やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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まだまだ続く悪夢

side比企谷八幡

 

フェニックスを倒した直後、俺と承太郎はその場で膝を付く。

これで三つめ。やっと1/4を完全に倒したことになる。

 

承太郎「………やはり俺ではレクイエムは扱い切れなかったか………ヤレヤレだ……」

 

八幡「……無理をするな。レクイエムの疲労は半端じゃあない。慣れている俺でもこのざまだ……」

 

再起不能に陥っている訳ではないが、それでもレクイエムの反動で俺のスタンドは傷付いている。復活までにはしばらく時間を要するだろう。それよりもだ……。

俺はふらつきながらもそいつの所へ歩みを進める。

 

八幡「まずはお前の処遇についてだよな?」

 

フェニックスに乗っ取られていた男、武山武司は承太郎のレクイエムにより、死体も何も残さずに消滅した。

残る人間はこの男だけだ。社家社。

真正面から見てもこいつが誰だったのかは思い出せない。しかし、俺達の敵として現れ、そして俺達が倒した。勝者の権利はこちらにある。

 

社家「クソガキが………」

 

葉山にやられ、重症を負った男。

 

八幡「まぁ、再起不能になったスタンド使いの処遇は財団預かりだ……矯正施設で精々励むんだな。無駄ぁ!」

 

俺は社家の鳩尾に拳を入れ、その意識を狩り落とす。これについては甘さが残る葉山には出来ない所業だろう。

俺は康一さんに連絡を入れ、支援部隊の派遣を要請する。

程なくして現れた康一さん率いる支援部隊の隊員が社家を回収。ウルフスの情報収集の尋問等は支援部隊がやってくれるだろう。

 

八幡「くっ!」

 

社家が回収された後、レクイエムの疲労で再びバランスを崩す俺。それを康穂が支えた。

 

康一「八幡くん。康穂の為にも君と康穂は距離を置いて貰いたいんだけどね?」

 

そうは言われてもなぁ……今日は康穂の方が任務で来たわけだし、ドンパチの後の事だから例外として扱ってほしい。

それに、知らない仲という訳じゃあ無いんだからその辺りはそろそろ容認してくれないかなぁ。

柄にもなくイライラしてくる俺。康一さんも機嫌が悪そうに感じる。俺と康一さんが険悪になるのも珍しい。

 

承太郎「そんなことよりも康一くん。場の収拾の方が先決だ……。今は財団が押さえ込んでいるが、じきに警察が動き出す。その対策は出来ているか?」

 

康一「そんなこと、じゃあ無いですよ!これは家庭の事なんですから!そんなことだから承太郎さんは結婚に失敗するんですよ!」

 

承太郎「なに………」

 

康穂「パパ!言い過ぎだよ!承太郎さんは仕事の事で言ったんだよ!?パパこそおかしいよ!家庭の事なんて後でする話じゃんか!」

 

康一「康穂は黙ってて!そもそも君は……」

 

おかしい。康一さんが承太郎に突っかかるのも、基本的には康穂に激甘なのにケンカを始めるのも……そもそも康一さんは人とトラブルを起こすような人間じゃあない。変人揃いのアーシスの中ではむしろ良識人枠の人間だ。何かがおかしい……。

 

承太郎「話は後だ……とにかく場の撤収だ。後は任せたぞ、康一」

 

承太郎も顔にこそ出さないものの、内心は怒っているのだろう。いつもは君付けで康一さんを呼ぶのに、今は呼び捨てにしたのがその証拠だ。承太郎の触れられたくない部分に触れたのだから、いかな承太郎と言えども冷静ではいられないだろう。

その点からも康一さんらしくない。しかし、フェニックスは倒した。ユグドラシルの能力も確かに消去した。だからこの康一さんは本物だろうし、連絡したのは康一さんの特務回線なのは間違いない。

 

康穂「パパなんて知らない!出るよ?ハッチ。イーハにも連絡を入れないと……」

 

康穂は俺に肩を貸し、康一さんを無視してシアターを出る。一方の承太郎は折本と仲町に支えられて歩き始める。さすがコワモテイケメンの承太郎。

 

葉山「ヒキタニ……俺も肩を貸すよ」

 

八幡「助かる……康穂一人では大変だろうからな」

 

またいろはに癒して貰うしかないな……心身共々…。

 

キングクリムゾン!

 

映画館を出ると、夜の風が頬に冷たい。

時計を見ると時刻は二時間ちょっと。普通に映画を見終わったのと同じ時間が経過していた。その間に気温がぐっと下がったようだ。

本来ならば面白かった映画だったのだろう。そこそこの出来だったはずだ。見所もちゃんとあって、ハリウッドらしく退屈なんて感じる物じゃあなかった。それが下らないスタンド攻撃で見損なったのと同じ結果になってしまった。

下見していろはと見る予定だったのに、どうしてこうなる……。

感想を抱いているのは俺だけでなく、葉山たちもだろう。残念な結果に終わってしまったが、映画の感想やドンパチでの個々の活躍について称えあっていた。デートで映画が選ばれやすいのはこういうことだな。直後の話題に困らない。ホットドッグプレスあたりに書いてありそうな感じだ。

騒がしいのが苦手な承太郎は静かにしている。先程の件も面白く無かったこともあるだろう。

仲町が凄かったとかカッコ良かったとか言う度に、葉山は笑って頷き、折本も乗っかる。

 

折本「ていうか、あの爆発派手じゃあなかった?比企谷、よく無事だったよね?マジウケる!普通は死んでるって!今思い出すとゾンビみたいでキモいし、超笑えるんだけど!」

 

八幡「ご満足頂けたようでどうも」

 

悪かったな。あんな芸当は俺かジョジョか小町くらいしか無理だぞ?お前そう言うならやってみろ?マジで生きていたら全財産くれてやるまである。

ていうか、今は精神が疲労してるんだからそっとしておいてくれね?名前を出されて無視って言うのもアレだから反応したけど。

今日はもう静かにしているのが肝要だ。実質的な再起不能者が二人だと思って間違いない。

 

葉山「俺はヒキタニを信用していたから驚かなかったさ」

 

仲町「あ、確かに葉山くん超落ち着いていたね?」

 

仲町が葉山を振り返って言った。

 

折本「あ、それ思った!わたしもちょっとビクッとしたのに葉山くんは全然普通だったよね~。で、その後の比企谷のブースターのあれ……マジでウケた!本気で焦っていたし!葉山くんは普通に操縦出来てたのに」

 

や、あれは普通焦るだろ。じゃあお前……以下略。

まぁ、道化ってのはある意味で慣れている。それでこの場が重苦しくならないなら良いんじゃあねぇの?

葉山が困ったように俺を見る。こんな扱いは中学時代じゃあ当たり前だった。今更傷付くことなんて何もない。

 

折本「でも、比企谷がいたからこそわたし達って無事なんだよね?比企谷があんなに強かったなんて…ウケる」

 

仲町「そりゃ、クルセイダーズの人だし、何よりもザ・ワールドの人だもの。空条博士と同じ伝説の最強のスタンド使い。葉山くんもカッコ良かったけど、流石は伝説のクルセイダーズだよね?」

 

そのクルセイダーズの二人がこのざまだけどな。たたの添え物二人を持ち上げるんじゃあない。

 

承太郎「聞けばお前達にも世話になったようだ……。良くやってくれたな。葉山、康穂、折本、仲町」

 

仏頂面ではあるが、価千金の褒賞だろう。最強のスタンド使い、空条承太郎に誉められると言う事はそう言うことだ。

 

葉山「それよりも、車を呼んだ方が良くないですか?このままでは色々とヤバいですよ?」

 

折本「あ、そうだね。目立つし比企谷はあちこち傷を負っているし、普通に職質うけるって。ウケる」

 

ウケねぇよ。

 

葉山「とにかく、腰を落ち着ける場所に急ごう。それまで大丈夫ですか?空条博士、ヒキタニ」

 

八幡「ギリギリで抑えたからな……。修学旅行の時ほど衰弱しちゃあいない」

 

もう一度ドンパチと言われたら無理だとしか言いようがないが、歩き回る分には何の支障もない。

 

承太郎「嵐山に比べたら大したことはない。特にダメージを受けた訳じゃあ無いからな……少し休めば大丈夫だろう」

 

嘘つけ。そう言っている段階で強がりなお前が相当弱っていることを意味しているんだよ。

レクイエムの後というものはそういうものだ。

俺達を引き摺りながら葉山達は足を早くする。足取りから察するに、ここからナンパ通りを抜け、パルコ方面へと抜けていくつもりのようだ。

しかしナンパ通りってひでぇ名前だな。海浜幕張のほうだとナンパ橋と呼ばれる橋もあるし、千葉どうなってるの?杜王町並にヤバくね?振り向いてはいけない小道とか、ボヨヨン岩とか。

最近ではカツアゲロードとかもあるみたいだし?

ただの要救護者の俺は暇だったので、いつもの癖で狙撃ポイントをさがしたり、周囲を警戒していた。

と、その警戒網に引っかかる存在がある。

護衛が必要なのに何故いる……。

 

三浦「っつーかさー、試着は良いんだけど制服だとわかんなくない?」

 

相模「ブーツ見たいって言ったの優美子じゃん…」

 

海老名「それよりもさ、早く現場に急がないと!アーシススクランブルがかかってるしさ。革靴選びで試着なんかしてるから。でも制服に黒革ブーツって何かマニアックなプレイっぽくない?」

 

三浦「……やっぱブーツやめとく。あと、次にそう言うこと言ったらマジブツ……え?」

 

ブーツだけにですか?

こちらとすれ違おうとする三浦、海老名、相模。露骨に嫌な顔をしていた三浦が海老名の方を見ようとして振り返り、俺と目が合う。

見ようによっては女二人を侍らせて歩く承太郎と、葉山と肩を組ながら(康穂は陰で見えない)歩く俺。

うん、かなりヤバス。

お互い、どうすれば良いのか読み合うような間が生まれた。

 

八幡(二人の意識をこっちから逸らせ!ヤバい!と言うかこっち見んな!)

 

三浦にアイコンタクトを送る。

 

三浦(え?ちょっ!どういう状況!?スクランブルで何が起きたん?!)

 

ダラダラと大汗をかいて見つめ合う俺と三浦。

その異変に二人が気が付かないわけがなく……。

 

相模「優美子?」

 

海老名「どうしたの?優美子?」

 

相模と海老名が三浦の視線を追ってこっちを見る。そして俺の姿を……より正確に言うのならば、相模は俺を支えている葉山の姿を、海老名は承太郎の姿を見付ける。

それも、3on3の見ようによっては……以下略

 

相模「は、はや……」

 

うわー、またハヤハチとかで海老名の餌食になるのかーと戦慄していると……

 

海老名「じょ、じょう……」

 

二人は慌てて三浦を突き飛ばし、こちらへ駆け寄ってくる。

三浦は派手にスッ転んだ。

パンツ!ピンク!意外!あのアヴドゥルが!?

意外と言えば海老名が腐の呪いが発動しない!

 

海老名「………どういう状況?承太郎」

 

折本「あ……これは比企谷も空条博士も何か変な矢を使って……」

 

海老名「あなたには聞いてないから。私は承太郎に聞いてるんだけど?」

 

速い!海老名速い!怖い!

 

相模「隼人君……今日は部活休みで用事があるって言っていたけど……うちにも内緒で付き合ってたん?」

 

葉山「み、南?」

 

こっちはこっちで修羅場が!どうなってんの!?今日は厄日!?

つうか相模、康穂のこと知ってるよね?何でそんなに鬼気迫る雰囲気出しちゃってるの!?

 

三浦「ヒキオ……あんたさ……。一色に見付かったらヤバいんじゃない?あーしもフォロー………あ……」

 

なに?そのやばげな「あ……」は。

再び三浦が汗をダラダラかきながら俺の肩越しに何かを発見する。

俺は錆び付いた金属のようにギギギ……と首を向けると、その先では………。

 

いろは「………」

 

戸部「………」

 

何でいろはが?いや、多分アーシススクランブルに関係しているんだろうけど。戸部も今日の事は葉山から聞いていたのだろう。特訓から一緒に走ってきたという風な状況だ。

 

戸部「え……あ。ごっめ、マジ邪魔した?わり、わりー!スクランブルかかったって聞いてたからさ、もう終ってるなんてさすが隼人君だべー。俺らすぐ行っから。な、いろはす?」

 

戸部は焦ったように言いながら、いろはを振り返るがそこにいろははいない。

なぜならいろはは既に俺の前に回り込んでるから。こんな状況で黙っているいろはじゃあない。

速い!いろはす速い!怖い!

 

いろは「ハチ君、どうしたんですー?あ、トリプルデートですかー?」

 

フワッとした声ににっこり笑顔。文言は至って普通に先輩後輩が街で出会ったときにいかにも言われそうなこと。なのに、妙に迫力がある。

大体俺達の関係は先輩後輩じゃあなくて彼氏彼女だしねッ!しかも康穂に肩を借りている状態だしねッ!葉山の姿は目に入ってないようだしねッ!

「お前、やっちゃんの事を決着つけたとか言っていたくせに他の女を侍らせながらイチャイチャ姿をわたしに見せるとか良い度胸だな」みたいな意味は間違いなく孕んでますよねッ!

いや、イチャイチャしている訳じゃあ無いからッ!気付いて?このケガだらけの体を見て?エメラルド・ヒーリングして?何だかエクセスをしてきそうな雰囲気だけどさッ!

 

八幡「いや……アーシススクランブルがかかったんだからわかるだろ……レクイエムを使ってだな……」

 

状況を説明しようと口を開くもいろはは俺の襟をぎゅっと掴み、小動物みたいな瞳で上目遣いで俺を見てくる。なんだこいつ相変わらず可愛いなこんな状況だけどちょっと待てときめくぞ。

ぽーっと見惚れていると、その襟が更にきゅきゅきゅっと引き込まれた。ヤバい!これはいろはの柔術の技術!予期せぬ力にがくっと肩が落ち、身体がやや前につんのめった。いろはならこれくらいの技は朝飯前だ!

ちょうどいろはと顔の高さが同じくらいになる。すぐ横には魅力的な、されどその仮面の下には般若が鎮座するほわっとした笑顔。

直ぐにでも自分の唇で塞ぎたいそのぷるっとした薄桃の唇がそっと動く。

 

いろは「ていうか、なんでやっちゃんまでいるんですか?最近わたしとの仲が微妙だから鞍替えとか?更に典明おじさんの気持ちを知っておきながら承太郎にベタベタさせるって正気なんですか?……色々な意味でどういうつもりなんですか?」

 

こわっ。……こっわ!大事な事だから二度言いました!

何でめっちゃ笑顔なのにこんな冷たい声が出るんだよ!

これは本気で怒ってるぅ!

 

八幡「え、いや……だから仕事……レクイエムを使って身体が衰弱……」

 

あかん。いろはの迫力に圧されてしどろもどろだ。衰弱している精神の影響もあるかもしれない。

 

葉山「一色、ごめん。俺が付き合ってもらってるんだ。その先で戦闘が………」

 

いろは「あ~、それはわかってるんですよね~。わたしだって渋々許可したんですから~。わたしはハチ君に聞いてるんですよ~?これはわたし達夫婦の問題ですから黙ってもらって良いですか~?葉山先輩?」

 

めちゃ笑顔なのに、めちゃ良い声なのに、その内容はとても辛辣……。

 

葉山「あ、ああ………」

 

いろは「邪魔ですよ~?」

 

チーン♪

葉山、撃沈。

 

康穂「イ、イーハ!ほら、ハッチの肩は渡すから!だから落ち着いて!早くハッチにエメラルド・ヒーリングをしてあげて!ウルフスを一人倒すためにハッチがレクイエムを使っちゃったんだから!」

 

康穂が貸してくれていた肩をいろはに渡す。

いろはは一応体重を支えてくれてはいるものの、ヒーリングをしてくれる雰囲気はまるでない。

 

いろは「やっちゃん~?良いから黙って貰って良いですか~?」

 

何でだ……偽物事件も終わったというのに、何でこうも色々とおこる?

しかも、普段ならわりとあっさりこの手のトラブルは終わるというのに…。それこそギャグでお茶を濁しているのにどうなってる……。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

何だか普段とは雰囲気が違います。
何が起きているのでしょうか?


原作との相違点。

映画は当然普通に終わった→ドンパチ!

八幡は笑われものになる→勝利の立役者として誉められる。今回は全員立役者

そのままパルコへとお買い物→負傷者がいるのでお買い物どころじゃあない

狙撃ポイントを探したり、周囲を警戒する要人警護ごっこを開始→本当の意味で普段からやっている。ある意味では要人そのもの

八幡と目が合うのは海老名→三浦。アイコンタクトをし合うも通じる訳がなく……

三浦が葉山のデートで動揺する→相模へと変更。また、海老名が同時に動揺する

いろはのセリフは「先輩、どうしたんですー?あ、遊んでるんですかー?」→「ハチ君、どうしたんですー?あ、トリプルデートですかー?」

いろはの孕んでいる言葉の意味は「お前、相談したこと忘れて女の子と遊んでるとか良い度胸だな」→「お前、やっちゃんの事を決着つけたとか言っていたくせに他の女を侍らせながらイチャイチャ姿をわたしに見せるとか良い度胸だな」

冷たい声の内容「ていうか、あの女なんですか。あ、先輩の彼女さんとかー?え、でも、だとすると二人いるじゃないですかー。……どういうつながりですかー?」→「ていうか、なんでやっちゃんまでいるんですか?最近わたしとの仲が微妙だから鞍替えとか?更に典明おじさんの気持ちを知っておきながら承太郎にベタベタさせるって正気なんですか?……色々な意味でどういうつもりなんですか?」とガチギレ

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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