かにエア・サブレーナ島矯正施設は波紋の戦士の違反者を矯正させるだけあり、厳しめの矯正施設ではあるものの、実は生還率が低いわけではない。
低いのは脱走成功率なのである。
海に囲まれたエア・サブレーナ島、そこに配備されている波紋の戦士はロギンズやメッシーナクラスがゴロゴロ。
万が一島から逃げ出せたとしても、連絡を受けたパッショーネが今度は始末する気満々で総力を挙げて追って来るのだ。
ジョルノやミスタ達が育てたスタンド使い達が嬉々として銃弾を飛び交わせて追ってくる脱走。それは始末されること間違いなしである。
それを知った矯正者達は大人しくヘルクライムピラーに張り付いていた方がはるかにましだろう。
この葉山の勘違いであるが、八幡達は敢えて訂正していない。
そう思わせていた方が自制心を強く持つだろうと考えているからである。
side葉山隼人
到着したぶどうヶ丘大学の食堂。見た目的には普通の大学の食堂と変わりがなかった。
白を基調としたテーブルや椅子。自然な太陽光が取り込みやすいようにしてあるガラス張り。明るく清潔感が溢れる食堂といった感じだろう。
店内には学生なのか、一人の女性が何か本やノートを片手にノートパソコンで何かを打ち込んでいる。
休日の……それもお昼時を外している時間帯とはいえ、大丈夫なのだろうか?他にお客さんがいないようだから良いけれど。
メニューを見てみても特別な料理があるわけでもない。折本さん達は何が目的でここに来たのだろうか?
葉山「折本さん。どうしてわざわざここに来たのか教えてくれないか?何か特別な事があるとは思えないんだけど……」
仲町「あははは。特別なのはこっからだよ。すいませーん!」
仲町さんが奥の店員さんを呼ぶ。
おかしい………。注文するならば食券機でするのでは無いのだろうか?何故わざわざ店員を呼んだのか…。
すると……
??「何だ……君達か。杜王町に来る度にこの時間を狙いすましてやってくるな」
折本「だってこの時間が一番の狙い目じゃあないですかー。大柳さん!」
頭にバンダナを巻き、銀髪のイケメンが出てきた。
背は中肉中背。頬には大きな絆創膏を貼っている。
葉山「この人は?」
仲町「じゃんけんお兄さんで有名な大柳賢さん!」
なるほど。杜王町の有名人、強運の大柳賢さん。彼が目的だったと。
大柳「………君達は初めてだね。制服からして千葉の総武高校の人かな?」
相模「総武高校を知っているのですか?」
大柳「知っているぜ。静・ジョースターの通う高校だろ?」
ジョースターさんを知っているという事は……。
葉山「あなたは……アーシスの人……ですか?」
大柳「一応は支援部隊に所属しているぜ。もっとも、幽霊部員ならぬ幽霊隊員だけどな。本業の方が忙しいからあまりアーシスには顔を出してねぇんだ」
戸部「べー。この食堂、そんなに忙しいんっすか?」
大柳「俺自身が杜王町の名物だからな。『強運のじゃんけんお兄さん』って事でこの食堂の顔みたいになってるんだよ。だから職場の方も取材が来たりして、俺がいれば外部からの客が押し寄せてくるからなるべくこっちに専念しろってな」
確かに町の有名人がいればそれだけ宣伝効果があるか。
うちにも有名人がいるが、悪い意味でだから宣伝効果にはならないだろうが。
大柳「それで、君達はアーシス……なのか?」
葉山「いえ。でもジョースターさんや比企谷と同じクラスのスタンド使いではあります」
大柳「へぇ。てっきりアーシスの人間かと思ったが…まぁ当たらずとも遠からずって奴か。ここには観光を兼ねた食事ってところか?」
折本「大柳さん!スペシャル賄い料理をお願い!」
仲町「ここの裏人気メニュー!アーシス関係者だけが知る大柳さんの特別ランチ!これが美味しくてねー。日替わりなんだけどハズレなし!」
大柳「一度これを出したらアーシスの人間はこれを目的にわざと時間をずらして来るようになったんだよ……まったく集団全体が図々しいというか……」
大柳さんはぶつぶつ文句を言いながら奥に引っ込む。
代わりに今度は入り口から別の知り合いが入ってきた。あれは………
結衣「あ、さがみん達だ!やっはろー!」
露伴先生、めぐり先輩、材木座、由比ヶ浜だ。
露伴「おや?葉山隼人。君達もここに来たのか」
折本「あ、露伴先生。お疲れ様でーす!」
葉山「露伴先生もやはり賄いスペシャルを食べに?」
露伴「そんなところだな。杜王町と言えばトラサルディなのだが、あそこは予約を取らなければまず無理だからな。だがここも悪くない。やっているのが大柳君というところも実にいい」
大柳さんと露伴先生は過去に何かあったのだろうか?
露伴先生は基本的に人嫌いという事で有名な漫画家だ。アーシスと関わることがなければ俺も関わる事が無かっただろう。
葉山「大柳さん、ワイルドな感じの方ですね」
露伴「ワイルド……か。僕としては彼はそんな言葉の器に収まる感じでは無い。彼の反骨精神については僕も気に入っている。君にはない精神だろう」
葉山「これまでの環境が環境でしたから。今さら変えるのなんて無理ですよ」
アーシスと関わるようになって少しは変わったとは思うけれど、こればかりは性分だ。変わろうとしたってそうそう変わるものではない。
露伴先生はスケッチブックを広げ、シャカシャカとスケッチを始めた。
露伴「もっとも、風見鶏のような部分は……それこそ意見を言い合い、議論するような姿勢は出ているようだけれどね」
葉山「いつ知ったんですか?そんな事………」
露伴「人間観察は得意な方だ。それこそジョースターさん並にはね。だからこそその本質がヘブンズ・ドアーなんだろう」
露伴先生がいうジョースターさんはジョセフ・ジョースターさんの事だ。
シャカシャカ……
露伴「人の行動というものは何かが変われば自ずと普段の行動にも違いが出てくると言うものだ。良くも悪くもね。君の変化は少しずつ、良くも悪くも周りにも変化が出てきているはずだ」
露伴先生に言われる通り、少しずつだが変化があった。一歩前に進もうとすれば、受け入れられる人間もいれば受け入れられない人間も出てくる。
それでも、俺は進みたい。上っ面だけで……ことなかれだけで流すような真似はしたくない。その本質が出てきたのがオーラル・シガレッツだ。
露伴「そうか」
シャカシャカシャカシャカ……
葉山「何をスケッチしているのですか?」
スケッチブックを覗き込むと、そこに描かれていたのは俺達以外の唯一の客である女性の絵だ。まるで写真のように細かく書き込まれている。
露伴「そうだな。大柳君の熱烈なファンの学芸員だ。ぶどうヶ丘大学の院生として働いている。二俣川双葉。彼女は大柳君がシフトに入っている日は必ず学食で食事を取る。それも賄いが出る時間を狙ってね。出身は山形県。趣味は植物。それが高じて植物研究者となり、かつて八幡君が承太郎さんの為に花見をしようと季節外れの桜の花を咲かせた時にはいの一番に千葉まで駆けつけ、その謎を解き明かそうと躍起になっていた。身長は157センチ、体重は………」
葉山「待て待て待て待てー!岸辺露伴!それ以上の個人情報の暴露は許さない!というか何で彼女のプロフィールをそこまで知っている!」
露伴「なに。大柳君に本気で近づく彼女に興味を持ってね。ヘブンズ・ドアーでちょちょいと……」
めぐり「露伴ちゃん?今後はそういうの、私だけにしかやっちゃダメだよ?私のすべてをさらけ出すから……」
めぐり先輩も公共の場で何を言っているんですか!
それにしても本気で大柳さんに熱を入れている人か…。
大柳「双葉さーん!出来たよー」
双葉「はーい!賢さーん!一緒に食べませんかー!」
大柳「今日は特別なお客さんがいるからー!」
ギロッ!
二俣川さんから強烈な視線を感じた。
うん。間違いなく何か勘違いされている。それも姫菜が喜びそうな方向性のヤツで。
なんで俺なのか……折本さんや仲町さん、めぐり先輩に対して向くはずの視線が俺に向けられるのはどうなのだろうか。姫菜と同種の人間なのかもしれない。
ハヤケンって何だ……どこかで姫菜が叫んでいる気がするのは何だ。ヒキタニが言う波紋の戦士でも乗り越えてはいけない恐怖とはこれの事なのか?
大柳「お待たせしました露伴先生。今日の賄いのキムチチャーハンセットです」
そのうち、大柳さんはお盆を持って俺達の所に料理を持ってきた。
少し辛そうな赤いご飯が盛ってある中華皿に、ザーサイ、中華スープのセットが次々と俺達や露伴先生達のテーブルへと運ばれ、そして全員分が配食されると大柳さんも席に就く。
双葉「私も良いですか?賢さん」
すると、双葉さんも俺達の方の席へと移ってきた。
双葉「お久しぶりですね?岸辺露伴先生。たしか最近では上京して長期の仕事をしていると伺ってますが?」
露伴「相変わらず態度が悪いな。二俣川双葉」
双葉「態度が悪いのはお互い様です。賢さんが特別…という程の相手は岸辺露伴先生しかいません」
双葉さんは敵意を(同時に大柳さんへの好意を)隠そうともせずに露伴先生に突っかかる。
双葉「それで……誰なんですか?他の人達は……露伴先生の彼女さんとか?でも男女比がおかしいですし、どうみても高校生かそこらですし……。どういうつながりなんですか?」
折本「何かデジャヴ……」
俺もそう思った。つい昨日の出来事のような気がする。ずいぶん前のような気がしなくもないけど(メメタぁ!)。
何だか何かが起きそうな昼食会となりそうだ……。
←To be continued
じゃんけん小僧こと大柳賢のその後と葉山グループを引き合わせてみました。
それでは次回もよろしくお願いいたします。