やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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8巻の話が前後します。


公約

side比企谷八幡

 

授業を終えると、クラスメイト達は三々五々に教室を出ていく。無論、中には残ってお喋りを楽しむ者もいる。部活にいくまでのしばしの間語らうものもいる。

俺は手早く帰る準備を整えると、自分の席でいくらか呼吸を整えた。

これからやるべきことをいくつか整理する必要がある。

仕事のこと?いや、それについての業務計画は既に立ててある。引き継ぎや関東支部においての最後のイベントの計画は概ね終わっており、後は実行の監督をすることくらいだ。

ウルフスの事?それもある。でも、それ以前の話だ…。

ウルフスの目的は……そして………。

 

八幡(忍さんが鍵か……)

 

だが、その忍さんに俺のことをどう話すべきか…。そしてそうなると仗助が邪魔になる。色々と問題があるな。

 

八幡(とにかく、それは後になって考える事か……)

 

千葉村のあのばか騒ぎでの会話がここでヒントになるなんてな。

ジジイ。頼んだぞ……。

 

キングクリムゾン!

 

奉仕部の部室に入ると、一般部員のテーブルには我らが愛しきスタンド使いの仲間達が寄り固まっていた。雪ノ下、由比ヶ浜、三浦、海老名である。

黒髪3つ、金髪、茶髪の取り合わせは自然と目が行く…はずなのだが、普段の俺達の方が奇抜なファッションなのは気のせいだろうか?

というか、何をしているんだろうか?

桃色がかった茶髪をガシガシしながら頭を抱え、由比ヶ浜が唸っていた。

 

結衣「ふぬぬぬぬッ!うーん………」

 

仗助「おーい、由比ヶ浜ぁ。髪の毛は大事にしろよ?あまりセットを乱すのは良くねぇぞぉ」

 

髪型への拘りが人一倍強い仗助が由比ヶ浜を注意するが、由比ヶ浜は聞こえていない。

リバースがシャーペンを持ってはいるものの、それが動く気配はない。

 

R・T「マスター。暇なんですけど」

 

結衣「うっさい!リバースは黙ってて!」

 

R・T「とは言っても、このままでは精密動作の訓練にもなりませんよ?早く意見を出して書いて下さい」

 

結衣「それを一生懸命考えてるんだし!リバースも考えてよ!」

 

あ、スタンドで字を書く精密訓練の修行は継続してやってるのね?

 

三浦「私服通学とか良くない?」

 

結衣「それだ!」

 

あ、選挙の公約の事ね?

でもその公約って果たされた試しがないよね?同じ事を前にも言った気がするけど。

由比ヶ浜が同意すると、リバース・タウンがシャカシャカと素早く紙に書き付ける。それは由比ヶ浜が書いた文字と変わらない。つまり、精密性を上げる訓練は着実に成果に現れているということだ。

理想とする精密性はディオの写真の背景に微かに写った蝿を寸分違わず書き起こしたスター・プラチナのレベルであろう。

もっとも、それは難しいがな。ザ・ジェムストーンもそこまでには至っていない。スケッチに関しては念写と組み合わせて何とか…というくらいで、スター・プラチナの領域には遠く及ばない。

あくまでも理想だからそこまで求めていないというのもあるけどな。

 

海老名「あとは私物検査とかなくなるといいかなー。すっごい時々やったりするし。あれあると困るんだよね。友達から借りた同人誌とか入ったままだったりするし。ハイエロファントでこっそり抜いたりするけど」

 

ああ、あるある。

俺の場合、時を止めて隠したりするわ。後は幻影の波紋とかで。仕事の極秘資料とか見つかったらヤバイもんな。

 

天の声『そんなもの通学用の鞄に入れておく方がおかしいだろ!』

 

三浦「それは海老名だけっしょ。でも、羨ましい精密性だし。あーしだと隠す前に燃やしちゃうから不便なんだよねー。このメダル型ネックレスとか溶かしちゃわないかヒヤヒヤするし。でも今やっている訓練の為にも、それはそのままで良くない?」

 

ああ、マジシャンズ・レッドの場合は精密性だけじゃあ無くて、そういうパワーコントロールも必要になってくるのか。火力が強くなるのも一概に良いことばかりじゃあ無いんだな。

 

結衣「う、うーん、い、一応書いとく」

 

三浦「書かなくてもいいし。それよりあーし、屋上でごはん食べたいんだけど」

 

結衣「それもらいっ!」

 

や、この特別棟の屋上はジジイが占拠してるからいつでも使えね?相模がカラーギャング相手に大太刀回りする場所として選んだ訳だし(文化祭編参照)。

ベストプレイス?あそこは俺達幼なじみーズの憩いの場所だ。奉仕部の連中には使わせても良いかとも思ったが、考えてみたらこの連中に教えたらたちまちたまり場になってしまい、騒がしくなるから却下した。

あと……それも私服通学と同じだと先日も言ったよね?

雪ノ下の応援演説で使う公約を考えているらしいのだが、当の雪ノ下は黙って見ている。葉山や戸部は部活か?

 

相模「あとバスが混みすぎるよね?うち、あれウザイ」

 

基本性能がイマイチのラスト・ノートを必死に動かしながら相模が言う。微妙にプルプル震えているのは本体のようように思い通りにはいかないから苦戦している故か?スタンドその物に慣れていないのも理由の1つだとは思うが。

あと、相模………意見そのものはかなり見当違いだぞ?

 

結衣「それって生徒会の仕事かな……」

 

由比ヶ浜の言うとおり、生徒会はおろか学校の仕事ですらない。せいぜいバス会社に苦情を入れるくらいしかやれないし、バス会社も一々構ってられないだろう。

修学旅行の時のように財団がバスを出す?

嫌だよ。貸費効果が悪すぎる上に結局バスが混むのは避けられない。いくらなんでも学校もそこまで財団の言いなりにはならないだろうしな。

 

海老名「あ、美術室の備品に液タブを入れて欲しい」

 

結衣「えきたぶ……何だかわからないけどとりあえず書いとく!」

 

液タブ……液晶タブレット。ペンタブレットとも言う。

電子タブレットの一種で、絵を書くときとかには有効だとは思う。だが、明らかに高級品だし、美術室の備品にするよりはむしろパソコン室の備品にするべきでは?

遊び道具にされるのがオチだし、良くてせいぜい美術部の備品として部費で賄うべきだと思う。もっとも、液タブを購入できるほど部費が下りればの話だし、購入出来たとしても他に必要な物資に回す予算が圧迫されるだろうから現実的ではない。

財団から寄贈?嫌だよ。だったらもっと予算を上乗せしてパソコン室の備品を高性能にした方がまだ賄賂として価値がある。俺の管轄じゃあないから許可は降りないと思うけど。

何よりその意見を出したのが海老名と言うのが何とも嫌な予感しかしない……。

それ、自分で買ったら?どうせ薄い本を書くためでしょ?露伴先生にでも………逆に遅くなるか。露伴先生の執筆はむしろ筆と絵の具の方が早い。本体の方が時代の最先端の上を行くって何だろうね?スクリーントーンすらも必要としていないしね?

 

雪乃「色々と考えてくれるのはとてもありがたいと思うのだけれど、ごめんなさい。気持ちだけを頂くわ」

 

雪ノ下が毅然と……それでいて気遣うように言葉を選びながら自分の意見を言う。

 

三浦「は?何で?」

 

雪乃「だって……例えば私服通学なのだけれども、総武高校の制服はあなた達、嫌いかしら?」

 

結衣&三浦&海老名&相模「うっ!」

 

そう。総武高校の制服は…特に女子の制服はとてもカワイくて人気が高い。私服通学のメリットはあまりない。

 

雪乃「次に屋上の事なのだけれども……自殺防止とかそういう事が理由で閉められているでしょ?現にあなた達、総武高校都市伝説の山が築かれているのは知っているわよね?どこの誰達が原因かは敢えて言わないけれども」

 

はい。俺達です。最近ではもう堂々と屋上から飛び降りまくってます。みんな慣れてしまってもはや騒ぎにすらなりません。その都度拳骨を貰うから回数=タンコブの数と比例するようになりました。だって楽なんだもん。

 

雪乃「持ち込み検査は既に生徒会が出来る領域を超えているわ。前者は教師や風紀の仕事に介入することになるし、本来なら余計な物を持ち込まないのが当たり前だもの。学校を丸め込んで堂々と好きな物を持ち込んでいる部活が1つあるけど。何処とは言わないし、恩恵に預かっている私達が言える事では無いのだけれど」

 

はい。奉仕部の事ですね?わかります。鼻薬を嗅がせて堂々と好き放題持ち込んでいます。学校はもとより文科省から教育委員会に至るまで丸め込んで苦情やらなにやらは全て握り潰しています。

 

雪乃「それとバスの事はもっと論外だと思うわ?バス会社も商売が関わる以上は一々構ってはいられないと思うし、1つの学校にてこ入れをしてしまえば他の学校にもてこ入れをしなければならなくなるから現実的ではないわ。ましてや総武高校は公立だからなおのことよ?インターナショナルスクールがバスを出している理由も意味があるわ。それに伝説を築きあげている集団はバスを使っていないもの。それこそ『忍者ロード』とかいう変な名所を作りあげるくらい、短距離陸上選手も真っ青な速度で長距離選手が走る距離を自分の足で走っているわ。自分達にメリットが無いことには一切動かない人達がバス会社に交渉したり、自社の経費を使って実現してくれるとは全く思えないわ。その力の1割程度に足を踏み入れた私が言うのもおかしな話だとは思うのだけれども」

 

はい、それも俺達の事ですね?特に忍者筆頭の元弥七さんに至っては自動車に匹敵しますもんね?ハイウェイ・スターとタメを張れますもんね?

 

天の声『お前もだ!』

 

そういえば弥七はどうだろうか?小町と弥七、どちらが真の弥七の相応しいか勝負させたら面白そうだ。少なくとも俺は弥七には勝てないだろう。時間を止めてやっとって言ったところか?

 

雪乃「申し訳無いのだけれど、どれも実現不可能な内容だわ。私が知るとある二人はいけしゃあしゃあとやりもしないで、問い詰められればどこぞの政治家のように『頑張りましたけど出来ませんでした!』とか、『記憶にございません』とか、酷いときには『騙される方が悪い!』とか言いそうなのだけれども」

 

誰でしょうね?酷い政治家もいたものだ。具体例を出すのは危険だから止めておこう。下手をしなくても消される。本城が。

 

雪乃「比企谷君?ジョースターさん?全部あなた達の事を言っているのだけれども?」

 

八幡「小町、言われてるぞ?」

 

静「パパ?自重と言うのは必要だよ?」

 

小町「ムッ!」

 

ゴン×2

 

ジョセフ「全部お前らの事じゃ!お前らの!」

 

嘘つけ!一部はお前も関わってるだろうが!汚い!大人は汚い!全ての罪をしれっと俺達に被せやがった!どれもこれも出来るじゃん!何もかも俺達より上なんだし!

すると雪ノ下はこちらを見て、ニッコリと笑う。

その仕草は姉の陽乃さんとは別種であるが、中身は非常によく似ているものを感じた。

 

雪乃「そうね。例えに出して思ったのだけれども、この奉仕部を生徒会直轄にするのも良いのでは無いかしら?例えばこれまでは知る人が知る相談教室だったのをおおっぴらにするとか、サッカー部やテニス部のように基礎の底上げをしてみるのも良いかも知れないわね。これまで散々好き放題をしてきた集団なのだもの。少しは学校に貢献するべきでは無いかしら?」

 

おまっ!それをここで言う?今までのツケをここで払わせる気か!?

 

結衣「あッ!それいいッ!そうすればヒッキー達を止められるよくしりょく?ってヤツにもなるから支持されるよッ!」

 

由比ヶ浜が賛同したァッ!

おまっ!抑止力って意味も中途半端なくせしてそういう部分ではキチンと頭が回るのなッ!その頭の回転を何故勉強に回さん!

 

相模「なるほど!うんうん!うちらが考えたのよりもよっぽど現実的だよ!」

 

野郎……相模………。文実や体実のあれこれをここでやり返そうとしてやがるなッ!

 

三浦「さすがは雪ノ下!あーしらには考え付かない事を平然と思い付く!」

 

海老名「そこに痺れるッ!憧れるッ!」

 

嘘つけぇぇぇぇ!三浦の発言はともかく海老名の発言はねぇだろ!ドンパチじゃあお前だって平然とえげつないことをやるだろうが!

 

ジョセフ「ええぞ?人に訓練を施し、教えるのも1つの訓練じゃ。八幡の将来を考えればその方面での教官の経験も積んでおくに越したことはないわい」

 

ジジィーーー!賛同してるんじゃあねぇ!

 

人、それを『因果応報』と言う。

この日、奉仕部の存在が表に出ることが決定した。それを皮切りに総武高校運動部全体のスキルアップがされることになるのだが……それはまた、別の話である。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

本来ならこのお話は第8巻の後半のお話なのですが、本作ではそれほど生徒会選挙に重点を置いていないので前倒しになった上、ギャグの回になりました。

それでは恒例の。

奉仕部は内部分裂中であり、自由参加中→通常通り。部活と称するも実質的には財団の出張所オフィス兼アーシス学生組の駐屯所

内部分裂中の為、八幡は自由参加中の奉仕部に行くことに後ろ向き→藤崎忍に関わる何かを考えている

ここではいろはの話を聞き、雪乃が出馬することを表明し、後に由比ヶ浜も出馬→最初から雪乃が出ることになっている為、後半の由比ヶ浜の公約を考える話が前倒しされ、内容は雪乃の公約を考える内容になっている

公約の内容相談は教室で結衣、三浦、海老名→奉仕部の部室にて雪乃、結衣、三浦、海老名、相模と

由比ヶ浜は全ての意見を書き込み参考にする→……のだが、雪乃が却下&八幡へのキラーツッコミ。更に公約のついでに奉仕部の存在を表に出す決定を決める

奉仕部の業務に新たな項目が追加。因果応報。

それでは次回もよろしくお願いいたします

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