やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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京の決意

side虹村億泰

 

京は吉良東をはね飛ばし、奴のスタンドに必要不可欠な右腕を欠損させた。これで奴はもう何も出来ねぇ…。生きていたとしてもスタンドを使えねぇ。

 

京「とどめを………刺す。お前だけは……絶対に殺す。報いを受けろ!」

 

やべぇ……京は殺す気だ。

 

億泰「ぐぅぅぅぅぅぅ!いってぇぇぇぇぇ!」

 

俺はもう一度、自分自身の手で脇腹にナイフを刺し直す。二度刺しは余計いてぇって聞いていたけどよぉ、こいつはマジでシャレにならねぇくれぇにいてぇ!

けど、そうするしか無かったからよぉ。

開けた蓋を閉じれば、ボーン・ディス・ウェイは強制的に引っ込む。確かそういうルールだったよなぁ。

 

京「億泰………どうして……」

 

別に吉良東がどうなろうと俺の知った事じゃあねぇ。

京に殺人をしてもらいたくねぇとか、そんなチャチな理由なんかじゃあねぇ。

そんな理由だったら、ハナからこんなところには来ちゃいねぇよ。

京や俺、仗助、康一を殺そうとしやがったんだからよぉ、それ自体は何とも思わねぇし、結果的には俺と京もこいつを殺すためにここに来たんだから、俺がここまでやられたのも仕方がねぇ。誰にだって自分の身を守る権利はあるだろうよ。

なら、何で俺はボーン・ディス・ウェイを止めて吉良東を殺さねぇようにしたのか……。

それは………

 

億泰「待てよ京……こいつからは色々と聞き出さなくちゃあならねぇ。こいつを脱走させたのは誰なのか、こいつの後ろにいる奴は何が目的で俺や仗助、康一を狙ったのか……そいつを吐いてもらわなくちゃならねぇ…。オメェの復讐を邪魔しちまうのは申し訳ねぇけどよぉ…」

 

京「……………吐いてもらった後は………好きにして良いの?」

 

億泰「ああ。勝者の権利ってヤツだ。良いんじゃあねぇの?よくわからねぇけど。まぁ、承太郎さんが許せばだけどよぉ」

 

もう俺たちだけでどうこう出来るレベルじゃあ無くなっちまったからなぁ。

 

仗助「億泰ぅ!」

 

康一「億泰君!京ちゃん!いや、那由多さんだったかな?」

 

仗助と康一も来てくれた。やっと傷を治してもらえるぜ……。正直、マジで痛かったからよぉ。

 

京「後はあなたとあの子に任せるわ……ただ……」

 

あん?

 

京「私はあなた以外の人の前には極力でない。出たくない。じゃあね、億泰」

 

京が目を閉じ、次に目を開けたときは那由多に戻っていた。

 

億泰「どういう意味だったんだろうな?」

 

那由多「ホントに……あなたってバカで鈍感で……手が臭いわね」

 

おまっ!って……確かに今の俺の手は自分の血で血まみれだ。そりゃ臭そうだ。

 

康一「億泰君!大丈夫!?」

 

仗助「もう良いだろ?クレイジー・ダイヤモンド!」

 

仗助が俺を治療してくれる。

た、助かったぜ………。

 

仗助「で、終わったんだな?億泰」

 

億泰「ああ……ありがとな?仗助、康一」

 

那由多「私からもありがとう。仗助、康一。でも、まだ終わっていない」

 

仗助「そうだ!こいつの裏にいるヤツを吐かせねぇと!おい、テメェ!知ってる事を吐きやがれ!誰がテメェを病院から脱走させたぁ!億泰の家を荒らした理由はなんだ!吐きやがれ!」

 

仗助は倒れている吉良東の胸ぐらをつかみ、ぐらぐらと揺らす。

俺の家を荒らした?どういう事だ?

 

康一「そうだった!億泰君!大変なんだよ!君の家に空き巣が入ったんだ!それも、猫草をやっつけられるくらいの空き巣が!」

 

何だって?俺の家に空き巣?言っちゃあ悪いけど、俺の家に空き巣が入るような物なんてねぇぞ?矢だってSPW財団が回収しちまって無くなっちまったしよぉ。

多分、この男の黒幕の仕業だとは思うけどよぉ……。

 

東「く……くそが……テメェらなんかに………」

 

ガァン!………タァァァン……!

すると、突然……吉良東の頭に何かが当たり……これは銃弾?狙撃か何かかよ!

 

東「………何故………しん…………」

 

ガクッ!

吉良東(スマイリー・ボム)……死亡

 

仗助「なにぃ!?」

 

康一「ここは危ない!隠れよぅ!」

 

億泰「おいっ!上を見ろ!何かが飛んで行ってるぜ!」

 

仗助「あれが銃弾を?うおっ!」

 

タァァァン!タァァァン!

 

仗助「チッ!近寄れねぇ!チクショウ……」

 

康一「僕のact1なら………」

 

仗助「止めとけ康一!靴のムカデ屋の時の事を忘れたのか!ここは身を守る事を考えろ!」

 

億泰「くそ………せっかくの手掛かりだってのによ!逃がしちまうのかよ!」

 

吉良東も殺された……多分、口封じだったんだと思う。

 

京「………死んだのね。あの男が……。でも何でだろう?何も感じないの。憎かったあの男が死んでも……気が晴れる訳でもなければ、唯一の肉親が死んだ悲しみも沸いてこない……ただ、事実だけがストンって落ちてきただけ……やっぱり、私はどこか壊れたままなのね…」

 

また出てきた京が、泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、悔しがる訳でもなく、淡々と言っていたんだ…。

 

億泰「……でも、終わったんだよ。1つのオメェの復讐がよ……後はオメェが幸せになるだけだと思うぜ?」

 

京「そう……でも億泰」

 

お?

 

京「そういうカッコいい言葉は……あなたには似合わないわ」

 

うるせぇよ!かっこつけたわけでもねぇ!あー、もう調子が狂うなぁ!この女はよぉ!

 

京「でも……ありがとう。億泰………女神って言ってくれたこと……私が疫病神じゃあないって怒ってくれたことは……すごく嬉しかった……最後まで守ってくれたことも……あなたの覚悟は……口だけじゃあなかった。あなたはただのバカじゃあない。大バカよ……」

 

頑張った甲斐があったってジーンと来ていたのによぉ、大バカってなんだよ!大バカってよぉ!

 

仗助「おい億泰。イチャイチャしてっとこ悪いけどよぉ、敵にも逃げられたみてぇだしよぉ、大急ぎでオメェの家に戻るぞ。オメェなら、何を盗まれたかとかわかるかも知れねぇだろ?」

 

そうだった!まだ肝心な事は終わってねぇんだった!

 

那由多「なら、私が見るわ。伊達に虹村家で家政婦みたいな真似をしていたわけじゃあ無いから、億泰以上に虹村家の事はわかるつもりよ」

 

那由多がそう言って俺にコンパクトを渡す。バイクを出せってことね?それよりも、さらっと恐ろしいことを言わなかったか?コイツ。

 

キングクリムゾン!

 

夜が明け、家に戻った俺達は、中の様子を確かめる。

 

億泰「こいつは……マジでめちゃくちゃだ……」

 

家のタンスとかクローゼットとか、そういう物が何から何までメチャクチャにされてやがる!

そして……親父が泣いていた。

 

万作「ウオォォォォォン!ウオォォォォォン!」

 

親父の宝物である昔の家族の写真が……メチャクチャに破られ、更に靴で踏みにじられた形跡があった。

猫草は俺達が入ってきた早々に空気弾を放って来た。

俺たちだとわかると、すぐに攻撃をやめたけど、うちに来て以来、ここまで機嫌が悪かった事なんて一度も無かった。

どれだけ凄まじいことがここで起こったのか……俺には想像がつかねぇ……。

 

億泰「………仗助。写真を頼む……親父を……見てられねぇ……」

 

仗助「ああ……クレイジー・ダイヤモンド!」

 

昔の写真が元通りに直ると、親父は写真と猫草の両方を頬擦りしながら今度は喜びの大泣きを始める。

 

那由多「億泰。取られた物とかは何も無かったわ。いい機会だから簡易金庫とかは買っておくべきよ?危うく文無しになるところだったわ」

 

そう言って那由多は通帳と印鑑を俺に渡して来た。何でしまい場所を知ってるんだよ……。

 

那由多「あと……これなんだけど……何かわかる?」

 

那由多は何か変な物の欠片を渡してきた。

骨?わからねぇなぁ………。こんなものがうちにあったか?

わからねぇ。夕べは結局飯を食ってねぇし、ここ最近、骨付き肉みてぇな物は食べてねぇからなぁ。

 

那由多「犯人の……落とし物?」

 

そうかっ!犯人は昨日、猫草と戦ったんだっけ?

その時に犯人がこれを落としたんだ!

 

万作「ヒッ!アウウウウウウ!」

 

何だ?親父は骨を見た途端、怯え始めた。親父とこの骨は何か関係があるのか?

 

そして、明るい所で(猫草が暴れた関係か、蛍光灯が割れていた)見てみようと窓際による。

 

億泰「なっ!」

 

骨は………太陽の光に当たった瞬間……灰になって消えた……何だったんだ?これは……。

 

仗助「どうした?億泰」

 

億泰「犯人の手掛かりが……骨が……太陽の光に当たった瞬間に灰になっちまったんだよ……」

 

仗助「はぁ!?テメェ億泰!なにやってんだよオメェはよぉ!」

 

だって仕方がねぇだろ!こんなことになるなんて思いもしなかったんだからよぉ!

結局、俺と仗助はそのまま口喧嘩を始めてしまった。

 

キングクリムゾン!

 

承太郎「………連絡を受けて駆け付けてみたが、よくやったな。仗助……犯人を深追いしなかったのもいい判断だ」

 

仗助は一連の事件の事で承太郎さんに連絡を入れていたらしく、あれからすぐに俺の家まで来てくれた。

空き巣に荒らされていた家は那由多が完全に戻してくれていた。親父と猫草も落ち着きを取り戻し、仲良く遊んでいる。本当に猫草は親父の安定剤だな。

 

承太郎「それで億泰……。確かに犯人が落とした骨は、日光に当たった瞬間に灰になって消えたんだな?」

 

億泰「えっと……ええ。それは間違いねぇっスよ?承太郎さん」

 

仗助「ったくよぉ。せっかくの手掛かりだってのによぉ、オメェがザ・ハンドで消しちまったんじゃあねぇのお?」

 

億泰「そんなことするわけねぇだろ!マジだったんだよ!仗助ぇ!」

 

承太郎「やめろ仗助……」

 

また俺に絡んでくる仗助。しかし、承太郎さんはその仗助を止める。

 

承太郎「決して、それが間違いない……と言うならば、むしろその瞬間をよく見逃さなかったな?億泰。ある意味では最大の手掛かりだ。犯人の目的も何となくだが見えてきた」

 

那由多「私もそれを見てました。間違いありません」

 

那由多も俺の援護をしてくれる。

さすがは承太郎さんだぜ。仗助とは頼りになる男の度合いってものが違うぜ!

 

仗助「あれのどこに手掛かりがあるっつーんすか?」

 

承太郎「………DIOだ」

 

ディ……DIOって……あの……親父をこんなにした弓と矢のDIOの事かよ!

 

仗助「DIOってあの……でもソイツは承太郎さんが倒したはずだったんじゃあないっスか?」

 

承太郎「それは確かだ。奴は俺が倒し、死体も朝陽に当てて確実に灰にした。だが、奴の体の一部が……骨が生前に遺していなかったとも限らない。吸血鬼は太陽や、じじいが使う波紋、紫外線に当てると灰になる。可能性が全くないとは言えない」

 

仗助「で、でもよぉ、その骨がDIOの骨だったっていう根拠は?他の吸血鬼だったっていう可能性だってあるじゃあないっスか!」

 

承太郎「……ゼロじゃあないが、DIOの骨の可能性が極めて高いだろう。忘れたのか?仗助。億泰の親父がこうなる前、DIOに肉の芽を埋められていたことを」

 

………確かに、親父はDIOと何かを取引していた。だから羽振りも良くなっていたし、承太郎さんがDIOを倒した日と思われるあの日、親父がこんな姿になる直前にDIOがどうのとか言っていた……。

 

承太郎「犯人がここを襲撃してくる理由が、DIOの関係者以外に何がある?奴らの目的は……億泰、オメェの親父だったんだ。オメェの親父がDIOに関係する残した記録か記憶を確かめに来たんだろう」

 

親父はそんなものを残しちゃいなかった。兄貴なら何かを知っていたかも知れねぇ。親父に関係する物は捨てちまったか何かだろうぜ。

 

承太郎「………もっとも、DIOが億泰の親父にあの手記の事を喋っていたとは思えねぇけどな…」

 

承太郎さんが何かを呟いていたが、俺も仗助も康一も那由多も聞き逃していた。

 

承太郎「楽観視は出来ないが、SPW財団の東北支部を通じて億泰の家の周辺に護衛を置いておく。そして、DIOの事についても再度調査する事にしよう。どうにも嫌な予感がするんでな……ヤレヤレだ」

 

承太郎さんはソファに深く座り直し、何かを考え込む。

承太郎さんがここまで疲れた様子を見せるのは珍しいぜ。

 

承太郎「それと、そこの女。吉良京……と言ったか?」

 

那由多「………はい」

 

承太郎「億泰や君には申し訳ないが、君にはSPW財団が管理しているスタンド使いの矯正施設に入ってもらう。あの音石とかが入った施設だ」

 

那由多「…………はい」

 

なっ!

 

億泰「ちょっと待ってくれよ承太郎さん!京も那由多は今回の事件には関係無かったじゃあねぇかよ!京が殺した警察官だって、自業自得だぜ!京には復讐する理由があったじゃあねぇっスか!」

 

そんなのはねぇぜ!いくら承太郎さんでもそればかりは納得できねぇ!

 

承太郎「………その警察官の事もあるが……そこじゃあない。吉良京……いや、吉良那由多……君の多重人格症の事は、今のまま放っておくことは出来ない。自分でもわかっているとは思うが、どうだ?」

 

………確かに言っていた。京の精神の中では、今でも新しい吉良京の副人格が生まれつつあるって……。

 

那由多「はい。私自身もそれは危惧しています。このまま放っておいたら……私はいつか……」

 

承太郎「君を矯正施設に入れる理由はその治療だ。今の君では満足に治療を受ける事が出来ないだろう。君は既に、身元不明の人間になっているのだからな」

 

京の精神の治療……。でもそれをしたら……。

 

億泰「そんな事をしたらよぉ!那由多はどうなるんだよ!いなくなっちまうんじゃあねぇのか!?」

 

承太郎「億泰……だが……」

 

億泰「俺はそんなのは嫌だぜ!だってよぉ!悲しいじゃあねぇかよ!オメェは生まれてたった1週間しか存在が許されなかってぇいうのかよ!復讐する為だけに生まれてきたなんて……そんなのは悲しすぎるじゃあねぇかよ!何とか出来ねぇのかよ!京も、那由多も、どっちの京だって幸せになれる権利はあるじゃあねぇのかよ!なぁ、出来るだろ!?承太郎さんだったらよぉ!」

 

俺は恥も外聞もなく承太郎さんにすがり付く。だっておかしいじゃあないかよ!京も那由多も、これから幸せになれるってぇ言うのによぉ!

 

那由多「億泰……夕べも言ったけど……これは覚悟していたことなの……それに、たとえ人格が1つになったとしても……私が、虹村那由多が消える訳じゃあない。1つの人格に統合されて……新しくなるの。だから……そんな悲しい顔をしないで……億泰」

 

虹村那由多?

 

京「1つになった私もこの子も……同じ虹村京。だから、私は治療を終えたら、必ずここに戻ってくる。虹村京と虹村那由多は虹村億泰の誓いを生涯、見届け、そして復讐する。その為の準備をしてくるだけ」

 

虹村京?

 

那由多「承太郎さん。1つだけ……ワガママをお願いして良いですか?」

 

承太郎「言ってみろ」

 

那由多「私の戸籍を、変えてもらうことはできませんか?吉良京という名ではなく、別の名前を貰ってやり直したいんです」

 

承太郎「ヤレヤレ……犯罪じゃあないか……。だが、じじいのツテの力を借りればそう難しい事じゃあない。良いだろう……どんな名前が良い?」

 

那由多はそこで俺にニッコリと笑みを向ける。

 

那由多「虹村……虹村京。この家の前で私という人格が生まれました。虹村京という名前こそ……この私に相応しいと思います」

 

虹村京……。そっか。だから那由多と京は……さっきそう言ったんだな。なんか嬉しいぜ。京が過去を精算できつつあるみてぇだっていうのもあるけどよ、俺の嫁になったみてぇで……。

京と那由多……治療……頑張れよ。そして、また会おうぜ………。オメェがここに帰ってくるのを……俺は待ってっからよ………。

 

 

sideエンリコ・プッチ(現在)

 

あれからどのくらいの時が経ったのだろう。

死ぬことができず、私は今でも死に続けている。

精神など、とっくに崩壊しており、今は苦しみから逃れるように過去の事を良く思い出している。

今は……杜王町という町に行ったときを思い出していた。

目的は虹村万作。

我が友、DIOが肉の芽を埋め込んだ者を私は求めていた。

 

sideエンリコ・プッチ(2000年11月杜王町)

 

虹村万作はDIOの部下になったものの、空条承太郎の刺客になるでもなく、杜王町で悠々自適にDIOから貰った金で生活していた。

もしかしたら何か別の任務を与えられていた可能性がある。可能性は低いが、それが天国につながる何かに関わる事かも知れない。

空条承太郎以外の現状で、DIOに関わる人間はもう少ない。虹村万作の記憶を探る……それが私の目的だった。

私はジョンガリAを伴い、杜王町へと赴く。色々と調べた結果、この杜王町には東方仗助というジョセフ・ジョースターの隠し子が住んでいることがわかった。

それも、既に空条承太郎と接触しており、あろうことか虹村の息子、億泰と友人関係にあるらしい。そして空条承太郎も一目置く人物、広瀬康一……。

この杜王町で行動するには、彼らがとにかく邪魔だった。この三人が杜王町のスタンド使い達の中心にいるといっても過言じゃあない。

単純に乗り込んで虹村の記憶をディスクにすれば終わりという訳にもいかなくなった。ジョースターの血統はつくづくDIOや私にとっては目障りな存在だ。

行動を起こすには現地のスタンド使いを利用し、三人を虹村から引き離すのが良い。なるべく私の痕跡を残さないようにしなければならない。

三人に何かが起これば空条承太郎が出てくる可能性が高いだろう。現状で空条承太郎と事を起こす力は今の私にはない。

うってつけのスケープゴートを探し、そこで見つけた。

虹村のもう一人の息子が作り出したスタンド使い、吉良東。

精神を病み、病院に入れられたこの男は正に探していたうってつけの男だった。精神を病んだ男なら、トラブルを起こしても何も不審な事はない。

私は多数あるディスクを駆使して吉良東を病院から連れ出し、幾ばくかの金を渡して雇う。

しかし、事はいきなり頓挫した。吉良東はこちらの命令を無視し、娘を殺そうと行動に出て、そして逮捕された。

 

プッチ「落ち着け……素数を数えよう」

 

人間が怒りの最大限を維持できるのは平均して6秒。素数を数えるのはその6秒以上の時を待つには丁度良い儀式だった。

 

プッチ「時間が無くなってしまった。空条承太郎や東方仗助が介入してくるのも時間の問題だろう。他のスタンド使いを探している余裕もない。元々切り捨てる予定だった吉良東。あの男を使い続けるしかない」

 

精神病院でやったように、スタンドを駆使して吉良東を救いだし、再び計画を再開する。予定外の行動だったが、問題を起こした吉良東は東方仗助、虹村億泰らを虹村の家から引き離すことに成功したようだ。

奴の娘、吉良京がその役目を担ってくれた。

 

プッチ「ジョンガリA。奴の動きを見張れ。奴が東方仗助を殺せれば良し。負けて生きていた場合、始末すれば良い」

 

ジョンガリA「空条承太郎が動くと思うが?」

 

プッチ「構わない。目的を果たせばもうこの街に用はない。我々が関わった痕跡さえ消せば良い」

 

病院や警察病院の監視カメラからは既に我々の痕跡は消している。後は吉良東さえ消せば、我々がこの杜王町にいたという事実は消せる。

そして私は虹村の元へ向かう。いたのは肉の芽が暴走し、変わり果てた虹村万作だった。既に人としての知性など無くなっているに等しい。

 

プッチ「ホワイト・スネイク……記憶を見せてもらうぞ。虹村万作」

 

プルプルプルプル……

 

猫草「フーーーー!」

 

ドンッ!

突然、私の胸に衝撃が襲う。見れば妙な草があった。

 

プッチ「な、何だこいつは!邪魔をするんじゃあない!」

 

猫草「フーーーー!」

 

くっ………こっそり入って記憶を見て、抜け出す予定が頓挫した。草の抵抗で家具がメチャクチャになり、部屋はすっかり荒れてしまった。次々と……予想外の事が起こる。

私は草を無力化させ、虹村から奪った記憶を見る。

 

プッチ「赤と黄金の矢?その存在がDIOが恐れたもの?友が天国を目指したのはその存在を消す意味もあったということか?」

 

DIOにとっての重要な情報は得られた。しかし、肝心の天国への情報は何一つとして得られる事は出来なかった。

まぁ、良い。情報を持っていなかった……それがわかっただけでも貴重な情報だ。今後、私は虹村万作に心を砕く必要はない。元々情報があれば幸運……程度の事だった。そう思うことにしよう。

 

プッチ「さて……目的を悟られないように空き巣の仕業に仕立てなければならないな」

 

私は全ての部屋を荒らし、ディスクを虹村に戻してから外に出る。

途中、虹村の家に向かっている様子の東方仗助、広瀬康一の二人とすれ違う。危ないところだった。家の中で遭遇していれば面倒な事になるところだった…。

今はまだ、空条承太郎と事を構える訳にはいかない。

私はそのままジョンガリAと連絡を取り、合流する。ジョンガリAの方も上手く吉良東を始末し、安全に離脱をする事に成功したようだ。

もう日本に用はない。私とジョンガリAは羽田へと向かう。

 

ジョンガリA「神父……傷を負ったのですか?」

 

プッチ「少々、予定外の事があってな……」

 

私はそこで気が付く。あの草の攻撃によってポケットの一部が壊れ、DIOの骨にほんの僅かな欠損があることに。

しかし、もう空条承太郎は杜王町に向かっているだろう。回収することは不可能だ。

 

プッチ(まぁ良い。あんなもので私にたどり着く事は無いだろう……)

 

私は気にする事をやめ、アメリカへの帰路についた。

 

プッチ(やはり天国への道には空条承太郎…奴しか鍵を持つものはいないということか……友よ、相変わらず厳しい試練を私に課してくる。空条承太郎と戦う準備を整えなければな……そして、この骨は誰かに預けなくては今回のような事になるかも知れない。今回はたまたま僅かな欠損で済んだが、これが完全に破損したり、紛失してしまっては取り返しが付かなくなるかも知れないからな……)

 

sideエンリコ・プッチ(現在)

 

思えばあの時から私の計画は破綻していた。私の見通しが甘かった……。あんな僅かな骨の欠損から空条承太郎はDIOの影を見つけ、ジョルノ・ジョバァーナにたどり着いた……。私がウンガロ達にたどり着いたように……。ジョルノ・ジョバァーナに目が行ったことで見当違いの方向に行ったと安心したのが行けなかった…。

空条承太郎が広瀬康一を使い、ジョルノ・ジョバァーナに接触した……それがジョルノ・ジョバァーナとSPW財団が結び付く小さなきっかけになってしまった。

そして……奴らは……東方仗助、虹村億泰、ジョルノ・ジョバァーナ、グイード・ミスタ、比企谷八幡、比企谷小町、一色いろは、汐華陽乃が行動に出て……。

全ては……全てはあの時の小さな失敗が……今のこの瞬間に繋がってしまったなんてぇぇぇぇぇぇ!

この日、私は久し振りに死の訪れに悲鳴をあげる。

今日も私はDIOやペルラ、ドメニコ、綾瀬絢斗によって殺され続ける。

いつまで続くかわからない死の暴虐を受け続ける。

いつまでも……いつまでも……。

 

sideなし

 

エンリコ・プッチは自分のミスがゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの罰を受ける事になったと思い続けている。

しかし、プッチは知らない。そんな考えそのものが既に道化であることを。

プッチは知れない。そんな失敗が無かったにしても、メイド・イン・ヘブンが果たされた基本世界でもエンリコ・プッチの行き着く先は破滅しか無かった。

そもそも……基本世界とのズレは既にこの時以前から始まっていたことをプッチは気が付いていない。

DIOが比企谷八幡として転生した時から、この世界は少しずつ……そして確実にと基本世界から解離していた事をプッチは知らない。

もし、プッチの運命が変わっていたとすれば、虹村万作の記憶から読み取った赤いブラッディ・アローと黄金のウルフスの矢に興味を持ち、行動して場合だろう。

目的を同じとしてジョースター家と手を取り合っていたならば、プッチの運命が破滅に向かわなかったのかも知れない。

もしかしたら、そんな平行世界もあるかも知れない。

たらればの数だけ……人の想像の数だけ平行世界は生まれる。

しかし、無いのかも知れない。人の想像の数だけ平行世界が生まれるのならば、逆を返せば誰も想像しなければ平行世界は生まれない。そうなる運命が誰も想像出来ないのならば、その可能性はまったくのゼロなのだから。

プッチ自身は気が付かない。ジョースターの者達もその可能性は考えない。

いるとするならばこの男だろうが……

 

八幡「いろは~………」

 

いろは「ハ~チ君♪」

 

既に比企谷八幡はエンリコ・プッチの事など記憶の奥底にしまい込んでおり、思い出すことは無くなっていた。

八幡の中にDIOの人格も、もはやエンリコ・プッチに興味を無くしていた。所詮八幡にとってもDIOにとっても、プッチの事は過去にあった路傍に転がる石程度の物だったに過ぎない。

少なくとも今は……。

可能性があるとするならば……新たなストーンオーシャンが発生した時だろう。

その時までの時間は……あと僅かだ。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。長くなったので一旦切ります。

億泰の家を襲ったのがプッチだったという予想ができていたかたはいらっしゃるでしょうか?

それでは次回こそ、億泰編が終わり、承太郎&海老名編へと移りたいと思います。

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