side比企谷八幡
予想外の邂逅に体が硬直していた。
まさか折本がアーシス支援部隊に入隊していたなんて。かつて折本はその無自覚で使いようによっては危険なスタンドをコントロールさせるために矯正施設に入れられていた。
矯正が終わり、世に出された者は一応は財団からのスカウトを受ける。折本はそれを受け、アーシス支援部隊に入隊したのだろうが、それを俺は知らなかった。
確かに俺はアーシスでの立ち位置は一般隊員と同じだ。強いて言うなら歴代ジョジョ達隊長クラスが不在の場合に限り、臨時で現場を仕切る事があるくらいか?
お互いが確認するように顔を見合わせる。
ふと二、三年前の事がよぎった。
折本のスタンド能力は大したことはない。だが、知らずに発動させると状況によっては非常に厄介な能力となるのが折本の『アースブルース63』だ。
似たようなパターンは由比ヶ浜のリバースact1だ。
本人も知らない内に発動するスタンド能力。
それ故に折本のスタンド能力に巻き込まれ、ちょっとしたトラブルにあったのが中学時代の俺たちだ。
俺達は折本にスタンド能力のコントロールの必要性を感じ、説得して矯正施設に入ってもらった。
折本には相棒がいるようで、同じ海浜幕張総合高校の制服にSPW財団のジャケットを来た女子がちょっと控え目にこちらを見ている。
お連れさんは手持ち無沙汰な様子だったが、折本は特に気にするそぶりもなく、ばしっと俺の肩を軽く叩いて声を上げる。
折本「うわ超ナツいんだけど!レアキャラじゃない?」
おい、仕事。
仕事をほったらかして雑談を始めるんじゃあない。結局おじさんの隊員が一人で寒川を回収してるじゃあないかよ!
俺の心の声が届くわけもなく、無遠慮にじろじろと眺められている間、俺はひきつった笑いを浮かべていた。
確かに俺の通っていた中学基準で考えれば、俺との遭遇率なんて低いだろう。そもそもこちらが気付いても向こうに気づかれないからだ。
俺の姿を視認し、また話しかけてくる折本も充分に珍しい。そのあたりは中学の頃と変わっていない。
折本はいわゆる構いたがりで、自称姉御肌。誰彼構わずに話しかけ、人との距離を極端に詰めようと振る舞う人間なのだ。
俺達とは真逆の性格をしていると言える。
エルメェスさんや三浦みたいなタイプか?
ひとしきりめずらしがってから、ぴたりと折本の動きが止まった。
折本「え、比企谷って総武高なの?」
八幡「ああ。あと、お前……仕事……」
やべ、せめて承太郎学ランでも着ておけば良かった。県下指折りの公立進学校の中でもブレザーなのはうちの高校だけで、しかも男女共にそのデザインは非常に人気が高い。この辺りの高校生なら見ただけでもわかるだろう。
折本「へー。いっがーい。頭良かったんだー!あ、でもそういえば比企谷のテストの点とか全然知らないや。比企谷、ジョースター以外と全然話さなかったもんね。それに、出席日数とかも少なかったし」
中学時代は基本的には留学していたし、仮にテストの点数を知っていたとしても頭が良い印象はないと思うぞ?平均点しか取ってないし。
と言うか、通っている高校の事よりもさ、俺がアーシス実行部隊に所属している事とか、そこにいるボロ雑巾の方を気にすると思うんだ?
あ、俺達がスタンド使いと言うことは知っていたっけ。
にしても相変わらず、ずけずけとものを言ってくるなぁ。壁を作らないようにと意識してわざわざ突っ込んでくる。
サバサバ系というものを目指しているのだろう。
ならば本気でエルメェスさんとか紹介してやろうかな。
サバサバ系過ぎて姉御どころかアニキと言われている事もあるし。
そして、その興味の矛先は当然のように、隣にいる陽乃さんへと向かった。
折本「浮気?」
やめろ。案外シャレにならん。
顔を青ざめさせながら、俺と陽乃さんを見比べてきた。
八幡「恐ろしい事を言うな……」
折本「だよね~!一色ちゃんが黙ってるはずないし!」
折本が安心したように胸を撫で下ろす。連れの相棒?は目を見開いて驚く。これが普段なら、『次にお前は、「彼女!?浮気!?この腐り目が!?」……と言う』と言っている。
同中だから当然、いろはの事は知っている。その隠れた恐ろしさも知っている。広瀬由花子と由花子ショックを知っているならば浮気という言葉すら出てこなかったであろう。
康穂「ちょっとー!敵の回収を手伝ってよー!あ、ハッチ。お疲れ様~」
一緒に来たであろう康穂が折本に対して苦情を言う。
折本「あ、広瀬ちゃん。なに?比企谷と知り合い?」
康穂「知り合いも何も……イーハ達も含めて幼なじみなんだけど。それにハッチ、アーシスの実行部隊に所属しているから」
折本「え!?比企谷がアーシス実行部隊所属!?特務の中の特務じゃん!花形部隊じゃん!うける!」
うけねぇよ。むしろお前が支援部隊に所属していた事にビックリだわ。
陽乃「お姉さんは知らなかったけど、もしかして八幡君のお友達?」
その聞き方に違和感を感じる。ええ、確かにアーシス以外に友達なんていませんよ。だから純然たる事実の解答はこうだ。
八幡「中学の同級生です」
陽乃「へぇ?中学の時の………」
これが正解。それ以上でもそれ以下でもない。
折本「折本かおりです」
自己紹介を受けて、陽乃さんはまた、いつもの探るような視線を向けた。
陽乃「ふーん。あ、わたしは陽乃ね。八幡君の…八幡君の……。ねぇ、私って八幡君のなに?」
八幡「や、色々あるでしょ。何で俺に聞くんですか?」
部下の部下とか、前世の部下とか、実行部隊の同僚とか、義理の親戚とか色々と。しかも、何でちょっとしなだれかかるように身体を寄せてくるんですかね?上目遣いもやめて下さいね?
康穂もいるんですから由花子ショックは勘弁なんですけど?
陽乃「わたしと友達っていうのも変だよね?」
や、それも間違いでは無いんですけど?俺は友達のつもりでいたのにそう思っていたのは俺だけって言うオチですか?
陽乃「うーん、お姉さんとか?」
八幡「ジョルノの妹分と弟分的な立場故にそれも間違ってはいないですね?」
陽乃「愛人?」
八幡「由花子ショックは勘弁です」
陽乃「間を取って2号?」
八幡「どことどこの間を取ってそうなったのか詳しく聞いて良いですか?聞いてます?ねぇ?二人揃って由花子さんに殺されたいんですか?死ぬなら一人で死んでくれません?」
疲れる。ホントこの人はたまに疲れる!
何で康穂がいるのに由花子ショックを発動させようとするかな!康穂も頬を膨らませているし!
八幡「普通に姉弟分の関係ってことで良いんじゃあないですか?ジョルノ繋がりで」
一言で済ますには色々と複雑な関係だし。
一番親しい間柄の関係性を示すならここら辺りが妥当だろう。
陽乃「つれないなー」
言って陽乃さんはぷくーっと膨れっ面を作ってみせる。そのほっぺたをつついてやろうかと思ったが、そんな事をした日にはやっと精算できた関係を再び拗らせ兼ねないので肩を竦めるにとどめた。
康穂「へぇ?どこかで聞いたことのある名前だと思っていたら、あのジョジョちゃんやマーチやイーハが荒れていた時の………」
康穂も折本の件の概要は知っている。
折本「姉弟分かぁ。比企谷にジョースター以外のそういう関係がいたんだ。良いですよねー」
陽乃「でしょー?まぁ、それだけじゃあないんだけどね~」
蒸し返さないで下さい。
仲町「えー?なにかあるんですかー?」
二人の会話に時折、折本の連れが相槌を打つ、そんな無為な会話が続けられた。
職員「…………もう先に帰るぞ。付き合ってられん」
班長らしき人が呆れて帰ってしまった。減俸だな。
その間、俺に出来ることはスマホで仗助に報告をすることだけだ。
ふと、会話が途切れた。
初対面にしてはよく話が続いた方だろう。
八幡「康穂。支援部隊の班長が帰っちゃったぞ?不味くないか?」
康穂「あっ!だから仕事しろって言ったのに!ほら、本部に戻るよ!?パパに怒られるー!」
支援部隊の関東部隊の隊長は康一さんだ。
康一さんが実働部隊の隊員を兼務しながら支援部隊の隊長を務めている。
折本「あっ!ヤバ!説教確実じゃん!ウケる」
うけねぇよ!何しに来たんだよ!
折本「あ、そうそう比企谷。総武高ならさ、葉山君って知ってる?」
八幡「葉山?」
折本「そう、葉山くん!サッカー部の!」
そこまで情報が揃えば俺が知る葉山隼人で間違いないだろう。今日もサッカー部ごと小町やジジイにしごかれて物言わぬ死人と化しているはずだ。
八幡「ああ、まぁ一応」
葉山は正式なアーシス隊員ではないし、仲間であることを伝える必要もない。
折本「マジッ!?紹介して欲しいって子、たくさんいるんだよ~、この子とかさ」
食い気味に折本が反応する。そして横の相棒を指差した。
折本「あ、この子、同じ高校の友達ね?仲町千佳」
八幡「そいつもスタンド使いか?」
仲町「え?違うよ?お父さんがスタンド使いでアーシスの実行部隊に所属しているから無理矢理……」
………嘘だな。スマホから見るに念写で見た仲町からはオーラが発せられていた。
ウルフスやブラッディ・スタンドとは違う普通のスタンド使いのようではあるが。
能力を隠すことは悪いことじゃあない。スタンドを見せると言うことは素っ裸を見せるように、自分の全てを全面的に相手に晒すと言うことだ。
同じ組織であろうとも、今日出会ったばかりの俺にスタンドを見せる義理はない。バッショーネもそうであるように。
八幡「了解だ。それで、葉山がどうしたって?」
折本「ほら、千佳。葉山くんを紹介してもらえるかもよ?」
仲町「えー、わたしはいいよー」
仲町とやらはそう言っているものの、そのちょっと照れが入っている感じを見るに、期待されているようだ。
だが、仲町がスタンドを隠すように、俺も葉山との関係を話す事はしない。
信頼には信頼を、不信には不信を……というヤツだ。
八幡「や、友達じゃあないし」
嘘ではない。呉越同舟、同じウルフスに狙われる運命共同体。そんなところが妥当な関係だろう。
折本「あー、だよね。接点なさそう」
ありまくるが、向こうが勝手にそう勘違いする訳だし、それを否定も肯定もしないことが嘘をついたことにはならない。俺の中ではな。
陽乃「ふーん……面白そうじゃん?」
あ?ちょっと待てや魔王(# ゜Д゜)
こんな時に性悪を拗らせるなや。
ふりかてって自称姉貴分を見てみると、ものの見事に目がヤマピカリャーしていた。
すかさずスマホを取りだし、電話。
陽乃「康一さん?陽乃です。支援部隊の康穂ちゃんと折本さんと仲町さん。チーフとはぐれてしまったんで、今日はそのままわたしが面倒みます。はい。あ、八幡君も一緒ですから良いですよね?え?康穂ちゃんは帰投させるんですか?わかりました……了解!責任はとりますからー……ってことで、康穂ちゃん以外はここで任務解除だよ?」
康穂「えー!どうせならあたしも解散で良いのに!」
陽乃「康穂ちゃんは康一さんが一緒に帰らせるって。康一さん、康穂ちゃんの事が大好きだからねー」
康穂「ぶぅ……パパの過保護……ペイズリー・パーク!バァイ、ハッチ。また遊ぼうねー」
そう言って康穂はスタンドを発動させ、帰って行った。普通なら心配するところだが、ペイズリー・パークの能力なら心配は無いだろう。無敵のペイズリー・パークに弱点はない!
嘘です。直接ドンパチは弱いですね。はい。
康穂のことよりも、陽乃さんはどういうつもりなんだ?
陽乃「はーい、お姉さん紹介しちゃうぞー」
流れからしてそうじゃあないかと思ったが、やっぱりかよ!
陽乃さんは元のドーナツ屋に向かって戻り始めながら、スマホで電話をかけ始めた。
陽乃「隼人?今すぐ来れる?と言うか、来て」
言いたいことだけ言うと、陽乃さんは電話を切った。
いつの間に電話番号を入手していたんだとか、長い間交流が途絶えていた割には気安いなとか、そういうのはこの人の場合は関係ない気がしてきた。
最近の修行でも葉山を嬉々としてしごいていたしな。性悪魔王め………。
八幡「あんた、何してくれちゃってるの?」
わりかし本気のガン飛ばしをしたのだが……
陽乃「んふふふ~♪」
この人は満面の笑みを浮かべるだけだった。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
次なるドンパチはもう間もなくです!
それでは次回もよろしくお願いいたします。