やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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吉良京と噴上裕也

side由比ヶ浜結衣

 

そんな………父親を殺そうとしたなんて……それで心が壊れてしまうなんて………悲しすぎるよ……京さん。

 

ジョルノ「わかる気がする」

 

トリッシュ「あたしもよ。ディアボロも……汐華冬乃も……」

 

ジョルノさん………トリッシュさん……。

二人の人生も親との対決があったんだよね。だから共感できるんだ……。

 

億泰「兄貴もよぉ、親父を殺す能力を持ったスタンド使いを探していたからよぉ……京に共感を持ったんだろうなぁ……。父親を殺そうとした京によぉ……自分を重ねちまったんだよ。俺の親父もよぉ……今はこんなんだけど、酷い父親だったからよぉ……こんな姿になる前はよぉ、毎日俺は殴られててよぉ……」

 

億泰さんと京さんって……細かいところは境遇が似ていたんだ……。だから、スタンド使いがスタンド使いと惹かれ合う事も重なって、互いにシンパシーを感じていたんだ……。

 

結衣「ぐす………それで……京さんはどうなったんですか?……というか、今あたしたちと話している京さんってどっちの京さんになるんですか?」

 

元の京さん?それとも記憶喪失だった方の京さん?

 

京「焦らないの。それも含めてこれから話すから」

 

 

side吉良京

 

主人格の京は壊れた心のまま、1年が経った。

生活は相変わらず杜王町の廃墟や廃屋に忍び込んでは適当な日雇いの仕事を繰り返し、明日をもわからない生活を送っていた。

ニュースや新聞などといった情報とは無縁の生活を送っていた京は、杜王町で起きている事件の事などまったく知らないままだった。

虹村形兆の死……音石明の逮捕……自分と同じ名字を持つ吉良吉影の死も関係ない。

父親がどうなったのか……生きているのか死んでいるのか……。

自分が殺した警官がどういう扱いになっているのか。逃亡する人間ならば普通は気にするはずのあれこれを京はまったく知らなかった。興味すらない。もう自分なんてどうなっても構わない……そんな絶望の中で京は生きていた。

 

京(今日も生きている………何故生きてるの?)

 

………もしかしたら私は……この頃には既に生まれていたのかもしれない。

私は京の理想そのものだ。

何もかも忘れてまったく違う自分の人生を歩みたい。普通に家事ができ、普通に学があり、普通に人と接する事が出来る……そんな自分を夢見て生み出された人格。それが私……。

傷付いた人格が新たな自分を生み出し、普通ならば統合される副人格。本来なら私は京に統合され、少しは前向きになるきっかけになる薬のような私……されど壊れた京は私を統合できずに私はそのまま京の別人格として残る事になってしまったんだ。

いつ私が表に出て、今のようになっていてもおかしくなかった。きっかけがあれば京は自分の殻に引きこもり、記憶喪失の私が表に出ても………。

京はその時を待っていたのかもしれない。殻に引きこもる新たな絶望を………。

 

京(主人格)「そして……その絶望はやってきた。私が引きこもる最後の絶望が………あの男は………生きていた」

 

そう………生きていたのか死んでいたのかわからなかった男は………京の父親……吉良東は生きていた。

再びあの男が現れたのは一週間前……。

私が億泰と出会う前日だった。

杜王町の中心から離れた別荘地にある廃屋……吉良の家。自分の名字と同じということもあり、京はそこをねぐらにしていた。

別荘地という場所は普段はあまり人が生活していない。たまに人がいたとしても普段そこに住んでいないため、知らない人間が住み着いていたとしても疑問に思われない事が多い。

思われたとしても親戚だと言って学生証等を見せれば簡単に信用してもらえた。都合が良かった。まさかそこが杜王町最低最悪の殺人鬼とスタンド使いの間で謳われた「吉良吉影」の家だとは思わなかった。

仮に知っていたとしても京は気にしなかったとは思うけど。

そこにその日の日雇いの仕事を終えた京が帰ると…。

 

東「探したぜ………このクソが………」

 

失った片腕と片足は義手義足で補い、その時に付いたのかわからないが顔にも大きな傷跡を残した吉良東が待ち構えていた。

 

都「テメェのせいでこの様だ……テメェのスタンドがやったせいで俺の左腕と左足は無くなった。精神病院にぶちこまれ、生活保護を受けて何とか生活できる……まずい飯を食わされ、酒は飲めねぇ、女は抱けねぇ……テメェのせいだ……何もかもテメェのせいだ………どうしてくれるんだ?このダボがよぉぉぉぉ!」

 

京「何で………お前が………杜王町に……」

 

東「何もかも失った俺だけどなぁ………ある人が金をくれてよぉ……スタンド使いにしか出来ない仕事をやればもっと金をくれるって事で、くそったれの精神病院から出してくれてなぁ………それで杜王町に来たんだよ…そしたらたまたまテメェを見つけてここで待ち伏せしていたってわけだ」

 

誰が吉良東を逃がし、金を与えたのかは京に関係なかった。

この男が京の前に現れた……それだけで絶望を感じるには充分だった。

ぶっ殺したかった。復讐するべき存在だった。

だが、この男には既に自分の能力は知られてしまっている。何かを『開ける』という行動を自分の前ではやらないだろう。

そして同じ日、同じ時にこいつはスタンド使いになった。

ボーン・ディス・ウェイが発動しなければとても自分では敵わないスタンド能力をこいつは持ってしまっている。

 

東「不公平だよなぁ?俺だけがこんな目に遭って、テメェはのうのうと生きて自由に生活しているなんてよぉ!」

 

完全に逆恨み。

自分がこうなってしまった原因など……京にやってきた虐待や性的暴力未遂の事などを棚にあげて吉良東は自分に復讐しようとした京を逆恨みしている。

 

東「テメェは俺の失敗作だ!産まれてきた事すら間違いだったんだ!お前が生まれてさえ来なければ俺は事業で失敗することはなかった!都(京の母親)も死ぬことはなかった!テメェは疫病神だ!このクソが!その上俺をこんな姿にしやがって!ああ?テメェのせいで俺の人生はメチャクチャだ!都を殺したのはテメェだ!」

 

自分の身に起きていることは全て京のせい。

壊れていたのは京だけではなかった。東もまた、壊れていた。だから精神病院に入れられていたのだろう。

もはや父親とは思っていなかった。殺したいと憎んでいた男だった。だからこの男に何を言われても……憎まれていたとしても何も感じない。

ただ、自分が母を殺した……と言われれば刺さるものがある。

普通の感覚ならば「はぁ?私が母を殺した?なに言ってるんだ?このバカ」と一蹴するだろう。

しかし、京の心は壊れていた。正常な判断など既に出来なかった。故に、完全な逆恨みの責任転嫁な発言をされた京は傷つく。

土俵際で足の小指で何とか粘っていた力士のように、ギリギリの所で踏みとどまっていた吉良京という女の心が完全に崩れようとしていた。

クンクン………

癖になっている自分の指を嗅ぐ。その行為も……京の自虐になる癖も、続けていれば自分の精神を安定させる行為になっていたのだろう。癖というものはそういうものだ。

 

東「あ?何だ?自分の手の臭いなんて嗅ぎやがってよぉ。クセェのか?汚ねぇテメェの手なんざさぞかし臭うだろうよぉ。テメェなんか抱こうとしねぇでとっとと殺してしまえば良かったんだよなぁ!」

 

京「汚い………私の手は……汚い………汚い………」

 

人を殺してしまい、汚れてしまった。京にとって手は、汚れた自分の象徴であった。

もし吉良吉影が生きていたら、切り取って常に持ち歩いている程には京の手は美しい手。だが、その手こそが京のコンプレックスになってしまっていた。手にコンプレックスを持つのは吉良という名字の宿命なのだろうか?

そして今、ギリギリで繋ぎ止められていた京の心は完全に壊れた。

事もあろうに父親の心ない一言によって。

 

京「あ………あ………ああああああぁぁぁぁ!」

 

頭を抱え、発狂する京。

 

東「とうとう気が触れたかぁ?どうでも良いけどなぁ!ぶっ殺す前にその絶望的な顔が見れて愉快だぜぇぇ!ブヒッ!ブヒッ!ブヒヒヒヒィィィィィィィィ!そろそろぶっ殺しタイムといくかぁ!スマイリー・ボム!」

 

吉良東の指から例の光が出現し、京の額にくっつき、痣となる。

痣はこいつが弾いたものが弾丸となってぶつけるためのマーカーだ。

 

東「心の後はよぉ!体をなぶり殺しにしてやるぜぇ!」

 

ビシッ!ビシッ!ビシッ!

石をぶつけられ、悲鳴すらあげずに倒れる京。

いや、悲鳴すらあげる心が既に壊れている。痛みを感じる心が壊れている。

スタンドは心の力の象徴だ。例えスタンドを使えていたとしても力を発揮できていたかわからない。既に京の心は完全に死んだも同然だった。

生気を失った瞳……額から流れる血……。それが京の明暗を分けた。

 

???「おいおい。血の臭いがするから気になって来てみれば……これはどういう状況だ?」

 

東「ああ?んだテメェは……」

 

???「俺は噴上裕也。俺の鼻は特別製でなぁ。敏感なんだよ。脳内のアドレナリンの臭いと涙の臭い、生理以外の女の血の臭いがするなんてのは普通じゃあねぇ。で、来てみればこの状況だ。カッコワリーぜ?女の子をなぶり殺しにするおっさんなんてよぉ。それも極上のカワイイ女の子をよぉ」

 

東「あ?テメェにゃ関係ねぇだろうがよぉ。自分の娘をどうしようとよぉ!」

 

噴上「なっ!自分の娘を殺そうとしてやがるのかよ!ぶっ飛んでやがるな………こいつはよぉ!何をしたらこんなになりやがる!目が完全に死んでやがるじゃあねぇか!これが親のやることかよ!なぁ!」

 

東「うるせぇっつってんだろうがぁ!こいつは疫病神なんだよぉ!疫病神の娘をどうしようがよぉ!テメェはよぉぉぉ!殺すのが当たり前だろうがよぉぉぉ!」

 

虚ろな目で見ていた京を通してこの情景が見える。

東は噴上裕也の体にマーカーを付ける。

 

噴上「こいつは………テメェ!スタンド使いだな!」

 

東「テメェもなぶり殺しにしてやるぜぇ!ブヒヒヒヒィィィィィィィィ!」

 

東はパカッと鞄を開けた。

京の心が死んでいると思い、完全に油断していた東の行動だった。

 

京「…………」

 

しかし、京の無意識がボーン・ディス・ウェイを呼び寄せていた。いや………この出現の仕方は私のボーン・ディス・ウェイ。既に京は私になりつつあったのかもしれない。

心の中で京と私の境界が曖昧になりつつあったんだ。

突如として現れたボーン・ディス・ウェイ。

 

東「なっ!」

 

噴上「こ、こいつもスタンド?お前もスタンド使いだったのか!」

 

ボーン・ディス・ウェイは東を轢き飛ばす。

そして、噴上と京を掴んで逃げ出した。

 

東「逃がすかよぉぉぉぉぉ!」

 

東は苦し紛れにナイフを投げる。

 

噴上「何だ?あのナイフは!こっちをホーミングしてきやがる!あの能力はヤベェ!おい!どうするんだ!」

 

京「………ぁぅ…………ぅぅ………」

 

答えられる訳がない。京の心は壊れているし、生まれかけている私との意識が曖昧だ。

 

噴上「………ひでぇぜ………父親に殺されかけるなんてよ!これが俺の女達だったらと思うと………お前がどういう女かはわからねぇ!けど、俺がぜってーに助けてやるからなぁ!」

 

噴上裕也はボーン・ディス・ウェイのハンドルを握ろうとする。しかし、手はハンドルをすり抜ける。

 

 

 

噴上「このバイクはスタンドだ…スタンドが暴走して動いているんだな………くそっ!ナイフが!」

 

ドスドスドス!

噴上裕也の体のマーカーに……腹に、肩に、足にナイフが刺さる。

 

噴上「ぐぅっ!くそっ!って………何でバイクはターンしてるんだ?!またアイツに向かうつもりかよ!そうか、こいつは本体が操縦していないといつまでも敵に対して攻撃を繰り返す自動操縦タイプになるのかよ!」

 

東「ブヒヒヒヒィィィィィィィィ!戻ってきたぁぁぁ!もう一発くらえええええ!」

 

東が再びナイフを投げてくる。

 

噴上「チッ!ハイウェイ・スター!」

 

噴上裕也は自身のスタンドでナイフを弾く。

しかし……弾かれたナイフは再びマーカーに向かって自動追尾を始める。

 

噴上「マジかよ……。こいつも一度発動したら目標に当たるまで追尾する自動操縦タイプのスタンドか!だったらよぉ!テメェを倒せば良いんだよなぁ!そのままつっこめぇ!」

 

ドギャァァァァン!

 

東「ブギャアアアア!」

 

ボーン・ディス・ウェイが東を轢き、東が動かなくなる。しかし、能力が解除される様子はまったく無かった。

 

噴上「チッ!本体が倒れても効果は消えねぇのかよ!くそっ!どうすれば…………そうか、このバイクはスタンドか!ならば同じスタンドなら……ハイウェイ・スター!」

 

噴上裕也のスタンドがボーン・ディス・ウェイのハンドルを握る。

 

噴上「射程外まで逃げるぜ!つっぱしれぇ!」

 

ボーン・ディス・ウェイのバイクを操って逃げる噴上裕也。しかし、バイクのスピードよりもナイフが飛んでくるスピードの方が早かった。

数キロ走ったところでとうとう追い付かれそうになる。

噴上裕也がナイフを弾こうとするも、ここでハイウェイ・スターがハンドルを離してしまえば、またボーン・ディス・ウェイが戻ろうとしてしまう。

 

噴上「チッ!………かっこわりぃなぁ……俺。だけどよぉ、おめぇを守るってことだけは……最後まで守るぜ?俺は女との約束だけは守ることにしてるんだ……」

 

ドス!ドス!ドス!ドス!

噴上裕也は抱いている京に覆い被さり、その背中にナイフを受ける。

 

噴上「がはぁ!」

 

ダメージで振り落とされる京と噴上裕也。

 

噴上「最後まで守るっつっただろうがよぉぉぉ!」

 

噴上裕也は京を抱きしめ、京が地面に激突しないように

してゴロゴロと転がる。自分に刺さったナイフが更に深く刺さっていくのも構わずに。

事故り、傷だらけで動けなくなる噴上裕也。しかし、噴上裕也は最後まで約束を守ってくれた。

京の体には傷1つついていない。

そして、そこでボーン・ディス・ウェイが消える。誰かが吉良東のナイフケースを閉じたのだろう。

 

京「ここは…………」

 

ここから先は朧気ながら覚えている……。

完全に壊れた主人格が引っ込み、私が表に出たのだろう。記憶が曖昧なのは……混乱していたからかもしれない。

 

京(副人格)「………虹村………スタンド……」

 

うわ言を繰り返す私。フラフラと歩き始める。

 

噴上「……虹村……億…泰と…知り合い…か?だったら……あいつを……頼……れ……そうすれば……仗助に……この…こ……とが……伝わ………る………」

 

意識を失ったのか、噴上裕也はそのまま動かなくなった。私は……まだ混乱の中でフラフラと歩く……。

そして……夜を徹して私は……彼の……虹村億泰の家までたどり着いたんだ………。

 

←To be continued




今回はここまでです。
意外に重い話になってきてしまいました。
今後どういう経緯を辿り、現在の幸せな家庭を築くまでになったのか!?
それでは次回もよろしくお願いいたします!

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