side虹村億泰
2000年11月
あれから一週間経ったぶどうヶ丘高校
2年F組。
億泰「………何だよ」
仗助「おめぇ……熱でもあんのか?弁当なんて用意しはじめて一週間経つけどよぉ」
康一「それどころか結構美味しそうなお弁当だよ?億泰君って料理できたっけ?」
昼休み。仗助と康一が俺の席を取り囲み、俺が広げた弁当をマジマジと見てくる。
確かにいつもならサンジェルマンのサンドイッチか「ほか弁」で済ませているからな。
億泰「オメェらよぉ……もともと俺は兄貴の保険金や親父の余った金で生活をやりくりしているのを知ってるよなぁ?元々料理は出来るんだよ!」
仗助「知ってるよ。だからこそ怪しいんだろ?オメェにこんな料理は作れねぇって事をよぉ」
康一「本当だよ。それも結構凝ってるよ?どうしちゃったの?億泰君」
億泰「うるせぇ康一ぃ!テメエだって毎日見せつけるように上手い弁当を山岸由花子からもらっているじゃあねぇかよ!」
そう言うと、康一の野郎は目を見開いて驚いて来やがった。
康一「ま、まさか億泰君!君に彼女が出来たの!?」
仗助「う、嘘だろ!億泰、オメェ……俺に内緒で彼女だってぇ?!いつからだ!くっそー!億泰の野郎に先を越されるなんてよぉ!グレートに悔しいじゃあねぇかよ!億泰のクセに生意気だぜ!吐けっ!どうなんだ億泰!」
仗助の野郎がヘッドロックをかけて来やがった!やめろ仗助ぇ!オメェの馬鹿力でヘッドロックをやられたらかなりいてぇんだからよぉ!
億泰「彼女とかじゃあねぇよ!やめろ仗助ぇ!」
仕方なく俺は仗助と康一に京の事を話すことにした。
そう、この弁当は京の奴が作った弁当だ。あれから一週間が経ち、京はすっかり元気になった。元気になったのは良いけれど、就職先や住所が見つからずにいまだに我が家で寝泊まりしてやがる。
それになんだかんだで家の事をやってくれているからついつい楽で甘えちまうし、親父や猫草もすっかり京になついてしまいやがった……。
最近じゃあ、京がいる生活が当たり前になってきちまってよぉ。お互いの為にもならねぇってわかっているのに追い出すのも惜しいっていうかよぉ……あれだけの美人だからってのもあって、俺だって男だから下心もねぇわけじゃあねぇ。
康一「億泰君らしいよね。妙に男らしいっていうかさ」
億泰「まぁよぉ……記憶喪失っていうんだから、そのまま放り出すわけにもいかねぇだろぉ?だからまぁ…うちに置いて世話してやってんだよ。今じゃあどっちが世話になっているのかわからねぇけどよぉ」
もう、あれだけ酷かった生活が京によってだいぶマシになっちまったんだよなぁ………。
仗助「億泰………オメェ……」
仗助の声が1オクターブ低くなり、暴れて乱れた自慢のリーゼントをセットし直して俺を睨んでくる。
億泰「どうしたんだよ仗助ぇ。彼女じゃあねぇっていってんだろうがよお?」
仗助「そうじゃねぇよ。何でその事を俺に黙ってやがったんだって事を俺は怒ってんだよ」
億泰「え?そ、そりゃあ……ほら、京は記憶をなくしているしよぉ、すぐに出ていくかと思ってたからよぉ。あ、変なことはしてねぇぞ?この男、虹村億泰は誓って恩を盾にして京に変な事はしていねぇ!」
仗助「オメェバカか?」
なっ!んだとぉ仗助ぇ!確かに俺はバカだけどよぉ、いきなり言ってくるなんてどういう意味で言ってんだぁ!ゴラァ!事と次第によっちゃあテメェとの友情はここまでだぜ仗助ぇ!
仗助「どう考えたって怪しいだろうがよぉ!身元不明の行き倒れの女が噴上が襲われたタイミングで現れるなんてよぉ!あいつを襲った犯人は、まだ捕まって無いんだぜ!?」
億泰「おい……オメェ、京がその噴上を襲った犯人だってのかよ……」
仗助「警戒しておくにはよぉ、越したことはねぇんだぜ?わかってんのか億泰ぅ」
億泰「今なら承太郎さんがいるだろ?」
仗助「バッカ!確かに今は承太郎さんも東京にいるけどよぉ、承太郎さんは言ったんだ。俺達がいるならこの街は大丈夫だってよぉ。俺達がこの街をまもらねぇでよぉ、誰がこの街を守るって言うんだ?億泰よぉ…」
この言葉は鈴美さんの………
仗助「その吉良京って女が何でもねぇっつぅんならよぉ、後はオメェの問題だぜ?けどよぉ、もしその吉良京ってのがスタンド使いなら……わかってんよなぁ?億泰よぉ。今日の放課後、オメェの家に行くからよぉ」
康一「噴上さんは確か、バイクに乗った変なスタンドに捕まって連れ回されたって言ってたなぁ……こんな時に露伴先生がいないなんて……露伴先生がいれば一発だったのになぁ……」
仗助「けっ!肝心な時にいねぇなんてよぉ。オメェと違って頼りにならねぇヤツだぜ?なぁ康一」
康一「またそんな憎まれ口を……だからいつも会うたんびにケンカになるんじゃん。もっとおおらかになるべきだよ?アニメとか見るなりしてさぁ」
仗助「オメェ……まだオタク趣味が直ってなかったのな?」
康一の奴は去年の冬休みにだらけきってすっかりオタク趣味に走りやがったからな。たまにその時のクセでアニメとかを勧めてきやがるんだよ。(ザ・ブック参照)
億泰「………わかった………でもよぉ………ハッキリするまではよぉ、妙な真似はするんじゃあねぇぞ?そんな事をしたらよぉ……例えオメェらでも許さねぇからな?仗助、康一……」
直感だけどよぉ………俺にはあの京がそんなに悪い奴には見えねぇんだよ。俺は……あいつを信じてやりてぇ。
億泰「わりぃけどよぉ……今日は中等部の体育倉庫で飯を食わせて貰うぜ………何だかそんな気分だ」
あの時……重ちーが死んじまった時から、一人になりてぇ時はあそこやオーソンに行くようにしてるんだよ…。
兄貴や重ちー、杉本鈴美さんが迷った俺に何かアドバイスをしてくれるような……そんな気になってよぉ。
俺は弁当を片付けて立ち上がり、校舎を出る。
音石「………億泰………」
億泰「…………チッ!」
こんな気分の時に嫌な奴に会っちまったぜ……。矯正施設を出所して社会復帰をしたとか何とか言ってよぉ、たまに俺に会いに来やがるけどよぉ……。
億泰「どけよ音石……。何度来ても俺はテメェを許さねぇし、面ぁ見たくねぇ……テメェからの慰謝料だってどんなに生活が苦しくてもゼッテーに受け取らねぇ!二度とその面ぁ見せんじゃあねぇ」
俺はスッと音石の横を素通りする。
兄貴は殺されても仕方がねぇ男だった。兄貴が死んじまった事は仕方がねぇ。因果応報なんて言葉は兄貴の為にあったようなもんだ。そんな兄貴だったけどよぉ、たった一人の兄貴を殺したこいつだけは許さねぇ……。
音石「俺は………どうすれば許される?なぁ……教えてくれよ虹村億泰……」
億泰「うるせぇ!もう二度と俺達に関わるな!良いか!音石ぃ!俺は本音を言えば今すぐにでもオメェをぶっ殺してぇ!けどなぁ、そんな事をしたら俺はオメェと同じ所まで堕ちちまう!オメェや吉良……それに兄貴のような下衆野郎になぁ!」
音石「…………」
億泰「兄貴はもう戻って来ねぇんだ。オメェが殺しちまったからな……。もう一度言うぜぇ……音石よぉ。二度と関わんな……。もう思い出させねぇでくれよ……頼むからよぉ……」
俺は………進級があぶねぇってわかってるのに……そのまま教室に戻らずに………早退した。
しばらくは誰とも会いたくなかった……。
side虹村億泰(現代)
結衣「………ぐす………」
億泰「おいおい。泣くなよ……由比ヶ浜よぉ」
結衣「だって………億泰さんのお兄さん……あれ?そう言えば……億泰さんは千葉村や文化祭の時でも音石さんとは……」
やっと思い出したかよ。もう音石とはわだかまりもねぇし、それどころか良く一緒に飲みにいってるしよぉ。
億泰「まぁ、色々あったからなぁ。特に八幡がきっかけでよぉ」
結衣「そっか。ヒッキーが億泰さんと音石さんを取り持ったんだ」
億泰「原因はDIOだったけどな」
結衣「少しでも感動したあたしがバカだった!」
本当に面白ぇ奴だよな?由比ヶ浜は。俺に似ているし、からかい甲斐があるってヤツかぁ?
あれ?っていうことは俺もあの時は京にからかわれていたのか?京に出会った時の俺は丁度今ぐらいの由比ヶ浜の歳だったからよぉ………えー!?
思わず振り向くと、座っている俺を後ろから首に手を回して抱いていた京が妙に優しい顔をして微笑んでいた。
からかわれていたのかよ……。
あとよぉ、ついでに俺の臭いをクンクン嗅ぐんじゃあねぇ!相変わらず変な性癖してやがるぜ。そこも可愛いんだけどよぉ。
京「ほら。脱線しかかってるから。でも、形兆義兄さんの事はわかったでしょ?」
ええっと……なんだったっけ?
億泰「あの時代での、この街の行方不明者や変死事件の犯人ってのは吉良吉影っつー事になってるって話だよ。オメェらの中じゃあ全部吉良吉影って事になってるみてぇだけどよぉ………全部が全部、吉良ってわけじゃあねぇんだ…。兄貴や音石みてぇな兄貴が生み出したスタンド使いが犯人だった事件も含まれているんだよ…。仗助の奴は全部吉良吉影のやったことにしてくれているけどな……」
京「ジョースターさんや承太郎さん、仗助君がこの人の為にそうしてくれてるんだってわかっているんだけど、旦那は納得しきれないみたい。だからこの話を通じて形兆義兄さんの事を伝えようとしたのよ」
億泰「ああ。吉良吉影は下衆だったけどよぉ、だからといって兄貴がやったことまで罪を被るのはおかしいしよぉ……だから知って欲しかったんだよ。仲間には本当の事をよ……兄貴は親父を殺せる能力を持ったスタンド使いを探していた。その結果、アンジェロや当時の音石みてぇな奴等を無責任に生み出した……それはまだ終わってねぇ」
ライオット・ライフタウンみてぇに、今でも兄貴が生み出した大量のスタンド使いが潜んでいるかわからねぇ。現に………。
京「私が……その中の一人だったからね……形兆義兄さんが生み出したスタンド使いの生き残りは……」
結衣「え………?そ、そうだ!続き!続きを聞かせて下さい!億泰さん!京さん!それからどーなったのか!」
お、おう………。元々はこっちが本題だったんだけどなぁ……まぁ、立場が逆なら俺も京との話の方が気になるだろうからなぁ……。
億泰「じゃ、じゃあ続きを話すぜ?」
三浦「早く!それにもしかしたらその話は承太郎の話にも繋がるかもだし!」
雪乃「私はその形兆さんが生み出したという話が気になるわ。ライフタウンさんの事もあるもの」
ジョルノ「もしかしたらその話は……」
ポルナレフ「まぁ、そっちはあまり重要じゃあ無いけれどな?」
うっわ!気が付いたら全員こっちをガン見してやがるじゃあねぇかよ!全員が俺と京に注目してやがるぜ!
仕方がねぇなぁ。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
京の旧姓が何故吉良なのか……。それはジョジョリオンにおける虹村京が吉良吉影(8部)の妹だから……というのが理由です。
ジョジョリオンでは吉良・ホリィ・ジョースターの娘が京(偽名)、息子が吉良吉影という設定で、ジョニィ・ジョースターの血筋という事でジョースター家の人間ということですが、本作では京はそういう設定はありません。
あくまでも記憶を失った身元不明の女性、旧姓吉良京(仮)という事で認識してください。
さて、彼女は一体何者なのか?
噴上を襲ったのは彼女なのか?
仗助と億泰はぶつかりあうのか?
承太郎はどう関わるのか?
それでは次回もよろしくお願いいたします。