side虹村億泰(15年前)
億泰「けぇったぜぇ……」
午後の授業をふけた俺は、そのままどこかに出掛ける気にもならず、家に帰る。
京「あら?早かったわね?あ、午後の授業をサボったんでしょ?ダメよ?進級が危ないんでしょ?このままじゃあ卒業出来ないわよ?」
億泰「オメェには関係ねぇよ。オメェは俺のお袋かぁ?私生活の事には首を突っ込んで来るんじゃあねぇぜ」
京「………そうね。私は勝手に住み着いただけの居候だから、あなたのプライベートにまで入り込む権利は無いものね。じゃあ、好きなだけ留年すると良いわ」
自分でも態度が悪いってのはわかってっけどよぉ…。色々とありすぎて感情がコントロールしきれねぇんだよ。丁度京の事で仗助ともめたってのもあるしよぉ。
あとオメェ……結局住み着く気なのかよ…。まぁ、そんな気はしていたから良いけどよぉ……。情ってのも移って来ちまったしよぉ……。
京は記憶喪失の身元不明の女だ。戸籍がわからねぇから就職も引っ越しもままならねぇみてぇだし、警察とかには世話になりたくねぇっつうからなぁ……。
京の話をそのまま信じれば……だけどよ。
そうだ……確認しておかねぇとなぁ?
億泰「なぁ……京……」
京「………なに?」
億泰「オメェよぉ……スタンド使い……じゃあねぇよなぁ?」
京「スタンド使い?」
億泰「おう。こういうのだ……」
俺はザ・ハンドを出現させる。
京「………?」
京から特に反応はねぇ。やっぱり違ったんか?だとしたら安心だ。こいつが噴上を襲った奴じゃあねぇ。それが分かれば良いってもんよ!
京「私には記憶が無いの。スタンドって言われても何がなんだかわからないわ」
億泰「そうか………なら良いんだ。そういやぁよぉ、弁当もまだ中途半端に残しちまったからよぉ。腹ぁ空かしちまったぜ。残りを食うかなぁ。勿体ねぇしよ」
京「あら、ダメよ?お腹を壊したら誰が私の生活を支えてくれるの?お金を管理しているのはあなたでしょ?何か作るから、それは捨てなさい」
心配してくれてるのはありがてぇけどよぉ……結局は金かよ。まぁ、そのくれぇのシンプルな関係であるくれぇが信用できるっつーけどなぁ。
億泰「そうすっか!いやぁ、オメェの飯はうめぇからよぉ!楽しみだぜ!?」
京「なんなら、いつまでも作り続けても良いのよ?ここでの生活、案外気に入ってるから。なんなら、私も食べてくれても構わないわよ?」
億泰「けぇっ!そいつだけは誓ってもやらねぇよ!俺は弱味につけこんで女をどうこうするなんて真似はしねぇんだ!」
京「あら。頑固ね?ホントに……いつまでもつかしら?結構ギリギリなのは分かってるわよ?いつも私の胸とかを見てるもんね?女はね、そういうの…すぐにわかっちゃうんだから」
それだけは男の誓いとして絶対に曲げねぇ!……魅力的な女であることは確かだ。俺の……なんだ……ジュニアが……その……アレになっちまうのは仕方がねぇだろうがよぉ!
でも………それはやっちゃあならねぇ。男の誓いもあるけどよぉ……。結局、俺なんかには勿体ねぇんだよ。それに、死んだ兄貴の罪を俺は償わなくちゃあならねぇ。それが終わるまではよぉ……。
億泰「オメェはよぉ、今は俺なんかしか頼るところがねぇから自分を安売りしてるんだろうけどよぉ、俺にオメェは勿体ねぇんだよ…俺なんかよりももっと良い男がオメェにはいるぜ?例えば俺の親友の仗助とかよぉ」
もう復縁が難しいっていう承太郎さんとか、いつまでも結婚しねぇ露伴とか……。クセが強い奴らばかりだけどもよぉ、こいつとなら上手くいくと思うんだ。なんてったって親父とも上手くやれる奴だからよぉ……。
京「………かっこばかりつけちゃって……本当に変な奴よね?億泰は」
別にかっこつけてる気はねぇんだけどなぁ。
??「おい、何だってそんなに億泰に拘るんだ?オメェはよぉ」
京「!!」
億泰「テメェ、仗助ぇ!なに勝手に家に入ってきてやがる!」
いつの間にか仗助と康一が家の中に入ってきてやがった!どういうつもりなんだ仗助ぇ!
仗助「勝手に家に入っちまった事は謝るぜ?億泰。けどよぉ、俺はもう拓馬みてぇな事はよぉ……ごめんなんだよ。俺が本腰を入れて事件の調査に乗り出さなかったからよぉ、琢馬の奴を殺してしまう羽目になったし、オメェだって傷付いた。何より、お袋が死にかけたし、誰一人として救えなかった……あんなのはもう……御免なんだよ。二度とあんなことにならねぇ為によぉ、俺はそいつを信用しねぇぜ?例えオメェとの友情に少しでも傷が入ろうがよぉ、オメェが傷つくよりは…死んじまうよりはましだからなぁ!」
仗助はクレイジー・ダイヤモンドを出して京に殴りかかった。
やめろ仗助ぇ!
京「ウワッ!」
クレイジー・ダイヤモンドの拳が京に当たると思われた寸前で止まる。京はその場で腰を抜かしたように座り込んじまった……。
仗助「やっぱりな……。テメェはスタンド使いだったって訳か。ツメが甘いのは相変わらずだな?億泰……だからザ・ブックの時も……琢馬の時もテメェは追い詰めておきながら負けちまうんだよ!その女がスタンド使いかどうかを見抜くならよぉ……ここまでやることだなぁ」
京は……スタンド使いだったのか…。
仗助「忘れたのかよ億泰。スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う。望もうが望むまいがよぉ」
仗助は京に詰め寄る。そのまま尋問する気なんだな?
京は俺を……騙していたのか?
仗助「答えて貰うぜ?オメェ、こいつに近付いて何するつもりだったんだ?狙いは億泰か?億泰の親父か?」
京「………何の事?私は何もわからない……億泰や万作さんに何かをするつもりはないわ……確かに私はそのスタンド……?というのが見える……でも……私は彼に危害を加えたりするつもりなんて無いわ……」
仗助「だったら何でスタンド使いであることを隠していた?何でスタンドが見えねぇなんて嘘をついたんだ?おかしいじゃあねぇかよ?疚しいことがあるからじゃあねぇのかよ!なぁ!」
いや……ちげぇ……。何がちげぇかわからねぇ…。どうやってそれを仗助に伝えるかもわからねぇ!
でもよぉ……俺の直感が感じるんだ……京が言っていることが嘘じゃあねぇってよぉ!
いつも騙される俺だけど……ツメが甘くていつも仗助や康一に助けられる俺だけどよ……京は……京だけはいつもの奴らとは何かちげぇんだよ!
信じてぇんだ!京をよぉ!
京「億泰!」
京は俺に何かを投げつけて来た。これは……コンパクト?女が化粧をするときの道具だよなぁ?
俺は無意識にそれをキャッチし、そして蓋を空ける。
仗助「やめろ億泰!そいつを開けるな!捨てろ!」
仗助が叫ぶけど、もう俺はそれを開けちまった……。
すると中から………
バァン!
バイクに乗った変なスタンドが現れ、俺を乗っけて走り出す!
な、なんだこのスタンドはぁ!
京「ボーン・ディス・ウェイ!」
京は走り出したスタンドを掴み、クレイジー・ダイヤモンドの射程から一気に離脱する。そしてボーン・ディス・ウェイは俺と京を掴んだまま、俺の家から走り出した。
仗助「バイクとライダーのスタンド!やっぱりテメェが噴上を傷付けたスタンド使いか!テメェ!待ちやがれ!億泰を人質にして逃げるきだなぁ!億泰!ザ・ハンドで削り取れ!」
バカ野郎仗助ぇ!そんな事をしちまったら本体である京まで削りとっちまうじゃあねぇか!ザ・ハンドで削った物はクレイジー・ダイヤモンドでは直せねぇだろうがよ!そしたら二度と京の傷は治らねぇ!
億泰「わりぃな!仗助ぇ!俺は……京を信じるって決めたぁ!少なくとも話を聞くまではよぉ!」
仗助「億泰!おいっ!億泰ぅ!バカ野郎ぉぉぉぉ!どうなっても知らねぇからなぁ!」
仗助の叫び声が遠くに聞こえる。
とにかく………話を聞くまでは京を信じるぜ……。
side虹村億泰(現代)
結衣「ええっ!それでどうなったの!?億泰さんは無事だったの!?」
京「無事だったからこそ、私もうちの旦那も今、こうして生きてるんでしょ?これは過去の話よ?結衣」
家内に言われて由比ヶ浜がハッとなる。
ったくよぉ……。15年前に無事じゃあ無かったら、今話している俺と京はなんなんだっつー話だよなぁ?
やっぱ面白ぇ女だぜ……。こいつはアレだな?スターウォーズのように結末がある程度わかっている作品でも純粋にその話を楽しめるタイプだな?わかるぜぇ……俺もそうだからよぉ。
結衣「たはははぁ……そうだったね。でもその後はどうなったんだろ?」
雪乃「由比ヶ浜さん。それをこれから話す所でしょう?話の腰を折るものではないわ。あなたがこの話を純粋に楽しめているのがわかっているから、とても羨ましいわ。貴重な才能よ?」
億泰「おう!俺もそう思ったぜ!話がわかるなぁ!雪乃よぉ!」
雪乃「何故かしら……あまり共感出来ないのだけれど。由比ヶ浜さんに似ている億泰さんと考えが同じと言われるのは、比企谷君と共感した時と同じくらい屈辱的な気がしてしまうわ……」
何でだよ!ええい、続きだ続き!
side虹村億泰(15年前)
京のスタンドはそのまま走り、ぶどうヶ丘大学の近くまで来た。ここはぶどうヶ丘病院のすぐ側だ。噴上が運び込まれた場所でもある。丁度良い。噴上の奴からも話を聞きてぇからなぁ。
億泰「なぁ……ここまで来ればよぉ、仗助の奴もしばらく追い付けねぇと思うぜ?そろそろ下ろしてくれ」
京「……信じて………億泰………私は……あなたを襲うために近づいたんじゃあない……私は……本当に…」
億泰「良いからよぉ。まずは下ろしてくれよ。このままじゃあ話も出来ねぇだろ?」
京「わかったわ………」
京のボーン・ディス・ウェイは足を付き、バイクが止まる。バイクとライダーがセットでスタンドになっているって感じだな?
京「コンパクトを閉めて。そうすればこのスタンド……かしら?それが消えるわ」
俺は言われた通り、京のコンパクトを閉める。なるほど、そういうスタンドか……。
俺と京は芝生に降り、その場に座る。
京「億泰………信じて………私を………」
京は普段のあざとさが嘘のように俺にしがみつき、懇願の瞳を向けてくる。
俺はため息を吐き、その肩をポンっと叩き、抱き寄せる。
不安になっている人間にはよぉ、人の温もりってのがすげぇ安心を誘うんだよ。
親父がまだロクデナシだった頃、よく親爺に殴られてよぉ……そんな時に兄貴に抱きしめられて慰められた時はよぉ、すげえ安心したもんなんだよ。
物心がつく前にお袋がいなくなっていた俺にとってはよぉ、兄貴がお袋代わりだったようなものだからなぁ。
人がかわっちまう前の兄貴は……本当に俺の事を可愛がってくれたんだよ…。だからよぉ、バッド・カンパニーで殺されかけてもよぉ、兄貴の事を嫌いになれなかったのは……その時の思い出があるからだったんだよな。
億泰「全部が全部って訳にはいかねぇけどよぉ……話せよ。全部をよぉ……。俺はオメェを信じるって決めた。俺は頭がわりぃからよぉ、どうしてとか説明するのは苦手だけどなぁ………」
京「……どうして?私は嘘を吐いたのよ?億泰のスタンドが見えていたのに……私は嘘を吐いた。なのに、何でまだ私を信じてくれるの?」
何でだろうなぁ……。強いて言うならば……。
億泰「親父がオメェになついたから……かも知れねぇなぁ」
京「万作さんが?」
自分で口に出してしっくり来た。
億泰「ああ。親父はよぉ、ああなってからは兄貴に虐待みてぇな扱いをされててよぉ……何もかもわからなくなっていた親父だけどよぉ、人の害意ってやつか?そういう本能的な所は敏感になっちまってよぉ……。悪意があって近付く奴はすぐにわかるんだよ。もしオメェに親父や俺を傷付けようって魂胆があったんならよぉ、例え胃袋を掴んだとしても親父がオメェに心を開くことはねぇんだよ」
親父と猫草の波長が合うのはそういう所かもしれねぇ。動物ってのは本能的にわかるっつーからな。自分を傷付けようって奴には、どんなに上手く隠しても……。互いに害意がなく、好意を向けあったからこそ親父と猫草は仲が良いんだろうな。
億泰「だから俺はオメェを信じることにしたんだろうな。無意識によぉ」
京「……億泰。本当にあなたって……すごい男ね」
億泰「そんな事はねぇだろうがよぉ。ただ、俺は理屈で考えるのが苦手でよぉ。無意識に感じた直感ってのを信じるしかねぇんだよ。それで酷い目に遭うことも少なくねぇんだけどな?」
ジョースターさんを殺そうとSPW財団の職員に化けた音石を殴ったのだって直感だったしな。両方とも殴ろうとしたのも確かだけどよぉ。まずは殴っても罪悪感が沸かなそうな面の奴を殴った俺の直感が正しかったわけだ。案外直感はバカに出来ねぇんだぜ?
え?直感に敗けて音石に殺されかけた?都合の悪いことは覚えてねぇなぁ!
億泰「で……本当の所はどうなんだよ?記憶喪失とかってのも嘘なのか?」
京「それは本当よ……自分が吉良京と言うことと、スタンドがボーン・ディス・ウェイって名前であること……ああすれば発動するってのだって、ほとんど直感に頼ったの」
スタンド使いってやつは無意識に能力を理解するからな。たまにエコーズみてぇに試してみねぇとわからないやつもあるけどよぉ。
京「何も思い出せないで……あてもなくさ迷っていたの……そこでやっとたどり着いたのが……あなたの家だった……何故かはわからない……でも、虹村って家を探していれば、何かがわかると思っていたの……警察とかが怖かったのだって本当よ……私は何故か警察が怖かった……下卑た男たちの視線も……裏が見透けている救いの手も………だから、億泰と会えて……私は本当に安心できた……億泰は……そういうのが全然無かったから。時々エッチな目で見ていたけど……」
億泰「バッ!お、俺だって健康な男だからよぉ!そりゃあオメェみてえな良い女が家の中にいりゃあ、ついついエッチな目で見ちまうのは仕方がねぇだろうがよ!」
京「でも、私に酷いことをしなかった。だから……」
あ?その先はよく聞こえねぇぞ?それに、そんな話はどうだって良い。目を見てわかる。こいつは多分、嘘をついちゃあいねぇ。だけどよぉ…噴上の事はなんだったんだ?
億泰「なぁ……目を覚ました時、どういうじょーきょーだったか教えてくれよ。何で俺の知り合いがオメェのスタンドに襲われた事になってんだ?思い出してくれ」
そこが鍵なんだよ。京と噴上の間にいってー何の関わりがあったんだ?もしかしたら単純な話じゃあすまねぇかも知れねぇ……。
今、仗助を頼れねぇ……。連絡を取る手段だってねぇ。
考えるのは苦手だけどよぉ、そんなことも言っちゃいられねぇ……。
昔の俺だったら兄貴を頼ってた……。今でも誰かをたよっちまう癖は抜けきれていねぇ。けどよぉ、今回だけは考えるしかねぇ!京を守れるのは……今は俺しかいねぇんだからよぉ!
←To be continued
はい、今回はここまでです。
億泰よ!男を見せるとき!今がその時だ!
それでは次回もよろしくお願いいたします!