やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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吉良那由多

side吉良那由多(吉良京の副人格)

吉良京の精神内

 

全てを知った……。吉良京という女の人生。どこにでもある壊れた家庭。それが虹村形兆の矢によって更に狂ってしまった人生。

壊れてしまった吉良京という女を一方的に責めることは出来ない。

吉良京が弱いということは事実かもしれない。でも、普通の女の子が辿るには余りにも重い事実。

不運だったのは相談した行政機関や京を保護した警察の怠慢により壊れ、更にスタンドを得たことにより復讐心を募らせ、殺人まで起こしてしまった。

普通の女の子が覚悟もなく次々と訪れたこの事実は、壊れるには充分すぎる内容だった。

疲れ果ててしまったのだろう。

そんな彼女の事情を知らなければ私は彼女の事を弱いと断じていたかも知れない。でも、私はしってしまった。彼女の体験を追体験することによって……記憶をもらった事によって……身を焦がす程の父親への憎悪と世の中に対する絶望を……。

 

主人格「私の事は……放っておいて……もう、あなたが吉良京として生きていけば良い……私はここを出たくない………自分自身を……殺してしまいたい……消えさせて………」

 

京は再び壁に向かってぶつぶつと呟きながらクンクンと手を嗅ぐ。

もうこの女は充分傷付いた。私が吉良京として生き、あのまま虹村億泰の家でぬくぬくと暮らしていくのも良いのかも知れない。

億泰に事情を話し、噴上裕也に証言を取って貰って東方仗助や広瀬康一と和解すればそれも可能だろう。

私は吉良京であって吉良京ではない。体は吉良京だし、吉良京の記憶はあっても、私はフラフラとたどり着いた虹村億泰の家で生まれたまったく新しい存在だ。

そうね……吉良京、虹村億泰、虹村形兆、虹村万作…。見事に数字で構成されている名前だから、私の人格は吉良那由多で良いかしら?

戸籍上は吉良京だけど、主人格と区別を付けた方が良いかも知れない。

 

那由多「ねぇ、私の事だけど、あなたと区別を付ける為に私達の中では私の事を那由多と名乗りたいんだけど、それで良い?」

 

私が語りかける。すると京は暗く、薄く……されどはっきりと返事をした。

 

京「私は私の人生をあなたに譲ったの……京のままで良いし、あなたの人生なんだから好きにすれば良いわ」

 

本人の言質も取ったし、私は今から吉良那由多で決定よ。それに………私は京がこのままで良いとは思わない。吉良那由多はあくまでも副人格。主人格である京には逆らえない。

この吉良那由多はどんなことでも負けるつもりはないし、どんな逆境でもはね除けると断言する。でも、ストレスのない世界なんてものは無い。ここでいくら決意しても、絶対に弱音を吐かないとは言い切れない。逆境が襲ってくるときは襲ってくる。逆境に立たされれば多かれ少なかれストレスがかかる。そんな私を主人格たる京は見ているだろう。京は見ていなくても……。

私は周囲を見渡す。

周囲には第2、第3の新しい人格が生み出されようとしている。多重人格者の多くはそうして1つの体で複数の人格と共有するケースが多い。

私がそれを止めようとしても、主人格がこのままならそれはいくらでも増えてしまうだろう。

ビリー・ミリガンの人格の中には社会に適合できない危険な人格がいくつも存在していた。少しでも京が生きる意味を見出ださなければ、私は億泰達に迷惑をかけてしまう可能性がある。

私はただの多重人格者ではない。スタンド使いの多重人格者だ。それも、私がスタンドを使えたように、新しく生まれるこの人格達だってスタンド使いの人格になりうる可能性が高い。

それも私と京の能力が微妙に違ったように、徐々に能力を変えながら……最悪は全く違うスタンドを持った人格が生まれてくるかもしれない。

 

那由多「京。私は………復讐を果たすわ。あなたの復讐を。その上であなたの心の傷を癒してあげる。それとも自分でやる?」

 

京「………何で?放っておいても虹村億泰や東方仗助はあの男をこのまま野放しにするとは思えない。あなたが私に同情してそんな事をやる必要はないでしょう?何のためにあなたが生まれたの?吉良京はあなたが生まれたことで生まれ変わったの。吉良那由多が吉良京の復讐を果たす意味なんてないわ」

 

那由多「あるでしょう?私が恐れていることはわかるわよね?このままだと主人格であるあなたからいくつ吉良京の副人格が生まれて来るとおもってるの?私の心が傷付けば、主人格たるあなたもまた傷付くの。そしてまた新しい副人格が生まれる。望む、望まざるを関係なく、何度も何度も。そしてその人格が必ずしもあなたの味方とは限らない。それこそアメーバのように何度も分裂を繰り返す。あなたはそれで良いかも知れないけど、私にとっては死活問題なのよ」

 

ビリー・ミリガンの副人格は、とうとう主人格の『ビリー』を消すことは出来なかった。ビリー・ミリガンは最後の最後まで他の人格が絶望を繰り返す度に新しい人格を作り続けた。それを望んでいなくても……。

ビリー・ミリガンが人格を生み出さなかった時は『ティーチャー』と呼ばれる統合副人格がしっかりとカウンセリングを繰り返し、正しい治療を受けていたわずかな期間の間だけだ。

京がこのままでは、いずれはまた多数の副人格を生み出すことになるだろう。

 

那由多「私にあなたの……吉良京の人生を託すと言うならば……あなたにも協力してもらうわ。絶対に。あなたのそれはただの逃げ。ただの丸投げよ。あなたの精神が安定した上で、それでも私に人生を託すと言うならば構わない。だけど、ただの逃げは許さない。自分の中身で争いが起こるなんて……まっぴら御免よ。だったら今すぐ私は自殺を選ぶ」

 

京「…………随分と乱暴なのね?」

 

那由多「ええ。乱暴よ。自分が生み出した副人格が、自分に牙を剥かないと思っていたのならば、残念だけど期待外れなのよ」

 

それに……このままでは終われない理由がまだあるもの。そんな時に新しい副人格に邪魔されたらたまったものではない。少なくとも……今だけは新たな副人格を生み出される訳にはいかないのよ……。

 

 

side雪ノ下雪乃

 

結衣「う~………難しくてわからなくなってきた…」

 

由比ヶ浜さんが頭を抱えている。

京さんの問題はかなり専門的な知識が必要だもの。

それにしても本当の京さんはかなりの人格を……理想を詰め込んだ那由多さんを作りあげたものよね。

ビリー・ミリガンさんの例にもあるわ。本来知り得ないことを知っているという副人格を。

アドレナリンを操作して怪力を操る人格もあれば、縄脱けを得意とする人格もある。それにイギリス訛りの英語を話す人格もあればアラビア語を操る人格もあったそうよ。トリッシュ姉さんのお父様だったディアボロもそうだったし、私が行ったあの世界の彼も……。比企谷君の場合でももしかしたらそうなのかも知れないわね。

あの男やジョセフおじいさまは何かよく分からないこの世界の真実に気が付いている感じがあるから……。

比企谷君と言えば………この那由多さんの言葉、初めて比企谷君に会った時に似ているかもしれないわ。

変わらなければ誰も救われないし、救えない。

あの時の私はそう言った。世の中不思議なものよね。

那由多さんの言葉は……あの時の私と合致しているわね。違うのは京さんが変わらなければ、那由多さんの人生に直結しているというところかしら?

それにしても……普通ならば止めるべき復讐に自ら飛び込むなんて……。

それで……

 

雪乃「結局、今私と話しているのは那由多さんなのかしら?それとも京さん?」

 

京「さぁ?吉良京かもしれないし、吉良那由多かもしれないわ?もしかしたら、億泰と結婚して環境が変わった『虹村京』という新しい副人格かもしれないわよ?」

 

京さんはコロコロと笑うわ。完全にからかわれているわね……。

 

ジョルノ「僕はある程度は知っているけどね?雪乃はこの『京』がどの人格だと思う?」

 

雪乃「ジョルノ兄さん!」

 

意地悪だわ………とても意地悪よ。

でも、それは最後まで聞け……という事なのね?

良いわ。ドキュメンタリー映画は結末がわかっているとしても、その過程を見るのが面白さであるものね。

むしろ今話しているのが京さんなのか、那由多さんなのか……それとも『虹村京』さんなのか、『虹村那由多』さんなのか……その謎が出てきただけでもただのドキュメンタリーとは違ってきているもの。

小説や映画は……ネタバレしたら面白くないものね。良いわ。毒を食うなら皿まで……最後まで聞くわよ。

 

 

side吉良那由多

 

億泰「お、おいっ!京!どうした!大丈夫か!?京!」

 

色々とやり取りをして私は現実へと意識が戻ってきた。

部屋の中央のスポットライトに立つ事で。

現実に戻ると億泰が乱暴に私を揺すっていた。

 

那由多「あら?お姫様を起こすのは王子様の熱いキスと相場が決まっているわよ?億泰」

 

億泰「キ、キスゥッ!?て、て、テメェ!こんな時にからかうんじゃあねぇ!それに俺が王子様って何の冗談だこの野郎!間違ってもそんなタマじゃあねぇよ!」

 

赤くなっちゃってカワイイわね。

 

那由多「そんな事を言っちゃって……もしかして気絶していることを良いことに、私の体をベタベタ触ったんじゃあないの?」

 

億泰「バッ!何度も言ってるだろうが!誓ってそんなことはしねぇってよぉ!」

 

あたふたと慌てる億泰。分かっているわよ。あなたがそんな事をしない人だって。あの京の父親とは絶対に違う。億泰なら信用できる。私の過去を伝えても……。

 

那由多「思い出したわ。億泰……正確には『吉良京と会ってきた』というのが正しいわね」

 

億泰「吉良京と会ってきた?わりぃ、さっぱり意味がわからねぇ。わかるように言ってくれねぇか?」

 

私は億泰に全てを伝える。多重人格者であること、記憶喪失は吉良京が作り出した幻想の私であること、吉良京の過去と罪、そして噴上裕也の事の真相、そして……私が吉良京の副人格である那由多であること。それらを伝えると、億泰は難しい顔になる。

 

億泰「俺はよぉ……多分おめぇの言っていることの半分も理解できちゃあいねぇと思う。特に人格がどうとかそういうのはよぉ、ハッキリ言ってちんぷんかんぷんだ。悪いな……おりゃ頭がわりぃからよぉ、何べん聞いても理解できねぇと思うぜ」

 

億泰じゃあ無くても普通は理解できないと思うわ。理解できたとしても普通なら信じない。ただの記憶喪失だって疑われるもの。

 

億泰「……話の中身はよぉ、全然理解できねぇ俺だけどよぉ……それでもハッキリとわかった事だけはあるんだよ。オメェ、普段から俺をからかうからよぉ…」

 

億泰は厳しい目を私に向ける。ダメだったのかしら?

億泰は私の期待を裏切った。………良い意味で。

 

億泰「わかるんだよ。オメェが本気でそう言ってるのがよぉ。嘘でも何でもねぇってのがよぉ。それほど長くいたわけじゃあねぇけどよぉ。いつものからかう時とかの目とは真剣さ……つぅの?それが全然ちげぇってのがよぉ。よく騙される俺が言うのもなんだけどな。それにさっきも言ったろ?頭で考えるのが苦手だからよぉ、直感で決めるって。俺はオメェを信じるって直感で決めた。だからオメェが言っていることは本当の事だと信じるぜ?全然理解できてねぇけどな」

 

億泰はそう言って今度は大量に涙を流す。そして、驚く暇がない内に土下座する。え?ホントに何?

 

億泰「済まねぇ!聞こえているなら聞いてくれ!京!俺がオメェの運命を変えちまった!オメェの心を壊しちまったっつぅんなら、オメェが罪を犯したって言うなら、それは俺達の罪だ!許してくれ!」

 

それは……虹村形兆がやったことであって……

 

億泰「俺なんかが何度土下座したって、許されねぇのはわかっている!俺が憎いって言うなら、俺を殺してくれてもかまわねぇ!家を寄越せと言うなら、あんな家で良ければいくらでもくれてやる!奴隷のように働いて償えっつぅんなら、生涯オメェの為に尽くしてやる!俺はオメェの為ならばなんだってやってやる!復讐だろうとなんだろうと手伝う!許してくれ!京!」

 

京「ちょ……億泰!あんたは何も……全部形兆がやったことで……」

 

億泰は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。

 

億泰「兄貴のやったことは俺の罪でもあるんだよ……だってよぉ………兄貴がやっていたことは全部家族の為だったんだ……親父を楽に死なせてやりてぇって……それだけの為によぉ……その為に兄貴は罪のねぇ人達を何人も殺した……何人の人間の運命を狂わせた……仗助のじいちゃんだって……兄貴が生んだスタンド使いが殺したんだぜ?そんな兄貴の行動をよぉ……俺は止めなかったんだ……兄貴のやっていることは正しいって……兄貴がヒデェ事をやっているのがわかってるのによお……俺は止めようともしなかったんだ……だから京の人生を狂わせたのは……俺の罪でもあるんだよ……だからよぉ、京の罪は……俺の罪なんだよ……本当に復讐されるべきなのは………俺なんだよぉ………」

 

億泰の嗚咽と土下座は………長く続いた……。

 

京『億泰……』

 

少しばかり、本当に少しばかりだけど……京の心が軽くなった……そんな気がした……。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

プロットを立てたときは、ここまで掘り下げるつもりはありませんでしたが、書けば書くほど簡単には終わらない話となっていきました。
2章の幕間で音石を許した億泰。もしかしたらその時の億泰は八幡にこの時の自分を重ねていたのかもしれません。

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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