やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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折本かおり2

side比企谷八幡

 

太陽は既に沈み、街は夜の顔を見せはじめている。駅前は俺と同じように待ち合わせをしている人が多くいた。

金曜の夜だ。これから飲みに行くような人達もたくさんいるのだろう。

目の前で、ちょうど合流したカップルが二言三言、言葉を交わして腕を組んで歩いていく。その幸せそうな顔をみて、俺もいろはがいればそんな顔をしていたんだろうなと苛立ちを覚える。

よりにもよって………素数を数えよう。

何だかおかしい。簡単な事で苛立ちが募っていく。

袖口をめくつて時刻を確認すると、ちょうど17時。待ち合わせの時間だ。最低限でも5分前行動が当たり前の社会人としてはそれだけでも苛立ってしまう。

素数を数えよう。2、3、5、7、11…。

……1123、1229、1231。

17時を回ってまもなく、まず葉山がやって来た。電車で来たのか、改札口から人の流れにもまれながら出てくる。だが、群衆の中でもひときわ目立つせいで、その姿は自然と目に入ってきた。

葉山はループタイを直しながら周りを見渡すと、俺に気付いたらしい。軽く手を挙げてこちらに向かってくる。

 

葉山「悪い。少し遅れた」

 

八幡「ま、誤差の内だ。もっとも、社会に出たら大目玉だろうから気を付けろよ?」

 

葉山はアーシスではない。故にちょこっと刺すくらいで良いだろう。俺自身、関係者以外に対して時間に厳しい方じゃあない。

後でこちらの有利に事を運ぶことが出来るから大歓迎である。

後は女子のほうだが……と気配を探り、視線だけを周囲に向ける。俺の横に並んだ葉山は首を巡らせる。

そのさなか、言いづらそうに口を開く。

 

葉山「……悪い。付き合ってもらって。助かるよ、ありがとう」

 

八幡「別に。お前らも護衛の対象であるわけだし、これも仕事だ。礼なら仗助に言え。それに、話があるんだろ?」

 

葉山「ああ」

 

実際、仗助の命令がなければ来ていなかっただろう。普通に財団の仕事か修行をしていたかだと思う。

 

八幡「護衛代は高くつくぞ?なんせスペックだけなら高レベルクラスの俺をご指名なんだからな。俺、マジスペックだけなら優秀だから」

 

葉山「相変わらずだな。ヒキタニ……」

 

ただ、スペックだけでドンパチが強いかといえばそうではないのがスタンド使いの戦いだがな。できる幅が広がるだけで、それが戦いに勝てる訳じゃあない。

 

八幡「っつーか、遠回しに陽乃さんに頼まなくても…」

 

葉山「あ、あれじゃあないか?」

 

俺が言いかけた言葉を葉山が遮った。指差す先はまだ結構な距離があるが、折本とその友達、それに康穂が歩いている姿がある。何で康穂まで?

彼女たちも俺が待っていることに気付くと、早足に駆け寄って来た。

 

折本「お待たせ~♪」

 

仲町「ごめん、遅れちゃって……」

 

康穂「ハッチ!葉山さん!ごめん!」

 

八幡「何で康穂までいるのん?」

 

康穂「一応……仕事?」

 

八幡「康一さんには報告しとく」

 

康穂「いやぁぁぁぁぁ!また減俸されるぅぅぅ!」

 

八幡「まぁ、ドンマイ?」

 

仕事の遅刻はダメだろ。

康穂が相手でもそれはそれ、これはこれ。

 

葉山「まぁまぁ。全然、じゃあ行こうか」

 

軽く微笑むと、葉山は歩き出し、折本達もそれに続いていく。葉山が事前に説明しておいたのだろう。女子二人がやってきても、「なんでいるの?」みたいな顔をされなかった。

 

八幡「康穂、ペイズリー・パークは発動しているのか?」

 

康穂「もち。だからあたしが派遣されたんだから」

 

八幡「最高の守り神だ」

 

康穂「だったらさっきの減俸もチャラにしてよ。ペイズリー・パークで遅れたんだからさ」

 

なるほど。それならば減俸対象にはならないな。

ペイズリー・パークは安全を優先するスタンドだ。

融通を効かせられる部分もあるが、全てがそうでもない。

ああ、任務に従事して遅れたのね?

 

八幡「なら報告しても減俸はねぇよ。下手な言い訳をしなかっただけ八幡的にポイント高いな」

 

康穂「そういうの、イーハだけにしときなよ?そういうのでめんどくさい事になるんだからさ?じゃあご褒美に手を繋いでいこ?それくらいならセーフでしょ?」

 

八幡「お、おう………」

 

ささっと俺の手を握ってくる康穂。

いろはがいなかったらこの子に惚れていた可能性があった故にどぎまぎしてしまう。

 

折本「あれ?比企谷とサブチーフって仲良いね?比企谷にもそういう異性の友達がジョースター以外にもいたんだ。ウケる」

 

康穂「ジョースター家や比企谷家、一色家は家族ぐるみの付き合いだから♪ハッチとあたしって幼馴染みだって知らなかった?」

 

折本「え?そうだったの?世の中狭いね?ウケる」

 

うけないから。

 

葉山「まずは映画だったっけ?」

 

葉山は振り返ると少し歩みを遅らせ、彼女たちと自分の歩幅のずれを調整するように、話しかけて距離を縮めていた。

俺と康穂も葉山たちから一歩遅れて歩き出す。

別に大和撫子スタイルというわけじゃあない。確かに気を使ってやや後ろにいるというのもあるが。

 

八幡(こんなものか……)

 

女の子と遊びに行くという行為はたとえそれが形骸的なものであったとしても、高校生男子にとってそれなりの大きなイベントだ。

いろはや小町、陽乃さん、そして今一緒に手を繋いで歩いている康穂と出かける時はドキドキして仕方がなかった。

そこまでの面子ではなくとも海老名や三浦、ウッペリさん、雪ノ下、由比ヶ浜……彼女らと出掛ける時は勘違いしないように少しは心がけようと思ったほどだ。

かといってジョジョや徐倫、トリッシュさんにミドラーさんといった人達に感じているような気楽なものかと思えばそうでもない。

もっと酷いことを言えば……無関心。

そう、他のクラスメイトと変わらない感覚しかやはり折本達から感じない。

このメンツでは康穂の次に関心があるのは葉山くらいのものだ。葉山が来たときの方がときめいたくらいで…。

ゾクッ!

 

康穂「ハッチ?」

 

八幡「や……何か感じてはならない悪寒が……」

 

いないよな?あの女デスメガネ?

道すがら、葉山たちの会話を黙って聞く。

今日の予定としては、映画を見て買い物、途中でゲーセン寄ってみたりして、で食事して解散。そんなところのようだ。

なんともスタンダードな。

そして、行動開始から15分。

これまでに俺が康穂以外のと発した言葉は「ああ」「いや」「まぁ」「あー」「そう」「なるほど」の五種類だけである。あの規格外の旦那が作ったゲームですらもっと語彙があったぞ?

「無駄無駄!」とか「騙されたな?アホが」とか「うおおおおお!無駄ぁ!」とか「波紋疾走(オーバードライブ)」とか「最高にハイってヤツだ!」とか「この八幡がぁぁぁぁ!」とか「次にお前は……という」とか。

むしろこれだけでコミュニケーションを成立させる俺ってコミュ力高いんじゃあないの?それどころか俺に話しかけて来ないやつらがコミュ力低いまである。

つまり康穂はコミュ絶大である。

と言うか、やっぱり俺がコイツらと仲良くするのは絶対に無理であり、葉山の目的がなんであるかは別として、この集まり事態が無駄無駄無駄無駄ぁなわけで…。

駅からあれこれ話したり眺めたりしている内に映画館までやってきた。一人ならものの5分とかからない距離なはずが3倍とは……。

そうか。俺が赤い○星だったのか……。

ともあれ、まずは映画である。

映画館に入りはしたものの、何を見るかそもそも俺に選択肢はなく、女性陣が決めてしまっていた。だが、幸運なことにこの間ドンパチで見逃した映画だったので、これだけは嬉しかった。

チケットも葉山が素早く購入してくれる。さっすがー、頼れるぅ♪

こういうことは余計なおまけである俺や康穂がやるべき事なのだろうが、所詮は添え物だ。むしろこれは葉山とハーレムデートでこっちは康穂とデートと考えるべきではないかしらん?

時間もちゃんと調べてあったのか、待つことなく、劇場内へと進む。

座席は仲町、葉山、折本、俺、康穂。折本達が葉山を挟んで座る事は決定事項だったので、これはスムーズに決まった。残る問題の俺の席についても、俺と折本が知り合いであることを考えれば妥当な選択だろう。つうか、俺と康穂が代わっても良いくらいだ。

座ってもすぐに映画は始まらない。そこかしこで、と言うか俺の右隣でもだが、少しだけ声のボリュームを下げたお喋りが盛んに行われている。

俺は右側の肘掛けに体重を預け、体が自然と左側を向くような体勢をとる。こうすれば康穂とお喋りをしているようになる。

 

康穂「ハッチはホントにこの人が嫌いなんだね」

 

八幡「嫌いじゃあない。過去の事が理由でかかわり合いたくないだけだ」

 

康穂「それ、女子言葉で嫌いと同じだからね?」

 

八幡「だが俺は男だ」

 

康穂「わー、屁理屈王だぁ」

 

今さら何を言っているんでしょうか?この幼なじみは。

康穂としゃべっている雰囲気を醸し出していると、俺の狙い通り折本達は気を使って話しかけてくる事はなく、無難に過ぎていく。

やがて劇場の照明が落ちる。すると、皆が一斉にその口をつぐんだ。

薄暗がりの中で、映画泥棒がにょろにょろと踊り始める。今や、映画館の顔となったといってもいい、誰もが知るキャラクター映画泥棒の搭乗に、忍び笑いが漏れ聞こえてきた。

スクリーンを眺めていると、右側の肘掛けがこんこんと叩かれる。ちらっと横を見ると、折本が口元に手を当て、小さな声で言った。

 

折本「比企谷と映画とか、マジ中学の友達聞いたら絶対ビビるよねー?」

 

八幡「だろうな」

 

そもそも俺の事を一般の奴等が覚えていたらの話だろうがな。それこそ奴等からしてみたら中学時代の俺なんか、ジョジョやいろはの付け合わせと言えるまである。

 

折本「だよねっ」

 

場合によっては折本がビビるだろう。大半が「比企谷?いたっけ?」「比企谷?二年下のカワイイ子?」と言われるのが大半だろう。

今、隣に座っていても、暗がりの中で顔を寄せられても、行為も嫌悪も感じない。

俺は左側の肘掛けに体重を掛け、折本は右側の肘掛けに身体を預けていた。

その距離感がどこか懐かしい。

強いて言えば、折本がスタンド使いで、俺達が迂闊にスタンドを使ったから関わる事になってしまったのだ。

誰に対してもぐいぐいと接するその性格が、互いにとっての不幸だったといわざるを得ない。

 

映画はある程度進んでいき……そして。

 

八幡「は?」

 

康穂「え?」

 

葉山「なっ!」

 

折本「なにっ!?これ……」

 

仲町「映画の中の場面だよね?」

 

………敵のスタンド攻撃か!?

 

←To be continued




はい今回はここまでです。
突然映画の世界に吸い込まれた八幡達!
原作同様に爆発シーンのあるハリウッド映画の世界に引き込まれた!
果たして生き残れるのか!?


それでは恒例のを。

1・2分の遅れを誤差の内と許す八幡→社会人なら五分前行動は当たり前と苛立つ

礼なら陽乃さんに→仗助に

歌詞を一部借用してセリフにしている

デートに康穂も仕事で参戦

席の位置が康穂も加わる

八幡は折本側に体を向け、話に加わってる感を出してスルー→康穂と会話してスルー

かつて八幡は折本を好きだと勘違いしていた→その時代には既に幼なじみーズは完成していたのでそれはない


それでは次回もよろしくお願いいたします。

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